新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1404、2013/01/30 10:10 https://www.shinginza.com/qa-hanzai.htm
【刑事・仮釈放の要件・手続き対策・弁護人との協議】
質問:私は,3年6月の懲役刑の実刑判決を受け,現在刑務所に服役中で,服役を開始してからおよそ2年6月が経とうとしています。面会に来た家族から,刑法上,仮釈放という制度があると聞きましたが,どのようなものなのでしょうか。弁護士に依頼すると,仮釈放に関して何かをしてくれるのでしょうか。
回答:
1 仮釈放制度とは,受刑者について一定の刑期が経過した場合であって,改悛の情が認められる場合に,刑期の満了前に仮に受刑者を釈放する制度です。仮釈放の許可を判断するのは,各地の地方更生保護委員会であり,刑務所長の申出か地方更生保護委員会自身の判断により審理を開始するものとされています。仮釈放の要件や判断要素については,法律や規則,法務省の指針等に規定があり,それに従った証拠資料の収集を行い,仮釈放を求める上申書の提出等によって説得的に主張することが重要です。適切な証拠資料の収集や,上申書の作成,地方更生保護委員会や刑務所長への主張等について,ご本人や親族で難しいということであれば,弁護士への相談もご検討ください。
2 仮釈放に関する事例集としては,その他1179番,1352番をご参照ください。
解説:
第1 仮釈放とは
1 定義 制度趣旨
仮釈放制度とは,禁固・懲役刑の執行を受けている者に「改悛の情」がある場合であって,刑期満了前の一定の期間が経過したときに(有期刑についてはその刑期の三分の一を,無期刑については十年を経過),刑期の満了前の一定の時期に条件付きで受刑者を釈放する制度のことをいいます(刑法第28条以下参照)。その目的は,仮釈放制度という恩恵を与えることによって,将来の希望に向けて改善を促すこと,及び刑期を満了した後における受刑者の社会復帰を容易にしようという点にあります。以上の様に仮釈放の制度趣旨は矯正施設である刑事施設(刑務所,社会復帰促進センター)に収容された改悛の情ある者に対する恩恵的意味もありますが,収容期限前に一定の条件を付して条件に違反した時はさらに収容できる権限を留保して施設から解放することにより犯罪者の矯正,教育を施設外で行うものです。
すなわち,刑事施設での矯正を施設外でも釈放という方法で達成しようとするものです。刑罰の目的は,最終的に犯罪者を矯正,教育して適正な法社会秩序を維持することにありますので,その一手段として位置付けることができます。他方,執行猶予は自由刑等の判決の言い渡し時に一定の期間を付して刑の執行それ自体を猶予し,その期間の経過により刑罰権自体を消滅させる(判決言い渡しの効力が失う。)ものです(刑法25条)。しかし,その期間中に一定の条件に違反したときは刑を実際に執行し刑事施設に収容することにより,適法行為の心理的抑制を与えて犯罪者の矯正を行うという点ではその目的は基本的に同一と考えられます。
2 判断機関,判断手続について
仮釈放の具体的な手続については,更生保護法及び犯罪をした者及び非行のある少年に対する社会内における処遇に関する規則(以下,「社会内処遇規則」といいます。)に規定があります。
(1)仮釈放の審理の開始
仮釈放を許すか否かを判断するのは,全国8か所にある地方更生保護委員会(以下「地方委員会」といいます。)であり,@刑事施設の長からの申出,または,A地方更生保護委員会自身の判断に基づいて審理を開始することとしています(更生保護法第34条第1項,第35条第1項)。
したがって,仮釈放の審理開始のルートについては,@刑務所長の長,A地方更生保護委員会の2つがあることになります。実務上は,原則として刑事施設の長が更生保護委員会に申し出る形が取られています。地方更生保護委員会が独自に手続きを開始するのは無期懲役受刑者の様に高度な判断が求められるような場合に限られているようです。
(2)具体的な仮釈放許可の手続
そして,その具体的手続については,地方委員会の委員が直接受刑者と面接する他に(同法第37条第1項),必要に応じて被害者やその遺族,検察官等にも意見を聞くなどした上で(同法第38条第1項,規則第22条,第10条),3人の地方委員会委員の合議により(同法第23条第1項),個々の受刑者について仮釈放の基準に該当するかどうかを判断することとしています。
