新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1382、2012/12/04 16:50 https://www.shinginza.com/qa-hanzai.htm

【刑事・児童福祉法と淫行させるの意味・淫行させた者が淫行行為の相手方になった場合は処罰されるか・その条件・東京高裁平成8年10月30日判決・大阪家庭裁判所平成17年1月11日判決】

質問:私は中高生を指導する学習塾の講師をしているのですが,17歳の生徒と交際するようになり,肉体関係をもってしまいました。私と生徒との関係を生徒の両親に気付かれ,両親が警察に通報した結果,自宅に警察官がきました。警察では何度か取調べを受けましたが,私の行為は児童福祉法違反の罪にあたり,刑罰は10年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金又は懲役刑と罰金刑の併科と言われています。今は,自分の行為の罪の重さを知り,生徒と両親にもたいへん申し訳なく思っており,この先どうすればよいのか途方に暮れています。生徒と両親に謝罪をしたいと考えていますが,現在の状況でそのような行動をとってよいものか,アドバイスをお願いいたします。

回答:
1.警察官は,あなたの行為が児童福祉法34条1項6号の「児童に淫行をさせる行為」に該当すると考えているものと解されます。しかし,同条項の文言からも明らかなとおり(「児童と淫行をした」のではなく「児童に淫行をさせる行為」を処罰の対象としていることから単に淫行をした場合とは異なります),同条項違反については,単純に児童(18歳未満に満たない者)と性交渉を持った場合に成立するものではありません。淫行をさせるという文言から児童が淫行をすることについての直接間接の事実上の影響力がある関係にある者がその影響力を行使して淫行させる行為が処罰の対象となります。そして,事実上の影響力が認められるか否かは,具体的に検討する必要があります。特に淫行の相手方となっている場合は,淫行にいたる場合に相手に対して何らかの影響力(誘い)があるのが通常でしょうから,どの程度の影響力があれば処罰の対象となるのかについては簡単に結論を出すことはできません。
2.ご相談の件でも,生徒とあなたの交際関係の実態をうかがう必要はありますが,場合によっては児童福祉法違反の罪には問われない可能性もあります。こうした犯罪については被害者や家族の被害感情に配慮する必要性が高いため,謝罪等についてもご自身だけで行おうとするのではなく,お近くの法律事務所に相談の上,慎重に対応方法を検討することをおすすめします。いかなる場合に児童福祉法違反が成立するのかの詳細については,以下の解説をご覧ください。
3.関連事例集1361番、1340番、1276番、1127番、823番、686番、639番、256番、185番参照


解説:
1(児童福祉法と青少年保護育成条例) 
 児童福祉法34条1項6号の処罰対象と青少年保護育成条例について
  児童福祉法34条1項は柱書で「何人も,次に掲げる行為をしてはならない。」と定め,同条項6号では「児童に淫行をさせる行為」と定めています。
  淫行を「させる」との文言によれば同号は,@児童に淫行をさせる者,A淫行をさせられる児童,B淫行の相手方の3者を想定しているものと解されます。そして,3当事者が存在する場合,同号の処罰の対象者は,@の淫行をさせる者であり,Aの児童はもちろん,Bの淫行の相手方についても原則として同号違反にはならないものと解されます。すなわち,淫行の相手方となった者は,淫行の相手方となったという一事をもってしては本号違反の罪はもちろん,本号違反の幇助犯としても責任を問われないと解されます。
  そこで,多くの自治体では青少年保護育成条例等の名称で,満18歳未満の者に対する淫行やみだらな性行為を禁じ,その相手方となった者を処罰の対象とする罰則を設けていることが通常です。

  参考までに東京都青少年の健全な育成に関する条例は18条の6で「何人も,青少年とみだらな性交又は性交類似行為を行つてはならない。」と定め,同条違反の罰則は,2年以下の懲役又は100万円以下の罰金となっており児童福祉法34条1項6号違反と比較した場合,軽い罰則となっています。
  児童福祉法34条1項6号違反について特に重い罰を科している趣旨は,児童は精神的にも肉体的にも未成熟であるため,そのような児童に淫行させる行為は児童の心身に与える有害性が特に大きいため,これを規制する必要性が高いという点にあります。自由意思で淫行を行う児童の相手方になるよりも,淫行させたものは児童の淫行の意思決定に影響を与えていることから違法性が大きという判断です。
  以下では,いかなる場合に条例違反にとどまらずに児童福祉法違反が成立するのかについて解説します。

