No.1578|

ごみ集積所の移転と輪番制

民事|自治会が設置したゴミ集積場の移転と輪番制導入の可否|所有権に基づく妨害廃除請求と受忍限度論|大分地裁平成20年12月12日判決他

目次

  1. 質問
  2. 回答
  3. 解説
  4. 関連事例集
  5. 参照条文
  6. 参照判例

質問

私は小さな賃貸アパートを経営しています。アパートの入り口脇の道路には周辺の家庭で出すためのゴミ集積所があります。この集積所は自治会が以前に設置したと聞いております。このゴミ集積所から生ゴミの臭いが生じ、また、猫やカラスがゴミを食い散らかすためアパートの住人からの苦情が私に寄せられています。また、ゴミ集積所が近すぎるため、現在の入居者が引越しをしてしまったり、新規に入居を考えている人に避けられている恐れもあります。

私はアパート収入で生活を維持しているため、苦情によって空室を生じると収入も減り、私の生活設計にもかかわります。

ごみ集積所は必要だとはおもいますが、せめてもう少し離れた場所への移設を自治会に求めることはできるのでしょうか。

回答

1 アパートの所有権に基づく妨害排除請求として、近隣住民に対してゴミ集積所の使用の禁止を請求できる可能性があります。あなたはアパートの所有権に基づいて、賃借人と建物賃貸借契約を締結して収益を得ていますから、ゴミ集積所の存在により賃貸契約が阻害され損害を受けているのであれば、所有権が侵害されていると言えます。そこで、所有権の保護するために妨害排除請求としてごみ集積所にごみを出さないよう請求することができます。

2 ただし、被害があるからと言って常に差し止めを請求できるというわけではなく、受忍限度を超えるような相手方の行為がある場合に限り、法的な請求が認められます。判例上、受忍限度を超えるか否かについては、「単に被害の程度、内容のみにとどまらず、被害回避のための代替措置の有無、その難易等の観点のほか、関係者間の公平等諸般の事情を総合した上で行われるべきもの」であり、「輪番制等をとってごみ集積場を順次移動し、集積場を利用する者全員によって被害を分け合うことが容易に可能である」のに、そのことを「拒否し、特定の者にのみ被害を受け続けさせることは当該被害者にとって受忍限度を超えることとなる」と考えられています。

3 廃棄物の処理に関する法律第2条の3はごみを排出する利用者全員が適切なごみ処理ができるように相互に協力すべきとして、市民の相互協力義務を規定しています。判例でも、ゴミ集積所の移動や輪番制の導入を選択肢として提示しているものがあります。どうしてもお困りの場合は、弁護士事務所に相談し、ゴミ集積所の移動や輪番制について交渉してもらうと良いでしょう。

4 その他本件に関連する事例集はこちらをご覧ください。

解説

第1 所有権絶対の原則

ご相談者様は自ら所有しているアパートを賃貸して収入を得ています。自らの所有物を賃貸し収入を得ることは、所有権の行使の一環として、具体的には目的物からの収益を得る行為として認められ、法的に保護されるものです。

近代私法の三大原則として、「契約自由の原則」、「所有権絶対の原則」、「過失責任の原則」があります。これらの原則は、自由主義社会において、円滑に権利や義務の生成消滅や行使を行っていくために必要となる基本原則です。

この中で「所有権絶対の原則」は、所有権者が、所有物に対して、直接に、排他的に、所有物の使用、収益、処分をすることができる権利を有しているという原則です。所有権者は、誰にも邪魔されずに、所有権を行使することができるという考え方です。

憲法29条1項は「財産権は、これを侵してはならない」と規定し、私有財産制を保障し、我が国の民法206条で「所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有する」と規定し、所有権絶対の原則を定めています。

第2 所有権に基づく妨害排除請求

このように自ら所有するアパートを賃貸して収益を得ている場合に、ご相談のように隣接するごみ置場から不快な景観、悪臭等により被害を受けているときにごみ置場の撤去や移転を自治会に請求できるのでしょうか。いわゆる所有権侵害による妨害排除請求の可否の問題です。

なお、ごみ置き場の撤去や移転を判決として求めることは具体的は判決の内容が特定できないためできませんので(誰が設置したのか不明ですし移転となるとどこへ移転するのか明らかにしなくてはならないという問題があります)、被告として個人を特定し、当該ごみ置き場にごみを出していはいけない、という仮処分なり判決を求めることになります。

所有権は目的物を直接支配し、所有権者が自由に使用・収益・処分ができ、第三者の行為により所有権の十分な行使が侵害されている場合には、その侵害の排除を求めることができます。所有権に基づく妨害排除請求権は、民法に明文の規定はありませんが、憲法や民法の基本規定や、占有訴権に関する民法198条や、所有権に基づく請求について「本件の訴え」と言及する民法202条1項などを根拠に当然の権利として認められています。

