新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1386、2013/01/08 10:33
【民事・相手方の住所が不明な場合に債権者が取る手続き対策・弁護士照会・強制執行・給料差し押さえ】
質問: 私は,Yに駐車場を貸していたのですが,長期間の駐車場代を滞納したまま,自動車ごといなくなってしまいました。彼の携帯電話にも何度か架けてみたのですが,呼出しはするのですが,一向に出てくれず,折返しもありません。把握していた居住先(賃貸)も既に引き払っており,いわゆる第三者請求(住民基本台帳法12条の3第1項1号)で住民票を取得してみたのですが,引き払った住所のままでした。このような状況ですと,弁護士に依頼しても駐車場代を回収することはできないのでしょうか。
↓
回答:
1 仮に弁護士が電話しても出てくれず,また出たとしても現住所も教えてくれず誠実な応対がない場合であるとしても,全く手がないわけではありません。
2 まず,携帯番号がわかるとのことなので,弁護士会照会という制度(弁護士法23条の2)を利用して携帯会社に情報の提供を求めると,通信料請求書の送付先がわかります。そして,この請求書の送付先が実際の居住先である可能性が高いです。
まれに請求書の送付先がある会社の担当部署としていることがあり,そうすると,実際の居住先がわからずとも,そこがYの就業先である可能性が高く,後の強制執行の手続まで考えると,むしろ好都合といえます。
3 Yの実際の居住先がわかったならば,そこを訴状の送達先として,Yに賃料請求の訴訟を提起します。
仮に通信料請求書の送付先が,ある会社の担当部署となっていた場合でも,最終的には「会社の担当部署」をYの就業先として,裁判所に就業場所送達の上申をすることにより,訴訟を進めることは可能です。
4 訴訟で,Yが出廷するのであれば,多少譲歩して訴訟上の和解をすることも考えられます。もっとも,Yの財産が特定できている場合,特に就業先が判明している場合は,後の強制執行(給与債権の差押え)は効果が期待できるので,よほどYが譲歩した和解案が出てこなければ判決をもらってしまってよいでしょう。
5 Yの就業先が判明しており,確定判決を得た場合,それでもYが任意の支払をしてこなければ,強制執行の手続に進むことになります。給与債権を差し押さえると,原則としてYの毎月の給与債権の4分の1に当たる部分について,あなたの,判決で認められた賃料債権の総額に充足するまで,Yの就業先に請求することができます。もっとも,Yとしては,就業先に迷惑はかけたくないとして,任意の支払を持ちかけてくる可能性があります。その場合には,とりあえずYの就業先には請求せずおいて,Yが賃料債権を完済したならば,給与債権差押えの申立を取り下げればよいでしょう。
6 関連事例集論文1338番、1136番、1000番、973番、911番、756番、749番、745番、694番、666番、532番参照。
解説:
1 弁護士会照会
相手の住所が不明ということですが,携帯番号がわかるとのことなので,弁護士会照会という制度(弁護士法23条の2)の利用が考えられます。
(1) 弁護士会照会とは,弁護士が受任している事件について,所属弁護士会に対し,公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることを申し出る手続をいい,これは受任事件について訴訟資料を収集し職務活動を円滑に執行処理するため手段として用いられています。
照会権を有しているのは弁護士会であるため,弁護士や弁護士法人は各所属弁護士会に照会申請を行い,申出を受けた弁護士会は審査の上で照会先へ申出書を送付し,その後,照会先から申請者へ回答書が送付されるという仕組みになっています。
(2) 携帯会社に弁護士会照会をすると,@契約者住所,A請求先住所,B支払方法等がわかります(もっとも,ソフトバンクは,以前は照会に応じていましたが,現在は一律回答拒否の扱いのようです。)。
(3) そして,上記Aが実際の居住先である可能性が高いです。
まれに請求書の送付先がある会社の担当部署となっていることがあり,そうすると,実際の居住先がわからずとも,そこがYの就業先である可能性が高く,後の強制執行の手続まで考えると,むしろ好都合といえます。
(4) なお,上記Bについて,支払方法が銀行引落しの場合,預金口座の情報もわかります。
もっとも,近時,口座情報のプライバシー保護の観点から,弁護士会の審査が厳しくなってきております。例えば東京弁護士会においては,確定判決等の債務名義(強制執行をするための根拠,民事執行法22条)が存在する場合は問題ないのですが(従前は住所が判明していたので訴訟ができたがその後に所在が不明となってしまった場合、強制執行の準備としてその時点での所在を確認する必要があります),そうでない場合は,相手方に対する権利性の高さや,差押え,仮差押えの必要性の高さについての具体的な事情が必要となっております(勝訴の可能性等の説明が必要とされます)。
