家事事件手続法の制定について

家事|家事事件手続法平成25年1月1日施行|従来の家事審判法がどのように変ったか

目次

  1. 質問
  2. 回答
  3. 解説
  4. 参照条文

質問

夫と離婚しようと考えています。3年前(平成22年頃)にも離婚を考え、法律事務所へ相談に行ったことがあります。私が相談に行った際には、①「まず、夫と話し合いをしたうえで、話し合いがまとまらない場合は、いきなり離婚裁判をするのではなく、離婚調停を起こしてください。」②「離婚調停の申立書は相手に見られないから相手が読むか心配することはない」③「離婚調停では相手方と合わなくて良いから安心して良いです」などのアドバイスを受けました。最近、離婚に関連する法律が変わったと聞きました。上記のアドバイスは新しい法律でも当てはまるのでしょうか。

回答

従前の家事審判法にかわり、平成25年1月1日から家事事件手続法が施行されています。これにともない、3年前のアドバイスのうち、①のアドバイスは現在でも妥当しますが、②のアドバイスは、現在では妥当しないといえるでしょう。新しい法律では第1回調停期日に先立ち申立書の写しが相手方へ送付されます。③のアドバイスについては、基本的には妥当しますが、各調停期日の初めと終わりに調停室に同席することがあります。詳しくは、解説を参考にしてください。

解説

1 家事事件手続法の制定について

これまで、家事事件の手続きに関する法律として家事審判法が施行されていましたが、当事者の手続保障を図るための制度を拡充するなど現代的社会に適合した内容とする趣旨のもと、家事事件手続法が制定公布されました。平成25年1月1日から、正式に施行されています。主な改正点は以下のとおりです。

  1. ① 申立書の写しの相手方への原則送付
  2. ② 審判事件における当事者からの事件記録の謄写閲覧請求は原則許可
  3. ③ 家事審判事件における陳述の聴取が必要的になったこと
  4. ④ 家事審判事件において子どもなど審判の結果により影響を受ける者の手続保障がなされたこと
  5. ⑤ 家事審判事件において電話会議テレビ会議システム利用の手続を認めたことです。

家事事件手続法の理念としては、①手続保障の強化、②子供の意思の尊重及び意見表明権の強化、③利用者にとっての利便性の向上。が挙げられています。なお、手続保障とは、裁判所の判断の基礎となる情報・資料について、当事者に知る機会を与えること、そしてこれに対して意見を述べる機会が制度上確保されることを意味します。

かかる手続保障は、これまでの家事事件においては、裁判所の後見的役割や広い裁量判断の必要性から、軽視されてきた面があります。

しかし、家事事件手続法では、審判手続における当事者の地位が明示されたほか、参加手続きの整備、記録の閲覧・謄写権、証拠調べ申立て権、事実の調査の通知などが審判手続一般に規定され、手続保障が強化されました。

2 調停前置主義について

離婚は、①協議離婚、②調停離婚、③審判離婚、④裁判離婚の4つに分けることができます。離婚に際しては必ずしも裁判所を利用しなければならないものではなく、当事者同士だけでの話し合いでいつでも離婚することが可能です。これを協議離婚と言います。

当事者間で協議が整わない場合(協議離婚が成立しない場合)、最初から裁判所に訴えを提起することはできず、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所(または当事者が合意で定める家庭裁判所)に対して、調停を申し立てる必要があります。これを調停前置主義といい、家事事件手続法でも採用されています(家事事件手続法257条1項)。離婚事件について調停前置主義が敷かれている趣旨は、そもそも離婚自体が話し合いに資するものであり、公開の場である訴訟を行う前に、もう一度第三者を交えて円満に離婚を目指すことが適切とする点にあります。

3 調停申立書について

(1)申立書の相手方への送付

家事事件手続法では、第1回調停期日に先立ち、調停申立書が相手方へ送付されます。「申立書は、相手方に送付されないから相手が読むか心配することはない」と聞いたということですが、家事事件手続法では、調停申立書の写しは相手方に送付されることになります(家事事件手続法67条)。この点、家事審判法では、原則として相手方に調停申立書が交付されることはなく、記録の閲覧謄写の一環として、相手方の請求を受けて裁判所の許可がある部分に限り、相手方が入手することが可能となっていました。すなわち家事審判法では、夫婦間のデリケートな問題を扱う離婚事件において、相手方に読まれては問題となりうる部分については、事前に担当書記官や調停委員に伝えるなどして、相手方が目にすることを防ぐことができました。