民法

第198条(占有保持の訴え)
占有者がその占有を妨害されたときは、占有保持の訴えにより、その妨害の停止及び損害の賠償を請求することができる。

第202条(本権の訴えとの関係)
第1項 占有の訴えは本権の訴えを妨げず、また、本権の訴えは占有の訴えを妨げない。
第2項 占有の訴えについては、本権に関する理由に基づいて裁判をすることができない。

ご相談者様も、所有するアパートに隣接するごみ置場により被害を受けている場合には、所有権の侵害があったと認められること間違いはありません。そして、後述する裁判例には、所有者である原告がごみ置場の利用者である被告らに対し一般廃棄物の差し止めを求めた事例があります。

しかし、侵害の排除を求めることができるか否か、については検討が必要です。現実社会は常に権利関係の衝突する場ですから互いに権利が制約される場面が生じることになり、権利の調整が必要になります。権利調整の基準としては、裁判では権利の侵害が受忍限度を超えているか否か、という点から検討されます。

第3 受忍限度論について

これまで説明したように、所有権が権利として保障されるとしても、個人が日常生活を送るにあたって他者との利益衝突が生ずる可能性があります。「あちらを立てれば、こちらが立たない」という状態です。そこで、判例では、他人により所有権者が被害を受けている場合でも、その被害が所有権者の「受忍限度」を超えている場合にのみ損害賠償や差止請求ができるとして、「受忍限度」という基準を超えているか否かにより判断しています。本件においてもごみ置き場による被害が受忍限度を超えるか否かという点が問題となりますので、受忍限度について説明します。

受任限度論に関する基本判例となっている昭和56年12月16日最高裁判決(大阪国際空港夜間飛行禁止等請求事件)を引用します。これは飛行機の騒音問題に関する裁判例です。飛行場近隣住民の平穏に生活する権利と、航空会社の営業の自由が衝突したため、その調整が必要となった事案でした。

「行為が損害賠償責任の要件としての違法性を帯びるかどうかは、これによって被るとされる被害が社会生活を営む上において受忍すべきものと考えられる程度、すなわちいわゆる受忍限度を超えるものかどうかによって決せられる」として、さらに受忍限度を超えたかどうかを決する基準について、「これを決するについては、侵害行為の態様と程度、被侵害利益の性質と内容、侵害行為の公共性の内容と程度、被害の防止又は軽減のため加害者が講じた措置の内容と程度についての全体的な総合考察を必要とするものである」としています。

ご相談者様の質問のように、ごみ集積所の移設・輪番制が問題となった判例もあります。この裁判はごみ集積所の輪番制に反対する人を相手として、現在のごみ集積場へのごみの排出を差し止める訴えを提起した事例ですが、原告の被害がどのような場合に受忍限度を超えるかどうかという「受忍限度」の基準について次のように説明しています。(東京高等裁判所平成8年2月28日判決・一般廃棄物排出禁止請求事件)。

同判決は、ごみ集積場へのごみ排出による被害は当然に受忍限度を超えるものとはいえないとした上で、ごみ集積場の存在によって被っている被害が受忍限度を超えるものであるかどうかの判断は、「単に被害の程度、内容のみにとどまらず、被害回避のための代替措置の有無、その難易等の観点のほか、関係者間の公平等諸般の事情を総合した上で行われるべきもの」であり、「輪番制等をとってごみ集積場を順次移動し、集積場を利用する者全員によって被害を分け合うことが容易に可能である」のに、そのことを「拒否し、特定の者にのみ被害を受け続けさせることは当該被害者にとって受忍限度を超えることとなる」と判断し、「判決確定後6か月を経過した日以降本件集積場にごみ(一般廃棄物)を排出はしてはならない」としています(判例時報1575号54頁)。

廃棄物の処理に関する法律第2条の3はごみを排出する利用者全員が適切なごみ処理ができるように相互に協力すべきとして、市民の相互協力義務を規定しています。その意味で、被害態様だけではなく、関係者間の公平等の事情を加えて「受忍限度」を判断するという判決の基準は妥当と考えられます。この法律はゴミ集積場の悪臭等の受忍限度に関して具体的な基準を設けた法律ではありませんが、ゴミ処理問題についての基本的な考え方を示すものとして重要な法律であり、条文は次のとおりです。

