新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1596、2015/4/17 16:50
【民事、復代理人の保管物に関する引渡義務、最高裁昭和51年4月9日判決 】
復代理人の法的責任
質問:
祖父はレコード、LPを3000枚以上所有しているのですが、家族に誰も興味のある者がいないため、どうせなら興味のある人に持っていただいて、大事に扱って欲しいと思い、これらを処分することにしました。しかし、祖父は最近体調が良くないので、近所に住んでおり、良く世話もしている孫、私から見て従兄弟に当たる者に、自分に代わって処分することを頼むことにし、いくらで売るかなど、すべてを従兄弟に任せました。従兄弟が簡単に調べたところ、貴重なものが多いようで、少なく見積もっても100万円にはなるようでした。
従兄弟と私の共通の知人に、ちょうどレコード収集家がおり、従兄弟もその方に声を掛けるつもりでいたようです。従兄弟はレコード、LPを祖父から預かったところまでは良かったのですが、急遽仕事のため、長期間身動きが取れない状態となってしまいました。
そこで、共通の知人でもある私が従兄弟に代わることになりました。祖父の了解も得ています。私は、従兄弟からレコード等を受取り、知人に祖父のレコード等のことを話したところ、是非にということになり、金額の交渉をして150万円で売買することを決めました。私は知人からお金を受取り、知人へレコード等を引渡しました。
無事終わったので、私から直接祖父へ受け取った150万円を渡そうと思いましたが、従兄弟が元々自分が頼まれたことだから、お金は自分から祖父へ渡しておきたい、最後くらい自分でやらせてくれと言うので、150万円を従兄弟に渡しました。金額が大きいので、念のため従兄弟から受領証をもらい、祖父へも従兄弟に渡したと連絡しています。
すべてが終わったと思っていたところ、祖父から連絡があり、従兄弟がお金を渡さないまま仕事で海外赴任してしまい、経済的に困っているようで連絡も取れなくなってしまった、少しずつでもいいから返してくれとも言われています。
自分から直接祖父へお金を渡さなかったということで、私は祖父にお金を返さなければならないのでしょうか?
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回答:
あなたは、特別な事情がない限り祖父からの代金150万円の請求を拒むことができます。お伺いした事情を前提にすれば、祖父が従兄弟にレコード等の売却を委任し、そのための代理権を与え、従兄弟(代理人)があなたにレコード等の売却を委任し、そのための代理権を与えた、という法律関係が成立しているものと考えられます。
委任関係の面から見ると、祖父を委任者、従兄弟を受任者、あなたを復受任者といい、代理関係の面から見ると、祖父を本人、従兄弟を代理人、あなたを復代理人といいます。
あなたは、復代理人として、知人との間で売買の交渉をし、レコード等と引き換えに、代金150万円を受領していますが、このあなたが受領した150万円は、本人である祖父と、代理人である従兄弟の双方に対して引渡す義務を負っています。
そして、あなたは、祖父の代理人である従兄弟から150万円の引渡しを求められ、実際に引き渡しており、この時点で、本人である祖父に対する引渡義務も消滅することになります。
ご相談類似の事案において、最高裁は次のように判示しています。
「復代理人が委任事務を処理するに当たり金銭等を受領したときは、復代理人は、特別の事情がないかぎり、本人に対して受領物を引渡す義務を負うほか、代理人に対してもこれを引渡す義務を負い、もし復代理人において代理人にこれを引渡したときは、代理人に対する受領物引渡義務は消滅し、それとともに、本人に対する受領物引渡義務もまた消滅するものと解するのが相当である。」(最二小判昭和51年4月9日民集30巻3号208頁)
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解説:
1.ご相談のケースにおける法律関係は、祖父が従兄弟にレコード等の売却を委任し、そのための代理権を与え、従兄弟があなたにレコード等の売却を委任し、そのための代理権を与えた、という関係にあると考えられます。
