新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1373、2012/11/15 11:08 https://www.shinginza.com/idoushin.htm

【刑事・他人の刑事記録の閲覧・謄写方法】

質問:私は,麻酔科医をしていましたが,手術で用いる麻薬を私的に流用したということで麻薬及び向精神薬取締法違反の罪で服役中です。先日,厚生労働省から、あなたの医師免許の扱いを判断するため,あなたが犯した刑事事件について事案を報告して欲しいという内容の通知が来ました。私の医師免許はやはり取り消されてしまうのでしょうか。医師仲間のAさんから,やはり医師で,麻薬及び向精神薬取締法違反ということで医道審議会で審議にかけられたものの,免許の取り消しは免れたBさんという人がいるという話を聞きました。Bさんの事案はどのようなものだったのでしょうか。Bさんの事案を知るため,Bさんの刑事記録を読んでみたり,写しを手に入れたりすることはできますか。

回答:
1 あなたの犯した犯罪の内容や,執行猶予がなく服役しているということから,医師免許の取消の可能性が高いと言えます。
2 ただし,同様の犯罪で医師免許取り消しとならなかった例があるのであれば,その点調べ,医道審議会においてその点を主張することは必要不可欠です。
3 確定した刑事事件の記録の閲覧については刑事訴訟法53条,刑事確定訴訟記録法に定めがあり,原則として閲覧することは可能です。ただ例外的に閲覧が禁止されていることもあります。
4 具体的には,刑事事件の判決を言い渡した裁判所の管轄内の検察庁が刑事記録を保管していますので,どこの裁判所が判決したのか,被告人の氏名(できれば生年月日),罪名,判決があった年月日等を特定し,閲覧の理由を記載した書面を作成して検察庁に出向くことになります。なお,謄写については原則としてできないと考えておいた方が良いでしょう。
5 なお,現実問題として,あなた自身がBさんの刑事記録の写しを読んだり,手に入れたりすることは難しいといえますから,弁護士に依頼したほうが良いでしょう。但し,弁護士に記録の閲覧,謄写だけを依頼することはできません。弁護人を頼むときは,医道審議会における弁護活動も依頼することが必要ですので,注意してください。
6 刑事記録の閲覧・謄写について参考となる当事務所事例集として1306番914番894番874番参照。

解説:
1 刑事記録の閲覧の制度の概要
 1)刑事訴訟法上の扱い
   刑事訴訟法は,53条第1項本文において「何人も,被告事件の終結後,訴訟記録を閲覧することができる。」と定めています。ここで「被告事件の終結後」とは,被告事件に対する裁判が確定した後をいいます(上訴期間が経過したことにより裁判が確定します)。
   Bさんの事案については,既に医道審議会での審議がなされているということですが,医道審議会での審議は,刑事事件の裁判が確定後におこなわれますから裁判は既に確定していると考えられます(医道審議会の手続の流れについては,当事務所のWEBページをご参照ください。→https://www.shinginza.com/idoushin.htm)。「被告事件の終結後」にあたることになります。

   次に「訴訟記録」とは,公訴提起後被告事件が確定するまでの間に,裁判所が事件記録として編綴した訴訟に関する書類一切をいいます。起訴状,裁判書,当事者の各種申立書,公判調書,証拠書類,送達報告書,身柄関係書類などが一般といえます。しかし,捜査段階で作成された書面でも検察官が公判廷で利用しなかったり裁判所に提出しなかった書類は,本条にいう訴訟記録には含まれません。本件であなたはBさんの事案を知りたがっているわけですが,事案の概要を知るだけであれば起訴状と裁判書を閲覧できれば十分です。起訴状も裁判書も「訴訟記録」にあたることに問題はありません。

   最後に「閲覧」とは,利用者が資料を所定の場所の外に持ち出さずに見ることをいい,謄写を含まない概念です。なお,「謄写」とは,司法の世界においては,コピーのことを指しますが,コピーに類する場合(例えば,目的書類をデジタルカメラで撮影したり,パソコンで一言一句同じように記録したりすること)も「謄写」と扱われます。閲覧の際にデジカメで写真を撮るようなことはしてはいけません。
   このように刑事訴訟法53条1項の要件を満たしており,刑事訴訟法しかも条文上は「何人も」とあるのですから,あなたもAさんの刑事記録を少なくとも「閲覧」できるように思えます。