廃棄物の処理及び清掃に関する法律

第2条の3(国民の責務)
国民は、廃棄物の排出を抑制し、再生品の使用等により廃棄物の再生利用を図り、廃棄物を分別して排出し、その生じた廃棄物をなるべく自ら処分すること等により、廃棄物の減量その他その適正な処理に関し国及び地方公共団体の施策に協力しなければならない。

第4 本件類似の裁判例

ご相談の問題と同様の裁判例として、大分地方裁判所平成20年12月12日判決(一般廃棄物排出差止請求事件)がありますので紹介します。

1 事案

裁判の事実関係は「自らの所有するアパートに隣接する道路上にごみ集積場所が設置されている原告が、大量のごみによる不潔な景観や悪臭等にアパート住民や所有者である原告が悩まされているとして、ごみ集積場所にごみを排出している被告らに対し、アパートの所有権に基づき、一般廃棄物の排出差止めを求めた」というものです。

2 裁判例の判断

裁判所は次のように、一般論としてごみ集積場所の存在による被害が受忍限度を超える場合には、所有権に基づいて差し止め請求ができることを認めています。

大分地方裁判所平成20年12月12日判決
本件集積場所に隣接する本件建物を所有している原告は、ごみ集積場所が存在することで被害を被り、その所有権の十全な行使が妨げられることもありうるといえるから、受忍限度を超える被害を受けている場合には、所有権に基づき、一般廃棄物の排出の差止めを求めることもできるものと解される。

但し、結論としては次のように述べて、受忍限度の範囲内の被害であるとして差し止め請求を棄却しました。判断の基準となるのは、被害が特定の人の負担となっているといえるか、被害を被っている人のごみ置き場の利用状況が他の利用者と比較してどうか、周囲の状況からして適当な場所と言えるか、移転先として適当な場所があるか、という点からでした。

大分地方裁判所平成20年12月12日判決
悪臭も、客観的なデータはなく、一般廃棄物処理のためにごみ集積場所が存在することは現在の社会生活上やむを得ないものであって、その周辺では当然一定程度の悪臭等の被害はあるものである。その具体的位置関係からすれば、本件建物住民と本件集積場所の周囲の住民の被害の程度には大きな差はなく、本件建物の住民にのみ負担を強いているとはいえない。よって、所有者である原告にのみ負担を強いているともいえない。

また、本件建物は8世帯が入居可能であり、大分市のごみ集積場所設置の基準である25世帯の3分の1に当たることになることからすれば、具体的な設置場所がどこになるかは措くとしても、本件建物の入居者がごみを排出するごみ集積場所は、本件土地に隣接する道路上となることは十分予見されるところである。

さらに、前記のとおり、周囲に幅員の狭い道路が多いことを考えると、本件建物南側の道路沿いにごみ集積場所を設けることには一定の合理性があり、中でも角切りがされていることから本件集積場所が利用されることには合理性があるといえるし、本件集積場所に代わるごみ集積場所として適切な場所を見いだすのは必ずしも容易ではない。

そして、少なくとも、本件口頭弁論終了時点において、原告側で、具体的に、支障が少なく関係者の同意が得られる移転場所を示すことはできていない。

このように結論としては、差し止め請求を認めませんでしたが、更に関係者で協議しできるだけ、被害が特定の人に及ばないようにすべきであることも付言し、今後も特定の人だけが被害を込むっているような場合は受忍限度を超えるようになる場合もあることを示唆しています。

上記であげた東京高等裁判所平成8年2月28日判決では、受忍限度を超えるかどうかの判断基準を次のように述べ、悪臭等の被害の程度の他に被害回避のためにどのような方法があるかという点から特定の人だけに被害が及んでいる場合は受忍限度を超える、という基準を示しています。

東京高等裁判所平成8年2月28日判決
原告が本件集積場所によって被っている悪臭、ごみの飛散、不潔な景観による不快感その他による有形、無形の被害が、受忍限度を超えるかどうかの判断にあたっては、単に被害の程度、内容のみにとどまらず、被害回避のための代替措置の有無、その難易等の観点の他、さらには関係者間の公平その他諸般の見地を総合した上でされるべきものであると解される。

第5 まとめ

近隣にごみ集積所が存在することにより、ごみの散乱などによる不快な景観やごみによる悪臭の被害が生じます。物権的妨害排除請求権に基づき、不動産の所有者の立場でも、ゴミ集積所の移動や輪番制を求めることができる場合があります。

しかし、ごみは日常生活を送るにあたって必然的に生じ、ごみの収集を地方公共団体が効率的に行うためには、ごみ集積所の設置が不可欠となります。ご質問者様のように、隣接するごみ集積所により被害を受けている場合、近隣住民の方たちや自治会との話し合いが必要となります。

