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No.1593、2015/4/14 15:08 https://www.shinginza.com/qa-syounen.htm

【刑事、事後強盗の少年事件、対策と方法、福岡地裁昭和62年2月9日判決】

万引きからの事後強盗事案(少年事件)における身柄解放活動

質問: 私の息子が,事後強盗の罪で逮捕されたと警察から連絡がありました。何でも,学校の近くのスーパーでスマートフォン用のプリペイドカードをポケットに入れて万引きをして店を出ようとした際,店員に呼び止められたため,走って逃走しようとしたところ,道を塞いでいた店員に体当たりをして突き飛ばしてしまったらしいのです。突然のことでどうしたら良いか解りません。今後息子はどうなってしまうのでしょうか。息子は,現在公立高校に通う1年生です。学校に事件のことが連絡されてしまった場合,息子は退学になってしまうのでしょうか。退学を避けるためには,どうしたらよいでしょうか。



回答:
1 今回の息子さんの逮捕容疑である事後強盗罪(刑法238条)は,窃盗犯人が,逮捕されることを免れる等の目的で暴行・脅迫をしたときに成立する犯罪で,法律上は通常の強盗罪と同様に処罰されます。
万が一突き飛ばした店員がけがをしていた場合,強盗致傷罪というさらに重い罪名になる場合もあります。

2 息子さんの行為が事後強盗罪に当たるか否かは検討の余地がありますが、事後強盗罪の場合,今後予想される手続としては,まず事件が検察庁に送致され,検察官が10日間の勾留請求をする可能性が高いと言えます。勾留は追加で10日間(合計20日間)まで延長されることもあり,勾留期間が満了した後は,検察官が事件を家庭裁判所に送致することになるでしょう。
  その後は家庭裁判所に送致され,息子さんに対する少年審判を行う準備を進めます。具体的には,息子さんを観護措置にかける可能性が高いでしょう。
  観護措置とは,少年鑑別所が少年の身体を確保し,少年に各種の検査等を行い,家裁の審判に向けて少年の鑑別を行う措置であり,通常4週間の期間がとられます。
  その後,家裁で少年審判が行われます。少年審判では,非行事実(本件の事後強盗事件)や要保護性(生活環境,更生への意思等)を詳細に検討した上で,少年に対する保護処分を決定する手続です。
  少年審判は,非行事実の刑法上の罪名によってのみ判断されるものではありませんが,本件のような強盗罪の場合,保護観察処分又は少年院送致等の重い処分の可能性も予想されうるところです。

3 上記のように,本件の息子さんについては,相当期間の身体拘束及び厳しい保護処分が見込まれる状況です。
  これらを回避するためには,適切な弁護活動及び付添人活動を行う必要があります。
  勾留決定の前であれば,勾留請求をする検察官や,勾留の判断をする裁判官に対し意見書の提出や面談を行うことによって,勾留を回避できる場合もあります。また,勾留決定がされたあとであれば,決定に対する準抗告という手続をとることもできます。
  さらに,事件が家裁に送致された後でも,可能な限り観護措置を回避できるよう,家庭裁判所と交渉することが可能です。
  その為には,ご家族が身元引受人として指導監督を行うことを約束するだけでなく,被害者の方へ謝罪し,示談を成立させることも非常に重要です。
  示談を成立させることは,少年の身柄解放に資するだけでなく,最終的な保護処分の重さにも大きな影響を有しておりますので,早期に経験のある弁護士に申入れを依頼した方が良いでしょう。

4 また,少年が事件を起こした場合,学校へ事件について連絡がされてしまう危険があります。
  各警察署は,各学校との間で,少年事件に関する相互連絡の協定(警察・学校相互連絡制度)を結んでいる場合が多く,事件が起きた際は,同協定に基づき通報が為されてしまうのが原則です。
  しかし,事件後直ちに担当警察官と交渉することによって,稀に連絡を控えてもらうことが可能な場合があります。また,連絡を回避することが不可能であっても,連絡の時期や連絡内容について,警察と一定の協議をすることも可能です。
  警察によっては,必要以上に事件の内容を学校に話し,結果学校から退学処分を受けてしまう場合も多くみられます。
  特に本件では,事後強盗いう罪名上,退学処分の危険が十分考えられます。
  早期に弁護士等に対応を相談し、自分で手続きができないようであれば弁護を依頼した方が良いでしょう。

