新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース 質問:私は現在,住宅ローンの他に数社からの借金があり,返済できていない状態です。破産しようと考えているのですが,今住んでいる持ち家に住み続けたいです。親族が金銭的に協力してくれると言っているのですが,どうにかして今の家に住み続ける方法はないですか。 2 収入が全く期待できず,住宅ローンの返済もできないという場合に,債務の返済から免れる方法は破産しかありません。住宅には抵当権が設定されていますので,破産とは別個の手続きで,抵当権(別除権)が実行されて競売の結果を待つことになります。通常は,競売申し立てから1年以内に,期間入札及び落札があり,代金納付後に新所有者から立退きの請求を受けることになってしまいます。 3 具体的対策としては,基本的に金融機関の担当者と交渉を重ねてその意図を早く把握して弁護士と協議の上対策を立てることです。@任意売却の価格をどの程度に把握しているか。価格査定が最も難しく,金融機関によっては最初かなり高額の提示をしてきますが鵜呑みにしてはいけません。A売却の相手方は,妻,親戚のどの範囲を認める先例になっているか。B任意売却の時期(担保権実行までの猶予期間)は何時までを考えているか。物件の価値にもよりますが通常1−2年程度でしょう。交渉により期間延長も可能でしょう。C買い手が配偶者や親戚となる場合は,慎重な交渉が必要です。任意売却交渉の初期の段階では,売り出し価格の調整が主な論点となりますので,買い手が誰であるか明らかにする必要はありません。最初は,買い手に関する情報は守秘義務を理由に開示しません。従って,代理人弁護士が不可欠です。D支店の場合本店の決裁が必要であり,銀行内の手続きの流れを把握する必要があります。E任意売却交渉の期間延長により,事実上,その期間分無償で当該不動産に居住できますから,弁護士に依頼してもその費用分の経済的利益は回復できるはずです。 4 民事再生,関連事例集論文835番,834番,833番,547番,170番,155番,81番参照。 解説: 2(任意売却) @強制競売よりも高く売却できる可能性が高い(競売の場合,建物を内見することは困難ですし,引き渡しが円滑にできるのかというリスクがあるため落札金額は市場価格よりも低くなると言われています。高く売却できれば,残債務が少なくなるというメリットがあります。残債務が少ないことは,債務者にとっても,抵当権者にとってもメリットとなることです。) また,競売の場合,誰が購入するか入札の結果が出るまで分かりませんが,任意売却であれば,買主を選ぶことができます。そこで,どうしても今のままの家に住み続けたい場合には,協力してくれる第3者を見つけ,その第3者がその家を取得し,取得した人から家を借りる契約(建物賃貸借契約)を締結することによって家に住まわせてもらうことができます。 3(任意売却の交渉の時期・期限) 4(本件において) ≪参照条文≫ 民法 民事執行法
No.1308、2012/7/20 11:40 https://www.shinginza.com/qa-sarakin.htm
【民事・破産と自宅等の任意売却・金融機関との交渉要点】
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回答:
1 住宅ローンだけであれば返済ができるという場合は,個人民事再生という手続きがあります。これは,住宅ローンについては期間を延長して毎月の返済額を減額し,その他のローンについては残元金を大幅に減額するという手続きです。この方法は,支払いを継続する原資が前提となるので,定期的収入が見込めない場合は利用できません。詳しくは「民事再生」手続きを参考にして下さい。個人再生(民事再生手続きの特則であり小規模個人再生と給与所得者再生を言います。)の手続きになると思われます。個人再生の住宅資金特別条項があっても,支払い期限の延長があるだけで,最終的には負債は支払うことになります。
債務の返済とは別に,今住んでいる住宅に住み続けたいという場合は,信頼できる知人に任意売却により土地建物を購入してもらい,その人から建物を賃借するという方法があります。その買受人との協議により,後日買い戻すことも可能です。不動産を購入する人は親戚であっても通常は問題ありません(但し,金融機関の担当者によっては近い親戚の場合,査定等で慎重になることもありますので,できれば親戚ではない方が良いでしょう。)。
