大学生の少年事件・刑事事件

刑事|少年事件|身柄拘束と解放の手続き|横浜地方裁判所昭和36年7月12日決

目次

  1. 質問
  2. 回答
  3. 解説
  4. 関連事例集
  5. 参考条文

質問:

東京の寮で一人暮らしをしている18歳・大学生の息子が,住んでいる学生寮内で,痴漢行為をしたということで,迷惑防止条例違反で逮捕されてしまいました。私自身は大阪に住んでいることもあって,どうしたらいいのか分かりません。今後の流れを含めて教えてください。

回答:

1.今回の様に,お子様(未成年)が逮捕されてしまったケースの場合,大きく分けて

①身柄の解放に関する問題

②最終的な処分(保護処分)

に関する問題が存在します。

2.未成年者の刑事事件の場合,基本的には

①72時間以内の逮捕手続

②10日間の勾留手続(延長された場合,更に10日間 直ちに検察庁から家裁へという場合もあります。)

③家庭裁判所への送致

④観護措置手続(少年鑑別所での身柄拘束 原則2週間,最大8週間ですが,多くの場合4週間です。)を経て

⑤家庭裁判所の審判

という流れをたどります。つまり,最大72時間+20日間+8週間(通常は4週間)の間,身柄が拘束される可能性がある,ということになります。

 ここで重要な点は,通っている大学との関係です。観護措置まで含めると,通常2ヶ月近くもの間身体拘束されることになりますが,当然その間の大学の授業等に一切参加できないことになってしまいます。そうすると,留年等の結果を招くことになりかねません。そのため,早い段階で身体拘束からの解放を求めた手続を取る必要があります。

 一方で,単に捜査の便宜を図り,逃亡等を阻止するための勾留手続とは異なり,観護措置は少年の心身の鑑別という目的がありますので,大学が夏休み等の長期休暇であって,ある程度の期間大学に通学しなくてもよい等の事情がある場合には,事案によっては観護措置を受け入れた上で,最終的な処分との関係で有利に作用させる,ということも考えられるところです。但し、観護処置の期間内に審判が行われるのが通常なので身柄解放が重要ですし、試験観察の主張により一旦家庭に戻れるようにする必要性は高いと思われます。

3.さらに,本件ではお子様が現在一人暮らしをしているということですので,ご実家のある大阪で観護措置が取られる可能性もあります。

4.最終的な処分との関係ですが,少年事件における最終的な処分としては,大きく分けて

①不処分

②保護観察

③少年院送致

があります(このほかに,家庭に主な問題がある児童自立支援等送致,軽微な事案の場合の審判不開始,殺人等の重大事案の場合の検察官送致決定があります)。

本件のような迷惑防止条例違反事件であれば,基本的には①不処分か②短期の保護観察を目指す事になります。

 成人が迷惑防止条例違反をした場合には,被害者との間の示談が処分に極めて大きな影響を有することになりますが,本件のような少年事件の場合,示談が成立した,というだけで必ずしも処分が軽くなるというわけではありません。これは,処分においては,少年事件特有の「要保護性」という観点が重要になってくるためです。

また,調査官という裁判所職員がいること,審判の前に有利な事情を全て裁判所に提出しておく必要があること等が,成人の事件と大きく異なる点です。

5.少年の刑事事件においては,身体拘束からの解放と処分の決定のそれぞれの場面で,成人の刑事事件とは異なる観点からの活動が必要です。有利な事情の取得には時間がかかる場合もありますし,少年事件の経験のある弁護士にすぐにご相談されることをお勧めします。

6.少年事件に関する関連事例集参照。

解説:

1 はじめに

 本件のように20歳未満の未成年者による犯罪の場合,少年法の適用がある,いわゆる少年事件となります。

 少年事件においては,通常の成人による事件とは異なる手続と制度が置かれていますが,これは,少年法の目的が,「少年の健全な育成を期し、非行のある少年に対して性格の矯正及び環境の調整に関する保護処分を行う」(少年法1条)もの(これを保護主義といいます)であることに起因します。

 そして,この目的・手続の違いから,少年事件の弁護活動(対応)には,成人事件と異なる部分が多く存在します。ご相談のように御家族に少年事件が係属することになった場合には、この少年事件の特性をよく理解したうえで対処していくことが必要となります。

