新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1397、2013/01/18 14:26

【民事・原発被害による損害賠償請求・原子力損害の賠償に関する法律による過失不要・対策・原子力損害賠償紛争解決センター】

質問:わたしは,これまで福島県南相馬市原町区に住んでいました。しかし,平成23年3月の大震災により,原発の被害を恐れ,震災後一週間は避難所にいましたが,茨城県水戸市の親せき宅に避難することになりました。妻は,子供を連れて新潟県の実家に避難しています。私は水戸市に引っ越して以降,平成23年6月まで親せき宅にお世話になりましたが(毎月,謝礼として3万円支払っていました),その後,気まずくなり,自費で水戸市内にアパートを借りて家具も新たにそろえ,現在まで生活しています。賃料は月5万円です。震災前まで,南相馬の会社で働き,毎月25万円もらっていましたが,避難と同時に仕事を辞め,親せき宅にお世話になっていた平成23年5月に月20万円の仕事を見つけ,現在まで続けています。東京電力に対して,何か請求することはできますか。

回答:
1 今回の原発事故による損害については,原子力損害の賠償に関する法律(以下,「原賠法」と言います)が規定する「原子炉の運転等の際,当該原子炉の運転等により原子力損害を与えたとき」に該当し(原賠法3条1項),東京電力は,原発事故に付き,過失があったか否かにかかわらず,加害行為と相当因果関係にある損害について賠償責任を負うことになります。
2 具体的な請求としては,現在,東京電力は,本賠償請求や包括請求という形で,被災者の方々に対し,原発被害によって生じた損害賠償に対する対応を行っていますから,まず,東京電力に対して直接請求する方法があります。そして賠償額に不満ということであれば,東京電力を被告又は相手方として,訴訟提起することも可能ですが,早期解決を目指すという意味では,原子力損害賠償紛争解決センターに和解手続きを申し出ることが可能です。特に問題となりうる費用の請求項目としては,@避難慰謝料,A就労不能損害,B生活費の増加費用,などが考えられます。

解説:
1 原発被害と法律論
  平成23年3月の大震災により,日本は未曽有の事態に陥りました。大震災によって生じた問題の一つに,福島第一原子力発電所による原発被害が挙げられます。
   民法では,第709条で一般不法行為責任が規定されており,損害発生事故が発生した場合,加害者の行為に故意又は過失があり,かつ,加害行為と損害発生との間に相当因果関係が存在する場合には,加害者が被害者に対して賠償責任を負う旨が規定されています。これは,交通事故や,暴行傷害事件など,すべての民事トラブルに適用される一般規定になります。
   この一般不法行為責任論は,原発事故においても勿論妥当することではありますが,原発事故の特殊性として,加害行為の故意過失を主張立証することが通常の事件に比べて困難であるということが言えます。原子力発電所では,核燃料が核分裂反応により発熱し,その熱により熱交換器で蒸気を発生させタービンを回して発電する,ということは一般に知られていることですが,特に原子炉内の核燃料の状況については一般市民では知る手段が有りませんし,核物理学や放射線医学の専門知識も乏しいことが普通ですから,放射能漏れ事故などが発生した場合に,電力会社のどのような運転・管理行為がどのように不適切で,どのような損害を発生させたのか,ということを,被害者側が主張立証していくことは極めて困難となってしまいます。そもそも,原発の設置・運営については,万全の安全体制が求められており,万一にも事故が起きないように慎重を期して制定された法律や政令に基づき国が許認可を行い,電力会社がこれを順守して運営しているものですから,放射能が漏れて原発の敷地外に被害をもたらした場合に,原則どおり,被害者側に一般不法行為論に基づく全ての主張立証責任を負わせることは酷であると言うことができます。全くの想定外の事故について,電力会社の故意過失や因果関係を立証しなければならないことになってしまうからです。これは,人間に避けられない不注意や過失により衝突事故が起きてしまう交通事故などの事案と全く異なる点だと言えるでしょう。原発事故においては,被害者を保護するために,原発事故の特殊性を考慮する何らかの手立てが必要と考えられるのです。

