路上に捨ててあった自転車の使用

刑事|窃盗か占有離脱物横領罪か|対応策|東京高裁昭和34年8月15日判決

目次

  1. 質問
  2. 回答
  3. 解説
  4. 関連事例集
  5. 参考判例

質問:

1か月ほど前、路上に投げ捨てられていた自転車を見つけました。まだ真新しいし、使えるのに勿体無いと思い、1週間ほど様子を見て持ち主が現れないことを確認した後、自宅に持ち帰り、通勤用に使用していました。そうしたところ、昨日夜、自転車走行中に警官に呼び止められ、警察署に任意同行を求められました。警官の話によれば、私が使用していた自転車は2か月ほど前に持ち主の自宅駐車場から盗まれた盗難品であるとのことで、私を盗んだ犯人だと疑っているようです。盗んだのは私ではないと何度説明しても警察は信じてくれず、「家から盗っても、道で拾っても、被害者の自転車を持って行ったのに変わりはないから窃盗なんだよ。」などと言って私が被害者の家から盗ったように誘導しようとしているように思われ、私の言い分は調書に書いてもらえていません。このまま窃盗犯にされてしまうのではないかと大変不安です。疑いを晴らして早く事件を終わらせてもらいたいのですが、どうしたらよいでしょうか。

回答:

1、あなたが持ち去った自転車は盗難品であり、自転車に対する持ち主や盗難後の使用者の占有は存在しないため、持ち去り行為につき窃盗罪は成立せず、占有離脱物横領罪の成否が問題になるに過ぎません。窃盗罪であるとする警察官の説明は明らかな誤りです。取調べにおいては警察官の誘導に乗ることなくありのままの真実を話し、万が一真実に反する内容の供述調書に署名・押印を求められても、調書の訂正を申立てるか署名押印を拒否して下さい。一般論として、内容虚偽のものであれ、一度自白してしまうと後からその内容を争うことは困難になります。

2、仮に自転車の持ち去り時点で、持ち主が捨てた物(所有権を放棄した無主物)であるとの認識であったとしても、まだ使用できる真新しい自転車が路上に投棄されているという状況に照らせば、盗難等何らかの事情でたまたま持ち主の手元を離れてしまった物であることを疑うのが通常であると考えられるため、無主物であると信じるに足りる特別な事情がない限り、占有離脱物横領罪の故意が認定され、同罪の成立が認められてしまう可能性が高いと思われます。

3、占有離脱物横領罪は微罪処分の対象事件の典型であるため、投棄された自転車の状況や持ち去り時の状況等につき詳細に記載した弁護人面前調書の作成、提出等によって警察に本件が占有離脱物横領罪の事案であることを理解してもらい、被疑罪名を同罪に切り替えてもらった上で、示談により被害弁償を行い、持ち主の宥恕(許し)を得ることで、微罪処分として、送検されることなく早期に刑事手続を終了させることができる可能性があります。

4、警察の捜査に疑問や不安を感じるようであれば、速やかに刑事弁護の経験のある弁護士に相談されることをお勧めします。

5、占有離脱物横領罪に関する関連事例集参照。

解説:

1、自転車の持ち去り行為にかかる罪名

(1)窃盗罪の成否

今後の対応を検討するにあたって、まずはあなたが自転車を持ち去った行為にかかる罪名を確認しておきます。

あなたに嫌疑がかけられている窃盗罪(刑法235条)というのは、他人の占有する財物をその意思に反して奪取することにより成立する犯罪です。あくまで、他人の占有を奪取したことが構成要件となっており、占有者が当該財物の所有者である必要はないので、理論的には自転車の窃盗犯人を被害者とする窃盗罪が成立することもあり得ます。そして、ここでいう占有とは、財物に対する事実上の支配・管理を意味し、かかる事実上の支配・管理の有無は、客観的要素としての財物に対する排他的支配(占有の事実)と主観的要素としての財物を支配する意思(占有の意思)から、社会通念に照らして判断されます。

