新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1381、2012/11/30 16:28 https://www.shinginza.com/qa-fudousan.htm
【民事・リゾートマンションの定住禁止の規約変更の有効性、条件・東京高裁平成21年9月24日判決】
質問:私は、10年前から、共用施設に温泉設備が備わったリゾートマンションを買い、住んでいます。最近、このリゾートマンションの管理組合から、「不定期に保養施設として使用する範囲を超えた使用を禁止する」規定を管理規約に盛り込むという提案がありました。私以外の区分所有者は、このマンションに定住していないため、区分所有者数及び議決権の各4分の3で可決されてしまい、改正された管理規約に基づいて、定住をやめるように管理組合からうるさく言われています。私はこのマンションに住み続けることはできないのでしょうか。それは困ります。
↓
回答:
1.今回の管理規約の改正は、リゾートマンションの一室に対する所有権を制限し、その結果、自由に使用収益できる権利を侵害する可能性が高いため、建物の区分所有に関する法律第31条1項後段により、管理規約の改正にあなたの同意が必要と考えられます。お住まいのマンションの性質にもよりますが、住み続けることができる可能性は十分にあります。
2.関連事例集検索:1202番、1122番、1108番、1105番、1071番、1029番、1023番、1013番、918番、872番、863番、791番、632番、531番、376番、220番、136番、107番、105番参照
解説:
1 マンションの性質について
(1)マンションのようにビル(一棟の建物)に構造上区分された数個の独立した部屋がある場合、ビル全体ではなく部屋ごとに所有権の目的とすることができることを定めた法律が「建物の区分所有等に関する法律」です。同法は、このような建物の所有権を「区分所有権」、建物を「専有部分」と呼ぶことを定めています。区分所有権は一棟の建物の一部であるため、民法上一個の不動産として所有権を認めると、他の区分所有者との権利の調整が問題となることから区分所有権として特別法で規制しているわけです。
(2)そして、同法三〇条で、「建物の使用に関する区分所有者相互間の事項は規約で定めることができる。」、とされていますから、あなたのお住まいのマンションの使用についても規約で定めることができることになります。
(3)温泉設備が備わったリゾートマンションとのことですが、確かに、日本各地には、温泉地内の保養目的のリゾートマンションが建築・販売されています。これらのマンションについては、やはり保養目的に主眼があることが多いのですが、とはいえ、管理規約において、「定住使用を禁止する」旨の明文がない場合には、保養目的のみでの使用を認め、住居としての利用を禁止することは難しいと考えられます。
(4)本件と似た事案について判断した東京高裁平成21年9月24日判決は、定住使用を禁止する条項について、「(対象マンション居室の売買)契約は本件マンションの各居室を住居の用に供することを前提としてその所有権を取引の対象とし、住居という語はその場所に定住するなどして一定期間継続して起居することを意味するのが通常であり、各居室の形状及び設備等は定住使用にも適するものと認めることができる。」と示し、各居室部分の売買契約書及び管理委託契約書の記載内容や、専有部分が定住使用にかなう設備であったことを理由に、定住使用を禁じるのであれば管理規約に明文の定めを要求しました。したがって、今回は、定住使用を禁止する旨の明文がない管理規約の改正となり、建物の区分所有に関する法律(以下では「区分所有法」といいます)31条1項で定める規約の変更に該当します。
2 規約の設定・変更における特別の影響について
次に、今回の提案が管理規約の改正に該当するとしても、区分所有法31条1項後段にいう「規約の設定、変更又は廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきとき」に該当する場合は影響を受ける区分所有者の承諾が必要となることから、あなたの承諾なくして管理規約を変更できるか問題となります。
(1)ここにいう「規約の設定、変更又は廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきとき」とは、最高裁平成10年10月30日第二小法廷判決により「規約の設定,変更等の必要性及び合理性とこれによって一部の区分所有者が受ける不利益とを比較衡量し,当該区分所有関係の実態に照らして,その不利益が区分所有者の受忍すべき限度を超えると認められる場合をいうものと解される」と示されています。そして、このような規定が設けられたのは、東京地裁平成19年7月26日判決によれば、「区分所有法31条1項後段の趣旨は,規約の設定,変更又は廃止を多数決で決するものとすると,多数者の意思によって少数者の権利を害するおそれが生じ,この弊害を除去し,規約の設定等によって区分所有者全般の受ける利益とこれによって一部の区分所有者が影響を受ける利益との調和を図る目的によるものであると解される」ためです。
(2)先に掲げた東京高裁判決は、リゾートマンションの専有部分の一つを所有していたという事実について、所有権の本質内容をその所有物を本来の用法に従って使用収益する権利と確認したうえで、「本件管理規約@(注:判決は、本件マンションの各居室を「不定期に保養施設として」使用する範囲を超えて使用することを原則として禁止する規定を指しています)は、控訴人X1の本件居室所有権の本質的内容に制約を加えるものと認めることができ、この規定を定めなければ他の居室所有者の権利が著しく害されることが避けられないなどの特段の事情がない限り、控訴人X1に受忍限度を超える不利益を与えるものと認めることができる」と示し、管理規約の変更により控訴人(所有者)が蒙る不利益が重大なものである以上、その同意を要すると判断したことになります。
3 本件に則した結論とは
