建築基準法の接道義務の説明義務違反と売買契約の有効性

民事|既存不適格物件|再建築不可物件|千葉地裁平成23年2月17日判決

目次

  1. 質問
  2. 回答
  3. 解説
  4. 関連事例集
  5. 参考条文

質問:

私は、15年前に、今住んでいる中古住宅を3000万円で不動産業者から買いました。

随分古くなってしまったので建て替えようと思ったところ、建築基準法上の接道義務を満たしていない土地であることを理由に建て替えの建築確認が得られないことが明らかになりました。

15年前の売買の際、売主や売主の仲介業者から説明を受けていれば、建替えのできない土地を買うこともなかったのですから、損害賠償を請求したいのですが、認められますか。

回答:

1、土地建物の売買に関し、当該土地が建築基準法の接道義務に反しているために将来の建て替えができない(既存不適格の、再建築不可の)土地であることについて、売主(不動産業者)及び売主側の仲介業者に対して説明義務があること、説明義務を果たさないのは不法行為に該当すること認めた裁判例があります(千葉地裁平成23年2月17日)。あなたの請求も、認められる可能性があります。

2、売主や仲介業者の説明義務違反を理由に、不法行為(民法709.715.商法)に基づく損害賠償請求をすることになりますが、訴訟で認められる損害としては、①購入代金と取得した土地建物の価値との差額、②購入のためのローンの利息(購入代金と現在の土地建物の価値との差額分についての利息に限定)、③損害についての不法行為時からの遅延損害金、④裁判により判決となった場合における弁護士費用(裁判で認められた損害の10%程度)、があります。

3、接道義務に関する関連事例集参照。

解説:

1 接道義務について

建築基準法43条によれば、建築物の敷地は道路(建築基準法42条に定める道路を指します。その道路の幅は4メートルです。)に2メートル以上接している必要があります。これを接道義務といい、避難経路の確保や、消防車・救急車などの緊急車両の接近経路を確保し、日常生活の公共的安全確保を目的としています。

2 接道義務を満たさない土地について

接道義務を満たさない土地の場合、建物を建てることは原則として建築基準法違反となり建築確認申請をしても確認を受けることはできませんし、建築を強行すれば工事の停止を命じられてしまいます(建築基準法6条.9条)。建築基準法43条ただし書において、「交通上、安全上、防火条及び衛生上支障がない」場合に限っては接道義務を満たさない建物の建築も認められますが、それはあくまで例外です。

接道義務を定めた建築基準法施行(昭和25年11月23日)以前から存在している建築物については接道義務を満たしていなくても取り壊しを強制されることはありませんが、老朽化した際の建て替えにあたっては、やはり新たに敷地において接道義務を満たさない限り、建て替えは認められません。接道義務を満たすためには、公道に至る経路の隣地所有者の土地を道路として提供してもらうなどの特別の契約が必要ですので、一般に、極めて困難なことであると言えます。このような建物を、既存不適格物件、再建築不可物件と言います。土地の売買契約においては、その土地に建物を新たに建てることができるかどうかは、非常に重要な要素となってきますので、土地に建っている建物が既存不適格物件・再建築不可物件である場合は、契約書もしくは、売買契約書に付属する重要事項説明書に、土地上の建物が既存不適格や再建築不可である旨や、その説明が明記されていることが必要になります。

3 千葉地裁平成23年2月17日判決について

今回のご相談と同様の事案を扱った判例として、平成23年2月17日千葉地裁判決があります。争点は、第1に不動産業者である売主、売主側の仲介業者に買主に対して建築基準法の接道関係についての説明義務があるか、第2に説明義務違反と相当因果関係にある損害は何か、という点です。

この判決においては、対象となった建物(中古住宅)の建て替えが接道義務違反を理由に認められないことを前提として、接道義務違反による建築制限について「本件売買契約書には,この点について何ら記載がなく,むしろ,本件重要事項説明書には,本件土地の『北側が幅約6mの公道に約3m接している』旨記載され,『新築時の制限』としては道路斜線規制等が記載されているのみで,接道要件との関係での建築の制限については全く記載されていなかった」とし、買主(原告)が仲介業者(被告)から受けた説明内容について「原告は本件路地が共有であることについては説明を受けたものの,本件土地が接道要件を満たしておらず,建替えが困難であることについては説明を受けたことがなかった」としました。そして、これらの仲介業者ないし被告による説明に関する事実認定の結果、売主及び仲介業者には共同不法行為が成立する旨を「被告乙山総業(売主)及び被告丙川住販(仲介業者)には,原告に対する説明義務違反(本件不法行為)があったことが明らかであって,被告らは,本件不法行為と相当因果関係にある原告の損害について賠償責任(不真正連帯債務)を負うというべきである」と示しました。

