新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1587、2015/4/20 13:24 https://www.shinginza.com/qa-souzoku.htm

【民事、被相続人の配偶者が被相続人の両親と養子縁組をして二重に相続人の地位を取得した場合、昭和36年9月18日民事甲第1881号民事局長回答参照、昭和23年8月9日民事甲第2371号民事局長回答】

被相続人の孫が、被相続人の養子となり相続人の地位が二重に発生した場合の相続分

質問:
 私の妻の父(被相続人)が亡くなりました。私の妻は以前に既に他界しており、相続人は配偶者である義母と子供である妻、そして妻の姉、さらに私たちの子供3人(代襲相続人)です。
 また、義父は、義母とともに私たちの一番下の息子を養子にしていました。
 義父には幾分かの財産がありましたが、遺言は特に書いていなかったため、先日、義母と義姉と相続について話をしたのですが、法定相続分どおりに分けることにしようということになりました。ただ、私の息子たちが妻の代襲相続人となることは分かるのですが、一番下の息子については、義父の子(養子)でもあり、その相続分がどうなるのかについて疑問が生じました。
 一番下の息子の相続分は妻の代襲相続人の相続分と養子としての相続分の両方の相続分となるのでしょうか。
 ちなみに、配偶者としての相続人の地位と兄弟としての相続人の地位(妻の両親と縁組をし、結果的に妻の他の兄弟とともに相続人になってしまったような場合。)の二つがある場合は配偶者としてしか相続人の地位が認められないということを聞いたことがありますが、本件の場合はどうなのでしょうか。頭の体操のような法律質問ですが教えてください。



回答:

1  あなたの一番下の息子さんは、被相続人である義父の子としての相続資格と、義父の子であるあなたの妻の代襲者としての相続資格という二つの立場が認められ相続分は両者の相続分の合計となります(昭和36年9月18日民事甲第1881号民事局長回答参照)。

2  この先例にしたがって相続分の計算を行うと
 ・義父の配偶者として、義母の相続分が2分の1
 ・義父の子として、義姉、亡くなったあなたの妻、一番下の息子さんの相続分が、6分の1ずつ
 ・亡くなった妻の代襲者として、あなたの3人の息子さんの相続分が、18分の1ずつ
 となります。
 以上を整理し、分かりやすく分母をそろえますと、義母が18分の9、義姉が18分の3、一番下の息子さんが18分の4、他の2人の息子さんたちが18分の1ずつの割合となります。

3  なお、配偶者としての相続人の地位と兄弟(妻の両親と縁組をした場合)としての相続人の地位が考えられる場合は、両者の地位を認めることはできず、配偶者としてしか相続人の地位が認められないという先例があります(昭和23年8月9日民事甲第2371号民事局長回答)。ご相談の場合と異なった結論になっていますが、この点については解説で説明します。

4  ちなみに、法定相続の制度趣旨を第一に私有財産制に基づく被相続人の合理的意思の推定、次に相続財産形成に対する実質的貢献と考えると、二重の相続人の地位が認められる場合原則は合計の相続分を認めるのが原則と考えられます。しかし、配偶者としての相続人の地位が併存し認められる場合、家族が夫婦が中核となって家族が構成されていることから配偶者の相続分が多くを占めることにかんがみて、例外的に他の相続人の地位の併存を認めないというのが民事局長回答の趣旨と考えられます。理論的にはどちらも成り立津ように思いますが、妥当な解釈でしょう。

5  関連事例集1295番660番参照。


解説:

1(1)相続事例を考える上で基本となるのが、相続人の確定です。個人が死亡した場合、その私有財産について誰が引き継ぐかという問題が相続の問題です。この問題については、個人の財産だったわけですから、本来は亡くなった個人の意思を尊重し誰が引き継ぐかを決定するのが私有財産制の原則と言えます。その意味では遺言によって相続を決めるのが基本と言えます。しかし、遺言書を作らないで亡くなる人がほとんどです。そこで、民法では、社会通念を前提に、まず相続人を決め、次に各相続人の相続分を決めるという形であらかじめ相続の方法を決めています。そして、相続人には、故人との生前の関係を考慮し、配偶者を常に相続人と定め、それと並列的な形で一定の血族(直系血族と兄弟)を相続人と定めました。そこで、民法上、相続人には配偶者であるということと血の繋がりによる血族相続人の二つの系統があるとされています。