5 少年事件の場合,長期の勾留による悪影響も大きく,退学等の取り返しのつかない事態になることも多くあります。
  本件のような事案の場合,一見万引きと変わらない事案にも思えますが,法律上は強盗罪として扱われるため,長期の身体拘束や重い処分の危険が存在します。
  早期に経験のある弁護士に相談し,適切な対応を依頼すべきでしょう。

6 少年事件 関連事例集1572番1544番1459番1432番1424番1402番1336番1220番1113番1087番1039番777番716番714番649番461番403番291番245番244番161番参照。


解説:

1 事後強盗罪について

(1)事後強盗罪の要件

  今回息子さんは,事後強盗罪で逮捕されたとのことですので,まず事後強盗罪について解説します。

  事後強盗罪は,刑法238条に規定されている犯罪で,「窃盗が、財物を得てこれを取り返されることを防ぎ、逮捕を免れ、又は罪跡を隠滅するために、暴行又は脅迫をしたときは、強盗として論ずる。」とされています。その法定刑は,5年以上の有期懲役となる重い罪名です(刑法236条1項)。

  事後強盗罪が成立するための要件は,@窃盗犯人である者が,A財物を取り返されることを防ぎ,逮捕を免れ,又は在籍を隠滅するために,B暴行または脅迫をする,ことです。以下,本件で問題になる点について詳細を述べます。

ア 窃盗犯人であること

  本件では,店の商品であるプリペイドカードを万引きしたということですから,窃盗犯人であることは問題なく認められてしまうと思われます。

  また,事後強盗罪が既遂となるか否かは,基となる窃盗罪が既遂に達しているか否かで判断されるとするのが判例です(最判昭和24年7月9日刑集3巻8号1188頁)。

  プリペイドカードの様な小型の財物の場合,それをポケット等の自分の支配領域内に確保した時点で,窃盗罪の既遂となると判例は判断しています(大判大正12年4月9日)。そのため,本件も窃盗罪の既遂犯となっており,事後強盗罪についても,既遂犯として処罰される可能性が高いと言えます。

イ 逮捕を免れる等の目的について

  本件では,逃走の為に走っている際に,店員に体当たりをしているとのことでしたので,「逮捕を免れる目的」があったとみなされる可能性は高い状況です。

  一方で,被疑者を逮捕しようと追跡している人に暴行を加えたものではなく,単に道に居た店員に向けた暴行であることから,目的と暴行の一致が生じている点が問題になります。

  しかし,判例によれば,事後強盗罪は目的犯であり,犯人が逮捕を免れる等の目的で暴行を行っていれば,暴行の被害者が財物を取り返す等の行為を実際に行っていなくても成立するとされています(最判昭和22年11月29日刑集1巻1号40頁)。

  本件では,実際に体当たりを受けた店員の人は単に道をふさいでいただけであるとのことですが,本人が逃走の為に行為を行っているため,この要件も満たしてしまうでしょう。

ウ 暴行・脅迫について

  事後強盗罪における暴行・脅迫の程度は,強盗罪におけるものと同程度,すなわち相手の反抗を抑圧するに足りる程度のものが必要とされています(大判昭和19年2月8日刑集23巻1頁)。

  相手方の反抗を抑圧する程度の暴行か否かは具体的に検討する必要がありますが、ひったくりの様な行為態様の暴行でも反抗を抑圧するに足りる程度の暴行とされてしまっているのが現状です。しかし、裁判例の中には、万引き犯人が逮捕を試みたコンビニ店員の襟元付近を掴んだ上押し返すなどして逃走を図ろうとし、数分の間激しいもみ合い状況となった事案において、事後強盗(致傷)罪における「暴行」に該当しないと判断し た裁判例もありますから(福岡地判昭和62年2月9日)、息子さんの行為の事後強盗罪の「暴行」該当性は、結局のところ、把握できる限りでの具体的事情を基に検討せざるを得ないところだと思います。