あなたのケースの場合、自転車の持ち去りの時点で既に盗難から1か月ほど経過しているようですので、その時間的乖離に照らせば、持ち主の自転車に対する排他的支配(占有の事実)があったとは到底評価し得ないですし、既に占有を奪取されたとして盗難届が提出されている状況からすると、持ち主の自転車に対する主観的な支配の意思(占有の意思)があったともいえません。また、少なくとも1週間以上自転車が路上に投棄されていた状況からすると、盗難後の使用者による占有の事実、占有の意思があったとも言い難いといえます。したがって、あなたが放置自転車を持ち去った時点で自転車に対する他人の占有は存在しないため、持ち主と盗難後の使用者のいずれとの関係でも持ち去り行為につき窃盗罪は成立しないと考えられます。あなたは警察官から「家から盗っても、道で拾っても、窃盗に変わりない。」という旨言われたとのことですが、この警察官の説明は明らかな誤りです。

(2)占有離脱物横領罪の成否

もっとも、窃盗罪が成立しないからといって何らの犯罪にも該当しないかというとそうではなく、以下で述べるように占有離脱物横領罪(刑法254条)が成立する可能性が高いと思われます。

占有離脱物横領罪とは、「遺失物、漂流物その他占有を離れた他人の物を横領」することによって成立する犯罪であり、ここでいう「遺失物」とは、占有者の意思によらないでその占有を離れ、いまだ誰の占有にも属さない物をいい、「横領」とは、不法領得の意思をもって占有離脱物を自己の事実上の支配内に置くことをいいます。判例は、窃盗犯人が東京都内で窃取して千葉県内において乗り捨てた自動車のタイヤ(東京高裁昭和34年8月15日判決)や窃盗犯人が窃取して逃走中に落としていった米俵(最高裁昭和23年12月24日判決)を「遺失物」にあたると判断しており、本件の放置自転車も占有離脱物横領の客体である「遺失物」にあたると考えられます。また、あなたが自己使用のために自転車を持ち去った行為は客観的には不法領得の意思の発現である外部的行為としての外観を呈しているといえます。

問題は故意(犯罪事実の認識、認容)の有無です。すなわち、あなたは当初、自転車が所有者によって捨てられていた物であると思っていたように推察しますが、放置自転車が所有者の占有離脱物であることの認識、認容があったといえるかどうかが問題となります。占有離脱物横領罪も故意犯ですから、かかる認識、認容が欠ければ同罪は成立しません(刑法38条1項)。これは、放置自転車が無主物だと思っていたので占有離脱物性の認識、認容がなかった(故意の不存在)というあなたの主張が通るのかどうかという事実認定の問題です。結論として、かかる主張が認められる可能性は低いと思われます。

ここで言う故意とは、犯罪の実現を確定的なものとして認識、認容している場合(これを「確定的故意」といいます。)のみならず、犯罪事実の実現が可能であるという程度の認識、認容(これを「未必の故意」といいます。)の場合を含む概念です。たとえ未必的であれ、犯罪事実が実現することになっても構わないという程度の認識、認容があれば責任非難が可能となるためです。そして、かかる内心の意思の有無については、客観的な状況から推認されることによって判断されることになります。

そこで、本件を見てみると、真新しく、まだ使用できる自転車を所有者が路上に捨てるという状況は極めて不自然といえます。自転車を捨てるのであれば、粗大ごみとして処分するのが通常であり、真新しく、しかも路上に投棄されているとなると、むしろ盗難品が捨てられているのではないかと疑うことが自然とすら言えそうです。かかる状況は自転車の占有離脱物性につき少なくとも未必の故意が存在すること、すなわち、「盗難等何らかの事情でたまたま持ち主の手元を離れてしまった物である可能性もあるが、それでも構わない」と思って自転車を持ち去ったことを強く推認させる事情といえます。他人の遺失物を発見した場合は、遺失物法に従い、警察署に遺失物拾得届け出を行い、3ヶ月の公告期間を経て所有権を取得する、というのが、原則的な所有権の取得方法となります。

したがって、真実は持ち主が捨てた物だと思っていたとしても、客観的な状況に照らして所有者が所有権を放棄した無主物であると信じるに足りる特別な事情がない限り、占有離脱物横領罪の故意が認定されてしまう可能性が高いと考えた方が良いでしょう。

