新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1577、2015/01/09 15:08 https://www.shinginza.com/qa-souzoku.htm

【相続 遺産相続における寄与分 和歌山家庭裁判所昭和59年1月25日審判】

寄与分が大きく評価される場合

質問:半年前に父が亡くなりました。母はすでに亡くなっております。相続人は長男である私と次男の2人です。私は父と同居し、次男は大学卒業後独立し、別のところに住んでいます。父の遺産は、父と私が住んでいた土地建物(価格約2000万円)、預金約1000万円です。私は、父が前記の土地建物を購入した当時、約1000万円を私の預金から支出しております。遺産分割の話となり、弟は法定相続分どおりに私と弟とで遺産の各2分の1で分けようと主張しております。遺産である土地建物は確かに父名義ですが、購入資金として1000万円の支出をした私には弟と半分ずつで分けるのは納得がいきません。私の支出した1000万円について、遺産分割で評価されることはないのでしょうか。



回答:

1、 遺産分割の原則は、相続開始時(被相続人死亡時)の相続財産を、法定相続分に従って平等に分割することです。

2、 ご相談のケースのように相続財産の維持形成に特別の寄与をした相続人がある場合は、これを寄与分として、具体的事情に即して、法定相続分を修正することができます(民法904条の2第1項)。寄与分は、原則として、相続人間の協議で定めますが、当事者間の協議がまとまらない場合は、裁判所に判断を求めることができます(民法904条の2第2項)。

3、 過去の判例において、相続財産の82パーセントの寄与分を認めた事例がありますので、参考になさると良いでしょう。ご相談のケースでも、1000万円の支出をしていますので、法的主張が可能かどうか、検討されると良いでしょう。寄与分の他、貸金返還請求権や不当利得返還請求権など民事上の請求権を行使できる場合もありますので、弁護士に相談するなどして、適切な主張方法(法律構成と言います)を選択して下さい。

4、 寄与分関連事例集1562番1236番1132番981番790番676番参照。


解説:

1 遺産分割と法定相続分

  人が亡くなった場合、相続が開始し(民法896条)、相続人が当然に亡くなった人(被相続人と言います)の権利義務を承継します。日本国憲法で私有財産制(29条1項)を明定していますから、被相続人が死亡後に財産を家族に残したい、引き継いでもらいたいという合理的意思があると考えられますので、民法でもこれを尊重して遺産相続の制度を規定しています。

  相続人が複数いる場合は、共同相続と言って相続人が共有に類した関係で権利義務を承継します。そして、このような共有関係は仮の権利関係ですので、遺産分割の協議により被相続人に遺産を分割します(同907条)。
遺産分割の基準として民法では、相続財産や相続人についての一切の事情を考慮することが定められています(同906条)が、その前提となるのが法定相続分です。法定相続分は被相続人と相続人との関係、被相続人の子か、兄弟姉妹か、配偶者か、により定められ(同900条)、同順位の相続人が複数いる場合には、各自均等に分けるとされています(同900条4号)。

  ご相談者様の場合は、相続人は被相続人である父上の子供で、長男であるご相談者様と弟様の2人ですので同順位の相続人が2名となり、相続分は各自2分の1となります。

  このように同順位の相続人の間で均等に分けるとされるのは、平等相続の原則に基づくものです。日本国憲法と現行民法は、法の下の平等(憲法14条)と、平等相続主義(900条4号)を採用しており、被相続人の相続財産は、同順位の相続人の間では、平等に相続されることが原則になるのです。

2 寄与分の規定 

  しかし、すべての相続事例において平等相続を徹底するとかえって相続人間の公平を失することになってしまう場合もあり得ます。例えば、ご相談の事例のように、被相続人が土地建物を取得したときに子供の一人が資金を拠出していた事例では、子供の一人の格別な貢献により遺産が増加したと考えられますので、このような場合に相続財産を単純に分割してしまうと、かえって相続人間の公平を失することになってしまいます。このような遺産の増加についての資金的な拠出をしただけではなく、農業や商業など被相続人の家業を手伝っていた場合や、被相続人の介護を献身的に行っていた場合も考えられます。家業を共同で行っていた場合や介護を格別に行っていた場合には、それによって相続財産が増加したり、減少を防げたことが考えられます。このような場合に相続財産を単純に平等分割してしまうと、かえって相続人間の公平を失することになってしまいます。

