新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1276、2012/5/28 15:13

【民事・親族・親の子に対する虐待に関する民法・児童福祉法の改正・平成23年5月27日、「民法等の一部を改正する法律」・千葉家庭裁判所市川出張所平成14年12月6日審判】 

質問:子どもを親の虐待から守るために、民法や児童福祉法が改正されると聞きましたが、それは一体どういうものなのでしょうか?

回答:
1.未成年の子を監護教育することを中心とする親の権利義務の総称を親権といいます。この親権は、原則として父母の婚姻中は父母が共同して行うものとされています(民法818条)。親権を行う者は、子を監護教育し(820条)、その居所を指定し(821条)、懲戒することができる(822条)こととするなど、監護教育の主要なものが民法で指定されています。しかし、懲戒・しつけの名のもとに子が虐待された場合、児童相談所で一時的に子を保護しても、親権を根拠に子を連れ帰ってしまわれることが多い状況でした。そこで、民法や児童福祉法の改正が行われることになりました。
2.改正点を簡単にいうとすれば、@親権の喪失の制度とA未成年後見制度の見直し、といえます。@については、2年以内の期間に限って、親権を行うことができないようにするという親権の停止の制度が創設されました。そして、親権の喪失等の家庭裁判所への請求権者について虐待された子ども本人や未成年後見人へも拡大がなされました。 Aにおいては、これまで私人個人で1人のみ、と定められていた未成年後見人について、この規定を削除し、法人または複数の未成年後見人を許容することとしました。 その他、親権の内容を修正し、子の監護及び子の利益のためにされるべきことを明確化したこと、懲戒に関する規定の見直したこと、児童福祉施設長の権限を強化したこと、などが挙げられます。
3.例えば、子の虐待の特異な例として少年(小学校就学から18歳未満の子 児童福祉法4条1項3号、)の性的虐待があります。両親の離婚、父親の死亡により継父から少年(少女)への性的虐待が行われ、母親が夫婦関係維持のため、少女の虐待を防止できないというような事態です。このような場合は、適切な親権者を選任することができない場合、児童相談所、福祉施設長の役割は大きく、本改正による効果も期待されます。他例えば、児童相談所長の親権停止の請求(児童福祉法33条の7)、親権の代行(同33条の2)、等です。類似判例として、千葉家庭裁判所市川出張所平成14年(家)第966号平成14年12月6日審判児童福祉施設収容承認申立事件。後記参照。
4.関連事例集論文1127番1099番1066番829番696番662番637番395番260番19番参照。

解説:
1.改正の経緯・趣旨
 (1)平成23年5月27日、「民法等の一部を改正する法律」が成立しました(平成23年6月3日公布、平成24年4月1日施行)。これは、児童虐待の防止等を図り、児童の権利利益を擁護する観点から、親権の停止制度を新設し、法人又は複数の未成年後見人を選任することができるようにすること等の措置を講ずるため、民法の改正を行うとともに、里親委託中の児童等で親権を行う者がいないものに対し、児童相談所長が親権を行使する等の措置を講ずるため、児童福祉法の改正を行おうとするものです。

 (2)戦後、さまざまな取り組みがなされてきましたが、児童が死亡してしまうようなケースも後を絶たず、児童虐待は、深刻な社会問題となってきました。そこで、平成12年、「児童虐待の防止等に関する法律」(以下「児童虐待防止法」という。)が制定されました。
    児童虐待防止法においては、住民の通告義務、立入調査等虐待を受けた児童の保護のための措置が定められたほか、児童のしつけに際しての親権の適切な行使に関する配慮、民法の親権喪失制度の適切な運用についての定めが置かれています。
    しかし、親権を理由として、児童虐待を正当化しようとしたり、施設入所中等の児童について不当な主張をする親権者がいること、親権喪失制度は、期限を設けずに親権の全部を喪失させるものであるので、申立てや審判が躊躇されることなどから、児童虐待に対応するためには、民法の親権規定自体について見直すことの必要性が指摘され始め、ついに民法等を改正することになりました。社会、国家の財産である未成年者特に18歳未満の少年を本来教育、保護すべき義務を有する両親が、教育の名のもとに虐待し、抵抗するすべを知らない子供の生きる権利、幸福追求権(憲法13条)を侵害することは2重の意味で許されません。このような緊急事態においては国家、社会機関が積極的に介入し被害の拡大を直ちに防止する義務があります(児童虐待の防止等に関する法律1条)。

