新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1550、2014/10/03 12:00
【会社法 役員の損害賠償責任追及(報酬決議を経ない役員報酬についての責任追及,役員報酬の持ち逃げ)と対策 最高裁平成15年2月21日判決】
役員の損害賠償責任追及(報酬決議を経ない役員報酬についての責任追及,役員報酬の持ち逃げ)
質問:私は,A株式会社という会社の株主で全株式を持っています。A株式会社は,ある地方の土地を購入し,ショッピングセンターを設立して運営することを目的として作られた会社です。知人からの紹介を受けて,ある人を代表取締役に選任し,工事業者との交渉を依頼しました。ショッピングセンターはまだ完成しておらず,実際にはまだ営業を開始していなかったので,取締役としての報酬を付与したり,その旨の株主総会決議を開催したということはありませんでした。定款上は,「取締役の報酬は,株主総会決議によって決める」という規定があります。もちろん,無償でというわけにはいきませんので,一定の時期ごとに謝礼を付与していました。そうしたところ,開業前になって突然その代表取締役が会社を辞めたいと言ってきました。私は,了承し、私が代表取締役に就任しました。ところが,後日,会社の帳簿を見ていたところ,その人が辞める間際に,私に無断で1年間の取締役報酬名目で360万円を受け取っていた事実が判明しました。私はびっくりして,どういうことなのかと説明を求めたところ,事前に報酬を受けることは説明していた,了承はあなたからもらっている,仮に了承がないとしても受領したのは役員報酬として相当な金額である、ということで360万円の返還を拒否されてしまいました。事後的に同意などは一切しておりません。代表取締役から,取締役の報酬名目で取得した360万円を返還してもらうにはどうしたらよいでしょうか。
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回答:
1 役員報酬に関しての株主総会決議、全株主の了承がない限り、前代表取締役に対して役員報酬名義で支払われた金360万円について返還請求権があります。前代表取締役は報酬を得たにもかかわらず,会社法361条及び定款に基づいて株主総会決議を経ていない,という法令定款違反の任務懈怠があるので,会社法423条1項に基づいて、その任務懈怠と因果関係のある報酬名目の金銭360万円の会社の損害について賠償請求し,金銭の回収を目指す,という方向になります。
2 具体的な請求手続としては,会社法423条1項の責任追及の訴訟を提起すること,及び,訴訟の前提として相手方の資産(不動産や預金)の仮差押えといった保全手続を取ることによって回収を目指すことが基本となります。場合によっては,刑事告訴などの手続も併用して,相手方をけん制することが必要でしょう。実際の請求に際しては,具体的な証拠や回収の見通しなど詳細な検討が必要となりますので,一度,弁護士に相談されることを強くお勧めします。
3 会社法423条に関する事例集としては,その他607番,692番,878番等を参照してください。
解説:
第1 株式会社の役員報酬について
相手方の前代表取締役は,取締役の報酬名目で360万円の金銭を取得しているということですので,取締役の報酬がどのような場合に生じるのか,という点を検討していきます。
1 取締役の報酬請求権が発生するための要件
(1) 取締役としての報酬契約の締結
まず,株式会社と代表取締役との関係ですが,法律上は委任契約という関係に立ちます(会社法330条,民法644条)。委任契約とは,委任者である会社が,一定の事務処理を受任者である取締役に委任する,という民法上の契約です。委任契約は,委任者が一定の事務処理を受任者に委託すれば足り,受任者に報酬を支払うということは契約の要素にはなっていません。委任契約の形態は事務処理について受任者の主体性、裁量性を認め互いの信頼関係を基にして多数想定されるところですので,有償とすべき場合は別途特約を結んで,有償であることを明らかにして委任者の保護,公平をはかるのが民法の趣旨です。