    配偶者は常に相続人となりますが、血族相続人には、順位が定められており、第一順位は子とその代襲相続人(民法887条)、第二順位は直系尊属(889条1項1号)、第三順位は兄弟姉妹とその代襲相続人(889条1項2号、2項)となっています。

    簡単にいえば、被相続人に子がいれば、その子が相続人となり、子がいなければ、直系尊属が相続人となり、子も、直系尊属もいなければ、兄弟姉妹が相続人となるということです。

    代襲相続人とは、相続の開始以前に、相続人となるべき子、兄弟姉妹が死亡、相続欠格、相続廃除によって相続権を失った場合に、その者の直系卑属がその者に代わって相続分を相続する者のことをいいます。

    第一順位である被相続人の子には、養子も、非嫡出子も含まれます。
    第二順位の被相続人の直系尊属については、親等の近い者が優先して相続人となります(889条1項2号)。
    被相続人の配偶者は、血族相続人と並んで、常に相続人となります(民法890条)。

(2) 以上の基準に従って、ご相談のケースにおける相続人が誰なのかを見てみますと、義父の配偶者である義母、義父の実子である義姉、養子であるあなたがた夫婦の子である一番下の息子さんが相続人となります。

    義父の実子であるあなたの妻についてはすでに亡くなられているので、あなたがたの息子さん3人が代襲して相続することになります。

    したがって、義母、義姉、あなたがたの息子さん3人が相続人となります。

(3)ア ここでご相談にもありました一つの疑問が生じます。一番下の息子さんは、義父の子としての立場と、義父の子であるあなたの妻の代襲者としての立場とを持っているため、これについて、どのように考えることになるのかが問題となります。

    この点につき判断した判例は存在しないようなのですが、両方の相続人としての地位を認めた、以下の戸籍先例が存在します。

    「孫(亡長女の子)を養子とした者が死亡した場合、右の孫には、養子としての相続権と、亡母の代襲相続人としての相続権がある。」(昭和36年9月18日民事甲第1881号民事局長回答。以下,36年先例という)

    なお,所管行政庁である法務省が,実体法たる民法,商法,会社法や,不動産登記,商業登記の取り扱いについて発出した通達,回答などを先例といいます。回答というのは,登記に関する法令の解釈について,各法務局長や地方法務局長の照会に答えたものです。相続の登記の手続きについてはこの先例に従って登記申請を受理することになります。

    つまり、あなたの一番下の息子さんは、子と代襲相続人の両方の資格を有しているため、その分相続分が増えるということになります。

    イ これに対して,次のような先例も存在します。

     「長女と婚姻した養子が死亡した場合、その直系尊属および直系卑属がいないときは、妻たる長女は配偶者としての相続権のみを取得し、兄弟姉妹としての相続権を取得しない。」(昭和23年8月9日民事甲第2371号民事局長回答。以下,23年先例という。)。
     配偶者の両親と養子縁組した場合、配偶者の兄弟姉妹とは法律上も兄弟姉妹となります。兄弟姉妹とは2親等の血族を言うことから、養子縁組をした場合は養親の実子との関係は兄弟姉妹となります。そこで、配偶者が死亡し、さらに子供も両親もいない場合は兄弟姉妹が相続人になることから、配偶者と兄弟姉妹としての相続人の両方が認められるのか、疑問となります。この先例の事案では,配偶者と兄弟姉妹の資格が重複していますが,この場合において考慮されるのは配偶者としての資格のみで、兄弟姉妹としての資格は考慮されないとしたものです。