 以下では,本件における今後の流れを,処分(審判)と審判までの間(身体拘束期間)に分けて,それぞれの場面で考えられる弁護活動について説明いたします。

2 少年事件における身体拘束

(1)身体拘束の流れ

 まずは,本件のような少年事件が,どのような流れで審判まで進むのか,身体拘束のための手続と併せて簡単に説明いたします。

 事件を起こして逮捕されると,通常48時間以内に警察から検察に身柄が送致され,検察官が24時間以内(逮捕から72時間以内)に,勾留を請求するかどうか決定します。検察官から勾留請求がなされると,裁判所は勾留するべきかどうか判断し(後述します),勾留決定を出す事になります。

 勾留の期間は最大20日間で,この勾留期間の間に,検察官は事件の捜査をして,家庭裁判所に事件を送ることになります。なお,少年事件の場合は,犯罪の嫌疑がある限り必ず家庭裁判所に事件を送ることになっています(全件送致主義,法41条,42条)。

 家庭裁判所に送られた後の身柄拘束は,勾留ではなく,観護措置という方法により行われます(法17条)。

 観護措置の期間は,法律上は原則2週間,最大8週間となっています(法17条3項,4項,9項)が,通常の少年事件では,4週間の観護措置が採られることが通常です。本件のようないわゆる痴漢行為の場合は,おそらく4週間の観護措置が考えられるところです。

 このように,逮捕から勾留,そして観護措置,という流れで身体拘束について手続が定められています。以下では,そのそれぞれの身体拘束に関して,身柄の解放に関する手続とあわせて,説明していきます。

(2)逮捕・勾留手続

ア 逮捕及び勾留の手続の段階では,少年事件と成人事件との違いは、現在の実務ではあまりありません(少年事件についても,原則として刑事訴訟法の規定が適用されることにつき,法40条参照)。

 もっとも,少年の勾留については,成人事件における要件(刑事訴訟法207条1項,同60条),すなわち犯罪の嫌疑,勾留の理由(住所不定・罪証隠滅の恐れ,逃亡の恐れ),勾留の必要性(勾留により生じる不利益と得られる利益との権衡が保たれていること)に加えて,「やむを得ない場合」であることを要件しています(法48条1項)。

 ここでいう「やむを得ない場合」について,横浜地方裁判所昭和36年7月12日決定では,「少年法第四三条第三項、同法第四八条第一項にいわゆるやむを得ない場合とは少年である被疑者が刑事訴訟法第六〇条所定の要件を完備する場合において、当該裁判所の所在地に少年鑑別所又は代用鑑別所がなく、あっても収容能力の関係から収容できない場合又は少年の性行、罪質等より勾留によらなければ捜査の遂行上重大な支障を来すと認められる場合等を指称するものと解するを相当とする。」としています。

 これは,上記少年法の目的に照らして,少年に対する身体拘束をできる限り避けよう(勾留が認められるハードルを上げよう),という趣旨です。

 このような少年法の趣旨を重視すると、現在の実務の扱いは捜査の遂行という点を重視し、少年の勾留を安易に認めすぎているという批判があります。

 勾留について争う場合は、この点も含めて資料を添付して具体的理由(家庭に戻しても捜査上不都合がないという理由です。)を主張する必要があります。

イ 勾留段階で身体拘束を争う方法は,成人事件と基本的に変わりません(詳しくは,当事務所ホームページ事例集1142番、被疑者・被告人の身体拘束の概要及び身体拘束からの解放に関する弁護人の活動参照)。

 つまり,①検察官に対して勾留請求しないように働きかける,②裁判官に対して勾留決定をしないよう(勾留決定を却下するよう)働きかける,③勾留決定がなされた場合,勾留に対する準抗告をする,ということになります。

ウ そこでするべき主張の内容は,上記の勾留の要件を充たしていないことの主張,すなわち勾留の理由と勾留の必要性がないこと,そして勾留が「やむを得ない場合」といえないこと,を主張していくことになります。

 本件では,お子様が1人暮らしをしていて,監督をするべきご両親等が近くに居ないことが問題となります。身元を引受け,監督をおこなう身内の存在は,罪証隠滅や逃亡の恐れの有無の判断に大きく影響しますから,この点の手当てが必要です。具体的には,親元の大阪で当面生活することを双方が誓約する,等が考えられるところです。

 他にも,逃亡や証拠を隠滅する恐れがない,という主張をするためにも,お子様のこれまでの経歴(学校にきちんと出席していた,特に非行に走っていたわけではない等)や,今後同居するご両親が監督を誓約する書面,被害者に対する謝罪の手紙,二度と被害者に近づかないことを誓約する書面を準備し,勾留の必要性に関して,授業に参加ができない期間がこれ以上長引けば,留年等の過大な不利益が及ぶこと等の主張をすること等が考えられます。