このように委任契約は無償の契約が原則となりますので,取締役としての報酬約束を別途しない限り,代表取締役である相手方は,会社に対して報酬を請求することはできないことになります(民法648条1項)。この点に関し、営利企業である株式会社において,報酬もなしに取締役になる人はいないと考えると当然に報酬を支払う約束があったとして相当な金額の報酬を支払う必要があるのでは、という疑問が生じます。しかし、この様な見解は最高裁判所の判例で否定され、定款、株主総会の決議、全株主の同意がない限り報酬請求権は発生しないとされています。
最高裁判所の判例では「株式会社の取締役については、定款又は株主総会の決議によって報酬の金額が定められなければ、具体的な報酬請求権は発生せず、取締役が会社に対して報酬を請求することはできないというべきである。けだし、商法二六九条は、取締役の報酬額について、取締役ないし取締役会によるいわゆるお手盛りの弊害を防止するために、これを定款又は株主総会の決議で定めることとし、株主の自主的な判断にゆだねているからである。
そうすると、本件取締役の報酬については、報酬額を定めた定款の規定又は株主総会の決議がなく、株主総会の決議に代わる全株主の同意もなかったのであるから、その額が社会通念上相当な額であるか否かにかかわらず、被上告人が上告人に対し、報酬請求権を有するものということはできない。」としています。(最高裁平成15年2月21日判決参照)。
(2) 株主総会決議など一定の手続を経ること
以上のように、株式会社にあっては取締役が報酬付与の特約を会社と結んだだけでは,取締役の報酬請求権は発生しないものとされています。以下の手続的要件が必要です。
会社法361条1項によれば,「取締役の報酬、賞与その他の職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益(以下この章において「報酬等」という。)についての次に掲げる事項は、定款に当該事項を定めていないときは、株主総会の決議によって定める」とされています。
すなわち,(1)定款に役員報酬の具体的条件を定めているか,(2)報酬を取締役に付与する旨の株主総会決議,のいずれかが認められない限り,取締役の報酬請求権は発生しないことになります。
会社法が,取締役の報酬請求権の発生に,このような株主の意思決定という手続上の要件を付けたのは,取締役が自己の利益を図るために高額な報酬を設定し,会社に損害を与えることを防止する,という会社保護のためになります。端的にいえば,取締役等によるいわゆる「お手盛り防止」にその趣旨があるとされています。
(3) 今回の相談でも,定款上は株主総会決議によって報酬を定めるという規定になっていますので,結局,株主総会決議を経て取締役の報酬を決定する決議,という手続要件を充たさないので,相手方の主張するような取締役としての具体的報酬請求権は発生しないこととなります。
2 「全株主の同意」がある場合の例外,具体的な立証について
(1) 以上より,本件では株主総会決議を経ていないので,具体的な取締役報酬請求権は発生しないので,返還請求も認められそうだ,という結論になりそうです。しかし,最高最判例によれば一定の場合に例外が認められています。
上記のとおり,会社法が定款での具体的条件を決定しているか,株主総会決議を要求したのは,資金の不正流用によって会社に不測の損害が発生すること(役員によるお手盛り)を防止する,という点にあります。そうすれば,株主の全員が事後的に取締役報酬の金額,受け取ることについて同意していたのであれば,あえて会社,ひいては会社の実質的所有者である株主を保護する必要はありません。
すなわち,「全株主の同意」があるような場合には,事後的に取締役の報酬の取得が法律的に許されることとなります。
(2) 今回のご相談における相手方の主張は,相手方が100%株主であるあなたの同意を得たので,事後的に報酬について取得する合意ができており返還する必要性がない,というものであると思われます。
もっとも,「全株主の同意」というのは,役員によるお手盛りから株主を守る,という観点からは厳格に判断されるべきものといえます。
あなたが,報酬に関し異議を述べなかったという一事情のみをもって直ちに同意があったとすべきではありませんし,例えば,報酬を取得した後直ぐにあなたが報酬の返還を求めているような事情があれば,「全株主の同意」が認定されることはおそらくないでしょう。
「全株主の同意」があったか否かについては,取締役である相手方において,証拠に基づいて証明する必要があります。すなわち,立証責任は役員側にあるということです。
