新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1517、2014/05/30 12:00
【民事 破産債権が保証債務による求償権に基づく自動債権の場合破産管財人に対し相殺できるか 最高裁平成24年5月28日判決】
破産債務者に対して債務を負担している保証人による相殺の意思表示の可否
(問題)
私はAに対し100万円の代金債務を負っていたところ,Aから,AがBから100万円を借り入れるにあたり連帯保証人になって欲しいと頼まれたため,Aと保証委託契約を締結し,Aの連帯保証人となりました。
その後,Aは破産手続の開始決定を受け,それにより私は保証債務の履行としてBに100万円を支払いました。
もっとも,私は,保証債務の履行によって生じた私のAに対する求償債権と私のAに対する代金債務を相殺すれば,私は結局のところ損害を被らずに済むと考えているのですが,このような相殺は可能でしょうか。
(回答)
1、 保証人が主たる債務者の破産手続開始前に締結した保証契約に基づき同手続開始後に弁済をした場合において,保証人が主たる債務者である破産者に対して取得する求償権は,破産債権です。
2、 そこで破産手続きによる相殺が可能か問題となりますが、判例では委託保証と無委託保証で結論を異にし、委託保証の場合の求償権については相殺が認められますが、無委託保証の場合は相殺はできないとされています(最高裁平成24年5月28日判決)。
3、 ご相談では、あなたは連帯保証人になることにつき,主たる債務者であるAから頼まれたとのことですから,本件はいわゆる委託保証の場合に当たります。
よって,あなたは,あなたのAに対する求償権とあなたのAに対する代金債務を相殺することができます。
破産手続きにおいては、破産債務者と破産債権者との間の相殺について制限があります(破産法67条以下)。
破産手続開始後に保証債務を履行した場合のAに対する求償権が「破産債権」に当たるのか検討が必要です。もしそうでないのであれば,相殺権の行使につき破産法の制限を受けないこととなります。そこで,保証人の弁済が破産手続開始後になされた場合,保証人が主たる債務者である破産者に対して取得する求償権は「破産債権」に当たるかが問題となります。
(1) この点,最高裁平成24年5月28日判決は,「保証人が主たる債務者の破産手続開始前に締結した保証契約に基づき同手続開始後に弁済をした場合において,保証人が主たる債務者である破産者に対して取得する求償権は,破産債権である」として,肯定に解します。
(2) よって,あなたのAに対する求償債権は「破産債権」に当たり,相殺権の行使につき破産法の制限を受けることになります。
4、 もっとも,それでもあなたは,あなたのAに対する求償権とあなたのAに対する代金債務を相殺することができるのではないか,破産者に対して債務を負担する者が,破産手続開始前に保証契約を締結し,同手続開始後に弁済をして求償権を取得した場合,この求償権を自働債権とする相殺は可能かが問題となります。
(1) この点,最高裁平成24年5月28日判決は,保証人が保証につき主たる債務者から委託を受けていた場合(「委託保証の場合」)については,「相殺は,破産債権についての債権者の公平・平等な扱いを基本原則とする破産手続の下においても,他の破産債権者が容認すべきものであり,同相殺に対する期待は,破産法67条によって保護される合理的なものである。」として,肯定に解します。
他方で,同判決は,保証人が保証につき主たる債務者から委託を受けていなかった場合(「無委託保証の場合」)については,「相殺は,破産法72条1項1号の類推適用により許されないと解するのが相当である。」として,否定に解します。
(2) あなたは,連帯保証人になることにつき,主たる債務者であるAから頼まれたとのことですから,本件はいわゆる委託保証の場合に当たります。
よって,あなたは,あなたのAに対する求償権とあなたのAに対する代金債務を相殺することができます。
5、関連事務所事例集 1419番、1375番、 576番参照。
(解説)
1 保証人の求償権
保証人は,主たる債務者に代わって弁済等をすると,主たる債務者に対し求償権を取得します。このこと自体は,保証人が保証につき主たる債務者から委託を受けていた場合(以下,この場合の保証を「委託保証」といいます。)でも,委託を受けていなかった場合(以下,この場合の保証を「無委託保証」といいます。)でも変わりはありませんが(委託保証の場合につき民法459条1項,無委託保証の場合につき同法462条),次の説明のとおり求償の範囲や事前求償権の有無について,委託保証の場合と無委託保証の場合は異なります。なお,無委託保証の典型例として,クレジット取引における包括保証が挙げられます(詳細については,後記(4)をご参照ください。)。
(1) 委託保証の場合
ア 無委託保証の場合の求償は,弁済その他免責があった日以後の法定利息及び避けることができなかった費用その他の損害の賠償を包含します(民法459条2項,442条2項)。
イ また,無委託保証の場合,債務が弁済期にあるとき等,保証人は,主たる債務者に対して,あらかじめ(主たる債務者に代わって弁済等をしなくても),求償権を行使することができます(いわゆる「事前求償権」。民法460条)。
(2) 無委託保証の場合
ア 無委託保証の場合の求償は,主たる債務者が(保証人による)弁済等の当時利益を受けた限度となります(民法462条1項)。すなわち,弁済後の利息等は包含しません(前記(1)ア参照)。
イ また,無委託保証の場合で,その保証が主たる債務者の意思に反していたときの求償は,さらに,主たる債務者が現に利益を受けている限度となります(民法462条2項前段)。
例えば,主たる債務者が求償の日以前に相殺の原因を有していたことを主張するときは,保証人は,主たる債務者に対し求償権を行使することはできません。この場合,保証人は,債権者に対し,その相殺によって消滅すべきであった債務の履行を請求することになります(同項後段)。
ウ 無委託保証の場合は,委託保証の場合(前記(1)イ)のように,保証人に事前求償権はありません。
(3) 機能面の違い
保証は、主債務者の信用が不十分な場合に債権者から要求され、主債務者が保証人に依頼して保証人になってもらうとういのが原始的な形態でした。そこにおいては委託保証が本来の形態であり、主債務者の意思に関係なく保証契約が成立するということはまれであり、無委託保証は慈善的例外的なものとして扱われ民法もそのような形態を前提に両者の求償権について差異を定めています。また、委託保証の場合、保証人となるものと主たる債務者との間に債権債務関係があることが多く保証人となる者は、主たる債務者に対して債務を負担し、保証債務を履行した場合は求償権と主たる債務者に対する債務を相殺することを担保として保証人になる場合が多くみられます。
しかし、取引が複雑になってくると無委託保証の場合も単なる慈善的なものだけではなく、取引の必要性から生じる場合があるとされ担保的な機能を否定して良いのかどうかという問題が提起されています。そこで無委託保証がどのような場合におこなわれているのか理解する必要があります。
(4) 無委託保証の例
無委託保証の典型例として,大手メーカーや問屋等が取引先(クレジット加盟店)のクレジット会社に対する債務を保証する場合が挙げられます。