   そこで,原発事故によって損害が生じた場合には,原子力損害の賠償に関する法律(以下,「原賠法」と言います)が規定する「原子炉の運転等の際,当該原子炉の運転等により原子力損害を与えたとき」に該当し(原賠法3条1項),東京電力は,原発事故に付き,過失があったか否かにかかわらず,加害行為と相当因果関係にある損害について賠償責任を負うことになります。前記のような不都合を回避するために,民法の一般不法行為責任に特別法で修正を加えたことになります。この考え方は,危険責任,報賞責任の表れと評価することが可能です。例えば,前述の交通事故に関する自賠法,施行令も民法709条以下不法行為責任の特別法であり,簡単に言うと自動車運転による被害者救済のために制定されました。その理由は,私的自治の原則に内在する公正,公平の原則に基づいています。交通事故による損害発生の原因は,存在自体に危険性が存在する自動車そのものにあり危険責任,報償責任の原則により,民法の一般原則を修正し@被害者側の故意過失の立証責任を転換し(自賠法3条),A責任主体を拡大し(自賠法3条,運行供用者)さらにB強制保険を義務付け(自賠法11条以下)将来の損害額(後遺障害の損害の認定,自賠法,及び自賠法施行令2条)についても特則を置いているわけです。

2 原発被害に関する賠償請求の行い方
  現在,東京電力は,本賠償請求や包括請求という形で,被災者の方々に対し,原発被害によって生じた損害賠償に対する対応を行っています。しかし,本賠償請求や包括請求によって東京電力が支払う金額に納得がいかない場合,裁判所に訴訟提起するか,原子力損害賠償センター(以下,「原紛センター」と言います)に和解仲介を申し立てるかを検討することになります。現在,早期解決という理由で原紛センターの利用が増えているため,同手続きに従った解説を行います。
  なお,原紛センターにおける和解仲介手続は,弁護士から選ばれている仲介委員が,被災者及び東京電力の間に入り,当事者からの主張内容を踏まえ,適切な和解案を出すという手続きとなっています。

3 請求しうる損害項目及びその金額について
(1)一般論
   原紛センターは,申立人及び東京電力の主張内容を踏まえつつ,いかなる損害項目が原発事故と相当因果関係がある損害か,そしてその損害項目の中でいくらまでが相当因果関係のある損害かを判断し,最終的に妥当と思料される和解金額を提示するものと言われています。ここで,妥当な金額を算定するに当たっては,原子力賠償審査会が出している,中間指針

http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/kaihatu/016/houkoku/__icsFiles/afieldfile/2011/08/17/1309452_1_2.pdf
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/science/anzenkakuho/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2012/03/16/1309711_6.pdf

及び総括基準

http://www.mext.go.jp/a_menu/anzenkakuho/baisho/1326959.htm

を基準に,事案に応じた判断がなされることになっているようです。

(2)精神的慰謝料について
   中間指針第3の6及び平成24年2月14日における総括基準1では,避難対象区域から避難した被災者に対し,避難が継続している間は,精神的損害が発生しているものとして,月10万円の慰謝料を認めています。ただし,避難所に避難している月については,さらに損害が発生しているものとして,原則として月12万円の慰謝料が支払われるべきだとされています。
   ただし,あなたが当時住んでいた南相馬市原町区の大半は,平成24年12月現在,旧緊急時避難準備区域(政府が地方公共団体の長に対し,緊急時の避難や屋内退避が可能な準備を指示した区域。平成23年9月30日に解除。中間指針第3及び中間指針第二追補参照)と呼ばれ,平成23年9月30日以降は避難指示を受けてはいないとして,一定の準備期間後には避難を終了させることが可能であるという考えの下,精神的慰謝料については平成23年3月から平成24年8月分までの間において,認めるのが原則であると考えられています(中間指針第二次追補7,8頁)。
   以上を基に考えると,あなたは,避難所で生活していた平成23年3月については少なくとも12万円,その後,平成23年4月から平成24年8月までの間においては,1月あたり10万円の避難慰謝料を受け取るべきという考えが一つでしょう。
   なお,かかる中間指針における避難慰謝料は,あくまで目安であり,事案に応じて増額することも差し支えありません。実際,平成24年2月14日の総括基準2では,避難者が要介護状態である場合や,懐妊中であるような場合など,避難にあたり特に過酷な事情が見受けられる場合であれば,慰謝料の増額を行ってもよいとされています。本件においても,慰謝料増額事由である家族の別離が生じているとして,平成23年4月以降も,1月あたり10万円以上を請求できる可能性があります。

