示談する前に保釈してもらう方法
刑事|準強姦罪|権利保釈|裁量保釈|準強姦罪で示談未了の場合における早期保釈の可否|対策と準備する書面
目次
質問:
私の会社員の息子は,数か月前,息子,男性の友人及び女性二人の4人で居酒屋で合コンをした後,酔っ払っている女性を自宅に連れ込み,性行為をしたことで,準強姦罪として起訴されてしまいました。息子は,酷く酔った女性と性行為をしたこと自体は認めているのですが,特に拒絶されてはいないと主張しています。
現在依頼している弁護士は,拒絶されていなくても,酔って前後不覚の女性と性行為をすれば準強姦罪は成立すると言っていますがそうなのでしょうか。
また,息子は裁判が終わるまでずっと留置場に居るしかないのでしょうか。担当弁護士が保釈を申請しましたが却下されてしまいました。示談が成立しない限りは,裁判がある程度進むまでは保釈が難しいと聞きましたが,実は私には思い持病があり,息子の手を借りないと通院できませんし,日常生活もままなりません。何とか早期に釈放できないでしょうか。
回答:
1 女性が心神喪失・抗拒不能の状態にあることに乗じて性行為をした場合,準強姦罪が成立します。お酒に酔って判断能力が失われている場合が典型的です。従って,現在の息子さんの主張ですと,弁護士の言う通り,準強姦罪が成立してしまいます。そのため,無罪となるためには,女性に判断能力が残されていたこと又は性行為について同意があったと信じたことを強く明確に主張する必要があります。
もし女性が酔って判断能力を失っていたことを認識した上で性行為に及んだのであれば,早急に被害者の方に謝罪し,示談活動を行う必要があります。示談が成立すれば,裁判で執行猶予となる場合も考えられます。
2 起訴された後は,裁判所に保釈の申請をすることができます。保釈が認められれば,裁判で懲役刑の実刑を宣告されるまでは自宅で生活することができます。
3 準強姦罪のような法定刑が重い(3年以上20年以下)犯罪である場合,示談が成立するか,裁判がある程度進行するまでは,保釈が認められ辛いのが実務の現状です。
しかし,犯情が殊更に悪質ではなく被告人が罪を全て認めている場合,その反省の情や早期釈放を必要とする事情を詳細に主張することで,示談が成立していなくとも第1回期日前に早期の保釈を得ることが可能です。
4 早期保釈の為には,十分な示談金・保釈金の準備や誓約書等の裏付けの証拠を,豊富に準備する必要があります。証拠書類は,裁判官や検察官の重視する法的なポイントに沿って準備することが必要です。一度保釈請求が却下された事例でも,適切な主張を再構成することで保釈が認められるケースは多く存在します。どのような証拠を準備すれば良いかは,保釈の経験が豊富な弁護士に直ちに相談すべきでしょう。
5 保釈に関する関連事例集参照。
解説:
1 犯罪の成否について
(1)準強姦罪の成否
ア 準強姦罪の要件
本件のように,酔っ払った女性と性行為を行った場合,準強姦罪の成否が問題となります。刑法178条2項では,「女子の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、姦淫した者は」準強姦罪として,強姦罪と同様に処罰されると定められています。ここで心神喪失・抗拒不能には,睡眠状態や飲酒による酩酊状態にある場合も含まれます。
性行為を行うことについて自己の意思で正常な判断ができない女性に対して性行為を行うことは,女性の意思に反して性行為を行うことと同視されます。そのため,女性の性的自由を侵害する罪,準強姦罪として法律上処罰の対象とされています。準強姦罪の法定刑は,強姦罪と同じであり,3年以上の有期懲役刑という非常に重い犯罪です。
イ 抗拒不能
準強姦罪が成立する為には。客観的に女性が抗拒不能であったと証明されなければなりません。検察官は,主に飲んだ酒の量や被害者の供述から,被害者が抗拒不能であったことを証明します。刑事裁判の実務の現状では,被害者の証言の信用性が認定されやすい傾向にあるため,女性が抗拒不能でなかったと反論する為には,証拠を詳細に検討し,被害女性の供述の矛盾等,女性の証言の信用性を疑わせる事情を詳細に主張する必要があります。
ウ 同意の錯誤
仮に被害女性が抗拒不能であったとしても,息子さんが,被害女性が性行為をすることに同意していたと誤信していた場合は,犯罪は成立しません。
ここでいう同意は,正常な意思に基づく判断での同意を意味します。泥酔酩酊等で抗拒不能の場合,そもそも客観的に正常な判断ができないことが他者からみても明らかであるため,同意の存在を誤信したと主張するためには,女性と交際関係にあった等の同意の存在を裏付ける事情が必要です