大手メーカー等にとっては取引先がクレジット加盟店となれるか否かは、加盟店がクレジットによる小売ができるか否かという問題ですから取引先がクレジット加盟店になれるよう協力する必要があります。他方で、割賦販売法による支払い停止の抗弁等によりクレジット代金の支払いが拒否された場合、クレジット会社としては加盟店に立替払いした代金の返還を請求する必要があります。そこで、クレジット会社としては大手メーカーに対して加盟店の保証人になることを要求してきます。メーカーや問屋等にとっては,多数の取引先(加盟店)から保証委託契約書を徴収し管理する負担が大きい一方,継続的な取引で取引先を管理しつつ,利益の拡大を図れることから,無委託保証となることが多いのです。
その他、フランチャイズ本部が加盟店の債務について補償する場合やファクタリングと言っていわゆる債権譲渡の事業において債権の譲受人から補償を求められる場合、主たる債務者が知らない間に保証人となる場合が多くあります。
このような取引社会における必要性から生じる無委託保証については、求償権の行使について担保的な機能を除外して良いのか、それぞれの保証の実態を検討すべきでは、という問題が提起されています。
2 求償権と破産債権
(1) 破産債権の意義
「破産債権」とは,破産者に対し破産手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権であって,財団債権に該当しないものをいいます(破産法2条5号)。
破産者に債権を有していても,「破産債権」に当たらないのであれば,この債権の行使について,破産法の制限(本事案では特に相殺〔後記3参照〕)を受けないこととなります。
(2) 求償債権の破産債権該当性
保証人の弁済が破産手続開始後になされた場合,保証人が主たる債務者である破産者に対して取得する求償権は,「破産債権」に当たるのでしょうか。文言上、弁済が破産手続開始後になされたことを捉えて,「破産手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権」とはいえないと思われることから問題となります。
この点,最高裁平成24年5月28日判決は,「保証人が主たる債務者の破産手続開始前に締結した保証契約に基づき同手続開始後に弁済をした場合において,保証人が主たる債務者である破産者に対して取得する求償権は,破産債権である」として,肯定に解します。
この理由について,同判決は,「保証人が弁済をすれば,法律の規定に従って求償権が発生する以上,保証人の弁済が破産手続開始後にされても,保証契約が主たる債務者の破産手続開始前に締結されていれば,当該求償権の発生の基礎となる保証関係は,その破産手続開始前に発生しているということができるから,当該求償権は,『破産手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権』(破産法2条5項)に当たるものというべきである。」と述べます。
委託保証の場合は事前の求償権があり、破産手続開始により期限の利益が喪失して事前の求償権が認められますので、破産手続き開始後に保証債務を履行した場合の求償権と区別する必要はありませんから、当然破産債権となると考えられます。また無委託保証の事後求償権についても「仮に委託を受けない保証人が取得する事後求償権が破産債権でないとすると,同保証人は保証債務を履行しても,これにより取得する事後求償権を主たる債務者の破産手続において一切行使することができないことになるし,上記事後求償権は免責の対象にならないことになるが,このような結論が妥当であるとは認められない。」(大阪地裁平成20年10月31日判決)としても、やはり当然破産債権となります。
3 求償権と相殺
(1) 相殺権
ア 民法上の相殺
(ア) 二人が互いに同種の目的を有する債務を負担する場合において,双方の債務が弁済期にあるときは,各債務者は,その対当額について相殺によってその債務を免れることができます(民法505条)。
(イ) 二人が互いに同種の目的を有する債務を負担する場合,一方の当事者は,たとえ他方の当事者が経済的に危機的状況に陥ったとしても,相殺することよって,いわば債権を回収したのと同じ状況を生じさせることができるわけです。民法上,このような相殺に対する期待は,合理的期待として保護されるべきとされます。
言い換えれば,この場合の各当事者は,互いの債権について担保を有しているのと同じ状態にあるわけであり,このような相殺の機能を相殺の担保的機能といいます(最大判昭45.6.24参照)。
イ 破産法上の相殺
(ア) 相殺権
破産手続の開始は,経済的危機的状況(前記ア(イ)参照)の最たるものであり,まさに相殺に対する期待は保護されるべきといえます。そこで,破産債権者は,破産手続開始の時において破産者に対して債務を負担するときは,破産手続によらないで,相殺をすることができるとされています(破産法67条1項)。
(イ) 相殺の禁止
破産法の基本原則として,債権者間の公平・平等があります。破産債権者は公平・平等に利益を受け又は不利益を受けることが保障され,一部の債権者が他の債権者を出し抜いて自らが有利に扱われるように行動することを許さないからこそ,破産手続は正当化されるわけです。
そこで,破産者に対して債務を負担する者は,破産手続開始後に他人の破産債権を取得した場合には,相殺をすることができません(破産法72条1項1号)。
(2) 求償権を自働債権とする相殺の可否
では,破産者に対して債務を負担する者が,破産手続開始前に保証契約を締結し,同手続開始後に弁済をして求償権を取得した場合,この求償権を自働債権とする相殺をすることはできるのでしょうか。
ア この点,最高裁平成24年5月28日判決は,委託保証の場合については,「相殺は,破産債権についての債権者の公平・平等な扱いを基本原則とする破産手続の下においても,他の破産債権者が容認すべきものであり,同相殺に対する期待は,破産法67条によって保護される合理的なものである。」として,肯定に解します。
イ 他方で,同判決は,無委託保証の場合については,「相殺は,破産法72条1項1号の類推適用により許されないと解するのが相当である。」として,否定に解します。
同判決は,この理由について,
「無委託保証人が破産者の破産手続開始前に締結した保証契約に基づき同手続開始後に弁済をして求償権を取得した場合についてみると,この求償権を自働債権とする相殺を認めることは,破産者の意思や法定の原因とは無関係に破産手続において優先的に取り扱われる債権が作出されることを認めるに等しいものということができ,この場合における相殺に対する期待を,委託を受けて保証契約を締結した場合と同様に解することは困難というべきである。
そして,無委託保証人が上記の求償権を自働債権としてする相殺は,破産手続開始後に,破産者の意思に基づくことなく破産手続上破産債権を行使する者が入れ替わった結果相殺適状が生ずる点において,破産者に対して債務を負担する者が,破産手続開始後に他人の債権を譲り受けて相殺適状を作出した上同債権を自働債権としてする相殺に類似し,破産債権についての債権者の公平・平等な扱いを基本原則とする破産手続上許容し難い点において,破産法72条1項1号が禁ずる相殺と異なるところはない。」
と述べます。
ウ 以上を要するに,最高裁は,委託保証の場合の相殺は,なお破産法67条(前記(1)イ(ア))によって保護されるのに対し,無委託保証の場合の相殺は,破産法72条1項1号が禁ずる相殺(前記(1)イ(イ))と同様であって許されない,とする立場に立つといえます。
このように,委託保証の場合の相殺と無委託保証の場合の相殺についてその可否が異なる理由については,委託保証は債務者の関与・意思によりされるものであり,その点で破産手続外の権利行使を容認する担保権と同様であるのに対し,無委託保証はそうではない(前記1(3)),ということにある,といえるでしょう。
この点,千葉裁判官の補足意見のうち,以下の箇所が参考になります。