以下では、自転車の持ち去り行為が占有離脱物横領罪に該当することを前提に、刑事手続の見通しと本件での対応について検討していきます。

2、刑事手続の見通し

刑事訴訟法上、原則的に、刑事事件は警察段階での捜査後、速やかに検察官に送致されることになっています(刑事訴訟法246条本文)。検察官は刑事処分の決定権限を有する立場にあり、起訴権限を独占しているため(刑事訴訟法247条、248条)、起訴・不起訴の公正な判断を確保するため、全件送致主義が基本とされているのです。

もっとも、軽微な事件も含め、膨大な数の事件を全て検察送致するとなると検察事務を過度に圧迫して現実的ではないため、検察事務の合理化、効率化の観点から、特定の極めて軽微な事件については送致を要しない取扱とされています(刑事訴訟法246条但書)。このように例外的に事件を検察送致しない処分のことを微罪処分といい、各検事正からそれぞれの管内の警察署に対し、微罪処分の対象となる事件が指定されています(刑事訴訟法193条1項、犯罪捜査規範198条)。微罪処分対象事件の具体的な基準は明らかにはされていませんが、概ね以下のような基準になっていると言われています。

○被害金額が軽微であること

○犯情が軽微であること

○被害回復が行われていること

○被害者が処罰を希望していないこと

○被疑者に前科、前歴がないこと

○素行不良者でない者の偶発的犯行であること

○再犯のおそれがないこと

○窃盗、詐欺、横領、これらに準ずる盗品等に関する事件であること

※微罪処分報告書の書式例

あなたのケースで問題になっている占有離脱物横領罪は法定刑が1年以下の懲役又は10万円以下の罰金若しくは科料という比較的軽微な犯罪であり(刑法254条)、微罪処分対象事件の典型例です。あなたは現在窃盗罪の嫌疑がかけられているようですが、本件が占有離脱物横領の事案であることを警察に納得してもらえ、上記の微罪基準にあたる事情があれば、あなたは微罪処分として、送検されることなく早期に刑事手続を終了させることができるのです。

なお、窃盗事犯で微罪処分となるのは殆どが万引きの事案であり、それ以外の窃盗事犯では現実的には微罪処分を期待することは困難ですので、その意味でも被疑罪名を占有離脱物横領罪に切り替えて捜査してもらう必要があることに変わりはありません。

以下では、被疑罪名を占有離脱物横領罪に切り替えてもらい、微罪処分を獲得するために行うべき活動について検討していきます。

3、本件における対応

(1)取調べ対応

警察官はあなたが被害者の家から自転車を窃取したように誘導しようとしているようですが、その様な誘導には絶対に迎合してはいけません。一般論として、内容虚偽のものであれ、一度自白してしまうとその内容を覆すことは難しくなります。すなわち、真実に反して、占有離脱物横領罪よりも重い窃盗罪(10年以下の懲役又は50万円以下の罰金)で処罰される可能性があるということです。かかる不当な事態は絶対に避ける必要があります。警察官の取調べ姿勢は事案の真実性を損なわせようとするものであり、刑事訴訟法の目的、犯罪捜査規範にも明らかに違反するものであり、問題があると言わざるを得ないでしょう(刑事訴訟法1条、犯罪捜査規範2条1項、166条、167条3項、168条2項参照)。

したがって、あなたは取調べにおいてはありのままの真実を話すようにし、万が一真実に反する内容の供述調書に署名・押印を求められても、調書の訂正を申し立て(刑事訴訟法198条4項)、また、署名押印を拒否する必要があります(刑事訴訟法198条5項但書)。本件はあなたが持ち主の自宅駐車場から自転車を持ち去ったことを示す客観的な証拠はありませんので(真実は路上に投げ捨てられていた自転車を拾っただけですので、当然です。)、あなたが内容虚偽の自白さえしなければ、捜査機関は少なくともあなたを窃盗罪で処罰することはできないはずです。