2.改正の概要
表でご覧いただけます。

 (1)親権喪失制度等の見直し
   ア 親権停止制度の新設
     親権の全部が失われてしまうため、親権喪失制度の利用がためらわれてきたことから、2年を超えない範囲内という期限を設けた、親権停止制度が新設されました。親権停止の期間は、家庭裁判所の審判により、子の心身や生活状況などを考慮して定められます(民法834条の2)。

--------------------------------------------------
新(改正)
(親権停止の審判)
第八百三十四条の二 父又は母による親権の行使が困難又は不適当であることにより子の利益を害するときは、家庭裁判所は、子、その親族、未成年後見人、未成年後見監督人又は検察官の請求により、その父又は母について、親権停止の審判をすることができる。
2 家庭裁判所は、親権停止の審判をするときは、その原因が消滅するまでに要すると見込まれる期間、子の心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮して、二年を超えない範囲内で、親権を停止する期間を定める。

旧(現行)
(新設)
---------------------------------------------------

   イ 親権喪失原因・管理権喪失原因の見直し
     親権喪失原因・管理権喪失原因につき、父又は母による虐待・悪意の遺棄があるときなど、子の利益に着目した形に改められました(民法834条、835条)。
     親権喪失原因につき、2年以内にその原因が消滅する見込みがあるときには、親権喪失の審判ではなく、親権停止の審判によることになります。子の状況に応じて、親権の停止・喪失の制度がより柔軟に運用されることが期待されます。

   ウ 親権の喪失等の請求権者の見直し
     子の親族及び検察官に請求権が認められていましたが、子本人、未成年後見人、未成年後見監督人にも請求権を認めることとしました(民法834条、835条)。
     また、児童相談所長は、親権喪失についてのみ請求権が認められていましたが、親権停止及び管理権喪失の審判並びにこれらの審判の取消しについても、請求権を認めています(児童福祉法33条の7)。

   エ 親権喪失、親権停止又は管理権喪失の審判の取消し
     親権の喪失、親権の停止、管理権の喪失の制度に掲げられている原因が消滅したときは、家庭裁判所は、本人又はその親族の請求によって、それぞれ親権喪失、親権停止又は管理権喪失の審判を取り消すことができます(民法836条)。

【民法】
---------------------------------------------------
新(改正)
(親権喪失の審判)
第八百三十四条 父又は母による虐待又は悪意の遺棄があるときその他父又は母による親権の行使が著しく困難又は不適当であることにより子の利益を著しく害するときは、家庭裁判所は、子、その親族、未成年後見人、未成年後見監督人又は検察官の請求により、その父又は母について、親権喪失の審判をすることができる。ただし、二年以内にその原因が消滅する見込みがあるときは、この限りでない。

旧(現行)
(親権の喪失の宣告)
第八百三十四条 父又は母が、親権を濫用し、又は著しく不行跡であるときは、家庭裁判所は、子の親族又は検察官の請求によって、その親権の喪失を宣告することができる。
---------------------------------------------------
新(改正)
(管理権喪失の審判)
第八百三十五条 父又は母による管理権の行使が困難又は不適当であることにより子の利益を害するときは、家庭裁判所は、子、その親族、未成年後見人、未成年後見監督人又は検察官の請求により、その父又は母について、管理権喪失の審判をすることができる。
旧(現行)
(管理権の喪失の宣告)
第八百三十五条 親権を行う父又は母が、管理が失当であったことによってその子の財産を危うくしたときは、家庭裁判所は、子の親族又は検察官の請求によって、その管理権の喪失を宣告することができる。
---------------------------------------------------
新(改正)
(親権喪失、親権停止又は管理権喪失の審判の取消し)
第八百三十六条 第八百三十四条本文、第八百三十四条の二第一項又は前条に規定する原因が消滅したときは、家庭裁判所は、本人又はその親族の請求によって、それぞれ親権喪失、親権停止又は管理権喪失の審判を取り消すことができる。

旧(現行)
(親権又は管理権の喪失の宣告の取消し)
第八百三十六条 前二条に規定する原因が消滅したときは、家庭裁判所は、本人又はその親族の請求によって、前二条の規定による親権又は管理権の喪失の宣告を取り消すことができる。

【児童福祉法】
---------------------------------------------------
新(改正)
第三十三条の七 児童又は児童以外の満二十歳に満たない者(以下「児童等」という。)の親権者に係る民法第八百三十四条本文、第八百三十四条の二第一項、第八百三十五条又は第八百三十六条の規定による親権喪失、親権停止若しくは管理権喪失の審判の請求又はこれらの審判の取消しの請求は、これらの規定に定める者のほか、児童相談所長も、これを行うことができる。