  このように、相続財産の増加や維持に特別の貢献をした相続人の相続分を遺産分割の際に考慮するものを、「寄与分」と言います(民法904条の2)。

  寄与分の規定は、被相続人の遺産の増加や維持に多大な貢献をした相続人がいる場合、法定相続分のとおりに形式的に遺産を分割すると不公平が生ずることから、相続人間の実質的公平を図るために昭和55年の民法改正により新設されたものです。すなわち、民法第904条の2は、「寄与分」を定め、共同相続人の中に、「被相続人の事業に関する労務の提供」「財産上の給付」「被相続人の療養看護」「その他の方法」により「被相続人の財産の維持・増加に特別の寄与をした」者があるときは、その者は「寄与分」を請求できる、としています。

  ご相談者様の事案でも、父上が土地建物を取得したときにご相談者様からの預金から拠出した1000万円について、「財産上の給付」により「被相続人の財産の維持・増加に特別の寄与をした」者として寄与分の主張をすることになります。

3 寄与分に関する判例(寄与分を82.3%とした判例)

  それではご相談者様にはどれくらいの寄与分が認められるのでしょうか。寄与分を82%とした判例がありますので、紹介します。

和歌山家庭裁判所昭和59年1月25日審判
(当事者)
被相続人の妻X(申立人)
被相続人と先妻との間の子Y1、Y2(相手方)

(相続分)
Xは2分の1、Y1、Y2は各自4分の1

(申立人の寄与分・審判の引用)
審判ではまず、申立人Xに寄与分があるかどうかについて、
「申立人は、被相続人と同じくもと中学校教諭であつたところ、昭和四二年三月退職し、その退職金を持参して、同年一一月二三日被相続人と婚姻したが、その後間もなく被相続人が病気体職したので、大阪府守口市の「○○○○」に就職して働き続け、その収入等によつて一五〇〇万円程度であれば住宅を購入し得る資金を作ることができた。そこで、被相続人と相談して、昭和五一年一〇月三一日被相続人名義をもつて本件遺産に属する前記宅地・居宅を代金合計一三八五万円で購入し、そのうち一二五五万円・九〇・六パーセント相当は、実に申立人が提供したものであつた。
 かかる事情からすれば、共同相続人の一人である申立人については、相当の寄与分を認めてしかるべき・・・」

として申立人に寄与分があることを認めました。

そして、相続財産に対する申立人Xの寄与分の割合について、

「相続開始時においては、これら財産の価額は、宅地七五〇万円、居宅六九〇万円、乗用車五二万円、家財道具類九四万円、以上合計一五八六万円となる。そして、申立人は、この宅地・居宅の合計額一四四〇万円につき前記九〇・六パーセントの割合で財産の形成と維持に寄与したものということができるから、その寄与分の額は一三〇五万円(千円位以下四捨五入)であり、上記財産の合計額一五八六万円に対し八二・三パーセントの割合となる。」

とし、各人の具体的相続分について

「申立人には八二・三パーセントの寄与分があるので、その具体的相続分は、該寄与分たる八二・三パーセント及び残りの一七・七パーセントに対する二分の一となり、相手方両名の具体的相続分は、残りの一七・七パーセントに対する四分の一ずつとなる。」

と判断しています。

4 ご質問の事例ではどれくらいの寄与分となるのか。

  ご相談者様は父上が土地建物を取得した当時に、1000万円を拠出しておりますので、この金額が寄与分として認められる可能性があります。仮に、1000万円の寄与分が認められた場合はご相談者様、弟様とで次のように遺産を分割することになります。

  遺産総額3000万円−寄与分1000万円=2000万円を兄弟で分割することになります。

  そして、

  ご相談者様の取得分=2000万円×相続分1/2=1000万円
  これに寄与分1000万円を加えて、取得額は2000万円となり、
  弟様の取得分=2000万円×相続分1/2=1000万円となります。

5 民事上の請求権行使の可能性

  寄与分は被相続人名義の相続財産の形成に寄与した分を相続財産とは別に主張する制度です。そこで、被相続人名義の財産ではあってもそこに自分の財産が含まれている、という主張は寄与分の主張ではなく、相続財産の範囲の問題となります。相続人の間に、金銭の貸し借りがあったり、名義貸しがあった場合は、被相続人の死亡後に、これを精算するための民事上の請求権を行使できる場合がありますので、この点についても検討する必要があります。

  寄与分は、「寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮」して定められますので、民事上の債権と異なって、必ずしも請求額の全額が認められるわけではありません。民事上の請求権を行使できる場合は、権利行使を優先させた方が良いでしょう。ただし、貸金返還請求権の場合は借用書などで「返還する約束」を立証することが必要ですし、名義貸しの精算ということであれば、金銭の出費が存在することの立証が必要となるでしょう。