(2)弁護人面前調書の作成

あなたが窃盗犯人でないことをなかなか警察に信じてもらえず、供述調書も作ってもらえないとのことですが、警察は被疑者を追及する立場に近いため、被疑者に有利な内容の調書を作りたがらないことがままあります。そのような場合、あなたの方であなたの言い分を詳細に記載した供述調書を作成し、警察に提出するという方法が有効です。供述内容に信用性を持たせるため、あなたが路上投棄された自転車を発見した場所、時期、持ち去ろうと思うに至るまでの内心の経過、投げ捨てられていた自転車の状況、少なくとも持ち主の占有がない状態であると思った根拠、その後の使用状況、捜査機関とは別に独自の供述調書を作成するに至った経緯等につき、具体的、合理的かつ詳細な記載が必要となります。現実的には刑事弁護(特に無実主張の事案)の経験のある弁護士において、供述内容の合理性、具体性、迫真性等につき細心の注意を払いながらあなたの話を纏めてもらい、作成してもらう必要があるでしょう(いわゆる弁面調書)。この弁面調書こそあなたが窃盗犯人ではないことを示す重要な証拠となるものであり、警察にあなたの言い分を理解してもらい、罪名を軽微な占有離脱物横領罪に切り替えてもらうための鍵となるものです。

前述のとおり、警察はどちらかというと被疑者を追及する側の立場ですので、警察官によっては弁面調書のような被疑者に有利な証拠資料を受け取ることに難色を示すことがあります。しかし、警察官は「犯罪に関する・・・資料」を収集し、これに基づいて捜査を行わなければならないとされており(犯罪捜査規範81条)、捜査にあたっては、あらゆる証拠の発見収集に努めるとともにすべての情報資料を総合して判断することで捜査の合理化、総合化を図ることとされており(犯罪捜査規範4条、5条)、犯罪事実に関する弁護人提出の証拠資料の受領義務があることは明らかです。したがって、受取拒否されたからといってすぐ諦めたりせず、口頭での説得はもちろん、場合によっては郵送、FAX送信等あらゆる手段を使って警察に事案の真相について理解、納得させるための努力が必要となります。尚、弁面調書の日付等内容を公的に確定しておくために公証人役場で確定日付と頂くことも必要でしょう。後に意外な効力を発揮する場合があります。

(3)示談交渉

微罪処分の基準でも挙げられているように、被害者に対する被害回復の有無や被害者の処罰感情は刑事処分の内容を大きく左右する重要な要素になります。自転車の持ち主と早期に示談交渉を開始し、被害弁償を行うとともに宥恕(刑事処罰を求めない程度に許すこと)を得ることができれば微罪処分の可能性が大きく高まりますし、万が一送検されたとしても処分相場に照らして不起訴処分となる可能性が高いと思われます。

元々持ち主の下から自転車を持ち去ったのは窃盗犯人ですので、あなたが被害弁償を行うことに違和感を覚えるかもしれません。しかし、占有離脱物横領罪の保護法益は物に対する所有権その他の本権であるところ、あなたが自転車を持ち去った後の期間については、あなたの使用によって持ち主の自転車に対する使用、収益、処分といった所有権の本来的機能が損なわれている関係にあることは間違いないのですから、かかる法益侵害に対する謝罪と被害弁償は最低限必要となってきます。

持ち主の連絡先等が分からなければ、警察を通して持ち主に対する示談の申入れを行い、持ち主の了解を得て警察から連絡先開示を受けることになります。通常、刑事事件の被害者は加害者に直接連絡先等の個人情報を教えたがりませんし、警察が被害者情報を被疑者本人に開示することもまずありませんので、現実的には被害者情報を加害者側に開示しないとの誓約の下、弁護人限りということで、情報開示を受ける必要があります。

被害回復が行われたことや被害者が処罰を希望していないことが文面上明らかとなるような示談書や被害者上申書等の示談関係書類を準備し、示談成立後は弁護人に微罪処分が相当である旨の意見書を作成してもらうなどして、刑事手続を早期に終了してもらえるよう交渉してもらうことになります。