悪臭のレベルや景観の状況によっては、ゴミ集積場の移動や輪番制の実施を求めることができる可能性もありますが、判例を見て分かる通り、受忍限度の範囲内かどうかはゴミ集積場の運営状況などについて詳細に検討してみないと判断がつきません。お困りの場合には、具体的な資料をお持ちの上でお近くの法律事務所にご相談されるとよいでしょう。

以上

関連事例集

  • その他の事例集は下記のサイト内検索で調べることができます。

Yahoo! JAPAN

参照条文

憲法

第二十九条 財産権は、これを侵してはならない。
2 財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。
3 私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。

民法

(所有権の内容)
第二百六条 所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有する。

廃棄物の処理及び清掃に関する法律

(国民の責務)
第二条の三 国民は、廃棄物の排出を抑制し、再生品の使用等により廃棄物の再生利用を図り、廃棄物を分別して排出し、その生じた廃棄物をなるべく自ら処分すること等により、廃棄物の減量その他その適正な処理に関し国及び地方公共団体の施策に協力しなければならない。

参考判例

一般廃棄物排出差止請求事件

大分地方裁判所平成19年(ワ)第316号
平成20年12月12日民事第1部判決

主 文

1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求

被告らは、各自別紙物件目録記載1の土地に接する公道上に、一般廃棄物を排出してはならない。

第2 事案の概要等

本件は、自らの所有するアパートに隣接する道路上にごみ集積場所が設置されている原告が、大量のごみによる不潔な景観や悪臭等にアパート住民や所有者である原告が悩まされているとして、ごみ集積場所にごみを排出している被告らに対し、アパートの所有権に基づき、一般廃棄物の排出差止めを求めた事案である。

1 争いのない事実

(1)原告は、平成17年10月21日、別紙物件目録記載1の土地(以下「本件土地」という。)を株式会社T建設(以下「T建設」という。)から買い受け(ただし、共有持分10分の7)、同地上にあった旧建物を取り壊して、平成18年2月5日、同地上に別紙物件目録記載2のアパート(以下「本件建物」という。)を建設して所有している。

(2)被告らは、いずれも本件建物周辺に居住し、地域住民からなるA町内会の会員である。A町内会の会長はHS(以下「H」という。)である。

(3)A町内会は、家庭ごみである一般廃棄物の集積場所を各所に設け、被告らはいずれも、そのうち本件土地に隣接する公道上に設置されたごみ集積場所(以下「本件集積場所」という。)を利用している。

2 争点

本件の争点は、原告の有する本件建物の所有権に基づき、被告らの本件集積場所の使用を差し止めることができるかである。

(原告の主張)
(1)本件集積場所の設置及び被告らによる利用により、原告には以下のとおり実害が発生しており、これだけでも受忍限度を超えている。

ア 大分市は、ごみ集積場所設置の目安として、約25世帯に1か所という基準を設定している。ところが、本件集積場所は、被告らや本件建物の住民を含め、約60世帯が利用し、ほぼ連日大量のごみが本件集積場所に排出されている。しかも本件集積場所が本件建物の玄関に面した市道上に存在するために、市道から玄関に出入りするたびに、大量のごみ(1回当たり約4立方メートル、多いときは約6立方メートル)を目にすることになり、原告及び本件建物の住人は、連日、不潔な景観による不快感にさいなまれている。

イ 本件集積場所と本件建物の間には、原告が自費で塀を設置しているものの、排出されたごみを完全に塀で囲んでいるわけではない。本件建物の居室と本件集積場所の距離は最短で約5メートルである。よって、風向きによっては悪臭が本件建物方向に流れ、夏場を中心に住民が悪臭に悩まされている。

ウ 本件土地の形状及び方位からすれば、同土地を最有効活用するには、別紙図面1のとおり建物や駐車場を配置することとなるが、同図面中の番号1、2の駐車場予定地の南側に本件集積場所が存在するため、私道から同駐車場への車の乗り入れが不可能となる。そのため、現在、別紙図面2のとおり駐車場を配列しており、同図面中の番号2、3の駐車場は出入りする車両が交錯するため煩雑であるばかりか、駐車可能な車両も軽自動車や小型車両に限定され、所有者である原告が当然有する権利である本件土地の有効活用に重大な支障が生じている。

なお、原告が本件土地を購入する前は、本件土地の東側半分に建物が建っており、西側半分は駐車場であったため、現在ほどの不便は生じていなかった。

エ 原告は、悪臭の軽減及び不潔な外観の遮蔽並びに駐車場へのごみの流入防止のため、本件集積場所の北側に敷地に沿って約40万円を支出して塀を築造せざるを得ず、経済的損失を被っている。