  そのため,本件のような体当たりも,強盗罪における暴行に該当することを前提に弁護活動をする必要があります。

  なお,事後強盗罪における暴行の被害者は,窃盗の被害者と同一である必要はなく,別の被害者である場合も存在します。

  本件でも,窃盗の被害者(店舗)と,暴行の被害者(店員)が別個に存在する事例となります。

エ 致傷結果について

  本件では,店員に走って体当たりをしてしまったとのことですから,その点人がけがをしている可能性も考えられるところです。

  仮にけがをしていた場合,強盗致傷罪に罪名が切り替わることが考えられます。強盗致傷罪は,法定刑が6年以上の懲役であり,成人であれば裁判員裁判の対象となる非常に重い罪名です。

  強盗致傷における傷害結果は,傷害罪と同じく軽微な傷害も含むため,本件でも形式上強盗致傷罪に該当する可能性は予測しなければなりません。一方で,被害者の傷害が軽微であり,被害者と早期に示談が成立して被害者が宥恕している場合等は,傷害結果を事実上犯罪事実に含ませず,単なる強盗罪あるいは窃盗罪と暴行罪として処分され強盗致傷罪へ罪名が切り替わることを回避できる可能性も僅かに存在します。

  迅速に示談活動及び検察官交渉を進めるべきでしょう。

(2)以上のとおり,本件では事後強盗罪が成立する可能性が高く,場合によっては強盗致傷罪に罪名が切り替わる可能性が存在します。

   そのため,単なる万引き事件とは異なり,長期間の身体拘束為される可能性も高いといえます。

   それらの不利益を回避する可能性を出すためには,十分な弁護活動が必要な事案であるといえるでしょう。
 
2 予想される手続について

 (1)捜査手続きについて

   少年の場合であっても,捜査段階での刑事手続は,基本的に成人と同様に進められます。つまり逮捕後48時間以内に検察官に送致され,送致後24時間以内に,検察官が勾留するか否かを決定することになります。

   少年事件において勾留が認められる為には,通常の勾留の要件を満たしていることに加えて,「やむを得ない場合であること(少年法48条1項,43条)」が必要であるとされています。

   少年にとって,犯罪捜査のために長期間されることは,その心身に及ぼす悪影響が大きく,少年法も「勾留に代わる観護措置(少年法43条1項)」等の規定をおいていることからすれば,この「やむを得ない場合」とは,その字義通り厳格に解さなければなりません。

   しかし,実際には,少年事件の場合であっても,成人と変わらないような勾留の判断がされている場合も多く,特に本件のような重い罪名の場合,勾留決定がされてしまう可能性は高いといえるでしょう。

   勾留の期間は原則10日間ですが,必要があれば更に10日間までの延長がされてしまいます。

   長期の勾留を回避するためには,下記第3項で述べるような活動を行う必要があるでしょう。

 (2)家裁での手続について

   勾留期間が満了する前に,検察官は少年を家庭裁判所に送致することになります。

   家庭裁判所では,少年審判を行うために必要があると認める場合,監護の措置をとることができるとされています(少年法17条1項)。

   ここでいう「必要があると認める場合」とは,非行事実を犯した事を疑わせる事情があることのほか,審判を円滑に行うため(証拠隠滅の回避,逃亡の防止)に必要があるか,少年の保護が必要かどうか等の事情から判断されることになります。

   実務上,本件の事後強盗罪のように,刑法上重い罪名は非行事実となっている場合には,観護措置がとられる可能性は非常に高いといえます。

   観護措置決定が出た場合,少年は少年鑑別所において,各種の検査等の資質鑑別や,鑑別所内での行動についての行動観察を受けます。

   観護措置の期間は法律上2週間とされていますが,実際には1回の更新がされ4週間行われることが殆どです(少年法17条3,4項)。

   また,少年の観護措置と並行して,家庭裁判所の調査官により社会調査が行われます。調査官は,家庭環境等の調査を行い,収集した情報をもとに,少年の処遇に対する意見を述べます(少年法8条)。実務上は,この調査官の意見が,少年審判の結果に大きな影響を有しています。