2 訴訟提起
(1) 実際の居住先がわかったならば,そこを訴状の送達先として(民事訴訟法103条2項),Yに賃料請求の訴訟を提起します。
(2) 仮に通信料の請求書の送付先が,ある会社の担当部署となっていた場合でも,最終的には「会社の担当部署」をYの就業先として,裁判所に就業場所送達(民事訴訟法103条2項)の上申をすることにより,訴訟を進めることは可能です。
もっとも,Yが郵便物転送の届出をしている場合もありますので,その可能性にかけて,まずは住民票上の住所を訴状の送達先として訴訟を提起する(転送がかからなく不送達となった場合に,裁判所に就業先送達の上申をするのが一般であると思われます。)。
(3) 住民票所在地に居住していないということであれば、居所不明ということで、公示送達(民事訴訟法110条)による訴訟提起という手段も考えられます。駐車場債権は定期金債権ということで、民法169条により5年経過で債権が時効消滅してしまいますが、勝訴判決を得れば民法174条の2により時効期間が10年間に延長されます。10年の間、定期的に住民票(戸籍附票)の第三者請求をすれば、住民票が移転された時に、新しい住所地が判明しますので、その住所宛に請求を再開することができます。相手方も、当面の間は、住民票を移転せず請求を逃れたつもりかもしれませんが、就職や転職や、結婚や子供の小学校入学などで、必ず、住民票の移転が必要になってきます。10年間の間には、そのような変化を生じることが多いですから、勝訴判決をとって根気強く住民票の移転を待つ、という方法もひとつの手段と言えるでしょう。
3 訴訟上の和解,判決
(1) 訴訟で,Yが出廷するのであれば,多少譲歩して訴訟上の和解(民事訴訟法89条,267条参照 例えば分割払い等支払い方法に関する和解)をすることも考えられます。特にYの財産を特定できていない場合は,判決をもらっても強制執行の手続に進むことは困難なので,そのようにした方がよいかもしれません。
(2) Yの財産,特に就業先が判明している場合(前記1(2)参照)は,後の強制執行(給与債権の差押え)は効果が期待できるので(後記4(1)参照),よほどYが譲歩した和解案が出てこなければ判決をもらってしまってよいでしょう。
これに対して,Yの財産としては預金口座しかわからないという場合(前記1(3)参照)は,後の強制執行の効果はそれほど期待できるわけではないことから(後記4(2)参照),判決までいくか,ある程度のところで譲歩して訴訟上の和解にするかは,その口座の情報をどれだけ把握しているか(例えば毎月○日あたりには多額の入金がある等)によるでしょう。
4 強制執行
(1) Yの就業先が判明しており,確定判決を得た場合,それでもYが任意の支払をしてこなければ,強制執行,特に給与債権の差押えの手続に進むことになります。給与債権を差し押さえると,差押えの後にYが就業先から受けるべき
@ 給料(基本給と諸手当。ただし,通勤手当を除く)から所得税,住民税,社会保険料を控除した残額の4分の1(ただし,上記残額が月額44万円を超えるときは,その残額から33万円を控除した金額)
A 賞与から@と同じ税金等を控除した残額の4分の1(ただし,上記残額が44万円を超えるときは,その残額から33万円を控除した金額)
B @Aにより弁済しないうちに退職した時は,退職金から所得税,住民税を控除した残額の4分の1
について,あなたの,判決で認められた賃料債権の総額に充足するまで,Yの就業先に請求することができます(民事執行法151条,152条1項2号,同条2項,155条1項,民事執行法施行令2条)。
もっとも,Yとしては,就業先に迷惑はかけたくないとして,任意の支払を持ちかけてくる可能性があります。その場合には,とりあえずYの就業先には請求せずおいて,Yが賃料債権を完済したならば,給与債権差押えの申立を取り下げればよいでしょう(給与債権を差し押さえた場合、とりあえず会社は従業員に給与の支払いを停止するというだけで、すぐに差し押さえた人に支払うということはありません。会社に対し支払いを請求する場合は、会社に対して取り立てる必要があり、取り立てを強制するには取り立て訴訟という別の裁判をして会社に対して強制執行をする必要があります。このような事態は債権者にとって面倒ですし、会社にとっても面倒です。そのため会社も従業員に迷惑だから解決するよう指示するのが普通です。そのため任意に弁済を受け給与の差押は取りげるという手続きが多くみられます。)
