債権者が時効援用を記載した書面を受け取らない場合
民事|時効援用の方法|最高裁平成10年6月11日判決|最高裁昭和36年4月20日判決
目次
質問:
15年前に、知人から300万円を借り分割で返済し、債務は残り200万円となりました。最近になって、この知人から、一括で返済するよう手紙が来ました。返済に使用していた預金口座の通帳の記録を調べてみたところ、最後の返済は10年前でした。借りたことは間違いないのですが、その知人とは感情的なこともあり、また私に金銭的余裕もないことから一括で返済はできない状況です。困っていたところ、一般的な債権の消滅時効は10年だと聞きました。そこで、消滅時効の援用をする旨の配達証明付き内容証明郵便を知人に対し送付しました。しかし、保管期間経過という理由で、返送されて戻って来てしまいました。再度、配達証明付きの内容証明郵便を送付しましたが、やはり戻って来てしまいました。証拠保全のため、さらに内容証明郵便のほか、その写しを普通郵便で送りましたが、内容証明郵便は又戻ってきました。このような場合、消滅時効の援用ができていないということで、債務は消滅していないということになってしまうのでしょうか?このままにしておいて良いのでしょうか。
回答:
1.民法167条は「債権は、10年間行使しないときは、消滅する。」と規定していますが、民法145条では時効は当事者が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判することできないとしています。そこで、債務者としては、時効は、時効期間が満了しただけで自動的に認められるものではなく、自ら時効の利益を受ける旨の意思表示、すなわち時効の援用をする必要があります。この時効の援用は、裁判上はもちろんのこと、裁判外で行っても、口頭で行っても良いものとされていますが、後の証拠を残しておくという観点から、時効の援用は、配達証明付き内容証明郵便にて行われるのが一般的です。
2.書面による意思表示の到達については、書面が相手方の了知可能な状態に置かれれば認められる(民法97条1項)とされ、これが認められるためには、①受取人が郵便物の内容を推知できること、②郵便物が容易に受領可能であること、の二つの要件を充たすことが必要であるとされています(最一小判平成10年6月11日民集52巻4号1034頁)。
3.本件においては、上記要件を充たすものと一応考えられるものの、確実性を求めるという観点からは、債務不存在確認訴訟を行うというのも方法論として一つとしてあげることができるでしょう。
4.時効援用に関する関連事例集参照。
解説:
1、時効援用の意義と法的性格
時効の援用とは、時効によって利益を受けるものが、その利益を受けるという意思表示をいいます(民法145条)。時効の制度趣旨は、いろいろな学説がありますが、一般的に①長期間続いた事実関係を法的に保護し法律関係の安定を維持するため、②長期間行使されない権利は法律上保護する必要がないということや(権利の上に眠るものは保護されない)、③期間の経過により証拠が無くなってしまう可能性があるのでむしろ真の権利者の利益より債務者(消滅時効)を保護する必要がある(例えば弁済の領収書の紛失)、又外形上の権利者を真の権利者と認める必要(取得時効)があるとされています。これらの理由を折衷的にも考えられています。
一般の人から見ると権利があるのに期間の経過により消滅してしまうのはおかしいと思うかも知れませんが、私的紛争解決の理想は、単に権利があるかどうかということだけでなく、当事者に公平にそして、迅速、低廉に行い公正な法社会秩序を維持することであり(民法1条、民訴2条)、時効制度は私的紛争解決にとって必要不可欠なものです。しかし、外形上の権利を保護する規定ですので、真実の権利関係に従い、時効の利益を受けないという意思も尊重する必要から、時効期間完成の他、時効の利益を受けるという意思表示、すなわち援用が必要となります。これが時効の援用です。