旧(現行)
第三十三条の七 児童又は児童以外の満二十歳に満たない者(次条及び第三十三条の九において「児童等」という。)の親権者が、その親権を濫用し、又は著しく不行跡であるときは、民法(明治二十九年法律第八十九号)第八百三十四条の規定による親権喪失の宣告の請求は、同条に定める者のほか、児童相談所長も、これを行うことができる。
---------------------------------------------------

   オ 施設長等の権限と親権との関係の調整
     児童福祉法により、児童養護施設に入所中であったり、里親等委託中の児童の監護・教育・懲戒については、親権者・未成年後見人がいても、施設長や里親等が児童の福祉のため必要な措置をとることができることとされました(児童福祉法47条2項)。この場合、親権者・未成年後見人は、施設長や里親等のとる措置を不当に妨げてはならないことも規定されました(同条4項)。
     また、施設長や里親等は、児童等の生命・身体の安全を確保するため緊急の必要があると認めるときは、親権者・未成年後見人の意に反しても、措置をとることができるともされました(同条5項)。児童相談所の所長についても同様の権限が与えられました(33条の2 4項)。

【児童福祉法】
---------------------------------------------------
新(改正)
第三十三条の二 児童相談所長は、一時保護を加えた児童で親権を行う者又は未成年後見人のいないものに対し、親権を行う者又は未成年後見人があるに至るまでの間、親権を行う。ただし、民法(明治二十九年法律第八十九号)第七百九十七条の規定による縁組の承諾をするには、厚生労働省令の定めるところにより、都道府県知事の許可を得なければならない。

旧(現行)
(新設)
---------------------------------------------------
新(改正)
第三十三条の二
A 児童相談所長は、一時保護を加えた児童で親権を行う者又は未成年後見人のあるものについても、監護、教育及び懲戒に関し、その児童の福祉のため必要な措置をとることができる。

旧(現行)
(新設)
---------------------------------------------------
新(改正)
第三十三条の二
B 前項の児童の親権を行う者又は未成年後見人は、同項の規定による措置を不当に妨げてはならない。

旧(現行)
(新設)
---------------------------------------------------
新(改正)
第三十三条の二
C 第二項による措置は、児童の生命又は身体の安全を確保するため緊急の必要があると認めるときは、その親権を行う者又は未成年後見人の意に反しても、これをとることができる。

旧(現行)
(新設)
---------------------------------------------------
新(改正)
第四十七条 児童福祉施設の長は、入所中の児童等で親権を行う者又は未成年後見人のないものに対し、親権を行う者又は未成年後見人があるに至るまでの間、親権を行う。ただし、民法第七百九十七条の規定による縁組の承諾をするには、厚生労働省令の定めるところにより、都道府県知事の許可を得なければならない。

旧(現行)
第四十七条 児童福祉施設の長は、入所中の児童で親権を行う者又は未成年後見人のないものに対し、親権を行う者又は未成年後見人があるに至るまでの間、親権を行う。ただし、民法第七百九十七条の規定による縁組の承諾をするには、厚生労働省令の定めるところにより、都道府県知事の許可を得なければならない。
---------------------------------------------------
新(改正)
第四十七条
A 児童相談所長は、小規模住居型児童養育事業を行う者又は里親に委託中の児童等で親権を行う者又は未成年後見人のないものに対し、親権を行う者又は未成年後見人があるに至るまでの間、親権を行う。ただし、民法第七百九十七条の規定による縁組の承諾をするには、厚生労働省令の定めるところにより、都道府県知事の許可を得なければならない。
旧(現行)
(新設)
---------------------------------------------------
新(改正)
第四十七条
B 児童福祉施設の長、その住居において養育を行う第六条の三第八項に規定する厚生労働省令で定める者又は里親は、入所中又は受託中の児童等で親権を行う者又は未成年後見人のあるものについても、監護、教育及び懲戒に関し、その児童等の福祉のため必要な措置をとることができる。

旧(現行)
A 児童福祉施設の長、その住居において養育を行う第六条の三第八項に規定する厚生労働省令で定める者又は里親は、入所中又は受託中の児童で親権を行う者又は未成年後見人のあるものについても、監護、教育及び懲戒に関し、その児童の福祉のため必要な措置をとることができる。
---------------------------------------------------
新(改正)
第四十七条
C 前項の児童等の親権を行う者又は未成年後見人は、同項の規定による措置を不当に妨げてはならない。