「委託保証契約と無委託保証契約との違いは,前者は,債務者の関与・意思によりされるものであり,契約締結によって一定の場合事前求償権が発生している点からみても,債務者が与信の付与のために望んだものであり,将来,必要が生ずれば相殺処理を想定したものでもあって,一種の担保的機能を債務者が容認したものといえる。主債務者に破産手続の開始等の倒産状態が生じたとしても,前者により生じた求償権を相殺処理することは,他の破産債権者も容認せざるを得ないと考えるのは,このような理由からである。破産法67条は,このような考えの下で,法廷意見が述べるとおり,相殺に対する期待は保護される合理的なものであるとして,相殺処理が可能であるとしたものと解される。
ところが,後者の無委託保証契約では,そもそも事前求償権は生ぜず,一定の条件が整った場合に事後求償権が生ずるだけであり,前記のとおり,主債務者の関与していない領域の出来事であり,債務者が自己の責任の及ぶことを自覚している経済活動とは評価できないものであるから,債務者にとっては,結果的に自己の利益になることはあっても,将来必要が生ずれば相殺処理されることを想定していたり,担保的機能を初めから容認しているとはいえず,その点で他の破産債権者も,これを容認せざるを得ないものとは考えないというべきである。破産手続においては,破産財団からすべての破産債権者に全額の配当がされることは期待できない場合がほとんどであるから,一般の破産債権者同士では,一部の者のみが優先的に債権回収をすることは許されず,お互いに,平等取扱いを要求するものであって,そこでは強い平等原則が支配する場面である。そして,無委託保証契約による事後求償権については,その相殺処理は他の破産債権者にとって容認できないという強い不平等感を抱くはずであり,これは,単なる破産債権者の感情や願望ではなく,破産手続の基本原則に背馳する処理となることから生ずるものであって,その点で,委託保証契約による事後求償権と法的な扱いに差を設ける合理的な理由があるというべきである。すなわち,無委託保証契約による事後求償権に対するこのような評価は,それを破産債権と扱わない理由とまではならないとしても,破産者の意思により設定された別除権や委託保証契約による事後求償権の相殺処理のようないわば破産手続外での処理は認めない,あるいは優先的な債権回収は認めない,という限度での差別の合理的な理由となり得るものである。」
4 簡単な例をあげて説明すると、主たる債務者から保証人になることを委託された保証人は保証債務の履行を心配しなくてはなりません。しかし、万一保証債務を履行しなくてはならなくなり求償権が発生したとしても、保証人が主たる債務者に対して債務を負っていた場合、保証人は主たる債務者に対する債務と求償権を相殺することにより、求償権の行使が容易となります。保証人の相殺にはこのような担保としての機能があり、主たる債務者もそれを前提に保証人なることを委託したと考えられます。このような担保機能に着目すれば、破産手続きの場合も、他の担保と同様破産手続きとは別に相殺が認められる必要がありますし、それを認めても他の債権者と不公平になるとは言えません。
他方で、無委託保証の場合は主たる債務者と保証人との間に特別な関係がなくて保証人になる場合もあり、主たる債務者の意思とは無関係に保証人になっている訳ですから担保が設定されているとは言えない、という点に着目すると相殺は認められないという結論になります。
但し、無委託保証の場合であっても保証人が主たる債務者に債務を負担している場合、委託保証の場合と同様にそれを引き当てに保証人になっているという場合も考えられます。実質的にそのような取引関係がある場合は相殺を認められべきであるという考え方も十分可能です。
いずれにしろ、現時点では無委託保証の場合は相殺は認められないという前提で、相殺の担保的な機能を重視したいということであれば、個別に委託保証契約書を作成しておく必要があります。
<参照条文>
(連帯債務者間の求償権)
第四百四十二条 連帯債務者の一人が弁済をし,その他自己の財産をもって共同の免責を得たときは,その連帯債務者は,他の連帯債務者に対し,各自の負担部分について求償権を有する。
2 前項の規定による求償は,弁済その他免責があった日以後の法定利息及び避けることができなかった費用その他の損害の賠償を包含する。
民法
(連帯債務者間の求償権)
第四百四十二条 連帯債務者の一人が弁済をし,その他自己の財産をもって共同の免責を得たときは,その連帯債務者は,他の連帯債務者に対し,各自の負担部分について求償権を有する。
2 前項の規定による求償は,弁済その他免責があった日以後の法定利息及び避けることができなかった費用その他の損害の賠償を包含する。
(連帯債務者間の求償権)
第四百四十二条 連帯債務者の一人が弁済をし,その他自己の財産をもって共同の免責を得たときは,その連帯債務者は,他の連帯債務者に対し,各自の負担部分について求償権を有する。
2 前項の規定による求償は,弁済その他免責があった日以後の法定利息及び避けることができなかった費用その他の損害の賠償を包含する。
(連帯債務者間の求償権)
第四百四十二条 連帯債務者の一人が弁済をし,その他自己の財産をもって共同の免責を得たときは,その連帯債務者は,他の連帯債務者に対し,各自の負担部分について求償権を有する。
2 前項の規定による求償は,弁済その他免責があった日以後の法定利息及び避けることができなかった費用その他の損害の賠償を包含する。
(連帯債務者間の求償権)
第四百四十二条 連帯債務者の一人が弁済をし,その他自己の財産をもって共同の免責を得たときは,その連帯債務者は,他の連帯債務者に対し,各自の負担部分について求償権を有する。
2 前項の規定による求償は,弁済その他免責があった日以後の法定利息及び避けることができなかった費用その他の損害の賠償を包含する。
(連帯債務者間の求償権)
第四百四十二条 連帯債務者の一人が弁済をし,その他自己の財産をもって共同の免責を得たときは,その連帯債務者は,他の連帯債務者に対し,各自の負担部分について求償権を有する。
2 前項の規定による求償は,弁済その他免責があった日以後の法定利息及び避けることができなかった費用その他の損害の賠償を包含する。
(連帯債務者間の求償権)
第四百四十二条 連帯債務者の一人が弁済をし,その他自己の財産をもって共同の免責を得たときは,その連帯債務者は,他の連帯債務者に対し,各自の負担部分について求償権を有する。
2 前項の規定による求償は,弁済その他免責があった日以後の法定利息及び避けることができなかった費用その他の損害の賠償を包含する。
(連帯債務者間の求償権)
(連帯債務者間の求償権)
第四百四十二条 連帯債務者の一人が弁済をし,その他自己の財産をもって共同の免責を得たときは,その連帯債務者は,他の連帯債務者に対し,各自の負担部分について求償権を有する。
2 前項の規定による求償は,弁済その他免責があった日以後の法定利息及び避けることができなかった費用その他の損害の賠償を包含する。
(連帯債務者間の求償権)
第四百四十二条 連帯債務者の一人が弁済をし,その他自己の財産をもって共同の免責を得たときは,その連帯債務者は,他の連帯債務者に対し,各自の負担部分について求償権を有する。
2 前項の規定による求償は,弁済その他免責があった日以後の法定利息及び避けることができなかった費用その他の損害の賠償を包含する。
(連帯債務者間の求償権)
第四百四十二条 連帯債務者の一人が弁済をし,その他自己の財産をもって共同の免責を得たときは,その連帯債務者は,他の連帯債務者に対し,各自の負担部分について求償権を有する。
2 前項の規定による求償は,弁済その他免責があった日以後の法定利息及び避けることができなかった費用その他の損害の賠償を包含する。
