新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1273、2012/5/22 16:38 https://www.shinginza.com/jidoukaisyun.htm

【刑事・児童ポルノ禁止法に関する団体からの通知と詐欺行為・DVDによる児童ポルノとわいせつ物頒布罪・情報処理の高度化等に伴う平成23年7月刑法等一部を改正する法律施行】

質問:先日,あるNPO法人から刑事裁判を提起するとの封書が届きました。私は,過去に無修正のアダルトDVDを国内の業者から通販で買ったことがあるのですが,この度,DVDの販売業者が逮捕されたことで私の購入履歴が明らかとなったため,このような連絡をしていると封書には記載があります。封書には,私は刑法175条,児童ポルノ禁止法7条に違反しているので2年以下の懲役又は250万円以下の罰金刑が予定されていること,刑事裁判を避けたければ直ちに封書の差出人のNPO法人に連絡をするように書かれていました。私は,本当にこのような刑罰を科されてしまうでしょうか。また,私は,友人に無修正のアダルトDVDを譲り渡したのですが,これによりあらたな罪を犯したことになるのでしょうか。差出人のNPO法人に連絡すべきかについてもアドバイスをいただきたいです。

回答:
1.封書の差出人に連絡してはいけません。ご相談によると差出人のNPO法人が公訴提起する(刑事裁判を起こすこと)との内容のようですが,NPO法人は公訴提起できません。公訴提起については,刑事訴訟法247条で「公訴は,検察官がこれを行う。」と定めています。すなわち,公訴提起については検察官の専権とされており,封書に記載されているようNPO法人に連絡することで刑事裁判を避けることはできません。今回あなたに届いた封書が,どのような意図のもとに作成されたのかは不明ですが,法的には明らかに誤った内容を含むものです。差出人に連絡をした場合,詐欺,恐喝の被害につながるおそれがありますので,差出人への連絡は必要ありません。どうしても不安であればまずお近くの法律事務所で協議、相談をお願いします。
2.この度の封書については無視して構わないかと思いますが,あなたが無修正のアダルトDVDを購入した行為と友人に譲渡した行為については,別途,法的な検討が必要です。DVDの所持や,友人への譲渡については,当該DVDが児童ポルノに該当するか否かによって処罰の可能性もかわってきます。まず,当該DVDが児童ポルノに当たらない場合,あなたがDVDを購入し所持していたことや,友人に譲渡した行為を処罰する法律はありません。
3.次に,当該DVDが児童ポルノに当たる場合,友人にDVDを譲渡する行為は,児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(以下「児童ポルノ法」といいます。)7条1項が禁止する児童ポルノの「提供」にあたります。
4.わいせつ物頒布等罪(刑法175条)や児童ポルノ法に違反するのかについては,以下の解説をご参照ください。事例集論文916番803番639番503番408番201番参照。

解説:
1 (わいせつ物頒布等罪について)
  刑法175条は,以下のように定め,わいせつ物の頒布,陳列,有償頒布目的の所持を禁止しています。
「1項 わいせつな文書、図画、電磁的記録に係る記録媒体その他の物を頒布し、又は公然と陳列した者は、二年以下の懲役若しくは二百五十万円以下の罰金若しくは科料に処し、又は懲役及び罰金を併科する。電気通信の送信によりわいせつな電磁的記録その他の記録を頒布した者も、同様とする。
2項 有償で頒布する目的で、前項の物を所持し、又は同項の電磁的記録を保管した者も、同項と同様とする。」

(1)わいせつ性の意義について
  わいせつ物頒布等罪が成立するかについては,まず,同条の定める「わいせつ」の意義が問題となります。「わいせつ」との文言については,その意義は一義的には決まらないため,裁判官が社会常識によって規範的な価値判断を行って,条文の文言の解釈を行うことになります。
  最高裁判所昭和26年5月10日は,文書についての判断ですが,「徒らに性慾を興奮又は刺激せしめ且つ普通人の正常な性的羞恥心を害し善良な性的道義観念に反するもの」に該当することを理由に「わいせつ」性を認めました。
  同判例によると,わいせつ性は,@性欲をいたずらに刺激・興奮させること,A普通人の性的羞恥心を害するものであること,B善良な性的道義観念に反することという3つの要件を満たした場合に認められることになります。
  あなたが購入したのは,無修正のアダルトDVDとのことですので,上記判例に照らすと,わいせつ性は認められることになりそうです。

