新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1554、2014/10/21 12:00 https://www.shinginza.com/qa-kojinsaisei.htm

【民事再生、個人再生】

小規模個人再生における養育費請求権の取扱い

質問:
私は,小規模個人再生の申し立てを検討していますが,養育費の支払いについて次の点が分かりません。
1 個人再生の手続を利用した場合,他の住宅ローン以外の債務と同様,今後の養育費の支払額が圧縮されたり,過去の養育費の未払い分につき債務額が圧縮されたりするのでしょうか。
2 小規模個人再生において再生計画認可の決定を得るには,その前提として再生計画が債権者による書面決議に付され可決されなければならないと聞いていますが,もし養育費の支払に免責がないのならば,養育費請求権者は利害関係がないので議決権を有しないと思うのですが,そのようなことはないのですか。



回答:

1 再生手続開始決定後に支払期限が到来する養育費について

(1) 再生手続開始決定後に支払期限が到来する養育費については,その債権ないし債務は,再生手続開始後に生じた「再生債務者の…生活…に関する費用」や「再生債務者のために支出すべきやむを得ない費用」たる共益債権に当たり(民事再生法119条2号,同条7号),「再生手続によらないで,随時弁済する」ことになります(同法121条1項)。すなわち,養育費の支払額が圧縮されるということはありません。

(2) また,共益債権は再生債権とならないため(民事再生法84条1項括弧書),養育費請求権者は,再生債権者とはならず,議決権を有しません(同法87条1項参照)。

2 再生手続開始決定以前に支払期限が到来している養育費について

(1) 再生手続開始決定前に未払状態にある養育費につきその請求権は,小規模個人再生において再生計画認可の決定が確定したときでも,他の再生債権者の権利のような一般的基準に従った変更はありません(民事再生法法232条2項括弧書)。すなわち,過去の養育費の未払い分につき債務額が圧縮されるということはありません。
もっとも,その弁済方法は,民事再生法による制限があります。すなわち,「一般的基準に従って弁済をし,かつ,再生計画で定められた弁済期間が満了する時に,当該請求権の債権額から当該弁済期間内に弁済をした額を控除した残額につき弁済をしなければなりません(同法232条4項)」。

(2) 再生手続開始決定前に未払状態にある養育費につきその請求権は,「再生債務者に対し再生手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権」に当たり,再生債権となるため(民事再生法84条1項),養育費請求権者は,再生債権者となり,議決権を有します(同法87条1項参照)。

3 民事再生、個人再生、関連事例集1282番835番834番833番155番参照。


解説:

(民事再生、個人再生 (小規模個人再生 、給与所得者再生)の制度趣旨。)

  民事再生法は、支払不能の可能性等経済的窮地(破産原因が生じるおそれでよい。民事再生法21条)に陥り、社会経済生活において自由競争ができなくなった者の経済的再起更生を早期に実現し、公正な社会経済秩序を維持し、個人の尊厳を確保保障するために(法の支配)債務整理の一環として平成12年以降創設されました(民事再生法1条)。  我が国は、自由主義、個人主義の下、私的自治の原則、私有財産制により自由競争を基本としていますが、自由競争は結果として構造上必然的に敗者を生み、資本の論理により恒常的敗者すなわち債務整理を必要とする者を生じることになります。しかし、私的自治の原則は自由で公正な社会秩序を実現するための手段であり、制度に内在する公正公平の原則により、このような不平等状態は是正されなければならず、直ちに社会の構成員である個人、会社が再起更生し、再度自由競争社会への参加が認められなければなりません。  すなわち、債務整理制度は、法が債権者側の恩恵として認めたものではなく、自由競争社会で制度自体から必然的に導かれる個人、会社が有する当然の権利です。唯、債務整理の手続きは再起更生の他、本来支払われるべき債務の減額免除を内容としますので、債務者、債権者にとり公正で公平、迅速、低廉でなければいけません。そこで、法は第一義的に破産制度(破産法)を用意し、すべての財産を明らかにし公平、平等に配当清算することを条件に負債を免責しています。しかし、この制度はいままでの財産的基盤(自宅も)をすべて失うことになり、真の経済的再起更生としては不十分です。