次に、民法145条の規定する時効援用の法的性格は何かという問題がまずあります。従来の判例(大審院大正8年7月4日判決、後記参照)は、文言上「裁判所がこれによって裁判をすることができない」と規定しているので、大正時代の当時、時効援用は訴訟法上の単なる攻撃防御方法の主張であると考えられました。攻撃防御方法の主張ですから時効の期間満了により権利変動はすでに生じ、実体法上権利関係は確定し、援用という行為は訴訟上の時効完成という事実の主張となります。すなわち、実体的な権利変動とは無関係な訴訟法上の主張の手段にすぎないということです。訴訟法上の時効の援用は攻撃防御方法ですから、訴訟法上撤回も自由です。又、必ず裁判上で主張することになります。
しかし、時効の援用は、時効の利益を受けるという意思表示により時効期間経過によって権利が変動したという効果を確定的にする意思表示と考えるべきです。なぜなら、時効の利益を受ける者の意思を尊重する以上、権利変動にも援用者の意思により効果を及ぼすとするのが理論的だからです。時効期間が経過しても、両当事者が時効の効力を希望しない場合にまで時効の効力を及ぼすのは私的自治に反するともいえますし、訴訟法上の攻撃防御方法に関する規定が実体法である民法典に規定されるのは不自然とも考えられます。そこで、裁判所も、時効期間の経過により、時効援用を停止条件として権利変動の効力を生ずるという、いわゆる不確定効果説を採用するに至りました(最高裁判所昭和61年3月17日判決)。従って、時効援用は、裁判外でもできますし、訴訟上主張された時効援用の権利確定という法的効果を後に撤回することはできません。以上の理論を前提に本件を考えます。
(1)時効援用の方法
あなたの仰るとおり、債権は、10年間行使しないときは、消滅する、と定められています(民法167条1項)。そして、消滅時効は、権利を行使することができる時から進行する、と定められています(166条1項)。
本件では、最初の5年間ほどは返済を重ねており、これは債務の一部弁済として、時効中断事由たる「承認」(147条3号)に当たりますので、返済ごとに消滅時効は中断していることになります。しかし、最後の返済から10年を経過しているようですので、消滅時効の援用をなしうる状況にあると思われます。時効の援用とは、時効の利益を享受する旨の意思表示であり、時効は、当事者が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない、と定められています(145条)。
時効の援用は、裁判上行うことはもちろんのこと、裁判外で行っても、また口頭で行うことでも認められるとされているものなのですが、証拠として残しておいたほうが良いと考えられることから、時効の援用は、一般的に配達証明付きの内容証明郵便にて行われています。
なお、取得時効(162条以下)に関するものではありますが、援用は裁判上でも裁判外でも良いとした判例がありますので、その要旨をご紹介しておきます。
「少クトモ取得時效ニ付テハ直接時效ノ利益ヲ享クル者ハ裁判上タルト裁判外タルトヲ問ワス何時ニテモ之カ援用ヲ爲スヲ得ヘク一旦其ノ援用アリタル時ハ茲ニ時效ニヨル權利ノ取得ハ確定不動ノモノトナリ爾後ハ契約其ノ他ノ法律事實ト同ク何人ト雖訴訟ニ於テ之カ主張ヲ爲シ得ルモノト解セサルヘカラス」(大判昭和10年12月24日大民集14巻2096頁)。
(2)時効援用の時期
時効期間が満了していれば、基本的に時効の援用はいつでもなし得ます。
ただ、訴訟となった場合は、その訴訟における事実審の口頭弁論終結時までに援用をしなければならないとされています。民事訴訟においては、事実認定を行い、これに法を適用して判断を行う事実審は、第二審までとされていますので(民事訴訟法312条、318条参照。)、時効の援用も、この第二審の口頭弁論終結時までにしなければなりません。なぜ口頭弁論終結時までなのか、というと、終局判決が事実審の口頭弁論終結時までに提出された資料を基礎としてなされるからです。この点について判断した判例がありますので、その要旨を以下にご紹介しておきます。
「時效ノ援用ハ訴訟當事者ノ攻撃防禦ノ方法タル訴訟行爲ノ一種ニ屬シ下級審ニ於テ之ヲ爲スヘキモノニシテ法律適用ノ當否ヲ審査スル上告審ニ於テ之ヲ爲スヘキモノニ非ス本論旨ハ上告審ニ於テ時效ヲ援用シ得ルコトヲ以テ立論ノ根據ト爲スモノナレハ全然失當タルヲ免レス」(大判大正12年3月26日大民集2巻182頁)。