2 「淫行をさせる行為」の意義について
(1)「淫行」について
  児童福祉法34条1項6号に定める「淫行」の意義については,反倫理的な性行為であって,「性交」に限らず「性交類似行為」をも含むと解されています(最高裁判所昭和47年11月28日決定)。

(2)「させる行為」について
  「させる」との文言については,他人に働きかけて何かを「させる」という使役の意味を有するので,当該他人の自発的行為である場合には,本来「させる」には該当しません。

  最高裁判所昭和40年4月30日決定は,本号の「淫行させる行為」について「直接たると間接たるとを問わず児童に対して事実上の影響力を及ぼして児童が淫行をなすことを助長し促進する行為をも包含する」と解しています。したがって,事実上の影響力が及んでいる限りは,外形的には児童が自発的に「淫行」に及んでいるような場合であっても,本号違反が成立しうることになります。
  そこで,「させる行為」と認められるかについては,いかなる場合に「事実上の影響力」が及んでいるかが問題となります。
  典型的な例としては,雇用等の従属関係があげられます。もっとも,こうした従属関係が必ずしも必要なわけではなく,対価を得て,児童が売春する際の場所を提供する場合や,児童に売春の相手方を紹介するなどの行為を行うような場合に,事実上の影響力を認めた裁判例もあります。

3 「させる行為」の行為者自身が淫行の相手方となる場合でも「淫行をさせる行為」といえるか
  本号は上記1で述べたとおり,@〜Bの3当事者の存在を想定しています。行為者自身が淫行の相手方となる場合,すなわち@とBが同一人物である場合に本号違反といえるかが問題となります。
  この点については,消極説と積極説とが対立していましたが,東京高等裁判所平成8年10月30日判決が以下のとおり積極説の立場の判断を示しました(最高裁判所平成10年11月2日決定で確定)。
  「児童福祉法34条1項6号は,「児童に淫行をさせる行為」を禁止しているところ,まず,規定の文言上,淫行の相手方を限定していないばかりでなく,右の「児童に淫行をさせる行為」は,文理上は,淫行をさせる行為をした者(以下「行為者」という。)が児童をして行為者以外の第三者と淫行をさせる行為と行為者が児童をして行為者自身と淫行をさせる行為の両者を含むと読むことができる。そして,前記1において述べた同法の基本理念や同法34条1項6号の趣旨目的に照らせば,同号にいう淫行の相手方が行為者以外の第三者であるか,それとも行為者自身であるかは,児童の心身に与える有害性という点で,本質的な差異をもたらすべき事項とは考えられない。

  もっとも,同号にいう「淫行をさせる行為」とは,行為者以外の第三者を相手方として淫行させることをいうもので,行為者が自ら児童と淫行する場合を含まない旨の所論に沿う見解も存在する。しかし,単に児童と淫行したに過ぎない者が同号に該当しないことは当然であるとしても,行為者が児童に対しいかに淫行を働きかけた場合であっても,行為者が自ら淫行の相手方になったときは,同号に該当しないこととなるとの点については,人を納得させるに足るだけの根拠が示されておらず,その点について合理的理由を見出すことも困難であって,右のような見解を採ることはできない。
  以上の次第で,同号にいう「児童に淫行させる行為」とは,行為者が児童をして第三者と淫行をさせる行為のみならず,行為者が児童をして行為者自身と淫行をさせる行為をも含むものと解するのが相当である。」