(2) Yの預金口座を把握しており,確定判決を得た場合,それでもYが任意の支払をしてこなければ,強制執行,特に預金債権の差押えの手続に進むことになります(預金口座の情報は,通常,支店名まで把握している必要があります。)。
もっとも,差押えの効力が生じるのは差押命令が銀行に送達した時であり(民事執行法145条4項),その時点での残高額を,銀行に請求することができます(同法155条1項)。裏を返すと,その時点で残高が少なければ,預金債権を差し押さえてもあまり効果がないということになります。特に,差押命令はYにも送達されるところ(同法145条3項),一度その口座があなたに把握されていることを知ったYは,もはやその口座に多額の金銭を預金することはないでしょう(これに対し給与債権については,Yが就業先を辞めない限り発生し続けるものであり,彼がよほど根無し草のような生活をしているのでない限り,給与債権が差し押さえられたからといってそう簡単に就業先を辞めることはないでしょう。)。
そのようなことから,預金債権を差し押さえる際には,Yに対しあなたが口座情報を把握していることを悟られないようにしつつ,かつ,慎重に時期を選ぶべきです(例えば毎月○日には給与振込みがあることを把握している場合には,その直後に差押命令が銀行に送達されるように,裁判所にもその旨上申しつつ申し立てるべきです。)。
《参照条文》
住民基本台帳法
(本人等以外の者の申出による住民票の写し等の交付)
第12条の3 市町村長は,前2条の規定によるもののほか,当該市町村が備える住民基本台帳について,次に掲げる者から,住民票の写しで基礎証明事項(第7条第1号から第3号まで及び第6号から第8号までに掲げる事項をいう。以下この項及び第7項において同じ。)のみが表示されたもの又は住民票記載事項証明書で基礎証明事項に関するものが必要である旨の申出があり,かつ,当該申出を相当と認めるときは,当該申出をする者に当該住民票の写し又は住民票記載事項証明書を交付することができる。
一 自己の権利を行使し,又は自己の義務を履行するために住民票の記載事項を確認する必要がある者
二 国又は地方公共団体の機関に提出する必要がある者
三 前2号に掲げる者のほか,住民票の記載事項を利用する正当な理由がある者
2 市町村長は,前2条及び前項の規定によるもののほか,当該市町村が備える住民基本台帳について,特定事務受任者から,受任している事件又は事務の依頼者が同項各号に掲げる者に該当することを理由として,同項に規定する住民票の写し又は住民票記載事項証明書が必要である旨の申出があり,かつ,当該申出を相当と認めるときは,当該特定事務受任者に当該住民票の写し又は住民票記載事項証明書を交付することができる。
3 前項に規定する「特定事務受任者」とは,弁護士(弁護士法人を含む。),司法書士(司法書士法人を含む。),土地家屋調査士(土地家屋調査士法人を含む。),税理士(税理士法人を含む。),社会保険労務士(社会保険労務士法人を含む。),弁理士(特許業務法人を含む。),海事代理士又は行政書士(行政書士法人を含む。)をいう。
4 第1項又は第2項の申出は,総務省令で定めるところにより,次に掲げる事項を明らかにしてしなければならない。
一 申出者(第1項又は第2項の申出をする者をいう。以下この条において同じ。)の氏名及び住所(申出者が法人の場合にあつては,その名称,代表者又は管理人の氏名及び主たる事務所の所在地)
二 現に申出の任に当たつている者が,申出者の代理人であるときその他申出者と異なる者であるときは,当該申出の任に当たつている者の氏名及び住所
三 当該申出の対象とする者の氏名及び住所
四 第1項に規定する住民票の写し又は住民票記載事項証明書の利用の目的
五 第2項の申出の場合にあつては,前項に規定する特定事務受任者の受任している事件又は事務についての資格及び業務の種類並びに依頼者の氏名又は名称(当該受任している事件又は事務についての業務が裁判手続又は裁判外手続における民事上若しくは行政上の紛争処理の手続についての代理業務その他の政令で定める業務であるときは,当該事件又は事務についての資格及び業務の種類)
六 前各号に掲げるもののほか,総務省令で定める事項
5 第1項又は第2項の申出をする場合において,現に申出の任に当たつている者は,市町村長に対し,第30条の44第1項に規定する住民基本台帳カードを提示する方法その他の総務省令で定める方法により,当該申出の任に当たつている者が本人であることを明らかにしなければならない。
6 前項の場合において,現に申出の任に当たつている者が,申出者の代理人であるときその他申出者と異なる者であるときは,当該申出の任に当たつている者は,市町村長に対し,総務省令で定める方法により,申出者の依頼により又は法令の規定により当該申出の任に当たるものであることを明らかにする書類を提示し,又は提出しなければならない。
