新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1380、2012/11/29 16:13 https://www.shinginza.com/qa-roudou.htm
【労働・整理解雇に対して争う方法・地位保全の仮処分・東京地裁昭和62年1月26日決定】
質問:先日,私は勤務先(従業員が150人)から解雇されました。「会社の経営が傾いているため,人員整理の一環として理解して欲しい」とのことでした。私としては納得がいきません。解雇無効を争って再度職場に復帰したいと考え,色々と紛争解決制度を調べたのですが,いくつもあるようなので,どの紛争解決制度を選択すればよいのか全く分かりません。それぞれの制度の特徴を教えてください。また,今回,私はどの制度を利用するのが最も適しているのかも教えてください。
↓
回答:
1.労働事件に関する紛争解決制度のうち,裁判所を利用するものとしては@訴訟(本訴と仮の地位を定める仮処分),A労働審判,B民事調停があります。その他の国家機関を利用するのであれば,C労働局(紛争調整委員会)によるあっせん手続があります。その他,DADRとしては弁護士会紛争解決センターなどがあります。それぞれの特長については下記で説明しますが,整理解雇事案において現実の職場復帰を目指すのであれば,通常訴訟を利用することが最も適しているのではないかと思われます。
2.事案の見通し等については、整理解雇に関する事例集を参考にして下さい。関連事例集論文、1359番、1133番、1062番、925番、915番、842番、786番、763番、762番、743番、721番、657番、642番、458番、365番、73番、5番、労働審判手続きは995番。
解説:
第1 裁判所を利用しない手続
1 (労働局に設置された紛争調整委員会によるあっせん手続)
(1)制度の概要
紛争調整委員会とは,各都道府県の労働局ごとに設置される,弁護士や大学教授等の専門家による構成される委員会です。あっせん委員が,個別労働紛争につき,当事者間の話し合いを促進し,あっせん案を提示するなどして紛争の解決を図ることになります(個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律1条,5条,6条)。
(2)メリット
迅速な手続であり,費用もかかりません。そのため,利用しやすい制度であるといえます。
(3)デメリット
現実の職場復帰を目指す場合,この手続による実現は難しいものといえます。一度は解雇という決断を下している以上,簡単に覆すわけにはいかないという使用者側の方針や,第三者機関を利用した紛争になっている以上は当事者間の心理的な溝が深まっているという点など,使用者側が労働者の職場復帰を快く思わない事情が介在していることが通常だからです。現実の解決としては,解雇権濫用の度合いに応じていくらかの精算金で和解に至るもしくは合意に至らないまま終了というケースが一般的であるといえます。
また,あっせんにおいて和解が成立するケースが決して多くないという現状があります。仮に和解が成立したとしても,その和解内容を強制的に実現するためには,その和解を根拠に訴訟を提起し,債務名義を得て執行する必要があるため,「迅速な手続」という同制度のメリットを空洞化してしまう可能性があります。
なお,あっせん申請には時効中断効がありません(民法147条1号及び民事訴訟法147条参照)。そのため,解雇無効に伴う未払賃金を請求する場合には,手続期間中に2年の消滅時効にかかるおそれがないかを事前に検討することが必要です(労働基準法115条)。
2(弁護士会紛争解決センターによる紛争解決)
(1)制度の概要
弁護士が間に入って当事者間に和解を促し,または紛争の解決基準を示すことにより,市民間の紛争を解決するため制度です。
全国の各弁護士会に設置されるセンターであり,同センターを置いている弁護士会が多く,都内においても東京弁護士会・第一東京弁護士会・第二東京弁護士会にそれぞれ設置されています。詳しくは日弁連のホームページ(http://www.nichibenren.or.jp/contact/consultation/bengoshikai_consultation/conflict.html)をご参照ください。
(2)メリット
(弁護士を依頼する場合と比して)手続費用が低廉であること,土日も利用できる場合があること,当事者の合意により仲裁人の選定が可能な場合があることなどが挙げられます。費用については通常は申立手数料が1万500円,期日ごとに手数料5250円,その他和解成立時における報酬という内訳になっていますが,詳細は最寄りのセンターにお問い合わせください。
同手続における当事者間の単なる合意は私法上の和解契約としての効力しか有しないのが原則です。そのため,合意内容を強制的に実現するためには,その和解を根拠に訴訟を提起し,債務名義を得て執行する必要があるため,結局は迂遠となる可能性があります。ただし,両当事者が仲裁人の判断に従うという仲裁合意をした場合には,仲裁が行われることになります。かかる仲裁判断は確定判決と同一の効力を有する上(仲裁法38条1項),裁判所に執行決定を求めることで強制執行を行うことが可能なので(仲裁法45条,46条,民事執行法22条7号),早期の解決が見込める場合もあります。
(3)デメリット
原則として和解を目指す手続ですから,紛争調整委員会のあっせんと同様,現実の職場復帰を目指すにはあまり適した制度とはいえないものといえます。
仲裁合意がない場合に,仮に和解が成立したとしても強制力を有しないことについては上述のとおりです。
また,原則として紛争解決センターへのあっせん申立には時効中断効がないため,紛争調整委員会に対するあっせん申請の場合と同様,解雇無効に伴う未払い賃金を請求する場合には消滅時効にかかるおそれがないかを検討する必要があります。
ただし,利用する紛争解決センターが法の定める認証を受けている場合には,一定の条件の下で時効の中断が認められることになります(裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律5条,25条)。
第2 裁判所を利用する手続
1(民事訴訟)
(1)制度の概要
民事訴訟とは,民事上の紛争につき,裁判所に対して審理及び判決を求める手続きになります。
この点,民事訴訟法では処分権主義および弁論主義が採られています。処分権主義とは,訴訟の開始,訴訟物(審理の対象事項)の特定および訴訟の終了を当事者の権能とするものであり,裁判所は,当事者が申し立てていない事項について判決を行うことができません(民訴法246条)。例えば,労働者たる地位確認訴訟を提起した場合には,裁判所は原告の労働者たる地位を確認するか,請求を棄却するかどちらかの判決しか行えず,「解決金として200万円支払え」などという内容の判決は行えない,ということになります。
また,弁論主義とは,事実の主張および証拠資料の提出を当事者の権能かつ責任とするものです。そのため,労働者たる地位確認訴訟において,解雇が有効であるか無効であるかを判断するための基礎事情は,すべて当事者が主張し,その主張を裏付ける証拠を提出する必要があります。
(2)メリット
当該事案につき,判決を獲得することで,終局的な解決を目指すことができます。また,訴訟の途中において,裁判所から事案に応じた和解勧試がなされることが一般的であり,和解による柔軟な解決と,判決による定型的な解決,両方を目指すことが可能です。