(3)就労不能損害
   本件において,あなたは,原発事故を受け,南相馬市から水戸市に避難し,職をも失うことになりました。中間指針第3の8では,避難に伴い,就労が不能になったことによる減収分については相当因果関係がある損害として,東京電力が賠償すべきものと解しています。
   本件の場合,あなたは毎月25万円の給料を得ていたため,仕事を辞めていた時期である平成23年3月から平成23年5月までの間は,1月あたり25万円の就労不能損害を請求しうるものと考えられます。また,これまではかからなかった通勤費用がかなるようになり,なおかつ新たな就業先でその通勤費用が支給されていない場合には,就労不能損害として新たに請求しうることになるでしょう。
   では再就職先が見つかった平成23年5月以降は,どうでしょうか。普通に考えれば,25万円−20万円=5万円ということで,毎月5万円の就労不能損害のみの請求に限られるとも考えられます。しかし,平成24年4月19日における総括基準8では,避難先で新たに取得した収入は,原則として臨時のアルバイト的な収入と評価すべきであるとして,事案に応じ,月30万円ないし月50万円までのであれば控除しないと定めています。そのため,本件でも,避難前から就労する予定であった就労先などといった事情がない限り,1月あたり25万円の就労不能損害を請求できる可能性があります(つまり,避難先で得ていた月20万円の収入を確保しつつ,別途1月あたり25万円の賠償を認められる余地があるということです)。

(4)避難費用について
 ア 本件において,あなたは,避難先で様々な支出を行いました。かかる避難費用の支出についても,中間指針は規定しています。
   中間指針第3の2においては,避難等対象者が必要かつ合理的な範囲内で支出した費用を,賠償すべき損害と解釈しています。
   すなわち,避難費用のうち,移動費用や宿泊費用は,実費算定が原則であるものの,領収証等を保管していない者も容易に想定されるため,その場合には平均的費用額を推計するという算定方法が採られます。
   また,その他の生活費増加費用(本件で言えば,新たに買い揃えた家具,ということになるでしょう)については上記(2)の精神的損害額に含めるとされています。しかし,かかる中間指針は,避難所等であれば支給されている物品が存在しているため,大きく生活費が増加することはないだろうという見込みの下で設定された指針であると解釈すべきです。そのため,避難所等を出て自ら家を借りたうえで生活を行っている方に対しては当てはまらない基準であるという見解の下,避難に必要な限度で購入した家具については,原則として実費で賠償すべきであると思われます。
 イ 本件において,まず親せき宅に支払った月3万円の謝礼については,証拠の問題はあるものの,金額も妥当な範囲であると思われ,請求が認められる可能性があると思われます。また,現在の賃料についても,合理的な範囲内の賃料であり,賃貸借契約書及び賃料支払いの証拠があれば,同様に認められる可能性があると思われます。
   その他新たに購入した家具については,結論から言うと,品目によるものと思われます。家具については,元々南相馬に残してきたものと全て同じものを買い揃えることが合理的な範囲内の支出となるわけではないと考える必要があります。すなわち,家具の新たな購入は,あくまで「避難費用」として請求するものです。避難というわけですからあくまで仮の生活ということであり,合理的な範囲内の支出として賠償の対象となりうるのは,仮の住まいで生活を送るにつき,最小限必要となりうる家具に限られてしまう可能性があります(例えば,従前と同じ生活をということで,テレビを2台購入したとして,1台目は賠償の対象になるとしても,2台目のテレビは必要不可欠ではないとして認められなくなる可能性もありうる,ということになります)。なお,東京電力がホームページ上で賠償の対象になる新規購入家具の具体例を示しているので,一つ参考になるかもしれません(http://www.tepco.co.jp/comp/faq/index-j.html ※03参照)。
ちなみに,南相馬に残してきた家具については,汚染の度合いが進んでいれば,中間指針第3の10における財物損害の項目で賠償の余地が認められうる,ということになると思われます。