7 申出者は,第4項第4号に掲げる利用の目的を達成するため,基礎証明事項のほか基礎証明事項以外の事項(第7条第13号に掲げる事項を除く。以下この項において同じ。)の全部若しくは一部が表示された住民票の写し又は基礎証明事項のほか基礎証明事項以外の事項の全部若しくは一部を記載した住民票記載事項証明書が必要である場合には,第1項又は第2項の申出をする際に,その旨を市町村長に申し出ることができる。
8 市町村長は,前項の規定による申出を相当と認めるときは,第1項に規定する住民票の写し又は住民票記載事項証明書に代えて,前項に規定する住民票の写し又は住民票記載事項証明書を交付することができる。
9 第1項又は第2項の申出をしようとする者は,郵便その他の総務省令で定める方法により,第1項に規定する住民票の写し又は住民票記載事項証明書の送付を求めることができる。
弁護士法
第23条の2 弁護士は,受任している事件について,所属弁護士会に対し,公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることを申し出ることができる。申出があつた場合において,当該弁護士会は,その申出が適当でないと認めるときは,これを拒絶することができる。
2 弁護士会は,前項の規定による申出に基き,公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができる。
民事訴訟法
(和解の試み)
第89条 裁判所は,訴訟がいかなる程度にあるかを問わず,和解を試み,又は受命裁判官若しくは受託裁判官に和解を試みさせることができる。
(送達場所)
第103条 送達は,送達を受けるべき者の住所,居所,営業所又は事務所(以下この節において「住所等」という。)においてする。ただし,法定代理人に対する送達は,本人の営業所又は事務所においてもすることができる。
2 前項に定める場所が知れないとき,又はその場所において送達をするのに支障があるときは,送達は,送達を受けるべき者が雇用,委任その他の法律上の行為に基づき就業する他人の住所等(以下「就業場所」という。)においてすることができる。送達を受けるべき者(次条第1項に規定する者を除く。)が就業場所において送達を受ける旨の申述をしたときも,同様とする。
(公示送達の要件)
第110条 次に掲げる場合には、裁判所書記官は、申立てにより、公示送達をすることができる。
一 当事者の住所、居所その他送達をすべき場所が知れない場合
二 第百七条第一項の規定により送達をすることができない場合
三 外国においてすべき送達について、第百八条の規定によることができず、又はこれによっても送達をすることができないと認めるべき場合
四 第百八条の規定により外国の管轄官庁に嘱託を発した後六月を経過してもその送達を証する書面の送付がない場合
2 前項の場合において、裁判所は、訴訟の遅滞を避けるため必要があると認めるときは、申立てがないときであっても、裁判所書記官に公示送達をすべきことを命ずることができる。
3 同一の当事者に対する二回目以降の公示送達は、職権でする。ただし、第一項第四号に掲げる場合は、この限りでない。
(公示送達の方法)
第111条 公示送達は、裁判所書記官が送達すべき書類を保管し、いつでも送達を受けるべき者に交付すべき旨を裁判所の掲示場に掲示してする。
(公示送達の効力発生の時期)
第112条 公示送達は、前条の規定による掲示を始めた日から二週間を経過することによって、その効力を生ずる。ただし、第百十条第三項の公示送達は、掲示を始めた日の翌日にその効力を生ずる。
2 外国においてすべき送達についてした公示送達にあっては、前項の期間は、六週間とする。
3 前二項の期間は、短縮することができない。
(公示送達による意思表示の到達)
第113条 訴訟の当事者が相手方の所在を知ることができない場合において、相手方に対する公示送達がされた書類に、その相手方に対しその訴訟の目的である請求又は防御の方法に関する意思表示をする旨の記載があるときは、その意思表示は、第百十一条の規定による掲示を始めた日から二週間を経過した時に、相手方に到達したものとみなす。この場合においては、民法第九十八条第三項
ただし書の規定を準用する。
(和解調書等の効力)
第267条 和解又は請求の放棄若しくは認諾を調書に記載したときは,その記載は,確定判決と同一の効力を有する。
民事執行法
(債務名義)
第22条 強制執行は,次に掲げるもの(以下「債務名義」という。)により行う。
一 確定判決
二 仮執行の宣言を付した判決