(2)行為の客体について
  本罪の行為の客体については,「文書、図画、電磁的記録に係る記録媒体その他の物」と定められています。
  以前は,本罪の客体について「文書,図画,その他の物」と規定されるのみでした。それ故,コンピュータの記憶媒体に保存されたわいせつ画像データについては,データ自体がわいせつ物にあたるのか,データを記憶・蔵置させた記憶媒体がわいせつ物にあたるかが問題となりました。
  しかし,平成23年7月に情報処理の高度化等に伴い刑法等一部を改正する法律が施行され,サイバー関係の法整備がなされました。詳しくは,下記のアドレスをご覧ください。
 http://www.moj.go.jp/keiji1/keiji12_00025.html
  平成23年改正により,行為の客体として「電磁的記録に係る記録媒体」が明文で規定されたことで,データ自体がわいせつ物にあたるのか,データを記憶・蔵置させた記憶媒体がわいせつ物にあたるのかの問題は解消されたことになります。
  あなたが購入した,無修正アダルトDVDは,わいせつ物に該当することになります。

(3)処罰対象行為について
  本罪の処罰対象行為については,頒布,公然陳列,電気通信の送信による頒布,有償頒布目的での所持が規定されています。
  「頒布」とは,不特定または多数人に交付することをいいます。それ故,特定人に譲り渡す行為自体は,本罪の処罰対象とはなっていません。
  「公然陳列」とは,不特定多数の者が有償または無償でわいせつ物を観覧できる状態に置くことをいいます。
  「電気通信の送信による頒布」は,平成23年改正で追加された行為態様です。「電気通信の送信による頒布」の具体例としては,不特定または多数の者にわいせつ画像をメール送信する行為があげられます。
  「有償頒布目的での所持」とは,不特定または多数の者に有償で交付する目的をもって,わいせつ物を事実上の支配下に置く行為をいいます。
  以上のとおり,本罪の処罰対象行為については,いずれも不特定または多数の者に向けられることが要素となっています。そして,判例上,一人に対して単に一回だけ頒布しても,当該行為を反復する意思がある場合には本罪が成立するとされています(大審院大正6年5月19日判決)。
  あなたが友人に譲り渡した行為については,友人という間柄の特定の個人への譲渡にとどまるのであれば,「頒布」には該当しません。

2 (児童ポルノ法違反について)
  児童ポルノ法は,同法の定義する「児童ポルノ」について,提供等をする行為を処罰の対象としています。同法は,児童保護の観点から,刑法175条のわいせつ物頒布等罪と比較して重い罰を定めるとともに,行為の客体となる「児童ポルノ」について,わいせつ性の概念を用いず独自の定義規定を置いています。

(1)行為の客体について
  児童ポルノ法2条3項は,「児童ポルノ」について以下のとおり規定しています。
 「この法律において「児童ポルノ」とは、写真、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)に係る記録媒体その他の物であって、次の各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したものをいう。
一  児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似行為に係る児童の姿態
二  他人が児童の性器等を触る行為又は児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの
三  衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの」
  この定義規定によれば,児童を対象とした上記一のような写真,電磁的記録に係る媒体その他の物については,修正の有無にかかわらず処罰の対象となります。上記二,三については,わいせつ物頒布等罪(刑法175条)におけるわいせつ物と同様に、わいせつ性の要件@を必要とすることで,むやみに処罰範囲が拡大しないようにしています(最高裁の判例ではわいせつ物の要件として@性欲をいたずらに刺激・興奮させること、をあげており、児童ポルノ法2条3項、二,三は「性欲を興奮させ又は刺激するもの」として「いたずらに」という文言が削除されていますが、具体的な違いはないと考えられます。)。なお,児童ポルノ法2条1項は,「この法律において「児童」とは、十八歳に満たない者をいう。」と定めています。

(2)処罰対象行為について
  児童ポルノ法7条は,処罰対象行為と罰則について以下のとおり定めています。
「1 児童ポルノを提供した者は、三年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。電気通信回線を通じて第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録その他の記録を提供した者も、同様とする。
2 前項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを製造し、所持し、運搬し、本邦に輸入し、又は本邦から輸出した者も、同項と同様とする。同項に掲げる行為の目的で、同項の電磁的記録を保管した者も、同様とする。
3 前項に規定するもののほか、児童に第二条第三項各号のいずれかに掲げる姿態をとらせ、これを写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物に描写することにより、当該児童に係る児童ポルノを製造した者も、第一項と同様とする。
4 児童ポルノを不特定若しくは多数の者に提供し、又は公然と陳列した者は、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。電気通信回線を通じて第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録その他の記録を不特定又は多数の者に提供した者も、同様とする。
5 前項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを製造し、所持し、運搬し、本邦に輸入し、又は本邦から輸出した者も、同項と同様とする。同項に掲げる行為の目的で、同項の電磁的記録を保管した者も、同様とする。
6 第四項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを外国に輸入し、又は外国から輸出した日本国民も、同項と同様とする。」