(3) 同意の認定においては,取締役の報酬を得た前後の,当事者間のやり取りの内容を詳細に検討する必要があります。もっとも,上に述べたように立証責任は先方にありますので,こちらとしては同意について真偽不明(同意の存在について,裁判所として疑いが残る)に落とし込めば足りることになります。
また、具体的な同意の有無に関する事実のほか、報酬を支払う必要があるか否かという判断も重要な要素になります。本件のように会社に利益が発生していないこと、取締役として行っていた業務の内容等についても報酬を発生する必要がないという事情を主張立証する必要があります。
なお,今回の事案には直接関係はないですが,当然「全」株主の同意ということになりますので,株主が複数いる場合には,個々の株主について同意を得ていることを先方が立証することが必要です。
3 小括
以上検討したとおり,(1)代表取締役(役員)の報酬は,今回の件では「株主総会決議」を経ない限り,具体的な請求権としては発生しない。(2)決議を経ていない以上,代表取締役としての報酬を得る場合には,全株主の同意が必要になる。(3)全株主の同意については厳格に判断され,その立証は相手方である代表取締役の方で行う必要がある。という結論になります。
第2 具体的な責任追及の方法
1 役員に対する損害賠償請求(会社法423条1項)
(1) 以上のとおり,本件では取締役の報酬請求権が発生しない可能性が高そうですが,そうした場合,どのように代表取締役に360万円の返還請求をすればよいのでしょうか。
法律上は,代表取締役が「その任務を怠ったときは、株式会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」とされています(会社法423条1項)ので,当該条文を根拠に損害賠償責任を追及することになります。
そして,任務を怠ったとき(任務懈怠)とは,会社法を含む法律違反や,及び会社が定めた定款違反があった場合にみとめられることとなります。今回でいえば,株主総会決議を経ていないという会社法違反の事実があったこと,株主総会決議を経なければならないとする定款違反があったこと,が任務懈怠となります。
そして,当該任務懈怠と,社会通念上因果関係のある360万円が,会社の受けた損害として,賠償請求の対象になるものと考えられます。
(2) 以上の任務懈怠を理由に,A株式会社が,会社法423条1項に基づいて前代表取締役に対して任務懈怠の損害賠償責任を追及することが可能です。
2 請求のための証拠収集
相手方の任務懈怠の事実については,一定の立証の必要がありますので,訴訟提起が必要な場合には,事前に,会社内の資料を収集しておく必要があるでしょう。特に,代表取締役としての報酬を取得していた際の帳簿資料,通帳などの,金銭の動きを証明するような証拠は,手元に置いておく必要があります。また,総会決議や取締役会決議などの会社の内部的意思決定に関する資料も,手元に置いておく必要があります。
相手方の任務懈怠について証言してくれるような会社内部の従業員等がいれば,予め証言を,陳述書などの形で確保しておくべきです。
3 訴訟の提起などの法的手段
(1) 会社法423条1項の責任追及訴訟
ア 次に,具体的な責任追及の方法について述べます。まずは内容証明等によって相手方に任意の弁済を促すことになります。もっとも,相手方が任意に返還に応じないような場合には,1で述べたとおり,会社法423条1項の任務懈怠に基づく損害賠償請求訴訟を提起することになります。
なお,責任追及の訴えを提起した場合には,公告若しくは株主に通知する必要があるものとされているなど,一定の手続を経る必要があることに注意が必要です(会社法849条4項)。
さらには,実際の回収を見据え,相手方に不動産や預金などの財産があるような場合には,財産流出防止のため,直ちに仮差押えなどの保全処分を取っておく必要があります。もっとも,担保金もある程度必要となります。
イ 訴訟においては,上記のとおり,相手方が報酬について了解を得ていた,という主張をしていますので,「全株主の同意があった」か否かが争点になると思われます。
その場合,第2において述べたように,全株主の同意がなかったこと,について証拠に基づいて反論していく必要があります。もっとも,全株主の同意があったことについては相手に立証責任がありますので,同意があったことについて真偽不明の状態にすれば,こちらの返還請求は認められるべきことになるでしょう。