 2)刑事確定訴訟記録法上の扱い
   もっとも,現実は当然には,閲覧できる仕組みにはなっておりません。刑事訴訟法53条1項但し書きが「訴訟記録の保存又は裁判所若しくは検察庁の事務に支障があるときは,この限りではない。」と定め,閲覧請求の方法を定めた刑事確定記録訴訟法も多くの例外を設けているからです。刑事確定記録訴訟法4条2項において,6つの例外を定めています。
   具体的には,第1号「保管記録が弁論の公開を禁止した事件のものであるとき」,第2号「保管記録に係る被告事件が終結した後3年を経過したとき」,第3号「保管記録を閲覧させることが公の秩序又は善良の風俗を害することとなるおそれがあると認められるとき」,第4号「保管記録を閲覧させることが犯人の改善及び更生を著しく妨げることとなるおそれがあると認められるとき」,第5号「保管記録を閲覧させることが関係人の名誉又は生活の平穏を著しく害することとなるおそれがあると認められるとき」,第6号「保管記録を閲覧させることが裁判員,補充裁判員,選任予定裁判員又は裁判員候補者の個人を特定させることとなるおそれがあると認められるとき」です。

   本件では,Bさんの事件の裁判がいつ終わったのかはっきりしませんので,第2号にあたる可能性があります。ただ,刑事確定記録訴訟法第4条第2項は,柱書きにおいて,「第2号の場合にあっては,終局裁判の裁判書を除く。」としていますから,あなたが裁判書だけを閲覧する場合には,第2号の例外にはあたりません。もっとも,実務上は,Bさんの前科を公開することになりかねないとして,第4号,第5号にあたるとして閲覧を拒否されることが多いとされています。ですから,本件でも,あなたは,第4号,第5号の例外にあたるとして,Bさんの刑事記録の閲覧が認められない可能性が高いといえます。
   なお,同法第4条第2項柱書き但し書きには,「訴訟関係人又は閲覧につき正当な理由があると認められる者から閲覧の請求があつた場合については,この限りでない。」として,閲覧の例外の更なる例外が定められていることが分かります。Bさんの刑事記録の閲覧が,第4号,第5号の例外にあたると指摘された場合には,Bさんの刑事記録の閲覧が「正当な理由」に基づくものであることを説明することで,Bさんの刑事記録の閲覧が認められる場合があります。一般的には,他人の刑事記録の閲覧には「正当な理由」はないと扱われているようです。したがって,それでも「正当な理由」があることを「上申書」という形で書面で説明することになるのが通常です。なお,「正当な理由」があると判断されても,被害者の個人情報については黒塗りされて閲覧されることが多いと思われます。

   閲覧する際にどの程度のメモが認められるかについても,検察庁ごとに差異があるようです。ある検察庁では鉛筆でのメモのみが認められることもあれば,別の検察庁ではパソコンでのメモまで認められることもあります。このあたりは,統一的な運用が求められるところです。

2 刑事記録の謄写の制度の概要
  法律上は,閲覧のみが認められ,謄写については定めがありません。しかし,法務省の記録事務規程第16条第1項には,「保管検察官は,保管記録又は再審保存記録の閲覧を許す場合には,その謄写を許すことができる。」と書かれており,記録の保管を担当する検察官の裁量により,謄写が許されることがあります。
  この点について,法規上は保管検察官の刑事記録の閲覧の裁量について何らの規定も置いていないため,検察官の謄写についての拒否判断の裁量は広いものと考えられます。実務上は,自分の刑事事件記録の謄写については,本人又は弁護人については,一部黒塗りなどをすることはあるにせよ広く認めており,他人の刑事事件記録の謄写については認めない傾向にあるようです。もっとも,この運用は,検察庁ごとに差異があるようで,同様の事案なのに,ある検察庁では謄写が認められないのに,別の検察庁では謄写が認められることもあります。このあたりも,統一的な運用が求められるところです。

3 情報公開法について
  刑事訴訟法53条の2は,訴訟に関する書類を情報公開法の適用除外と定めていますので,同法によって刑事記録の開示を求めることはできません。

4 具体的な刑事記録の閲覧・謄写手続
  では,本件では,実際にはどのようにして刑事記録の閲覧,謄写をすることができるのでしょうか。以下,手順の一例を説明いたします。

 1)AさんからBさんの事件について話を聞く
   刑事確定訴訟記録法第2条第1項には,「刑事被告事件に係る訴訟の記録は,訴訟終結後は,当該被告事件について第一審の裁判をした裁判所に対応する検察庁の検察官が保管するものとする」旨の記載があります。したがって,刑事訴訟記録の閲覧をするには,最低限当該被告事件について第一審の裁判をした裁判所を特定することは不可欠です。   本件では,あなたはBさんの事件について,詳しい事情は知らないようですから,Bさんの事件の裁判がどこで行われたのかも知らないかもしれません。AさんがBさんの事件について知っているようですから,まずはAさんに聞いて,Bさんの事件の裁判はどこで行われたのかを確認する必要があります。