   これらの家庭裁判所の調査をふまえ,少年審判が行われます(軽微な事案の場合,審判不開始となることもあります。)。

   少年審判では,少年に対する保護処分を決めることになります。保護処分の種類としては,保護観察や少年院送致などがあります。また,すぐに終局的な保護処分を決めずに,一定期間少年の様子を観察するという試験観察と言う処分もあります。

   保護処分を決めるに当たっては,少年の非行事実(いかなる犯罪を犯したか)と要保護性(再非行の危険性や保護の相当性等)を総合的に考考慮することになります。

   従って,少年審判においては,成人の刑事裁判と同様に犯した犯罪の重さ,罪名を第一の基準にして判断が決せられるものではありません。しかし,やはり重い罪名に該当する非行事実の場合保護処分の内容も,厳しい処分が予想されます。

   本件のような事後強盗罪の場合,保護観察又は少年院送致への可能性も考えられ,特に強盗致傷となってしまった場合には,少年院送致の回避が,まず目標となるでしょう。

   以下では,主に身体拘束からの早期解放を念頭に,本件で必要な弁護活動をご説明致します。

3 必要となる弁護人(付添人)活動について
 
(1)身体拘束からの解放

  ア 勾留回避に向けた弁護活動

  本件では,既に警察に逮捕されているとのことですので,まずは検察官に対して勾留請求を控えるよう交渉を行い,それでも勾留請求をされてしまった場合には,勾留を判断する裁判官に対して,勾留請求を却下するよう意見を述べることになります。これらの交渉は,可能な限り弁護人から直接の面談を申し入れる必要があります。

  余談ですが,少年被疑者の場合,検察官は,地方裁判所ではなく家庭裁判所に対して勾留請求をすることも可能です(刑訴規則299条2項)。横浜では,家庭裁判所が勾留決定を出す場合もありますので注意が必要です。

  これらの検察官及び裁判官に対しての働き掛けにおいては,成人の場合と同様,まず勾留の理由が無いことを主張しますが,実際上,勾留の理由として問題になるのは,@罪証隠滅又はA逃亡のおそれです。本件のような強盗事件の場合,罪証隠滅でもっとも問題になるのが,被害者への接触し,その証言を隠滅する危険があるという点です。

  この点については,単に口頭で被害者へは接触しないことを約束したとしても,検察官や裁判官の判断に影響を及ぼすことはできません。判断に影響を及ぼすためには,積極的に被害者へ接触しない旨を証拠化し,客観的な判断資料を作成することが必要です。家族の監督誓約書は勿論,被害者に接近しない旨の誓約書を作成することも必要です。(違反した場合の違約金等も設定する必要があります。)。

  イ 示談について

  そして最も重要なのが,示談の意思があることを積極的に示すことです。示談の意向を表明することは,罪証隠滅の危険が無いことを示すことについても大きな効果が期待できます。

  なぜなら,示談の申入れは,自分の罪を認め反省している事を示すため,その意向を持ちながら,被害者の証言を隠滅しようとすること通常想定できないためです。また,示談が成立すれば,被害者の処罰感情が解消され,被疑者に思い刑罰や保護処分が下される危険が小さくなることも,その理由の一つです。

  少年事件においても,やはり非行事実の被害者の処罰感情は,保護処分の内容を決定する上で大きな影響を及ぼします。

  先の少年審判を見据えた上でも,やはり示談活動には早急に着手すべきでしょう。

  示談の意向を表明する際にも,やはり客観的な証拠化は重要です。早急な示談の成立が難しい場合でも,示談金を準備した上で弁護士に預け,弁護士からその旨の証明証を発行してもらうと示談の意思の信用性が増大します。