この判例は、援用を単なる攻撃防御方法と考えると、単なる攻撃防御方法の提出は、事実審である口頭弁論終了時まで提出することになりますので当然の帰結です。
2、具体的な時効援用の方法
(1)時効期間満了後
以上ご説明させていただいたとおり、時効の援用は裁判上でも裁判外でもすることができ、裁判上であれば事実審の口頭弁論終結時までに時効の援用を行えば良いのですが、時効期間満了後、時効援用をするまでの間に、債務の承認を行ってしまっていると、再度の時効期間が経過するまでは時効の援用ができなくなってしまいます(法律相談事例集1082番参照)。
特に債権者が貸金業者である場合は、このことを良く分かっていることもあり、時効期間が明らかに経過している債権であっても、何食わぬ顔で請求をし、債務者に債務の承認をさせ、時効援用権の喪失を画策します。
この債務承認に当たり得る事情が存在するのか否かにつき、伺った内容からは判断ができませんが、いくら時効期間満了後すぐに時効援用をする必要がないといっても、援用権を失ってしまう恐れを抱えたままでいるのは、時効援用による債務の消滅の利益を受けたいと思われるのであれば良い状態だとはいえませんので、援用が早いに越したことはないでしょう。そして、そこはやはり、証拠として残るようにしておくことがより望ましいと言えます。これらの観点からすれば、配達証明付きの内容証明郵便にて時効の援用を行なったことは非常に有意義だと言えます。
そこで、本件配達証明付き内容証明郵便と普通郵便とで行った時効の援用に、その効果が認められるのかを見ていくことにします。
(2)内容証明郵便
その前提として、内容証明郵便について簡単にお話しておきたいと思います。
ア 内容証明郵便とは、読んで字の如く、内容を証明する郵便のことです。郵便法48条1項には、内容証明の取扱いにおいては、会社において、当該郵便物の内容である文書の内容を証明する、と定められています。ここでいう会社というのは、郵便事業株式会社のこといいます。簡単に言い換えれば、郵便局(郵便事業株式会社)が書面に書いてある内容を証明してくれるということです。
ただ、その証明とは、書面にどのようなことが記載されていたかを証明してくれるということであって、その内容の真実性については証明してはもらえません。また、内容証明郵便においては、文書の差出日の証明はしてもらえても、配達されたことの証明まではしてもらえませんので(郵便法48条2項、58条1号)、配達されたことの証明までしてもらうには、別途、配達証明郵便とする旨の依頼をする必要があります。
イ 配達証明郵便とは、これも読んで字の如く、配達を証明する郵便のことです。郵便法47条には、配達証明の取扱いにおいては、会社において、当該郵便物を配達し、又は交付した事実を証明する、と定められています。この配達証明郵便送付により、相手方は「そんな手紙は受け取っていません」などとシラを切ることはできなくなります。
なお、配達証明は、特定記録や簡易書留には付けることはできず、一般書留による場合にのみ付けることができます(内国郵便約款117条2項)。内容証明郵便は、必ず一般書留となりますので、この点、問題なく配達証明を付けることができます(同約款121条3項)。また、差出時に配達証明も付ける旨の依頼をするのが通常だとは思いますが、差出後であっても、その1年以内であれば、配達証明とすることができるとされています(同約款119条1項)。
3、内容証明郵便が戻ってきたとき
(1)意思表示の到達主義
本件のように時効の援用を内容証明郵便で行ったにもかかわらず、相手方が不在で、これが戻って来てしまった場合は、援用としての効力は認められないのでしょうか。
隔地者に対する意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる、と定められています(到達主義、97条1項)。どういう状況になれば97条1項のいう「到達」として認められるのかについては、以下のような判例があります。