(2) 刑事告訴
場合によっては,横領や背任などで刑事告訴をして相手方をけん制することも有効です。刑法上の業務上横領罪(刑法253条)や特別背任罪(会社法960条),などに該当する可能性があります。
もっとも,刑事告訴をすることは直ちに回収という関係には立たず,刑事処罰を軽くするという目的で,相手方の任意の示談を促すという関係にありますので,刑事告訴をしても支払いがない場合には,やはり最終的には訴訟提起の必要があります。
4 結論
以上より,会社法423条1項の訴訟などの法的手段を通じて,代表取締役に対して責任追及をすることは,法律や判例上の立場に照らしても十分に可能であると考えられます。もっとも,専門的な知識が必要となりますので,弁護士に相談された上で請求を進めて行くことを強くお勧めします。
<参照条文>
会社法
(株式会社と役員等との関係)
第三百三十条 株式会社と役員及び会計監査人との関係は、委任に関する規定に従う。
(取締役の報酬等)
第三百六十一条 取締役の報酬、賞与その他の職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益(以下この章において「報酬等」という。)についての次に掲げる事項は、定款に当該事項を定めていないときは、株主総会の決議によって定める。
一 報酬等のうち額が確定しているものについては、その額
二 報酬等のうち額が確定していないものについては、その具体的な算定方法
三 報酬等のうち金銭でないものについては、その具体的な内容
2 前項第二号又は第三号に掲げる事項を定め、又はこれを改定する議案を株主総会に提出した取締役は、当該株主総会において、当該事項を相当とする理由を説明しなければならない。
第十一節 役員等の損害賠償責任
(役員等の株式会社に対する損害賠償責任)
第四百二十三条 取締役、会計参与、監査役、執行役又は会計監査人(以下この節において「役員等」という。)は、そ。
2 取締役又は執行役が第三百五十六条第一項(第四百十九条第二項において準用する場合を含む。以下この項において同じ。)の規定に違反して第三百五十六条第一項第一号の取引をしたときは、当該取引によって取締役、執行役又は第三者が得た利益の額は、前項の損害の額と推定する。
3 第三百五十六条第一項第二号又は第三号(これらの規定を第四百十九条第二項において準用する場合を含む。)の取引によって株式会社に損害が生じたときは、次に掲げる取締役又は執行役は、その任務を怠ったものと推定する。
一 第三百五十六条第一項(第四百十九条第二項において準用する場合を含む。)の取締役又は執行役
二 株式会社が当該取引をすることを決定した取締役又は執行役
三 当該取引に関する取締役会の承認の決議に賛成した取締役(委員会設置会社においては、当該取引が委員会設置会社と取締役との間の取引又は委員会設置会社と取締役との利益が相反する取引である場合に限る。)
<参考判例>
最高裁平成15年2月21日判決
所有権移転登記抹消登記手続等請求事件
最高裁判所第二小法廷平成一一年(受)第九四八号
平成15年2月21日判決
上告人 株式会社○○ハウジング
同代表者代表取締役 SY
同訴訟代理人弁護士 永倉嘉行 阿部健二
被上告人 城戸秀夫
同訴訟代理人弁護士 長島良成 黒柳知佳子
主 文
1 原判決の主文一項中、二二四五万円及びこれに対する平成四年二月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払請求を棄却した部分を破棄し、同部分につき、被上告人の控訴を棄却する。
2 上告人のその余の上告を棄却する。
3 訴訟の総費用は、これを二分し、その一を上告人の、その余を被上告人の負担とする。
理 由
上告代理人永倉嘉行、同阿部健二の上告受理申立て理由(ただし、排除されたものを除く。)について
1 本件は、株式会社である上告人が、当時上告人の代表取締役であった被上告人が取締役の報酬額を定めた定款の規定、株主総会の決議又はこれに代わる全株主の同意がないのに取締役の報酬の支給を受けたことが商法二六九条に違反するなどと主張して、被上告人に対し、商法二六六条一項五号に基づき損害賠償責任を追及する事案である。原審が適法に確定した事実関係は、次のとおりである。