委任関係の面から見ると、祖父を委任者、従兄弟を受任者、あなたを復受任者といいます。
代理関係の面から見ると、祖父を本人、従兄弟を代理人、あなたを復代理人といいます。
以下、これらの関係について法律上どのように扱われるのか検討したいと思います。
2(1)委任とは、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを受諾することによって効力を生ずる契約のことをいいます(民法643条)
なお、民法656条に、この節の規定は、法律行為でない事務の委託について準用する、と定められており、法律行為に限らず、事実行為の委託であっても委任に関する規定が準用することとされています(準委任)。そのため、何らかの行為を委託することは、結局は、委任であることになります。事実行為を委託する場合は、準委任契約と呼ばれ、代表的な具体例としては、医師と患者との間の診療契約が挙げられます。
法律行為というのは、ここでは契約のことと考えていただいて差し支えありません。
ご相談のケースに即していえば、祖父が売買契約という法律行為をすることを従兄弟に委託して、これを従兄弟が受諾していますから、祖父と従兄弟との間に委任契約が成立しているということになります。
(2)そして、さらに、ご相談のケースでは、従兄弟は祖父との間で成立した委任契約と同じ内容の法律行為をあなたに委託し、あなたはこれを受諾しているため、果たしてこれが有効な法律行為であるのかが問題となります。このような契約を復委任契約と言います。
委任契約は、当事者の人的信頼関係に基礎を置くものです。つまり、委任は、受任者の個性が重視されるところに本質があるため、受任者が自己を信頼して委任者から委託された事務を別の者にさらに委託する復委任契約は、この信頼に背くことになってしまい有効な契約とは言えないのではないか問題となります。
復委任契約についての規定は、民法上存在しないのですが、民法には、復代理に関する規定が存在しています。ですから、民法も復代理の前提となる復委任契約も当然有効なものとして予定しており、委任者が復委任、復代理権について承諾しているのであれば、委任者の利益が保護されることから、これを有効とすることになっています。
(3)ご相談のケースでは、後述のとおり、あなたは復代理となっていると考えられること、祖父の許諾を得てあなたが復受任者となっている状況であることから、有効に復委任契約は成立していると考えます。
3(1)代理とは、代理人の意思表示により、その法律効果が直接本人に帰属する制度をいいます(99条1項)。
この代理制度が認められているのは、私的自治の拡張と補充にあるとされています。
私的自治の拡張とは、一般人が自己の活動範囲を広げるということであり、私的自治の補充とは、無能力者あっても法律関係を結べるようにするということです。
ご相談のケースでは、祖父は、自分に代わる者として従兄弟にレコード等の処分を頼み、いくらで売るかなど、すべてを従兄弟に任せていることから、祖父は、従兄弟に対し、レコード等の処分に関する代理権を与えたものと考えます。
(2)そして、さらに、ご相談のケースでは、従兄弟が、急遽仕事のため、長期間身動きが取れない状態となったため、祖父の了解のもと、あなたが従兄弟に代わることとなっており、これは、祖父の代理人である従兄弟が、あなたを復代理人に選任したものと考えられます。
この点、民法104条は、委任による代理人は、本人の許諾を得たとき、又はやむを得ない事由があるときでなければ、復代理人を選任することができないと定めています。委任による代理人というのは、任意代理人のことですが、本人には、この人だから代理人に選任したという信頼が根底に存在します。そうであるのに、勝手に他の者を復代理人とされたのでは、本人を害してしまいます。
しかし、だからといって、絶対に復代理人を選任できないとしてしまうと、代理人のなり手がいなくなってしまい、結局は本人を害する結果となってしまうため、復代理人を選任することのできる例外的な場面を認めているということです。