第442条 連帯債務者の一人が弁済をし,その他自己の財産をもって共同の免責を得たときは,その連帯債務者は,他の連帯債務者に対し,各自の負担部分について求償権を有する。
2 前項の規定による求償は,弁済その他免責があった日以後の法定利息及び避けることができなかった費用その他の損害の賠償を包含する。
(委託を受けた保証人の求償権)
第459条 保証人が主たる債務者の委託を受けて保証をした場合において,過失なく債権者に弁済をすべき旨の裁判の言渡しを受け,又は主たる債務者に代わって弁済をし,その他自己の財産をもって債務を消滅させるべき行為をしたときは,その保証人は,主たる債務者に対して求償権を有する。
2 第442条第2項の規定は,前項の場合について準用する。
(委託を受けた保証人の事前の求償権)
第四百六十条 保証人は,主たる債務者の委託を受けて保証をした場合において,次に掲げるときは,主たる債務者に対して,あらかじめ,求償権を行使することができる。
一 主たる債務者が破産手続開始の決定を受け,かつ,債権者がその破産財団の配当に加入しないとき。
二 債務が弁済期にあるとき。ただし,保証契約の後に債権者が主たる債務者に許与した期限は,保証人に対抗することができない。
三 債務の弁済期が不確定で,かつ,その最長期をも確定することができない場合において,保証契約の後十年を経過したとき。
(委託を受けた保証人の事前の求償権)
第四百六十条 保証人は,主たる債務者の委託を受けて保証をした場合において,次に掲げるときは,主たる債務者に対して,あらかじめ,求償権を行使することができる。
一 主たる債務者が破産手続開始の決定を受け,かつ,債権者がその破産財団の配当に加入しないとき。
二 債務が弁済期にあるとき。ただし,保証契約の後に債権者が主たる債務者に許与した期限は,保証人に対抗することができない。
三 債務の弁済期が不確定で,かつ,その最長期をも確定することができない場合において,保証契約の後十年を経過したとき。
(委託を受けた保証人の事前の求償権)
第四百六十条 保証人は,主たる債務者の委託を受けて保証をした場合において,次に掲げるときは,主たる債務者に対して,あらかじめ,求償権を行使することができる。
一 主たる債務者が破産手続開始の決定を受け,かつ,債権者がその破産財団の配当に加入しないとき。
二 債務が弁済期にあるとき。ただし,保証契約の後に債権者が主たる債務者に許与した期限は,保証人に対抗することができない。
三 債務の弁済期が不確定で,かつ,その最長期をも確定することができない場合において,保証契約の後十年を経過したとき。
(委託を受けた保証人の事前の求償権)
第460条 保証人は,主たる債務者の委託を受けて保証をした場合において,次に掲げるときは,主たる債務者に対して,あらかじめ,求償権を行使することができる。
一 主たる債務者が破産手続開始の決定を受け,かつ,債権者がその破産財団の配当に加入しないとき。
二 債務が弁済期にあるとき。ただし,保証契約の後に債権者が主たる債務者に許与した期限は,保証人に対抗することができない。
三 債務の弁済期が不確定で,かつ,その最長期をも確定することができない場合において,保証契約の後10年を経過したとき。
(委託を受けない保証人の求償権)
第462条 主たる債務者の委託を受けないで保証をした者が弁済をし,その他自己の財産をもって主たる債務者にその債務を免れさせたときは,主たる債務者は,その当時利益を受けた限度において償還をしなければならない。
2 主たる債務者の意思に反して保証をした者は,主たる債務者が現に利益を受けている限度においてのみ求償権を有する。この場合において,主たる債務者が求償の日以前に相殺の原因を有していたことを主張するときは,保証人は,債権者に対し,その相殺によって消滅すべきであった債務の履行を請求することができる。
(相殺の要件等)
第505条 二人が互いに同種の目的を有する債務を負担する場合において,双方の債務が弁済期にあるときは,各債務者は,その対当額について相殺によってその債務を免れることができる。ただし,債務の性質がこれを許さないときは,この限りでない。
2 前項の規定は,当事者が反対の意思を表示した場合には,適用しない。ただし,その意思表示は,善意の第三者に対抗することができない。
破産法
(定義)
第2条
5 この法律において「破産債権」とは,破産者に対し破産手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権(第97条各号に掲げる債権を含む。)であって,財団債権に該当しないものをいう。
(相殺権)
第67条 破産債権者は,破産手続開始の時において破産者に対して債務を負担するときは,破産手続によらないで,相殺をすることができる。
2 破産債権者の有する債権が破産手続開始の時において期限付若しくは解除条件付であるとき,又は第103第2項第1号に掲げるものであるときでも,破産債権者が前項の規定により相殺をすることを妨げない。破産債権者の負担する債務が期限付若しくは条件付であるとき,又は将来の請求権に関するものであるときも,同様とする。
(相殺の禁止)
第72条 破産者に対して債務を負担する者は,次に掲げる場合には,相殺をすることができない。
一 破産手続開始後に他人の破産債権を取得したとき。
<参照判例>
最高裁平成24年5月28日判決
主文
1 原判決中,以下の(1)ないし(6)記載の各部分につき原判決を破棄する。
(1) 承継前上告人B破産管財人Aの請求中23万9509円及びこれに対する平成19年5月10日から支払済みまで年6分の割合による金員の支払を求める部分
(2) 承継前上告人C破産管財人Aの請求中721万3218円及びこれに対する平成19年5月10日から支払済みまで年6分の割合による金員の支払を求める部分
(3) 承継前上告人D破産管財人Aの請求中41万9052円及びこれに対する平成19年5月10日から支払済みまで年6分の割合による金員の支払を求める部分
(4) 承継前上告人E破産管財人Aの請求中73万2615円及びこれに対する平成19年5月10日から支払済みまで年6分の割合による金員の支払を求める部分
(5) 承継前上告人F破産管財人Aの請求中47万0985円及びこれに対する平成19年5月10日から支払済みまで年6分の割合による金員の支払を求める部分
(6) 承継前上告人G破産管財人Aの請求中200万円及びこれに対する平成19年5月10日から支払済みまで年6分の割合による金員の支払を求める部分
2 前項の各部分につき,本件を大阪高等裁判所に差し戻す。
3 上告人らのその余の上告をいずれも却下する。
4 前項に関する上告費用は上告人らの負担とする。
理由
上告代理人…の上告受理申立て理由(ただし,排除されたものを除く。)について
1 本件は,6名の破産者の各破産管財人である承継前上告人らが,それぞれ,被上告人に対し,各破産者と被上告人との間の当座勘定取引契約を解約したことに基づく払戻金及び遅延損害金の支払を求める事案である。被上告人は,各破産者の破産手続開始前に,その委託を受けないで,各破産者の債務について,その債権者との間において保証契約を締結し,破産手続開始後に同契約に基づき保証債務を履行して各破産者に対し求償権を取得したとして,同求償権を自働債権とする相殺を主張している。なお,原審口頭弁論終結後に,承継前上告人らは破産管財人をいずれも辞任し,新たに破産者の各破産管財人に選任された上告人らが本訴の訴訟手続を受継した。
2 原審の確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