4、最後に

普通の人にとって、自分が刑事事件の被疑者になるということは一生のうちに何度もあることではありません。自分が被疑者として捜査対象になってしまったことに伴う動揺や混乱に加え、虚偽の説明や不当な誘導等の不適切な取調べを受けることで、警察の描くストーリーに沿う形での内容虚偽の自白に至ってしまうケースには想像以上に多く遭遇します。本件のように、取調べや弁護活動において正しい対応をすることができれば早期の微罪処分や不起訴処分を獲得できる可能性が高い事案でも、対応を誤ると虚偽の自白によって思いもよらない厳罰を科される結果となってしまうことも現実にはあり得るのです。さらに職場に連絡されることにより勤務先の懲戒処分の対象にされるような場合も考えられますので公務員、大企業の社員、金融関係、報道関係の地位にある方は特に注意が必要です。捜査機関の勤務先への連絡阻止も弁護人と詳細な協議が必要です。

警察の捜査に疑問や不安を感じるようであれば、速やかに刑事弁護の経験のある弁護士に相談されることをお勧めします。

以上

関連事例集

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※参照条文

刑法

(故意)

第三十八条 罪を犯す意思がない行為は、罰しない。ただし、法律に特別の規定がある場合は、この限りでない。

(窃盗)

第二百三十五条 他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

(遺失物等横領)

第二百五十四条 遺失物、漂流物その他占有を離れた他人の物を横領した者は、一年以下の懲役又は十万円以下の罰金若しくは科料に処する。

刑事訴訟法

第一条 この法律は、刑事事件につき、公共の福祉の維持と個人の基本的人権の保障とを全うしつつ、事案の真相を明らかにし、刑罰法令を適正且つ迅速に適用実現することを目的とする。

第百九十三条 検察官は、その管轄区域により、司法警察職員に対し、その捜査に関し、必要な一般的指示をすることができる。この場合における指示は、捜査を適正にし、その他公訴の遂行を全うするために必要な事項に関する一般的な準則を定めることによつて行うものとする。

○2 検察官は、その管轄区域により、司法警察職員に対し、捜査の協力を求めるため必要な一般的指揮をすることができる。

○3 検察官は、自ら犯罪を捜査する場合において必要があるときは、司法警察職員を指揮して捜査の補助をさせることができる。

○4 前三項の場合において、司法警察職員は、検察官の指示又は指揮に従わなければならない。

第百九十八条 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、被疑者の出頭を求め、これを取り調べることができる。但し、被疑者は、逮捕又は勾留されている場合を除いては、出頭を拒み、又は出頭後、何時でも退去することができる。

○2 前項の取調に際しては、被疑者に対し、あらかじめ、自己の意思に反して供述をする必要がない旨を告げなければならない。

○3 被疑者の供述は、これを調書に録取することができる。

○4 前項の調書は、これを被疑者に閲覧させ、又は読み聞かせて、誤がないかどうかを問い、被疑者が増減変更の申立をしたときは、その供述を調書に記載しなければならない。

○5 被疑者が、調書に誤のないことを申し立てたときは、これに署名押印することを求めることができる。但し、これを拒絶した場合は、この限りでない。

第二百四十六条 司法警察員は、犯罪の捜査をしたときは、この法律に特別の定のある場合を除いては、速やかに書類及び証拠物とともに事件を検察官に送致しなければならない。但し、検察官が指定した事件については、この限りでない。

第二百四十七条 公訴は、検察官がこれを行う。

第二百四十八条 犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しないことができる。

犯罪捜査規範(昭和32年国家公安委員会規則第2号)

(捜査の基本)

第二条 捜査は、事案の真相を明らかにして事件を解決するとの強固な信念をもつて迅速適確に行わなければならない。

2 捜査を行うに当つては、個人の基本的人権を尊重し、かつ、公正誠実に捜査の権限を行使しなければならない。

(合理捜査)

第四条 捜査を行うに当たつては、証拠によつて事案を明らかにしなければならない。

2 捜査を行うに当たつては、先入観にとらわれず、根拠に基づかない推測を排除し、被疑者その他の関係者の供述を過信することなく、基礎的捜査を徹底し、物的証拠を始めとするあらゆる証拠の発見収集に努めるとともに、鑑識施設及び資料を十分に活用して、捜査を合理的に進めるようにしなければならない。

(総合捜査)