  勿論,被害者に向けた謝罪文や反省分の作成も必要です。

  本件は,事後強盗罪であり,被害者としては,窃盗の被害者である店舗及び暴行の被害者である店員の2人が考えられます。

  双方に対して直ちに十分な示談の申入れをする必要があるでしょう。

  ウ その他少年事件の場合に留意すべき事項について

  その他,少年事件の場合は,法律上勾留は「やむを得ない場合」でなければ認められませんので,その点も強く主張する必要があります。

  特に少年の場合,長期間の身体拘束が続けば,通学している学校を退学になってしまう危険が非常に高くなります。学校を退学になれば,少年の社会における受け皿が無くなりますから,勾留を争う場合にも,この点を強く主張すべきです。

  具体的には,少年の通学態度に問題が無い旨の資料を準備(陳述書又は学校の成績表等)できれば良いでしょう。また,事件が学校に発覚してしまっている場合,可能であれば,通学先の学校の校長や担任教師等に上申書や陳述書等を作成してもらえれば,大きな効果が見込めます。

  学校との交渉は,退学となることを回避しつつ,可能な限りの協力を取り付ける必要があるため,非常に難しい交渉となります。

  経験のある弁護士に適切な対応を依頼するべきでしょう。

  エ 勾留における代替措置

  また,身体拘束が避けられない場合でも,少年事件の場合,勾留に代わる観護措置(少年法43条1項)をとるよう要請することもできます。勾留に代わる観護措置の場合,期間が10日間から延長できず(少年法44条3項),また家裁送致後の観護措置に日数が通算されます(少年法17条7項)。実務上例は多くありませんが,次善の策として要請すべきでしょう。

  また,勾留するにしても,勾留場所を警察の留置場ではなく,鑑別所にするよう請求することもできます(少年法48条2項)。少年を成人とおなじ留置施設とすることには悪影響も多いため,留置施設の状況によっては,対応を弁護士に相談しましょう。

  オ 勾留決定の後の手続について

  勾留決定が出てしまった後は,裁判官の決定に対し,準抗告の申立てや勾留取消の請求という手続をとり,勾留の当否についての再判断を要求することができます。

  準抗告の際に主張すべき事項,とるべき活動は,基本的に前項で述べた活動と同様です。現実的には,勾留決定までに上記の活動(特に示談等)を全て行うことは難しい場合もあるため,事情の変更があった場合は,これらの活動を積極的に行うべきでしょう。

  カ 観護措置を回避する活動について

  家裁に手続が以降した場合,被疑者段階の弁護人の立場は無くなるため,改めて弁護士を「付添人」として選任する必要があります。

  家庭裁判所では,裁判官が少年との審問を行い,いくつか質問をした上で,観護措置に付すか否かを決定します。

  その為,観護措置を回避するためには,弁護士は,付添人として審問の前に家裁の裁判官,調査官と面談等を行い,観護措置をとる必要が無い事情を積極的に主張することになります。

  また,観護措置の決定に当たっては,被疑者段階での勾留と異なり,少年の審問における受け答えも,判断に一定の影響を及ぼしています。従って,審問の前には,少年が適切な受け答えができるよう,付添人から的確な助言をする必要があります。

  なお,観護措置については,捜査段階の勾留とは異なり,少年の心身の鑑別のための措置ですから,少年のために観護措置が有益な場合もあり,一概に観護措置を否定することはできません。

  しかし,観護措置の期間は通常4週間と長期であり,それにより退学等の重大な不利益があることは見過ごせません。付添人弁護士とよく相談した上で,不当な観護措置を回避できるよう,可能な限りの対応を尽くすべきでしょう。

  なお,観護措置決定が出された後でその当否を争う方法としては,観護措置決定に対する異議申立て及び取消の請求が考えられます。

この手続については,弊所事例集1314,1336番等をご参照ください。

 (2)学校への連絡阻止について

  本件では,対象となる少年が公立の高等学校に通学する高校生であるとのことですので,本件を理由として学校で退学等の処分を受けることがないように,適切な対応を取る必要があります。