旧(現行)
(新設)
---------------------------------------------------
新(改正)
第四十七条
D 第三項の規定による措置は、児童等の生命又は身体の安全を確保するため緊急の必要があると認めるときは、その親権を行う者又は未成年後見人の意に反しても、これをとることができる。この場合において、児童福祉施設の長、小規模住居型児童養育事業を行う者又は里親は、速やかに、そのとつた措置について、当該児童等に係る通所給付決定若しくは入所給付決定、第二十一条の六若しくは第二十七条第一項第三号の措置又は保育の実施等を行つた都道府県又は市町村の長に報告しなければならない。

旧(現行)
(新設)
---------------------------------------------------

 (2)未成年後見制度・親権代行制度の見直し
   ア 法人または複数の未成年後見人の許容
     未成年後見人は、自然人でなければならないと解され、また、一人でなければならないとされていましたが、「更に……選任することができる」として、複数の未成年後見人の選任を可能とし(民法840条2項、これに伴い842条は削除)、法人による未成年後見も認めるに至りました(同条3項)。成年後見と同じように、複数の未成年後見人の選任と法人による未成年後見が認められるようになったということです。
     これは、例えば、財産管理と身上監護を各分野の専門家が分担したり、親族と特定分野の専門家が共同するなど、チームを組んで後見事務を行うことが効果的な場合があるため、改正が行われました。これにより、未成年後見人の担い手の不足を解消し、施設対処後の子のケアも充実することが期待されています。
     また、未成年後見人が複数の場合には、原則として、共同してその権限を行使することとされました(857条の2)。

---------------------------------------------------
新(改正)
(未成年後見人の選任)
第八百四十条 前条の規定により未成年後見人となるべき者がないときは、家庭裁判所は、未成年被後見人又はその親族その他の利害関係人の請求によって、未成年後見人を選任する。未成年後見人が欠けたときも、同様とする。

旧(現行)
(未成年後見人の選任)
第八百四十条 前条の規定により未成年後見人となるべき者がないときは、家庭裁判所は、未成年被後見人又はその親族その他の利害関係人の請求によって、未成年後見人を選任する。未成年後見人が欠けたときも、同様とする。
---------------------------------------------------
新(改正)
第八百四十条
2 未成年後見人がある場合においても、家庭裁判所は、必要があると認めるときは、前項に規定する者若しくは未成年後見人の請求により又は職権で、更に未成年後見人を選任することができる。

旧(現行)
(新設)
---------------------------------------------------
新(改正)
第八百四十条
3 未成年後見人を選任するには、未成年被後見人の年齢、心身の状態並びに生活及び財産の状況、未成年後見人となる者の職業及び経歴並びに未成年被後見人との利害関係の有無(未成年後見人となる者が法人であるときは、その事業の種類及び内容並びにその法人及びその代表者と未成年被後見人との利害関係の有無)、未成年被後見人の意見その他一切の事情を考慮しなければならない。

旧(現行)
(新設)
---------------------------------------------------
新(改正)
第八百四十二条 削除

旧(現行)
(未成年後見人の数)
第八百四十二条 未成年後見人は、一人でなければならない。
---------------------------------------------------
新(改正)
(未成年後見人が数人ある場合の権限の行使等)
第八百五十七条の二 未成年後見人が数人あるときは、共同してその権限を行使する。
2 未成年後見人が数人あるときは、家庭裁判所は、職権で、その一部の者について、財産に関する権限のみを行使すべきことを定めることができる。
3 未成年後見人が数人あるときは、家庭裁判所は、職権で、財産に関する権限について、各未成年後見人が単独で又は数人の未成年後見人が事務を分掌して、その権限を行使すべきことを定めることができる。
4 家庭裁判所は、職権で、前二項の規定による定めを取り消すことができる。
5 未成年後見人が数人あるときは、第三者の意思表示は、その一人に対してすれば足りる。

旧(現行)
(新設)
---------------------------------------------------

   イ 未成年後見監督人(849条及び852条)
     家庭裁判所は、必要があるときは、未成年被後見人、その親族もしくは未成年後見人の請求により又は職権で、未成年後見監督人を選任することができることとされました。
     なお、未成年者に対して親権を行う者がいないとき、又は管理権を有しないことにより開始するのが未成年後見であり(民法838条1号)、後見開始の審判により開始するのが成年後見です(同条2号)。前者の場合に選任されるのが、未成年後見人・未成年後見監督人、後者の場合に選任されるのが、成年後見人・成年後見監督人で、両者の総称が、後見人・後見監督人です(10条)。

---------------------------------------------------
新(改正)
(後見監督人の選任)
第八百四十九条 家庭裁判所は、必要があると認めるときは、被後見人、その親族若しくは後見人の請求により又は職権で、後見監督人を選任することができる。