  処罰対象行為についても,わいせつ物頒布等罪と比較すると,その違いが明らかになります。前述のとおり,わいせつ物頒布等罪の処罰対象行為については,いずれも不特定または多数の者に向けられることが要素となっていました。しかし,児童ポルノ法については,不特定または多数の者に向けられることは要素とはなっておらず,刑罰の加重事由となっています。ポルノ自体に対する個人的興味は、各人の幸福追求権の内容として刑罰の対象になりませんが、児童ポルノは、そのこと自体が未成熟のため性的自由権を有しない児童への性的虐待を間接的に意味し、児童の人権侵害を未然に防止し健全な社会風俗、秩序を維持するために必要不可欠な規定と考えられます。したがって,あなたが友人に譲り渡したDVDが「児童ポルノ」に該当する場合,あなたの行為は児童ポルノ法7条1項に違反することになります。

3(終わりに)
  ご相談の件については,わいせつ物頒布等罪や児童ポルノ法違反の罪が成立するかという問題も重要ですが,封書の差出人の主張と要求が法的に誤っていることが重要です。近年では情報化社会の発展に伴い,詐欺・恐喝の手法についても多様化しておりますので,法的な主張を含む文書で内容に不信感をもたれたら,まずはお近くの弁護士にご相談されることをおすすめいたします。

<参照条文>

刑法
175条(わいせつ物頒布等)
1 わいせつな文書、図画、電磁的記録に係る記録媒体その他の物を頒布し、又は公然と陳列した者は、二年以下の懲役若しくは二百五十万円以下の罰金若しくは科料に処し、又は懲役及び罰金を併科する。電気通信の送信によりわいせつな電磁的記録その他の記録を頒布した者も、同様とする。
2 有償で頒布する目的で、前項の物を所持し、又は同項の電磁的記録を保管した者も、同項と同様とする。

児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律
2条(定義)
1 この法律において「児童」とは、十八歳に満たない者をいう。
2 この法律において「児童買春」とは、次の各号に掲げる者に対し、対償を供与し、又はその供与の約束をして、当該児童に対し、性交等(性交若しくは性交類似行為をし、又は自己の性的好奇心を満たす目的で、児童の性器等(性器、肛門又は乳首をいう。以下同じ。)を触り、若しくは児童に自己の性器等を触らせることをいう。以下同じ。)をすることをいう。
一  児童 
二  児童に対する性交等の周旋をした者
三  児童の保護者(親権を行う者、未成年後見人その他の者で、児童を現に監護するものをいう。以下同じ。)又は児童をその支配下に置いている者
3 この法律において「児童ポルノ」とは、写真、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)に係る記録媒体その他の物であって、次の各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したものをいう。
一 児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似行為に係る児童の姿態
二 他人が児童の性器等を触る行為又は児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの
三 衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの7条(児童ポルノ提供等)
1 児童ポルノを提供した者は、三年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。電気通信回線を通じて第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録その他の記録を提供した者も、同様とする。
2 前項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを製造し、所持し、運搬し、本邦に輸入し、又は本邦から輸出した者も、同項と同様とする。同項に掲げる行為の目的で、同項の電磁的記録を保管した者も、同様とする。
3 前項に規定するもののほか、児童に第二条第三項各号のいずれかに掲げる姿態をとらせ、これを写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物に描写することにより、当該児童に係る児童ポルノを製造した者も、第一項と同様とする。
4 児童ポルノを不特定若しくは多数の者に提供し、又は公然と陳列した者は、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。電気通信回線を通じて第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録その他の記録を不特定又は多数の者に提供した者も、同様とする。
5 前項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを製造し、所持し、運搬し、本邦に輸入し、又は本邦から輸出した者も、同項と同様とする。同項に掲げる行為の目的で、同項の電磁的記録を保管した者も、同様とする。
6 第四項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを外国に輸入し、又は外国から輸出した日本国民も、同項と同様とする。

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