また,判決により強制的に権利の実現を果たすことができるので(民事執行法22条1号),相手方が地位の回復の請求に任意に応じる見込みがないものの,あなたが労働者たる地位の回復を強く希望する場合であれば,民事訴訟手続きによることが適切でしょう。
(3)デメリット
労働事件,特に本件のような解雇無効の訴訟事件における最大のデメリットは,事件が終結するまでに長時間を要するという点です。訴訟が終結するまで,1年以上の時間がかかることも珍しくありません。労働者にとってはその間給与の支払いを受けられないことになりますが、4で説明する仮の地位を定める仮処分制度を利用することにより、給与の支払いをある程度受けることは可能になります。
また,民事訴訟では,弁護士をつけずに当事者のみで進行させることが原則ですが,様々な民事訴訟法上のルールが存在している上,特に本件のような整理解雇事案においては事案も高度に複雑化し,弁護士を代理人として選任しなければ適切な紛争解決に辿り着けないケースが圧倒的に多いものといえます。なお、弁護士費用については,仮に勝訴した場合においても相手方に請求できないケースが通例なので,結果的に弁護士費用を負担することが見込まれます。
2 (労働審判)
(1)制度の概要
労働審判制度は,個別労働事件の解決のため,審判官1名と2名の労働審判員により,原則として3回以内の審判期日内に調停による解決を試み,調停が成立しない場合には必要な審判を行うという手続きです。
第1回目の期日において事実確認を行い,2回目および3回目の期日では調停(和解)成立に向けた話し合いを行うことが通常です。そのため,3回以内で調停が成立する見込みがある事案(例えば,論点が単純な事案,事実には争いが無くその評価のみを争う事案など)であれば労働審判に適していると思われます。
(2)メリット
裁判所を利用する手続きではあるものの,原則として期日は3回までしか開かれないため,民事訴訟と比較して迅速な紛争解決(具体的には申し立て日から3か月〜4か月程度)が見込まれます。実際の運用においても,3回の期日内に調停(和解)又は労働審判により事件が解決することのほうが多いといえます。なお,調停成立又は労働審判が出た場合,裁判上の和解の効力が生じることになり,これをもとに相手方に対し強制執行の手続きを取ることが可能です(労働審判法21条4項)。
また,和解を目指す手続きであるという点では下記の民事調停と類似しているのですが,労働審判の場合は,構成員が労働関係に関する専門知識経験を有する者とされており,専門性の高い審理手続きに服することになります。
(3)デメリット
短期間で終局的な解決を目指す制度なので,使用者側が頑なに職場復帰を拒否している場合は,調停により職場復帰を望むことは困難であるといえ,労働審判委員会からも金銭による解決(調停)を勧められることが多いです。
また,仮に労働審判委員会からの金銭解決による和解勧試に労働者が応じなかった場合は,労働審判委員会は,当事者間の権利関係を確認し,金銭の支払,物の引渡しその他の財産上の給付を命じ,その他個別労働関係民事紛争の解決をするために相当と認める事項を定めて審判を行うことができます(労働審判法20条1項2項)。この点,上記のとおり民事訴訟においては,裁判所は申し立ての趣旨に拘束された判決しか行えないのに対し(処分権主義の要請),労働審判においては,「労働審判手続の経過を踏まえて」審判を書くことができるので,審理経過から認められる当事者双方の意向も踏まえ,労働審判員委員会が相当と認める審判を行えるということになります。
すなわち,民事訴訟と異なり,地位確認請求の場合に,解決金の支払いを使用者に命じることも可能ということになります。一般的には審判前に労働審判委員会が提示する和解案に近い内容の審判になることが多いと思われます。そのため,仮に労働審判委員会が解雇を無効と判断する事案であったとしても,地位を回復させるよりも両者を解消させるほうが事案処理として適切と判断する場合には,職場復帰を果たせないことになります(これは柔軟な審判が見込めるという意味ではメリットとも言えるのでしょうが,仮に申立人の勝ち筋事案であっても本来申立人が求めている判断を裁判所が出さないことがあるという意味ではデメリットと言えるでしょう)。
その場合,労働審判が出た場合には異議を出せば通常訴訟に移行することになりますが(労働審判法21条),労働審判で行った口頭審理の結果を直接訴訟に反映させられるわけではなく(なお,労働審判申立書については訴状とみなされます。労働審判法5条2項,22条3項),再度一から審理をやり直すので,労働審判に費やした期間が無に帰してしまうケースも出てくることになります。
3(民事調停)
(1)制度の概要
民事調停とは,民事に関する紛争について,調停委員会(裁判官1名+調停委員2人以上で構成)が当事者の間に入り,和解による解決に導くための手続きです(民事調停法1条,6条)。
(2)メリット
民事訴訟や労働審判とは異なり,厳格な手続きに服さないため,当事者本人で申し立てたいという場合には適していると思われます。ただし,ある程度有利な証拠をそろえておかなければ,有利な調停案が出ることは期待できないので注意が必要です。
また,労働審判のように原則3回という期日制限も無いので,時間をかけてもいいので円満に和解を目指したいというような事案には適しているものと思われます。
(3)デメリット
一番のデメリットは,相手方の進行対応が不誠実な場合であっても,権利実現のための強制力が担保されていない制度となっている点です。民事訴訟及び労働審判では,相手方が仮に出頭しない場合であっても判決及び審判を行うことが可能であり,強制的に権利を実現することが可能です(民事訴訟法158条,159条,243条1項,労働審判法20条1項参照)。しかし,民事調停の場合,相手方の欠席が続くことにより民事調停は不調となり,手続きは終了します(民事調停法14条)。したがって,相手方の出頭の見込みが無いケースでは,頑張って調停を申し立てても徒労に帰す可能性があることに注意が必要です。
4(仮の地位を定める仮処分の利用 民事保全法23条2項)
(1)制度の概要
仮の地位を定める仮処分とは,争いのある権利関係について,現に債権者に生じる著しい損害や急迫の危険を回避するため,暫定的に必要な措置を命じるものです(民事保全法23条2項)。この制度は,正式裁判によって権利が保護されるまでには長い年月を必要とするため,正式裁判で結論が出るまでの間に仮の措置として裁判所が暫定的に保護を与えるものです。本件のような解雇事案の場合,@暫定的に賃金を支払わせる賃金仮払仮処分及びA雇用契約上の地位が存続している効果を暫定的に与える地位保全の仮処分を検討することが一般的です。
以上の様に、仮処分には、民事保全法23条1項の金銭債権以外の請求権の強制執行を保全するための係争物に関する仮処分と同23条2項の争いのある権利関係(権利関係に限定はありません)について債権者に著しい損害又は急迫の危険を避けるために(著しい損害等の事実を疎明する必要があります。民事保全法13条2項)本案訴訟の確定までに仮の状態を定める(将来の強制執行保全の目的ではありません。)仮の地位を定める仮処分の2つがあります。
(2)@賃金仮払いの仮処分について
賃金仮払いの仮処分(民事保全法23条2項の「仮の地位を定める仮処分」)は,解雇の有効性を訴訟で争う労働者において,解雇により訴訟期間中にも続く無収入状態により訴訟遂行そのものが困難になることを回避するための処分であるとされます。労働訴訟は,年単位の審理期間を要することが少なくなく,判決が出るまでの期間,労働者の生活を確保しておく必要があるわけです。
