新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1562、2014/11/13 12:00 https://www.shinginza.com/qa-souzoku.htm

【相続 寄与分の算定方法 療養看護の評価算 大阪家庭裁判所審判平成19年2月8日 】

寄与分の算定方法


質問:父が2ヶ月前に死亡しました。母は既に死亡しています。相続人は、3人の子供で、長男、次男、長女で、私は長女です。長男、次男は独立して各々生計を立てております。父は生前30年近く飲食店を経営していましたが、4年程前に体を壊して飲食店を止めて、長女である私の家で寝たきりの生活を送っていました。特に私の家に来てから亡くなるまでの3年間は一人でトイレにも行けず、物忘れも多く認知症が進んでいました。そこで私は仕事を辞めて父の介護をすることになりました。3度の食事、排便などの手伝いは全て私がやっておりました。父の財産は10坪程の店舗(時価2000万円)と預金1000万円です。長男からは子供3人で3等分しようという提案が示されておりますが、私としては私が父が亡くなるまで3年間看護したことの対価を認めて貰いたいと思っています。私の3年間の看護は相続上、考慮されないのでしょうか。



回答:

1、 日本国憲法と現行民法は、法の下の平等(憲法14条)と、平等相続主義(民法900条4号)を採用しており、被相続人の相続財産は、同順位の相続人間では、法定相続分に従って、平等に相続されることが原則となります。家庭裁判所での遺産分割の調停、審判も平等相続が原則です。

2、 しかし、被相続人の死亡時の財産が、一部の相続人の功績により増加したこと、あるいは減少しなかったことが明らかな場合にまで単純に相続分だけで計算することは不公平なことは明らかです。本来は、功績のあった相続人の財産とされるべきものが、相続財産として相続人で分割することになってしまうからです。例えばご質問の事例の様に、ひとりの子供だけが、親の晩年に同居して、仕事を辞めてまで身辺の介護などを格別にしたような事例では、介護しなければ仕事を辞めずに得た収入や、介護のための費用として相続財産から支出されるべき費用の減少がなかったことにより相続財産が減少しなかったという場合は、その分は本来介護した相続人の財産であり相続財産ではないと考えるべきです。この点を顧みずに、すべての相続財産を平等に分割することは、却って相続人間の公平を失することになってしまいます。その他、農業や商業など、家族の事業を共同にやっていたような子供が居るケースなども想定されるところです。このような事例では、格別に貢献した子供の行為がなければ、相続財産の形成が行われなかったり、あるいは有料の介護サービスを利用するなどして相続財産が減少してしまうことが想定されます。このような、相続財産の形成や維持に貢献した相続人の相続分を、遺産分割の際に考慮するものを、「寄与分」と言います(民法904条の2)。

3、 あなたが父親に施した、特に最期の3年間の療養看護は、自分の仕事を辞めてまで介護したということですから、被相続人と相続人との身分関係に基づいて通常期待されるような程度を越した貢献や寄与があると考えられます。従って、あなたのこの3年間の被相続人に対する貢献は寄与分として認められる可能性が高いと考えられます。

4、 寄与分の根拠条文である、民法904条の2では、寄与分の計算は共同相続人が協議して決めることとなっています。協議ができない場合は裁判所が判断することになります。裁判所の審判例として1日の介護活動に対する寄与分を8000円と評価した事例もあります。介護の費用として1日800円が被相続人の財産から支出されるべきところ、あなたの介護でその介護の費用の支払いを免れたと考え、その分を現実の相続財産から差し引き、差し引いた後の金額が相続財産とし、分割の対象として計算することになります。

5、ご相談の場合、相続財産は全部で3000万円ということですから次のように計算します。

寄与分1日8000円×365日×3年=876万円

遺産総額3000万円−寄与分876万円=2124万円

2124万円÷3人=708万円(一人)

長男、次男 708万円

長女(相談者)708万円+876万円=1584万円

6、寄与分関連事例集1236番1132番981番790番676番参照。
 

解説:

1、平等相続の原則

日本国憲法と現行民法は、法の下の平等(憲法14条)と、平等相続主義(民法900条4号)を採用しており、被相続人の相続財産は、同順位の相続人間では、平等に相続されることが原則となります。