【参照条文】

<民法>
第709条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は,これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

原子力損害の賠償に関する法律

   第一章 総則
(目的)
第一条  この法律は,原子炉の運転等により原子力損害が生じた場合における損害賠償に関する基本的制度を定め,もつて被害者の保護を図り,及び原子力事業の健全な発達に資することを目的とする。
(定義)
第二条  この法律において「原子炉の運転等」とは,次の各号に掲げるもの及びこれらに付随してする核燃料物質又は核燃料物質によつて汚染された物(原子核分裂生成物を含む。第五号において同じ。)の運搬,貯蔵又は廃棄であつて,政令で定めるものをいう。
一  原子炉の運転
二  加工
三  再処理
四  核燃料物質の使用
四の二  使用済燃料の貯蔵
五  核燃料物質又は核燃料物質によつて汚染された物(次項及び次条第二項において「核燃料物質等」という。)の廃棄
2  この法律において「原子力損害」とは,核燃料物質の原子核分裂の過程の作用又は核燃料物質等の放射線の作用若しくは毒性的作用(これらを摂取し,又は吸入することにより人体に中毒及びその続発症を及ぼすものをいう。)により生じた損害をいう。ただし,次条の規定により損害を賠償する責めに任ずべき原子力事業者の受けた損害を除く。
3  この法律において「原子力事業者」とは,次の各号に掲げる者(これらの者であつた者を含む。)をいう。
一  核原料物質,核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律 (昭和三十二年法律第百六十六号。以下「規制法」という。)第二十三条第一項 の許可(規制法第七十六条 の規定により読み替えて適用される同項 の規定による国に対する承認を含む。)を受けた者(規制法第三十九条第五項 の規定により原子炉設置者とみなされた者を含む。)
二  規制法第二十三条の二第一項 の許可を受けた者
三  規制法第十三条第一項 の許可(規制法第七十六条 の規定により読み替えて適用される同項 の規定による国に対する承認を含む。)を受けた者
四  規制法第四十三条の四第一項 の許可(規制法第七十六条 の規定により読み替えて適用される同項 の規定による国に対する承認を含む。)を受けた者
五  規制法第四十四条第一項 の指定(規制法第七十六条 の規定により読み替えて適用される同項 の規定による国に対する承認を含む。)を受けた者
六  規制法第五十一条の二第一項 の許可(規制法第七十六条 の規定により読み替えて適用される同項 の規定による国に対する承認を含む。)を受けた者
七  規制法第五十二条第一項 の許可(規制法第七十六条 の規定により読み替えて適用される同項 の規定による国に対する承認を含む。)を受けた者
4  この法律において「原子炉」とは,原子力基本法 (昭和三十年法律第百八十六号)第三条第四号 に規定する原子炉をいい,「核燃料物質」とは,同法同条第二号 に規定する核燃料物質(規制法第二条第九項 に規定する使用済燃料を含む。)をいい,「加工」とは,規制法第二条第八項 に規定する加工をいい,「再処理」とは,規制法第二条第九項 に規定する再処理をいい,「使用済燃料の貯蔵」とは,規制法第四十三条の四第一項 に規定する使用済燃料の貯蔵をいい,「核燃料物質又は核燃料物質によつて汚染された物の廃棄」とは,規制法第五十一条の二第一項 に規定する廃棄物埋設又は廃棄物管理をいい,「放射線」とは,原子力基本法第三条第五号 に規定する放射線をいい,「原子力船」又は「外国原子力船」とは,規制法第二十三条の二第一項 に規定する原子力船又は外国原子力船をいう。