  上記のとおり,単に児童と淫行したに過ぎない者は児童福祉法34条1項6号に該当しないものの,行為者の児童に対する働きかけの態様によっては,同号違反が成立することになります。そして,いかなる程度の働きかけがあった場合に,同号違反が成立するかについては以下のとおり判示しています。
  「児童福祉法34条1項6号にいう淫行を「させる行為」とは,児童に淫行を強制する行為のみならず,児童に対し,直接であると間接であると物的であると精神的であるとを問わず,事実上の影響力を及ぼして児童が淫行することに原因を与えあるいはこれを助長する行為をも包含するものと解される(なお,最高裁判所昭和30年12月26日第三小法廷判決刑集9巻14号3018頁,最高裁判所昭和40年4月30日第二小法廷決定裁判集155号595頁参照。)。そして,前記2でみたとおり,同号には,行為者が児童をして行為者自身と淫行をさせる行為を含むと解すべきところ,同号が,いわゆる青少年保護育成条例等にみられる淫行処罰規定(条例により,何人も青少年に対し淫行をしてはならない旨を規定し,その違反に地方自治法14条5項の範囲内で刑事罰を科するもの)とは異なり,児童に淫行を「させる」という形態の行為を処罰の対象とし,法定刑も最高で懲役10年と重く定められていること等にかんがみれば,行為者自身が淫行の相手方となる場合について同号違反の罪が成立するためには,淫行をする行為に包摂される程度を超え,児童に対し,事実上の影響力を及ぼして淫行をするように働きかけ,その結果児童をして淫行をするに至らせることが必要であるものと解される。」

  本解説と上記判旨でも述べているとおり,「淫行させる行為」に該当するためには,児童に対し,事実上の影響力が及んでいることが必要です。そして,「させる行為」の行為者自身が淫行の相手方となる場合には,「淫行をする行為に包摂される程度を超え」るような事実上の影響力が及んでいることが必要となります。
  したがって,行為者自身が児童に対して淫行行為に及んだ場合,「淫行をする行為に包摂される程度を超え」るような事実上の影響力の有無が,青少年保護育成条例違反と児童福祉法違反の分水嶺になるといえます。

4(民法上の婚姻適齢)
  民法731条は,婚姻適齢として,男子18歳,女子16歳と規定しています。当然,16歳以上の女性が結婚すれば性交渉し,妊娠したり出産したりすることになります。17歳の女性は,結婚することができますし,婚約することもできます。
  従って,17歳の女性が,自己の判断で,真摯に相手方男性と結婚する意思を有し,年上の男性と性交渉しても,何ら倫理に反するものではなく,刑罰法規に違反することにもなりません。前記の児童福祉法の「淫行」や「淫行させる」行為の解釈において,このような真摯な男女交際に基づく性行為は除外されることになります。但し,男性側が既婚者であって,男女関係が不貞の交際になるような場合は,倫理に反する性行為として,淫行概念に含まれる可能性が高くなるので注意が必要です。

5(ご相談の件の検討)
  あなたは中高生を指導する学習塾の講師という立場で,児童は17歳の女子生徒ということですので,あなたは生徒に対し,上記裁判例が述べる「事実上の影響力」を容易に及ぼしうる関係にあったといえます。しかし,このような外形上の関係から,直ちに「事実上の影響力」が認められるわけではありません。

  大阪家庭裁判所平成17年1月11日判決は,店長が16歳のアルバイト店員と閉店後の店内等で性交行為等をした事案において,「事実上の影響力」が認められないことを理由に児童福祉法違反を否定しました。同裁判例では,両当事者の供述の信用性と性交行為に至る経緯について詳細に検討した上で,結論を導いています。同裁判例では,関係証拠から認められる事実に照らし,性交行為に至った経緯や性交行為の状況等に関する16歳のアルバイト店員の供述の採用を否定する一方で,店長の供述については採用しています。以下,参考のために裁判所が関係証拠から認定した事実と,性交行為に至った経緯や性交行為の状況等に関する店長の供述を引用します。