被相続人が亡くなったときに相続が開始し(民法896条)、相続人が複数いる場合は遺産分割により被相続人の遺産を分割します(907条)。分割の基準として、民法では被相続人との関係、すなわち子・兄弟姉妹、配偶者かに応じて法定相続分が定められ(900条)、さらに同順位の相続人が複数いる場合には、各自均等に分けるとされています(900条4号)。

2、平等相続を修正する「寄与分」

しかし、全ての相続事例において平等相続を徹底すると、かえって当事者間の公平を失することになってしまう場合もあり得ます。例えば、ご質問の事例の様に、ひとりの子供だけが、親の晩年に同居して、仕事を辞めてまで身辺の介護などを格別にしたような事例では、同居した子供の貢献によって相続財産が減少することが回避されましたが、この貢献が無ければ、有料の介護業者のサービスを受けることになってしまい、相続財産が大幅に減少してしまったと考えることができるのです。このような場合に相続財産を単純に平等に分割してしまうと、却って相続人間の公平を失することになってしまいます。

その他、農業や商業など、家族の事業を共同で担っていた子供が居るケースなども想定されるところです。家業の成果である財産の名義は、家業の代表者である被相続人=父親名義となっていたが、家業を共同していた子供の貢献がなければ、被相続人名義の財産は大幅に少ないものとなっていたと考えることができます。

このような事例において、相続財産の増加や維持に特別の貢献をした相続人の相続分を、遺産分割の際に考慮するものを、「寄与分」と言います(民法904条の2)。

ご相談の事案ですと、相続人は被相続人の子供である兄弟3人なので、相続人の遺産を各自均等、すなわち各3分の1を分けることになります。

ところが、ご相談者様は被相続人である父上の食事や排泄の面倒を3年間看てきたもので、この点、ご自身の相続分を考慮してもらえないか、とお考えとのことです。

被相続人の遺産の増加や維持に多大な貢献をした相続人がいる場合、法定相続分のとおりに形式的に遺産を分割すると不公平が生ずることから、相続人間の実質的公平を図るために昭和55年の民法改正により寄与分の規定を新設しました。すなわち、民法第904条の2は、「寄与分」を定め、共同相続人の中に、「被相続人の事業に関する労務の提供」「財産上の給付」「被相続人の療養看護」「その他の方法」により「被相続人の財産の維持・増加に特別の寄与をした」者があるときは、その者は「寄与分」を請求できる、としています。

このように、相続財産への寄与分として認められるのは、本来であれば相続人生前に清算されて相続財産に算入すべきでなかった経済的利益が、清算されずに被相続人の死亡により相続が発生してしまったため、被相続人の財産として混入している場合に、その混入している分について相続財産から除外する制度と考えられますから、寄与分の主張をする場合はそのような計算が可能な場合に限られると考えておく必要があります。

3、寄与分の算定方法

あなたが父親に施した、特に最期の3年間の療養看護は、被相続人と相続人との身分関係に基づいて通常期待されるような程度を越した貢献や寄与があると考えられます。従って、あなたのこの3年間の被相続人に対する貢献は寄与分として認められる可能性が高いと考えられます。寄与分の根拠条文である、民法904条の2では寄与分は、寄与分を主張する相続人がある場合、共同相続人協議により決めるのが原則です。協議が整わない場合は家庭裁判所に寄与分を定める調停を申し立てることができます。この調停は、遺産分割の調停とは別の事件になりますから、通常は寄与分の協議ができない場合は、遺産分割の調停と寄与分の調停の二つの調停を申し立てることになります。

被相続人の療養看護の場合の寄与分の計算についても相続人、被相続人家庭環境、経済状況を考慮して共同相続人間の協議で金額を決めるのが原則で具体的な基準が定められておりません。参考程度ですが1日の介護活動に対する報酬を8000円と評価した審判例があります。

寄与分の算定においては、類似の介護サービス業者を依頼したと仮定した場合に掛かる費用や、仕事を辞めて介護を行った子供が従前に得ていた労務収入額、全労働者の1日の平均収入額などが、比較の参考になると思われます。これらの事情を立証する資料を用意して、裁判所に提出していくと良いでしょう。

【判例紹介】

具体的事案で寄与分がどのように認定されるか、判例を紹介します。
判例には、寄与分を1日分の金額から寄与の金額を算出したものと、遺産に対する寄与の割合をパーセントで計算して金額を決めたもの等があります。このうち、寄与分を1日分の金額から寄与の金額を算出した判例を紹介します。

