新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース 質問:私の父は85歳と高齢で,1級身体障害者の認定を受ける状態で,食事の世話,入浴介助,簡易トイレにおける排泄物の処理といった日常生活全般についての介護が不可欠な状態です。そのため夫婦で父の介護を行っていましたが,私も仕事をしており,帰宅が遅くなることが多かったので,週3〜4日,私が介護をできない時間帯は,夫に退勤途中1時間半から2時間ほど父宅へ立ち寄ってもらい介護を行ってもらっていました。夫は徒歩で通勤していましたが,父宅へ立ち寄る際は,会社を出た地点から通常の退勤経路とは異なったルートを使用していました。先日,夫は,普段と同じように父宅で父の介護をした後,自宅へ帰宅する途中で,交差点でバイクと衝突し,脳挫傷を負ってしまいました。事故に遭った場所は,父宅へ介護で立ち寄らない日における退勤経路のルート上の交差点でした。通勤による災害として労災による休業給付は認められないでしょうか? 解説: 労働者災害補償保険法(以下「労災法」と言います。)とは,労働者災害補償保険いわゆる「労災保険」を定める法律で,内容としては業務災害と通勤災害に遭遇した労働者(又は残された遺族)を対象として国家が管理して行う保険給付等について規定しています(労災法1条,2条)。労働契約上,労働者が,業務上,通勤上災害にあった場合,加害者が存在すれば,加害者に対して損害賠償請求が可能ですが,相手方に財産がない場合,相手方に過失がない場合には損害は填補されません。又,使用者側に損害発生につき過失があれば使用者に責任追及ができますが,複雑な業務についての過失の立証ができない場合は,労働者の生活は一瞬にして破綻の可能性が存在し,生存権(憲法25条)が脅かされ一家路頭に迷うことになります。しかし,使用者は労働者を事実上業務において指揮命令権の下支配下におき利益を確保し,災害が生じる危険性がある業務に従事させていることから危険責任,報償責任を負わなければならず,他方労働者は,労働力を提供して日々の生活を維持しなければならないことから私的自治の原則に内在する正義,公正,公平の原則という法の理想から(根拠について他に種々の学説があります)労働基準法上,使用者は,業務上の災害に対して災害の損害を賠償する無過失の法的責任を負うことになります(使用者の労働災害補償義務,労働基準法75条以下)。 1.「通勤災害」とは,労働者の通勤による負傷,疾病,障害又は死亡のことをいいます(労働者災害補償保険法7条1項2号。以下,労災保険法という。)。これからもお分かりいただけるとおり,通勤災害と認められるためには,「通勤」により生じた災害であることが必要となります。労災法の対象が,労働者の業務に起因する事故であることは当然ですが,民法上直接の業務と言えるか問題となる通勤についても,立法趣旨からその対象として労働者の生活権を保証しています。 2.「就業に関し」(労災保険法7条2項柱書) 3.「移動」(労災保険法7条2項柱書) 4.「合理的な経路及び方法」(労災保険法7条2項柱書) 5(1)「業務の性質を有するもの」(労災保険法7条2項柱書) 6.「移動の経路を逸脱し,又は中断した場合」(労災保険法7条3項本文) 7.判例紹介 8.こうして見てきたように,ご相談のケースでは通勤災害と認められそうではありますが,微妙なところもありますし,また要件の検討は詳細に,厳密に行う必要があるかと思います。一度,お近くの法律事務所へご相談なさってみたほうが安心かもしれません。 【参考条文】 労働者災害補償保険法 労働者災害補償保険法施行規則
No.1310、2012/7/25 15:46 https://www.shinginza.com/rousai.htm
【民事・労災と通勤経路の中断・大阪高裁平成19年4月18日判決】
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回答:
1.労働者災害補償保険法7条1項2号に通勤による災害(通勤災害)については労災保険の給付がなされる旨規定されています。しかし,通勤の途中で用事をたしていた場合,原則として通勤経路の逸脱,あるいは中断があったとして保険の対象とは認められないとされています(同法7条3項)。但し,逸脱,中断と認められるような用事が,日常生活上必要な行為で,かつ規則で定められた行為を行うための最小限度のものである場合は,例外として通勤による災害と認めることになっています(法7条3項但し書き)。そして,労働者災害補償保険法施行規則8条5号には配偶者の父母の介護は日常生活上必要な行為と認められていますから,具体的に最小必要限度のもので,その後,合理的経路に復し,その後に被害にあったということであれば通勤による災害と認められることになります。
2.関連事務所事例集1050番,567番参照。
(労働者災害補償保険法の制度趣旨)
しかし,いくら使用者が無過失責任を負っていても,弁償する財産が存在せず,実際上迅速に支給されなければその目的を達成することはできませんので,事前に使用者の損害賠償責任を実質的に保障するため,使用者が負担する保険料により運営し国家が管理する保険が必要であり,そのため作られたのが労動者災害保険制度であり,労動者災害保険法です。従って,以上の趣旨から労災法も解釈されることになります。尚,保険給付には,現物給付(療養保障給付等)と現金給付(障害補償,休業補償,遺族補償給付等があり,さらに各々年金給付も設けられています。法7条以下)があります。その他政府が行う社会復帰促進等事業(法29条)による給付も備えられています。
「通勤」とは,@就業に関し(業務関連性),Aa住居と就業の場所との往復,b就業の場所から他の就業の場所への移動,c住居と就業の場所との間の往復に先行し,又は後続する住居間の移動を,B合理的な経路・方法によって行うことをいい,C業務の性質を有するものを除き,かつ,D合理的経路から逸脱・中断した場合は,その間およびその後の移動は通勤とならない,とされています(同法7条2項,3項。)。ただし,Dについては,当該逸脱・中断が「日常生活上必要な行為であつて厚生労働省令で定めるものをやむを得ない事由により行うための最小限度のもの」に該当する場合には,当該逸脱・中断の間を除いて,合理的な経路に復した後は通勤となる,とされています(同法7条3項ただし書)。
この通勤の要件を充たせば,通勤災害と認められる訳ですが,このままでは良く分かりませんので,順を追ってご説明したいと思います。
(1) 移動行為が,業務に就くため,または,業務を終えたことにより行われるものである必要があります。
(2)ご相談のケースでは,旦那様は,会社で就業して自宅へ帰宅する目的で会社を出ているのですから要件を満たします。
(1)「住居」(労災保険法7条2項1号,3号)
「住居」とは,労働者が居住して日常生活の用に供している家屋等の場所で,本人の就業のための拠点となるところをいいます。具体例としては,@就業の必要から,労働者が家族の住む場所とは別に就業場所近くに単身でアパートを借りる場合は,自宅とアパートの双方が住居となります。A転勤のため等勤務上の事情や台風など不可抗力による事情により通常の住居以外の場所に寝泊りする場合は,一時的に居住場所を移しているということで,その移した先の場所が住居となります。
友人宅で飲んだ翌朝,その友人宅から直接出勤する場合等は,就業の拠点とはいえませんので,住居と認められません。
(2)「就業の場所」(労災保険法7条2項1号,2号)
「就業の場所」とは,業務を開始し,又は終了する場所をいいます。本来の業務を行う場所はもちろんですが,物品を取引先に届けて直帰する場合の物品の届け先も就業の場所と認められます。
(3)「住居と就業場所との間の往復」(労災保険法7条2項1号)
世間一般でいうところの通勤がこれに該当します。会社・自宅間の往復はまさにこれに当たります。
(4)「就業の場所から他の就業の場所への移動」(労災保険法7条2項2号)
2箇所で働く場合の事業所間の移動のことです。岐阜地判平成17年4月21日労判894号5頁をきっかけに新たに条文に盛り込まれました。
(5)「住居と就業の場所との間の往復に先行し,又は後続する住居間の移動」(労災保険法7条2項3号)
主に,単身赴任者の単身赴任先住居と帰省先住居の間の移動を想定しています。
(6)ご相談のケースでは,3(1)(2)のみの検討で足りますが,特別な事情はないようですので,ご自宅が「住居」,会社が「就業の場所」として問題ないでしょう。