   第二章 原子力損害賠償責任
(無過失責任,責任の集中等)
第三条  原子炉の運転等の際,当該原子炉の運転等により原子力損害を与えたときは,当該原子炉の運転等に係る原子力事業者がその損害を賠償する責めに任ずる。ただし,その損害が異常に巨大な天災地変又は社会的動乱によつて生じたものであるときは,この限りでない。
2  前項の場合において,その損害が原子力事業者間の核燃料物質等の運搬により生じたものであるときは,当該原子力事業者間に特約がない限り,当該核燃料物質等の発送人である原子力事業者がその損害を賠償する責めに任ずる。
第四条  前条の場合においては,同条の規定により損害を賠償する責めに任ずべき原子力事業者以外の者は,その損害を賠償する責めに任じない。
2  前条第一項の場合において,第七条の二第二項に規定する損害賠償措置を講じて本邦の水域に外国原子力船を立ち入らせる原子力事業者が損害を賠償する責めに任ずべき額は,同項に規定する額までとする。
3  原子炉の運転等により生じた原子力損害については,商法 (明治三十二年法律第四十八号)第七百九十八条第一項 ,船舶の所有者等の責任の制限に関する法律 (昭和五十年法律第九十四号)及び製造物責任法 (平成六年法律第八十五号)の規定は,適用しない。
(求償権)
第五条  第三条の場合において,その損害が第三者の故意により生じたものであるときは,同条の規定により損害を賠償した原子力事業者は,その者に対して求償権を有する。
2  前項の規定は,求償権に関し特約をすることを妨げない。
   第三章 損害賠償措置
    第一節 損害賠償措置
(損害賠償措置を講ずべき義務)
第六条  原子力事業者は,原子力損害を賠償するための措置(以下「損害賠償措置」という。)を講じていなければ,原子炉の運転等をしてはならない。
(損害賠償措置の内容)
第七条  損害賠償措置は,次条の規定の適用がある場合を除き,原子力損害賠償責任保険契約及び原子力損害賠償補償契約の締結若しくは供託であつて,その措置により,一工場若しくは一事業所当たり若しくは一原子力船当たり千二百億円(政令で定める原子炉の運転等については,千二百億円以内で政令で定める金額とする。以下「賠償措置額」という。)を原子力損害の賠償に充てることができるものとして文部科学大臣の承認を受けたもの又はこれらに相当する措置であつて文部科学大臣の承認を受けたものとする。
2  文部科学大臣は,原子力事業者が第三条の規定により原子力損害を賠償したことにより原子力損害の賠償に充てるべき金額が賠償措置額未満となつた場合において,原子力損害の賠償の履行を確保するため必要があると認めるときは,当該原子力事業者に対し,期限を指定し,これを賠償措置額にすることを命ずることができる。
3  前項に規定する場合においては,同項の規定による命令がなされるまでの間(同項の規定による命令がなされた場合においては,当該命令により指定された期限までの間)は,前条の規定は,適用しない。
第七条の二  原子力船を外国の水域に立ち入らせる場合の損害賠償措置は,原子力損害賠償責任保険契約及び原子力損害賠償補償契約の締結その他の措置であつて,当該原子力船に係る原子力事業者が原子力損害を賠償する責めに任ずべきものとして政府が当該外国政府と合意した額の原子力損害を賠償するに足りる措置として文部科学大臣の承認を受けたものとする。
2  外国原子力船を本邦の水域に立ち入らせる場合の損害賠償措置は,当該外国原子力船に係る原子力事業者が原子力損害を賠償する責めに任ずべきものとして政府が当該外国政府と合意した額(原子力損害の発生の原因となつた事実一について三百六十億円を下らないものとする。)の原子力損害を賠償するに足りる措置として文部科学大臣の承認を受けたものとする。