  そこで、従来は、弁護士が介入し裁判所の監督を受けない私的整理(内整理)、民事調停による減額交渉、さらには裁判所の監督下の手続きによる、破産手続き中の強制和議(破産法、民事再生制定により廃止)、破産予防の和議(和議法、民事再生法制定により廃止)、会社更生手続き等により債務者の早期実質的再起更生を図ってきました。しかし、私的整理、民事調停は各債権者の同意が障害となり、負債額が大きい場合にさほど有効ではありませんし、強制和議、和議法の予防和議は要件が厳しく(債権者数の過半数、債権額3分の2の議決)、抵当権等担保権の実行を阻止できませんし(結局生活の本拠である自宅を失う)、会社更生法も強制和議と同様成立要件が厳格で経営権が更生管財人に奪われ早期、自主的に再起更生を果たそうとする一般的個人、会社に十分活用されませんでした。

  そこで平成12年から民事再生法が制定され、申し立ての理由を広くし(破産原因が生じるおそれで足りる)、従来の経営者が引き続き経営権を有し、決議要件を緩和し(債権者数、額とも過半数で可、さらに債権者の同意で再生債権確定手続き、再生計画案決議手続きを省略簡易にすることも可能)、再起更生のため生活の本拠である住宅確保のための手続き(法196条、弁済猶予等による担保権実行の制限。住宅資金債権者は債務額を保証される関係上再生計画案について議決権を有しないので住宅資金特別条項は事実上確保されます。法201条。)、さらに特則として規模が小さい個人の債務整理に対応して小規模個人再生手続き(法221条以下、弁済期間、弁済額限定、消極的同意等による議決手続きの簡易化等。基準3年、20%、書面による議決権行使、)、小規模個人再生のさらに特則として給与所得者再生手続き(法239条以下、日常生活権が侵害される危険があり弁済額を厳しくして債権者同意を不要とする。)が制定され、債務者の経済状態に応じて再起更生がさらに確保、保障され容易になりました。以上の趣旨から民事再生の規定は、解釈されます。尚、民事再生法の施行により私的整理の整理案にも事実上の影響(弁済額10%−20%、負債額5000万円以上なら10%以下)があるものと思われます。

  民事再生法は平成12年4月1日から施行され、個人再生についても平成13年4月1日から施行され、現在まで多くの事例が蓄積されてきました。個人再生手続は、民事再生法第13章の「小規模個人再生及び給与所得者再生に関する特則」の適用ある再生手続きのことで(民事再生法221条以下)、非事業者の自然人及び零細な個人事業者にとって利用しやすい再生手続きとなっています。個人再生の手続きは、通常の民事再生手続きより恒常的負債からさらに公平公正を旨として、迅速、低廉に更生、解放される趣旨に基づき規定されています。

  尚、念のため個人再生の特色を具体的に説明しておきます。個人再生(民事再生手続きの特則であり小規模個人再生と給与所得者再生を言います。)は、民事再生の特則として5000万円(住宅ローン除く)以下の負債で定期的に収入がある人に限りについて裁判所の手続を通じ、債務者の将来の収入の一部分を返済に充てることにして(原則負債の20%。3000万円以上は10%以下になります。最低100万円。)原則3年間の分割弁済を行い(安定的収入があるので例外を認め5年まで可能にして柔軟に対応しています。)、残りの債務は免除を受けるという方法です(法221条)。通常の民事再生に対する基本的特色は、弁済総額、期間の限定、債権者の同意方式が消極的同意で簡易(給与所得者再生は同意も不要)、手続き期間の短縮(申立後6か月)等の迅速な再起更生です。債権確定手続きの簡易化(法227条、評価制度)もその制度の一つです。借金が多額である場合(一部免除を得ても返しきれない場合。)、借金よりも資産の方が多い場合、毎月の収入がない場合などは、この方法によることはできず、原則に戻り通常の民事再生手続き(同意は困難でしょう)、前述の任意整理(私的整理)か自己破産を検討することになります。以上から、養育費の請求も債務者の更生を目的として適正、公平、迅速、低廉な手続きを遂行するという制度趣旨から行われることになります。


1 個人再生について

(1) 前述のように個人再生とは,返済に窮した個人である債務者が,債務総額を圧縮し(民事再生法231条2項2号ないし4号),圧縮後の金額を原則3年間で分割して返済する再生計画を立て(同法229条2項),債権者の意見を聞いたうえで(同法230条)裁判所が認めれば(同法231条),その計画どおりの返済をすることによって,残りの債務が免除されるという手続をいいます。

(2) 個人再生は,小規模個人再生と給与所得者等再生に分かれます。

ア まず,小規模個人再生とは,個人である債務者のうち,将来において継続的に又は反復して収入を得る見込みがあり,かつ,再生債権の総額(住宅資金貸付債権の額,別除権の行使によって弁済を受けることができると見込まれる再生債権の額及び再生手続開始前の罰金等の額を除く。)が5000万円を超えないものが利用できる再生手続をいいます(民事再生法221条1項)。