家事事件手続法では、相手方が調停申立書を読むことを前提として、調停申立書の記載に一定の配慮が必要となる場合がありえます。

とはいえ、第1回期日を充実させ、相手方の手続保障を図るという制度趣旨からすれば、可能な限り具体的に事実関係を記載し、また、主張を明確にするように努めるべきといえます。他方、攻撃的な表現を用いことや、相手方を誹謗中傷する様な記載は、手続進行を妨げる恐れがあり、紛争が不必要に長期化する原因となるので避けるべきでしょう。また、申立書の内容は一般的なものとし、際どい点については、調停期日において調停委員に直接口頭で伝えるなどといった措置を取ることも一つでしょう。

(2)改正の趣旨

家事事件手続法で調停申立書の写しが相手方に交付させることになった趣旨は下記のとおりです。

すなわち、従来の離婚調停では、離婚調停が申し立てられた場合、裁判所から期日調書とともに調停が申し立てられた事実が通知されるだけであり、相手方は第1回調停期日前に申立人が離婚調停を申立てたのか分からず、第1回期日の審理では、事実説明のために期日が空洞化してしまうことがありました。そのため、第1回目期日では、相手方は実質的な反論を準備することが事実上不可能となっており、審理期間も長期化されることが懸念され、手続保障の観点から問題があったのです。

4 記録の閲覧謄写について

(1)記録の閲覧謄写

家事審判法では、審判・調停の区別なく、記録の閲覧・謄写は、当事者の申し立てにより裁判所の許可を得ることで行うことが可能でした(家事審判法規則12条)。しかし、家事事件手続法では、調停手続においては、家事審判法と同様、裁判所の許可によるものとされましたが(家事事件手続法254条3項)、審判手続においては、当事者に対しては原則として閲覧・謄写を許可しなければならないと規定されました(家事事件手続法47条3項)。

審判手続きにおいて例外的に記録の閲覧等が否定されるのは、①事件の関係人である未成年者の利益を害するおそれ、②当事者若しくは第三者の私生活若しくは業務の平穏を害するおそれ、③当事者若しくは第三者の私生活についての重大な秘密が明らかにされることにより、その者が社会生活を営むのに著しい支障を生じ、若しくはその者の名誉を著しく害するおそれがあると認められるとき、④事件の性質、審理の状況、記録の内容等に照らして当該当事者に同項の申立てを許可することを不適当とする特別の事情があると認められるときとされています(家事事件手続法47条4項)。

(2)改正の趣旨

当事者に裁判資料を把握した上で必要な反論や資料の追加提出の機会を保障するという観点から認められたものであり、当事者による主体的な手続き進行を保障したものです。

5 双方当事者の立会いについて

家事事件手続法では、各調停期日の冒頭と終わりに、申立人と相手方が調停室に同席のうえ、調停委員より手続に関し、次回期日までの当事者双方の課題を整理して説明されることが想定されています。これは、法律で規定されているわけではありません。あくまで新しい法律の施行に伴い、裁判所が運用を変えるということになっています。

従来の離婚調停では、申立人と相手方の待合室を分け、まず申立人を調停室に呼び、調停の説明をしたうえで調停委員と話しをし、申立人が話を終えると、申立人が退席し、調停委員が待合室にいる相手方を呼びに行き、相手方と調停委員が調停室で話をし、相手方が調停員と話を終えると、調停委員が待合室にいる申立人から話を聞きというように、申立人と相手方が顔を合わさないような配慮がされていました。

しかし、家事事件手続法では、具体的には、各調停期日の冒頭と終わりに、申立人と相手方を同時に調停室に呼び入れ、当事者双方に対して手続の説明や、次回期日までの課題等を説明することなどが想定されています(誤解されることがありますが、各期日の冒頭と終わりに手続面について説明をする際に立ち会わせるだけで、期日中ずっと当事者同席のもとで調停を進める同席調停を実施するというわけではありません)。

6 最後に

上記の改正点は改正点の一部に過ぎません。3年前と家事事件に関する手続きが変更となっている点が多々ありますから、現在も離婚を考えられている場合には一度お近くの法律事務所へ御相談ください。