賃金仮払いの仮処分が認められるためには,「債権者に生じる著しい損害又は急迫の危険を避けるためにこれを必要とするとき」という賃金請求権を保全する必要性が存在していなければいけません。この点,解雇された事実そのものにより収入が途絶えるわけですから,解雇の事実のみをもってある程度保全の必要性は生じるといえますが,労働者に貯蓄があるか,家族の所得情況はどうか(共働きではないか等),副業を行っているか,など様々な事情により保全の必要性は判断されます(東京地裁昭和51年9月29日決定参照)。
なお,賃金の仮払いが認められる場合であっても,この仮処分は従前の生活を仮に保障するための処分ではなく,困窮により本案訴訟の遂行が困難になることを避けるための処分ですから,雇用時における賃金満額が認められるとも限りませんし(千葉地裁昭和57年11月25日決定),仮払いを命じる期間も、「一審判決に至るまで」「1年間」などといった限度において認められることが多いとされています。
(3)A地位保全の仮処分について
「地位保全の仮処分」は,労働者に対して使用者との労働契約関係を有することを仮に定める仮処分です。ただし,仮処分を命じる義務の内容が,「債権者が債務者に対し,労働契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める」という包括的なものになるため,強制執行を行う余地がなく,労務の受け入れ等については使用者の任意の履行に期待するしかないというものになります。
この点,「仮の地位を定める仮処分」は,債権者に生じる著しい損害や急迫の危険を回避するための処分ですから,使用者が任意に履行に応じてくれる意思が明らかに存在している事案ではない限り,労働者に生じる損害や危険を回避することができません。かかる損害や危険は,強制執行が可能である@賃金仮払いの仮処分で一般的には達成できるといえます(東京地裁昭和52年1月25日決定)。そのため裁判所は,Aについては,労働者たる法的地位を有することそのものに特別な利益がある場合を除き,認容しない立場であるといえます(認めた例として,労働契約の存在により日本滞在が可能になる外国人のケースなどがあります。東京地裁昭和62年1月26日決定。アサヒ三教事件)。後記判例参照。
(4)仮処分の利用方法
これら@Aの仮処分は原則として使用者の審尋が必要になるため(民事保全法23条4項),仮処分命令が出るまでに,数箇月程度要することも珍しくありません。現在は,上記2で述べたとおり短期間(申立から概ね3か月〜4か月程度で和解に至ることが多い)での解決が見込める労働審判制度も存在しており,解雇後の窮状については労働審判により一定程度の解決を行うことも期待できます。労働審判により短期の終局的解決(上述のとおり,解雇事案では金銭的解決に至ることが大半です)を目指して次の勤め先を探すのか,それとも仮処分により窮状を一定程度回避しつつ時間をかけて本案訴訟により職場復帰を目指すのか,方針を明確に定めることが肝要です。
第3 本件に適した手続きについて
具体的案件にもよりますが,あなたがどうしても職場復帰を行いたいという強い希望を有しているのであれば,仮処分を申立てた上で民事訴訟を提起することが本件に最も適した手続選択であるといえるでしょう。
本件は整理解雇の事案ですが,整理解雇の場合,@人員削減の必要性,A解雇回避努力の有無,B被解雇者選択の合理性,C手続きの妥当性の4要素を基準に審理が進みます。そして特に,@ABの要素については,決算書類等の帳簿類を精査した上での際どい判断となるケースが多く,3回以内の審理で調停に辿り着けるほど単純なものではないことが多いです。
また,そもそも労働事件においては,一度解雇した人物につき,使用者側が話し合いにより解雇撤回に応じるケースは希少です。それが整理解雇という会社運営全体にかかわる処分であるとすればなおさらのことでしょう。そのため,今回のあなたのように,職場復帰への強い意向がある場合は,話し合いによる和解を第一目標とする民事調停や労働審判は紛争実体に適していないことが多く,最初から民事訴訟を提起すべき事案が多いものと思われます。
【参考条文】
<民事訴訟法>
第百四十七条 時効の中断又は法律上の期間の遵守のために必要な裁判上の請求は,訴えを提起した時又は第百四十三条第二項(第百四十四条第三項及び第百四十五条第四項において準用する場合を含む。)の書面を裁判所に提出した時に,その効力を生ずる。
第百五十八条 原告又は被告が最初にすべき口頭弁論の期日に出頭せず,又は出頭したが本案の弁論をしないときは,裁判所は,その者が提出した訴状又は答弁書その他の準備書面に記載した事項を陳述したものとみなし,出頭した相手方に弁論をさせることができる。
第百五十九条 当事者が口頭弁論において相手方の主張した事実を争うことを明らかにしない場合には,その事実を自白したものとみなす。ただし,弁論の全趣旨により,その事実を争ったものと認めるべきときは,この限りでない。
2 相手方の主張した事実を知らない旨の陳述をした者は,その事実を争ったものと推定する。
3 第一項の規定は,当事者が口頭弁論の期日に出頭しない場合について準用する。ただし,その当事者が公示送達による呼出しを受けたものであるときは,この限りでない。第二百四十三条
裁判所は,訴訟
が裁判をするのに熟したときは,終局判決をする
<民事調停法>
第一条 この法律は,民事に関する紛争につき,当事者の互譲により,条理にかない実情に即した解決を図ることを目的とする。
第六条 調停委員会は,調停主任一人及び民事調停委員二人以上で組織する。
第十四条 調停委員会は,当事者間に合意が成立する見込がない場合又は成立した合意が相当でないと認める場合において,裁判所が第十七条の決定をしないときは,調停が成立しないものとして,事件を終了させることができる。
<労働審判法>
第七条 裁判所は,労働審判官一人及び労働審判員二人で組織する労働審判委員会で労働審判手続を行う。
第十五条 労働審判委員会は,速やかに,当事者の陳述を聴いて争点及び証拠の整理をしなければならない。
2 労働審判手続においては,特別の事情がある場合を除き,三回以内の期日において,審理を終結しなければならない。
第二十条 労働審判委員会は,審理の結果認められる当事者間の権利関係及び労働審判手続の経過を踏まえて,労働審判を行う。
2 労働審判においては,当事者間の権利関係を確認し,金銭の支払,物の引渡しその他の財産上の給付を命じ,その他個別労働関係民事紛争の解決をするために相当と認める事項を定めることができる。
第二十一条 当事者は,労働審判に対し,前条第四項の規定による審判書の送達又は同条第六項の規定による労働審判の告知を受けた日から二週間の不変期間内に,裁判所に異議の申立てをすることができる。
2 裁判所は,異議の申立てが不適法であると認めるときは,決定で,これを却下しなければならない。
3 適法な異議の申立てがあったときは,労働審判は,その効力を失う。
4 適法な異議の申立てがないときは,労働審判は,裁判上の和解と同一の効力を有する。
5 前項の場合において,各当事者は,その支出した費用のうち労働審判に費用の負担についての定めがないものを自ら負担するものとする。
第二十二条 労働審判に対し適法な異議の申立てがあったときは,労働審判手続の申立てに係る請求については,当該労働審判手続の申立ての時に,当該労働審判が行われた際に労働審判事件が係属していた地方裁判所に訴えの提起があったものとみなす。
2 前項の規定により訴えの提起があったものとみなされる事件は,同項の地方裁判所の管轄に属する。