三 抗告によらなければ不服を申し立てることができない裁判(確定しなければその効力を生じない裁判にあつては,確定したものに限る。)
三の二 仮執行の宣言を付した損害賠償命令
四 仮執行の宣言を付した支払督促
四の二 訴訟費用若しくは和解の費用の負担の額を定める裁判所書記官の処分又は第42条第4項に規定する執行費用及び返還すべき金銭の額を定める裁判所書記官の処分(後者の処分にあつては,確定したものに限る。)
五 金銭の一定の額の支払又はその他の代替物若しくは有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求について公証人が作成した公正証書で,債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述が記載されているもの(以下「執行証書」という。)
六 確定した執行判決のある外国裁判所の判決
六の二 確定した執行決定のある仲裁判断
七 確定判決と同一の効力を有するもの(第3号に掲げる裁判を除く。)
(差押命令)
第145条 執行裁判所は,差押命令において,債務者に対し債権の取立てその他の処分を禁止し,かつ,第三債務者に対し債務者への弁済を禁止しなければならない。
2 差押命令は,債務者及び第三債務者を審尋しないで発する。
3 差押命令は,債務者及び第三債務者に送達しなければならない。
4 差押えの効力は,差押命令が第三債務者に送達された時に生ずる。
5 差押命令の申立てについての裁判に対しては,執行抗告をすることができる。
(継続的給付の差押え)
第151条 給料その他継続的給付に係る債権に対する差押えの効力は,差押債権者の債権及び執行費用の額を限度として,差押えの後に受けるべき給付に及ぶ。
(差押禁止債権)
第152条 次に掲げる債権については,その支払期に受けるべき給付の4分の3に相当する部分(その額が標準的な世帯の必要生計費を勘案して政令で定める額を超えるときは,政令で定める額に相当する部分)は,差し押さえてはならない。
一 債務者が国及び地方公共団体以外の者から生計を維持するために支給を受ける継続的給付に係る債権
二 給料,賃金,俸給,退職年金及び賞与並びにこれらの性質を有する給与に係る債権
2 退職手当及びその性質を有する給与に係る債権については,その給付の4分の3に相当する部分は,差し押さえてはならない。
3 債権者が前条第1項各号に掲げる義務に係る金銭債権(金銭の支払を目的とする債権をいう。以下同じ。)を請求する場合における前2項の規定の適用については,前2項中「4分の3」とあるのは,「2分の1」とする。
(差押債権者の金銭債権の取立て)
第155条 金銭債権を差し押さえた債権者は,債務者に対して差押命令が送達された日から1週間を経過したときは,その債権を取り立てることができる。ただし,差押債権者の債権及び執行費用の額を超えて支払を受けることができない。
2 差押債権者が第三債務者から支払を受けたときは,その債権及び執行費用は,支払を受けた額の限度で,弁済されたものとみなす。
3 差押債権者は,前項の支払を受けたときは,直ちに,その旨を執行裁判所に届け出なければならない。
民事執行法施行令
(差押えが禁止される継続的給付に係る債権等の額)
第2条 法第152条第1項各号に掲げる債権(次項の債権を除く。)に係る同条第1項(法第167条の14及び第193条第2項において準用する場合を含む。以下同じ。)の政令で定める額は,次の各号に掲げる区分に応じ,それぞれ当該各号に定める額とする。
一 支払期が毎月と定められている場合 33万円
二 支払期が毎半月と定められている場合 16万5000円
三 支払期が毎旬と定められている場合 11万円
四 支払期が月の整数倍の期間ごとに定められている場合 33万円に当該倍数を乗じて得た金額に相当する額
五 支払期が毎日と定められている場合 1万1000円
六 支払期がその他の期間をもつて定められている場合 1万1000円に当該期間に係る日数を乗じて得た金額に相当する額
2 賞与及びその性質を有する給与に係る債権に係る法第152条第1項の政令で定める額は,33万円とする。
民法
(定期給付債権の短期消滅時効)
第百六十九条 年又はこれより短い時期によって定めた金銭その他の物の給付を目的とする債権は、五年間行使しないときは、消滅する。
(判決で確定した権利の消滅時効)
第百七十四条の二 確定判決によって確定した権利については、十年より短い時効期間の定めがあるものであっても、その時効期間は、十年とする。裁判上の和解、調停その他確定判決と同一の効力を有するものによって確定した権利についても、同様とする。
2 前項の規定は、確定の時に弁済期の到来していない債権については、適用しない。