(1)被上告人は、昭和六一年三月二日から平成五年六月二一日までの間、上告人の代表取締役の地位にあった。
上告人の発行済株式総数二万株のうち、被上告人は平成五年二月までに三〇〇〇株を取得したが、その余の一万七〇〇〇株は他の株主が保有していた。
(2)被上告人は、上告人から、昭和六一年一〇月分から平成三年七月分までの取締役の報酬(以下「本件取締役の報酬」という。)として合計四二七五万円の支給を受けたが、これについては、報酬額を定めた定款の規定又は株主総会の決議がなかったし、株主総会の決議に代わる全株主の同意もなかった。
2 第一審は、上告人の本件取締役の報酬に係る請求につき、二二四五万円及びこれに対する平成四年二月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払を求める限度で認容した。これに対し、原審は、同請求につき、第一審判決を変更して上告人の請求を棄却した。上告人は、同請求につき、原審が第一審判決中上告人の請求を認容した部分を変更して上告人の請求を棄却した部分について不服を申し立てた。原審の判断は、次のとおりである。
(1)株式会社の取締役と会社との関係においては、通常の場合、有償である旨の黙示の特約があるものと解され、同特約がある以上、株主総会の決議がない場合には、取締役は会社に対し社会通念上相当な額の報酬を請求することができると解するのが相当である。このように解しても、株主総会の決議がある場合には、それに従うべきことになるし、同決議がない場合には、社会通念上相当な額に抑えられるから、取締役の報酬額について取締役ないし取締役会によるいわゆるお手盛りの弊害を防止するという商法二六九条の趣旨を損なうことはない。(2)本件取締役の報酬の相当額は、少なくとも現実の支給額を下回ることはないと認めるのが相当である。(3)したがって、本件取締役の報酬の支給は、商法二六九条に違反するものではなく、適法であるということができる。
3 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
株式会社の取締役については、定款又は株主総会の決議によって報酬の金額が定められなければ、具体的な報酬請求権は発生せず、取締役が会社に対して報酬を請求することはできないというべきである。けだし、商法二六九条は、取締役の報酬額について、取締役ないし取締役会によるいわゆるお手盛りの弊害を防止するために、これを定款又は株主総会の決議で定めることとし、株主の自主的な判断にゆだねているからである。
そうすると、本件取締役の報酬については、報酬額を定めた定款の規定又は株主総会の決議がなく、株主総会の決議に代わる全株主の同意もなかったのであるから、その額が社会通念上相当な額であるか否かにかかわらず、被上告人が上告人に対し、報酬請求権を有するものということはできない。
ところで、被上告人は、報酬相当額の不当利得返還請求権等との相殺の抗弁を主張しているが、本件で上告人から不服申立てがあったのは、原審において請求を棄却された二二四五万円の損害賠償請求に関する部分についてのみであり、第一審において取締役の報酬請求権があるとして損害賠償請求を二〇三〇万円の限度で棄却している(この部分は不服申立てがない。)という経過等に照らしてみれば,この主張は、結論に影響を及ぼすものではないというべきである。
したがって、論旨は理由があり、本件取締役の報酬に係る請求につき、第一審判決中上告人の請求を認容した部分を変更して上告人の請求を棄却した原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
4 以上によれば、原判決の主文一項中、本件取締役の報酬に係る請求につき、二二四五万円及びこれに対する平成四年二月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払請求を棄却した部分を破棄し、同部分についての被上告人の控訴を棄却すべきである。
なお、その余の請求に関する上告については、上告受理申立て理由が上告受理の決定において排除されたので、棄却することとする。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 梶谷玄 裁判官 福田博 北川弘治 亀山継夫 滝井繁男)