 2)検察庁に記録の保管状況を確認する
   Aさんに聞いたところ,Bさんの事件は○○地方裁判所で判決が出されていることが分かったとします。次は,○○検察庁に記録の保管状況を確認する必要あります。
   ○○検察庁の記録係という部署があると思いますから,その部署の担当の方に電話をするなどして記録の保管状況を確認します。その際,担当の方は,「検番は何番ですか」と質問をしてくると思います。検番とは,起訴状などに印字されている事件番号(例えば,「平成24年検1012番」などを言います)のことです。検察庁は,検番で事件を特定しています。ここで,検番をあなたが知っている場合には,検番を伝えれば記録があるか教えてもらえます。

   問題は,検番をあなたが知らない場合です。検察庁は,事件を全てデーターベースで管理していますから,検番を知らなくても,記録係の方で検番を調べることができます。ただ,その際には,最低限,@被告人名(漢字表記を含む)とA生年月日,を特定することを要求されます。これらが分からない場合には,刑事記録を特定しようがないとして,記録の保管状況を教えてもらえないことが多いようです。もっとも,検察庁によっては,被告人名と罪名,裁判日時などが分かれば,検番を調べてくれるところもあります。このあたりも検察庁によって扱いに差異があるところで,統一的な運用が求められるところです。しかし,統一的な運用がないということは,検番が不明の場合は絶対に閲覧できないということではないのですから,被告人氏名,罪名を明らかにしても閲覧を拒否される場合は,記録の閲覧の必要性を説明して担当者と交渉すれば,閲覧できることも考えらます。

 3)検察庁で閲覧謄写請求書を作成する
   刑事記録が当該検察庁に保管されていることが確認されれば,当該検察庁に対して閲覧謄写請求をすることになります。具体的には,閲覧請求書,謄写請求書という書式を渡されますので,必要事項を記載して提出すれば足ります。

 4)上申書を作成する
   本件では,他人であるBさんの刑事記録の閲覧・謄写をあなたは求めていますので,これだけではBさんの刑事記録の閲覧,謄写は認められないのが通常です。この刑事記録の閲覧があなたにとって必要であり,閲覧しても弊害が生じないことについての,上申書を作成して提出する必要があります。もっとも,検察庁によっては,口頭の説明だけでも「正当な理由」があると判断してもらえる場合があり,この場合にはわざわざ上申書を作成する必要はありません。

 5)上申書を提出して閲覧・謄写の許可をもらう
   閲覧請求書,謄写請求書を提出すると,その書面は決済に回されます。決済の結果については,後日書面や電話で通知されることが通常だと思われます。

 6)許可が出たら閲覧手数料を支払う
   閲覧と謄写の許可が出たとします。では,閲覧と謄写は無料なのでしょうか。
   刑事訴訟法第53条第4項には,「訴訟記録の保管及びその閲覧の手数料については,別に法律でこれを定める。」と規定され,刑事確定訴訟記録法第7条には,「保管記録又は再審保存記録を閲覧する者は,実費を勘案して政令で定める額の手数料を納付しなければならない。」と規定されております。そして,刑事確定訴訟記録閲覧手数料令において,「刑事確定訴訟記録法第7条に規定する政令で定める手数料の額は,記録1件につき1回150円とする。」との規定があります。
   本件でも,Bさんの刑事記録1件を閲覧したいわけですから,150円を支払う必要があります。なお,150円については,収入印紙で支払うことを要求されます(刑事記録2件の閲覧を求める場合には,300円の収入印紙ではなく,150円の収入印紙2件が要求されます)。謄写についての規定はありませんので,金員の支払は要求されません(コピーの費用は別です)。

 7)刑事記録を謄写する
   さて,謄写とはコピーのことだと説明しましたが,検察庁が遠い場所に所在していたり,検察庁内にコピー機がないと言われたりした場合にはどうしたらよいでしょうか。   謄写が許されているのであれば,コピー機を持ちこむことも可能です。また,当該地区の弁護士会内の組合が謄写・郵送費用を支払うことで謄写手続を代行してもらえる場合がありますので,当該地区の弁護士会に問い合わせてみるとよいでしょう。

