新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1541、2014/08/25 12:00 https://www.shinginza.com/qa-hanzai.htm

【刑事 余罪がある場合の,少額窃盗事件への対応と現行犯でない窃盗事件への対応 前提となる事件の示談による終了と余罪の捜査について】


余罪がある場合の,少額窃盗事件への対応と現行犯でない窃盗事件への対応


質問:私は,小さな建設会社をやっている者なのですが,昨日,良く行く大型チェーン店の100円ショップで100円の商品を一つ万引きしてしまいました。客も店員もほとんどいなかったこともあって,お店の人に止められることもなかったのですが,不審な行動を取ったこともあり帰宅してから不安になってしまいました。
 というのも,私は過去に数回の窃盗事件を起こした上,私は3年前まで同じ窃盗の罪で10カ月ほど刑務所に服役していた経験があるのです。さらに,この100円ショップには車で来ていたのですが,服役中で更新ができなかったため,運転免許が失効していたのです。
 たった100円の事ですし,そもそも万引き自体ばれていない可能性もあるので,このまま黙っていてもいいのでしょうか。防犯カメラ等も心配です。

回答:
1 結論から申し上げると,本件については発覚することを前提として,すぐに店舗への謝罪と損害賠償等の対応を行うことをお勧めします。
2 もちろん,このまま何もせずにいても,発覚さえしなければ,刑事処分を受けることはありません。しかし,本件の場合,犯行現場である100円ショップまであなたの車で来ていますから,駐車場等に設置してある防犯カメラにナンバーが写っていれば,捜査機関においてすぐに照会がされてしまいます。
3 金額についても,確かに100円は少額ですが,あなたには前科があるため,微罪処分の要件は充たしませんし,場合によっては正式裁判も十分に考えられます。
 その場合,あなたは執行猶予が付される要件を充たしていませんから,実刑判決を受けることになってしまいます。
4 さらに,無免許運転も気になります。捜査機関に主体的に捜査をさせてしまえば,当然この事実も発覚してしまうので,結局の万引きによる窃盗と併せて,道路交通法違反も処分の対象となってしまいます。
5 以上に鑑みれば,リスクはあるものの,警察があなたを特定するための捜査を始める前に,被害店舗との示談交渉等のできる限りの活動を行うことにより,無免許運転の刑事事件化阻止と,正式裁判の回避を目指すべきです。
6 もちろん,この判断は事案によって異なりますので,一度弁護士と協議して今後の対応を決めたほうが良いでしょう。
7 関連事務所事例集1345番1258番1031番595番459番359番258番158番参照。


解説:

1 事件の発覚可能性について

(1)本件において,あなたの窃盗事件が警察に発覚する可能性はどの程度あるのでしょうか。
  確かに,金額も100円と少額ですし,被害店舗である100円ショップが警察に通報する可能性は高いとは言えないかもしれません。
   しかし,万が一でも警察に通報されてしまえば,捜査によって比較的容易にあなたの犯行であることは明らかになってしまいます。特に,本件ではあなたは車で移動しているところ,本件のように大型チェーン店等には,店内と駐車場に防犯カメラが設置してあることが極めて多く,その場合,カメラの映像によって犯行時間とナンバーが特定されてしまうため,そこからあなたの名前が明らかになることは容易に想像できることです。
   一度警察が動いてしまえば,本件のような単純な万引き事件で何もせずに捜査が打ち切られることはまずありません。

(2)また,本件であなたは無免許運転をしているとのことですが,やはり防犯カメラ等の映像や,被害店舗の店員の証言があれば,あなたが車で店に来たことは分かりますから,あなたの免許が失効していることと併せて,無免許運転についても発覚してしまうことになります。

(3)以上,本件が捜査機関に発覚する可能性ですが,被害店舗が警察に通報(連絡)すればかなりの可能性であなたの犯行(窃盗罪と無免許運転による道路交通法違反)は発覚してしまいます。
   被害店舗が警察に通報しないことを期待して何もしない,という対応ももちろん選択肢として考えられるところですが,上記の通り発覚の可能性は低くありませんし,何より下記の通りそのまま何の対応もせずにいて発覚してしまった場合にあなたが受けるリスク(不利益)が本件の場合特に高いと思われます。

2 本件で予想される事件の流れについて

(1)本件の罪について
   本件のあなたの行為については,窃盗罪(刑法235条)と無免許運転(道路交通法第117条の2の2第2号)が成立し得るところです。窃盗罪の法定刑は「十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金」で,無免許運転は「三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金」ですから,仮に両者について処罰する場合には,その法定刑は13年以下の懲役又は100万円以下の罰金(刑法47条,同法48条)ということになります。