6 まとめ

  遺産分割において、寄与分の主張をされる場合、他の相続人を説得したり、調停や審判になったりした場合には調停委員や裁判官に納得してもらわなければなりません。そのための証拠資料が必要になります。何も資料を提出せずに、単に住宅取得の際に1000万円出したと主張するだけでは、相手も納得しないでしょうし、仮に審判になった場合相手が認めない以上は1000万円出した事実自体認めてもらえないことになります。むしろ、1000万円も出すのであればなぜ共有にしなかったという疑問が生じ1000万円を出していないのではと判断されかねません。なぜ、どうやって1000万円用意したのか、なぜあなたの名義がなにもないのか合理的な説明と証拠となる資料(預金通帳など)が必要になります。遺産分割の場でご自身の納得いくような主張をするためにも、一度、お近くの法律事務所で具体的に相談された方がよいでしょう。


<参照条文>
【寄与分の条文】
※憲法
第十四条  すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
 2  華族その他の貴族の制度は、これを認めない。
 3  栄誉、勲章その他の栄典の授与は、いかなる特権も伴はない。栄典の授与は、現にこれを有し、又は将来これを受ける者の一代に限り、その効力を有する。

※民法
第九百四条の二  共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする。
2  前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、同項に規定する寄与をした者の請求により、寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して、寄与分を定める。
3  寄与分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることができない。
4  第二項の請求は、第九百七条第二項の規定による請求があった場合又は第九百十条に規定する場合にすることができる。

<参照判例>
和歌山家庭裁判所昭和59年1月25日審判
遺産分割申立事件、寄与分を定める処分申立事件
(筆者注:文中の固有名詞は修正してあります)
 
   主  文

 被相続人の財産(相続関始時における価額・一五八六万円)に対する申立人の寄与分を八二・三パーセントと定め、被相続人の遺産を次のとおり分割する。
 一 別紙目録記載1の宅地、2の居宅及び3の乗用車並びに同2の居宅内にある家財道具類(家庭用財産)を申立人の取得とする。
 二 申立人をして、相手方両名に対し七〇万五七八八円ずつの債務を負担させることとし、申立人は、各相手方に対し、該金員の支払をせよ。
 