なお、本件においては、接道義務を満たすために隣地所有者と共有する路地に使用権を設定してもらうことも考えられたのですが、「現状,本件使用権設定予定部分にはブロック塀が設置されており,また,被告らが本件東側隣地所有者に対し本件使用権の設定を打診したということも全くないのであって,上記提案が現実的な解決策であると認めるのは困難である」という事情から、説明義務違反を否定する事情とはなりえないと判断されました。

不動産業者が仲介する不動産売買においては、売買契約書とともに宅地建物取引業者による重要事項説明がなされます。この判例の事案においては、契約書と重要事項説明書のいずれにも接道義務違反の事実が記載されていなかった点が重視されたものと思われます。

4 問題点

ア 建築基準法の接道義務関係についての説明義務

まず、不動産業者である、売主と仲介業者には説明義務があります。宅地建物の売買や取引の仲介を業とする者は、宅地建物取引業者として、宅地建物取引業法が適用されます。そして、同法35条で、宅地建物取引業者は取引主任者により書面を交付して土地について建築基準法上の制限について説明すべき義務を負っています。これは、宅地建物取引業法上の義務ですが、同法の目的は不動産購入者等の利益の保護という点もあり(同法1条)、不動産の売主としての付随的な義務とされています。また、売主の仲介業者と買主とは直接契約関係にはありませんが、仲介業者として買主の利益の保護も図る義務がある以上は、私法上の義務としてとらえることができるとされています。

売買契約の際、義務違反の事実を告げていないのであれば、売主及び仲介業者には説明義務違反が成立することになります。

イ 賠償の範囲

売主、仲介業者に説明義務違反があり、そのため買主が損害を被ったということであれば、不法行為による損害賠償請求が可能です。売主に対しては売買契約の債務不履行という構成も考えられますが、消滅時効の問題もあり、また売主の仲介業者に対しては買主は直接契約関係にないことから不法行為責任を追及することになります。

損害としてはまず第1に、売買代金として支払った金額が考えられます。義務違反がなければ購入しなかったのですから、代金を支払う必要は無かった、ということで売買代金自体が損害となります。但し、土地建物を所得していること、15年建物に住んだという利益もありますから、この分は損益相殺と言って、損害額から差し引くことになります。差し引く金額は、買主が取得した不動産の適正価格となり、この計算は厳密には不可能です。しかし、裁判のレベルではある程度の合理性を持った金額を証拠によって裁判所が算定することになります。その際、基準となるのは購入時点での不動産の評価額です。これは、近隣の標準地の坪単価や売主の購入価格等を証拠に基づいて計算します。但し、この標準地の坪単価として明らかになるのは接道義務を満たしている土地で、再建築ができない土地の価値とは異なりますので、ここからどの程度減額するかが問題となります。

この契約当時の不動産の価格を基準に現在の土地建物の価格、購入後土地建物居住したことの利益(家賃相当額)等の要因を考慮し、適正価格を算定することになります。上記の裁判例では、契約時の接道義務を満たしている場合の土地としての価値を2050万円とし、そこから25ないし30パーセント減額した額を適正価格として計算し、損益相殺の金額を1500万円と算定しています。これらを利益として損害から差し引くことになります。

このほか、住宅ローンがあればその利息も損害となります。但し、ローン全額に対して支払った利息ではなく前記の損益相殺後の損害額分のついての利息となります。

また、訴訟、判決となった場合に限られますが、弁護士費用として裁判で認められる額の10%程度が損害として認められます。

以上

関連事例集

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※参照条文

建築基準法

(道路の定義)

第四十二条 この章の規定において「道路」とは、次の各号の一に該当する幅員四メートル(特定行政庁がその地方の気候若しくは風土の特殊性又は土地の状況により必要と認めて都道府県都市計画審議会の議を経て指定する区域内においては、六メートル。次項及び第三項において同じ。)以上のもの(地下におけるものを除く。)をいう。

一 道路法 (昭和二十七年法律第百八十号)による道路

二 都市計画法 、土地区画整理法 (昭和二十九年法律第百十九号)、旧住宅地造成事業に関する法律(昭和三十九年法律第百六十号)、都市再開発法 (昭和四十四年法律第三十八号)、新都市基盤整備法 (昭和四十七年法律第八十六号)、大都市地域における住宅及び住宅地の供給の促進に関する特別措置法 (昭和五十年法律第六十七号)又は密集市街地整備法 (第六章に限る。以下この項において同じ。)による道路