「隔地者間の意思表示に準ずべき右催告は民法九七条によりD会社に到達することによつてその効力を生ずべき筋合のものであり、ここに到達とは右会社の代表取締役であつたBないしは同人から受領の権限を付与されていた者によつて受領され或は了知されることを要するの謂ではなく、それらの者にとつて了知可能の状態におかれたことを意味するものと解すべく、換言すれば意思表示の書面がそれらの者のいわゆる勢力範囲(支配圏)内におかれることを以て足るものと解すべきところ……、前示原判決の確定した事実によれば、D会社の事務室においてその代表取締役であつたBの娘であるCに手交され且つ同人においてAの持参した送達簿にBの机の上に在つた同人の印を押して受取り、これを右机の抽斗に入れておいたというのであるから、この事態の推移にかんがみれば、Cはたまたま右事務室に居合わせた者で、右催告書を受領する権限もなく、その内容も知らず且つD会社の社員らに何ら告げることがなかつたとしても、右催告書はBの勢力範囲に入つたもの、すなわち同人の了知可能の状態におかれたものと認めていささかも妨げなく、従つてこのような場合こそは民法九七条にいう到達があつたものと解するを相当とする。」(最一小判昭和36年4月20日民集15巻4号774頁)。
つまり、到達とは、相手方によって直接受領されたり、了知、つまり意思表示が記載された書面の中身を見るということまでは必要ではなく、その書面が相手方のいわゆる支配圏(相手方の了知可能な状態)に置かれれば認められるのだということです。
そうすると、3度目の内容証明郵便とともに送った普通郵便については、これが確かに知人宅の郵便受けに投函されているということであれば、支配圏に入ったといえるでしょうから、消滅時効の援用が認められるものと言って差し支えないと思われます。
(2)配達証明付き内容証明郵便が相手方不在で戻ってきた場合の処理
ア ただ、債権者たる知人が、普通郵便が本当は届いているのに、その到達を認めず、返済を迫って来るかもしれません。日本の郵便事情を考えれば可能性は低いのかもしれませんが、もしかしたら郵便事故があって本当に届いていないこともあり得ます。普通郵便では郵便が確かに届いたのだということを証明することは難しいと思いますので、ここはやはり配達証明付きの内容証明郵便の到達によって、消滅時効の援用の意思表示なされていることを証明できるようにしておきたい、ということになります。
では、配達証明付き内容証明郵便が相手方不在により戻って来てしまった場合にも、これが到達したと認めることができるのでしょうか。内容証明郵便が不在で返送されたケースについて、以下の判例があります。
「隔地者に対する意思表示は、相手方に到達することによってその効力を生ずるものであるところ(民法97条1項)、右にいう「到達」とは、意思表示を記載した書面が相手方によって直接受領され、又は了知されることを要するものではなく、これが相手方の了知可能な状態に置かれることをもって足りるものと解される……。
……本件当時における郵便実務の取扱いは、(1)内容証明郵便の受取人が不在で配達できなかった場合には、不在配達通知書を作成し、郵便受箱、郵便差出口その他適宜の箇所に差し入れる、(2)不在配達通知書には、郵便物の差出人名、配達日時、留置期限、郵便物の種類(普通、速達、現金書留、その他の書留等)等を記入する、(3)受取人としては、自ら郵便局に赴いて受領するほか、配達希望日、配達場所(自宅、近所、勤務先等)を指定するなど、郵便物の受取方法を選択し得る、(4)原則として、最初の配達の日から七日以内に配達も交付もできないものは、その期間経過後に差出人に還付する、というものであった(郵便規則74条、90条、平成六年三月一四日郵便業第一九号郵務局長通達「集配郵便局郵便取扱手続の制定について」別冊・集配郵便局郵便取扱手続二七二条参照)。(筆者注、郵便規則は廃止され、現在では内国郵便約款がこれに代わるものとなっています。現在の受取人不在の際の取り扱いに関する規定については、左記約款の89条をご参照ください)。