大阪家庭裁判所審判平成19年2月8日
認知症の症状が顕著になった被相続人に3度の食事を摂らせ、排便の対応など献身的な行っていた相手方に対し、同期間3年について1日8,000円の寄与分を認め、相手方の寄与分を876万円とした審判。

この判例について、介護に関する寄与分の判断の概略は次のとおりです。

(当事者)
被相続人 父F
相続人  申立人ABC、
     相手方D(寄与分を主張)
被相続人の妻Fは被相続人の生前に亡くなっているため、相続人はABCDの兄弟姉妹の4人。

(経過)
1 平成元年、被相続人の妻Fが入院して以降、Fの入院中、相手方Dは病院に毎日通うほか、家事全般の世話をした。
2 平成7年、Fが死亡してからは相手方Dの妻が被相続人に食事を作ったり、D夫婦共同で日常的な世話をしていた。申立人ABCも被相続人宅の庭の掃除をすることもあった。被相続人も申立人ABC宅を訪問することがあった。
3 平成14年2月ころから、被相続人に認知症の症状が顕著になった。相手方Dは被相続人の3度の食事を自宅でとらせたり、被相続人が申立人らの自宅を訪問したりするときは付き添うようにしていた。さらに相手方Dは被相続人の排便にも心を砕いていた。
4 相手方Dの介護が続く中、平成17年、被相続人が亡くなった。

(相手方Dの寄与分に関する主張)
平成元年、被相続人の妻Fが入院して以降、被相続人の生活の面倒をみてきた。平成14年ころからは被相続人への介護支援を行っており、被相続人の財産の維持増加に貢献している。

(申立人らの反論)
平成14年から被相続人が亡くなる平成17年までの3年間、相手方が被相続人の介護を献身的に行ってきたことは認める。しかし、平成14年以前は相手方に特段の寄与があったとは認められない。

(裁判所の判断)
平成14年2月より以前、相手方が被相続人の日常生活の世話をしていたとしても、これは親族間の扶養協力義務の範囲内で、特別の寄与があったとは認められない。
平成14年2月以降、相手方Dは被相続人に相手方宅で3度の食事をとらせたり、外出時には付き添いをしたり、また排便の対応にも苦慮していた。この被相続人に対する身上監護には相手方Dに特別の寄与があったと認められる。
また、平成14年2月以降、申立人らも相手方Dの被相続人に対する介護は献身的と認めている。
相手方Dには平成14年2月から3年間について特別の寄与を認め、身上監護について1日8,000円程度と評価し、8,000円×365日×3年=876万円を寄与分として認める。

【寄与分の決め方】

寄与分は原則として相続人全員の話し合いによって決めます。どうしても決まらない場合は家庭裁判所に調停・審判を申し立てて寄与分を決めて貰います(904条-2-A)。

寄与分の申立てについては、裁判所のHPをご参照ください。

寄与分を定める処分調停

http://www.courts.go.jp/saiban/syurui_kazi/kazi_07_23/

【寄与分の主張・立証方法】

被相続人の生前にどれくらいの寄与をしたか、また、その寄与が親族間の扶養の範囲を超えて「特別」な寄与にあたることを主張・立証しなければなりません。家庭裁判所や当事者に説明し納得して貰わなければならないからです。具体的には、寄与が被相続人の介護のためであれば介護に関する日記や介護のために支出した費用のレシート・領収証などを提出する必要があります。

4 まとめ

家業の手伝いや介護に尽力し被相続人の遺産の増加・維持に貢献したのに法定相続分どおりの分割では不公平だと感じながらも、寄与分制度自体を知らない方もいらっしゃいます。遺産分割の話し合いの中で、不公平感を持つ方はお近くの法律事務所でご相談された方がよいでしょう。

<参照条文>
【寄与分の条文】
※民法
第九百四条の二  共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする。
2  前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、同項に規定する寄与をした者の請求により、寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して、寄与分を定める。
3  寄与分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることができない。
4  第二項の請求は、第九百七条第二項の規定による請求があった場合又は第九百十条に規定する場合にすることができる。

参照判例
大阪家審平19.2.8
大阪高決平19.12.26
(本件の計算式)
寄与分1日8000円×365日×3年=876万円
遺産総額3000万円−寄与分876万円=2124万円
2124万円÷3人=708万円(一人)
長男 708万円
長女(相談者)708万円+876万円=1584万円
次男708万円

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