(3)ご相談のケースにおいては、本人の許諾、具体的には、祖父の了解のもと、従兄弟はあなたを復代理人に選任していることから、この選任行為も有効であるといえます。
4.ここで、委任と代理について、似たような話であるのに、なぜ、わざわざ個別に述べているのか疑問に思われたかもしれませんので、これらの関係について、少し触れておきたいと思います。
委任というのは委任者と受任者の契約関係から生じる法律関係です。当事者がどのような債権債務を負うのか、という点に関する法律関係です。代理というのは代理人のする代理行為により本人にどのような効果が生じるかという面の規定です。ご相談の事案をシンプルにして、祖父が従兄弟にレコードの売却を依頼し、従兄弟はレコードを知人に売却した、というものにして話をすることにしましょう。
この事案のもとでは、祖父は本人・委任者、従兄弟は代理人・受任者、知人は相手方ということになり、結局は同じ話をしていることが分かります。
では、委任と代理の違いは何であるのか、という疑問が生じることと思いますが、先に見たとおり、代理というのは、代理人の意思表示により、その法律効果が直接本人に帰属する制度であり、本人・代理人・相手方という三者の関係を規律するものとなっています。
これに対し、委任というのは、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを受諾することによって効力を生ずる契約であり、言い換えると、委任者と受任者の関係を規律するものです。代理との対比でいえば、委任は内部関係を規律するものといえます。
仮に、祖父と従兄弟との間で、委任契約しか行われなかった場合、どのようなことになるのかといいますと、委任はあくまで、祖父(委任者)と従兄弟(受任者)との間の内部関係を規律するものに過ぎませんから、従兄弟が知人と行った売買契約の効果が祖父に及ぶことはありません。レコードの所有権を知人に対して移転させるためには、従兄弟が祖父からレコードの所有権を取得するということが別途必要になってきます。
これが迂遠であることはお分かりいただけると思います。そうであるならば、祖父は従兄弟に対して代理権も与えておけば、代理人である従兄弟が知人との間で行った行為の効果を、直接本人である祖父に帰属させることが可能となり、話がスムーズです。
このようなことから、委任契約と同時に、受任者に対して代理権を与えることが通常となっているのです。
このように、委任と代理は別個の制度であり、委任関係があるからといって、常に代理関係がある訳ではなく、個別の検討が必要となってきます。ただ、上記のような事情から、委任関係がある場合には、代理関係も存在するということがほとんどであると考えられるのです。
この点を理解すれば、代理人として復代理人が受領した金員を誰に引き渡す義務があるかという本件の問題は委任契約あるいは復委任契約の問題ということが理解できるはずです。
5(1)復代理人とは、代理人が自己の名において選任する者のことをいいます。
もっとも、復代理人は、法的には代理人の代理人ということではなく、あくまで本人の代理人とされています。そして、代理人は、復代理人を選任した後も、自己の代理権を失うことはないと解されています。
なお、代理人が自己の名ではなく、本人の名において選任した者は、復代理人ではなく、本人の代理人と解されています。
(2)このように、復代理人は、代理人の名において選任されるものであるため、代理人と復代理人の間に委任契約などの内部関係が生じるとしても、そのことからのみ直ちに、本人と復代理人との間に内部関係を生じることはないはずです。
しかし、民法107条2項は、復代理人は、本人及び第三者に対して、代理人と同一の権利を有し、義務を負う、と規定し、本来生じないはずであるところの本人・復代理人間に、本人・代理人間と同様の内部関係を生じさせることとしています。
このような規定が置かれているのは、本人が復代理人の行為によって、代理人と同様の利害を受けることになるため、復代理人に対しても、代理人に対するのと同様の内部関係を生じさせることが便宜であるためだと解されています。