3 第一項の規定により訴えの提起があったものとみなされたときは,民事訴訟法第百三十七条,第百三十八条及び第百五十八条の規定の適用については,第五条第二項の書面を訴状とみなす。
<民事執行法>
第二十二条 強制執行は、次に掲げるもの(以下「債務名義」という。)により行う。
一 確定判決
二 仮執行の宣言を付した判決
三 抗告によらなければ不服を申し立てることができない裁判(確定しなければその効力を生じない裁判にあつては、確定したものに限る。)
三の二 仮執行の宣言を付した損害賠償命令
四 仮執行の宣言を付した支払督促
四の二 訴訟費用若しくは和解の費用の負担の額を定める裁判所書記官の処分又は第四十二条第四項に規定する執行費用及び返還すべき金銭の額を定める裁判所書記官の処分(後者の処分にあつては、確定したものに限る。)
五 金銭の一定の額の支払又はその他の代替物若しくは有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求について公証人が作成した公正証書で、債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述が記載されているもの(以下「執行証書」という。)
六 確定した執行判決のある外国裁判所の判決
六の二 確定した執行決定のある仲裁判断
七 確定判決と同一の効力を有するもの(第三号に掲げる裁判を除く。)
<民事保全法>
(申立て及び疎明)
第十三条 保全命令の申立ては、その趣旨並びに保全すべき権利又は権利関係及び保全の必要性を明らかにして、これをしなければならない。
2 保全すべき権利又は権利関係及び保全の必要性は、疎明しなければならない。
第三款 仮処分命令
(仮処分命令の必要性等)
第二十三条 係争物に関する仮処分命令は、その現状の変更により、債権者が権利を実行することができなくなるおそれがあるとき、又は権利を実行するのに著しい困難を生ずるおそれがあるときに発することができる。
2 仮の地位を定める仮処分命令は、争いがある権利関係について債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるためこれを必要とするときに発することができる。
3 第二十条第二項の規定は、仮処分命令について準用する。
4 第二項の仮処分命令は、口頭弁論又は債務者が立ち会うことができる審尋の期日を経なければ、これを発することができない。ただし、その期日を経ることにより仮処分命令の申立ての目的を達することができない事情があるときは、この限りでない。
(仮処分の方法)
第二十四条 裁判所は、仮処分命令の申立ての目的を達するため、債務者に対し一定の行為を命じ、若しくは禁止し、若しくは給付を命じ、又は保管人に目的物を保管させる処分その他の必要な処分をすることができる。
(仮処分解放金)
第二十五条 裁判所は、保全すべき権利が金銭の支払を受けることをもってその行使の目的を達することができるものであるときに限り、債権者の意見を聴いて、仮処分の執行の停止を得るため、又は既にした仮処分の執行の取消しを得るために債務者が供託すべき金銭の額を仮処分命令において定めることができる。
2 第二十二条第二項の規定は、前項の金銭の供託について準用する。
(債務者を特定しないで発する占有移転禁止の仮処分命令)
第二十五条の二 占有移転禁止の仮処分命令(係争物の引渡し又は明渡しの請求権を保全するための仮処分命令のうち、次に掲げる事項を内容とするものをいう。以下この条、第五十四条の二及び第六十二条において同じ。)であって、係争物が不動産であるものについては、その執行前に債務者を特定することを困難とする特別の事情があるときは、裁判所は、債務者を特定しないで、これを発することができる。
一 債務者に対し、係争物の占有の移転を禁止し、及び係争物の占有を解いて執行官に引き渡すべきことを命ずること。
二 執行官に、係争物の保管をさせ、かつ、債務者が係争物の占有の移転を禁止されている旨及び執行官が係争物を保管している旨を公示させること。
2 前項の規定による占有移転禁止の仮処分命令の執行がされたときは、当該執行によって係争物である不動産の占有を解かれた者が、債務者となる。
3 第一項の規定による占有移転禁止の仮処分命令は、第四十三条第二項の期間内にその執行がされなかったときは、債務者に対して送達することを要しない。この場合において、第四条第二項において準用する民事訴訟法第七十九条第一項
の規定による担保の取消しの決定で第十四条第一項
の規定により立て
させた担保に係るものは、裁判所が相当と認める方法で申立人に告知することによって、その効力を生ずる。
【判例参照】
地位保全等仮処分申請事件
東京地裁 昭和60(ヨ)二三一九号
昭和62年1月26日決定
決 定
債権者 オッドビヨーン・エギール・ジャーディ
ODDBJORN・EGIL・GJERDE
債権者 ロバート・ジョーン・マクラウド
ROBERT・JOHN・MCLEOD
債務者 株式会社アサヒ三教
右代表者代表取締役 潮見三輪
主 文
1 債権者ロバート・ジョーン・マクラウドが債務者との間に雇用契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める。
2 債務者は債権者ロバート・ジョーン・マクラウドに対して金三六九万円及び昭和六二年一月以降同年一二月に至るまでの間毎月末日限り金三〇万円(ただし、一月は金七万五〇〇〇円、五月及び八月は各金一五万円、九月は金二二万五〇〇〇円)を仮に支払え。
3 債権者ロバート・ジョーン・マクラウドのその余の申請及び債権者オッドビヨーン・エギール・ジャーディの申請をいずれも却下する。
4 申請費用は、債務者と債権者ロバート・ジョー・マクラウドとの間においては全部債務者の負担とし、債務者と債権者オッドビヨーン・エギール・ジャーディとの間においては、債務者に生じた費用を二分し、その一を同債権者の負担とし、その余の費用は、各自の負担とする。
事 実
第一 当事者の求める裁判
一 債権者ら
1 債権者オッドビヨーン・エギール・ジャーディ(通称バリー、以下「バリー」という。)及び債権者ロバート・ジョーン・マクラウド(以下「マクラウド」という。)が、それぞれ債務者に対し雇用契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める。
2 債務者は、債権者バリーに対して昭和六〇年九月から本案判決確定に至るまで、毎月末日かぎり金一五万円を仮に支払え。
3 債務者は、債権者マクラウドに対して、金九万円及び昭和六〇年一一月から本案判決確定に至るまで、毎月末日かぎり金三〇万円を仮に支払え。
との裁判を求める。
二 債務者
「債権者らの申請を却下する。」との裁判を求める。
第二 当事者の主張
一 申請の理由
1 当事者
(一)債務者は、都内新宿と銀座にASAコミュニティサロンの名称で英語学校を経営する株式会社である。
(二)債権者バリーは、カナダ人であって、昭和五九年一月一七日から債務者会社に英語教師として雇用されたものであり、債権者マクラウドは、英国人であって、昭和五九年五月から債務者会社に英語教師として雇用されたものである。
(三)債務者会社の賃金は前月一六日から当月一五日までの分を当月末日に支払われることになっている。
2 債権者バリーについて
(一)債権者バリーの賃金は、一時間当たり金三〇〇〇円であり、その稼働時間は月により一定していないが、昭和六〇年六月及び七月の平均は五〇・五時間であった。