旧(現行)
(未成年後見監督人の選任)
第八百四十九条 前条の規定により指定した未成年後見監督人がない場合において必要があると認めるときは、家庭裁判所は、未成年被後見人、その親族若しくは未成年後見人の請求により又は職権で、未成年後見監督人を選任することができる。未成年後見監督人の欠けた場合も、同様とする。
---------------------------------------------------
新(改正)
(委任及び後見人の規定の準用)
第八百五十二条 第六百四十四条、第六百五十四条、第六百五十五条、第八百四十四条、第八百四十六条、第八百四十七条、第八百六十一条第二項及び第八百六十二条の規定は後見監督人について、第八百四十条第三項及び第八百五十七条の二の規定は未成年後見監督人について、第八百四十三条第四項、第八百五十九条の二及び第八百五十九条の三の規定は成年後見監督人について準用する。

旧(現行)
(委任及び後見人の規定の準用)
第八百五十二条 第六百四十四条、第六百五十四条、第六百五十五条、第八百四十三条第四項、第八百四十四条、第八百四十六条、第八百四十七条、第八百五十九条の二、第八百五十九条の三、第八百六十一条第二項及び第八百六十二条の規定は、後見監督人について準用する。
---------------------------------------------------

 (3)子の利益の観点の明確化等
   ア 監護・教育の権利義務及び懲戒における子の利益の観点の明確化
     子の監護・教育の権利義務が子の利益のために行われなければならないもので、児童虐待が親権によって正当化されないことが法律上明らかにされました(民法820条)。
     また、懲戒は、子の利益のために行われる監護・教育に必要な範囲に限って認められるものであることが明確にされました(822条)。そして、懲戒場に関する規定は、すべて削除されました。

---------------------------------------------------
新(改正)
(監護及び教育の権利義務)
第八百二十条 親権を行う者は、子の利益のために子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う。

旧(現行)
(監護及び教育の権利義務)
第八百二十条 親権を行う者は、子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う。
---------------------------------------------------
新(改正)
(懲戒)
第八百二十二条 親権を行う者は、第八百二十条の規定による監護及び教育に必要な範囲内でその子を懲戒することができる。

旧(現行)
(懲戒)
第八百二十二条 親権を行う者は、必要な範囲内で自らその子を懲戒し、又は家庭裁判所の許可を得て、これを懲戒場に入れることができる。
---------------------------------------------------
(削る)

第八百二十二条
2 子を懲戒場に入れる期間は、六箇月以下の範囲内で、家庭裁判所が定める。ただし、この期間は、親権を行う者の請求によって、いつでも短縮することができる。
---------------------------------------------------

   イ 離婚後の子の監護に関する事項の定め
     離婚の際に定める「子の監護について必要な事項」の例示として、「子の監護をすべき者」が規定されていましたが、面会交流及び監護に要する費用の分担についても、例示として規定するに至りました(民法766条)。

---------------------------------------------------
新(改正)
(離婚後の子の監護に関する事項の定め等)
第七百六十六条 父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。

旧(現行)
(離婚後の子の監護に関する事項の定め等)
第七百六十六条 父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者その他監護について必要な事項は、その協議で定める。協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、これを定める。
---------------------------------------------------
新(改正)
第七百六十六条
2 前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、同項の事項を定める。

旧(現行)
(新設)
---------------------------------------------------
新(改正)
第七百六十六条
3 家庭裁判所は、必要があると認めるときは、前二項の規定による定めを変更し、その他子の監護について相当な処分を命ずることができる。

旧(現行)
2 子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、子の監護をすべき者を変更し、その他監護について相当な処分を命ずることができる。
---------------------------------------------------
新(改正)
第七百六十六条
4 前三項の規定によっては、監護の範囲外では、父母の権利義務に変更を生じない。
旧(現行)
3 前二項の規定によっては、監護の範囲外では、父母の権利義務に変更を生じない。
---------------------------------------------------

   ウ 一時保護の見直し
     児童福祉法による一時保護の期間は、原則として2ヶ月を限度とし、児童相談所長又は都道府県知事は、必要があると認めるときは、引き続き一時保護を行うことができることとしました(児童福祉法33条3項、4項)。ただ、2ヶ月を超えて一時保護を行うことが親権者・未成年後見人の意に反する場合には、都道府県児童福祉審議会の意見を聴かなければならないこととされました(同条5項)。

---------------------------------------------------
新(改正)
第三十三条 児童相談所長は、必要があると認めるときは、第二十六条第一項の措置をとるに至るまで、児童に一時保護を加え、又は適当な者に委託して、一時保護を加えさせることができる。