イ 次に,給与所得者等再生とは,小規模個人再生を利用できる債務者のうち,給与又はこれに類する定期的な収入を得る見込みがある者であって,かつ,その額の変動の幅が小さいと見込まれるものが利用できる再生手続をいいます(民事再生法239条1項)。

2 再生手続における養育費の扱い

(1) 子(未成年者)を監護していない親(以下「非監護親」といいます。)から子を監護している親(以下「監護親」といいます。)に支払われる子の監護に要する費用を,養育費といいます(民法749条,同法766条,同法771条,同法788条)。

(2) 再生手続において養育費はどのように扱われるのでしょうか,再生手続開始決定後に支払期限が到来するものと,再生手続開始決定前に未払状態にあるもので扱いが変わってくるので,以下分けて説明します。

ア 再生手続開始決定後に支払期限が到来する養育費の扱い

(ア) 権利変更の有無及び弁済方法
再生手続開始決定後に支払期限が到来する養育費については,その債権ないし債務は,「再生債務者のために支出すべきやむを得ない費用の請求権で,再生手続開始後に生じた」共益債権に当たり(民事再生法119条7号),「再生手続によらないで,随時弁済する」ことになります(同法121条1項)。
そのため,再生計画案作成の際は,月々の養育費の支払を考慮する必要があります。119条7号には養育費とは明言されていませんが、本条の趣旨は、再生手続き開始後の原因に基づき、再生債権者の全体の利益になる請求権については公平上権利行使の制限を受けないようにしています。しかし、養育費の支払いが更生債権者の全体の利益に合致するか問題ですが、再生債務者が、養育費を支払うことは家族生活維持のため当然必要となる義務であり広く考えれば安定した家族生活を維持してこそ再生手続きによる弁済を円滑に行うことができるという考えに基づいています。

(イ) 議決権の有無
a 再生計画案に同意しない旨回答した議決権者が議決権者総数の半数に満たず,かつ,その議決権の額が議決権者の議決権の総額の2分の1を超えないときは,再生計画案の可決があったものとみなされます(民事再生法230条6項)。
b では,再生手続開始決定後に支払期限が到来する養育費につきその請求権者は議決権を有するのでしょうか。
この点,共益債権は再生債権とならないため(民事再生法84条1項括弧書),養育費請求権者は,再生債権者とはならず,議決権を有しません(同法87条1項参照)。実質的に考えても,養育費は「再生手続によらないで,随時弁済」されるので(同法121条1項),養育費請求権者に利害関係はなく,議決権を付与する理由はありません。

イ 再生手続開始決定前に未払状態にある養育費の扱い

再生手続開始決定前に未払状態にある養育費については,再生手続により弁済することになります。詳細は,以下のとおりです。

(ア) 権利変更の有無
a 「再生債権者の権利を変更する条項においては,債務の減免,期限の猶予その他の権利の変更の一般的基準(…)を定めなければな」りません(民事再生法156条)。
b もっとも,養育費については,その債権ないし債務は,「民法第766条(…)の規定による子の監護に関する義務」に当たり,監護親の同意がある場合を除き,債務の減免の定めその他権利に影響を及ぼす定めをすることができません(民事再生法229条3項3号ハ)。

そして,小規模個人再生において再生計画認可の決定が確定したときでも,養育費については,他の再生債権者の権利のような一般的基準に従った変更はありません(同法232条2項括弧書)。

本来であれば平等弁済が求められますが、小規模個人再生では、破産法の非免責債権と同様の趣旨で例外を認めています。すなわち、再起更生をさせる必要性があるとしても、債務者が保護に値しない理由により発生せしめた更生債権(悪意、重過失が原因の債権)や、更生債権者の家庭生活上の人道的保護の必要性から債務者、債権者の公平を図った債権です。負債総額が5000万円以下と規模が小さいので更生の支障にならないと判断しています。

(イ) 弁済方法
a 権利の変更はないといっても,再生手続開始決定前に未払状態にある養育費につきその請求権は,「再生債務者に対し再生手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権」に当たり,再生債権となります(民事再生法84条1項)。
したがって,「再生計画の定めるところによらなければ,弁済をし,弁済を受け,その他これを消滅させる行為(…)をすることができ」ず(同法85条1項),一般的基準(前記ア(ア)参照)に従って弁済をすることになります(民事再生法232条4項)。この点は,養育費が,弁済方法につき,他の再生債権と扱いが同じになります。
b そして,「再生計画で定められた弁済期間が満了する時に,当該請求権の債権額から当該弁済期間内に弁済をした額を控除した残額につき弁済をしなければな」りません(民事再生法232条4項)。この点は,養育費が,弁済方法につき,他の再生債権と扱いが異なることになります。
そのため,計画弁済中もその分を積み立てて支払原資を確保するなどの対策が必要となります。