第五条 捜査を行うに当つては、すべての情報資料を総合して判断するとともに、広く知識技能を活用し、かつ、常に組織の力により、捜査を総合的に進めるようにしなければならない。

(資料に基く捜査)

第八十一条 捜査を行うに当つては、犯罪に関する有形または無形の資料、内偵による資料その他諸般の情報等確実な資料を収集し、これに基いて捜査を進めなければならない。特に被疑者の逮捕その他の強制処分を行うに当つては、事前にできる限り多くの確実な資料を収集しておかなければならない。

(取調べの心構え)

第百六十六条 取調べに当たつては、予断を排し、被疑者その他関係者の供述、弁解等の内容のみにとらわれることなく、あくまで真実の発見を目標として行わなければならない。

(取調べにおける留意事項)

第百六十七条 取調べを行うに当たつては、被疑者の動静に注意を払い、被疑者の逃亡及び自殺その他の事故を防止するように注意しなければならない。

2 取調べを行うに当たつては、事前に相手方の年令、性別、境遇、性格等を把握するように努めなければならない。

3 取調べに当たつては、冷静を保ち、感情にはしることなく、被疑者の利益となるべき事情をも明らかにするように努めなければならない。

4 取調べに当たつては、言動に注意し、相手方の年令、性別、境遇、性格等に応じ、その者にふさわしい取扱いをする等その心情を理解して行わなければならない。

5 警察官は、常に相手方の特性に応じた取調べ方法の習得に努め、取調べに当たつては、その者の特性に応じた方法を用いるようにしなければならない。

(任意性の確保)

第百六十八条 取調べを行うに当たつては、強制、拷問、脅迫その他供述の任意性について疑念をいだかれるような方法を用いてはならない。

2 取調べを行うに当たつては、自己が期待し、又は希望する供述を相手方に示唆する等の方法により、みだりに供述を誘導し、供述の代償として利益を供与すべきことを約束し、その他供述の真実性を失わせるおそれのある方法を用いてはならない。

3 取調べは、やむを得ない理由がある場合のほか、深夜に又は長時間にわたり行うことを避けなければならない。

(微罪処分ができる場合)

第198条 捜査した事件について、犯罪事実が極めて軽微であり、かつ、検察官から送致の手続をとる必要がないとあらかじめ指定されたものについては、送致しないことができる。

(微罪処分の報告)

第199条 前条の規定により送致しない事件については、その処理年月日、被疑者の氏名、年齢、職業及び住居、罪名並びに犯罪事実の要旨を一月ごとに一括して、微罪処分事件報告書(別記様式第19号)により検察官に報告しなければならない。

(微罪処分の際の処置)

第200条  第198条(微罪処分ができる場合)の規定により事件を送致しない場合には、次の各号に掲げる処置をとるものとする。

⑴ 被疑者に対し、厳重に訓戒を加えて、将来を戒めること。

⑵ 親権者、雇主その他被疑者を監督する地位にある者又はこれらの者に代わるべき者を呼び出し、将来の監督につき必要な注意を与えて、その請書を徴すること。

⑶ 被疑者に対し、被害者に対する被害の回復、謝罪その他適当な方法を講ずるよう諭すこと。

(軽微な事件の処理)

第214条 捜査した少年事件について、その事実が極めて軽微であり、犯罪の原因及び動機、当該少年の性格、行状、家庭の状況及び環境等から見て再犯のおそれがなく、刑事処分又は保護処分を必要としないと明らかに認められ かつ 検察官又は家庭裁判所からあらかじめ指定されたものについては 、被疑少年ごとに少年事件簡易送致書及び捜査報告書(家庭裁判所へ送致するものについては、別記様式第22号。ただし、管轄地方検察庁の検事正が少年の交通法令違反事件の捜査書類の様式について特例を定めた場合において、当該都道府県警察の警察本部長が管轄家庭裁判所と協議しその特例に準じて別段の様式を定めたときは、その様式)を作成し、これに身上調査表その他の関係書類を添付し、一月ごとに一括して検察官又は家庭裁判所に送致することができる。

2 前項の規定による処理をするに当たつては、第200条(微罪処分の際の処置)に規定するところに準じて行うものとする。