(2)微罪処分の可能性について
   では,仮に窃盗罪だけが発覚したとして,その金額が100円と低額だったことを理由として微罪処分となるでしょうか。
   微罪処分とは,その事件に関する刑事手続を警察だけで終わらせて,刑事処分を決める検察官に送致しない処理を指します。検察官に事件を送致しないので,刑事処分を受ける事はありません。これは,簡易な事件や軽微な事件について,警察段階だけで簡易な処理をすることで,事件処理の効率化を図る趣旨で設けられた制度で,刑事訴訟法246条のただし書がそれを可能とする根拠規定であると考えられています。
   微罪処分が可能である事件は,各地域の警察によって異なるところではありますが,通常,被害額が低額(2万円以下等の基準があるところが多いようです)な万引き事件は対象となっています。
   もっとも,かかる微罪処分は,初犯であることや,少なくとも再犯の恐れがないことをその要件としているのがほとんどですから,本件のように前科が複数あり,また同種の事案(窃盗)で服役経験のある場合には,微罪処分の対象事件にはならないと考えられます。

(3)正式裁判の可能性について
   微罪処分にならない以上,事件は警察官から,刑事処分を決める検察官に送られることになります。検察官は,事件を検討して,@不起訴処分,A略式起訴処分,B正式起訴処分のいずれかを決することになります。@不起訴処分とは,刑事処分を科さない,という処分で,前科もつきません。A略式起訴処分とは,罰金刑の場合に正式裁判を経ずに,簡易な手続きで処理する処分で,前科にはなるものの,罰金刑に限られ,公開の裁判も開かれません。B正式起訴処分とは,公開の法廷で,裁判官に懲役刑,罰金刑等の処分を決してもらうことになります。
   本件では,やはり同種の前科が多いことが気になります。仮に,自分で罪を認めて謝罪等の対応をしていなければ,検察官に「反省していない」という評価を受け,前科があることと併せて正式起訴処分されてしまう可能性が高いといわざるを得ません。

(4)執行猶予の可能性について
   正式起訴されてしまった場合,本件で執行猶予の判決が出ることはありません。というのも,あなたは3年前まで別の件で服役していましたから,「前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から五年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者」(刑法25条)という執行猶予とするための要件を充足していないからです。
   窃盗罪及び無免許運転については,法定刑に罰金刑があるものの,本件の様なケースで,正式裁判において罰金刑に処せられる可能性は高くありません。
したがって,本件においては,検察官に(正式)起訴されて正式裁判になってしまえば,原則として実刑判決が予想されるところです。

3 本件における具体的な対応について

  以上は,何の対応もせず,黙っていた場合で,かつ犯行が発覚してしまった場合に想定される事件の流れ・処分です。では,仮に自ら行動を起こす,という場合にはどのような対応が考えられるのか,という点についてご説明します。

(1)被害店舗との示談交渉について
   窃盗罪のような被害者がいる犯罪においては,何よりまず店舗に謝罪と損害の填補を申し入れることが重要です。
   現段階では,被害店舗から被害届が提出されているのかどうか分かりませんから,交渉の過程においてその点を聴取して,仮に被害届が提出されているのであれば,被害届を取り下げる合意ができないか交渉し,被害届が未だ提出されていなければ,今後被害届を出さない,という合意をまとめるように交渉をしていくことになります。今後被害届を出さない,と言う合意さえ締結できれば,この時点で刑事事件化を回避する事ができます。
   また,本件の被害店舗のように,チェーン店の場合には,本社の指示により示談が成立しないことが多いのですが,経験上,被害届の提出前に申し入れを行った場合には示談が成立する可能性が高まります。これは,本社から,「被害届を提出した場合,示談に応じて被害届を取り下げてはならない」等の指示を受けていることが多く,被害届を出して刑事事件化する前の段階での処理については各店舗の裁量が広く取られていることが要因ではないかと考えられます。
   なお,たとえ示談がまとまらなくても,被害店舗の担当者と話をして,その被害感情等について有利な事情を引き出せることがあります。例えば,「ウチ(の店舗)としては許しているのだけど,本社の指示で示談には応じられない」といった話を被害店舗の担当者から聞くことは良くありますし,このような話は,直接の被害者の被害感情が低い証左になりますから,刑事処分を決するにあたって有利に斟酌される事情となるのです。
   いずれにしても,まずは被害店舗に行って話を聞き,その内容によって対応を変える必要がある,ということになります。