     このように,資格の重複を認める先例と認めない先例が存在しているのですが,このような違いを生じさせることとする考え方の根底には,先に説明したように民法が,相続人として,血族相続人と配偶者相続人という二つの独立した系統を認めていることにあると考えられています。すなわち,36年先例やご相談のケースにおけるような血族相続人という同じ系統内での資格の重複であれば,これを認めて差し支えないが,23年先例におけるような配偶者と血族相続人という異なる系統間での資格の重複については,血族相続人と配偶者相続人というものが独立した系統であることから,重複は認めるべきではない,との考え方があるためだとされています。

     このように血族相続と配偶者相続とを独立の系統とし両者の併存は認めないとするのは、配偶者が相続の際強く保護されているためです。現行民法では、配偶者は常に相続人となり、しかも相続分は子供がいる場合は2分の1、その他の場合は3分の2と他の相続人より厚く保護されています。これは、夫婦を家族の単位とする現行民法の立場からは当然ですし、死後の財産を配偶者に引き継がせたいという故人の意思に合致する結論と言えるでしょう。このように配偶者としての相続人の地位が厚く保護されている以上、更に血族としての相続を認める必要はないことになります。このような点から、ご相談の場合とは異なった結論になります。

2(1)相続人が誰なのかが決まれば、次に考えることになるのは、相続分がどうなるのかです。相続分は、被相続人の意思によって定められれば、それに従うことになります。これを相続分の指定といいます。この相続分の指定がない場合に、相続分が定まらないと困ってしまいますので、民法が相続分を定めています。これが法定相続分です(900条、901条)。

    子と配偶者が相続人である場合、相続分は、子が2分の1、配偶者が2分の1となります(900条1号)。

    直系尊属と配偶者が相続人である場合、相続分は、直系尊属が3分の1、配偶者が3分の2となります(900条2号)。

    兄弟姉妹と配偶者が相続人である場合、相続分は、兄弟姉妹が4分の1、配偶者が4分の3となります(900条3号)。

    子が複数の場合、均等に分けることになります。嫡出子と養子との間に区別はありません(809条)。なお、嫡出子と非嫡出子がある場合において、改正前民法においては、非嫡出子の相続分は嫡出子の相続分の2分の1とされていましたが(旧民法900条4号ただし書前段)、違憲であるとの最高裁判決が出たのち、この規定は削除され、現在においては、嫡出子も非嫡出子も同等の相続分を有することとされたことは、記憶に新しいことだと思います。

    直系尊属については、実父母、養父母の区別をすることなく、同じ親等の者が複数存在するときは、均等に分けることになります。

    兄弟姉妹が複数の場合も、均等に分けます。ただし、父母の一方のみを同じくする、いわゆる半血の兄弟姉妹は、父母の双方を同じくする全血の兄弟姉妹の相続分の2分の1となります(900条4号ただし書)。

    代襲相続人の相続分は、被代襲者が受けるはずであった相続分と同じとなりますが(901条1項本文、2項)、代襲相続人が数人あるときは、各自の被代襲者が受けるはずだった部分について、上記の基準にしたがって相続分が定められます(901条1項ただし書、2項)。

(2)以上の基準にしたがってご相談のケースにおける相続分を計算します。なお、分かりやすくするために、分数の計算式を用いることにします。

    まず配偶者である義母の相続分は1/2となります。

    子である義姉、亡くなったあなたの妻及び一番下の息子さんの相続分は、1/2×1/3=1/6ずつとなります。

    そして、亡くなっている妻の代襲者であるあなたの3人の息子さんたちの相続分は、1/6×1/3=1/18ずつということになります。

    これらを整理しますと、義母が1/2(9/18)、義姉が1/6(3/18)、一番下の息子さんが1/3+1/18=4/18、他の2人の息子さんたちが1/18ずつ、以上の割合となります。

    ただし、ご相談のケースにおいては、被相続人から生前贈与を受けた者があり、遺産に持戻すべき特別受益があるのかどうか(903条、904条)、被相続人の財産の維持や増加に特別に寄与した者がいるのかどうか(寄与分。904条の2)などが明らかではありませんので、上記の相続分が変わってくる可能性があります。ご不安なようでしたら、お近くの法律事務所へご相談なさってみてください。


