学校内での未成年者同士でのわいせつ事件への対応

刑事|少年事件|強制わいせつ罪|東京高裁昭和29年6月30日決定

目次

  1. 質問
  2. 回答
  3. 解説
  4. 関連事例集
  5. 参考判例

質問:

私の息子は17歳で,東京にある共学の私立高に通っています。今日,いきなり学校から「私の息子が同じクラスの女生徒にわいせつな行為をした。」との連絡がありました。息子に話を聞いてみると,わいせつな行為をしたことは間違いなく「黙っていたので同意してもらったと思っていたが,同意をはっきり口にされたわけではなく,ある程度強引に迫ってしまった。」ということでした。女生徒の両親は非常に怒っているようですが,まだ警察には話していないようです。学校からはまだ何の連絡もありませんが,退学にならないか心配です。息子は何らかの刑事処分を受けるのでしょうか。また息子は学校に居られなくなってしまうのでしょうか。

回答:

1 ご子息の行為は,同意があれば東京都青少年保護育成条例違反,同意がなければ強制わいせつ罪に該当する行為です。青少年保護育成条例違反は,青少年(18歳未満の)同士の場合には罰則を定めた規定がないのですが(東京都青少年保護育成条例30条。神奈川県の育成条例等でも同様です。),強制わいせつ罪は刑法犯ですので,少年(20歳未満の者)も処分の対象となります(14歳以上であれば刑法犯が成立し、20歳未満なので少年法の適用はありますが、刑事罰を科せられ可能性もあります)。

青少年保護育成条例違反と強制わいせつ罪との区別は,基本的には強制の有無,すなわち同意の有無になりますから,この点を明確にするために,まずはご子息から行為に至る経緯や行為時の双方の言動,行為態様を詳細に確認して,法的な観点から検討することが肝心です。

2 本件におけるご子息のお話だと,客観的な同意の存在を主張することや,同意があったと勘違いしていたと主張することは困難である可能性が高いと考えられます。

したがって,ご子息に強制わいせつ罪が成立し得ることを前提として対応することになります。

3 一般的には強制わいせつ罪は親告罪といって,被害者の告訴がなければ起訴ができず,処罰されない犯罪ですから,一度告訴されても,その後被害者が告訴を取り消せば処罰されません。しかし,少年の場合には,告訴が取り下げられても少年法の処分(保護処分)を受ける可能性があります。

もっとも,告訴自体が無ければ,すなわち捜査機関が事件を知らなければそもそも刑事事件(少年事件)になりませんから,本件のようにまだ告訴がなされていない事件の場合,一刻も早く被害者との間で和解(示談)の成立を目指す必要があります。

4 本件では既に学校の知るところになっていますから,並行して学校と交渉する必要があります。本件のような事案では,学校との関係でもやはり和解(示談)の成立が重要となります。

刑事処分と学校からの処分のいずれにも対応するために,一刻も早く経験のある弁護士と相談して,対応を協議することをお勧めします。

5 「事実の錯誤」や「少年事件」に関する関連事例集参照。

解説:

1 現在の状況について

(1)適用される規定について

本件のような,青少年(18歳未満の者)である被害者に対してわいせつな行為をした場合には,強制わいせつ罪(刑法176条)の他に,各都道府県に定める青少年保護育成条例(東京都の場合は,東京都青少年の健全な育成に関する条例,以下言及が無い場合は全て東京都)18条の6に抵触する可能性があります。

もっとも,青少年保護育成条例違反の場合は,加害者が同じ青少年,つまり18歳未満である場合には罰則の適用がありません(青少年保護育成条例30条)。当該未成年者には少年法3条1項3号の適用が問題になります。

一方で,強制わいせつ罪が成立する場合には,加害者が青少年であっても刑罰(保護処分)の対象となります。

したがって,本件においてご子息が刑事処罰の対象となる行為をしてしまったか,という点を明確にするためには,当該行為が,強制わいせつ罪に当たる行為であるのか,青少年保護育成条例18条の6違反に当たる行為であるのか,を明確にしなくてはなりません。

そこで,強制わいせつ罪と青少年保護育成条例18条の6違反との区別ですが,青少年保護育成条例18条の6は,青少年とのわいせつ行為一般をその対象としている一方で,強制わいせつ罪は文字通り「強制」性,すなわち反抗が著しく困難になる程度の「暴行又は脅迫」を用いたわいせつ行為が適用対象となります。そのため,本件ではわいせつ行為が「暴行又は脅迫」を用いて行われたか,が区別の要件となります。

もっとも,実際の事案では,「暴行又は脅迫」の有無というより,被害者に同意があったかどうか,が問われます。これは,同意のないわいせつ行為においては,わいせつ行為自体が強制わいせつ罪における「暴行又は脅迫」に該当する,という評価を受けることが通常であるためです。