ウ 議決権の有無

a 再生計画案に同意しない旨回答した議決権者が議決権者総数の半数に満たず,かつ,その議決権の額が議決権者の議決権の総額の2分の1を超えないときは,再生計画案の可決があったものとみなされます(民事再生法230条6項)。
b では,再生手続開始決定前に未払状態にある養育費につきその請求権者は議決権を有するのでしょうか。
この点,養育費請求権は再生債権となるため(前記イ(イ)a参照),養育費請求権者は,再生債権者となり,議決権を有します(同法87条1項参照)。実質的に考えても,養育費は,再生計画の定めるところによらなければ,弁済をし,弁済を受け,その他これを消滅させる行為をすることができず,一般的基準に従って弁済をすることになるので(前記イ(イ)a参照),養育費請求権者に利害関係があり,議決権を付与する理由があります。

<参照条文>
民法
(離婚の規定の準用)
第749条 第728条第1項,第766条から第769条まで,第790条第1項ただし書並びに第819条第2項,第3項,第5項及び第6項の規定は,婚姻の取消しについて準用する。
(離婚後の子の監護に関する事項の定め等)
第766条 父母が協議上の離婚をするときは,子の監護をすべき者,父又は母と子との面会及びその他の交流,子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は,その協議で定める。この場合においては,子の利益を最も優先して考慮しなければならない。
2 前項の協議が調わないとき,又は協議をすることができないときは,家庭裁判所が,同項の事項を定める。
3 家庭裁判所は,必要があると認めるときは,前2項の規定による定めを変更し,その他子の監護について相当な処分を命ずることができる。
4 前3項の規定によっては,監護の範囲外では,父母の権利義務に変更を生じない。
(協議上の離婚の規定の準用)
第771条 第766条から第769条までの規定は,裁判上の離婚について準用する。
(認知後の子の監護に関する事項の定め等)
第788条 第766条の規定は,父が認知する場合について準用する。