   理  由

 当裁判所は、本件記録中の各資料及び本件を巡る諸般の事情を総合して、次のとおり認定し、判断する。
 一 相続人と法定相続分
 被相続人は昭和五六年三月四日死亡し、同日その相続が開始した。
 その相続人は、妻たる申立人並びに別れた先妻との間の長男たる相手方及び長女たる相手方であり、各相続人の法定相続分は、申立人二分の一・相手方両名いずれも四分の一ずつである。
 二 遺産の範囲及び評価額
 相続開始当時被相続人が有していた積極財産としては、別紙目録記載1の宅地、2の居宅及び3の乗用車並びに同2の居宅内の家財道具類(家庭用財産)が存在し、現在も存在する。
 被相続人は、昭和五二年三月ごろ、それまでの勤務である大阪市中学校教諭を退職し、その退職金として一六六一万九七七円を入手したが、これは、前記宅地・居宅の購入資金の一部、居宅の造作・設備費用、仏壇購入資金、生活費の補充、亡父(昭和五三年一二月三一日死亡)の葬儀及び諸法事の費用並びに亡父の後妻の入院費(昭和五四年八月〜一二月)として支出し、相続開始当時は既に全額費消していた。ほかには、被相続人の積極財産は認められず、また、消極財産も認められない。
 したがつて、遺産分割の対象となる被相続人の遺産は、別紙目録記載1の宅地、2の居宅及び3の乗用車並びに同2の居宅内の家財道具類ということになる。
 そこで、これら各財産の現時点における評価額であるが、まず、宅地及び居宅の昭和五六年一〇月二七日現在の鑑定評価は、宅地七五〇万円・居宅六九〇万円であるところ、宅地については、その後の値上がりを勘案してその一、一二五八倍(公示価格の変動参照)の八四四万円(千円位以下四捨五入)を相当とし、居宅については、再調達原価の増大と経年減価の増大とが相均衡するものとして鑑定額どおり六九〇万円を相当とする。次に、乗用車については、同型式の昭和五八年一一月二日現在の査定額が一七万円〜一七万五〇〇〇円であるところ、この乗用車には修理費用約八万円を要する接触痕があり、ほかにも要修理箇所があるので、一四万円を相当とする。また、居宅内の家財道具類については、購入代金合計三一二万円であるところ、購入してから既に七年を経過しているので、その一五パーセントの四七万円(千円位以下四捨五入)を相当とする。
 そうすると、現時点における遺産の評価額は、宅地八四四万円、居宅六九〇万円、乗用車一四万円、家財道具類四七万円、以上合計一五九五万円となる。
 三 申立人の寄与分
 申立人は、被相続人と同じくもと中学校教諭であつたところ、昭和四二年三月退職し、その退職金を持参して、同年一一月二三日被相続人と婚姻したが、その後間もなく被相続人が病気休職したので、大阪府守口市の会社に就職して働き続け、その収入等によつて一五〇〇万円程度であれば住宅を購入し得る資金を作ることができた。そこで、被相続人と相談して、昭和五一年一〇月三一日被相続人名義をもつて本件遺産に属する前記宅地・居宅を代金合計一三八五万円で購入し、そのうち一二五五万円・九〇・六パーセント相当は、実に申立人が提供したものであつた。
 かかる事情からすれば、共同相続人の一人である申立人については、相当の寄与分を認めてしかるべきところ、これを具体的に定めるには、被相続人が有していた前記財産の相続開始時における価額を算定する必要がある。まず宅地・居宅については、相続開始時と前記鑑定評価時との間に時間的隔たりがほとんどないので、鑑定額どおり宅地七五〇万円・居宅六九〇万円を相当とし、次に、乗用車については、販売店の評価証明どおり五二万円を相当とする。また、家財道具類については、購入してから四年を経過しているので、購入代金三一二万円の三〇パーセントの九四万円(千円位以下四捨五入)を相当とする。そうすると、相続開始時においては、これら財産の価額は、宅地七五〇万円、居宅六九〇万円、乗用車五二万円、家財道具類九四万円、以上合計一五八六万円となる。そして、申立人は、この宅地・居宅の合計額一四四〇万円につき前記九〇・六パーセントの割合で財産の形成と維持に寄与したものということができるから、その寄与分の額は一三〇五万円(千円位以下四捨五入)であり、上記財産の合計額一五八六万円に対し八二・三パーセントの割合となる。
 申立人は、寄与分に関する申立書中において、被相続人の亡父の後妻の入院に伴う昭和五六年七月以降の諸経費、小遣銭等及び被相続人の葬儀等の費用につき、被相続人の遺産からではなく申立人自身の資金からこれらの費用等を賄つてきたことをもつて寄与分に関する事情として主張しているが、いずれも相続開始後の事情であるから、寄与分としては考慮することはできない。ほかには、宅地・居宅の購入資金提供以外に申立人の寄与分として考慮すべき事情は認められない。
 四 遺産の分割
 上記のとおり申立人には八二・三パーセントの寄与分があるで、その具体的相続分は、該寄与分たる八二・三パーセント及び残りの一七・七パーセントに対する二分の一となり、相手方両名の具体的相続分は、残りの一七・七パーセントに対する四分の一ずつとなる。
 ところで、本件遺産に属する居宅及び宅地は、被相続人と申立人の夫婦が昭和五二年三月以来居住してきた居宅とその敷地であり、被相続人死亡後も申立人が居住しており、しかも、その購入資金のほとんどは前記のとおり申立人が提供している。同じく本件遺産に属する乗用車及び居宅内の家財道具類は、被相続人が昭和五二年五月以降に購入し申立人とともに共用し、被相続人死亡後は申立人が使用しているものである。一方、相手方両名は、その母が昭和四〇年一二月二七日被相続人と離婚して以来、同女とともに被相続人とは別居し続けており、本件遺産たる上記各物件については全くかかわるところがない。
 これらの事情にかんがみると、本件遺産たる上記各物件はすべて申立人に取得させるのが相当である。そして、そのことによつて申立人の具体的相続分を超える部分、すなわち相手方両名の具体的相続分に該当する部分については、その価額に相当する金員を申立人から相手方両名に対し代償金として支払わせるのが相当であり、申立人は該代償債務を負担すべきである。そこで、申立人の負担すべき代償債務の額を算定するに、前記二に掲げた本件遺産の現時点における価額一五九五万円の一七・七パーセントに対する四分の一ずつ、すなわち七〇万五七八八円ずつとなる。
 五 結び
 以上の次第であるから、申立人の寄与分を相続開始時における被相続人の財産、その価額一五八六万円に対する八二・三パーセントとし、遺産分割としては、本件遺産を全部申立人の取得とし、相手方両名に対し申立人に七〇万五七八八円ずつの債務を負担させてこれを支払わせることとし、主文のとおり審判する。

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