(1) B,C,D,E,F及びG(以下,それぞれ「B」,「C」,「D」,「E」,「F」及び「G」といい,また,併せて「Bら」ということがある。)は,銀行業を営む会社である被上告人との間で,それぞれ当座勘定取引契約(以下,併せて「本件各当座勘定取引契約」という。)を締結していた。
(2) 被上告人は,平成18年4月28日,Bらの委託を受けないで,Bらの取引先であるHとの間で,Bらが同日から平成19年4月27日までの間にそれぞれHに対して負担する買掛債務及び手形債務につき,極度額を定めてそれぞれ保証する旨の保証契約(以下,併せて「本件各保証契約」という。)を締結した。極度額は,Bについて2400万円,Cについて1200万円,Dについて800万円,Eについて200万円,Fについて200万円,Gについて200万円であった。
(3) Bらは,いずれも,平成18年8月31日,破産手続開始の決定を受け,承継前上告人らが,それぞれ,破産管財人に選任された。
(4) 被上告人は,平成19年3月27日及び同月28日,本件各保証契約に基づく保証債務の履行として,Hに対し,Bの債務2400万円を,Cの債務723万0428円を,Dの債務270万2700円を,Eの債務73万2615円を,Fの債務47万0985円を,Gの債務200万円をそれぞれ弁済した。
(5) 承継前上告人らは,平成19年5月9日,それぞれ,本件各当座勘定取引契約に定められた手続により,本件各当座勘定取引契約を解約した。
(6) 被上告人は,平成19年6月12日,承継前上告人らに対し,前記弁済により取得した求償権と本件各当座勘定取引契約に基づきBらが被上告人に対して有する債権とをそれぞれ対当額において相殺する旨の意思表示をした。上記の各債権がそれぞれ対当額において相殺されると,被上告人の債務は,Bに係る債務につき23万9509円が,Cに係る債務につき721万3218円が,Dに係る債務につき41万9052円が,Eに係る債務につき73万2615円が,Fに係る債務につき47万0985円が,Gに係る債務につき200万円が,それぞれ消滅することとなる(以下,上記の各相殺を併せて「本件各相殺」という。)。
3 原審は,本件各相殺の効力につき次のとおり判断するなどして,承継前上告人らの請求をいずれも棄却すべきものとした。
(1) 保証人が,主たる債務者の破産手続開始前に締結された保証契約に基づき同手続開始後に弁済をして取得するに至った求償権は,当該保証契約が主たる債務者の委託を受けないで締結されたものであっても,破産債権となる。
(2) 破産法72条1項1号にいう破産債権の取得とは,将来の請求権の場合には,現実化する前の将来の請求権を取得することをいうと解されるところ,被上告人は,将来の請求権としての求償権をBらの破産手続開始前である本件各保証契約の締結時に取得したと解すべきであるから,本件各相殺につき,同号は類推適用されず,被上告人による本件各相殺が許される。
4 しかしながら,原審の上記3(1)の判断は是認することができるが,同(2)の判断は是認することができない。その理由は,以下のとおりである。
(1) 保証人は,弁済をした場合,民法の規定に従って主たる債務者に対する求償権を取得するのであり(民法459条,462条),このことは,保証が主たる債務者の委託を受けてされた場合と受けないでされた場合とで異なるところはない(以下,主たる債務者の委託を受けないで保証契約を締結した保証人を「無委託保証人」という。)。このように,無委託保証人が弁済をすれば,法律の規定に従って求償権が発生する以上,保証人の弁済が破産手続開始後にされても,保証契約が主たる債務者の破産手続開始前に締結されていれば,当該求償権の発生の基礎となる保証関係は,その破産手続開始前に発生しているということができるから,当該求償権は,「破産手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権」(破産法2条5項)に当たるものというべきである。したがって,無委託保証人が主たる債務者の破産手続開始前に締結した保証契約に基づき同手続開始後に弁済をした場合において,保証人が主たる債務者である破産者に対して取得する求償権は,破産債権であると解するのが相当である。
(2) 次に,このような破産債権による相殺の可否について検討する。
ア 相殺は,互いに同種の債権を有する当事者間において,相対立する債権債務を簡易な方法によって決済し,もって両者の債権関係を円滑かつ公平に処理することを目的とする合理的な制度であって,相殺権を行使する債権者の立場からすれば,債務者の資力が不十分な場合においても,自己の債権について確実かつ十分な弁済を受けたと同様の利益を得ることができる点において,受働債権につきあたかも担保権を有するにも似た機能を営むものである(最高裁昭和…45年6月24日大法廷判決…参照)。上記のような相殺の担保的機能に対する破産債権者の期待を保護することは,通常,破産債権についての債権者間の公平・平等な扱いを基本原則とする破産制度の趣旨に反するものではないことから,破産法67条は,原則として,破産手続開始時において破産者に対して債務を負担する破産債権者による相殺を認め,同破産債権者が破産手続によることなく一般の破産債権者に優先して債権の回収を図り得ることとし,この点において,相殺権を別除権と同様に取り扱うこととしたものと解される。
他方,破産手続開始時において破産者に対して債務を負担する破産債権者による相殺であっても,破産債権についての債権者の公平・平等な扱いを基本原則とする破産手続の下においては,上記基本原則を没却するものとして,破産手続上許容し難いことがあり得ることから,破産法71条,72条がかかる場合の相殺を禁止したものと解され,同法72条1項1号は,かかる見地から,破産者に対して債務を負担する者が破産手続開始後に他人の破産債権を取得してする相殺を禁止したものである。
イ 破産者に対して債務を負担する者が,破産手続開始前に債務者である破産者の委託を受けて保証契約を締結し,同手続開始後に弁済をして求償権を取得した場合には,この求償権を自働債権とする相殺は,破産債権についての債権者の公平・平等な扱いを基本原則とする破産手続の下においても,他の破産債権者が容認すべきものであり,同相殺に対する期待は,破産法67条によって保護される合理的なものである。しかし,無委託保証人が破産者の破産手続開始前に締結した保証契約に基づき同手続開始後に弁済をして求償権を取得した場合についてみると,この求償権を自働債権とする相殺を認めることは,破産者の意思や法定の原因とは無関係に破産手続において優先的に取り扱われる債権が作出されることを認めるに等しいものということができ,この場合における相殺に対する期待を,委託を受けて保証契約を締結した場合と同様に解することは困難というべきである。
そして,無委託保証人が上記の求償権を自働債権としてする相殺は,破産手続開始後に,破産者の意思に基づくことなく破産手続上破産債権を行使する者が入れ替わった結果相殺適状が生ずる点において,破産者に対して債務を負担する者が,破産手続開始後に他人の債権を譲り受けて相殺適状を作出した上同債権を自働債権としてする相殺に類似し,破産債権についての債権者の公平・平等な扱いを基本原則とする破産手続上許容し難い点において,破産法72条1項1号が禁ずる相殺と異なるところはない。
そうすると,無委託保証人が主たる債務者の破産手続開始前に締結した保証契約に基づき同手続開始後に弁済をした場合において,保証人が取得する求償権を自働債権とし,主たる債務者である破産者が保証人に対して有する債権を受働債権とする相殺は,破産法72条1項1号の類推適用により許されないと解するのが相当である。