旧(現行)
第三十三条 児童相談所長は、必要があると認めるときは、第二十六条第一項の措置をとるに至るまで、児童に一時保護を加え、又は適当な者に委託して、一時保護を加えさせることができる。
---------------------------------------------------
新(改正)
第三十三条
A 都道府県知事は、必要があると認めるときは、第二十七条第一項又は第二項の措置をとるに至るまで、児童相談所長をして、児童に一時保護を加えさせ、又は適当な者に、一時保護を加えることを委託させることができる。

旧(現行)
A 都道府県知事は、必要があると認めるときは、第二十七条第一項又は第二項の措置をとるに至るまで、児童相談所長をして、児童に一時保護を加えさせ、又は適当な者に、一時保護を加えることを委託させることができる。
---------------------------------------------------
新(改正)
第三十三条
B 前二項の規定による一時保護の期間は、当該一時保護を開始した日から二月を超えてはならない。

旧(現行)
B 前二項の規定による一時保護の期間は、当該一時保護を開始した日から二月を超えてはならない。
---------------------------------------------------
新(改正)
第三十三条
C 前項の規定にかかわらず、児童相談所長又は都道府県知事は、必要があると認めるときは、引き続き第一項又は第二項の規定による一時保護を行うことができる。

旧(現行)
C 前項の規定にかかわらず、児童相談所長又は都道府県知事は、必要があると認めるときは、引き続き第一項又は第二項の規定による一時保護を行うことができる。
---------------------------------------------------
新(改正)
第三十三条
D 前項の規定により引き続き一時保護を行うことが当該児童の親権を行う者又は未成年後見人の意に反する場合においては、児童相談所長又は都道府県知事が引き続き一時保護を行おうとするとき、及び引き続き一時保護を行つた後二月を経過するごとに、都道府県知事は、都道府県児童福祉審議会の意見を聞かなければならない。ただし、当該児童に係る第二十八条第一項の承認の申立て又は当該児童の親権者に係る第三十三条の七の規定による親権喪失若しくは親権停止の審判の請求がされている場合は、この限りでない。

旧(現行)
(新設)
---------------------------------------------------

 (4)その他
   ア 15歳未満の者を養子とする縁組(民法797条2項)
     親権停止の制度が設けられたことに伴う改正です。15歳未満の者を養子とする縁組については、その法定代理人が養子となる者に代わって縁組の承諾をすることができますが、養子となる者の父母で親権を停止されている者があるときは、未成年後見人の同意を得なければなりません。

---------------------------------------------------
新(改正)
(十五歳未満の者を養子とする縁組)
第七百九十七条 養子となる者が十五歳未満であるときは、その法定代理人が、これに代わって、縁組の承諾をすることができる。

旧(現行)
(十五歳未満の者を養子とする縁組)
第七百九十七条 養子となる者が十五歳未満であるときは、その法定代理人が、これに代わって、縁組の承諾をすることができる。
---------------------------------------------------
新(改正)
第七百九十七条
2 法定代理人が前項の承諾をするには、養子となる者の父母でその監護をすべき者であるものが他にあるときは、その同意を得なければならない。養子となる者の父母で親権を停止されているものがあるときも、同様とする。

旧(現行)
第七百九十七条
2 法定代理人が前項の承諾をするには、養子となる者の父母でその監護をすべき者であるものが他にあるときは、その同意を得なければならない。
---------------------------------------------------

   イ 父母による未成年後見人の選任の請求(民法841条)
     親権の喪失の制度等が見直されたことから、未成年後見人の選任の請求の原因を、「親権を失ったこと」から「親権喪失、親権停止若しくは管理権喪失の審判があったこと」へ変更する改正です。

---------------------------------------------------
新(改正)
(父母による未成年後見人の選任の請求)
第八百四十一条 父若しくは母が親権若しくは管理権を辞し、又は父若しくは母について親権喪失、親権停止若しくは管理権喪失の審判があったことによって未成年後見人を選任する必要が生じたときは、その父又は母は、遅滞なく未成年後見人の選任を家庭裁判所に請求しなければならない。

旧(現行)
(父母による未成年後見人の選任の請求)
第八百四十一条 父又は母が親権若しくは管理権を辞し、又は親権を失ったことによって未成年後見人を選任する必要が生じたときは、その父又は母は、遅滞なく未成年後見人の選任を家庭裁判所に請求しなければならない。
---------------------------------------------------

   ウ 成年後見監督人の選任(民法849条の2)
     成年後見監督人及び未成年後見監督人の選任に関する規定が、いずれも民法849条の規定となったことによる改正です。