エ なお,少年事件においては,勾留手続を採ることなく,逮捕からいきなり観護措置を採る(「勾留に代わる観護措置」といいます。法43条1項)ことができます。これは,本件のように捜査が比較的短期間で終わる場合,勾留が「やむを得ない場合」とは言えない等,勾留の要件は充たさないものの,観護措置を採る必要性があると判断される場合等に採られる措置です。

(3)観護措置手続

ア 家庭裁判所に事件が送致されてからの身体拘束については,観護措置(法17条1項2号)という方法が採られています。家庭裁判所が少年に対する審判を行うための調査の手続きですが、家庭裁判所の調査官の看護に付する場合と少年鑑別所に送致される場合があります。どちらも少年の身柄の自由を制限することになりますが、調査官の看護の場合は家庭にいることから、少年鑑別所に送致される場合を観護措置と呼ぶのが実務上の扱いとなっています。

 なお,本件で,上記のように親元の大阪に帰って生活することを誓約した場合,お子様の生活の拠点が東京から大阪に変わるので,法5条により東京の家庭裁判所から大阪の家庭裁判所に判断の場が移動する(移送といいます)ことが考えられます。その場合は,大阪の少年鑑別所で身体拘束されることになります。

イ 観護措置の目的は,勾留と同じく少年の身柄の保全にとどまらず,心身の鑑別が含まれます。心身の鑑別結果は,鑑別結果通知書にまとめられ,最終的に家庭裁判所に送られることになります。

ウ 観護措置を回避する方法としては,観護措置決定をしないように,裁判官に働きかけること,実際に観護措置決定がなされた場合には,①異議申立て(少年法17条の2),②観護措置取消の職権発動(少年法17条8項)を促す申立てが考えられます(詳しくは当事務所ホームページ事例集1671番など参照)。観護措置決定をしないように働きかける際や,異議申立てにおける主張内容は,上記観護措置の目的に応じて,身柄を確保しておく必要がないこと(逃亡の恐れも,罪証隠滅の恐れもないこと),心身の鑑別の必要性がないことになります。

 このうち,身柄を確保しておく必要がないこと,については,上記勾留の場合と同様ですが,心身の鑑別の必要性がないこと,については,事案が軽微であること,家庭環境が整っていること(これが一番重要です),少年本人の犯罪傾向が進んでいないこと等を,ご両親やお子様の陳述書(本件のように被害者がいる場合は謝罪文)等から主張していくことになります。

 他方,②観護措置取消の職権発動を促す申立ては,事後的な事情により観護措置の要件を充たさなくなった場合を含みますから,例えば,大学の定期テスト等がある場合には,定期テスト期間だけ一時的に観護措置を取り消すよう求める,ということも考えられます。実務上も,このように出席しないと不利益が大きい具体的な予定がある場合には,他の方法により観護措置を回避する場合と異なり,比較的観護措置の取消決定が出る可能性が見込めるところです。

エ なお,上記のとおり観護措置は心身の鑑別をその目的に含んでいて,かつその鑑別結果は家庭裁判所に送られて処分の検討材料となりますから,観護決定が覆らなかった場合は,単にそこで過ごす,というのではなく,そこでの行動が処分に影響する,という意識を持つ必要があります。鑑別の対象は,面接や検査(資質鑑別)にとどまらず,鑑別所内での行動(行動観察)にも及びます(少年鑑別所処遇規則19条)から,鑑別所内の態度等にも注意が必要です。

 もっとも,逆に鑑別の結果が好ましいものであれば,処分に際して有利に斟酌される事情になりますし,観護措置は少年としても落ち着いた環境で反省を深めるきっかけにもなり得るものですから,ケースによっては観護措置を受け入れることがかえって処分との関係で有利に働くこともあります。

 本件では,お子様は大学生ですので,基本的には講義受講のために観護措置を含む身体拘束を回避する方向で対応する必要がありますが,夏季休講中であるとか,4年生でもう受講が必要な講義がないといった場合で,観護措置が避けられない,といった場合には観護措置を受け入れて,処分に際して有利に斟酌される事情を確保する,ということも考慮に入れる必要があります。

3 少年事件における処分内容

(1)処分の種類

ア 成人事件と少年事件では,その処分が決定的に異なります。少年事件の場合,上記の保護主義という目的の下,刑罰ではなく教育を主眼においた処分(保護処分)がなされることになっています。