上記の地方更生保護委員会は,高等裁判所の管轄区域に対応して,北海道(札幌市),東北(仙台市),関東(さいたま市),中部(名古屋市),近畿(大阪市),中国(広島市),四国(高松市)及び九州(福岡市)のいずれかに設置されています。
なお,具体的な仮釈放の手続について,詳しくは1352の事例集をご参照ください。
第2 仮釈放の実体的要件について
次に,仮釈放の実体的な要件について検討していきます。
1 法律上の規定について
刑法第28条によれば,仮釈放が認められるための基準として,@懲役又は禁錮に処せられた者に改悛の状があること,A有期刑についてはその刑期の三分の一を,無期刑については十年を経過したこと,の2点が要求されています。
ただ,「改悛の情」という定義では,具体的にどのような場合に改悛の情があるといえるのかは必ずしも明確ではありません。そこで,具体的な運用については,以下の基準が設けられています。
2 規則上の規定について
詳細な「改悛の情」の判断基準については,上述の犯罪をした者及び非行のある少年に対する社会内における処遇に関する規則第28条において規定されています。
具体的には,仮釈放を許す処分について,「悔悟の情及び改善更生の意欲があり,再び犯罪をするおそれがなく,かつ,保護観察に付することが改善更生のために相当であると認めるときにするものとする。ただし,社会の感情がこれを是認すると認められないときは,この限りでない。」と定められています。すなわち,「改悛の情」の内容については,@悔悟の情,A改善更生の意欲があること,B再び犯罪をするおそれがないこと,C保護観察に付することが改善更生のために相当であること,D社会の感情がこれを是認すると認められないとはいえないこと(これは具体的に言うと例えば,被害者の仮釈放に対する感情を意味することから,再度示談の他に被害者の感情を示す上申書等の作成が有益になります。従って,弁護人は服役後被害者側との連絡のルートを確保しておく必要があります。),といった要素により判断されることになります。
3 法務省通達による運用指針ついて
さらに,上記の規則上の考慮要素については,法務省の運用指針が設けられているところであり(http://www.moj.go.jp/hogo1/soumu/hogo_hogo21.html),実務上もこの基準に則った運用がなされているものと考えられます。
「悔悟の情」や「改善更生の意欲」,「再び犯罪をするおそれ」,「保護観察に付することが改善更生のために相当」,「社会の感情」については,それぞれ,次のような事項を考慮して判断すべき旨が通達により定められています。その具体的な内容について,検討していきます。
4 仮釈放の実体的要件,考慮要素について
以上を踏まえた仮釈放の実体的要件と考慮要素については,以下のように分析できます。
(1)有期刑についてはその刑期の3分の1を,無期刑については10年を経過したこと これは,刑法第28条により規定されているところです。本件でも,3年6月の実刑判決が言い渡され,現在2年6月が経過しているということですから,およそ刑期の70%以上を終えたことになりますので,この要件を満たすことになります。
(2)悔悟の情があること
社会内処遇規則第18条第1項第1号によれば,犯罪又は非行の内容,動機及び原因並びにこれらについての審理対象者の認識及び心情が仮釈放判断の要素とされています。したがって,まずは受刑者自身が本件犯行についての動機及び原因に対する深い考察を行い,被害者への謝罪の情を示すなど,具体的な反省の情を示すことが必要です。受刑者自身の謝罪文等,ある程度客観的な形で,悔悟の情を示すことが有効です。
ただ,上記運用指針によれば,受刑者自身の発言や文章のみで判断しないこととされています。そこで,受刑者の反省状況について親族や代理人弁護士に詳細に伝え,後述の上申書等によって,悔悟の情があることを第三者の視点から伝えることも有効でしょう。
(3)改善更生の意欲があること
「改善更生の意欲」については,上記運用指針によれば,被害者等に対する慰謝の措置の有無やその内容,その措置の計画や準備の有無,刑事施設における処遇への取組の状況,反則行為等の有無や内容,その他の刑事施設での生活態度,釈放後の生活の計画(勤務先の具体的予定,経営者の上申書)の有無や内容などから判断することとされています。
ア 本件では,児童福祉法違反,強制わいせつという被害者のいる犯罪ですので,慰謝の措置として,被害者とまず示談交渉を行うことが重要でしょう。刑事裁判が終了した後であっても,被害者への慰謝の措置を行ったことは仮釈放許可の判断要素としては極めて重要なものと思われます。例えば,代理人弁護士に依頼し,被害者への真摯な謝罪を続け,被害弁償に努めることが重要です。