唯,金融機関は競売の申し立てをしても,自ら破産手続き(債権者による破産申し立て)はしないのが通例ですから,任意売却の終了と共に事実上債務整理が終了する場合があります。当該金融機関の慣例を弁護士に確認してもらいましょう。従って,任意売却後の金融機関との残額支払い交渉は弁護士を入れて慎重に行う必要があります。銀行担当者によっては,担保権実行という法的手続き,それに代わる任意売却を行うと,残金回収に意欲を失う場合があります。破産手続きを事実上回避する方法・対策を弁護士と協議しましょう。
1(抵当権の実行)
住宅ローンを組む場合には,通常,借り入れの担保として土地等の不動産に抵当権(民法369条1項)が設定されます。
抵当権者は,抵当権の付いた不動産を強制的に処分して,その処分によって得た金銭を債権の弁済にあてることが出来るため,破産手続きをするか否かに関わらずローンの支払いが遅滞すると銀行は裁判所に抵当権の実行を申立て,不動産は強制競売にかけられることになります(民事執行法180〜188・194条)。
もっとも,競売による処分では,不動産価格鑑定において競売評価を考慮し,実勢価格の0.6〜0.7という係数を掛けた評価になるため,実勢価格より安くなる場合が多いです。そのため,不動産の価値が残債権額より減少している場合,担保権者としても競売ではなく,任意売却による処分を希望する場合は少なくありません。予納金(不動産鑑定士の費用等)も結構な金額になります。最低でも60万円以上は必要になります。
担保に入れている不動産を処分しても売買代金でローンの残債全額の返済ができない場合,担保権者の同意(全額返済しなくても抵当権を抹消することの同意)の下で,所有権者が売却することを任意売却といいます(この場合も,全額返済しなくても抵当権を外して売却できるようにすることを承諾してもらうだけですから売買代金で返済した残債は残っていますから金融機関から残金の催促を受けることは変わりありません)。
任意売却は強制競売とは違い,裁判所の関与する手続きではなく,あくまで当事者による市場での売却手続きであるため,
A 競売手続き申請の費用がかからない(競売の場合,裁判所の予納金として債権額に応じて60万から200万円のお金を裁判所に納める必要があります。ちなみに2000万円の残債で予納金は100万円です。)
B 処分完了までの期間が短い(競売の場合申立てから,売却許可決定まで約1年程度かかります。)
などのメリットがあります。
競売には債務者以外であれば誰でも(保証人でも)参加し落札することは可能ですが,競売の場合には誰が参加し,最高額がいくらかになるかは予想することが出来ないため,取得の可能性は未知数であると言えます(期間入札といって2週間程度の期間を定めて,金額を秘密にして入札し,改札期日を定めて最高額での入札者が購入することになります)。
それに対して,任意売却の場合,担保権者が任意売却に応じ,金額の折り合いさえつけば確実に債務者に賃貸してくれる人に売却できますので,この点もメリットだと言えます。
理論的には,競売が申し立てられ,手続きが進んでも買受人が代金を納付するまでは担保権者は競売の申立てを取り下げることが出来ますので(民事執行法76条1項本文,79条),この時期までは任意売却ができるということになります。
しかし,@開札期日以降で買受けの申し出があった場合には,最高価買受申出人または買受人及び次順位買受申出人の同意を,A売却決定以降は,買受人の同意を得なければ競売の申立てを取り下げることはできません(民事執行法76条1項)。また,競売の申立ての取下げのための同意をお願いする場合,これに応じて頂くことは大変難しく,相当の金銭を要求される場合も少なくないです。そのため,開札期日以降の競売の申し立ての取り下げは現実的には難しいと言わざるを得ません。
したがって,実際には開札期日の前日までが任意売却の期限であると考えておいた方がいいと思います。
とはいえ,債権者とすれば競売の申し立てには予納金を支払う必要がありますから,できれば早い時期に任意売却について相談し,不動産相場や最低でいくら支払えば抵当を外してくれるのか相談するほうが金融機関の対応も良いでしょう。