また、ごみによる塀の汚損のため、定期的な壁の塗装が必要だが、その費用も相当高額なものになると見込まれる。

オ 本件集積場所は交差点に位置しており、南側道路の幅員が約7メートルあるとはいえ、大量のごみが搬出されることにより、交通の支障となっており、事故が発生するおそれもある。現在大分市は、交差点、角地でのごみ集積場所の設置は許可していない。

現在、交通量も多く、交通の危険は増大している。

カ 本件建物の賃借人から、賃貸人である原告への苦情、要望等が繰り返されており、このまま事態が放置されれば、本件建物から賃借人が退去するし、重大な損害を被るおそれがある。

(2)本件集積場所の移設に関する交渉経緯や代案の提案について

ア 原告は、これまで被告らに対し、本件集積場所の移設を求め、代案を提出するなどの努力を続けてきた。代案の中には、本件集積場所を利用する住民の間での持ち回り案もある。本件集積場所付近には、集積場所の設置可能な場所が数件あり、容易に実現可能であるが、被告らは、40年近く本件集積場所を利用してきたこと、利便性に優れること等を理由に、持ち回りをかたくなに拒否し、本件集積場所へのごみの搬出を続け、原告や本件建物の住民にのみ被害を押しつけている。

そして、困り果てた原告が、本件土地の一部を提供し、同土地の西側道路側にごみ集積場所を移設する提案をしても、かたくなに拒否している。

さらに、本件訴訟において、原告が、本件集積場所の利用実態や、周辺地域におけるごみ集積場所の設置可能性等を検討し、具体的な提案をしても、被告らは正当な理由なく拒絶し、本件集積場所にごみの排出を継続している。

以上に鑑みれば、被告らによる本件集積場所の利用は、自らのエゴで、原告及び本件建物の住民の被害回避の具体的な方策に目をつぶり、同人らにのみ被害を押しつけ続けているものであって受忍限度を超えている。

イ 被告らは、新たなごみ集積場所の提案をするたびに、隣地所有者の同意が得られないことを問題視する。しかし、これは原告についても同様に当てはまるはずである。本件集積場所が30年以上にわたり利用されているのは、原告が本件土地を取得する前は、本件集積場所の横が駐車場であり、さほど実害が及ばないため利用を黙認していたからに過ぎない。本件土地の所有者が原告となり、土地の利用形状も変更され、現に本件集積場所の使用継続により原告や本件建物の住民に実害がある以上、原告の意向にも配慮すべきである。これに耳を傾けないのは、被告らが本件集積場所の利用を既得権と勘違いし、原告に迷惑を掛けていることを理解しないからである。

(被告らの主張)
(1)原告は、本件集積場所付近に居住しておらず、これに隣接する土地建物を所有しているだけである。

(2)本件集積場所付近の道路状況からすれば、現在の場所が最適なのは一目瞭然であり、原告がこれまで提案してきた場所は、いずれも交通渋滞や安全性から問題がある。

(3)本件集積場所は、約40年以上利用されていたもので、この間当該場所がごみ集積場所であることに異議を述べた人はいない。T建設や、本件土地上に生活していた者も今まで一度も苦情や異議を言っていない。原告が本件建物を建築する以前は、本件集積場所のごみが散乱したり、悪臭が漂うことはなかった。

平成17年10月に、原告が本件土地を購入し、その上に本件建物を建築し、完成直後に建築業者が自治委員を通じて一方的に本件集積場所の変更を通知してきた。それ以前、原告からは何らの申入れもなく、前記申入れも建築業者を通じてであった。

申入れを知った被告ら住民が、ただちにHに真意を尋ね、本件集積場所がごみ集積場所として最適である旨説明し、原告の主張に合理性がないことを説明している。

原告の提案は、いずれも交通の妨害になる場所であり、利用者にとって距離があって不便になるものもあり、隣地所有者や水利組合に具体的交渉をしたこともなく、被告らが移転に同意したとしても、そこが現実の集積場所となりうる可能性はほとんど無い。

(4)原告は、本件土地にアパートを建築し、その駐車場の利便性だけで集積場の移転を求めているとしか考えられず、移転先の所有者との交渉や、その可能性のための努力をしていない。原告の主張は、所有権の濫用である。

(5)悪臭も、風向きからすれば、原告所有アパートより、むしろ本件集積場所南側の住民の方が影響が強いが、現在まで苦情が出たことはなく、以前は、本件集積場所にほうきを常備し、近隣住民が管理、片付けに協力していた。