イ 具体的な処分ですが,保護処分は①保護観察所の指導を受けながら社会の中で更生を図る保護観察,②主に家庭環境に問題がある場合等の児童自立支援施設等への送致,③少年院送致の3つ(法24条)に分かれており,このほかに,④そもそも保護処分が必要でないという不処分,⑤保護処分に付するかどうか一定期間の観察をおこなう中間処分である試験観察(法25条、重い処分が予想される時に付添人として主張し、少年の有利な事情を引き出す必要があります。),重大事件の場合に成人事件と同じように処分するための検察官送致(逆送,法20条)が家庭裁判所による処分として考えられるところです。

ウ 本件では,その罪名等に鑑みると,①保護観察処分か⑤不処分を目指すべき事案であるといえます。

(2)処分決定までの仕組み

ア 審判

 処分は,「審判」によって決定されます。この審判は,成人事件における裁判(公判)に該当するものですが,裁判所が主導して事件の調査等をおこない,審判の前に裁判官が証拠の吟味をおこなっていること,非公開で行われ(法22条2項),その日の内に処分の結果が出ること等に成人事件との大きな違いがあります。

イ 調査官調査

 裁判所が主導して事件の調査等をおこなうために設置された裁判所の職員が調査官です(法8条2項)。調査官の調査は,「少年、保護者又は関係人の行状、経歴、素質、環境等について、医学、心理学、教育学、社会学その他の専門的智識特に少年鑑別所の鑑別の結果を活用して、これを行う」ことになっていて,その調査対象は多岐に及びます。

 また,調査官は,審判に先立ってその調査の結果を家庭裁判所に報告する必要があり,その中には処遇(処分)についての調査官の意見が含まれています(少年審判規則13条)。

 実務上は,この調査官の意見が極めて重要で,審判をおこなう裁判所もこの調査官の意見にかなり影響されます(調査官の処分に関する意見と,裁判所の最終的な処分が大きくずれることはほとんどない,というのが経験則です)。

 そのため,審判当日ではなく,具体的には調査官が処分に関する意見を出すまでの活動が極めて重要になります。

(3)処分に関する考え方(要保護性)

 調査官の処分に関する意見や,裁判官(審判官)による処分を決定する基準として,少年法特有の「要保護性」という考え方があります。

 これは,上記少年法の目的である保護主義に基づいて,①少年の性格・環境に照らして,再度の非行(犯罪)をおこなう危険性があるか,②上記の保護処分によって,矯正(再非行の危険性の除去)できるかどうか,③少年の更生に関して,保護処分によることが最も適切であるかどうか,という要素を処分に際しての判断基準とするもので,①再非行の危険性がある,②処分をすることで矯正が可能である,③矯正を考えた際に,保護処分によることが最も適切である,と判断された場合は,「要保護性」がある,として保護処分が妥当する,という考え方です。

 つまり,不処分ないし短い保護観察処分を目指すのであれば,「要保護性」がない,あるいは低いことを主張していくことになります。

(4)審判までの弁護活動

ア 示談交渉

 本件における具体的な弁護活動として,まず示談交渉が考えられるところです。しかし,成人事件の場合は,被害者がいる犯罪の場合,被害者の損害が補填されているか,被害者が処罰を望んでいるか,といった事が極めて重視されますが,少年事件では,上記のとおり少年の「要保護性」が処分の判断基準になりますから,示談の成立が処分を決める上で決定的に有利な事情にはつながりません。しかし、示談がなければその家庭を含めて反省がないという判断に傾くため結果的に必要不可欠となります。示談は、示談金支出の関連から事実上親権者が行うことになるので不成立に終われば少年を教育する家庭環境が整っていないという判断になるでしょう。少年事件の真の責任は成長過程にある少年より、これを監督しなかった親権者にあると裁判所は考えていますので当然の結論となります。少年を本当に更生させ守る気持ちがあるのかということです。審判期日でも質問、審理の時間は半分以上親権者に向けられます。親権者の態度が少年の要保護性に大きな影響を及ぼします。少年事件の原因は家庭への疑問、反抗であるという見方もあるぐらいです。以上から審判期日での対策は少年より親権者との協議、対策が重要になるわけです。

 示談の成立が有利な事情として取り扱われるためには,示談の成立が上記「要保護性」の除去に役に立った,といえる必要があります。

 具体的には,示談の成立の過程で,被害者への謝罪を通じて反省を深めた事実や,被害者からの許しを得ることで少年が更生への決意を新たにした事実,損害の大きさを自覚することで再非行をしないことを固く誓った事実を主張していくことになります。