その他,準強姦罪の成否については,弊所事例集1008番もご参照下さい。
(2)本件における弁護活動の方法
仮に女性が酩酊して抗拒不能の状態であり,そのことが客観的にも明らかであった場合には,準強姦罪が成立します。この場合の弁護活動としては,被害者に謝罪し,示談を成立させることが最も重要です。準強姦罪は親告罪であるため,起訴後であっても,示談が成立していることは,量刑上非常に有利な事情となります(起訴前に示談が成立すれば告訴の取消により起訴ができなくなりますが、起訴後は告訴の取消はできないため、示談は被告人に有利な情状としてしか考慮されません)。示談が成立し,被告人が真摯に反省すれば,3年の懲役となり、執行猶予がついて刑務所に行くことを回避できる可能性が大きくなります。
しかし,強姦罪は女性の尊厳を傷つける重い犯罪であるため,その示談交渉は非常に困難であり,示談金額も高額(300万円~500万円以上)となります。被害者の気持ちに寄り添い,最新の注意を払った示談活動ができるよう,同種事件の経験が豊富な弁護士へ依頼する必要があるでしょう。
2 保釈の可否について
(1)強姦罪における保釈の判断
ア 保釈の条件
刑事被告人として起訴された場合、勾留されている被告人は、裁判までの間身体拘束から解放される事ができ、これを保釈と呼びます。
刑訴法89条では、同条各号に記載された一定の場合を除いては、保釈を許さなければならない(この場合を「権利保釈」とも呼びます。)とされています。
この権利保釈に該当しない場合でも、裁判所が裁量により「適当と認めるとき」は、保釈が認められる場合があります(この場合を「裁量保釈」と呼びます。)
本件の準強姦罪の法定刑は3年以上の懲役です。これは、89条1号の「死刑又は無期若しくは短期一年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪を犯したものであるとき」に該当するため、権利保釈は認められていません。
そのため、保釈を行うためには、裁判所から裁量保釈の許可を得る必要があります。
イ 裁量保釈の具体的な判断基準について
裁量保釈における「適当と認めるとき」という条件については、罪証隠滅のおそれ、逃走の危険、保釈後の監督状況等、様々な具体的事情を考慮し、保釈の相当性と必要性を裁判所が判断します(罪障隠滅のおそれは、権利保釈の除外事由の一つですが、実際には裁量保釈の当否と併せて判断されることも多くあります)。
その中でも特に重視される傾向にあるのが、被告人による罪証隠滅の危険です。
この隠滅の危険がある「罪証」には、物証だけではなく、被告人が保釈中に被害者等の承認に接触し脅迫して証言をさせなくする等の人証の隠滅も含まれます。
ウ 準強姦罪における保釈の見通し
準強姦罪のような重い犯罪の場合,一般的に保釈請求は認められ難い傾向にあります。
被害者と示談が成立している場合や,既に公判期日において全て罪を認める旨の発言をしている場合には,保釈が認められるケースも多く存在しますが,それ以外の場合,早期保釈の獲得は厳しいのが現状です。
しかし,被告人が罪を全て認めていれば,その反省の情や早期釈放を必要とする事情を詳細に主張することで,早期の保釈を得ることが可能です。その際には,十分な示談金・保釈金の準備や誓約書等の裏付けの証拠を豊富に準備する必要があります。証拠は,裁判官や検察官の重視する法的なポイントに沿って準備することが必要ですが,以下で具体的な活動について検討します。
(2)早期保釈に向けた具体的活動
ア 罪証隠滅のおそれの払拭
(ア)罪を認めている場合
保釈においてもっとも重要視されるのが,被告人が保釈中に証拠隠滅をする危険が存在するか否かという点です。そのため,この点については,多くの資料を準備し,重点を置いて主張する必要があります。
しかし,例え自白して公訴事実を認めている被告人の場合でも,実際の裁判において自白を撤回し,罪を否認する危険が存在するとして,証拠隠滅の危険が高いと認められてしますのが実務の現状です。
そこで有効なのが,被告人自らが,公判廷においても罪を認めるとの誓約書を作成して提出する方法です。単なる自白の供述調書のみしかない場合,公判において否認した場合に供述の任意性が問題となる余地が生じますが,被告人が自主的に罪を認める誓約書を作成したとなると,任意性が問題となる余地も無いため,その自白は真意に基づく自白と認められます。そのような真摯な自白をしている被告人については,敢えて罪証隠滅行為を犯す可能性は小さいと認められるため,保釈される可能性が大きく上昇します。
もし,逮捕当初に罪を否認していた等の事情がある場合には,なぜ自白に転じたのかという理由を詳細に記載し,今後再度否認に転じる事が無い旨を明確に説明する必要があるでしょう。