第3 争点に対する判断

1 前記争いのない事実に証拠(甲3、4、7ないし10、乙B1、2、4)及び弁論の全趣旨を総合すると、本件集積場所に関し以下の事実が認められる。

(1)本件土地及び本件集積場所は、大分市内の住宅地に位置している。本件土地の南側道路は幅員約7メートル(南側のB井路の暗渠部分等を含む。)、本件土地の西側道路は幅員約5メートル(西側のB井路の暗渠部分等を含む。)であり、両道路の交差点の本件土地側角が若干角切りをされており、そこが本件集積場所となっている。前記交差点から西方向及び南方向へ進む道路の幅員は5メートル以下となっている。 (甲7、9)

(2)本件集積場所と本件土地の位置関係は、別紙図面2のとおりである。本件集積場所と本件土地の境界には、悪臭の軽減及び不潔な外観の遮蔽並びに駐車場へのごみの流入防止のため、原告により、高さ150センチメートルの壁が建築されている。本件集積場所と、本件建物のうちもっとも本件集積場所に近い部分との距離は、本件建物のテラスで約6メートル、建物開口部(窓)で約7メートルである。

また、本件集積場所と、周辺の民家敷地との間の距離は、おおむね7メートル以上ある。 (甲3、4、弁論の全趣旨)

(3)本件集積場所は、遅くとも昭和46年には存在しており、同年に本件土地上にT建設の社宅が建設された際には、同社から本件集積場所の一部に相当する土地が市道に提供され、以後、周辺住民がごみの集積場所として利用してきた。

現在、本件集積場所にごみを出している住民は少なくとも約40世帯はある。被告らは、本件土地周辺の地域住民からなるA町内会の会員であり、同町内会が設けた本件集積場所にごみを出している。なお、大分市では、1か所のごみ集積場所にごみを出す世帯数として25世帯を基準としている。 (甲10、乙B4、弁論の全趣旨)

(4)原告は、平成17年10月21日、アパート建設のため、本件土地をT建設から買受け(ただし、共有持分10分の7)、同地上にあった旧建物を取り壊し、平成18年2月5日、本件建物を建設した。

原告は、本件土地の購入時には、本件集積場所が存在していることは知っていたが、本件土地北側にアパートを建築し、南側を駐車場とする計画であったことから、アパート住民がごみのにおいや景観を嫌うだろうし、駐車場の出入りの支障になると考え、本件集積場所の移転を申し入れることを考えていた。 (甲10)

(5)原告は、大分市西部清掃局に対し、本件集積場所の移設の相談をしたところ、自治会の決定に従う旨の回答を得た。そこで、原告が本件建物の建設を依頼していたSH株式会社(以下「SH」という。)の従業員が、本件集積場所のある地域の自治会長であるHに、本件集積場所の移設を申し入れた。 (甲10)

(6)平成18年1月24日、Hは、被告乙山二郎に対し、前記申入れがされていることを話し、同人が本件集積場所の利用者にこれを連絡し、翌25日朝に現地に集合することとなった。

同月25日朝、本件集積場所の利用者約15名が集まり、Hから、前記申入れがある旨の説明がされた。利用者からは、原告やSHの従業員がいないため内容が分からない、約40年前から現在地を集積場所としているから移転できない、建物ができあがってから話を始めるのは順序が違うなどの意見が出たが、話は進展せず散会した。

さらに、同年2月3日、本件集積場所において、SHの従業員2名とH、本件集積場所の利用者約20名が話合いを持った。SHの従業員からは、本件建物前に車が平行に並ばないから本件集積場所を移転するか、持ち回りにしたいとの話が、利用者側からは、現在地以外では地形上、通行に支障がでるとの話がでたが、双方の意見は平行線のままであり、利用者側では原告本人が来ていないのは誠意がないなどと言って、散会となった。 (乙B1)

(7)その後、SH従業員と、Hその他の関係者が日時を調整し、平成18年2月17日に、原告と、本件集積場所の利用者とが現地立ち会いをすることとなった。 (甲10、乙B1)

(8)原告は、現地立会の前日となる同月16日、SHの従業員を通じて関係者に対し、本件集積場所の移設先として別紙図面3の提案1ないし6(ただし別紙図面3自体は、この際に配布されたものではない。)を提案した。 (甲4、10)

(9)同月17日午後2時から、本件集積場所において、原告、SHの従業員、H、本件集積場所の利用者約20名が協議を行った。原告は、別紙図面3の提案1の位置に移設することを第1に考えていたが、利用者側は、本件土地西側の道路が狭いこと、道路を挟んだ向かい側の家の玄関前となること、車の通行量が違うこと、以前から本件集積場所の位置が変わっていないことなどを理由に反対し、他の案についても賛同を示すことはなかった。原告側は、6つの提案のうち、提案4以外については利用者側が関心を示さなかったと感じた。

