赤切符制度、青切符との違い、刑事罰との関係
刑事|道交法違反|最高裁昭和57年7月15日判決|最高裁昭和24年7月13日判決
目次
質問:
先日、酒気帯び運転で検挙され、警察官から、いわゆる「赤切符」というものをもらいました。中身を見ると、2週間後に裁判所に来るようにと書かれています。これがどういうものかわからないので教えてください。
回答:
1. 赤切符(告知票)は、道路交通法に違反する行為があった場合に、これを告知し、裁判所への出頭を促す書面です。裁判所へ出頭し、あなたが同意すれば即日で罰金に処する裁判が下されます。赤切符に記載されている裁判所への出頭を拒否していると通常の刑事事件と同じ扱いとなり警察による取り調べが予想されます。似たものに青切符(交通反則告知書)がありますが、両者は全く性質の違うものです。赤切符の場合は罰金という刑事罰を科すことになる場合の裁判を省略する手続きで、青切符は本来は罰金を支払うべきところ、反則金を支払って刑事罰を免れることができるという制度です。罰金と反則金とでは罰金が刑事罰で前かとなるのに対し、反則金は刑事罰ではありませんので前科がつきません。反則金制度、略式手続きについて迅速な公開裁判を受ける憲法上の権利(憲法32条、37条 、82条)を侵害もので憲法違反であるとの主張も考えられますが、最高裁はいずれも正式裁判を受ける権利が留保されている点等から合憲としています。最高裁昭和57年7月15日判決、最高裁昭和24年7月13日判決 。 なお、医師や看護師などの国家資格者や、公務員や団体職員などの場合は、刑事処分後に、資格や職場との関係で処分を受ける場合もありますので、注意が必要です。
2. 関連事例集1115番参照。その他、道路交通法違反に関する関連事例集参照。
解説:
1 道路交通法違反事件の処理方法、青切符と赤切符
いわゆる交通違反と呼ばれているのは、道路交通法の定めに違反する犯罪で軽度のもの(一時停止義務違反など 道路交通法第43条 3月以下の懲役または5万円以下の罰金)から、重度のものまであります。昨今は、飲酒運転の罰則を強化する傾向にあり、ご相談の飲酒運転はこの中でも重度の違反(道路交通法第65条 3年以下の懲役または50万円以下の罰金)にあたります。交通違反はこのように刑事事件ですが、違反行為は膨大な数となり通常の刑事手続き、裁判を行っていたのでは刑事裁判の手続きが追いつきません。そこで、刑事罰を科す必要のない軽度な交通違反について青切符による反則金制度、より重い交通違反については赤切符による裁判の省略という方法が取られています。
赤切符には、違反者の氏名、違反の日時、違反内容などのほか、裁判所等の機関への呼び出しと、略式手続に同意する旨の署名を記載する欄が設けられています。
このように、赤切符を切られた場合、これは、道路交通法違反の刑事事件の被疑者になってしまっている、ということになります。
2 赤切符事案の取り調べ
通常、事件の被疑者は、警察で取調べを受け、必要があれば逮捕等の身柄拘束を受けます。次に警察から検察庁へ事件送致(送検)され、検察官の取調べを受けます。検察官は、事件を検討し、起訴、略式起訴、不起訴を決めます。正式な起訴(公判請求)になった場合には、裁判所に出頭して、裁判手続を受けることになります。
赤切符は、これらの手続を簡易かつ迅速に行うものです。裁判所に行くと、警察官、検察官(ないし同等の権限を有する捜査官等)が同じ場所にいます。さらに、罰金納付窓口が併設されていることも多くあります。
赤切符は、前述の、警察による取調べ、検察への事件送致、検察官による取調べ、略式起訴手続、さらには罰金の納付まで、を一度に行っています。
出頭すると、まず警察で取調べを受け、次に検察で取り調べを受け、赤切符裏面の略式同意の欄にサインすれば、ただちに罰金に処すという略式命令が出て、罰金を納付して終了、という手続になっています。被疑事実を争わず、手続を早期に済ませたいという人には適した手続です。三者即日処理(警察署、検察庁、裁判所)、と呼ばれています。
このように赤切符は正式な裁判の省略になりますから、不服があれば略式命令に同意しないことは権利と認められています。事実に争いがあれば警察や検察の取り調べにおいて真実を主張することは当然に認められています。
3 道交法違反に関する、よくある質問について解説
① 3者即日処理は、道路交通法違反事件について罰金刑に処すという有罪判決です。罰金刑なので、いわゆる「前科」になります。罰金刑という刑罰が判決により言い渡されるのです(前科について法律上の規定はありませんが、検察庁に保管されている前科調書に記載される罪について前科と考えられています。この前科調書には刑法で定められている科料以上の罪が記載されており、罰金は科料より重い罪ですので前科調書に記載されます)。
② 青切符との違い 青切符は、交通反則通行制度により定められた手続きで、軽度な道路交通法違反について、反則行為として反則金を直ちに納めることによって、違反事実を刑事事件化しない、ということを目的とする手続です。すべての道路交通法違反について刑事事件とするのは国民をすべて犯罪者とすることにもなり望ましいことではありませんし、すべて刑罰を科すため、刑事裁判を開くことは膨大な時間と費用がかかってしまいます。そこで、軽度な違反については反則金を支払えば刑事事件とはしないという制度です。反則金は行政罰としての過料ですので刑罰ではありません。従って、青切符による反則金納付は、道路交通法違反の前科にはなりません。
この様に、青切符の制度は、本来は刑事罰のものを、便宜上行政罰で処理することで終了させる制度ですから、強制されることはないとされ、その支払いは任意とされています。しかし、青切符を無視して反則金を支払わなければ、本来の手続きに戻り刑事件として裁判され刑罰が科される手続きとなります。
③ 免許停止、取消等の行政処分との違い
これらの行政処分は、上記①②の手続とは別個のものです。自動車運転免許を与えるというのは国の行政行為ですから、与えた免許について取り消したり、停止しりする行為は、青切符の制度とは異なり、もともとの行政処分といえます。
免許の取消は、公安員会により行われます。違反が重大であれば行政処分も大きいので、赤切符のほうが思い処分を受けることは確かですが、本来異なる手続なのです。このように、免許停止、取り消しなどについては、裁判所ではなく、行政庁である公安委員会からの、告知弔問の機会が与えられます。よって、反則金や罰金を支払うことと免許の停止取消とは、手続き上は無関係といえます。
④ 赤切符の場合ですが、出頭しなかった場合、いきなり逮捕されるということは通常ありません。しかし、犯罪は犯罪ですから、捜査の対象となり、ずっと無視していると、逮捕される場合もありますし、情状が悪いと判断され、罰金ではなく公判請求(正式裁判)をされる可能性も出てきます。違反事実に争いがないのであれば、出頭はしたほうがよいでしょう。
⑤ 三者即日処理方式は、刑事裁判の正式な手続きを省略する手続きです。国民は裁判を受ける権利を憲法上保障されていますから、三者即日処理方式に必ず従わなければならない手続ではありません。
被疑事実に争いがあるとか、酌量して欲しい情状があるとか、事情がある場合には、通常の手続に変えてもらうこともできます。時間や手間はかかりますが、事件をきちんと調べてもらうことはできますので、何か主張したいことがある場合には、事前に警察署に問い合わせるなり、事実関係について報告書のような形式で書面を作成し違反事実がないこと等分かりやすく説明する必要があります。
以上