「合理的な経路及び方法」とは,住居と就業場所との間を往復する場合に,一般に労働者が用いるものと認められる経路及び手段をいいます。
(1)合理的な経路
通勤のために通常利用する経路であれば,複数あったとしてもいずれも合理的な経路と認められます。その代替経路や,交通事情により迂回してとる経路も認められます。共稼ぎ労働者が託児所や親戚に預けるためにとる経路も認められており,「特段の合理的事情もなく著しく遠回りとなるような経路」でなければ,合理的経路と認められると考えられています(昭和48年11月22日基発644号)。
(2)合理的な方法
鉄道,バス等の公共交通機関を利用する場合,自動車,自転車等を本来の用法に従って使用する場合,徒歩の場合等,通常用いられる移動方法を労働者が平常用いているか否かにかかわらず,一般的に合理的な方法と認められます。
(3)ご相談のケースでは,まず普段使用していた通勤経路が合理的であったかですが,徒歩での通勤ということなので,通勤方法ついての合理性は問題ないでしょう。
問題となるのは旦那様がお父様の自宅へ介護に立ち寄っている点ですが,この点は,後述する,経路の逸脱・中断があるか否かと関わってきますので,後ほど述べさせていただきます。
「業務の性質を有するもの」とは,1から4までの要件を充たす移動行為であっても,その行為が業務の性質を有するものである場合には,通勤には該当しません。この場合に生じた災害は,「業務災害」(労災保険法7条1項1号)に分類されることになっています。
事業主の提供する専用交通機関を利用する通勤,緊急用務のため休日に予定外の緊急出動をする場合は,業務の性質を有します。
(2)ご相談のケースでは,退社後帰宅途中ということですから「業務の性質を有するもの」とはいえないと判断できます。
(1)逸脱とは,通勤の途中で就業や通勤と関係のない目的で合理的な経路を逸れることをいいます。
中断とは,通勤の経路上で通勤と関係ない行為を行うことをいいます。通勤の途中で映画館に入ったり,恋人と長時間,経路上の公園のベンチで話し込んだりする行為などが該当します。
(2)これら逸脱・中断には例外が存在します。
ア ささいな行為
これについては,その行為をしている間も含めて通勤とすることとされています。例えば,道の近くのトイレを利用する,途中の公園のベンチで小休憩をする,自動販売機でジュースを買って立ち飲みをする,経路上の売店でタバコや雑誌などを購入する,などの行為は,ささいな行為であり逸脱・中断には当たりません(昭和48年11月22日基発644号,平成18年3月31日基発0331042号)。
イ 「日常生活上必要な行為」(労災保険法7条3項ただし書)
日常生活上必要な行為であって,厚生労働省令で定めるものをやむを得ない事由により最小限度の範囲で行う場合には,逸脱又は中断の間を除き,合理的な経路に復した後は再び通勤となると認められます。
ここにいう厚生労働省令とは,労働者災害補償保険法施行規則のことです(以下,労災保険規則という。)。この8条において,日常生活上必要な行為とは,@日用品の購入その他これに準ずる行為,A職業訓練,学校教育法第一条に規定する学校において行われる教育その他これらに準ずる教育訓練であつて職業能力の開発向上に資するものを受ける行為,B選挙権の行使その他これに準ずる行為,C病院又は診療所において診察又は治療を受けることその他これに準ずる行為,D要介護状態にある配偶者,子,父母,配偶者の父母並びに同居し,かつ,扶養している孫,祖父母及び兄弟姉妹の介護(継続的に又は反復して行われるものに限る。)と定められています。
このうち一番問題となるのは,@ですが,具体例としては,日用品の購入のほか,帰途で惣菜等を購入する場合,独身者・単身赴任者が食堂に立ち寄る場合,クリーニング店に立ち寄る場合などが挙げられます(昭和48年11月22日基発644号,平成18年3月31日基発0331042号)。そして,「社会通念上,日常の生活を営むうえで必要な行為であり,かつ,その態様が日用品の購入と同程度と評価できるものをいい,本人又は家族の衣,食,保険,衛生,教養のための行為……等がこれに該当する」(昭和58年8月2日基発420号)と解されています。