5 以上によれば,被上告人による本件各相殺が許されるとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,承継前上告人B破産管財人Aの請求中23万9509円の金員の支払を求める部分,承継前上告人C破産管財人Aの請求中721万3218円の金員の支払を求める部分,承継前上告人D破産管財人Aの請求中41万9052円の支払を求める部分,承継前上告人E破産管財人Aの請求中73万2615円の支払を求める部分,承継前上告人F破産管財人Aの請求中47万0985円の金員の支払を求める部分及び承継前上告人G破産管財人Aの請求中200万円の支払を求める部分並びにこれらの金員に対する平成19年5月10日から支払済みまで年6分の金員の支払を求める部分につき,原判決は,破棄を免れない。そして,同部分につき,原審口頭弁論終結後に生じた上告人らによる権利の承継に基づき訴えを変更するため,本件を原審に差し戻すこととする。
なお,その余の上告については,上告人らは上告受理の申立ての理由を記載した書面を提出しないから,却下することとする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官須藤正彦,同千葉勝美の各補足意見がある。
裁判官須藤正彦の補足意見は,次のとおりである。
私は,法廷意見の結論及び理由に同調するものであるが,なお,実質的平等という観点を中心に私見により理由を付加的に補足しておきたい。
1(1) 本件の相殺の許否は,詰まるところ,一方における,破産手続開始前に無委託保証人である者が同手続開始後に弁済したことにより同人が主たる債務者に対して取得した求償権(以下,この場合の求償権を「破産開始後求償権」ということもある。)が破産債権であるということによる平等弁済の要求と,他方における,相殺は担保権ではないが自働債権を有する者が受働債権につきあたかも担保権を有するにも似た機能を営むものであるということによる優先弁済の要求という二つの相反する要求の交錯において,破産法67条はどのように解釈されるべきかという問題である。しかして,破産法等の倒産法は,債務者の利害関係人を中心とする取引界の支配的通念と無関係ではあり得ず,その反映であるともいえるから,同条の解釈に当たってもこの観点で検討することが必要かつ有用であると思われる。
(2) 債務者の責任財産が複数の債権者の総債権の満足に不足するという支払不能の状態(倒産)に陥った場合,各債権者においては最大限の回収が切実な課題となり,実力を行使してでも自己の債権だけは回収しようと先を争い,無秩序で不公平な事態になり得る。そこで,倒産法は,債務者の清算または再建に向けての債権債務関係の処理に関して,基本的に,担保権付ではない一般債権については債権額に応じた比例的平等弁済という意味での債権者平等の原則の実現を図り,担保権付債権については優先的弁済を受けることができるように定める。それは,我々の一般的法感情が無秩序で不公平な事態を許容しないからであり,特に,債務者の利害関係人を中心とした取引界(以下,「取引界」を債務者の利害関係人を中心とした取引界の意味で用いる。)の支配的通念が,基本的に,一たび倒産手続が開始された以上は,債権額に応じた比例的平等弁済を要求するとともに,それとは異なる優劣のある取扱いには合理的理由の存在を要求するという意味での実質的平等の実現を一般的に要求するからである。すなわち,取引界の支配的通念は,民法等の実体法上で同じ性質の債権が互いに平等であることに基づき比例的平等弁済を要求し,また,担保権付債権については,債務者が平常時にその負担する債務のために保有する財産について担保を設定するという担保取引の自由を有するとともに,他方において,債務者に倒産手続が開始されたがゆえに担保権として優先的に弁済を受けることができる関係が覆滅させられたら,債権者は安んじて担保取引をすることができず,そのことは社会の経済活動を害することになるから,倒産手続が開始されても優先的回収をすることに合理的理由を認め,これについて実質的平等であるとして容認するものといえる。
(3) かくて,破産法等倒産法の諸規定は,取引界の支配的通念の反映ともいえるのであって,したがって,逆に,債権者平等の原則における比例的平等弁済や担保権付債権の優先的取扱いということも,取引界の支配的通念に照らし実質的平等に反すると認められる各局面では,民法等の実体法を一部修正する立法によって,また,倒産処理を管轄する裁判所や管財人等の実務における運用上の工夫によって変容を受け得るのである(少額債権者の優先弁済,破産者経営者の破産者に対する債権の行使の制限,会社更生法での担保権の更生担保権としての処遇はその一例)。そうであれば,破産法等倒産法の解釈においても,倒産手続開始時以後の取引界の支配的通念に照らしてなされるべきであるといい得,したがって,破産法67条等の解釈においても,この実質的平等という観点を根底に置いて解釈がなされるべきであるといえる。そうすると,破産者に対する債務を受働債権とする相殺に関しては,同法67条は破産手続開始時以後の取引界の支配的通念に照らして実質的平等に合致するとみられる場合にその効力を認める趣旨の規定,また,同法71条,72条は同じく実質的平等に反するとみられる場合について相殺の効力を否定する趣旨の規定であると解すべきである。そうして,債権者の相殺についての合理的期待は保護されるべきであるといわれるが,取引界の支配的通念に照らして実質的平等に合致するとみられる場合が合理的期待がある場合に当たるといえる。また,そのことよりすれば,逆に実質的平等に合致しない結果を生じさせるとみられるような場合については,形式的には同法67条に該当するようにみえても,合理的な期待を有しないものとして,同条は適用をみないというべきである。結局のところ,相殺は担保権ではないものの担保的機能を営むことに鑑みれば,同条の適用の有無も,取引界の支配的通念からそのような優先的取扱いを生じさせることに合理的理由があるとみられるか否か,つまりは,実質的平等であるとして容認されるためのいわば正当化根拠ともいうべきものが見出されるか否かということに係るといえる。
2 しかるところ,破産手続開始時において破産者に対して債務を負担する破産債権者による相殺は,破産法72条に該当する場合は別として,多くの場合,取引界の支配的通念から実質的平等であるとして容認されるための正当化根拠を見出すことができ,したがって,相殺に対する期待は合理的で同法67条も適用されるといえるのであるが,本件はそのような場合と同様に解することは困難というべきである。
(1) 第1に,破産開始手続時に既に同種の債権が対立し弁済期にある状態(相殺適状)が現実化している場合については,この場合に相殺の効力を生じさせることが制度として認められている以上,そこに当然に正当化根拠があり,したがって,取引界の支配的通念によって,他の一般の破産債権に優先して債権の回収がなされることになってもなお実質的平等であるとして容認されるといえる。すなわち,相殺に担保的機能を生じさせることは取引の安全,円滑な経済の遂行に資し,逆のときはこれを妨げるのであり,また,この場合には,受働債権が自働債権の引当てになっている関係(自働債権と受働債権との牽連関係)が現実化しているということで一種の公示がなされ,いわば対抗力を獲得するに至っているともいえないわけではないと思われるからである。そうすると,この場合は,債権者の相殺に対する期待は当然合理的なものといえる。破産法67条によって相殺が認められるのは一般的にはこのような場合であろう。また,この意味で,無委託保証人の破産手続開始前の弁済に基づく求償権による相殺においては,破産手続開始時に前記の同種の債権の対立状態という前提が備わっているから,同人の相殺の期待は合理的とみられ,したがって,当然同条が適用されて相殺の効力が認められるわけである。