5 最後に
  どうしても刑事記録の閲覧ができない時は,例外的な方法ですが,Bさんの所在を調べて,個人的に,Bさんに対して事案内容を問い合わせて協力を求める,という方法もあるかもしれません。Bさんに断られたら仕方がありませんが,自分自身が困っていてどうしても,弁明手続きで比較検証して主張したい旨をお願いするのです。代理人の弁護士さんに依頼してもらう方法もあるでしょう。過去に同じような境遇におかれた経験があるということで,Bさんからの協力が得られるかもしれません。
  刑事記録そのものが閲覧できなくても,過去の新聞記事検索などで事案の概要が判明することもあります。あきらめずに調査してみると良いでしょう。医道審議会の処分発表記事だけでも,罪名と処分内容は分かりますので,それだけでも比較検討できます。
  類似事例の記録が取得できたり,概要が判明したとしても,これを弁明聴取手続きで有効に主張するには,法的な検討と主張が必要不可欠です。関係する法令の法律要件と法律効果の検討と,事案分析と,これに対するあてはめが重要です。行政行為の平等原則についても,詳細な論述が必要でしょう。極端に言えば,医師免許取消処分という行政処分の取消訴訟(行政訴訟)における訴状や準備書面を書く能力が求められます。これらの法律的主張を行うには弁護士との協議や依頼が必須になりますので,お近くの法律事務所にご相談なさることをお勧めいたします。

【参照条文】

<刑事訴訟法>
第53条  何人も,被告事件の終結後,訴訟記録を閲覧することができる。但し,訴訟記録の保存又は裁判所若しくは検察庁の事務に支障のあるときは,この限りでない。
 2 ,3(略)
 4  訴訟記録の保管及びその閲覧の手数料については,別に法律でこれを定める。
第53条の2  訴訟に関する書類及び押収物については,行政機関の保有する情報の公開に関する法律 (平成十一年法律第四十二号)及び独立行政法人等の保有する情報の公
 開に関する法律 (平成十三年法律第百四十号)の規定は,適用しない。
 2,3,4  (略)

<刑事確定訴訟記録法>
(訴訟の記録の保管)
第2条 刑事被告事件に係る訴訟の記録(犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律(平成12年法律第75号)第14条第1項に規定する和解記録については,その謄本)は,訴訟終結後は,当該被告事件について第一審の裁判をした裁判所に対応する検察庁の検察官(以下「保管検察官」という。)が保管するものとする。
 2,3(略) 
(保管記録の閲覧)
第4条 保管検察官は,請求があつたときは,保管記録(刑事訴訟法第53条第1項の訴訟記録に限る。次項において同じ。)を閲覧させなければならない。ただし,同条第1項ただし書に規定する事由がある場合は,この限りでない。
 2 保管検察官は,保管記録が刑事訴訟法第53条第3項に規定する事件のものである場合を除き,次に掲げる場合には,保管記録(第2号の場合にあつては,終局裁判の裁判書を除く。)を閲覧させないものとする。ただし,訴訟関係人又は閲覧につき正当な理由があると認められる者から閲覧の請求があつた場合については,この限りでない。
  1.保管記録が弁論の公開を禁止した事件のものであるとき。
  2.保管記録に係る被告事件が終結した後3年を経過したとき。
  3.保管記録を閲覧させることが公の秩序又は善良の風俗を害することとなるおそれ
   があると認められるとき。
  4.保管記録を閲覧させることが犯人の改善及び更生を著しく妨げることとなるおそ
   れがあると認められるとき。
  5.保管記録を閲覧させることが関係人の名誉又は生活の平穏を著しく害することと
   なるおそれがあると認められるとき。
  6.保管記録を閲覧させることが裁判員,補充裁判員,選任予定裁判員又は裁判員候補者の個人を特定させることとなるおそれがあると認められるとき。
 3,4 (略)

<記録事務規程(法務省訓令)>
(謄写)
第 16条 保管検察官は,保管記録又は再審保存記録の閲覧を許す場合には,その謄写を
 許すことができる。
 2  保管記録又は再審保存記録の謄写の申出があつたときは,保管検察官は,謄写申
  出書(様式第13号)を提出させた上,謄写に関する決定書(様式第13号)を作成し
  て謄写の許否を決定する。
 3  保管検察官が謄写の許否について謄写申出者に通知したときは,記録係事務官は,謄写に関する決定書に通知年月日を記入する。

【参考文献】
・条解刑事訴訟法(第4版)

法律相談事例集データベースのページに戻る

法律相談ページに戻る(電話03−3248−5791で簡単な無料法律相談を受付しております)

トップページに戻る