迷惑防止条例違反の少年事件
刑事|少年事件|家庭裁判所全件送致と簡易送致
目次
質問:
少年の犯罪の場合,必ず家庭裁判所で裁判が行われると聞いているのですが,正しいでしょうか。先月,私の息子(15歳)が友人の女の子の体を都内公園で触ったということで,警察から呼び出され,話を聞かれました。被疑罪名は,迷惑防止条例ということなのですが,被害届が出されているようです。私の息子も必ず家庭裁判所で裁判が行われるのでしょうか。
回答:
1.少年(20歳に満たない者 少年法2条1項)の被疑事件について捜査を遂げた結果,犯罪の嫌疑がある場合,および犯罪の嫌疑が認められない場合でも家庭裁判所の審判に付すべき事由がある場合は,全ての事件が,検察官あるいは司法警察職員(罰金以下の刑に当たる犯罪)により家庭裁判所に送致されます。これを全件送致主義といいます(少年法41条,42条)。家庭裁判所に送致された事件については,家庭裁判所は調査の上,審判を開始するか否かを決めますから,このような意味では裁判がおこなわれることになります。迷惑防止条例(正式名称:公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例)違反を行った場合(本件では,同条例5条1項1号),事件は罰金以上の刑にあたり,司法警察職員は検察官に事件を送致し,その後,検察官がこれを家庭裁判所に送致することになります。もっとも,実務上,警察の判断として,早期に当事者間で示談が成立し,被害届が取り下げられたなどの事情がある場合には,「簡易送致」という手続きが取られる場合があります。この場合も,家庭裁判所に送致されますが,通常の送致の場合とは違い,家庭裁判所において調査がなされることはなく審判を開始しないという決定がなされています。このような扱いになれば,実際には裁判が行われないで事件は終了したと言えるでしょう。
2.見通しなどにつきましては,お近くの法律事務所又は当事務所へ直接ご相談されることをお勧めいたします。
3.少年事件に関する関連事例集参照。
解説:
1 少年の非行の種別
15歳の少年が犯罪を行った場合,犯罪少年としての取り扱いを受けます(少年法3条1項1号)。具体的にどのような手続きとなるかについては,本データベース1220番をご参照ください。
2 全件送致主義
少年の被疑事件について捜査を遂げた結果,犯罪の嫌疑がある場合,および犯罪の嫌疑が認められない場合でも家庭裁判所の審判に付すべき事由がある場合は,全ての事件を家庭裁判所に送致しなければなりません(全件送致主義 少年法41条,42条)。成人の刑事事件についても,刑事訴訟法246条で,司法警察職員は犯罪の捜査をした場合は速やかに検察官に送致しなければならない,とされていますから全件送致が原則です。しかし,これには例外があり,検察官が指定した事件については,送致の必要がないとされています(同法但し書き)。この検察官が指定した事件としては,微罪処分(犯罪捜査規範198条以下)があります。
成人の刑事事件については,起訴便宜主義と言って,犯人を起訴するか否かは検察官の判断に委ねられています。そこで,捜査した事件はすべて検察官に送致し検察官が判断をするのが原則です。しかし,起訴する必要がないことが明白な事件もあります。そのようなものまですべて検察官が個別に判断しなければならないとすると,事件が多すぎて検察官制度が適正に機能しないおそれがあります。そこで,微罪処分という制度を設け,検察官があらかじめ指定した軽微な事件について,司法警察職員による検察官への送致を不要(厳密に言うと事件の合計数などを毎月の微罪事件処分報告書に記載して検察官へ報告するに留めること)としたのです。従って微罪処分の実質は検察官から委託された司法警察員(刑訴39条3項)による起訴猶予処分に相当する判断といえます。
しかし,少年事件の場合は刑事処罰が目的ではなく少年の保護が目的ですから,その必要性の有無について判断は司法警察職員ではできないので,すべての事件を家庭裁判所に送致させ,家庭裁判所が処分の必要性を判断することにしたのが,少年法の考え方です。従って,少年事件においては全件送致主義が徹底され,すべての事件は家庭裁判所によって判断されることになります。微罪処分について定めがある犯罪捜査規範においても少年事件に関する特則として,全件送致が規定されています(210条)。