以上

関連事例集

その他の事例集は下記のサイト内検索で調べることができます。

Yahoo! JAPAN

参照条文

家事事件手続法

第一条 家事審判及び家事調停に関する事件(以下「家事事件」という。)の手続については、他の法令に定めるもののほか、この法律の定めるところによる。

第二条 裁判所は、家事事件の手続が公正かつ迅速に行われるように努め、当事者は、信義に従い誠実に家事事件の手続を追行しなければならない。

第四十七条 当事者又は利害関係を疎明した第三者は、家庭裁判所の許可を得て、裁判所書記官に対し、家事審判事件の記録の閲覧若しくは謄写、その正本、謄本若しくは抄本の交付又は家事審判事件に関する事項の証明書の交付(第二百八十九条第六項において「記録の閲覧等」という。)を請求することができる。
2 前項の規定は、家事審判事件の記録中の録音テープ又はビデオテープ(これらに準ずる方法により一定の事項を記録した物を含む。)に関しては、適用しない。この場合において、当事者又は利害関係を疎明した第三者は、家庭裁判所の許可を得て、裁判所書記官に対し、これらの物の複製を請求することができる。
3 家庭裁判所は、当事者から前二項の規定による許可の申立てがあったときは、これを許可しなければならない。
4 家庭裁判所は、事件の関係人である未成年者の利益を害するおそれ、当事者若しくは第三者の私生活若しくは業務の平穏を害するおそれ又は当事者若しくは第三者の私生活についての重大な秘密が明らかにされることにより、その者が社会生活を営むのに著しい支障を生じ、若しくはその者の名誉を著しく害するおそれがあると認められるときは、前項の規定にかかわらず、同項の申立てを許可しないことができる。事件の性質、審理の状況、記録の内容等に照らして当該当事者に同項の申立てを許可することを不適当とする特別の事情があると認められるときも、同様とする。
5 家庭裁判所は、利害関係を疎明した第三者から第一項又は第二項の規定による許可の申立てがあった場合において、相当と認めるときは、これを許可することができる。
6 審判書その他の裁判書の正本、謄本若しくは抄本又は家事審判事件に関する事項の証明書については、当事者は、第一項の規定にかかわらず、家庭裁判所の許可を得ないで、裁判所書記官に対し、その交付を請求することができる。審判を受ける者が当該審判があった後に請求する場合も、同様とする。
7 家事審判事件の記録の閲覧、謄写及び複製の請求は、家事審判事件の記録の保存又は裁判所の執務に支障があるときは、することができない。
8 第三項の申立てを却下した裁判に対しては、即時抗告をすることができる。
9 前項の規定による即時抗告が家事審判の手続を不当に遅滞させることを目的としてされたものであると認められるときは、原裁判所は、その即時抗告を却下しなければならない。
10 前項の規定による裁判に対しては、即時抗告をすることができる。

第二百四十五条 家事調停事件は、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所又は当事者が合意で定める家庭裁判所の管轄に属する。
2 民事訴訟法第十一条第二項及び第三項の規定は、前項の合意について準用する。
3 第百九十一条第二項及び第百九十二条の規定は、遺産の分割の調停事件(別表第二の十二の項の事項についての調停事件をいう。)及び寄与分を定める処分の調停事件(同表の十四の項の事項についての調停事件をいう。)について準用する。この場合において、第百九十一条第二項中「前項」とあるのは、「第二百四十五条第一項」と読み替えるものとする。

第二百五十六条 家事調停の申立てがあった場合には、家庭裁判所は、申立てが不適法であるとき又は家事調停の手続の期日を経ないで第二百七十一条の規定により家事調停事件を終了させるときを除き、家事調停の申立書の写しを相手方に送付しなければならない。ただし、家事調停の手続の円滑な進行を妨げるおそれがあると認められるときは、家事調停の申立てがあったことを通知することをもって、家事調停の申立書の写しの送付に代えることができる。
2 第四十九条第四項から第六項までの規定は前項の規定による家事調停の申立書の写しの送付又はこれに代わる通知をすることができない場合について、第六十七条第三項及び第四項の規定は前項の規定による家事調停の申立書の写しの送付又はこれに代わる通知の費用の予納について準用する。

第二百五十七条 第二百四十四条の規定により調停を行うことができる事件について訴えを提起しようとする者は、まず家庭裁判所に家事調停の申立てをしなければならない。
2 前項の事件について家事調停の申立てをすることなく訴えを提起した場合には、裁判所は、職権で、事件を家事調停に付さなければならない。ただし、裁判所が事件を調停に付することが相当でないと認めるときは、この限りでない。
3 裁判所は、前項の規定により事件を調停に付する場合においては、事件を管轄権を有する家庭裁判所に処理させなければならない。ただし、家事調停事件を処理するために特に必要があると認めるときは、事件を管轄権を有する家庭裁判所以外の家庭裁判所に処理させることができる。