また,「最小限度のもの」とは,当該逸脱・中断の原因となった行為の目的達成のために必要とする最小限度の時間,距離等をいうと解されています(昭和48年11月22日基発644号,平成18年3月31日基発0331042号)。したがって,決められた数字がある訳ではありませんので,その行為の内容から最小限度か否かを判断することになるものと思われます。
(3)ご相談のケースでは,行っているのは介護行為です。これは,通勤途中に行う,ささいな行為とはとてもいえませんから,「逸脱」したことになるでしょう。
では,例外事由に該当するか。旦那様から見れば,要介護状態にある配偶者の父の介護です。そして,その介護は週に3〜4日行われていたということですから,反復継続性も認められるでしょう。したがって,労災保険規則8条5号そのものには該当するとみて問題ないでしょう。
次に,やむを得ない事由に行う最小限度のものといえるか。介護が不可欠な症状であること,その介護が,妻であるあなたが介護できない時間帯に夫が介護するというものであること,お父様の症状からして1時間半から2時間の介護においては,介護以外の無駄なことは行っていないと考えられること,
最後に,合理的な経路に復した後といえるか。お父様宅への介護で立ち寄らない日における退勤経路のルート上での事故であるので,合理的な経路に復したといって問題ないと思われます。ただ,退勤経路のルート上の交差点での事故ということなので,事故の場所によっては合理的経路に復したとは認められない可能性もないとはいえません。そうはいっても,交差点上ではあるようですので,何十メートルも離れているということはないでしょうから,合理的経路に復したと見て,問題ないと思われます。
以上から,「通勤災害」と認めて良いと考えます。
最後に,ご相談の事案と類似の事案についての判例がありますのでご紹介します。なお,番号は筆者の振ったものです。
(1)ア「Xの移動は,業務の終了により本件事業場からXの住居へ最終的に向かうために行われたものであり,労災保険法7条2項のいう『就業に関し』(業務関連性)の要件を充たすものと認められる。」
「義父宅への立ち寄り行為は,合理的通勤経路からの逸脱(労災保険法7条3項)としてとらえた上,逸脱後の往復行為として通勤にあたるか否かを検討することが相当であると考えられる」
イ「事業場を離れる当初の時点から合理的通勤経路をそれるというだけで逸脱(労災保険法7条3項)にも該当せず,『就業に関し』という要件を充たさないということは相当ではない。」
(2)ア「義父宅を訪れて介護を行った行為は,通常通勤の途中で行うささいな行為とはいえず,労災保険法7条3項のいう『逸脱』に当たるものと認められる。
そうすると,本件事故が生じた時点におけるXの帰宅行為が同条1項2号の『通勤』に当たると認められるためには,この『逸脱』が同条3項ただし書の要件を充たす必要があることになる。」
イ「Xの義父に対する上記介護は,『労働者本人又はその家族の衣,食,保険,衛生など家庭生活を営むうえでの必要な行為』というべきであるから,労災保険規則8条1号所定の『日用品の購入その他これに準ずる行為』に当たるものと認められ……,労災保険法7条3項ただし書の『日常生活上必要な行為であつて厚生労働省令で定めるもの』を行うためにしたと認められる。」
ウ「Xが……介護のために義父宅に滞在した時間は約1時間40分程度であるし,その間にXが介護以外の行為に時間を割いたことは窺われないのであって,この滞在は介護のためにやむを得ない最小限度のものであったと考えられる。また,この約1時間40分という時間が『日用品購入』のために要する時間に比して特に長時間であるとは認められない。」
(3)ア「合理的な経路とは,事業場と自宅との間を往復する場合に,一般に労働者が用いると認められる経路をいい,必ずしも最短距離の唯一の経路を指すものでないから,この合理的な経路も,一人の労働者にとって一つとは限らず,合理的な経路が複数ある場合には,そのうちのどれかを労働者が選択しようが自由であると解されている。また,徒歩で通勤する場合に,この合理的な経路である限り,労働者が道路のいずれの側を通行するかは問わないと解するのが相当である。……最短距離をもって合理的な経路と定めていないことに照らせば,片側のみをその合理的な経路とし,道路の反対側を通行することが合理的な経路を外れていると解釈することは相当でない。」