(二)債務者は、昭和六〇年八月二八日で雇用契約の期間が終了したとして、以後債権者バリーを従業員として取り扱わず、賃金の支払もしない。
(三)しかし、債権者バリーの雇用契約は期間の定めのないものであるから、債権者バリーは引き続き債務者会社の従業員としての地位を有するのであり、かつ、一か月平均金一五万円(一時間当たり三〇〇〇円の五〇時間分)の賃金の支払を受ける権利を有する。
(四)債権者バリーは、外国人であって、我国に何らの資産もなく、債務者会社から得る賃金で生計を維持してきたものであり、かつ、就業査証の発給を受ける関係からも従業員の地位の保全が必要である。
3 債権者マクラウドについて
(一)債権者マクラウドは、債務者会社との契約により一か月の労働時間が最低でも一月一〇〇時間と定められ、一時間当たりの賃金は金三〇〇〇円であるから、同債権者の一か月の賃金は三〇万円である。
(二)債務者会社は、昭和六〇年一〇月七日債権者マクラウドに対し解雇の意思表示をした。
(三)しかし、右解雇は、解雇理由がなく無効であるから、債権者マクラウドは債務者会社の従業員としての地位を有し、かつ、一か月金三〇万円(昭和六〇年一〇月末日支払の賃金は一〇月七日から一五日までの九万円)の賃金の支払を受ける権利を有する。
(四)債権者マクラウドも債権者バリーと同様の理由で賃金の仮払い及び地位の保全を求める必要性がある。
二 申請の理由に対する答弁
1 1の事実は認める。
2 債権者バリーについて
(一)(一)事実のうち、債権者バリーの賃金が一時間三〇〇〇円であったことは認めるが、その稼働時間は一定しておらず、昭和五〇年六月末支払分は五二時間、七月末支払分は四九時間、八月末支払分は三〇時間、九月末支払分は一五時間であった。
(二)(二)の事実は認める。
(三)(三)、(四)の事実は否認する。
3 債権者マクラウドについて
(一)(一)の事実は否認する。
(二)(二)の事実は認める。
(三)(三)、(四)の事実は否認する。
三 抗弁
1 債権者バリーについて
(一)債務者会社と債権者バリーとは昭和五九年一月一七日雇用契約を締結したが、その際雇用期間は一年と定めた。そして、右期間は昭和六〇年一月一六日に満了したが、その際、債務者会社と債権者バリーとの合意により同債権者の就業査証が切れる同年八月二八日まで延長された。右の延長がされるに至ったのは、昭和五九年一〇月二〇日債務者会社主催のハローウィン・パーティーの席上同債権者の腕に入れ墨のあることが発見されたことに端を発し、債務者会社においては従業員として不適当であると評価したが、同債権者が入れ墨をしていたこと及びそれについて虚偽の報告をしたことについて陳謝し、再就職先を探すための時間的な猶予を与えてほしいと懇請したため、同債権者の就業査証の切れる昭和六〇年八月二八日まで延長することとしたものである。
(二)以上のように、債権者バリーの雇用期間は同年八月二八日に満了したため、債務者会社は同債権者を従業員として扱っていないにすぎない。
2 債権者マクラウドについて
(一)債務者会社は、昭和六〇年一〇月七日、債権者マクラウドを解雇したが、解雇の理由は次のとおりである。
(二)同債権者は、外国人教師の採用、昇進、教育、解雇等に関する大幅な人事権を有する主任の地位にもあったにもかかわらず、地の外国人教師に対して、人事権を有していないと虚偽の事実を吹聴し、昭和六〇年五月自らが委員長となってASA教師組合を結成し、総評全国一般労働組合東京地方本部南部支部に加入した。以上の事実は、就業規則二四条一一号(前各号に準ずる程度の不都合な行為をしたとき)に該当する。
(三)同債権者は、主任としての業務を行った場合にはその内容を報告する義務があるのにこれを行わなかった。
(1)債務者会社は、昭和六〇年六月二五日付覚書、同月二六日付覚書及び同月三〇日覚書により、同債権者に対して、同債権者が担当した教師訓練及びその他の主任業務に関する報告書の提出を命じたが、同債権者は内容の不十分な報告書しか提出しなかった。
(2)同債権者は、昭和六〇年一月初旬、ロンドンにおいて、申請外ジェフ・バーグと共に債務者会社のために、英国人の教師一七名の採用の業務を行ったが、その際応募者との面接、採否の決定、雇用契約書の締結等すべての手続を担当した。ところが、後日右英国人教師との間に契約内容について争いが生じたため、債務者会社は、同年六月二八日、同債権者に対して具体的に採用の経過を文書により報告するよう求めたが、同債権者は適切な報告をしなかった。
以上の事実は、就業規則二四条一〇号(業務上の指揮命令に違反したとき)に該当する。
(四)債務者会社においては、欠勤する場合には、事前に届け出たうえ代替勤務要員を自ら手配して確保しなければならないこととされており、このような措置をとらないで欠勤することは解雇理由となるほどの重大な義務違反行為であると理解されている。ところが、同債権者は、次のように多数の欠勤をした。
(1)昭和六〇年七月一一日に代替教師を用意せずに欠勤した。
(2)同月一六日に四時台のレッスンを無断欠勤した。
(3)同月一七日から二四日までストライキと称して欠勤した。ASA教師組合は労働組合としての資格を有しておらず、かつ人事権を有する管理職である同債権者はストライキを行うことは許されない。
(4)同月二九日に二時間無断欠勤をした。
(5)同年九月三日から六日までの間有給休暇を取得すると称して欠勤した。
しかし、外国人教師については勤務形態の特殊性からして有給休暇は認められない。
以上の事実は、就業規則二四条二号(正当な理由なく無断欠勤・遅刻・早退があったとき)に該当する。
(五)同債権者は、夏期休暇明けである同年八月二一日以降勤務意欲を欠如する態度を示している。すなわち、債務者会社の英会話教師の特色であるフリータイム制、少人数制及びレベルの細分化制を完全に実施するためには外国人教師のレッスンのスケジュール調整が不可欠であり、それには外国人教師がスケジュール調整に積極的に協力することが必要である。ところが、同債権者は、同年八月二一日に出社して、債務者会社の担当者から今後無断欠勤をしないよう誓約を求められたのにこれを拒否し、スケジュールの調整についての話合いをも拒否したため、同債権者を授業のスケジュールに入れることができなくなった。その後も債務者会社は同年九月一〇日及び一三日にスケジュール調整に関する話合いを求めたが、同債権者はこれを拒否した。
以上の事実は、就業規則二四条一〇号(業務上の指揮命令に違反したとき)又は一一号(前各号に準ずる程度の不都合な行為をしたとき)に該当する。
(六)同債権者らは、組合活動と称して債務者会社の構内で、文書を掲示したり、配布したりした。また、就業時間中に他の外国人教師に対して組合に加入するよう勧誘した。以上の行為は、就業規則二三条八号(会社の建物内及びその付近で業務外の集会、文書の掲示配布あるいは演説・放送等は行わないこと)、二四条一号(労働契約、会社の諸規則、及び正当な理由なく会社の指示・命令に反したとき)に該当する。
(七)同債権者は勤務成績が不良である。すなわち、
(1)前記(三)記載のように主任業務報告書の提出を怠った。
(2)同債権者は昭和五九年九月ころから昭和六〇年一月ころまでの間、デープ・ローズ及びスーザン・ニールと共にカリキュラム作成の作業を行った。ところが、同債権者らは、しばしばカリキュラム作成場所を離れて漫然と時間を過ごすことが多く、延八一九・五時間ないし八三〇・五時間を要して作成されたカリキュラムは、最大に見積っても四二〇時間あれば十分作成することができる程度のものにすぎなかった上、その内容も安直なもので、レッスン用として使用に耐えないものであった。