(3)復代理人と本人との関係について判断した判例も存在しますので、ご紹介しておきます。事案を簡略にすると、復代理人が復代理人として受領した恩給証書を本人に返還すべき義務を負っているか否かが争われたのですが、判決は民法107条2項を根拠に返還義務を認めました。
「原審ハYハ訴外Aニ對シ其ノ受領權ヲ有スル本件恩給金ノ受領方ヲ委任シ之カ代理權ヲ授與スルト共ニ委任状及恩給證書ヲ同人ニ交付シタルトコロ同人ハ更ニYノ許諾ニ基キX先代Bニ對シ右恩給金受領方ノ復委任ヲ爲シ復代理人トシテ事務ヲ處理セシムル爲右委任状及恩給證書ヲ同人ニ交付シタルカ右Bハ昭和十一年六月五日死亡シXニ於テ其ノ家督相續ヲ爲シタリトノ事實ヲ確定シタルモノトス而シテ復代理人ハ本人ニ對シテ代理人ト同一ノ權利義務ヲ有スルモノナルコト民法第百七条第ニ項ノ規定ニ照シ明ナルヲ以テ右原審確定ノ事實ニ依レハX先代BトYトノ間ニハA及Y間ニ於ケルト同一ノ委任關係ヲ生スルニ至リタルモノナルトコロ該委任關係ハ昭和十一年六月五日受任者タルBノ死亡ニ因リ終了シタルモノト謂ハサルヘカラス故ニ先代Bノ家督相續ヲ爲シ以テ其ノ權利義務ヲ承繼シタルXハ曩ニ先代Bニ於テ委任事務處理ノ爲交付セラレタル本件恩給證書ヲYニ對シ返還スヘキ義務アルコト勿論ニシテXカ現ニ該恩給證書ヲ占有スルト否トハ之カ返還義務ノ消長ニ何等ノ影響ナキトコロナリトス」(大判昭和13年3月10日大民集17巻392頁。以下、昭和13年判例という。)。
この昭和13年判例の事案では、復代理人が死亡し、相続が発生してしまっている点で、話が少し複雑に見えるのですが、この判例の要点としては、復代理人と本人との間には、代理人と本人との間におけるのと同一の法律関係が生じること、復代理人が委任事務を処理するにあたり受領したものがあるときは、本人は復代理人に対してその受領物の引渡しを請求することが可能であること、にあります。
その根拠として、前段については、民法107条2項により明らかであるとしています。
(4)なお、昭和13年判例の事案と同様、復代理人が委任事務を処理し、受領物を保管している場合に、本人から代理人に対して受領物の引渡し請求ができるかについての判例も存在しますので、ご紹介しておきます。この判例では、復代理人が受領保管している場合は、代理人には委任者への引き渡し義務はないとしています。委任契約がある以上は、代理人が受領したものを保管しているか否かにかかわらず、本人である委任者に返還義務を負っているはずですが、引き渡し義務はないとの結論を取っています。しかし、復代理人が本人に引き渡すことができない場合は、復代理人の選任監督に故意過失があった場合は損害賠償ができるとしています。
「民法第百五條第一項ニ依レハ委任ニ因ル代理人カ其ノ權限ニ基キ復代理人ヲ選任シタルトキハ選任及監督ニ付本人ニ對シテ其ノ責ニ任スルニ過キス加之同法第百七條第二項ニ復代理人ハ本人及第三者ニ對シテ代理人ト同一ノ權利義務ヲ有ストアリテ本人ト代理人トノ間ニ委任ノ關係アルトキハ之ト同一ノ關係カ本人ト復代理人トノ間ニ成立スルモノナルカ故ニ今復代理人カ受任者トシテ委任事務ヲ處理シタル場合ニ於テ其ノ者ノ選任及監督ニ付代理人ニ過失アリテ本人ニ損害ヲ生シタリトセハ代理人ニ賠償責任ヲ生スヘシト雖モ代理人ハ復代理人カ受任者トシテ受取リタル金錢其ノ他ノ物ニ付本人ニ對シテ返還義務ヲ負フモノニ非スシテ本人ハ復代理人ニ對シテノミ其ノ返還ヲ請求シ得ルニ止マルモノト解スルヲ相當トス」(大判昭和10年8月10日法律新聞3882号13頁、判例彙報46巻下民353頁)
復代理人が受領物を保管している状況では、本人は復代理人に対してのみ、受領物の引渡しを請求することができ、代理人に対しては請求することはできないとした判例です。やはり、受領物を保管しているのは復代理人なのだ、という点が根拠となっていると思われます。
6(1)このように、本来生じないはずの内部関係が、本人・復代理人間に生じると考えられているのですが、この場合、本人・代理人間の内部関係と、代理人・復代理人間の内部関係がどのようになるのかについて整理すると次のようになります。
ご相談のケースに即して更に具体的にいえば、復代理人に受領した物がある場合、これを本人に交付する義務があるのか、代理人に交付する義務があるのか、はたまた、それらの一方のみに義務があるのではなく、双方に義務があるのか、双方に義務があるのだとすれば、一方に交付した場合に、他方の義務はどうなるのかが問題となります。