イ「本件交差点付近についてみれば,本件交差点より北の南北道路の両側及び本件交差点より西の東西道路の両側と本件交差点全体が合理的な経路と解するのが相当である。」
「Xが本来の合理的な通勤経路に復した後に本件事故が生じたものと認めるのが相当である。」
(4)ア「『日用品の購入その他これに準ずる行為』に該当するか否かは社会常識に照らして判断されるべきであって,たとえ労働者政策審議会の議論を経ていないとしても,時代の変化に応じて,これに該当すると解釈することも許されないわけではない。」
イ「『通勤災害保護制度についての意見書』によれば,高齢化社会を迎えて,在宅介護の要請はますます大きくなっており,通勤災害との関係でも介護等の利益を立法上考慮すべき時期に来ていることが認められるから,たとえ労働政策審議会において介護に関する議論がされていないとしても,介護が『労働者本人又はその家族の衣,食,保険,衛生など家庭生活を営むうえで必要な行為』である場合には,当該行為は『日用品の購入その他これに準ずる行為』に該当すると解するのが相当である。」(国・羽曳野労基署長(通勤災害)事件・大阪高判平成19年4月18日・労判937号14頁)。労災保険法の制度趣旨から当然の解釈となります。
(5)この判例が契機となり,労災保険規則8条が改正され,5号が新設されるに至りました。介護行為の追加です。社会の高齢化が進んでおり,労働者による家族介護が珍しくない時代となってきている中で,判例の結論は支持できますが,適用するのであれば,労災保険規則8条1号の「日用品の購入その他これに準ずる行為」ではなく,4号の「病院又は診療所において診察又は治療を受けることその他これに準ずる行為」の方が介護との類似性も見られるため,妥当ではなかったかと思われます。
第一章 総則
第一条 労働者災害補償保険は,業務上の事由又は通勤による労働者の負傷,疾病,障害,死亡等に対して迅速かつ公正な保護をするため,必要な保険給付を行い,あわせて,業務上の事由又は通勤により負傷し,又は疾病にかかつた労働者の社会復帰の促進,当該労働者及びその遺族の援護,労働者の安全及び衛生の確保等を図り,もつて労働者の福祉の増進に寄与することを目的とする。
第二条 労働者災害補償保険は,政府が,これを管掌する。
第七条 この法律による保険給付は,次に掲げる保険給付とする。
一 労働者の業務上の負傷,疾病,障害又は死亡(以下「業務災害」という。)に関する保険給付
二 労働者の通勤による負傷,疾病,障害又は死亡(以下「通勤災害」という。)に関する保険給付
三 二次健康診断等給付
A 前項第二号の通勤とは,労働者が,就業に関し,次に掲げる移動を,合理的な経路及び方法により行うことをいい,業務の性質を有するものを除くものとする。
一 住居と就業の場所との間の往復
二 厚生労働省令で定める就業の場所から他の就業の場所への移動
三 第一号に掲げる往復に先行し,又は後続する住居間の移動(厚生労働省令で定める要件に該当するものに限る。)
B 労働者が,前項各号に掲げる移動の経路を逸脱し,又は同項各号に掲げる移動を中断した場合においては,当該逸脱又は中断の間及びその後の同項各号に掲げる移動は,第一項第二号の通勤としない。ただし,当該逸脱又は中断が,日常生活上必要な行為であつて厚生労働省令で定めるものをやむを得ない事由により行うための最小限度のものである場合は,当該逸脱又は中断の間を除き,この限りでない。
第三章の二 社会復帰促進等事業
第二十九条 政府は,この保険の適用事業に係る労働者及びその遺族について,社会復帰促進等事業として,次の事業を行うことができる。
一 療養に関する施設及びリハビリテーションに関する施設の設置及び運営その他業務災害及び通勤災害を被つた労働者(次号において「被災労働者」という。)の円滑な社会復帰を促進するために必要な事業
二 被災労働者の療養生活の援護,被災労働者の受ける介護の援護,その遺族の就学の援護,被災労働者及びその遺族が必要とする資金の貸付けによる援護その他被災労働者及びその遺族の援護を図るために必要な事業
三 業務災害の防止に関する活動に対する援助,健康診断に関する施設の設置及び運営その他労働者の安全及び衛生の確保,保険給付の適切な実施の確保並びに賃金の支払の確保を図るために必要な事業