……Yは、不在配達通知書の記載により、B弁護士から書留郵便(本件内容証明郵便)が送付されたことを知り……、その内容が本件遺産分割に関するものではないかと推測していたというのであり、さらに、この間弁護士を訪れて遺留分減殺について説明を受けていた等の事情が存することを考慮すると、Yとしては、本件内容証明郵便の内容が遺留分減殺の意思表示又は少なくともこれを含む遺産分割協議の申入れであることを十分に推知することができたというべきである。また、Yは本件当時、長期間の不在、その他の郵便物を受領し得ない客観的状況にあったものではなく、その主張するように仕事で多忙であったとしても、受領の意思があれば、郵便物の受取方法を指定することによって……、さしたる労力、困難を伴うことなく本件内容証明郵便の内容である遺留分減殺の意思表示は、社会通念上、Yの了知可能な状態に置かれ、遅くとも留置期間が満了した時点でYに到達したものと認めるのが相当である。」(最一小判平成10年6月11日民集52巻4号1034頁)。
イ(1)において隔地者に対する意思表示に到達としての効力が認められるためには、書面が相手方の了知可能な状態に置かれれば良いということをご説明しましたが、そのための要件として、この判例は、①受取人が郵便物の内容を推知できること、②郵便物が容易に受領可能であること、が必要であるとしたということです。
本件について見てみると、②については、配達場所を自宅、近所、勤務先などに指定することが認められており、配達を希望する日にち・時間帯まで指定することが認められている現在においては、余程の事情がない限り認められるでしょう。
また本件においては、①についても認められるといっても良いものと思われます。差出人と受取人とは債権者と債務者の関係であり、本件内容証明郵便を送付する前にはその債権者である知人から支払いの督促の手紙が届いています。そして債務者であるあなたから内容証明郵便が3度差し出され、3度目については普通郵便の書面も併せて送付されている状況です。自分の出した支払い督促の手紙を受けてのものであり、「時間もかなり経っているし」などと、かなりの時間が経過していることを認める記述があること、支払い督促の手紙を送った相手方から何度も書面が送られて来ていることから、時効援用の書面であるとの推知は可能ではないかと思われます。
ウ なお、本判決は、「遅くとも留置期間が満了した時点で…到達したものと認めるのが相当である。」として意思表示の到達時期についての明言をしていない点は注意を要します。
(3)判例紹介
内容証明の受取拒否があった事案については、次の判例があります。
※東京地方裁判所平成10年12月25日判決抜粋
「前記のような時効制度の趣旨を前提として考えると、原告は、前後四回にわたって被告らに対し、その自宅あるいは事務所宛に催告の趣旨を記載した内容証明郵便ないし普通郵便を送付しており、債権者としてなし得る限りのことをしているのであって、権利の上に眠る者とは到底いえないし、他方、右催告が被告らに到達しなかった原因はもっぱら、債権者からの追求を免れるために送付書類の受領を拒否する態度に出た被告側にあるのであるから、右送付に催告の効果を認めなければ、結局債権者には時効中断のためにとりうる手段がないことになり、著しく不当な結果となる。
そうすると、いずれにしても、本件の催告は、被告Wの事務所に郵便局員が内容証明郵便を配達し、同事務所の事務員がその受領を拒絶した平成一〇年三月二七日をもって被告Wに到達したものとみなし、催告の効果を認めるのが、時効制度の趣旨及び公平の理念に照らし、相当であるというべきである。」
時効中断の効力を有する催告の意思表示に関する事案で、受領拒否があった時点で到達を認め、催告の法的効果を認めると判断しています。
4、まとめ
以上見てきたように、本件においては、時効の援用がなされたものと認められそうです。ただ、前述の3(2)イにおいて示した①からも分かるとおり、具体的事案における個別的な判断を要する要件があることから、似たような事案においても結論が異なる可能性があります。
さらに、2(1)で述べたとおり、時効の援用権の否定を狙う債権者がしつこく請求をして来るというケースもありますので注意が必要です。
また、本件においては、一応、時効援用の書面が到達しているとの判断をしていますが、確実性を求めるということであれば、債務不存在確認訴訟を提起することも選択肢の一つとして考えても良いでしょう。
このように慎重に事を進めた方が良い点もありますので、一度お近くの法律事務所へご相談なさってみることをお勧めします。
以上