(3)前記(四)のとおり欠勤が多い。
以上の事実は、就業規則二四条一〇号(業務上の指揮命令に違反したとき)に該当する。
(八)以上(二)から(七)までの事実を総合的に考察すれば、懲戒解雇の理由を認めるに十分である。
四 抗弁に対する答弁
1 債権者バリーについて
(一)債務者会社と債権者との雇用契約の期間が一年と定められたことは否認する。雇用契約には期間の定めがなかった。同債権者が「昭和六〇年八月二八日の契約の期限まで」と記載された書面(疎乙第二〇号証)に署名をしたことはあるが、それは、同債権者がハローウィン・パーティーの席上入れ墨を見せたことに対する制裁として時間給三〇〇〇円から二五〇〇円に減額する期間を定めた意味を持つにすぎない。
(二)右疎乙第二〇号証は、入れ墨を見せたことに対する制裁として解雇もありうるとの債務者会社の言動に対して畏怖した結果作成されたものであって無効である。
(三)仮りに、右疎乙第二〇号証により雇用の期限を昭和六〇年八月二八日とすることが合意されたとしても、同債権者と債務者会社とは、同年六月一〇日に雇用契約の期限を定めのないものとする旨の合意をした。
2 債権者マクラウドについて
(一)抗弁2(二)のうち、同債権者が委員長となって労働組合を結成したことは認めるがその余の事実は否認する。
(二)抗弁2(三)について
(1)(1)の事実は否認する。同債権者は債務者会社の命令に応じて業務報告書を提出した。
(2)同(2)の事実は否認する。同債権者がジェフ・バーグと共にロンドンにおける英国人教師の採用面接に立ち会ったのは事実であるが、採否の決定は債務者代表者が行ったものであり、同債権者はその補助をしたにすぎない。もっとも、右契約についての釈明要求に対し、同債権者は書面により報告をしている。
(三)抗弁2(四)について
(4)の事実は認めるが、その余の事実は否認する。
(1)については、当日東京都地方労働委員会の調査期日が行われることとなっていたので、同債権者は一週間前に債務者会社に欠勤する旨を届け出た。
(2)については、当日同債権者はパープルの授業(初心者を対象とする授業)を割り当てられていたが、四時台にパープルの担当教師は二人いたところ、生徒は一人しか来なかったので、パープルの授業は他の一人にしてもらい、同債権者は主任としての仕事をしたものである。
(3)については、昭和六〇年七月一七日及び一八日の二日間事前に口頭で通告をしたうえ、ストライキをした。このストライキは、債務者会社が同債権者に対して継続してパープルの授業を担当させるという過酷なスケジュールを命じたことに対し、ASA教師組合の所属する総評全国一般労働組合東京地方本部南部支部の指令に基づき指名ストライキとして実行したものである。そして、同月一九日にこれを解除する通告したのにかかわらず債務者会社において同月二四日まで就労を認めなかったものである。
同(5)については、同債権者は事前に有給休暇の申請をして休暇を取ったものであり、この有給休暇は正当なものである。すなわち、同債権者の勤務日は一週間につき火曜日から金曜日までの四日間で一日六時間であるから実働二四時間、拘束三〇時間であり、既に一年間継続して勤務をし、その間所定労働時間の八割以上の日を就労しているのであるから、労働基準法三九条に基づき年次有給休暇を取得することができるのである。
(四)抗弁2の(五)から(七)までの事実は否認する。
理 由
一 申請の理由1の事実は、当事者間に争いがない。
二 債権者バリーについて
1 債務者会社が昭和六〇年八月二八日で雇用契約の期間が終了したとして以後債権者バリーを従業員として取り扱わず、賃金の支払もしていないことは、当事者間に争いがない。
2 そこで、債権者バリーとの間の雇用契約について債務者の主張するような期間が定められたか否かについて検討する。
疎明資料及び審尋の結果によれば、次の事実が一応認められる。
昭和五九年一〇月に債務者会社が主催するハローウィン・パーティーにおいて、債権者バリーはロックバンドの一員として出演したが、その際腕に入れ墨をしていることが発見された。その後、債務者会社代表潮見三輪(以下「潮見社長」という。)が、同債権者の入れ墨が本物なのかどうかを照会したところ、同債権者は当初本物でないと答えていたが、後にこれが本物であることを認めた。そので、潮見社長は入れ墨をしている者は教師として好ましくないとし、同債権者の同僚マイケル・フィンクを通じて雇用関係を存続させるか否かの話合いが行われたが、昭和六〇年一月中ころ、同債権者が入れ墨について偽りを述べたことを陳謝し、時間給を従前の三〇〇〇円から二五〇〇円に減額すること及びその雇用契約の期間を就業査証の期間が到来する同年八月二八日までとすることの合意が成立し、同債権者は、同年二月七日付けでその旨の陳謝状(疎乙第二〇号証)を潮見社長あて提出し、以後右の合意に従って就労をしていた。
以上の事実が一応認められ、この事実によれば、債権者バリーは、雇用契約の期間を同年八月二八日までとすることに同意したものと認めることができる。同債権者は、右の陳謝状は、入れ墨を見せたことに対する制裁として解雇もありうるとの債務者会社の言動に対して畏怖した結果作成されたものであると主張するけれども、これを認めるに足りる疎明はなく、この主張は採用することができない。
3 次に、債権者バリーは昭和六〇年六月一〇日に雇用契約の期限を定めのないものとする旨の合意がされたと主張するので、この点について検討する。
疎明資料及び審尋の結果によれば、同年五月二〇日ころ債務者会社の外国人教師によりASA教師組合が結成され、同債権者の時間給減額に対して外国人教師間で同情がよせられたこともあって、同月末ころ、同債権者と債務者会社との間で、債務者会社は同債権者の時間給を減額の当初にさかのぼって三〇〇〇円に復し、差額分の支払をすること、同債権者は生徒や他の教師に入れ墨を見せないこと、同債権者の授業時間を増加することが合意され、同年六月一〇日付けでその旨の書面(疎甲第二号証)が作成されたこと、その書面では同債権者の雇用の期間については何らふれられていないことが一応認められる。債権者バリーは、雇用期間が同年八月二八日までであるとすると、八月一日から二〇日までの夏休みの期間を考慮すると、残された期間は極めて短いので、授業時間を増加する約束などするはずがなく、右書面作成当時は雇用期間の延長が前提となっていると主張するけれども、仮りに雇用期間延長の合意がされたとするなら、そのことが書面上明記されることが自然であって、そのような記載がないことは、そのような合意がなかったことをうかがわせる有力な資料といえる。他に雇用期間を変更する旨の合意があったことを認めるに足りる疎明はない。
4 そうすると、債権者バリーの雇用契約は昭和六〇年八月二八日をもって終了したものということになるから、その後も雇用契約が存続することを前提とする同債権者の本件申請は、その余の点について判断するまでもなく失当である。
三 債権者マクラウドについて
1 債務者会社が昭和六〇年一〇月七日債権者マクラウドを解雇する旨の意思表示をしたことは、当事者間に争いがない。そして、疎明資料によれば、右解雇は、外国人教職員就業規則二四条に基づく懲戒解雇であること、右規則二四条は、「会社は外国人教職員が次の事項に該当したときはこれを懲戒することができる。
懲戒はけん責、減給、出勤停止、懲戒解雇とし、情状によりこれを選択して行う。
(1)労働契約、会社の諸規則、及び正当な理由なく会社の指示・命令に反したとき。
(2)正当な理由なく無断欠勤・遅刻・早退があったとき。
(10)業務上の指揮命令に違反したとき。
