新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1385、2012/12/07 10:58
【民事・製造物に関する責任・大阪地方裁判所平成6年3月29日判決・神戸地方裁判所平成21年1月27日判決】
質問:知人が飲食店を経営していましたが,先日,製氷機から出火し,店が全焼してしまいました。製氷機は中古品を約5年前にオークションで購入したもので,売主の連絡先はもうわからないそうです。製造後の年数は12年程度だそうです。製氷機のメーカーに対して,弁償等の請求はできませんか?
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回答:
1.購入した機械に欠陥があり、そのため事故が起きて損害が発生した場合、売主と機械のメーカーに対する損害賠償請求が考えられます。
2.売主に対する損害賠償としては、購入してから10年間は売主の瑕疵担保責任を根拠とする請求が可能ですが、売主の連絡先が不明であること、現実の問題として請求は不可能です。
3.機械のメーカーに対しては、製造物責任法上の責任を問うことができますが,製造後12年経過しているということですから、引渡しから10年の消滅時効が経過してしまっている可能性があります。
4.製造物責任法の消滅時効が成立していても民法上の不法行為による損害賠償請求は可能ですが,メーカーの機械の製造について欠陥を生じさせたことについての故意過失を立証する必要があります。故意があるということはないでしょうから、過失の主張、立証ということになりますが、そのためには機械の欠陥、欠陥から損害が発生する経緯の詳細、製造当時の技術を基準として損害が発生する予見可能性と損害の発生の回避可能性についての主張立証が必要になり、現実的には,勝訴見込みは低いでしょう。
5.関連事例集論文1051番参照
解説:
1 商品の欠陥に関する法律問題
(売主の瑕疵担保責任)
買った商品に欠陥があり,そのために損害を被った場合,誰に対しどのような法的理論で賠償請求ができるでしょうか。まず考えられるのが,直接の売主に対する請求です。売主と買主との間には売買契約が成立しており,この売買契約の効果として,商品の欠陥に対する損害賠償請求も認められます(瑕疵担保責任。民法570条)。しかし,瑕疵担保による損害賠償請求権には消滅時効(民法167条)の規定の適用があり(最高裁平成13年11月27日判決),引渡しから10年で時効が成立します。本件では,中古で購入されてから10年は経過していませんが,相手の所在がわからないようなので,現実的ではありません。
(製造物責任)
次に,メーカーに対する請求を考えることになりますが,通常の場合,ここで使えるのが製造物責任法です。製造物責任法はもともと,メーカーと一般消費者との力の差を考慮して,民法上の不法行為の立証の負担を緩和するために立法された法律で,ごく簡単に言うと,消費者側で「メーカーに故意過失があったこと」を立証するのではなく,メーカー側で「故意過失がなかったこと」を立証させるようにしたものです(詳細は当事務所事例集1051番を参照。)。
しかし,製造物責任法で立証責任が緩和された請求を行うためには,同法が定める期間制限があります(5条)。その期間制限とは引渡しから10年であり,本件ではこの方法も取れないことになります。
(民法の不法行為責任)
そこで,残された方法としては,民法上の不法行為に基づく損害賠償請求です。製造物責任法による立証責任転換の恩恵を得られないので,原則に戻り,メーカーの故意過失を立証しなければなりません。
2 故意過失の立証
商品の欠陥について,メーカーに故意過失があったことを立証するとは,どのようなことか考えてみます。メーカーが作る商品は安全性を備えているべきであり,安全性に欠ける製品を作ったならばすなわちメーカーの落ち度であって,過失がある,といえるでしょうか。そうであれば簡単ですが,それでは結果責任論と同じであり,過失を立証したことにはなりません。過失があったと言えるためには、注意義務違反が必要ですが、注意義務違反があったとされるには、結果の予見可能性とそれを前提とする結果予見義務違反、結果回避可能性を前提とする結果回避義務違反が認められる必要があります。製造当時の技術水準では予見し得ない欠陥、損害の発生する可能性もある以上,欠陥の存在だけではなく,過失そのもの,すなわちメーカーが当時果たすべき注意義務を果たさなかった事実を立証しなければならないと解されます。