 なお,本件は,学生寮内での痴漢行為ですから,示談を成立させるためには,学生寮からの退寮等により,被害者の生活の平穏を保障する等の配慮が重要になってくるところです。

イ 環境調整

 環境調整とは,狭い意味では,家庭環境等の改善,広い意味では少年が非行に至った原因を調査し,その原因を除去することを指します。

 例えば,家庭環境に原因があって,その原因が除去されるのであれば,①再非行に及ぶ可能性はなく,③処分をすることなく,家庭内で更生をすることが可能だ,という主張ができることになります。

 原因が少年本人を含む家族で共有されていて,その原因が努力によって除去された(あるいは除去に向かって家族で一丸となって努力している),という主張は,調査官が処分に関する意見を書くにあたって最も反映されやすい,有利に斟酌されやすい主張です。そのため,早い段階で,家族で話し合い,事件の本質的な原因を探る必要があります。一番まずいのは,原因が分からないまま審判を迎えてしまうことです。

 例えば本件では,一人暮らしで大学に通っている点をどう解決するか,ということがまず問題となります。一人で自分を律することができなかったために本件が生じてしまったという場合,上記のとおり大阪のご両親のもとに一度帰って,その監督を受け,当面はご両親のもとから大学に通うことを,ご両親もお子様も誓約する,といった対応が考えられるところです。

ウ 意見書の提出,調査官との交渉

 上記のような示談や環境調整の結果は,要保護性に関連させた意見を付してできるだけ早く裁判所に提出する必要があります。これは,上記のとおり,調査官の処分に関する意見が出る前に提出しなければ,調査官の意見に反映されず,結果的にあまり審判に影響しない,ということになりかねないためです。

 示談や環境調整は時間がかかるものですから,予めその進捗状況や見込みなどを随時調査官に報告した上で,処分の意見に関して調査官と面談・交渉をおこない,調査官を説得する,という活動が少年事件では不可欠です。

4 おわりに

 身体拘束への対応は,時間との勝負になりますし,示談交渉や環境調整はご両親やお子様本人では十分にできません。親御さんにお子様を更生させる強い決意がある場合であっても、これをうまく捜査機関と裁判所に説明できなければ、お気持ちだけ空回りしてしまうことになってしまいます。上記のとおり少年事件は通常の刑事事件とは異なる特殊な手続きですから,経験のある弁護士に,できるだけ早い時期(可能であれば逮捕直後)にご相談されることをお勧めいたします。

以上

関連事例集

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※参照条文

少年法

(この法律の目的)

第一条  この法律は、少年の健全な育成を期し、非行のある少年に対して性格の矯正及び環境の調整に関する保護処分を行うとともに、少年の刑事事件について特別の措置を講ずることを目的とする。

(管轄)

第五条  保護事件の管轄は、少年の行為地、住所、居所又は現在地による。

2  家庭裁判所は、保護の適正を期するため特に必要があると認めるときは、決定をもつて、事件を他の管轄家庭裁判所に移送することができる。

3  家庭裁判所は、事件がその管轄に属しないと認めるときは、決定をもつて、これを管轄家庭裁判所に移送しなければならない。

(事件の調査)

第八条  家庭裁判所は、第六条第一項の通告又は前条第一項の報告により、審判に付すべき少年があると思料するときは、事件について調査しなければならない。検察官、司法警察員、警察官、都道府県知事又は児童相談所長から家庭裁判所の審判に付すべき少年事件の送致を受けたときも、同様とする。

2  家庭裁判所は、家庭裁判所調査官に命じて、少年、保護者又は参考人の取調その他の必要な調査を行わせることができる。

(調査の方針)

第九条  前条の調査は、なるべく、少年、保護者又は関係人の行状、経歴、素質、環境等について、医学、心理学、教育学、社会学その他の専門的智識特に少年鑑別所の鑑別の結果を活用して、これを行うように努めなければならない。

(観護の措置)

第十七条  家庭裁判所は、審判を行うため必要があるときは、決定をもつて、次に掲げる観護の措置をとることができる。

一  家庭裁判所調査官の観護に付すること。

二  少年鑑別所に送致すること。

2  同行された少年については、観護の措置は、遅くとも、到着のときから二十四時間以内に、これを行わなければならない。検察官又は司法警察員から勾留又は逮捕された少年の送致を受けたときも、同様である。

3  第一項第二号の措置においては、少年鑑別所に収容する期間は、二週間を超えることができない。ただし、特に継続の必要があるときは、決定をもつて、これを更新することができる。