(11)前各号に準ずる程度の不都合な行為をしたとき。」
と定めていることが一応認められる。
2 そこで、債権者マクラウドにつき、就業規則に定める懲戒理由があるか否かについて検討する。
(一)抗弁2の(二)について
債務者は、債権者マクラウドが外国人教師の採用、昇進、教育、解雇等に関する大幅な人事権を有する主任の地位にあるのにかかわらず、そうでないと虚偽の事実を吹聴し、労働組合を結成したと主張する。
同債権者が昭和六〇年五月二〇日ころ結成されたASA教師組合の委員長となったことは当事者間に争いがない。そして,疎明資料によれば、同債権者と債務者会社とは、昭和六〇年六月一〇日に同債権者が同年五月一六日付けで教師訓練の主任(SupervisorーTeacherーTraining)の地位に就くことに合意し、その旨の合意書(疎申第六号証)を作成したこと、右書面によれば、主任の責任は、「1現在の種々の組織に新任の教師を順応させること、2二日間のオリエンテーションの結果を新任の教師から報告させること、3WIカリキュラムを用いて新任の教師を訓練すること、4人事評価を行うこと、5授業を改善する方法を新旧の教師たちと討論すること、6ASAで用いることが可能な新技術を開発すること、7通常の授業を教えること、8会社が文書で指示するその他の責任を遂行すること」と記載され、その権限は、「1教師の授業のやり方を評価するために、教室で授業を聞くこと、2授業の改善や教材などの方法について、教師に助言すること、並びに水準以下にとどまっている授業に注意をうながすこと、3会社が特に文書によって付与するその他の権限」と記載されていることが、一応認められる。
右事実によれば、同債権者の有する権限は、外国人教師の教育、訓練に関する事項に限られ、採用、解雇に関する権限は全く有していないことが認められる。債務者会社代表者は、その審尋において、疎甲第六号証は同債権者の有する権限の一部を記載したにすぎず、また、同債権者は右書面が作成される以前の昭和五九年九月から債務者会社の実質的主任となり、外国人教師に関する採用、解雇を含む大幅な人事権を有していたと供述するけれども、その供述する実質的主任にはいかなる行為によって任命されたのか、実質的主任の権限の範囲はいかなるものであるかについての供述は極めてあいまいであって、にわかに信用することができない。その他同債権者が労働組合法二条一号に定める「雇入解雇昇進又は異動に関して直接の権限を持つ監督的地位にある労働者」であると認めるに足りる疎明はない。
従って、同債権者が虚偽の事実を吹聴し、労働組合を結成したことが懲戒の理由に該当するとの債務者会社の主張は理由がない。
(二)抗弁2の(三)について
(1)(三)の(1)について
疎明資料及び審尋の結果によれば、債務者会社が債権者マクラウドに対し教師訓練及びその他の主任業務に関する報告書の提出を求めたのは、同債権者が当初提出した報告書では主任業務を行ったとして賃金の支払をするには内容が具体的でなく賃金の支払をすることができないとしたからであって、同債権者が主任業務に従事したとする時間に対し賃金の支払をするか否かの判断に必要であったからにすぎないことが一応認められる。従って、その報告書が提出されないとかその内容が不十分であるからといって、そのことを賃金の支払をするか否かの資料にすることができることは格別、そのことをもって懲戒処分の理由とすることはできないといわなければならない。
(2)(三)の(2)について
疎明資料及び審尋の結果によれば、債務者会社は、昭和六〇年一月初旬、ロンドンにおいて、債務者会社の英国人の教師の採用面接を行ったこと、右面接は潮見社長、債権者マクラウド及び申請外ジェフ・バーグの三名が行ったこと、潮見社長は英会話が十分できないため、応募者への質問は主に同債権者及びジェフ・バーグが行ったこと、右採用面接の企画、立案は同債権者及びジェフ・バーグが行ったが、その実施の要領や契約条件については予め潮見社長や事務担当者と打合せを行い、潮見社長も知悉していたこと、採否の決定、契約書の締結には潮見社長も関与していたこと、債務者会社の右契約に関する照会について同債権者及びジェフ・バーグは一応の回答をしていること、が、一応認められる。そうすると、債務者会社が同債権者に対して具体的に採用の経過を文書により報告するよう求めたのは、どのような必要に基づくものかは理解し難いのであるが、その点はさておいても、同債権者及びジェフ・バーグは、照会に対する一応の回答をしているのであるから、債務者の主張は失当である。
(三)抗弁2の(四)について
まず、債務者は、債務者会社においては、欠勤する場合には、事前に届け出たうえ代替勤務要員を自ら手配して確保しなければならないこととされていると主張するけれども、欠勤の旨を数日前に届け出た場合のように使用者において代替勤務者の手配をする余裕のある場合にまで、代替勤務要員を自ら確保すべき義務が教師に生じるものとは到底解し難い(そのような場合には使用者において代替の勤務者を手配すべきである。)。以上のことを前提として、各個の主張について判断する。
(1)(四)の(1)について
債権者マクラウドが昭和六〇年七月一一日欠勤したことは当事者間に争いがないけれども、疎明資料及び審尋の結果によれば、当日は、東京都地方労働委員会において総評全国一般労働組合東京地方本部南部支部が債務者会社を相手として申し立てた不当労働行為救済申立事件の調査が予定されており、同債権者はその約一週間前に欠勤の届出をしたことが一応認められるから、この欠勤を懲戒の理由とすることはできない。
(2)(四)の(2)について
債務者は、債権者マクラウドが同年七月一六日の四時台のレッスンを無断欠勤したと主張するけれども、この点についての疎明はない。
(3)(四)の(3)について
債権者マクラウドが同年七月一七日及び一八日の両日にストライキと称して欠勤したことは、当事者間に争いがない。疎明資料及び審尋の結果によれば、同債権者は、債務者会社が同年七月一六日に同債権者に対して今後常にパープル(完全な初心者クラス)の授業を担当させるという授業の割当てをしたことに対して、抗議及び変更要求の趣旨で、ASA教師組合の所属する総評全国一般労働組合東京地方本部南部支部の指令に基づき指名ストライキを実行したものであることが一応認められる。そうすると、同債権者の右両日の欠勤は正当な争議行為であるから、これを理由として懲戒をすることは許されない。債務者は、ASA教師組合は労働組合としての資格を有しておらず、かつ、同債権者は人事権を有する管理職であるからストライキをすることは許されないと主張するけれども、同債権者が人事権を有する管理職とは認められないことは前記(一)のとおりであるし、債務者がASA教師組合を労働組合の資格を有しないとする理由も同債権者ら人事権を有する主任が役員になっているということであるところ、同債権者についてはその主張は失当であり、他の役員が人事権を有することについての十分な疎明もないから、債務者の主張は失当である。
また、債務者は、同債権者は七月一九日以降も二四日までストライキと称して欠勤したと主張するけれども、疎明資料及び審尋の結果によれば、同債権者は七月一九日にはストライキを解除したので授業の割当てをしてほしい旨申し出たのに対し、債務者会社においては正式なストライキ解除の通告がない以上就労を認めることはできないとして同債権者の就労を拒否したものであることが一応認められるから、債務者会社の主張は失当である。
(4)(四)の(4)について
債権者マクラウドが同年七月二九日に二時間無断欠勤したことは、当事者間に争いがない。