(2)その他の有利な事情の収集について
   本件において,示談が成立しなかった場合の対応としては,@供託とA贖罪寄付があります。供託とは,被害店舗に受領してもらえなかった金銭を供託所という国の公的機関に寄託することで,法的には被害店舗に弁済したものとして扱われる事になります。贖罪寄付とは,弁護人を通じて各地の弁護士会等に行う寄付です。
   いずれにしても,反省を示すと同時に,窃盗によって得た利益を得たままにせずに吐き出す,という意味をもちます。
   また,本件のように窃盗の前科が複数回に亘る場合には,心療内科等への通院も有効です。これは,病気の場合処分が軽くなるから,という意味ではなく,「病的な原因によって窃盗を繰り返している場合に,通院によってその原因を解消することで,再犯を防止することができる(もしくは防止するための努力をしている)」ということを示すためのものです。実際,窃盗を繰り返す「クレプトマニア」という精神疾患があり,治療による改善も見込めることは既に世間に知るところとなっています。

(3)検察官との交渉について
   上記のような各事情を収集,整理して,検察官と処分について交渉していくことになります。本件では,上記の通り公判請求されてしまうと実刑が予想される事案ですから,何としても不起訴処分か略式起訴処分となるように交渉することになります。あなたの前科等に鑑みれば,不起訴処分は中々難しいところですから,現実的には略式起訴処分を目指すことになると考えられます。
   また,こちらから積極的に動くことにより,単純な万引き事件として捜査の期間を短縮することで,無免許運転が刑事事件化されることを回避できる可能性があります。実務上、問題になっている事件が終了すると、特別な場合を除きそれに関連する他の事件も事実上捜査が終了する傾向があるからです。捜査機関は基本的に被疑者の処罰を求めるのがその任務であり、前提となる事件が示談等により終了すると関連事件も処罰の可能性が少なくなり他の事件捜査に移行して行くようです。

4 まとめ

  以上の通り,発覚の可能性と発覚した場合の不利益を勘案すると,すぐに対応することで良い結果につながる可能性が高いと考えられます。もちろん,事案によってはとりあえず様子を見たほうが良い,ということもありますから,一度刑事事件の経験が豊富な弁護士にご相談ください。
  なお,当然弁護士は守秘義務を負っていますから,たとえ発覚していなくても積極的に通報等することはありませんので,安心してご相談ください。

【参照条文】
刑法
(執行猶予)
第25条
「次に掲げる者が三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金の言渡しを受けたときは、情状により、裁判が確定した日から一年以上五年以下の期間、その執行を猶予することができる。
一  前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
二  前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から五年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
2  前に禁錮以上の刑に処せられたことがあってもその執行を猶予された者が一年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受け、情状に特に酌量すべきものがあるときも、前項と同様とする。ただし、次条第一項の規定により保護観察に付せられ、その期間内に更に罪を犯した者については、この限りでない。」
(有期の懲役及び禁錮の加重)
第47条
「併合罪のうちの二個以上の罪について有期の懲役又は禁錮に処するときは、その最も重い罪について定めた刑の長期にその二分の一を加えたものを長期とする。ただし、それぞれの罪について定めた刑の長期の合計を超えることはできない。」
(罰金の併科等)
第48条
「罰金と他の刑とは、併科する。ただし、第四十六条第一項の場合は、この限りでない。
2  併合罪のうちの二個以上の罪について罰金に処するときは、それぞれの罪について定めた罰金の多額の合計以下で処断する。」
(窃盗)
第235条
「他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。」

道路交通法
第117条の2の2 抜粋
「次の各号のいずれかに該当する者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
二  第六十四条(無免許運転等の禁止)第二項の規定に違反した者(当該違反により当該自動車又は原動機付自転車の提供を受けた者が同条第一項の規定に違反して当該自動車又は原動機付自転車を運転した場合に限る。)」

刑事訴訟法
第246条
「司法警察員は、犯罪の捜査をしたときは、この法律に特別の定のある場合を除いては、速やかに書類及び証拠物とともに事件を検察官に送致しなければならない。但し、検察官が指定した事件については、この限りでない。」

法律相談事例集データベースのページに戻る

法律相談ページに戻る(電話03−3248−5791で簡単な無料法律相談を受付しております)

トップページに戻る