○2 前項各号に掲げる事業の実施に関して必要な基準は,厚生労働省令で定める。
○3 政府は,第一項の社会復帰促進等事業のうち,独立行政法人労働者健康福祉機構法 (平成十四年法律第百七十一号)第十二条第一項 に掲げるものを独立行政法人労働者健康福祉機構に行わせるものとする。
(法第七条第二項第三号の厚生労働省令で定める要件)
第七条 法第七条第二項第三号の厚生労働省令で定める要件は,同号に規定する移動が,次の各号のいずれかに該当する労働者により行われるものであることとする。
一 転任に伴い,当該転任の直前の住居と就業の場所との間を日々往復することが当該往復の距離等を考慮して困難となつたため住居を移転した労働者であつて,次のいずれかに掲げるやむを得ない事情により,当該転任の直前の住居に居住している配偶者(婚姻の届出をしていないが,事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。以下同じ。)と別居することとなつたもの
イ 配偶者が,要介護状態(負傷,疾病又は身体上若しくは精神上の障害により,二週間以上の期間にわたり常時介護を必要とする状態をいう。以下この条及び次条において同じ。)にある労働者又は配偶者の父母又は同居の親族を介護すること。
ロ 配偶者が,学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)第一条に規定する学校,同法第百二十四条に規定する専修学校若しくは同法第百三十四条第一項に規定する各種学校(以下この条において「学校等」という。)に在学し,又は職業能力開発促進法(昭和四十四年法律第六十四号)第十五条の六第三項に規定する公共職業能力開発施設の行う職業訓練(職業能力開発総合大学校において行われるものを含む。以下この条及び次条において「職業訓練」という。)を受けている同居の子(十八歳に達する日以後の最初の三月三十一日までの間にある子に限る。)を養育すること。
ハ 配偶者が,引き続き就業すること。
ニ 配偶者が,労働者又は配偶者の所有に係る住宅を管理するため,引き続き当該住宅に居住すること。
ホ その他配偶者が労働者と同居できないと認められるイからニまでに類する事情
二 転任に伴い,当該転任の直前の住居と就業の場所との間を日々往復することが当該往復の距離等を考慮して困難となつたため住居を移転した労働者であつて,次のいずれかに掲げるやむを得ない事情により,当該転任の直前の住居に居住している子と別居することとなつたもの(配偶者がないものに限る。)
イ 当該子が要介護状態にあり,引き続き当該転任の直前まで日常生活を営んでいた地域において介護を受けなければならないこと。
ロ 当該子(十八歳に達する日以後の最初の三月三十一日までの間にある子に限る。)が学校等に在学し,又は職業訓練を受けていること。
ハ その他当該子が労働者と同居できないと認められるイ又はロに類する事情
三 転任に伴い,当該転任の直前の住居と就業の場所との間を日々往復することが当該往復の距離等を考慮して困難となつたため住居を移転した労働者であつて,次のいずれかに掲げるやむを得ない事情により,当該転任の直前の住居に居住している当該労働者の父母又は親族(要介護状態にあり,かつ,当該労働者が介護していた父母又は親族に限る。)と別居することとなつたもの(配偶者及び子がないものに限る。)
イ 当該父母又は親族が,引き続き当該転任の直前まで日常生活を営んでいた地域において介護を受けなければならないこと。
ロ 当該父母又は親族が労働者と同居できないと認められるイに類する事情
四 その他前三号に類する労働者
(日常生活上必要な行為)
第八条 法第七条第三項の厚生労働省令で定める行為は,次のとおりとする。
一 日用品の購入その他これに準ずる行為
二 職業訓練,学校教育法第一条に規定する学校において行われる教育その他これらに準ずる教育訓練であつて職業能力の開発向上に資するものを受ける行為
三 選挙権の行使その他これに準ずる行為
四 病院又は診療所において診察又は治療を受けることその他これに準ずる行為
五 要介護状態にある配偶者,子,父母,配偶者の父母並びに同居し,かつ,扶養している孫,祖父母及び兄弟姉妹の介護(継続的に又は反復して行われるものに限る。)