(イ)被害者威迫の可能性の排除
既に起訴されている犯罪の場合,携帯電話等の客観的な物証は,既に捜査機関に押収されている場合がほとんどです。
その為,隠滅の対象として主に重視されるのが,被害者や第三者等の目撃証言です。裁判所や検察官は,示談が成立していない場合,被告人が釈放された後被害者等に接近して脅迫し,供述を隠滅する危険を考慮するため,この点をケアする必要があります。
ここで重要なものが,不接近誓約書及び示談金の預かり証です。不接近誓約書とは,その名の通り被害者に二度と接近しない旨の誓約書です。単なる誓約のみですと何の信ぴょう性もありませんので,誓約書には,違反した場合高額な違約金(100万円~1000万円)を支払う旨の重い制約を課すべきです。可能であれば,家族・親戚等に違約金の支払を保証してもらうことにより,より誓約書の効果が高まります。
示談金の預かり証は,被害者の方に支払う示談金を準備し,弁護士が預かっていることの証明書です。依頼している弁護士に頼めば必ず発行してもらえるはずです。単に被告人が示談金を準備したのみでは,それが本当に被害者の為の金銭なのかが定かでありません,しかし,弁護士が手もとに示談金を預かっていれば,被害者の方の希望があれば直ちに示談金を渡すことがきますので,被告人の示談の意思がより明確になります。示談の準備をしながら被害者を脅迫する被告人はまずおりませんので,この預かり証によっても証拠隠滅のおそれが大きく減退します。
(ウ)共犯者との関係
本件の事案が,息子さんと友人の二人で協力して犯行を行っていた場合,息子さんと友人が共犯として処罰される場合があります。共犯者がいる犯罪の場合,共犯者同士で口裏を合わせて虚偽の供述をする危険が大きいため,保釈が非常に認められ辛くなります。
この場合は,息子さんに友人とは一切接触しない旨の誓約書を書いてもらうことは勿論,友人にも,息子さんに一切接触しない旨の誓約書を書いてもらう必要があります。友人も共犯として起訴勾留されている場合は,友人の弁護人とも協力して,誓約書を作成すべきです。
イ 逃亡阻止の措置の確保
保釈の際の基本的な事項として,逃亡の恐れがある場合保釈は認められません。通常,あなたの息子さんのような会社員の場合,その立場を捨てて逃亡する危険は小さいと言えますが,準強姦罪のように実刑判決も見込まれる事案の場合はそうとは限りません。家族が身元引受人となるのは当然ですが,可能であれば弁護人にも保証書を作成してもらい,逃亡の恐れを抹消すべきです。弁護人という社会的責任を有する立場の第三者が身元を保証することで,保釈した場合の安心感を裁判官に与えることが出来ます。
また,逃亡の危険を回避するためには,会社員としての身分を保持していることは重要です。従って会社に事件が発覚している場合でも,懲戒免職を避けられるよう,弁護士に交渉を頼んだ方が良いでしょう。
しかし一方で,会社を自主的に退職することで,被告人のより深い反省を示すという考えもあります。会社を退職するか否かは,被告人自身で自己の責任を考慮し決定していただくことになりますが,自主退職がどれだけ刑事裁判上考慮されうる事案か否かについて,経験のある弁護人に相談した上で対応を検討すべきです。
ウ その他保釈が必要な事情の主張
裁量保釈の場合,単に逃亡や罪証隠滅のおそれが小さいだけでは,保釈を認めるのに十分ではありません。敢えて被告人を保釈するだけの必要性が存在することを主張する必要があります。
典型的な例が,被告人が,会社の社長等の代替不可能な職務についており,被告人の勾留が続くと会社経営に大きな悪影響が及ぶ場合です。この場合,勾留によって会社の従業員等第三者にまで不利益が波及するおそれがあるため,保釈を認める必要性が大きいと言えます。
その他,本件のように,ご家族に被告人による介助を必要とする者がいる場合も,まさに保釈の必要性が認められます。相談者様の身体の安全のためにも,裁量保釈申請の際にこの点も強く主張する必要があります。しかし,やはり裁判所は証拠に基づき判断を行うため,ここでも十分な証拠資料を準備する必要があります。
例えば,病状や介護を必要とする事情について,医師からの診断書や説明書が重要です。その他,ご自分で陳述書を作成したり,弁護人に担当医と面会してもらった上で事情聴取書の作成をお願いしたりすることも検討すべきです。
このような必要性の主張は,裁判所への伝え方,証拠書面の作成の仕方によって,大きく印象が異なります。必要性の存在を裁判所に迫真性をもって訴えかけるためには,類似事案の経験のある弁護士に依頼した方が良いでしょう。
エ 保釈金の準備と主張