住宅ローンの支払いが滞ると,銀行側から担保権の実行をする旨の通知が来ます。滞納発生から6ヶ月程度で競売申し立てする事例も多いようです。最近は,競売にかけても,市場価格に近い高額の落札となる場合も少なくないため,銀行側としても任意売却に安易に応じない場合が増えてきています。
これは,デフレによる不動産価格の下落により,取引事例がなく最低売却価格が異常に時価より低く評価される場合がある為であるといわれています。
通常は,担保不動産競売手続きにおいて不動産鑑定士が評価する最低売却価格の3割増し程度の金額であれば,金融機関は任意売却に応じると言われています。しかし,最低売却価格が低く算定されている場合や,金融機関独自の査定もありますから一概には言えません)。
この様に,競売を申し立てられた場合にこれを取り下げてもらうには時間的な制限がありますし,銀行側との交渉には法的知識や不動産の価格の算定のための周辺の不動産の調査等による情報収集が不可欠になりますので,御自身で対応するには限界があると思われます。また,競売の情報をもとに債務者に対して任意売却の話を持ちかけてくるような不動産業者もいるようです。全部の不動産業者が信用できないわけではありませんが,中には,悪質な業者もいますから,信頼できる弁護士等に相談する必要があります。
(抵当権の内容)
第三百六十九条 抵当権者は,債務者又は第三者が占有を移転しないで債務の担保に供した不動産について,他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。
2 地上権及び永小作権も,抵当権の目的とすることができる。この場合においては,この章の規定を準用する。
(買受けの申出後の強制競売の申立ての取下げ等)
第七十六条 買受けの申出があつた後に強制競売の申立てを取り下げるには,最高価買受申出人又は買受人及び次順位買受申出人の同意を得なければならない。ただし,他に差押債権者(配当要求の終期後に強制競売又は競売の申立てをした差押債権者を除く。)がある場合において,取下げにより第六十二条第一項第二号に掲げる事項について変更が生じないときは,この限りでない。
2 前項の規定は,買受けの申出があつた後に第三十九条第一項第四号又は第五号に掲げる文書を提出する場合について準用する。
(不動産の取得の時期)
第七十九条 買受人は,代金を納付した時に不動産を取得する。
(不動産担保権の実行の方法)
第百八十条 不動産(登記することができない土地の定着物を除き,第四十三条第二項の規定により不動産とみなされるものを含む。以下この章において同じ。)を目的とする担保権(以下この章において「不動産担保権」という。)の実行は,次に掲げる方法であつて債権者が選択したものにより行う。
一 担保不動産競売(競売による不動産担保権の実行をいう。以下この章において同じ。)の方法
二 担保不動産収益執行(不動産から生ずる収益を被担保債権の弁済に充てる方法による不動産担保権の実行をいう。以下この章において同じ。)の方法
(不動産担保権の実行の開始)
第百八十一条 不動産担保権の実行は,次に掲げる文書が提出されたときに限り,開始する。
一 担保権の存在を証する確定判決若しくは家事審判法 (昭和二十二年法律第百五十二号)第十五条 の審判又はこれらと同一の効力を有するものの謄本
二 担保権の存在を証する公証人が作成した公正証書の謄本
三 担保権の登記(仮登記を除く。)に関する登記事項証明書
四 一般の先取特権にあつては,その存在を証する文書
2 抵当証券の所持人が不動産担保権の実行の申立てをするには,抵当証券を提出しなければならない。
3 担保権について承継があつた後不動産担保権の実行の申立てをする場合には,相続その他の一般承継にあつてはその承継を証する文書を,その他の承継にあつてはその承継を証する裁判の謄本その他の公文書を提出しなければならない。
4 不動産担保権の実行の開始決定がされたときは,裁判所書記官は,開始決定の送達に際し,不動産担保権の実行の申立てにおいて提出された前三項に規定する文書の目録及び第一項第四号に掲げる文書の写しを相手方に送付しなければならない。
(開始決定に対する執行抗告等)
第百八十二条 不動産担保権の実行の開始決定に対する執行抗告又は執行異議の申立てにおいては,債務者又は不動産の所有者(不動産とみなされるものにあつては,その権利者。以下同じ。)は,担保権の不存在又は消滅を理由とすることができる。
(不動産担保権の実行の手続の停止)