---------------------------------------------------
新(改正)
(削る)

旧(現行)
(成年後見監督人の選任)
第八百四十九条の二 家庭裁判所は、必要があると認めるときは、成年被後見人、その親族若しくは成年後見人の請求により又は職権で、成年後見監督人を選任することができる。
---------------------------------------------------

   エ 未成年被後見人の身上の監護に関する権利義務(民法857条)
     子を懲戒場に入れる制度が廃止されたこと(旧民法822条2項参照)による改正です。

---------------------------------------------------
新(改正)
(未成年被後見人の身上の監護に関する権利義務)
第八百五十七条 未成年後見人は、第八百二十条から第八百二十三条までに規定する事項について、親権を行う者と同一の権利義務を有する。ただし、親権を行う者が定めた教育の方法及び居所を変更し、営業を許可し、その許可を取り消し、又はこれを制限するには、未成年後見監督人があるときは、その同意を得なければならない。

旧(現行)
(未成年被後見人の身上の監護に関する権利義務)
第八百五十七条 未成年後見人は、第八百二十条から第八百二十三条までに規定する事項について、親権を行う者と同一の権利義務を有する。ただし、親権を行う者が定めた教育の方法及び居所を変更し、未成年被後見人を懲戒場に入れ、営業を許可し、その許可を取り消し、又はこれを制限するには、未成年後見監督人があるときは、その同意を得なければならない。
---------------------------------------------------

児童虐待の防止等に関する法律
(平成十二年五月二十四日法律第八十二号)(目的)
第一条  この法律は、児童虐待が児童の人権を著しく侵害し、その心身の成長及び人格の形成に重大な影響を与えるとともに、我が国における将来の世代の育成にも懸念を及ぼすことにかんがみ、児童に対する虐待の禁止、児童虐待の予防及び早期発見その他の児童虐待の防止に関する国及び地方公共団体の責務、児童虐待を受けた児童の保護及び自立の支援のための措置等を定めることにより、児童虐待の防止等に関する施策を促進し、もって児童の権利利益の擁護に資することを目的とする。

(判例参照)

千葉家庭裁判所市川出張所平成14年12月6日審判 
主   文

申立人が事件本人を児童自立支援施設に入所させることを承認する。

       理   由

第1 申立ての趣旨
 主文同旨
第2 当裁判所の判断
 本件記録に基づく事実の認定及び法律上の判断は,次のとおりである。

1 本件に至る経緯
(1)事件本人(以下単に「事件本人」という。)は,事件本人の親権者母(以下「母」という。)と父との間の長女として昭和62年9月12日出生した者であり,平成2年10月19日父母が離婚した際,その親権者を長男(昭和60年2月6日生)と共に母と定められた。
 平成7年4月7日,母は(以下「継父」という。)と再婚し,事件本人は母,継父及び長男らの4人で生活するようになり,平成9年3月以降住所地に居住している。

(2)事件本人は平成14年7月22日,○○産婦人科を受診して妊娠していることが判明し,同月29日中絶手術を受けた。事件本人は同月24日○○医師に対する問診の中で,継父から性行為を強要されている旨の告白をし,○○医師は同月26日申立人に児童虐待通告を行った。申立人は同月29日,一時保護を開始した。
 申立人は,同年9月18日の判定会議で事件本人について,継父による性的虐待を理由として,児童虐待の防止及び児童虐待を受けた児童の保護の観点から児童自立支援施設への入所措置が必要と判断し,同年10月18日当裁判所に児童福祉法28条による承認を求める本件申立てをした。

2 事件本人に対する虐待について
(1)事件本人は,小学校5年時の平成10年10月頃自室において、事件本人の部屋に入って来た継父から性交渉を強要されたのを初めとして,以後平成14年7月頃に至るまで,同所において夜間や母のいない昼間等に,断続的に性交渉を強要されてきた。
 継父は母や事件本人に暴力を振るうことがあり,また継父から事件本人は,帰宅時間の約束が守れなかった罰だとか,母にいったら承知しないなどと脅され,性交渉について口止めされていた。 

(2)事件本人が中学1年時の平成12年9月27日頃,事件本人は養護教諭に継父から性交渉を強要されていることを訴えた。養護教諭,母及び事件本人の三者面談の際,事件本人は同年6月4日頃に継父から無理矢理性関係を持たされたことを話した。母は善処を約し,一時期事件本人の就寝に付き添ったこともあったが,継父の言い分と食い違うとして,結局事件本人を信用せず,学校からの働きかけにも応答がなかった。
 事件本人が中学2年時の平成14年2,3月頃,担任の××教諭や養護教諭が事件本人に継父とのことを尋ねると,性交渉の強要が続いている旨の返事であった。この件について学校側が母に相談しても性的虐待はないとの態度であり,具体的な解決策は採られなかった。
 ○○医師が同年7月28日頃母と話合いをした結果,母は事件本人を継父から守る旨を約したが,その後事件本人の性非行を非難する態度に変った。

