クチコミサイトの違法性判断
民事|名誉棄損|大阪地裁平成23年3月24日不正競争行為差止請求等事件判決
目次
質問:
私は飲食店を経営していますが、インターネットの「クチコミサイト」に悪評を書き込みされて困っています。実際に悪評が掲載されてから、店舗の売上が減少しています。クチコミサイトの運営会社に、クレームを出しましたが、返答がありません。法的に対処することはできないのでしょうか。
回答:
1、ご相談の件では、2つの法律問題が発生しています。1つは、悪評の書き込みをした人物と、あなたとの問題(不法行為による損害賠償請求、サイト管理者への削除の申し出に協力してもらう)。もうひとつは、クチコミサイト運営者と、あなたとの問題です(違法な書き込みを削除しないで放置することによる損害賠償請求、サイト管理者による違法な書き込みの削除)。
2、前者の「悪評の書き込みをした人物」とあなたの問題は、インターネットを媒介していますが、普通の顧客(または顧客になりすました人物)とあなたの問題と同じに考える事ができます。
普通の顧客が、あなたの飲食店を利用し、①事実に関する事項、②主観的評価に関する事項、を第三者に言いふらす(伝達する)行為は、あなたにとっては好ましくない行為かもしれませんが、①については事実に間違いが無ければ違法性を持つ可能性は低いですが、店に不利益が大きい事実に関しては検討の余地があります。②についても、行為態様によりますが、社会通念上許容され得る批評については、違法性を持つ可能性は低いと言え、法律上は問題がないといえます。しかし、社会通念上の許される批評の範囲を超える場合、例えば「不味いので二度と行きません。他の人にも絶対に行かない事をお勧めします」というような営業妨害と言えるようなケースでは、差し止め請求が認められる可能性が高いと言えるでしょう。
「顧客になりすました人物」が、事実無根の悪評を書き込みした場合は、民事上、不法行為(民法709条)又は不正競争防止法に基く差し止め請求が認められます。刑事事件としては、名誉毀損罪、偽計業務妨害罪が成立する可能性があります。あなたは、これら刑事事件の被害者として、所轄警察署・検察庁に刑事告訴をすることができます。勿論、早急に解決する方法としては相手方と示談交渉の上で和解して、書き込みを取り下げてもらうのがベストの方法です。サイト管理者は書き込みをした人から単独での削除請求には応じませんので、違法な書き込みで被害を被っている被害者と書き込みをした人とが共同で削除の要請をする必要があります。
3、後者の「くちこみサイト運営者」とあなたの問題は、悪評の記事がインターネット上に掲載されたことに基く、民法709条不法行為に基く損害賠償請求と、差止請求が問題となります。悪評の記事が虚偽であったり、営業妨害の意図があることについて、くちこみサイト運営者が削除しないで放置することに故意・過失があれば、法的な請求が認められるでしょう。
4、いずれの問題も、あなたの主張に法的根拠がある可能性が高いですが、ご本人による交渉ではこう着状態になる危険もあります。一度、弁護士にご相談なさると良いでしょう。
5、名誉棄損に関する関連事例集参照。
解説:
1、(問題点の指摘)
インターネットが普及し、ハードウェアとソフトウェアの技術革新により、様々なサービスが提供されるようになりました。単なる掲示板システムだけでなく、データベースソフトウェアを活用した、クチコミ情報提供サイトも増えてきています。飲食店や、ホテルや旅館や、結婚式場や、医院や、歯科医院や、理容室・美容室や、幼稚園や、学習塾や、習い事や、不動産や、商品・食品など、多種多様なクチコミサイトが運営されています。
クチコミサイトは、様々なクチコミ情報(匿名の書き込み)を一般消費者が検索できるようにプログラムされたウェブサイトですが、一般消費者にとっては対象となる店舗等の利用前に他の顧客による評判を知ることができる貴重な情報元となりますし、店舗等にとっても、自己の住所や電話番号やホームページURLや穏当な評判であればこれを掲載してもらうことは利益になります。サイト運営者にとっては、閲覧者(ページビュー)が増加すれば広告収入を期待することもできます。
しかし、ほとんどのクチコミサイトでは、マイナスの評価の記事であっても掲載されており、また、店舗等の評価を点数化してポイント順にランキング(ワーストランキング)が作成されることも多く、中には、「やらせ投稿」、「虚偽投稿」、「自社によるポジティブキャンペーン」、「他社によるネガティブキャンペーン」、「評価の売買や交換」が発生しているケースもあるようです。匿名掲示板と類似のシステムになっているので、真実に合致しない書き込みを排除することができません。営業妨害の目的で、近隣店舗の評価を故意に悪くするような書き込みをするケースもあるようです。当然、ランキングで上位に評価された店舗等にとっては利益になりますが、ランキングで下位の評価を受けてしまった店舗等にとっては、死活問題に関わる場合もあります。インターネットが普及する前にも書籍などでランキングを発表するケースもありましたが、ワーストランキングが出版されるケースはほとんどありませんでした。インターネットの普及により、自在にワースト検索やランキング表示できるようになってしまったのです。