話がすすまないことから、利用者側から代表として被告乙山二郎、NMの2人を選び、クリーン委員であるNBやHが加わって、原告側と協議を続けることとし、この日は散会した。 (甲10、乙B1)

(10)同月28日、A公民館で、原告、SH従業員、H、被告乙山二郎、NM、NBが、再度話し合いを持った。この日も本件集積場所の移設について合意に至ることはなかったが、原告側は、別紙図面3の提案4であれば利用者側が受け入れるのではないかと感じた。

そこで、原告は、提案4の場所に隣接する本件土地の幅30センチメートル、長さ250センチメートル分をごみ集積場所として提供する旨の提案4の修正案を作成し、Hに提案した。

Hは、この修正案を前提として、同年3月23日付けで本件集積場所の移設を伝える回覧板を回覧した。

これに対し、利用者側では、本件集積場所の移設に反対する署名簿を作成し、約30人が署名してHに提出した。 (甲10、乙B2)

(11)同年4月9日、A公民館に被告らと、NB、原告らが集まり、話合いがもたれた。クリーン委員のNBが、中立の立場から見て原告が自分の土地を提供するといっているのに現在の場所にこだわるのはどうかという趣旨の発言をしたのに対し、被告らが反発して退席し、話は進展しなかった。 (甲10、乙B1)

(12)本件集積場所には、1回当たり約4立方メートル、多い時には約6立方メートルのごみが出されている。

原告が本件建物の住民に対し、本件集積場所についての意見を聞いたところ、夏場ににおいがひどい、カラスなどがごみを散らかして困る、駐車場への出入りが不便であるなどの指摘がされた。 (甲10、弁論の全趣旨)

(13)本件土地の南側道路には、約25メートルないし約80メートルの間隔で、ごみ集積場所が設置されている、本件設置場所に一番近いごみ集積場所は、45メートル東側にある。また、本件土地の西側道路沿いには、本件集積場所から90メートル北側に行ったところにごみ集積場所がある。 (甲8)

(14)本訴において、原告は、本件集積場所からの移転先として、同所から80メートル以上東方に位置するA西公園南西端のごみ集積場所や、同所から本件土地に至るまでの道路端、別紙図面3の提案2、提案3及び提案5を提案している。これに対し、被告らは、提案2及び3の位置については、隣地所有者が同意するなら検討可能であるが、その余の場所については、遠方であることや隣地所有者が反対していることから無理であるとしている。 (弁論の全趣旨)

(15)原告が、平成20年10月5日ころ、本件土地の南側道路の南側端の暗渠になっているB井路の上にごみ集積場所を設置できないか、同井路の管理をしている事務所に問い合わせたところ、蓋がされていることから市道の一部という扱いになり、大分市が問題ないというのであればB井路として特に問題とすべき点はない旨回答があった。 (甲10、弁論の全趣旨)

2 検討

(1)本件集積場所に隣接する本件建物を所有している原告は、ごみ集積場所が存在することで被害を被り、その所有権の十全な行使が妨げられることもありうるといえるから、受忍限度を超える被害を受けている場合には、所有権に基づき、一般廃棄物の排出の差止めを求めることもできるものと解される。

そして、原告が本件集積場所によって被っている悪臭、ごみの飛散、不潔な景観による不快感その他による有形、無形の被害が、受忍限度を超えるかどうかの判断にあたっては、単に被害の程度、内容のみにとどまらず、被害回避のための代替措置の有無、その難易等の観点の他、さらには関係者間の公平その他諸般の見地を総合した上でされるべきものであると解される(東京高裁平成8年2月28日判決・判例時報1575号54頁参照)。

(2)そこで、本件における前記事情を検討するに、本件集積場所と本件土地及び本件建物の位置関係からすれば、本件土地の有効活用(具体的には駐車場の配置)に障害があること及び一定程度の悪臭や不快な景観が存在することは明らかであり、本件集積場所の利用者が、大分市の基準である25世帯を超えており、通常想定されるよりも多くのごみが排出されているものと推測できることからすれば、悪臭等の程度も決して少ないものではないといえる。本件土地周辺の道路は幅員が狭いものが多く、その中では本件土地南側の道路の幅員が広く、本件集積場所の部分が角切りされていて集積場所としては適している面があることは否定できないものの、現在のごみの量からすれば、交差点の見通しを妨げ、通行に全く支障がないというわけでもない(そもそも、ごみ収集運搬車が進入、作業できないような狭路を除けば、幅員の狭い道沿いにもごみ集積場所は存在するのであり、周辺の道路状況のみをもって本件集積場所のみが適当なごみ集積場所であるということはできない。)。特に、本件土地の南側道路は比較的幅員があるから、ごみの量が適正であれば、その路肩部分にごみ集積場所を移設しても、現在と比べて通行の障害が大きくなるとも思われない。