(3)事件本人の心身の状況と生活態度について見ると,事件本人は平成12年4月に中学校に入学したが,学校での事件本人は明るく,軽度精神遅滞という制約のほか大きな問題はなく,些細な嘘や大げさな態度が多く見られたというものであった。しかし,中学2年の3学期頃から事件本人の態度が変化し,性的な逸脱行動が顕著になり,複数の男性と性交渉を持ち,或いは援助交際をし,また力関係を基にして対人関係を組成するという状況に至った。
 児童相談所における心理診断では,事件本人には,強い罪悪感と無力感,感情を鈍麻させた状態(軽い解離症状),基本的な信頼感の障害及び性的行動の逸脱化が心理的特徴として認められる。

(4)事件本人の供述の信用性について検討する。
 事件本人は上記のように平成14年7月24日,○○医師に継父から性交渉を強要されてきたことを話したところ,更に同月27日頃継父からの性交渉の強要が繰り返され,事件本人は同月24,27,28日の3日間にわたって○○医院において手記を作成した。
 事件本人の継父による性的虐待に関する上記手記及び事件本人の学校教師,申立人担当者,家庭裁判所調査官に対する供述は具体的でほぼ一貫しており,継父の事件本人に対する性的行為と事件本人が○○医師に相談するに至った経過が,継父に対する拒否感情と共に事件本人自身の言葉で表現されており,充分信用しうるものである。また事件本人の上記心理的特徴は,事件本人の訴えにも拘わらず,事件本人に対し継父による性的虐待が繰り返され,母が適切に監護できなかったことが大きく影響していると理解される。
 ところで,母や継父は,事件本人が性非行を責められるのを避けるために,継父による性的虐待という虚偽の事実を言い出したと主張する。調査及び申立人における面接等において継父は,事件本人の部屋に入って,事件本人の下腹部と胸に触ったことがあることは認めるものの,事件本人の方から足にしがみついてきたものであり,セックスはしておらず,それで養護教諭からの話しの時も母には言い訳しなかったとし,また詳細は話したくないなどと述べ,曖昧かつ不自然な弁解をしている上,事件本人がこれまで継父による虐待を打ち明けた経緯は上述のとおりであって,母らの主張は到底採用できない。

3 母及び事件本人の意向
(1)母は,事件本人に対する虐待を理由とする施設入所措置には同意しないが,事件本人の性非行を理由とする施設入所措置に同意すると述べる。
 保護者による児童虐待を理由とする施設入所の措置には,児童虐待の防止等に関する法律の適用という法的効果が伴うのであって,母が虐待を理由とする施設の入所措置に同意しないということは,結局本件措置が親権者の意に反するときに該当することになると解すべきであり,事件本人の性非行を理由とする施設入所の同意をもって児童福祉法28条による同意と見ることはできない。
(2)事件本人は,母や継父の元に帰ることを強く拒否しており,悩み続けた4年間を断ち切って施設に行き,高校に通いたいとの意向である。

4 結論
(1)以上のとおり,事件本人の継父は,平成10年10月頃から平成14年7月頃までの間,事件本人に対し性交渉を強要し,性的虐待を繰り返していたところ,母は事件本人の訴えにも拘わらず,継父の意向に従い,その虐待を阻止することができない上,かえって表面に現れた事件本人の問題行動のみを捉えて非難するばかりであったものである。
 したがって本件では,保護者である母が,継父の事件本人に対する性的虐待を放置し,著しくその監護を怠ったのであって,このまま事件本人を母に監護させることは著しく事件本人の福祉を害することが明らかである。
(2)事件本人については,その家庭環境を考慮すると児童福祉法28条にいう児童福祉機関の措置権を行使すべき事態にあると認めることができ,上記事件本人の問題状況を勘案すると,事件本人については適切な監護と安定した対人関係の構築等により健全な育成を図るべく,児童自立支援施設に入所させるのが相当である。
 よって,本件申立ては理由があるからこれを認容することとして,主文のとおり審判する。

法律相談事例集データベースのページに戻る

法律相談ページに戻る(電話03−3248−5791で簡単な無料法律相談を受付しております)

トップページに戻る