第百八十三条 不動産担保権の実行の手続は,次に掲げる文書の提出があつたときは,停止しなければならない。
一 担保権のないことを証する確定判決(確定判決と同一の効力を有するものを含む。次号において同じ。)の謄本
二 第百八十一条第一項第一号に掲げる裁判若しくはこれと同一の効力を有するものを取り消し,若しくはその効力がないことを宣言し,又は同項第三号に掲げる登記を抹消すべき旨を命ずる確定判決の謄本
三 担保権の実行をしない旨,その実行の申立てを取り下げる旨又は債権者が担保権によつて担保される債権の弁済を受け,若しくはその債権の弁済の猶予をした旨を記載した裁判上の和解の調書その他の公文書の謄本
四 担保権の登記の抹消に関する登記事項証明書
五 不動産担保権の実行の手続の停止及び執行処分の取消しを命ずる旨を記載した裁判の謄本
六 不動産担保権の実行の手続の一時の停止を命ずる旨を記載した裁判の謄本
七 担保権の実行を一時禁止する裁判の謄本
2 前項第一号から第五号までに掲げる文書が提出されたときは,執行裁判所は,既にした執行処分をも取り消さなければならない。
3 第十二条の規定は,前項の規定による決定については適用しない。
(代金の納付による不動産取得の効果)
第百八十四条 担保不動産競売における代金の納付による買受人の不動産の取得は,担保権の不存在又は消滅により妨げられない。
第百八十五条 削除
第百八十六条 削除
(担保不動産競売の開始決定前の保全処分等)
第百八十七条 執行裁判所は,担保不動産競売の開始決定前であつても,債務者又は不動産の所有者若しくは占有者が価格減少行為(第五十五条第一項に規定する価格減少行為をいう。以下この項において同じ。)をする場合において,特に必要があるときは,当該不動産につき担保不動産競売の申立てをしようとする者の申立てにより,買受人が代金を納付するまでの間,同条第一項各号に掲げる保全処分又は公示保全処分を命ずることができる。ただし,当該価格減少行為による価格の減少又はそのおそれの程度が軽微であるときは,この限りでない。
2 前項の場合において,第五十五条第一項第二号又は第三号に掲げる保全処分は,次に掲げる場合のいずれかに該当するときでなければ,命ずることができない。
一 前項の債務者又は同項の不動産の所有者が当該不動産を占有する場合
二 前項の不動産の占有者の占有の権原が同項の規定による申立てをした者に対抗することができない場合
3 第一項の規定による申立てをするには,担保不動産競売の申立てをする場合において第百八十一条第一項から第三項までの規定により提出すべき文書を提示しなければならない。
4 執行裁判所は,申立人が第一項の保全処分を命ずる決定の告知を受けた日から三月以内に同項の担保不動産競売の申立てをしたことを証する文書を提出しないときは,被申立人又は同項の不動産の所有者の申立てにより,その決定を取り消さなければならない。
5 第五十五条第三項から第五項までの規定は第一項の規定による決定について,同条第六項の規定は第一項又はこの項において準用する同条第五項の申立てについての裁判について,同条第七項の規定はこの項において準用する同条第五項の規定による決定について,同条第八項及び第九項並びに第五十五条の二の規定は第一項の規定による決定(第五十五条第一項第一号に掲げる保全処分又は公示保全処分を命ずるものを除く。)について,第五十五条第十項の規定は第一項の申立て又は同項の規定による決定(同条第一項第一号に掲げる保全処分又は公示保全処分を命ずるものを除く。)の執行に要した費用について,第八十三条の二の規定は第一項の規定による決定(第五十五条第一項第三号に掲げる保全処分及び公示保全処分を命ずるものに限る。)の執行がされた場合について準用する。この場合において,第五十五条第三項中「債務者以外の占有者」とあるのは,「債務者及び不動産の所有者以外の占有者」と読み替えるものとする。
(不動産執行の規定の準用)
第百八十八条 第四十四条の規定は不動産担保権の実行について,前章第二節第一款第二目(第八十一条を除く。)の規定は担保不動産競売について,同款第三目の規定は担保不動産収益執行について準用する。
(担保権の実行についての強制執行の総則規定の準用)
第百九十四条 第三十八条,第四十一条及び第四十二条の規定は,担保権の実行としての競売,担保不動産収益執行並びに前条第一項に規定する担保権の実行及び行使について準用する。