示談交渉の結果,被害者が宥恕(受刑者を許し,一切の法的責任を求めないこと。釈放に異議がないこと。)してくれた場合は,刑務所長や更生委員会への宥恕の上申書も作成していただければ,慰謝の措置が有効になされたものと評価される可能性が高いでしょう。
イ また,受刑者の刑務所内の生活状況も重要な考慮要素とされます。具体的には刑務所内での刑務作業への真摯な取り組み等によって,真面目に刑務所内の生活を送っていることを示すことが重要です。
ウ さらに,仮釈放された後の生活の計画が具体的に予定されていることが必要です。 例えば,親族等による生活指導,監督が期待できること,また,釈放後の社会生活(勤務先等)について具体的に準備できていることなどが示せると良いでしょう。
本件では,今まで受刑者は小児科医をしていたとのことで,仮に今後も小児科医を続けていきたいということであれば,周囲の医師が協力してくれること,医療業務を支援する体制が整っていること(勤務予定先の意見書,上申書等)を示せると良いでしょう。
(4)再び犯罪をするおそれが無いこと
「再び犯罪をするおそれ」は,上記運用指針によれば,性格や年齢,犯罪の罪質や動機,態様,社会に与えた影響,釈放後の生活環境などから判断することとされています。したがって,上記の悔悟の情や改善更生の意欲についての話に加え,前科前歴が無いこと,社会的制裁を受け自らの行為の重大性を認識したこと,再犯を行わないように指導監督する協力者がいること,周囲からの更生への期待があること,等といった事情を主張する必要があるでしょう。
(5)保護観察に付することが改善更生のために相当であること
「保護観察に付することが改善更生のために相当」といえるか否かについては,上記運用指針によれば,悔悟の情及び改善更生の意欲があり,再び犯罪をするおそれがないと認められる者について,総合的かつ最終的に相当であるかどうかを判断することとされています。
(6)社会の感情がこれ(受刑者の仮釈放)を是認すると認められないとはいえないこと 「社会の感情」については,上記解釈指針によれば,被害者等の感情,収容期間,検察官等から表明されている意見などから,判断することとされています。
そこで,上記のように被害者への慰謝を早急に行い,被害者の宥恕を求めることが重要です。被害者との示談が終わっていない場合は,すぐにでも示談(及び上申書)のお願いをする必要があります。その結果,被害者が社会復帰を求めていただくまでになれば,仮釈放許可の判断に大きく影響することになると考えられます。
さらに,被害者だけでなく,親族,勤務予定先の社員,地域住民等が作成した嘆願書等が作成できれば,厚生委員会宛に提出することも有効であると考えられます。
第3 具体的な代理人としての活動
1 刑務所長及び厚生委員会宛の上申書等の作成
以上が,仮釈放許可のための実体的な要件とその考慮要素となっています。ただ,上記解釈自身が受刑者自身の言葉のみで判断しないとしているとおり,第三者が説得的に仮釈放許可の要件を満たすことを主張する方が,より説得性を増すものと思われます。
仮釈放についての代理人弁護士を選任した場合,上記の仮釈放の実体的要件を満たすことを,上記考慮要素に従い法的に構成し,主張内容を仮釈放上申書として提出することができます。また,受刑者への面会に加え,上申書作成の前提としての被害者への慰謝の措置や嘆願書の作成など,有利な証拠資料の収集も同時に行うことになります。
上記の上申書については,各地の地方更生保護委員会や刑務所長に提出することによって,仮釈放の審理の開始を促すこととなります。この上申書は,刑期の3分の1(刑法28条,無期刑については10年)を経過する前であっても提出することができます。刑期の3分の1経過は,仮釈放の要件であって,仮釈放の審理開始の要件にはなっていないからです。
2 地方更生保護委員会,刑務所長への口頭による主張
さらに,更生保護委員会や刑務所長(及び刑務所職員)に対して面会を求め,受刑者について仮釈放を許可することが相当であることについて,上記の上申書に加え,口頭で補足,追加の主張をすることが可能です。実務上,事前に手続きを踏めば,刑務所所長,更生保護委員会担当者への面接も可能になっています。
3 まとめ