  「関係証拠を総合すると,〔1〕被告人とBとは,同女の入店以来,職場の休憩時間を近くの喫茶店で2人で過ごすことも多く,また,携帯電話によるメールの交換も頻繁に行い,本件当日には,被告人は,Bの頼みを聞き入れて同女の電車定期券購入のために駅まで同女に同行するなどしており,このように,かねてより2人は相当親密な関係にあり,Bが被告人を嫌っているような状況にはなかったことが窺われること,〔2〕本件当夜,Bは,閉店後の経理処理と更衣を終えて店に戻った後,被告人が店内で1人で飲酒している様子を認めながら,同僚のCが午後11時前ころに店を出た際に同女と行動を共にせず,被告人と2人だけになるのにあえて店内に残っていたこと,〔3〕そして,同日午後11時30分ころ,Cが忘れ物を取りに店に戻った際,被告人とBは店内の椅子に並んで腰かけて談笑しており,Bは,その後まもなくCが再び同店を離れる際にも,同女と共に店を出る素振りを示さなかったこと,〔4〕Bは,当夜は,閉店後,当時の交際相手のDと本件店の近くで待ち合わせる約束をしていたのに,翌15日午前1時すぎころ,同人に対し,携帯電話で「酔ってべろべろの状態」との趣旨のメールを送付するまでの間,同人からは何度も同女宛に携帯電話で連絡をしているにもかかわらず,同女の方からDに連絡を取ろうとした形跡がほとんどないこと,〔5〕本件における被告人との2度の性交行為や口淫等の際,Bは,被告人に対し,これを拒絶する旨の言動を一切取っていないこと,〔6〕被告人の所持する携帯電話には,店内での性交行為を終えて店外に出た後に被告人が同電話を用いて撮影した,あたかもキスを求めるかのようなBの顔面の画像が残されていることなどの事実が認められ,この認定を左右するに足る証拠はない。」

  「「本件当夜,自分が店内で1人で飲酒していた際,Bにチューハイを作ってくれるよう頼んだところ,同女が『私も飲んでいいですか。』というので一緒に飲むことになった。店内に同女と2人きりになった後,同女が進んで自分の横に座り,2人で飲みながら話しているうち,同女が『ラブホ(ラブホテルのこと)に連れて行ってくれるのか。』というようなことを言いだしたことを契機に自分が同女にキスをし,忘れ物を取りに帰ってきたCが店を出た後,Bが,今日はラブホテルへ行く時間がないというので店内で関係を持つことになり,同女の求めに応じて,自分が同女を抱き上げて店の奥の席に行った上同女の背後から同女と性交行為をし,その後,帰宅のため2人で店外に出て○○内を歩いているうち,同女の方から再度の関係を求めてきたため,店内におけると同様の体位で同女と性交行為をした。」というものであるところ,この供述は,全体として具体的かつ詳細であって,供述自体にその信用性を疑わせるような不自然,不合理な点は見当たらない上,捜査段階から一貫しており,また,上記認定の〔1〕ないし〔6〕の各事実との間に格別の齟齬がないことに加え,関係証拠によれば,Bは,本件の2週間ほど前にいわゆるナンパをされて知り合ったDとの間で,その後本件に至るまでの間に何度か肉体関係を持ったことがあると認められることをも併せ考慮すると,被告人の上記供述を直ちに虚偽のものとして排斥するのは躊躇され,本件各性交行為が被告人の述べるような経緯ないし状況の下で行われた可能性を否定し去ることはできないように思われる。」

  上記大阪家裁判例から「事実上の影響力」の判断に関する一般論を抽出するのは困難ですが,行為者と児童がかねてから親密な関係にあったことや,児童からの求めに応じて行為者が性交等に及んでいるという点は,同裁判例の判断においても重視されたものと考えられます。
  ご相談の件においても,あなたが生徒と性交や性交類似行為に及ぶまでの経緯が重要となります。上記大阪家裁裁判例は,児童福祉法違反の成立を否定した裁判例ではありますが,あくまで一つの事例に過ぎませんので,事実上の影響力を否定する事情としては,かねてからの親密な関係や児童からの求めに応じた性交という事情に限られません。
  児童福祉法違反の成立を否定する弁護活動が可能かについては,あなたと生徒との普段からの関係も含めて詳細に事情をうかがう必要がありますので,早期にお近くの法律事務所にご相談されることをおすすめします。

<参照条文>

児童福祉法
34条 何人も,次に掲げる行為をしてはならない。
  6号 児童に淫行をさせる行為
60条
 1項 第三十四条第一項第六号の規定に違反した者は,十年以下の懲役若しくは三百万円以下の罰金に処し,又はこれを併科する。

民法731条(婚姻適齢)男は,十八歳に,女は,十六歳にならなければ,婚姻をすることができない。



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