本件についても、管理規約においてこれまでに定住使用が禁止されていなかったことに鑑みれば、定住使用の禁止を新たに定めることは管理規約の変更に該当し、区分所有法31条1項が適用されるする可能性が高いと思われます。また、マンションの販売や管理の実情にもよりますが、これまでは定住していたということですから、今回規約を改正して定住を禁止することは、一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすことは明らかですから同条後段の適用があり、影響を受ける区分所有者の承諾が必要となります。従って、管理組合があなたに対して改正後の管理規約を根拠として定住をやめろ、ということはできないことになります。
あなたから、管理組合の理事長に対して、内容証明郵便で定住利用をやめろという要請に対する回答をすることが考えられます。内容証明に記載することは、「@定住利用を禁止する管理規約の改正決議は、区分所有法31条1項により現に定住利用している私の承諾が必要である。A私はこの改正決議に承諾していないので、決議は有効に成立していない。従って定住利用を禁止する管理規約の改正は無効である。B管理規約の改正が無効であるのに定住をやめるように連絡してくることは、私にとって精神的苦痛であるので、これ以上、定住禁止について連絡して来ないで下さい。この要請を無視して定住禁止の連絡を継続する場合は、私に法的な損害が発生しますので、管理組合に対して損害賠償請求の法的な手続きを取らざるを得ませんので悪しからず了解下さい。なお、連絡方法が不相当な場合は、刑法223条強要罪の適用が問題となる可能性もあることを念のため申し添えます。」、というような内容になります。内容証明を自分で出すことに心配がある場合は、一度弁護士さんに相談してみると良いでしょう。
≪参照条文≫
建物の区分所有に関する法律
(区分所有者の団体)
第三条 区分所有者は、全員で、建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行うための団体を構成し、この法律の定めるところにより、集会を開き、規約を定め、及び管理者を置くことができる。一部の区分所有者のみの共用に供されるべきことが明らかな共用部分(以下「一部共用部分」という。)をそれらの区分所有者が管理するときも、同様とする。
(区分所有者の権利義務等)
第六条 区分所有者は、建物の保存に有害な行為その他建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為をしてはならない。
2 区分所有者は、その専有部分又は共用部分を保存し、又は改良するため必要な範囲内において、他の区分所有者の専有部分又は自己の所有に属しない共用部分の使用を請求することができる。この場合において、他の区分所有者が損害を受けたときは、その償金を支払わなければならない。
3 第一項の規定は、区分所有者以外の専有部分の占有者(以下「占有者」という。)に準用する。
(規約の設定、変更及び廃止)
第三十一条 規約の設定、変更又は廃止は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議によつてする。この場合において、規約の設定、変更又は廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない。
2 前条第二項に規定する事項についての区分所有者全員の規約の設定、変更又は廃止は、当該一部共用部分を共用すべき区分所有者の四分の一を超える者又はその議決権の四分の一を超える議決権を有する者が反対したときは、することができない。
(共同の利益に反する行為の停止等の請求)
第五十七条 区分所有者が第六条第一項に規定する行為をした場合又はその行為をするおそれがある場合には、他の区分所有者の全員又は管理組合法人は、区分所有者の共同の利益のため、その行為を停止し、その行為の結果を除去し、又はその行為を予防するため必要な措置を執ることを請求することができる。
2 前項の規定に基づき訴訟を提起するには、集会の決議によらなければならない。
3 管理者又は集会において指定された区分所有者は、集会の決議により、第一項の他の区分所有者の全員のために、前項に規定する訴訟を提起することができる。
4 前三項の規定は、占有者が第六条第三項において準用する同条第一項に規定する行為をした場合及びその行為をするおそれがある場合に準用する。
(使用禁止の請求)
第五十八条 前条第一項に規定する場合において、第六条第一項に規定する行為による区分所有者の共同生活上の障害が著しく、前条第一項に規定する請求によつてはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるときは、他の区分所有者の全員又は管理組合法人は、集会の決議に基づき、訴えをもつて、相当の期間の当該行為に係る区分所有者による専有部分の使用の禁止を請求することができる。
2 前項の決議は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数でする。
3 第一項の決議をするには、あらかじめ、当該区分所有者に対し、弁明する機会を与えなければならない。
4 前条第三項の規定は、第一項の訴えの提起に準用する。
(区分所有権の競売の請求)
第五十九条 第五十七条第一項に規定する場合において、第六条第一項に規定する行為による区分所有者の共同生活上の障害が著しく、他の方法によつてはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるときは、他の区分所有者の全員又は管理組合法人は、集会の決議に基づき、訴えをもつて、当該行為に係る区分所有者の区分所有権及び敷地利用権の競売を請求することができる。
2 第五十七条第三項の規定は前項の訴えの提起に、前条第二項及び第三項の規定は前項の決議に準用する。
3 第一項の規定による判決に基づく競売の申立ては、その判決が確定した日から六月を経過したときは、することができない。
4 前項の競売においては、競売を申し立てられた区分所有者又はその者の計算において買い受けようとする者は、買受けの申出をすることができない。