<参照条文>
民法
(嫡出子の身分の取得)
第八百九条 養子は、縁組の日から、養親の嫡出子の身分を取得する。
(子及びその代襲者等の相続権)
第八百八十七条 被相続人の子は、相続人となる。
2 被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき、又は第八百九十一条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その相続権を失ったときは、その者の子がこれを代襲して相続人となる。ただし、被相続人の直系卑属でない者は、この限りでない。
3 前項の規定は、代襲者が、相続の開始以前に死亡し、又は第八百九十一条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その代襲相続権を失った場合について準用する。
(直系尊属及び兄弟姉妹の相続権)
第八百八十九条 次に掲げる者は、第八百八十七条の規定により相続人となるべき者がない場合には、次に掲げる順序の順位に従って相続人となる。
 一 被相続人の直系尊属。ただし、親等の異なる者の間では、その近い者を先にする。
 二 被相続人の兄弟姉妹
2 第八百八十七条第二項の規定は、前項第二号の場合について準用する。
(配偶者の相続権)
第八百九十条 被相続人の配偶者は、常に相続人となる。この場合において、第八百八十七条又は前条の規定により相続人となるべき者があるときは、その者と同順位とする。
(法定相続分)
第九百条 同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は、次の各号の定めるところによる。
 一 子及び配偶者が相続人であるときは、子の相続分及び配偶者の相続分は、各二分の一とする。
 二 配偶者及び直系尊属が相続人であるときは、配偶者の相続分は、三分の二とし、直系尊属の相続分は、三分の一とする。
 三 配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるときは、配偶者の相続分は、四分の三とし、兄弟姉妹の相続分は、四分の一とする。
 四 子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の二分の一とする。

   【参考】
   旧民法第九百条第四号ただし書
    ただし、嫡出でない子の相続分は、嫡出である子の相続分の二分の一とし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の二分の一とする。

(代襲相続人の相続分)
第九百一条 第八百八十七条第二項又は第三項の規定により相続人となる直系卑属の相続分は、その直系尊属が受けるべきであったものと同じとする。ただし、直系卑属が数人あるときは、その各自の直系尊属が受けるべきであった部分について、前条の規定に従ってその相続分を定める。
2 前項の規定は、第八百八十九条第二項の規定により兄弟姉妹の子が相続人となる場合について準用する。
(特別受益者の相続分)
第九百三条 共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、前三条の規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。
2 遺贈又は贈与の価額が、相続分の価額に等しく、又はこれを超えるときは、受遺者又は受贈者は、その相続分を受けることができない。
3 被相続人が前二項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思表示は、遺留分に関する規定に違反しない範囲内で、その効力を有する。
第九百四条 前条に規定する贈与の価額は、受贈者の行為によって、その目的である財産が滅失し、又はその価格の増減があったときであっても、相続開始の時においてなお原状のままであるものとみなしてこれを定める。
(寄与分)
第九百四条の二 共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする。
2 前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、同項に規定する寄与をした者の請求により、寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して、寄与分を定める。
3 寄与分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることができない。
4 第二項の請求は、第九百七条第二項の規定による請求があった場合又は第九百十条に規定する場合にすることができる。
(遺産の分割の協議又は審判等)
第九百七条 共同相続人は、次条の規定により被相続人が遺言で禁じた場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の分割をすることができる。
2 遺産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、その分割を家庭裁判所に請求することができる。
3 前項の場合において特別の事由があるときは、家庭裁判所は、期間を定めて、遺産の全部又は一部について、その分割を禁ずることができる。
(相続の開始後に認知された者の価額の支払請求権)
第九百十条 相続の開始後認知によって相続人となった者が遺産の分割を請求しようとする場合において、他の共同相続人が既にその分割その他の処分をしたときは、価額のみによる支払の請求権を有する。

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