三 この章の規定が適用されるに至つた際現に存在する道

四 道路法 、都市計画法 、土地区画整理法 、都市再開発法 、新都市基盤整備法 、大都市地域における住宅及び住宅地の供給の促進に関する特別措置法 又は密集市街地整備法 による新設又は変更の事業計画のある道路で、二年以内にその事業が執行される予定のものとして特定行政庁が指定したもの

五 土地を建築物の敷地として利用するため、道路法 、都市計画法 、土地区画整理法 、都市再開発法 、新都市基盤整備法 、大都市地域における住宅及び住宅地の供給の促進に関する特別措置法 又は密集市街地整備法 によらないで築造する政令で定める基準に適合する道で、これを築造しようとする者が特定行政庁からその位置の指定を受けたもの

2 この章の規定が適用されるに至つた際現に建築物が立ち並んでいる幅員四メートル未満の道で、特定行政庁の指定したものは、前項の規定にかかわらず、同項の道路とみなし、その中心線からの水平距離二メートル(前項の規定により指定された区域内においては、三メートル(特定行政庁が周囲の状況により避難及び通行の安全上支障がないと認める場合は、二メートル)。以下この項及び次項において同じ。)の線をその道路の境界線とみなす。ただし、当該道がその中心線からの水平距離二メートル未満でがけ地、川、線路敷地その他これらに類するものに沿う場合においては、当該がけ地等の道の側の境界線及びその境界線から道の側に水平距離四メートルの線をその道路の境界線とみなす。

3 特定行政庁は、土地の状況に因りやむを得ない場合においては、前項の規定にかかわらず、同項に規定する中心線からの水平距離については二メートル未満一・三五メートル以上の範囲内において、同項に規定するがけ地等の境界線からの水平距離については四メートル未満二・七メートル以上の範囲内において、別にその水平距離を指定することができる。

4 第一項の区域内の幅員六メートル未満の道(第一号又は第二号に該当する道にあつては、幅員四メートル以上のものに限る。)で、特定行政庁が次の各号の一に該当すると認めて指定したものは、同項の規定にかかわらず、同項の道路とみなす。

一 周囲の状況により避難及び通行の安全上支障がないと認められる道

二 地区計画等に定められた道の配置及び規模又はその区域に即して築造される道

三 第一項の区域が指定された際現に道路とされていた道

5 前項第三号に該当すると認めて特定行政庁が指定した幅員四メートル未満の道については、第二項の規定にかかわらず、第一項の区域が指定された際道路の境界線とみなされていた線をその道路の境界線とみなす。

6 特定行政庁は、第二項の規定により幅員一・八メートル未満の道を指定する場合又は第三項の規定により別に水平距離を指定する場合においては、あらかじめ、建築審査会の同意を得なければならない。

(敷地等と道路との関係)

第四十三条 建築物の敷地は、道路(次に掲げるものを除く。第四十四条第一項を除き、以下同じ。)に二メートル以上接しなければならない。ただし、その敷地の周囲に広い空地を有する建築物その他の国土交通省令で定める基準に適合する建築物で、特定行政庁が交通上、安全上、防火上及び衛生上支障がないと認めて建築審査会の同意を得て許可したものについては、この限りでない。

一 自動車のみの交通の用に供する道路

二 高架の道路その他の道路であつて自動車の沿道への出入りができない構造のものとして政令で定める基準に該当するもの(第四十四条第一項第三号において「特定高架道路等」という。)で、地区計画の区域(地区整備計画が定められている区域のうち都市計画法第十二条の十一 の規定により建築物その他の工作物の敷地として併せて利用すべき区域として定められている区域に限る。同号において同じ。)内のもの

2 地方公共団体は、特殊建築物、階数が三以上である建築物、政令で定める窓その他の開口部を有しない居室を有する建築物又は延べ面積(同一敷地内に二以上の建築物がある場合においては、その延べ面積の合計。第四節、第七節及び別表第三において同じ。)が千平方メートルを超える建築物の敷地が接しなければならない道路の幅員、その敷地が道路に接する部分の長さその他その敷地又は建築物と道路との関係についてこれらの建築物の用途又は規模の特殊性により、前項の規定によつては避難又は通行の安全の目的を充分に達し難いと認める場合においては、条例で、必要な制限を付加することができる。