(2) 第2に,破産者は,平常時において経済活動の自由があり,その保有する債権という責任財産について処分の自由を有している。そうすると,債務者が,破産手続開始前にその自らの意思により自己の保有する債権(受働債権)を債権者による将来の相殺のために供することについては,取引界の支配的通念において実質的平等であると容認されるための正当化根拠が見出されるといい得る。この点よりすると,債務者の破産手続開始前の委託による保証(委託保証)に基づき保証人が同手続開始後に弁済した場合の事後求償権による相殺は,破産手続開始前に債務者がその自らの意思により自己の保有する債権(受働債権)を事後求償権を自働債権とする保証人による将来の相殺のために供したことによりなされるといえるから,取引界の支配的通念により実質的平等であるとして容認されるための正当化根拠が見出されるといい得,その結果,この場合の保証人の相殺の期待も合理的とみられる。したがって,この場合は当然破産法67条が適用されて,相殺の効力が認められるわけである。
(3) 第3に,上記のとおり,破産法67条の適用の有無においては取引界の支配的通念である実質的平等という観点が決定的な役割を果たすといえるから,無委託保証人が受働債権を有し,これを引当てにして保証を行うということがいわば信用取引の一種として取引慣行上定着しているならば,その取引慣行が是認され,受働債権が自働債権の引当てになっているという関係(自働債権と受働債権との牽連関係)が一般的になっているといえる。その結果,取引界の支配的通念は,その取引慣行に,実質的平等であるとして容認されるための正当化根拠を見出すことになり得,したがって,無委託保証人の破産開始後求償権による相殺の期待は合理的なものと認められることになり得る。そうすると,それについては,同条が適用され,相殺の効力が認められ得るわけである。
(4) しかしながら,本件の無委託保証人たる被上告人の破産手続開始後求償権を自働債権とする相殺においては,第1に,破産手続開始時には被上告人の弁済による求償権は現実化していないから,同種の債権の対立,つまり,Bらの受働債権が被上告人の求償権の引当てとなっているという関係(自働債権と受働債権との牽連関係)の現実化という前提が欠けており,第2に,Bらは被上告人に保証を委託していなかったのであるから,Bらが自らの意思により自己の保有する預金債権を求償権を自働債権とする被上告人による将来の相殺のために供したという前提も欠けている。また,無委託保証人が受働債権を有し,これを引当てにして保証をしているという慣行が定着しているという事情も全くうかがい得ない。そうすると,本件の無委託保証人の破産開始後求償権を自働債権とする相殺については,以上の点において取引界の支配的通念で実質的平等があるとして容認されるための正当化根拠が見出され得ない。また,この他にも見出し得るわけではない。そうすると,本件における被上告人の相殺の期待は,無委託保証人が破産手続開始前に弁済をした場合や委託を受けた保証人が破産手続開始後に弁済をした場合と同様に解することは困難というべきである。
3 他方,破産法72条1項1号の場合は,破産手続開始時の同種の債権の対立の現実化,債務者自らの意思により自己の保有する債権(受働債権)を債権者の将来の相殺のために供したことという前提を欠き,また,同号に示されている事例が慣行として是認され定着しているわけではないという点で,本件の場合と全く利益状況を共通にする。もとより,破産法の規定をたやすく類推適用して相殺を否定することは,予測可能性を害し,円滑な経済の遂行を妨げるおそれがあるから,それはよくよく慎重でなければならないが,そうであるとしても,本件の相殺に限っては,上記よりすれば,同法67条の適用は否定され,また,同法72条1項1号の場合と利益状況を全く共通にするのだから,同法72条は実質的平等に反する代表的な場合を列挙したもので,少なくとも類推適用を絶対的に許さないほどの厳格な限定挙示とみるべきではないと解した上,本件の無委託保証人の破産開始後求償権による相殺については,同条1項1号の場合に準ずるものとしてその類推適用が許されてよいと思われる。
4 以上よりすると,被上告人の本件各相殺については破産法67条は適用することができず,同法72条1項1号を類推適用するのが相当であるから,その効力は否定されるというべきである。
なお,念のためいえば,既に述べたとおり,受働債権の存在ないしはそれと破産開始後事後求償権との相殺を前提とする無委託保証が慣行として定着していることは全くうかがわれず,また,将来,例えば,預金等を取り扱う金融機関(預金保険法2条1項,2項参照)が今後この業務に積極的に参入するという傾向も看取され得ない。受働債権との相殺を前提としないと,その業務の遂行を困難にさせ,あるいは業界の発展を妨げるとは思われず,また,この相殺を否定することが債務者の資金調達ないしは与信機会の拡大を著しく妨げることになるというような事態もにわかに考え難いところである。
5 なお,以上の理は,民事再生,会社更生の局面でも同様に当てはまると思われる(民事再生法93条の2第1項1号,会社更生法49条の2第1項1号参照)。
裁判官千葉勝美の補足意見は,次のとおりである。
私は,無委託保証人が主債務者の破産手続開始後に取得する事後求償権を破産債権とした上で,これを自働債権として行う相殺につき,破産法72条1項1号の類推適用により許されないとする法廷意見との関係で,次の点を補足しておきたい。
1 主たる債務者の委託を受けないで締結された保証契約(以下「無委託保証契約」という。)と事務管理
無委託保証契約の締結は,主債務者の関与していない領域の出来事であり,債務者が自己の責任の及ぶことを自覚している経済活動とは評価できないものであって,その点で主債務者の委託を受けて締結された保証契約(以下「委託保証契約」という。)の締結とは異なる面がある。そこで,このことを理由に,無委託保証契約により主債務者の破産手続開始後の弁済によって取得した事後求償権については,そもそも破産者の領域外の原因によるものとして破産債権にも当たらない,すなわち,「通常の条件付債権と同様に,無委託保証契約を債権発生の原因であると捉えて事後求償権が条件付に既に発生している」と考える必要はない,とする見方があり得ないではない。これによれば,無委託保証契約が破産者との間で債権的な関係を発生させるのは,本件では,破産手続開始後に保証債務を弁済した時であり,その意味で,弁済という事務管理によりその時点(破産手続開始後)で事後求償権が生じたという見解が主張されることになる。この見解は,本件において,結論として,事後求償権を破産債権と扱わないことになり,その結果当座預金債権との相殺を認めないことになるが,そのための巧みな理論的工夫であろう。
しかしながら,無委託保証契約であっても,更にはその締結を債務者が望んでいるのか不明な場合であっても,結果的には,契約締結により一定程度債務者に対する与信の付与の効果は生ずるのであり,事務管理という観点からみても,保証債務弁済の時ではなく,保証契約締結の時点で主債務者のための事務管理がされたといわざるを得ない。また,委託保証契約においては,一定の場合,委託を受けた保証人に事前求償権が生じ,その発生原因は保証契約であるということになるが,事後求償権の発生原因も,これと別異に解する理由はなく,同様に保証契約であって,弁済前に弁済を条件とする事後求償権(条件付債権)が発生していると解すべきであろう。そうなると,無委託保証契約が債務者の領域外の出来事であったとしても,事後求償権は,委託保証契約の場合と同様の構造で発生するのであるから,その発生原因も同様に,保証契約と捉えるしかなく,無委託保証契約の場合に限って,その発生原因を保証契約でなく,保証債務の弁済であるとするのは,根拠がないといわざるを得ない。そうすると,解釈論として,本件事後求償権の発生原因は,無委託保証契約であり,破産手続開始前に債権発生の原因があるので条件付破産債権であるということになるので,事後の弁済こそが債権発生の原因であるとする解釈は,やはり採り難いところである。