結論としては,被害者に同意があった場合には,青少年保護育成条例18条の6違反となりますが,罰則の除外規定により不可罰,同意が無かった場合は強制わいせつ罪が成立して,保護処分の対象となる,ということになります。

ここでいう「同意」は,明示の同意(発言)だけでは無く,黙示の同意も含みますが,黙示の同意が認められるためには,例えば交際していて,同種の行為が日常的におこなわれていた場合や,行為前後のメール等のやり取りから行為を自発的に受け入れている(いた)ことが明らかである等,明示と同程度には客観的で明確な事情が必要となります。

(2)本件における具体的な適用について

以上を前提に,本件行為について検討しますが,伺っている事情だけだと,女生徒との関係,行為に至る経緯や,行為態様等が分かりませんので,まずは上記法的な視点からこれらの事実を詳細に伺う必要があります。

もっとも,ご子息の話によれば,女生徒から明確な同意をされたわけではないようですので,明示の同意は認められない上,「強引に迫ってしまった」という事ですから,おそらく黙示の同意が認定されることも難しいと考えられます。

なお,「同意が無いのに,同意していたと勘違いして行為に及んだ」場合は,事実の錯誤,といって故意が阻却されるため,犯罪は成立しないのですが,そもそも客観的に「同意していたと勘違い」するような被害者の発言や行為前後の言動があれば,それはむしろ黙示の同意と評価できるような事情となりますので,そのような事情がない本件で事実の錯誤を主張することも難しそうです。別の面から言えば錯誤の対象となる同意は、単なる同意ではなく、明示の同意と同程度の状況事実を認識したということになりますのでその様な状況事実を認識していない以上事実の錯誤という評価はできないでしょう。むしろ、要件となる同意の内容を誤解した法律の錯誤ということになるでしょう。刑法38条1項の問題ではなく、3項の問題となります。

そうしますと,現状判明している事情から判断すると,ご子息の行為は,強制わいせつ罪に該当する可能性が高いといえます。

(3)少年の強制わいせつ事件について

強制わいせつ罪の法定刑は6月以上10年以下の懲役ですが,これは成人が加害者であった場合の刑です。少年の場合は,少年法の適用により、当該行為の重大性等だけではなく,その少年の家庭環境や再非行の可能性等から矯正を加える必要があるかどうかという観点(これを「要保護性」といいます。)から,家庭裁判所が,不処分,保護観察処分,少年院送致という各処分の中から適切な処分を選択することになります。

このため,強制わいせつ事件,という事件類型から直ちに処分の予想を立てることはできませんが,上記法定刑から分かるように決して軽い罪ではありませんから,保護観察処分や少年院送致も十分に考えられます。

また,少年が加害者である強制わいせつ事件の場合,成人の場合と異なり告訴が一度されてしまうとその後取り消されたとしても保護処分の対象となってしまいます。これは,少年法の趣旨が,加害者である少年の「性格の矯正及び環境の調整に関し適切な保護処分を加えて右少年の健全な育成を期する」(下記参考裁判例)ことに起因するものです。つまり,加害少年の矯正のために処罰する以上,被害者の意向は原則として処罰に影響しない,という考え方によるものです。但し、処分の判断においては被害者の意向も重視されますから、軽い処分となるためには被害者と示談し告訴を取り下げてもらうことが必要になります。

(4)学校による処分について

本件では既に学校の知るところになっていますから,上記少年法の処分(保護処分)とは別個に,学校における処分も受けうる立場にあります。本件のような私立学校の場合,各学校によって処分の方針も全く異なりますし,その決定には広い裁量が認められています。

もちろん,合理性に欠ける不当な処分がなされた場合には訴訟等で争うことが可能ですが,解決に時間がかかってしまいますから、処分が決定される前に学校に対して事件の事情等を説明軽い処分となるよう交渉が必要になります。

2 刑事処分(保護処分)を回避するための活動

以上,現在ご子息がおかれている状況を前提として,保護処分,学校からの処分に分けてその対応をご説明します。

まず,保護処分の回避ですが,上記の通り少年による強制わいせつ事件の場合は,一度告訴をされてしまえば,いくら後から被害者が告訴の取消しをしても,保護処分の手続き自体は止まりません。もちろん,告訴後の告訴の取消しは,保護処分を決するにあたって考慮される有利な事情となりますが,何らかの保護処分を受けるリスクはありますし,保護処分が決まるまでの間,逮捕・勾留(鑑別所送致)がなされる可能性も十分にあります。

したがって,被害者から告訴がなされていない今の内に一刻も早く接触し,謝罪と賠償の申し入れを行い,告訴しない旨の示談をまとめることが必要です。なお,この場合,被害者も未成年者なので,その親権者である両親に示談をする権限があります。