(5)(四)の(5)について
債権者マクラウドが同年九月三日から六日までの間有給休暇を取得すると称して欠勤したことは、当事者間に争いがない。同債権者につき年次有給休暇請求権が認められるか否かについては争いがあるけれども、審尋の結果によれば、同債権者が予め欠勤することを届け出たことが一応認められるから、これを理由として懲戒処分をすることは許されない。
(6)そうすると、抗弁2の(四)のうち、懲戒処分の理由となり得るのは、(4)の二時間の無断欠勤のみである。
(四)抗弁2の(三)について
疎明資料及び審尋の結果によれば、債務者会社の夏の休暇が終った翌日である昭和六〇年八月二一日に債権者マクラウドが出勤したところ、債務者会社の担当者は無断欠勤についての謝罪文を提出しない限り、授業の割当てをしないとし、同債権者はこれに抗議して授業を担当させるように要求し、翌二二日も同様のやりとりがあったこと、その後も債務者会社は同債権者に対して授業の割当てをしていないこと、債務者会社においては会社から授業の割当てがない限り、外国人教師は授業をすることができないことが、一応認められる。そうすると、同債権者が八月二一日以降授業をしていないのは、授業の割当てがないからであるということができる。これに対して、債務者は、授業の割当てをするには外国人教師の協力が必要であるのに同債権者がこれに協力しないため授業の割当てができないのであって、授業の割当てができないのは同債権者の側に責任があると主張する。そして、債務者会社の代表者はその審尋においてその旨の供述をしているほか、債務者会社の従業員もこれと同旨の陳述書を提出しており、これらの者は、債務者会社では、英会話の授業につき、フリータイム制、少人数制及びレベルの細分化制という三大特色を備えた制度を採用しているが故に授業の割当てにつき教師の協力が不可欠であるとしている。しかし、疎明資料及び審尋の結果によれば、債務者会社の採用している右の制度から帰結されることは、生徒は予約なしに何時でも授業を受けることができることとなっているため、ある特定の曜日の特定の時間帯に授業を受けにくる生徒の数及びその会話のレベルがその授業時間が開始される一〇分前にならなければ確定しないので、必然的にその時間帯に必要な教師の員数もその時間が開始される一〇分前にならなければ確定することができないということであって、これに対処するために債務者会社においては常にある特定の曜日の特定の時間帯に必要な教師の員数を予想し、それを確保するための作業を行わなければならず、仮りに右の予想が外れた場合には、一定の範囲内では一人の教師の担当する生徒数を増減することによって調整が可能であるが、その範囲を超えた場合には、登校した教師に授業を担当させない(生徒の人数が少なかった場合)とか、授業担当の予定がなかった教師に急拠授業の担当を命じる(生徒の人数が多かった場合)とかの措置を講じなければならないということが、一応認められる。従って、右に述べた限りでは、授業の担当について教師の側での協力が必要となるのであるけれども、教師の側からみた場合に、何曜日の何時限の授業を担当するかは、予め定まっているのであり、ただそれが一定の場合には変更を求められることがあり得るというにすぎない。それ故、債務者会社が教師に授業の割当てをするについて教師の協力が不可欠であるというのは、右のような予想外の事態に対拠する必要がある場合とか他の教師が欠勤する場合の代替授業の場合に限られるのであって、同債権者に全く授業の割当てをしなかったことにつき同債権者の協力がなかったことを理由としてこれを正当化することはできないというべきである。
そうであるとすれば、八月二一日以降の同債権者の態度が勤務意欲に欠けるとすることはできない。
(五)抗弁2の(六)について
疎明資料及び審尋の結果によれば、債権者マクラウドはASAの教師組合が結成されたことや、債務者会社との交渉の内容などを記載したビラを数回にわたり債務者会社の教師控室に掲示したり、他の従業員に配布したこと、しかし、右のビラの形状及び記載内容は債務者会社の秩序を乱すほどのものではないことが一応認められるから、このことが懲戒の理由になるとは考え難い。更に、債務者は、同債権者は就業時間内に他の外国人教師に対してASA教師組合に加入するように勧誘したと主張するけれども、これを認めるに足りる疎明はない。
(六)抗弁2の(七)について
(1)(七)の(1)について
債務者は、債権者マクラウドが業務報告書の提出を怠ったことを同債権者の勤務成績不良を裏付ける事実として主張するけれども、同債権者が報告書の提出を怠ったといえないことは前記(二)記載のとおりであるから、この点を懲戒処分の理由とすることはできない。
(2)(七)の(2)について
債務者は債権者マクラウドらが作成したカリキュラムについては、必要時間の二倍以上の時間を使って不十分なものしか作成できなかったと主張するけれども同債権者らがカリキュラム作成に必要時間の二倍以上の時間を使ったことを認めるに足りる疎明はない(疎乙第八八号証によっても右の事実を認める十分な疎明とはいい難い。)。
(3)(七)の(3)について
債権者マクラウドの欠勤について前記(三)のとおりである。
(七)以上のとおり、債務者の主張する解雇理由のうち、懲戒処分の理由となり得るのは、前記(三)の(4)の昭和六〇年七月二九日の二時間の無断欠勤のみであるが、これをもって解雇の理由とするのは解雇権の濫用であって、無効であることは明らかである。
3 以上のとおり、債権者マクラウドに対する解雇は無効であるから、同債権者は債務者会社の教師の地位を有していることになる。そして、疎明資料によると,同債権者の賃金は、勤務した時間に対する時間給(一時間当たり金三〇〇〇円)であって、月によって一定しないが、通常の月(五月、八月、九月及び一月以外の月)では概ね金三〇万円、五月(四月一六日から五月一五日までの勤務分)及び八月(七月一六日から八月一五日までの勤務分)については通常の月の半分の金一五万円、九月(八月一六日から九月一五までの勤務分)については通常の月の四分の三の金二二万五〇〇〇円、一月(一二月一六日から一月一五日までの勤務分)については通常の月の四分の一の金七万五〇〇〇円であることが、一応認められる。
4 次に、保全の必要性について検討すると、疎明資料及び審尋の結果によると、債権者マクラウドは英国人であって、我が国においては見るべき資産もなく、債務者会社から得る賃金で生計を維持していたが、本件解雇後は不安定なアルバイトや借金等で生計を維持していること、また、同債権者が我が国における在留資格を認められるためには一定の職業についていることが必要であることが、一応認められる。以上の事実及び疎明資料により認められる我が国における英会話教師の求人状況等を考えると、債務者会社の従業員の地位を仮に定めるとともに、賃金については、解雇の日からこの決定後一年間に限り、(既往の昭和六一年一二月までの分は金三六九万円となる。)、仮払いを命じる限度で保全の必要性があるものと認めるのが相当である。
四 むすび
よって、本件仮処分申請は、債権者バリーについては被保全権利の疎明がなく、保証をもってこれに代えることも相当でないから、これを却下し、債権者マクラウドについては、主文第一項及び第二項記載の限度で理由があるから保証を立てさせないでこれを認容し、その余の申請は理由がないから却下し、申請費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条ただし書を適用して、主文のとおり決定する。
昭和六二年一月二六日
東京地方裁判所民事第一九部