受刑者自身は当然ながら刑務所から外出することができず,仮釈放についての証拠資料の収集については困難な点が多いと思われます。実際の手続きにおいては,受刑者家族親族の協力を得て,弁護士が受刑者に面会し事情聴取し,関係資料を整理して上申書を作成提出することが考えられます。適切な証拠資料の収集や仮釈放許可の要件を満たすことの法的主張をすることが難しい場合には,お近くの弁護士までご相談ください。
<参照条文>
刑法
(仮釈放)
第二十八条 懲役又は禁錮に処せられた者に改悛の状があるときは,有期刑についてはその刑期の三分の一を,無期刑については十年を経過した後,行政官庁の処分によって仮に釈放することができる。
更生保護法
(運用の基準)
第三条
犯罪をした者又は非行のある少年に対してこの法律の規定によりとる措置は,当該措置を受ける者の性格,年齢,経歴,心身の状況,家庭環境,交友関係等を十分に考慮して,その者に最もふさわしい方法により,その改善更生のために必要かつ相当な限度において行うものとする。
(仮釈放及び仮出場の申出)
第三十四条
刑事施設の長又は少年院の長は,懲役又は禁錮の刑の執行のため収容している者について,前条の期間が経過し,かつ,法務省令で定める基準に該当すると認めるときは,地方委員会に対し,仮釈放を許すべき旨の申出をしなければならない。
2 刑事施設の長は,拘留の刑の執行のため収容している者又は労役場に留置している者について,法務省令で定める基準に該当すると認めるときは,地方委員会に対し,仮出場を許すべき旨の申出をしなければならない。
(申出によらない審理の開始等)
第三十五条
地方委員会は,前条の申出がない場合であっても,必要があると認めるときは,仮釈放又は仮出場を許すか否かに関する審理を開始することができる。
2 地方委員会は,前項の規定により審理を開始するに当たっては,あらかじめ,審理の対象となるべき者が収容されている刑事施設(労役場に留置されている場合には,当該労役場が附置された刑事施設)の長又は少年院の長の意見を聴かなければならない。
犯罪をした者及び非行のある少年に対する社会内における処遇に関する規則
(仮釈放等の審理における調査事項)
第十八条
仮釈放等を許すか否かに関する審理は,次に掲げる事項を調査して行うものとする。
一 犯罪又は非行の内容,動機及び原因並びにこれらについての審理対象者の認識及び心情
二 共犯者の状況
三 被害者等の状況
四 審理対象者の性格,経歴,心身の状況,家庭環境及び交友関係
五 矯正施設における処遇の経過及び審理対象者の生活態度
六 帰住予定地の生活環境
七 審理対象者に係る引受人の状況
八 釈放後の生活の計画
九 その他審理のために必要な事項
(仮釈放許可の基準)
第二十八条
法第三十九条第一項に規定する仮釈放を許す処分は,懲役又は禁錮の刑の執行のため刑事施設又は少年院に収容されている者について,悔悟の情及び改善更生の意欲があり,再び犯罪をするおそれがなく,かつ,保護観察に付することが改善更生のために相当であると認めるときにするものとする。ただし,社会の感情がこれを是認すると認められないときは,この限りでない。
第三章 保護観察
第一節 通則
第一款 保護観察実施上の基本的事項
(処遇の方針)
第四十一条
法第五十七条(売春防止法第二十六条第二項において準用する場合を含む。)に規定する指導監督(以下「指導監督」という。)は,保護観察対象者(売春防止法第二十六条第一項の規定により保護観察に付されている者(以下「婦人補導院仮退院者」という。)を含む。第七十一条を除き,以下同じ。)の犯罪又は非行の内容,悔悟の情,改善更生の意欲,性格,年齢,経歴,心身の状況,生活態度,家庭環境,交友関係,住居,就業又は通学に係る生活環境等を考慮し,犯罪又は非行に結び付くおそれのある行動をする可能性及び保護観察対象者の改善更生に係る状態の変化を的確に把握し,これに基づき,改善更生のために必要かつ相当な限度において行うものとする。
2 法第五十八条(法第八十八条の規定によりその例によることとされる場合及び売春防止法第二十六条第二項において準用する場合を含む。以下同じ。)に規定する補導援護(以下「補導援護」という。)は,保護観察対象者の性格,年齢,経歴,心身の状況,家庭環境,交友関係,住居,就業又は通学に係る生活環境等を考慮し,保護観察対象者が自立した生活を営むことができるようにする上での困難の程度を的確に把握し,これに基づき,その自助の責任を踏まえつつ,法第五十八条各号に掲げる方法のうち適当と認められるものによって,必要かつ相当な限度において行うものとする。
3 保護観察所の長は,指導監督及び補導援護を行うに当たり,これらを一体的かつ有機的に行うことによりその効果が十分に発揮されるよう努めなければならない。