  まず,早急に対応が必要なのが,事件について学校へいきなり連絡されることを回避する活動です。

  各警察署は,各自治体の教育委員会との間で,少年事件に関する相互連絡の協定(警察・学校相互連絡制度)を結んでいる場合が多く,事件が起きた際は,同協定に基づき通報がなされてしまうのが原則です。例えば,東京都八王子市の場合は,逮捕事案については原則として学校へ連絡する運用となっております

※参考書類:警視庁の運用する協定書(八王子市)
http://www.city.hachioji.tokyo.jp/dbps_data/_material_/localhost/soshiki/kyoiku/kyoikusomu/sogokyoteisho.pdf

  しかし,事件後直ちに担当警察官と交渉することによって,連絡を控えてもらうことが可能な場合があります。

  また,連絡を回避することが不可能であっても,連絡の時期や連絡内容について,警察と一定の協議をすることも可能です。

  例えば,身柄解放の見込みがあれば,本人が釈放された後で,本人と共に学校へ報告した方が良い場合もあります。また,警察によっては,必要以上に印象悪く事件の内容を学校に話してしまうこともあるため,どうしても学校への連絡が回避できない場合であっても,弁護士に学校への対応を依頼し,事案について適切な弁明を依頼した方が,その後の学校の協力を得られる可能性が高まります。

  特に本件では,事後強盗という罪名で逮捕されている以上,早期の学校へ連絡及び退学処分の危険が十分考えられます。

  少年審判を見据えても,学校の協力や,今後も通学可能な環境が整っていることは非常に有利な事情となります。

  早期に弁護士等に対応を依頼した方が良いでしょう。

  なお,もし学校から自主退学等を強制された場合でも,簡単に応じてはいけません。この点については,弊所事例集1525番をご参照ください。

(3)少年審判に向けて

    上記身柄解放に向けた示談等活動は,仮に早期の身柄解放が達成できなかったとしても,少年審判において有利な事情として考慮されます。

    また,少年の両親が,私選で弁護人(付添人)を付け,自らも謝罪文の作成等を行い少年の更生に向けて努力をしていること自体が,少年の家庭環境が整っていること,両親に少年事件と向きあう覚悟があることを示すことにもなります。

    その意味でも,逮捕初期から弁護士に相談し,適切な対応を取ることは重要といえます。
   
4 まとめ

  少年事件の場合,長期の勾留による悪影響も大きく,退学等の取り返しのつかない事態になることも多くあります。

  本件のような事案の場合,一見万引きと変わらない事案にも思えますが,法律上は強盗罪として扱われるため,長期の身体拘束や重い処分の危険が存在します。

  早期に経験のある弁護士に相談し,適切な対応を依頼すべきでしょう。


≪参照条文≫
○刑法
(強盗)
第二百三十六条  暴行又は脅迫を用いて他人の財物を強取した者は、強盗の罪とし、五年以上の有期懲役に処する。
2  前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。
(事後強盗)
第二百三十八条  窃盗が、財物を得てこれを取り返されることを防ぎ、逮捕を免れ、又は罪跡を隠滅するために、暴行又は脅迫をしたときは、強盗として論ずる。

○少年法
(事件の調査)
第八条  家庭裁判所は、第六条第一項の通告又は前条第一項の報告により、審判に付すべき少年があると思料するときは、事件について調査しなければならない。検察官、司法警察員、警察官、都道府県知事又は児童相談所長から家庭裁判所の審判に付すべき少年事件の送致を受けたときも、同様とする。
2  家庭裁判所は、家庭裁判所調査官に命じて、少年、保護者又は参考人の取調その他の必要な調査を行わせることができる。