また、本件集積場所があることで、原告は、ごみが本件土地内に入ってこないように、不必要な壁を、原告の費用で作らざるを得なくなっている。本件集積場所が長年利用できているのは、単にそれまでの位置関係ではみるべき害悪がなかったか、あっても受忍限度内と所有者が考えていたことを示すに過ぎず、この点をもって本件集積場所に問題がないことの証左とはできない。

(3)一方で、本件土地にある駐車場は、出入庫しにくい場所もあるものの、駐車場としての利用ができないわけではなく、利用形態の障害は決定的なものではない。また、悪臭も、客観的なデータはなく、一般廃棄物処理のためにごみ集積場所が存在することは現在の社会生活上やむを得ないものであって、その周辺では当然一定程度の悪臭等の被害はあるものである。その具体的位置関係からすれば、本件建物住民と本件集積場所の周囲の住民の被害の程度には大きな差はなく、本件建物の住民にのみ負担を強いているとはいえない。よって、所有者である原告にのみ負担を強いているともいえない。また、本件建物は8世帯が入居可能であり、大分市のごみ集積場所設置の基準である25世帯の3分の1に当たることになることからすれば、具体的な設置場所がどこになるかは措くとしても、本件建物の入居者がごみを排出するごみ集積場所は、本件土地に隣接する道路上となることは十分予見されるところである。さらに、前記のとおり、周囲に幅員の狭い道路が多いことを考えると、本件建物南側の道路沿いにごみ集積場所を設けることには一定の合理性があり、中でも角切りがされていることから本件集積場所が利用されることには合理性があるといえるし、本件集積場所に代わるごみ集積場所として適切な場所を見いだすのは必ずしも容易ではない。そして、少なくとも、本件口頭弁論終了時点において、原告側で、具体的に、支障が少なく関係者の同意が得られる移転場所を示すことはできていない。

なお、原告は、本件集積場所から80メートル以上東方に位置するA西公園南西端のごみ集積場所等にごみを出すようにすればよいと主張している。しかし、同ごみ集積場所の具体的利用状況は証拠上明らかではないものの、現に利用されていることからすれば、本件集積場所の利用者全員が当該ごみ集積場所にごみを出すのは、大分市の1集積場所あたり25世帯という基準に明らかに反する状態となるし、本件集積場所の利用者の中には当該ごみ集積場所がかなり遠い者もあると考えられる。本件集積場所と当該ごみ集積場所の間にごみ集積場所が複数存在していることからしても、本件集積場所の利用者のうち当該ごみ集積場所に近い者について、利用するごみ集積場所を変更することはあり得るとしても、本件集積場所に代わり前記ごみ集積場所を利用するというのは困難といわざるを得ない。また、その他原告が提案する移設先についても、本件集積場所から大きく移動することや、隣地所有者が同意していないことなどから、別紙図面3の提案2及び3(隣地所有者の意向は証拠上明らかでない。)を除いては、現時点で移設の可能性に乏しいといわざるを得ない。

(4)前記の事情を総合考慮すると、本件口頭弁論終結時においては、本件集積場所の設置による原告の被害は、差止請求との関係では、受忍限度を超えているとはいえない。

ただし、本件集積場所の利用者は基準を大幅に超えており、これが原告に与える被害を大きくしているのは明らかであるから、同利用者の少なくとも一部を他の既存ないし新設のごみ集積場所に移す必要があり、ただちに利用者らにおいて対応すべきである。特に、本件建物以外の集合住宅の住民が本件集積場所にごみを出しているとすれば、それは原告に大きな負担を強いるものであり、当該集合住宅の所有者ないし管理者において適切な対応を取るべきであろう。

さらに、原告はB井路の事務所に問い合わせを行うなど、引き続き本件集積場所の移設について行動しているところであり、これらに対し、被告らが、その具体的な適否について検討しないまま、否定的対応に終始するようであれば、受忍限度を超えることも十分ありうる。ごみ集積場所の設置は一般廃棄物処理に必要なことであり、ごみを排出する利用者全員が適切な処理がされるよう協力すべきなのであって(廃棄物の処理及び清掃に関する法律2条の3参照)、本件集積場所の利用者は、その利用につき、原告に一定の負担をかけていることを十分に理解し、移設の申入れに真摯に対応すべきである。第1次的には原告において移設先を探すことになるにしても、他の利用者も関係者の受益と負担が公平なものとなるよう移設について検討すべきであろう。

3 以上によれば、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 野村武範)