クチコミ情報の削除はサイト運営者しかできませんから、まずは、サイト運営者を確認して特定の口コミ情報の削除を申し入れることになります。しかし、一部のクチコミサイト運営者は、クチコミ情報の件数を維持することにより、自社サイトのアクセス数を維持し、広告収入を維持したいと考え、真偽を確認できない悪評であっても、削除要請には一切応じない、という態度を取る場合もあるようです。また、クチコミ情報を気軽に送信出来るようにするため、匿名の書き込みを認めるサイトが多数を占めているようです。
そこで、サイト管理者があなたの削除請求に応じない場合は法律問題の検討が必要になります。ご相談の件では、2つの法律問題が発生しています。1つは、悪評の書き込みをした人物と、あなたとの問題。もうひとつは、クチコミサイト運営者と、あなたとの問題です。
2、(書き込みをした者との関係 不法行為 不正競争防止法)
前者の「悪評の書き込みをした人物」とあなたの問題は、インターネットを媒介していますが、普通の顧客(または顧客になりすました人物)とあなたの問題と同じに考える事ができます。
普通の顧客が、あなたの飲食店を利用し、①事実に関する事項、②主観的評価に関する事項、を第三者に言いふらす(伝達する)行為は、あなたにとっては好ましくない行為かもしれませんが、①については事実に間違いが無ければ違法性を持つ可能性は低いですが、店に不利益が大きい事実に関しては検討の余地があります。
例えば、ラーメンに髪の毛が入っていた、という場合はどうでしょう。どんなに注意をしても、ラーメンに髪の毛が入ることは防ぎきれないことでしょう。どのような職業でも、小さなミスや手違いが発生することは避けられません。この場合、サービスを提供した店舗側が謝罪し、顧客がこれを受け容れて、トラブルは終了するというのが原則だと思います。小さな迷惑を被った顧客は、帰宅し、夕食を採りながら家族に対して世間話として、不平不満を言うかもしれません。もしかしたら、電話で友人知人にも話すかもしれません。しかし、このことを紙に書いて、ビラを1万枚印刷して駅前で配ったりすることは通常しないと思います。これが、インターネット普及した現在では、くちこみサイトを利用することで、数分の書き込み行為(文字入力とマウスのクリック)により、同様の影響力を及ぼす行為が簡単に出来てしまうので問題となるのです。「人の噂も七十五日」と言いますが、口頭の伝達であれば次第に忘れ去られていくのに対し、くちこみサイトの書き込みは何年も情報が伝達され続けるという特性もあります。私見となりますが、事実に関する書き込みであっても、評価を下げるような書き込みが掲載されつづけることについては、民法709条不法行為が成立する可能性があると考えられます。相手方の連絡先が分かる場合は、相手方に連絡し、示談交渉する手段が考えられるでしょう。
なお、店舗にとって不利益な事実であっても、公共の利害に鑑みて事実を第三者に伝達することが必要であると判断される場合は、店舗に大きな不利益があったとしても違法性が無いと判断されますので、注意が必要です。これについては、名誉毀損罪における、公益を図る場合の免責規定が参考になりますので、条文を引用してみたいと思います。
刑法230条の2(公共の利害に関する場合の特例)前条第一項の行為が公共の利害に関する事実に係り,かつ,その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には,事実の真否を判断し,真実であることの証明があったときは,これを罰しない。
第2項 前項の規定の適用については,公訴が提起されるに至っていない人の犯罪行為に関する事実は,公共の利害に関する事実とみなす。
第3項 前条第一項の行為が公務員又は公選による公務員の候補者に関する事実に係る場合には,事実の真否を判断し,真実であることの証明があったときは,これを罰しない。
他人の社会的評価を低下させるような事実を公表したとしても,マスコミの他,一般私人であっても,専ら公益を図る目的で行われた行為であれば,正当行為として違法性が阻却され,刑事処分の対象とはなりません(刑法230条の2第1項)。この論理は、不法行為に関する民事裁判でも同じ様に考慮されます。公益目的の正当な言論であると判断されれば、不利益な評価であっても、損害賠償請求や差止め請求は認められないということになります。
②の主観的評価についても、行為態様によりますが、社会通念上許容され得る批評については、違法性を持つ可能性は低いと言えますが、例えば「不味いので二度と行きません。他の人にも絶対に行かない事をお勧めします」というような営業妨害と言えるようなケースでは、差し止め請求が認められる可能性が高いと言えるでしょう。この問題は、事実の存否に関するものではなく、評価の適否に関する問題となりますので、個別事案ごとのケースバイケースの検討が必要になります。お困りの場合は、書き込み内容を印刷などされた上で、弁護士の相談を受ける事をお勧めいたします。
「顧客になりすました人物」が、事実無根の悪評を書き込みした場合は、民事上、民法709条(不法行為)、又は不正競争防止法2条1項14号、同3条1項、に基く差し止め請求が認められます。刑事事件としては、名誉毀損罪(刑法230条)、業務妨害罪(刑法233条)が成立する可能性があります。あなたは、これら刑事事件の被害者として、所轄警察署・検察庁に刑事告訴をすることができます(刑事訴訟法230条)。勿論、相手方と示談交渉の上で和解して、書き込みを取り下げてもらうのがベストだと思います。