    第二節 原子力損害賠償責任保険契約
(原子力損害賠償責任保険契約)
第八条  原子力損害賠償責任保険契約(以下「責任保険契約」という。)は,原子力事業者の原子力損害の賠償の責任が発生した場合において,一定の事由による原子力損害を原子力事業者が賠償することにより生ずる損失を保険者(保険業法 (平成七年法律第百五号)第二条第四項 に規定する損害保険会社又は同条第九項 に規定する外国損害保険会社等で,責任保険の引受けを行う者に限る。以下同じ。)がうめることを約し,保険契約者が保険者に保険料を支払うことを約する契約とする。
第九条  被害者は,損害賠償請求権に関し,責任保険契約の保険金について,他の債権者に優先して弁済を受ける権利を有する。
2  被保険者は,被害者に対する損害賠償額について,自己が支払つた限度又は被害者の承諾があつた限度においてのみ,保険者に対して保険金の支払を請求することができる。
3  責任保険契約の保険金請求権は,これを譲り渡し,担保に供し,又は差し押えることができない。ただし,被害者が損害賠償請求権に関し差し押える場合は,この限りでない。
    第三節 原子力損害賠償補償契約
(原子力損害賠償補償契約)
第十条  原子力損害賠償補償契約(以下「補償契約」という。)は,原子力事業者の原子力損害の賠償の責任が発生した場合において,責任保険契約その他の原子力損害を賠償するための措置によつてはうめることができない原子力損害を原子力事業者が賠償することにより生ずる損失を政府が補償することを約し,原子力事業者が補償料を納付することを約する契約とする。
2  補償契約に関する事項は,別に法律で定める。
第十一条  第九条の規定は,補償契約に基づく補償金について準用する。
    第四節 供託
(供託)
第十二条  損害賠償措置としての供託は,原子力事業者の主たる事務所のもよりの法務局又は地方法務局に,金銭又は文部科学省令で定める有価証券(社債,株式等の振替に関する法律 (平成十三年法律第七十五号)第二百七十八条第一項 に規定する振替債を含む。以下この節において同じ。)によりするものとする。
(供託物の還付)
第十三条  被害者は,損害賠償請求権に関し,前条の規定により原子力事業者が供託した金銭又は有価証券について,その債権の弁済を受ける権利を有する。
(供託物の取りもどし)
第十四条  原子力事業者は,次の各号に掲げる場合においては,文部科学大臣の承認を受けて,第十二条の規定により供託した金銭又は有価証券を取りもどすことができる。
一  原子力損害を賠償したとき。
二  供託に代えて他の損害賠償措置を講じたとき。
三  原子炉の運転等をやめたとき。
2  文部科学大臣は,前項第二号又は第三号に掲げる場合において承認するときは,原子力損害の賠償の履行を確保するため必要と認められる限度において,取りもどすことができる時期及び取りもどすことができる金銭又は有価証券の額を指定して承認することができる。
(文部科学省令・法務省令への委任)
第十五条  この節に定めるもののほか,供託に関する事項は,文部科学省令・法務省令で定める。
   第四章 国の措置
(国の措置)
第十六条  政府は,原子力損害が生じた場合において,原子力事業者(外国原子力船に係る原子力事業者を除く。)が第三条の規定により損害を賠償する責めに任ずべき額が賠償措置額をこえ,かつ,この法律の目的を達成するため必要があると認めるときは,原子力事業者に対し,原子力事業者が損害を賠償するために必要な援助を行なうものとする。
2  前項の援助は,国会の議決により政府に属させられた権限の範囲内において行なうものとする。
第十七条  政府は,第三条第一項ただし書の場合又は第七条の二第二項の原子力損害で同項に規定する額をこえると認められるものが生じた場合においては,被災者の救助及び被害の拡大の防止のため必要な措置を講ずるようにするものとする。