本件のような未成年者となったわいせつ事件においては,一般的に被害感情が強く,示談の申し入れをおこなうにあたって特に慎重な対応が必要です。

例えば,本件は,同じ学校のクラスメイト同士の事件ですから,被害にあった女生徒の精神的な損害の填補・慰謝は勿論のこと,今後の加害者・被害者との接触や,他の学生への情報の拡散の可能性も被害者にとって大きな不安材料ですから,これらの点をできる限り保障することにより,示談の成立にも近づくことになります。

なお,示談の内容ですが,上記の通り本件に関し告訴をしない,という内容に加えて,学校への対応(後述)として,学校による懲戒処分を一切求めない,という上申も含むことが有益です。

3 学校からの処分を回避・軽減するための活動

続いて,学校への対応です。学校が行う処分は,学校に広い裁量が認められているため,学校によってかなり差がありますので,定型的な対応ではなく,柔軟な対応が求められるところです。

もっとも,一度処分が出されてしまった後,例えば退学処分によって登校が禁じられた場合には,学校側の対応も強固なものとなりますし,学校と交渉しても処分の撤回がなされない可能性が高く,その場合,裁判所に仮処分の申し立てをする等のある程度時間のかかる手続きをとる必要が出てきてしまいます。

そのため,まず学校側が処分を決する前に,直接交渉を行うことが重要です。具体的には,被害者との間で示談交渉を行うので,その結果を待って処分を検討してもらう,という処分延期の交渉になります。

学校側としても,示談の成否は処分の内容を決するにあたって大きな要素となりますから,処分延期の申し入れが受け入れられる可能性は十分に見込めるところです。

その後,被害者として学校による懲戒処分を一切求めない旨の上申が含まれた示談が成立すれば,かかる事実をもって本件が懲戒処分に値しない事件である旨を学校に主張していくことになります。

被害者もその学校の生徒である以上,学校は被害者の意向を斟酌しないわけにはいきません。そのため,被害者の「これ以上事件を問題化して欲しくない,懲戒処分をしないでほしい」という意向を学校側に示せば,懲戒処分自体を回避することができる可能性がありますし,少なくとも懲戒処分の軽減は見込めるところです。

仮に,被害者のそのような意向があるにもかかわらず,学校が退学処分等の重い処分を断行した場合は,上記の通り,仮処分等の法的な手続きを採ることが考えられますが,仮処分の場面でも上記内容での示談の成立はあなたにとって極めて有利な事情となります。

4 まとめ

以上が,あなたが置かれた状況と,考えられる弁護士の活動です。本件のような事案では,他の事件に比しても,一刻も早い,そして内容を吟味した被害者との示談の成立が何よりも求められます。経験のある弁護士にご相談ください。

以上

関連事例集

Yahoo! JAPAN

※参照条文・判例

東京都青少年の健全な育成に関する条例

(青少年に対する反倫理的な性交等の禁止)

第十八条の六

何人も、青少年とみだらな性交又は性交類似行為を行つてはならない。

(罰則)

第二十四条の三

第十八条の六の規定に違反した者は、二年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。

(青少年についての免責)

第三十条

この条例に違反した者が青少年であるときは、この条例の罰則は、当該青少年の違反行為については、これを適用しない。

刑法

(故意)

第三十八条 罪を犯す意思がない行為は、罰しない。ただし、法律に特別の規定がある場合は、この限りでない。

2 重い罪に当たるべき行為をしたのに、行為の時にその重い罪に当たることとなる事実を知らなかった者は、その重い罪によって処断することはできない。

3 法律を知らなかったとしても、そのことによって、罪を犯す意思がなかったとすることはできない。ただし、情状により、その刑を減軽することができる。

(強制わいせつ)

第176条

13歳以上の男女に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、6月以上10年以下の懲役に処する。13歳未満の男女に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。

【参考裁判例】

東京高決昭和29.6.30(判決時報5巻8号314頁)抜粋

「少年保護事件において審判に付せらるべき少年は少年法第三条所定の少年即ち罪を犯した少年その他同条第一項第二号又は第三号に該当する少年であつて、かかる少年に対し、その性格の矯正及び環境の調整に関し適切な保護処分を加えて右少年の健全な育成を期することが同法の目的とするところであり、かかる少年の犯した犯罪が本件のように親告罪であり、その告訴がなく又は告訴が取り消された場合であつても、検察官が捜査の結果犯罪の嫌疑があると考えるときは、検察官は同法第四十二条により、これを家庭裁判所に送致すべく、裁判所はこれに対し同法の定むる所に従い、調査審判をなし、適当と認める保護処分をなすべきものであることは家庭裁判所の機能並びに保護処分の性質に鑑み疑を容れないところである。」