民事再生法
(再生債権となる請求権)
第84条 再生債務者に対し再生手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権(共益債権又は一般優先債権であるものを除く。次項において同じ。)は,再生債権とする。
2 次に掲げる請求権も,再生債権とする。
一 再生手続開始後の利息の請求権
二 再生手続開始後の不履行による損害賠償及び違約金の請求権
三 再生手続参加の費用の請求権
(再生債権の弁済の禁止)
第85条 再生債権については,再生手続開始後は,この法律に特別の定めがある場合を除き,再生計画の定めるところによらなければ,弁済をし,弁済を受け,その他これを消滅させる行為(免除を除く。)をすることができない。
2 再生債務者を主要な取引先とする中小企業者が,その有する再生債権の弁済を受けなければ,事業の継続に著しい支障を来すおそれがあるときは,裁判所は,再生計画認可の決定が確定する前でも,再生債務者等の申立てにより又は職権で,その全部又は一部の弁済をすることを許可することができる。
3 裁判所は,前項の規定による許可をする場合には,再生債務者と同項の中小企業者との取引の状況,再生債務者の資産状態,利害関係人の利害その他一切の事情を考慮しなければならない。
4 再生債務者等は,再生債権者から第2項の申立てをすべきことを求められたときは,直ちにその旨を裁判所に報告しなければならない。この場合において,その申立てをしないこととしたときは,遅滞なく,その事情を裁判所に報告しなければならない。
5 少額の再生債権を早期に弁済することにより再生手続を円滑に進行することができるとき,又は少額の再生債権を早期に弁済しなければ再生債務者の事業の継続に著しい支障を来すときは,裁判所は,再生計画認可の決定が確定する前でも,再生債務者等の申立てにより,その弁済をすることを許可することができる。
6 第2項から前項までの規定は,約定劣後再生債権である再生債権については,適用しない。
(再生債権者の議決権)
第87条 再生債権者は,次に掲げる債権の区分に従い,それぞれ当該各号に定める金額に応じて,議決権を有する。
一 再生手続開始後に期限が到来すべき確定期限付債権で無利息のもの 再生手続開始の時から期限に至るまでの期間の年数(その期間に1年に満たない端数があるときは,これを切り捨てるものとする。)に応じた債権に対する法定利息を債権額から控除した額
二 金額及び存続期間が確定している定期金債権 各定期金につき前号の規定に準じて算定される額の合計額(その額が法定利率によりその定期金に相当する利息を生ずべき元本額を超えるときは,その元本額)
三 次に掲げる債権 再生手続開始の時における評価額
イ 再生手続開始後に期限が到来すべき不確定期限付債権で無利息のもの
ロ 金額又は存続期間が不確定である定期金債権
ハ 金銭の支払を目的としない債権
ニ 金銭債権で,その額が不確定であるもの又はその額を外国の通貨をもって定めたもの
ホ 条件付債権
ヘ 再生債務者に対して行うことがある将来の請求権
四 前3号に掲げる債権以外の債権 債権額
2 前項の規定にかかわらず,再生債権者は,第84条第2項に掲げる請求権,第97条第1号に規定する再生手続開始前の罰金等及び共助対象外国租税の請求権については,議決権を有しない。
3 第1項の規定にかかわらず,再生債務者が再生手続開始の時においてその財産をもって約定劣後再生債権に優先する債権に係る債務を完済することができない状態にあるときは,当該約定劣後再生債権を有する者は,議決権を有しない。
(共益債権となる請求権)
第119条 次に掲げる請求権は,共益債権とする。
一 再生債権者の共同の利益のためにする裁判上の費用の請求権
二 再生手続開始後の再生債務者の業務,生活並びに財産の管理及び処分に関する費用の請求権
三 再生計画の遂行に関する費用の請求権(再生手続終了後に生じたものを除く。)
四 第61条第1項(第63条,第78条及び第83条第1項において準用する場合を含む。),第90条の2第5項,第91条第1項,第112条,第117条第4項及び第223条第9項(第244条において準用する場合を含む。)の規定により支払うべき費用,報酬及び報償金の請求権
五 再生債務者財産に関し再生債務者等が再生手続開始後にした資金の借入れその他の行為によって生じた請求権
六 事務管理又は不当利得により再生手続開始後に再生債務者に対して生じた請求権
七 再生債務者のために支出すべきやむを得ない費用の請求権で,再生手続開始後に生じたもの(前各号に掲げるものを除く。)
(共益債権の取扱い)
第121条 共益債権は,再生手続によらないで,随時弁済する。
2 共益債権は,再生債権に先立って,弁済する。
3 共益債権に基づき再生債務者の財産に対し強制執行又は仮差押えがされている場合において,その強制執行又は仮差押えが再生に著しい支障を及ぼし,かつ,再生債務者が他に換価の容易な財産を十分に有するときは,裁判所は,再生手続開始後において,再生債務者等の申立てにより又は職権で,担保を立てさせて,又は立てさせないで,その強制執行又は仮差押えの中止又は取消しを命ずることができる。共益債権である共助対象外国租税の請求権に基づき再生債務者の財産に対し国税滞納処分の例によってする処分がされている場合におけるその処分の中止又は取消しについても,同様とする。
4 裁判所は,前項の規定による中止の命令を変更し,又は取り消すことができる。
5 第3項の規定による中止又は取消しの命令及び前項の規定による決定に対しては,即時抗告をすることができる。