   第五章 原子力損害賠償紛争審査会
第十八条  文部科学省に,原子力損害の賠償に関して紛争が生じた場合における和解の仲介及び当該紛争の当事者による自主的な解決に資する一般的な指針の策定に係る事務を行わせるため,政令の定めるところにより,原子力損害賠償紛争審査会(以下この条において「審査会」という。)を置くことができる。
2  審査会は,次に掲げる事務を処理する。
一  原子力損害の賠償に関する紛争について和解の仲介を行うこと。
二  原子力損害の賠償に関する紛争について原子力損害の範囲の判定の指針その他の当該紛争の当事者による自主的な解決に資する一般的な指針を定めること。
三  前二号に掲げる事務を行うため必要な原子力損害の調査及び評価を行うこと。
3  前二項に定めるもののほか,審査会の組織及び運営並びに和解の仲介の申立及びその処理の手続に関し必要な事項は,政令で定める。
   第六章 雑則
(国会に対する報告及び意見書の提出)
第十九条  政府は,相当規模の原子力損害が生じた場合には,できる限りすみやかに,その損害の状況及びこの法律に基づいて政府のとつた措置を国会に報告しなければならない。
2  政府は,原子力損害が生じた場合において,原子力委員会が損害の処理及び損害の防止等に関する意見書を内閣総理大臣に提出したときは,これを国会に提出しなければならない。
(第十条第一項及び第十六条第一項の規定の適用)
第二十条  第十条第一項及び第十六条第一項の規定は,平成三十一年十二月三十一日までに第二条第一項各号に掲げる行為を開始した原子炉の運転等に係る原子力損害について適用する。
(報告徴収及び立入検査)
第二十一条  文部科学大臣は,第六条の規定の実施を確保するため必要があると認めるときは,原子力事業者に対し必要な報告を求め,又はその職員に,原子力事業者の事務所若しくは工場若しくは事業所若しくは原子力船に立ち入り,その者の帳簿,書類その他必要な物件を検査させ,若しくは関係者に質問させることができる。
2  前項の規定により職員が立ち入るときは,その身分を示す証明書を携帯し,かつ,関係者の請求があるときは,これを提示しなければならない。
3  第一項の規定による立入検査の権限は,犯罪捜査のために認められたものと解してはならない。
(経済産業大臣又は国土交通大臣との協議)
第二十二条  文部科学大臣は,第七条第一項若しくは第七条の二第一項若しくは第二項の規定による処分又は第七条第二項の規定による命令をする場合においては,あらかじめ,発電の用に供する原子炉の運転,加工,再処理,使用済燃料の貯蔵又は核燃料物質若しくは核燃料物質によつて汚染された物の廃棄に係るものについては経済産業大臣,船舶に設置する原子炉の運転に係るものについては国土交通大臣に協議しなければならない。
(国に対する適用除外)
第二十三条  第三章,第十六条及び次章の規定は,国に適用しない。
   第七章 罰則
第二十四条  第六条の規定に違反した者は,一年以下の懲役若しくは百万円以下の罰金に処し,又はこれを併科する。
第二十五条  次の各号のいずれかに該当する者は,百万円以下の罰金に処する。
一  第二十一条第一項の規定による報告をせず,又は虚偽の報告をした者
二  第二十一条第一項の規定による立入り若しくは検査を拒み,妨げ,若しくは忌避し,又は質問に対して陳述をせず,若しくは虚偽の陳述をした者
第二十六条  法人の代表者又は法人若しくは人の代理人その他の従業者が,その法人又は人の事業に関して前二条の違反行為をしたときは,行為者を罰するほか,その法人又は人に対しても,各本条の罰金刑を科する。



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