3 警察官の対応方法
従って,15歳の少年が犯罪を行った場合,警察(司法警察職員)は,以下の種別に従って事件を送致することになります(犯罪捜査規範210条)。
ア 罰金以下の刑にあたる犯罪の場合,家庭裁判所(少年法41条)
イ ア以外の場合,検察官送致(刑事訴訟法246条)
※なお,イによって事件の送致を受けた検察官は,捜査の結果犯罪の嫌疑があるものと判断した場合は家庭裁判所へ事件を送致することになります(少年法42条)。
本件は,東京都の迷惑防止条例5条1項1号に該当する行為と考えられ,その法定刑は,「6ヶ月以下の懲役又は50万円以下の罰金」となりますので(同条例8条1項2号),上記種別により,警察→検察官→家庭裁判所という流れで事件が送致されていくことになります。
4 少年事件における簡易送致(刑訴246条但し書き,犯罪捜査規範214条1項,少年法41条)
このように,少年事件においては,全件送致主義が徹底されていますが,現実問題としてすべての少年事件について証拠書類等をそろえて送致するということは,事件数も多く困難です。そこで,簡易送致という方法での家庭裁判所への送致が認められています(刑訴246条但し書き,犯罪捜査機規範214条1項,少年法41条)。罰金以上の犯罪については,検察官にまず簡易送致され,そのまま家裁へ簡易送致として送致されます。この場合,証拠書類等の送致は省略され,また通常の少年事件での送致の際作成される身上調査書(捜査規範214条には添付すると記載されています。)も実務上省略されていますので捜査機関の仕事量は減少することになります。
しかし,このような送致の方法は,家庭裁判所における少年に対する保護処分の適正な実施という少年法の目的からは疑問があります。そこで,簡易送致事件についても家庭裁判所が,必要性があれば証拠書類等を追送させるという手続きが残されています。尚,簡易送致事件は,一般的に家裁で「審判不開始」の決定がなされます。少年が再犯であって家庭裁判所が独自に資料を所持していたなど特別の事情でもない限り,原則として「審判不開始」となると考えてよいでしょう。
5 どのような基準で簡易送致が行われるのか
簡易送致の処分をする基準は,犯罪捜査規範214条に規定されていますが,①事実が極めて軽微で,②犯罪の原因,動機,少年の性格,行状,家庭環境等から再犯の恐れがなく,③検察官からあらかじめ指定のある,事件となっています。
具体的には,微罪処分と同様に扱われると考えられます。被害者のある犯罪では,①示談,告訴,被害届取消,②被害の態様,程度が軽微であること,③前科前歴がないこと,④反省の態度が顕著であること⑤動機が偶発的であること等が考えられます。
弁護人としては,成人の刑事事件と同様に①から④の確認,手続きをとり,簡易送致となるよう弁護活動をすることになります。少年事件は,学校問題,将来への影響などがあり複雑ですが,被害者のある犯罪においては,成人事件と同様に被害者側と示談して反省の意思を表明して早期解決が求められます。
参考となる万引きの微罪処分(万引きに関する実務上の微罪処分の例)
微罪処分となしうる対象事件は,地域の実情に応じて,検察官から各都道府県の警察宛に指定されており,具体的な基準は公表されておりませんが,概ね,次のような内容となっております。 窃盗罪に関係する部分の一例を示します。地域警察官が検挙した窃盗 ,詐欺,横領,業務上横領又は盗品等に関する事件で,次の各号のいずれにも該当するもの。
(1)被害金額が2万円以下であること。
(2)犯情が軽微であること。
(3)被害回復がなされていること。
(4)被害者が処罰を希望していないこと。
(5)素行不良者でない者の偶発的犯行であること。
(6)再犯のおそれがないことが明らかであること。
以上の様に,実務上は,簡易送致手続きがなされると家裁の形式的判断(機械的に審判不開始決定がなされることになります。)によりそのまま事実上終了するのが通常です。弁護人としては理論的に刑事事件として成立していても少年に有利な「簡易送致」になるように手続きすることが大切です。成人事件の微罪処分(刑訴246条但し書き,微罪処分は送致ではなく報告で終了するが,簡易送致は送致であり報告ではない。)と対比して考えると分かりやすいと思います。結果的には,少年事件でも,成人事件の微罪処分と同様の扱いになると考えることもできます。
以上