2 無委託保証契約における事後求償権と相殺
無委託保証契約が破産手続開始前に締結された場合には,その開始後の弁済により生じた事後求償権については,上記のとおり,破産債権でないとまではいえないとしても,破産手続における扱い,特に相殺の許否においては,委託保証契約により生じた事後求償権とは異なる評価がされるべきであろう。その理由は次のとおりである。
委託保証契約と無委託保証契約との違いは,前者は,債務者の関与・意思によりされるものであり,契約締結によって一定の場合事前求償権が発生している点からみても,債務者が与信の付与のために望んだものであり,将来,必要が生ずれば相殺処理を想定したものでもあって,一種の担保的機能を債務者が容認したものといえる。主債務者に破産手続の開始等の倒産状態が生じたとしても,前者により生じた求償権を相殺処理することは,他の破産債権者も容認せざるを得ないと考えるのは,このような理由からである。破産法67条は,このような考えの下で,法廷意見が述べるとおり,相殺に対する期待は保護される合理的なものであるとして,相殺処理が可能であるとしたものと解される。
ところが,後者の無委託保証契約では,そもそも事前求償権は生ぜず,一定の条件が整った場合に事後求償権が生ずるだけであり,前記のとおり,主債務者の関与していない領域の出来事であり,債務者が自己の責任の及ぶことを自覚している経済活動とは評価できないものであるから,債務者にとっては,結果的に自己の利益になることはあっても,将来必要が生ずれば相殺処理されることを想定していたり,担保的機能を初めから容認しているとはいえず,その点で他の破産債権者も,これを容認せざるを得ないものとは考えないというべきである。破産手続においては,破産財団からすべての破産債権者に全額の配当がされることは期待できない場合がほとんどであるから,一般の破産債権者同士では,一部の者のみが優先的に債権回収をすることは許されず,お互いに,平等取扱いを要求するものであって,そこでは強い平等原則が支配する場面である。そして,無委託保証契約による事後求償権については,その相殺処理は他の破産債権者にとって容認できないという強い不平等感を抱くはずであり,これは,単なる破産債権者の感情や願望ではなく,破産手続の基本原則に背馳する処理となることから生ずるものであって,その点で,委託保証契約による事後求償権と法的な扱いに差を設ける合理的な理由があるというべきである。すなわち,無委託保証契約による事後求償権に対するこのような評価は,それを破産債権と扱わない理由とまではならないとしても,破産者の意思により設定された別除権や委託保証契約による事後求償権の相殺処理のようないわば破産手続外での処理は認めない,あるいは優先的な債権回収は認めない,という限度での差別の合理的な理由となり得るものである。
3 破産法67条と同法71条,72条の規律領域
そもそも,相殺処理は,相対立する債権が存在する場合に相殺適状となることにより認められるものであり,本来,民法が規定する条件を満たせば可能なものではあるが,破産債権者に対する公平・平等な取扱いを基本原則とする破産手続においては,他の破産債権者よりも優先的な債権の回収を図る結果となるものであることから,それが許されるか,どのような場合に許されるかは,破産手続において一大関心事というべきであろう。破産法はこの点について,67条と71条,72条の規定を設けて規律しており,本件のような無委託保証契約による事後求償権を自働債権とする相殺処理についての扱いが,どちらの規律領域に入るのかが検討されることになる。
すなわち,本件事後求償権による相殺については,前記のとおり,委託保証契約の事後求償権と異なり,相殺処理を認めない処理をする合理的理由があるとしても,それが破産法67条による規律の領域ではなく,相殺を禁止している同法71条,72条の規律領域に入るということが,67条等の立法の基礎にある考えについての理解のみからではなく,条文の解釈論としていえなければならない。
そこで,特に根拠となり得る破産法72条1項1号についてみると,これは,破産債権者が破産手続開始後になって破産者の意思に基づくことなく他人の破産債権を取得し,その結果,破産者に対する債務と相殺適状を生じさせて相殺処理をすることは,破産手続における公平・平等取扱い原則に反するものであることから,これを禁ずるものである。そして,本件については,破産者に対して債務を負担する無委託保証人が破産手続開始後になって保証債務の弁済を行い,それによって事後求償権を取得し,その結果,相殺適状を生じさせたものであり,その構造は,破産手続開始時には受働債権とは相殺適状にはないのに,法廷意見が述べるとおり,正に,破産者の意思に基づくことなく破産手続上破産債権を行使する者が入れ替わった結果相殺適状を作出させたものである。この点において,破産者に対し債務を負担する者が,破産手続開始後に他人の債権を譲り受けて相殺適状を作出した上,同債権を自働債権として行う相殺に類似するものであって,破産債権者の公平・平等な扱いを基本原則とする破産手続上許容し難い点において,同法72条1項1号が禁ずる相殺のケースと異なるところがない。このように考えれば,本件の相殺の許否は,同法67条ではなく同法72条1項1号の規制領域に入るものと考えるべきであろう。
4 破産法72条1項1号の類推適用の可否等
民法上認められる相殺処理を一定の場合に禁止することは,一種の財産権の侵害という側面を有するため,本来,明確な法令上の根拠が求められるところであるが,様々な新規の商取引が次々に展開される取引社会において,相殺処理が問題になる類型的事例を直ちに捕捉して速やかに破産法の改正等の立法的手当をすることは容易ではなく,既存の破産法の解釈で対応が可能な場合には,その類推適用(ないし準用)を認める解釈手法が許容されるものと考える。破産債権の公平・平等な扱いという破産法の基本原則を前提にすると,それに背馳する本件各相殺は,前記のように考えることが可能であるので,法廷意見が破産法72条1項1号の禁ずる相殺と異なるところがないとしてその類推適用を認めたのも,この見解によるものであって,不当に拡大適用を志向するものとはいえず,正に許容できる解釈論の範囲内のものというべきである。
なお,無委託保証契約を締結した金融機関等が,主債務者に破産手続が開始された後に保証債務を弁済して事後求償権を取得したとしても,破産法72条1項1号の類推適用により,破産者に対する(預金)債務との相殺処理は許されないとすることは,無委託保証のビジネス自体を阻害するのではないかが問題になろう。しかし,無委託保証人は,今後,このように相殺処理が許されないことを前提にして,債権者から取得する対価をあらかじめ相応の価格に設定することは可能であり,また,そもそも,本件のように,預金債権が当座預金債権である場合には,預金額には日々増減があり,特に倒産時には相殺等の対象として利用できる程度の額が残存しているかは予想し難いところであろうから,上記相殺処理を禁止することが無委託保証ビジネス自体を阻害することになるおそれはないものと思われる。