最終的に保釈が認められる場合,裁判所には保釈保証金(通常「保釈金」と呼ばれていますので以下保釈金と言います)を納付する必要があります(刑訴法93条)。保釈金は,仮に被告人が逃亡した場合,裁判所に没収される担保金です。保釈金の金額は,通常裁判官が専権にもとづき相場の範囲内(通常、一般人の場合200万円程度と言われています)で決定します。
しかし,高額な保釈金を準備しておけば,それだけ逃亡の可能性が低くなりますから,罪質上保釈自体が認められ辛い事案の場合は,相場を超える高額な保釈金を予め準備した上で,裁判官に積極的に伝える必要があります。文書でその金額の準備があることを示す書面(例えば相場より高い500万円を既に弁護人が預かり保管している旨を明示する書面。保釈金預り証の写し等。)を提出することが必要です。
裁判官としても,被告人が十分な保釈金を担保として提供すれば,安心して保釈を認める事ができますし,逃亡さえしなければ保釈金は還付を受ける事ができますから,保釈金は可能な限り十分な金額を準備すべきでしょう。準強姦罪の場合,保釈金の相場は200万円程度とされていますが,それは示談が成立している場合や,公判期日が終了している場合です。
原則認められない早期保釈を得る為には,500万円程度の高額な保釈金を準備することも必要になります。
なお,相場を超える保釈金を提供する場合,保釈支援協会等から借り入れることはできません。被告人又はその家族によって事前に準備した上で,弁護人に預託して保釈申請をする必要があります。
オ 検察官意見の検討
被告人から保釈の請求があった場合,裁判官は,事件を担当する検察官に対して,保釈の適否についての意見を求めます(刑訴法92条1項)。
その為,保釈請求を行う際は,事前に検察官と面談を行い,有利な意見を裁判所に述べて貰えるよう交渉しておくことも重要です。現実には,検察官が有利な意見を述べてくれることはまずありませんが,直接面談することで,検察官がどの点を重視して勾留を継続しようとしているのかというポイントが絞り込める為,検察官意見に対する効果的な反論が可能となります。
また,面談を行うことで,検察官が裁判所からの求意見よりも先に弁護人の主張を把握できるため,検察官が意見を述べるまでの時間が短縮できるという利点も生じます。一日でも早い保釈のためには,重要なメリットです。
なお,一度保釈請求が却下されている場合には,その際に検察官から提出された意見を裁判所において閲覧・謄写することが可能です。検察官の具体的意見を参照し,的確な反論をすることで,保釈請求が認容される場合も多く存在しますので,一度却下されても,直ぐに諦める必要はありません。実際に,一度保釈請求が却下された事例でも,適切な証拠資料を準備することで保釈が認容されるケースも多く存在します。
カ 裁判官面接(保釈面接)
保釈の申請をした際,地域によっては判断を担当する裁判官と面接することが可能な場合もあります(東京地裁は応じてくれます。)。裁判官との直接の面接は保釈の必要性を裁判官に強く認識してもらうための重要な機会です。また,面談の際に裁判官より保釈の条件を追加で指示される場合もあります。弁護人には,可能な限り,面接の申出をして貰いましょう。
場合によっては,弁護人だけではなく,被告人の身元引受人家族も面接に出席し,裁判官に直接監督の制約をすることは可能な場合もあります。特に本件のように,家族の病状から保釈の必要性が大きい場合には,相談者様のありのままの状況を裁判所に見てもらうことは効果的でしょう。弁護人以外の人と面談を行うかは裁判官次第の部分もあり拒否する裁判官もいますが,保釈の可能性を少しでも高める為には,直接面談も検討すべきです。弁護人のほうから積極的に意見書等文書を添付して申し出ることが重要です。 保釈しても裁判所、捜査、公判に迷惑をかけず、支障をきたさないように弁護人として十分な用意、対策があることを分かってもらう必要があります。弁護人が提案すれば、裁判官としてもこの点が不足しているので用意してほしいという申し出が可能になる場合があります。そうなれば保釈は認める方向で考えていると判断することができるわけです。保釈が無理であるというなら、何が不足しているのか具体的に聞いてみましょう。
(3)小括
上記のような活動を全て行うことにより,重大な罪名の場合でも,第1回公判期日前の早期の保釈が認められる場合があります。保釈の裁判は,刑事裁判と比較して短い時間で審理がなされるため,わかりやすい証拠を迅速に準備して裁判官に提供する必要があります。そのため,じっくり活動できる刑事の本裁判と比較しても,主張方法によって結論が大きく変わります。
同種事案の経験が豊富な弁護士に依頼する必要が大きい分野であるといえるでしょう。
以上