4  前項ただし書の規定による更新は、一回を超えて行うことができない。ただし、第三条第一項第一号に掲げる少年に係る死刑、懲役又は禁錮に当たる罪の事件でその非行事実(犯行の動機、態様及び結果その他の当該犯罪に密接に関連する重要な事実を含む。以下同じ。)の認定に関し証人尋問、鑑定若しくは検証を行うことを決定したもの又はこれを行つたものについて、少年を収容しなければ審判に著しい支障が生じるおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある場合には、その更新は、更に二回を限度として、行うことができる。

5  第三項ただし書の規定にかかわらず、検察官から再び送致を受けた事件が先に第一項第二号の措置がとられ、又は勾留状が発せられた事件であるときは、収容の期間は、これを更新することができない。

6  裁判官が第四十三条第一項の請求により、第一項第一号の措置をとつた場合において、事件が家庭裁判所に送致されたときは、その措置は、これを第一項第一号の措置とみなす。

7  裁判官が第四十三条第一項の請求により第一項第二号の措置をとつた場合において、事件が家庭裁判所に送致されたときは、その措置は、これを第一項第二号の措置とみなす。この場合には、第三項の期間は、家庭裁判所が事件の送致を受けた日から、これを起算する。

8  観護の措置は、決定をもつて、これを取り消し、又は変更することができる。

9  第一項第二号の措置については、収容の期間は、通じて八週間を超えることができない。ただし、その収容の期間が通じて四週間を超えることとなる決定を行うときは、第四項ただし書に規定する事由がなければならない。

10  裁判長は、急速を要する場合には、第一項及び第八項の処分をし、又は合議体の構成員にこれをさせることができる。

(異議の申立て)

第十七条の二  少年、その法定代理人又は付添人は、前条第一項第二号又は第三項ただし書の決定に対して、保護事件の係属する家庭裁判所に異議の申立てをすることができる。ただし、付添人は、選任者である保護者の明示した意思に反して、異議の申立てをすることができない。

2  前項の異議の申立ては、審判に付すべき事由がないことを理由としてすることはできない。

3  第一項の異議の申立てについては、家庭裁判所は、合議体で決定をしなければならない。この場合において、その決定には、原決定に関与した裁判官は、関与することができない。

4  第三十二条の三、第三十三条及び第三十四条の規定は、第一項の異議の申立てがあつた場合について準用する。この場合において、第三十三条第二項中「取り消して、事件を原裁判所に差し戻し、又は他の家庭裁判所に移送しなければならない」とあるのは、「取り消し、必要があるときは、更に裁判をしなければならない」と読み替えるものとする。

(審判の方式)

第二十二条  審判は、懇切を旨として、和やかに行うとともに、非行のある少年に対し自己の非行について内省を促すものとしなければならない。

2  審判は、これを公開しない。

3  審判の指揮は、裁判長が行う。

(審判開始後保護処分に付しない場合)

第二十三条  家庭裁判所は、審判の結果、第十八条又は第二十条にあたる場合であると認めるときは、それぞれ、所定の決定をしなければならない。

2  家庭裁判所は、審判の結果、保護処分に付することができず、又は保護処分に付する必要がないと認めるときは、その旨の決定をしなければならない。

3  第十九条第二項の規定は、家庭裁判所の審判の結果、本人が二十歳以上であることが判明した場合に準用する。

(保護処分の決定)

第二十四条  家庭裁判所は、前条の場合を除いて、審判を開始した事件につき、決定をもつて、次に掲げる保護処分をしなければならない。ただし、決定の時に十四歳に満たない少年に係る事件については、特に必要と認める場合に限り、第三号の保護処分をすることができる。

一  保護観察所の保護観察に付すること。

二  児童自立支援施設又は児童養護施設に送致すること。

三  少年院に送致すること。

2  前項第一号及び第三号の保護処分においては、保護観察所の長をして、家庭その他の環境調整に関する措置を行わせることができる。

(家庭裁判所調査官の観察)

第二十五条  家庭裁判所は、第二十四条第一項の保護処分を決定するため必要があると認めるときは、決定をもつて、相当の期間、家庭裁判所調査官の観察に付することができる。

2  家庭裁判所は、前項の観察とあわせて、次に掲げる措置をとることができる。

一  遵守事項を定めてその履行を命ずること。

二  条件を附けて保護者に引き渡すこと。

三  適当な施設、団体又は個人に補導を委託すること。