6 前項の即時抗告は,執行停止の効力を有しない。
(権利の変更の一般的基準)
第156条 再生債権者の権利を変更する条項においては,債務の減免,期限の猶予その他の権利の変更の一般的基準(約定劣後再生債権の届出があるときは,約定劣後再生債権についての一般的基準を含む。)を定めなければならない。
(手続開始の要件等)
第221条 個人である債務者のうち,将来において継続的に又は反復して収入を得る見込みがあり,かつ,再生債権の総額(住宅資金貸付債権の額,別除権の行使によって弁済を受けることができると見込まれる再生債権の額及び再生手続開始前の罰金等の額を除く。)が5000万円を超えないものは,この節に規定する特則の適用を受ける再生手続(以下「小規模個人再生」という。)を行うことを求めることができる。
2 小規模個人再生を行うことを求める旨の申述は,再生手続開始の申立ての際(債権者が再生手続開始の申立てをした場合にあっては,再生手続開始の決定があるまで)にしなければならない。
3 前項の申述をするには,次に掲げる事項を記載した書面(以下「債権者一覧表」という。)を提出しなければならない。
一 再生債権者の氏名又は名称並びに各再生債権の額及び原因
二 別除権者については,その別除権の目的である財産及び別除権の行使によって弁済を受けることができないと見込まれる再生債権の額(以下「担保不足見込額」という。)
三 住宅資金貸付債権については,その旨
四 住宅資金特別条項を定めた再生計画案を提出する意思があるときは,その旨
五 その他最高裁判所規則で定める事項
4 再生債務者は,債権者一覧表に各再生債権についての再生債権の額及び担保不足見込額を記載するに当たっては,当該額の全部又は一部につき異議を述べることがある旨をも記載することができる。
5 第1項に規定する再生債権の総額の算定及び債権者一覧表への再生債権の額の記載に関しては,第87条第1項第1号から第3号までに掲げる再生債権は,当該各号に掲げる債権の区分に従い,それぞれ当該各号に定める金額の債権として取り扱うものとする。
6 再生債務者は,第2項の申述をするときは,当該申述が第1項又は第3項に規定する要件に該当しないことが明らかになった場合においても再生手続の開始を求める意思があるか否かを明らかにしなければならない。ただし,債権者が再生手続開始の申立てをした場合については,この限りでない。
7 裁判所は,第2項の申述が前項本文に規定する要件に該当しないことが明らかであると認めるときは,再生手続開始の決定前に限り,再生事件を通常の再生手続により行う旨の決定をする。ただし,再生債務者が前項本文の規定により再生手続の開始を求める意思がない旨を明らかにしていたときは,裁判所は,再生手続開始の申立てを棄却しなければならない。
(再生計画による権利の変更の内容等)
第229条 小規模個人再生における再生計画による権利の変更の内容は,不利益を受ける再生債権者の同意がある場合又は少額の再生債権の弁済の時期若しくは第84条第2項に掲げる請求権について別段の定めをする場合を除き,再生債権者の間では平等でなければならない。
2 再生債権者の権利を変更する条項における債務の期限の猶予については,前項の規定により別段の定めをする場合を除き,次に定めるところによらなければならない。
一 弁済期が3月に1回以上到来する分割払の方法によること。
二 最終の弁済期を再生計画認可の決定の確定の日から3年後の日が属する月中の日(特別の事情がある場合には,再生計画認可の決定の確定の日から5年を超えない範囲内で,3年後の日が属する月の翌月の初日以降の日)とすること。
3 第1項の規定にかかわらず,再生債権のうち次に掲げる請求権については,当該再生債権者の同意がある場合を除き,債務の減免の定めその他権利に影響を及ぼす定めをすることができない。
一 再生債務者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権
二 再生債務者が故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権(前号に掲げる請求権を除く。)
三 次に掲げる義務に係る請求権
イ 民法第752条の規定による夫婦間の協力及び扶助の義務
ロ 民法第760条の規定による婚姻から生ずる費用の分担の義務
ハ 民法第766条(同法第749条,第771条及び第788条において準用する場合を含む。)の規定による子の監護に関する義務
ニ 民法第877条から第880条までの規定による扶養の義務
ホ イからニまでに掲げる義務に類する義務であって,契約に基づくもの
6 前項の即時抗告は,執行停止の効力を有しない。
(再生計画案の決議)
第230条 裁判所は,一般異議申述期間(特別異議申述期間が定められた場合には,当該特別異議申述期間を含む。)が経過し,かつ,第125条第1項の報告書の提出がされた後でなければ,再生計画案を決議に付することができない。当該一般異議申述期間内に第226条第1項本文の規定による異議が述べられた場合(特別異議申述期間が定められた場合には,当該特別異議申述期間内に同条第3項の規定による異議が述べられた場合を含む。)には,第227条第1項本文の不変期間を経過するまでの間(当該不変期間内に再生債権の評価の申立てがあったときは,再生債権の評価がされるまでの間)も,同様とする。