(観護の措置)
第十七条  家庭裁判所は、審判を行うため必要があるときは、決定をもつて、次に掲げる観護の措置をとることができる。
一  家庭裁判所調査官の観護に付すること。
二  少年鑑別所に送致すること。
2  同行された少年については、観護の措置は、遅くとも、到着のときから二十四時間以内に、これを行わなければならない。検察官又は司法警察員から勾留又は逮捕された少年の送致を受けたときも、同様である。
3  第一項第二号の措置においては、少年鑑別所に収容する期間は、二週間を超えることができない。ただし、特に継続の必要があるときは、決定をもつて、これを更新することができる。
4  前項ただし書の規定による更新は、一回を超えて行うことができない。ただし、第三条第一項第一号に掲げる少年に係る死刑、懲役又は禁錮に当たる罪の事件でその非行事実(犯行の動機、態様及び結果その他の当該犯罪に密接に関連する重要な事実を含む。以下同じ。)の認定に関し証人尋問、鑑定若しくは検証を行うことを決定したもの又はこれを行つたものについて、少年を収容しなければ審判に著しい支障が生じるおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある場合には、その更新は、更に二回を限度として、行うことができる。
5  第三項ただし書の規定にかかわらず、検察官から再び送致を受けた事件が先に第一項第二号の措置がとられ、又は勾留状が発せられた事件であるときは、収容の期間は、これを更新することができない。
6  裁判官が第四十三条第一項の請求により、第一項第一号の措置をとつた場合において、事件が家庭裁判所に送致されたときは、その措置は、これを第一項第一号の措置とみなす。
7  裁判官が第四十三条第一項の請求により第一項第二号の措置をとつた場合において、事件が家庭裁判所に送致されたときは、その措置は、これを第一項第二号の措置とみなす。この場合には、第三項の期間は、家庭裁判所が事件の送致を受けた日から、これを起算する。
8  観護の措置は、決定をもつて、これを取り消し、又は変更することができる。
9  第一項第二号の措置については、収容の期間は、通じて八週間を超えることができない。ただし、その収容の期間が通じて四週間を超えることとなる決定を行うときは、第四項ただし書に規定する事由がなければならない。
10  裁判長は、急速を要する場合には、第一項及び第八項の処分をし、又は合議体の構成員にこれをさせることができる。

(勾留に代る措置)
第四十三条  検察官は、少年の被疑事件においては、裁判官に対して、勾留の請求に代え、第十七条第一項の措置を請求することができる。但し、第十七条第一項第一号の措置は、家庭裁判所の裁判官に対して、これを請求しなければならない。
2  前項の請求を受けた裁判官は、第十七条第一項の措置に関して、家庭裁判所と同一の権限を有する。
3  検察官は、少年の被疑事件においては、やむを得ない場合でなければ、裁判官に対して、勾留を請求することはできない。

(勾留に代る措置の効力)
第四十四条  裁判官が前条第一項の請求に基いて第十七条第一項第一号の措置をとつた場合において、検察官は、捜査を遂げた結果、事件を家庭裁判所に送致しないときは、直ちに、裁判官に対して、その措置の取消を請求しなければならない。
2  裁判官が前条第一項の請求に基いて第十七条第一項第二号の措置をとるときは、令状を発してこれをしなければならない。
3  前項の措置の効力は、その請求をした日から十日とする。

(勾留)
第四十八条  勾留状は、やむを得ない場合でなければ、少年に対して、これを発することはできない。
2  少年を勾留する場合には、少年鑑別所にこれを拘禁することができる。
3  本人が満二十歳に達した後でも、引き続き前項の規定によることができる。


≪参考判例≫
最判昭和22年11月29日刑集1巻1号40頁
「次に刑法第二百三十八條の規定は窃盜が財物の取還を拒き又は逮捕を免かれ若しくは罪跡を湮滅する爲暴行又は脅迫を加へた以上被害者において財産を取還せんとし又は加害者を逮捕せんとする行爲を爲したと否とに拘はらず強盜を以って論ずる趣旨であると解するのが妥當である從って本件において原審は證據により原判示第三の事実を認定した以上前記法條により準強盜として處斷できるのであって所論の如く被害者において財物を取還せんとし又は加害者を逮捕せんとした事実を確定する必要はないのであるから原判決には所論二の違法はない。」


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