不正競争防止法第2条 この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。
第1項第14号 競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、又は流布する行為
第3条(差止請求権) 不正競争によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者は、その営業上の利益を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。
3、(サイト運営者との関係)
後者の「くちこみサイト運営者」とあなたの問題は、悪評の記事がインターネット上に掲載されたことに基く、民法709条不法行為に基く損害賠償請求と、差止請求が問題となります。悪評の記事が虚偽であったり、営業妨害の意図があることについて、くちこみサイト運営者が削除せずに放置しておくことに故意・過失があれば、法的な請求が認められるでしょう。
不法行為の要件として、「保護法益の存在」「行為者の侵害行為」、「行為者の故意または過失を基礎づける事実」、「損害の発生および損害額の特定」、「行為と損害発生の因果関係」が必要とされています。そこで、この場合において、各項目について、検討してみたいと思います。
「保護法益の存在」・・・あなたが経営する事業が継続的に収入を計上している事実を主張立証すれば良いでしょう。
「行為者の侵害行為」・・・くちこみサイト運営者のサイトにおいて、あなたの事業に対する悪評の書き込みが掲載され、これが送信され続けている事実を主張立証すれば良いでしょう。実際の書き込みは書き込みをした人がするわけですが、サイトを管理していることで、書き込みを送信続けるのはサイト管理者ですから侵害行為が認められます。
「行為者の故意または過失を基礎づける事実」・・・この点、若干問題があります。何故なら、くちコミサイト運営者は、通常、くちコミサイトのソフトウェアを構築し、ウェブサイト上でクチコミの送信を受け付けてこれを自動的にデータベースに入力して、検索やランキング表示できるように設定はしているものの、個別具体的な悪評の書き込みについては、認識していないことが一般的だからです。そこで、通常は、損害賠償請求を行う前に、事前に、くちこみサイトの運営者に対して、具体的な悪評書き込みの記事を印刷したものを書留郵便で送付したり、記事のインターネットアドレス(URL)を記載した内容証明通知書を送付したりして送信停止を請求したにも関わらず、この削除要請に応じなかった、という事実を主張立証する必要があります。すくなくとも、削除要請があった時点でサイト管理者は違法な書き込みの存在に気がついていた、という主張になります。
「損害の発生および損害額の特定」・・・損害には、積極損害と消極損害があります。交通事故で車が破損して修理費が掛かった、怪我をして治療費が掛かったというのは積極損害ですが、通院のために仕事を休み収入が減少した、というのも消極損害(逸失利益)として判例上認められています。くちコミサイトによる損害としては、悪評によって、店舗等の収入が減少した、ということが損害となりますから、消極損害と言えます。実際に賠償請求できる損害額は、売上減少額に利益率を乗じた金額となります(大阪地裁平成23年3月24日不正競争行為差止請求等事件判決など)。積極損害については、車の修理費用の領収書とか、病院の治療費領収書など、明確に算定することが可能ですが、消極損害(逸失利益)の場合は、損失額を算定することに困難を生ずる場合があります。サラリーマンが交通事故で受傷し治療のために休業し、出勤しなかった日数に応じて減給されたということであれば比較的簡単に計算可能ですが、自営業者がクチコミサイトの悪評で減収したという場合は、本来の収入の見込み額を算定し、そこから実際の収入額までの減少額が損害額ということになります。本来の収入見込み額を算定することは困難ですが、裁判所では、不法行為前の売上高を基準とするケースが多いようです。
「行為と損害発生の因果関係」・・・悪評の書き込みがインターネットで配信されていることにより、収入が減少していることの因果関係を主張立証する必要があります。具体的には、悪評が掲載される前の売上高の推移と、悪評が掲載された後の売上高の推移の比較を主張していくことになるでしょう。
4、(まとめ)
上記いずれの問題も、あなたの主張に法的根拠がある可能性が高いですが、口コミサイトの悪評については、社会的影響は大きいにもかかわらず、未だ判例が確立しているとは言えないのが現状です。紙媒体による誹謗中傷とは異なり、インターネットによる情報配信では、書き込みする者も、サイト運営者も、影響の大きさを軽視する傾向があります。勿論、これらの人々は法律専門家ではないことの方が多いですから、発生している問題についての法的評価も理解しにくいことが多いでしょう。被害を受けておられるあなたの立場としては、大変に困っていると言う事を、証拠に基き、また、法的根拠に基き、粘り強く主張していく必要がありますが、ご本人による交渉ではこう着状態になる危険もあります。弁護士が内容証明郵便通知書を送付して法律関係を詳細に説明し交渉するところから、手続を開始すべきようにも思われます。一度、弁護士にご相談なさると良いでしょう。
以上