この点,古い下級審判例(参考判例@参)には,消費者保護を重視して限りなく結果責任論に近い緩やかな過失認定をしたものも見られました。しかし,製造物責任法が制定された現在,そのような法解釈による救済の必要性は限定的であり,そのままの形で参考にすることはできません。近時の判例には,欠陥の存在から過失を推認しうることは認めても,単なる欠陥ではなく,「予見可能な危険を生ぜしめる欠陥」の存在を要求しているものが見られます(参考判例A)。
本件でも,不法行為に基づいて損害賠償請求が認められるためには,単に商品が火災の原因となったことを立証するだけでは到底足りず,具体的にどのような部品に不具合があり,どのような機序で危険が発生するのかを特定し,それが当時メーカーにおいて予見可能であったことを示さなければならず,かなり困難な立証となることが予想されます。
(参考判例@ 大阪地方裁判所平成6年3月29日判決)
(三) 過失について
(1) 製品の利用に起因する損害を、何びとが、どのような要件のもとに負担するかは、社会生活上の危険をいかに配分するかという国民全体のコンセンサスに関わる問題であるから、国民の立法的選択を経ずに、裁判所が直ちに厳格責任あるいは無過失責任の制度を採用することはできないというべきであって、製造物責任を、厳格責任あるいは無過失責任と解すべきであるとの原告の主張は、現行不法行為法の解釈としては採りえないところである。
(2) したがって、製造物責任について特別の立法がなされていない以上、現行不法行為法の原則に従い、利用者は、製造者の故意または過失を立証しなければならないが、製品に欠陥のあることが立証された場合には、製造者に過失のあったことが推認されると解すべきである。
けだし、製品が不相当に危険と評価される場合には、そのような危険を生じさせた何らかの具体的な機械的、物理的、化学的原因(欠陥原因)が存在するはずであるが、一般に流通する製品の場合、利用する時点で製品に欠陥が認められれば、流通に置かれた時点で既に欠陥原因が存在した蓋然性が高いというべきであるし、さらに、製造者が安全性確保義務を履行し、適切に設計、製造等を行う限り、欠陥原因の存する製品が流通に置かれるということは通常考えられないから、欠陥原因のある製品が流通に置かれた場合、設計、製造の過程で何らかの注意義務違反があったと推認するのが相当だからである。
(3) 右のとおり、製品の欠陥が認められれば、製造者の過失が推認されるから、利用者は、それ以上に欠陥原因や注意義務違反の具体的内容を解明する責任を負うものではなく、製造者が責任を免れるには、製造者において欠陥原因を解明するなどして右の推認を覆す必要があるというべきである。
けだし、もし利用者において欠陥原因及び注意義務違反の内容を具体的に立証しなければならないとすれば、特別な知識も技術も有しない利用者が、主として製造者の支配領域に属する事由を解明しなければならないことになり、製品が完全に損壊し欠陥原因の特定ができなくなった場合には、製造者は常に免責されることになることなどを考慮すると、右のように解することが損害の公平な分担という不法行為法の本旨にそうからである。
(参考判例A 神戸地方裁判所平成21年1月27日判決)
本件が不法行為に基づく損害賠償請求である以上,原告が被告における故意・過失を立証すべきことは当然であり,原告の上記主張は採用できない。ただし,上記のとおり,自動車製造者には,欠陥車を製造・販売しない注意義務があるのであるから,本件各車両において,予見可能な危険を生ぜしめる欠陥が存在すると認められる場合には,上記の予見可能な危険を回避して安全な自動車を製造する義務に違反しているといえるから,被告の過失であるということができる。
そして,ここでいう欠陥とは,製造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいい,本件各車両(トラック,ダンプ)の特性,使用形態,製造・引渡時期,事故(不具合)の内容その他の事情から判断すべきものと解される。
(参照条文)
製造物責任法
第三条 製造業者等は、その製造、加工、輸入又は前条第三項第二号若しくは第三号の氏名等の表示をした製造物であって、その引き渡したものの欠陥により他人の生命、身体又は財産を侵害したときは、これによって生じた損害を賠償する責めに任ずる。ただし、その損害が当該製造物についてのみ生じたときは、この限りでない。
第五条 第三条に規定する損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び賠償義務者を知った時から三年間行わないときは、時効によって消滅する。その製造業者等が当該製造物を引き渡した時から十年を経過したときも、同様とする。
2 前項後段の期間は、身体に蓄積した場合に人の健康を害することとなる物質による損害又は一定の潜伏期間が経過した後に症状が現れる損害については、その損害が生じた時から起算する。