2 裁判所は,再生計画案について第174条第2項各号(第3号を除く。住宅資金特別条項を定めた再生計画案については,第202条第2項第1号から第3号まで)又は次条第2項各号のいずれかに該当する事由があると認める場合には,その再生計画案を決議に付することができない。
3 再生計画案の提出があったときは,裁判所は,前2項の場合を除き,議決権行使の方法としての第169条第2項第2号に掲げる方法及び第172条第2項(同条第3項において準用する場合を含む。)の規定により議決権の不統一行使をする場合における裁判所に対する通知の期限を定めて,再生計画案を決議に付する旨の決定をする。
4 前項の決定をした場合には,その旨を公告するとともに,議決権者に対して,同項に規定する期限,再生計画案の内容又はその要旨及び再生計画案に同意しない者は裁判所の定める期間内に同項の規定により定められた方法によりその旨を回答すべき旨を通知しなければならない。
5 第3項の決定があった場合における第172条第2項(同条第3項において準用する場合を含む。)の規定の適用については,同条第2項中「第169条第2項前段」とあるのは,「第230条第3項」とする。
6 第4項の期間内に再生計画案に同意しない旨を同項の方法により回答した議決権者が議決権者総数の半数に満たず,かつ,その議決権の額が議決権者の議決権の総額の2分の1を超えないときは,再生計画案の可決があったものとみなす。
7 再生計画案に同意しない旨を第4項の方法により回答した議決権者のうち第172条第2項(同条第3項において準用する場合を含む。)の規定によりその有する議決権の一部のみを行使したものがあるときの前項の規定の適用については,当該議決権者1人につき,議決権者総数に1を,再生計画案に同意しない旨を第4項の方法により回答した議決権者の数に2分の1を,それぞれ加算するものとする。
8 届出再生債権者は,一般異議申述期間又は特別異議申述期間を経過するまでに異議が述べられなかった届出再生債権(第226条第5項に規定するものを除く。以下「無異議債権」という。)については届出があった再生債権の額又は担保不足見込額に応じて,第227条第7項の規定により裁判所が債権の額又は担保不足見込額を定めた再生債権(以下「評価済債権」という。)についてはその額に応じて,それぞれ議決権を行使することができる。
(再生計画の認可又は不認可の決定)
第231条 小規模個人再生において再生計画案が可決された場合には,裁判所は,第174条第2項(当該再生計画案が住宅資金特別条項を定めたものであるときは,第202条第2項)又は次項の場合を除き,再生計画認可の決定をする。
2 小規模個人再生においては,裁判所は,次の各号のいずれかに該当する場合にも,再生計画不認可の決定をする。
一 再生債務者が将来において継続的に又は反復して収入を得る見込みがないとき。
二 無異議債権の額及び評価済債権の額の総額(住宅資金貸付債権の額,別除権の行使によって弁済を受けることができると見込まれる再生債権の額及び第84条第2項に掲げる請求権の額を除く。)が5000万円を超えているとき。
三 前号に規定する無異議債権の額及び評価済債権の額の総額が3000万円を超え5000万円以下の場合においては,当該無異議債権及び評価済債権(別除権の行使によって弁済を受けることができると見込まれる再生債権及び第84条第2項各号に掲げる請求権を除く。以下「基準債権」という。)に対する再生計画に基づく弁済の総額(以下「計画弁済総額」という。)が当該無異議債権の額及び評価済債権の額の総額の10分の1を下回っているとき。
四 第2号に規定する無異議債権の額及び評価済債権の額の総額が3000万円以下の場合においては,計画弁済総額が基準債権の総額の5分の1又は100万円のいずれか多い額(基準債権の総額が100万円を下回っているときは基準債権の総額,基準債権の総額の5分の1が300万円を超えるときは300万円)を下回っているとき。
五 再生債務者が債権者一覧表に住宅資金特別条項を定めた再生計画案を提出する意思がある旨の記載をした場合において,再生計画に住宅資金特別条項の定めがないとき。
(再生計画の効力等)
第232条 小規模個人再生において再生計画認可の決定が確定したときは,第87条第1項第1号から第3号までに掲げる債権は,それぞれ当該各号に定める金額の再生債権に変更される。
2 小規模個人再生において再生計画認可の決定が確定したときは,すべての再生債権者の権利(第87条第1項第1号から第3号までに掲げる債権については前項の規定により変更された後の権利とし,第229条第3項各号に掲げる請求権及び再生手続開始前の罰金等を除く。)は,第156条の一般的基準に従い,変更される。
3 前項に規定する場合における同項の規定により変更された再生債権であって無異議債権及び評価済債権以外のものについては,再生計画で定められた弁済期間が満了する時(その期間の満了前に,再生計画に基づく弁済が完了した場合又は再生計画が取り消された場合にあっては弁済が完了した時又は再生計画が取り消された時。次項及び第5項において同じ。)までの間は,弁済をし,弁済を受け,その他これを消滅させる行為(免除を除く。)をすることができない。ただし,当該変更に係る再生債権が,再生債権者がその責めに帰することができない事由により債権届出期間内に届出をすることができず,かつ,その事由が第230条第3項に規定する決定前に消滅しなかったもの又は再生債権の評価の対象となったものであるときは,この限りでない。
4 第2項に規定する場合における第229条第3項各号に掲げる請求権であって無異議債権及び評価済債権であるものについては,第156条の一般的基準に従って弁済をし,かつ,再生計画で定められた弁済期間が満了する時に,当該請求権の債権額から当該弁済期間内に弁済をした額を控除した残額につき弁済をしなければならない。
5 第2項に規定する場合における第229条第3項各号に掲げる請求権であって無異議債権及び評価済債権以外のものについては,再生計画で定められた弁済期間が満了する時に,当該請求権の債権額の全額につき弁済をしなければならない。ただし,第3項ただし書に規定する場合には,前項の規定を準用する。
6 第2項に規定する場合における第182条,第189条第3項及び第206条第1項の規定の適用については,第182条中「認可された再生計画の定めによって認められた権利又は前条第1項の規定により変更された後の権利」とあるのは「第232条第2項の規定により変更された後の権利及び第229条第3項各号に掲げる請求権」と,第189条第3項中「再生計画の定めによって認められた権利の全部(履行された部分を除く。)」とあるのは「第232条第2項の規定により変更された後の権利の全部及び第229条第3項各号に掲げる請求権(第232条第4項(同条第5項ただし書において準用する場合を含む。)の規定により第156条の一般的基準に従って弁済される部分に限る。)であって,履行されていない部分」と,第206条第1項中「再生計画の定めによって認められた権利(住宅資金特別条項によって変更された後のものを除く。)の全部(履行された部分を除く。)」とあるのは「第232条第2項の規定により変更された後の権利(住宅資金特別条項によって変更された後のものを除く。)の全部及び第229条第3項各号に掲げる請求権(第232条第4項(同条第5項ただし書において準用する場合を含む。)の規定により第156条の一般的基準に従って弁済される部分に限る。)であって,履行されていない部分」とする。
7 住宅資金特別条項を定めた再生計画の認可の決定が確定した場合における第3項から第5項までの規定の適用については,これらの規定中「再生計画で定められた弁済期間」とあるのは「再生計画(住宅資金特別条項を除く。)で定められた弁済期間」と,第3項本文中「再生計画に基づく弁済」とあるのは「再生計画(住宅資金特別条項を除く。)に基づく弁済」と,同項ただし書中「又は再生債権の評価の対象となったもの」とあるのは「若しくは再生債権の評価の対象となったものであるとき,又は当該変更後の権利が住宅資金特別条項によって変更された後の住宅資金貸付債権」とする。
8 第1項及び第2項の規定にかかわらず,共助対象外国租税の請求権についてのこれらの規定による権利の変更の効力は,租税条約等実施特例法第11条第1項の規定による共助との関係においてのみ主張することができる。
(手続開始の要件等)
第239条 第221条第1項に規定する債務者のうち,給与又はこれに類する定期的な収入を得る見込みがある者であって,かつ,その額の変動の幅が小さいと見込まれるものは,この節に規定する特則の適用を受ける再生手続(以下「給与所得者等再生」という。)を行うことを求めることができる。
2 給与所得者等再生を行うことを求める旨の申述は,再生手続開始の申立ての際(債権者が再生手続開始の申立てをした場合にあっては,再生手続開始の決定があるまで)にしなければならない。
3 再生債務者は,前項の申述をするときは,当該申述が第221条第1項又は第244条において準用する第221条第3項に規定する要件に該当しないことが明らかになった場合に通常の再生手続による手続の開始を求める意思があるか否か及び第5項各号のいずれかに該当する事由があることが明らかになった場合に小規模個人再生による手続の開始を求める意思があるか否かを明らかにしなければならない。ただし,債権者が再生手続開始の申立てをした場合については,この限りでない。
4 裁判所は,第2項の申述が前項本文に規定する要件に該当しないことが明らかであると認めるときは,再生手続開始の決定前に限り,再生事件を通常の再生手続により行う旨の決定をする。ただし,再生債務者が前項本文の規定により通常の再生手続による手続の開始を求める意思がない旨を明らかにしていたときは,裁判所は,再生手続開始の申立てを棄却しなければならない。
5 前項に規定する場合のほか,裁判所は,第2項の申述があった場合において,次の各号のいずれかに該当する事由があることが明らかであると認めるときは,再生手続開始の決定前に限り,再生事件を小規模個人再生により行う旨の決定をする。ただし,再生債務者が第3項本文の規定により小規模個人再生による手続の開始を求める意思がない旨を明らかにしていたときは,裁判所は,再生手続開始の申立てを棄却しなければならない。
一 再生債務者が,給与又はこれに類する定期的な収入を得る見込みがある者に該当しないか,又はその額の変動の幅が小さいと見込まれる者に該当しないこと。
二 再生債務者について次のイからハまでに掲げる事由のいずれかがある場合において,それぞれイからハまでに定める日から7年以内に当該申述がされたこと。
イ 給与所得者等再生における再生計画が遂行されたこと 当該再生計画認可の決定の確定の日
ロ 第235条第1項(第244条において準用する場合を含む。)に規定する免責の決定が確定したこと 当該免責の決定に係る再生計画認可の決定の確定の日
ハ 破産法第252条第1項に規定する免責許可の決定が確定したこと 当該決定の確定の日

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