この点、ご相談のケースと同様、復代理人が委任事務を処理するにあたり受領した物があったが、これを代理人に引き渡したという事案における判例がありますので、ご紹介します。結論としては、復代理人が委任事務を処理するに当たり金銭等を受領したときは、復代理人は、特別の事情がないかぎり、本人に対して受領物を引渡す義務を負うほか、代理人に対してもこれを引渡す義務を負い、もし復代理人において代理人にこれを引渡したときは、代理人に対する受領物引渡義務は消滅し、それとともに、本人に対する受領物引渡義務もまた消滅するものと判断しています。
「本人代理人間で委任契約が締結され、代理人復代理人間で復委任契約が締結されたことにより、民法一〇七条二項の規定に基づいて本人復代理人間に直接の権利義務が生じた場合であっても、右の規定は、復代理人の代理行為も代理人の代理行為と同一の効果を生じるところから、契約関係のない本人復代理人間にも直接の権利義務の関係を生じさせることが便宜であるとの趣旨に出たものであるにすぎず、この規定ゆえに、本人又は復代理人がそれぞれ代理人と締結した委任契約に基づいて有している権利義務に消長をきたすべき理由はないから、復代理人が委任事務を処理するに当たり金銭等を受領したときは、復代理人は、特別の事情がないかぎり、本人に対して受領物を引渡す義務を負うほか、代理人に対してもこれを引渡す義務を負い、もし復代理人において代理人にこれを引渡したときは、代理人に対する受領物引渡義務は消滅し、それとともに、本人に対する受領物引渡義務もまた消滅するものと解するのが相当である。そして、以上の理は、復代理人がさらに適法に復代理人を選任した場合についても妥当するものというべきである。」(最二小判昭和51年4月9日民集30巻3号208頁。以下、昭和51年判例という。)。
(2)この昭和51年判例は、民法107条2項により、復代理人と本人との間には、代理人と本人との間におけるのと同一の法律関係が生じるという昭和13年判例の確認を行った上で、復代理人は、本人、代理人の双方に対して受領物の引渡義務を負うものであるとしました。
そして、復代理人がその受領する物を代理人に引き渡したときは、本人への引渡義務は消滅するとしました。つまり、この場合、本人は復代理人に対して受領物を交付するよう求めることはできないということです。これは、復代理人と本人との間には、代理人と本人との間と同一の法律関係が生じるため、その義務の内容は同じということであるので、一方の義務が消滅すれば、他方の義務も消滅するということだと考えられます。また、請求しようにも、すでに復代理人は受領物を保管していないということも挙げられるでしょう。
(3)ただ、昭和51年判例は、「特別の事情がないかぎり」、復代理人は、本人、代理人の双方に対して受領物の引渡義務を負い、仮に代理人に引き渡したときは、本人に対する引渡義務が消滅するとしています。
例外的な場面があり得ることを示唆していますが、具体的にどのような場合に、その例外に当たることになるのかまでは明らかにしていないため、今後の判例を待つほかありません。考えられる場面としては、例えば、復代理人が受領した物を代理人に渡してしまっては、代理人が持ち逃げしてしまう危険が高い何らかの事実があり、このことを復代理人が知っていたあるいは、知りうべき場合が考えられるでしょう。
このような場合、復代理人は、代理人に受領物を引き渡すのではなく、本人に対してのみ引き渡すべきではないかと考えられます。
(4)なお、昭和51年判例では、復代理人が代理人に対して受領物を引き渡した場合の本人に対する引渡義務についてしか触れておらず、本人に対して引き渡した場合の代理人に対する引渡義務については触れるところではありません。
この点については、本人に対して受領物を引き渡した場合、代理人に対する引渡義務は消滅すると解して問題ないと思われます。
なぜなら、一方が消滅すれば、他方も消滅するという関係は同じですし、そもそも、受領物は最終的に本人に引き渡されるべきものであるところ、その本人が受領をしている以上、もはや代理人に対する受領義務を存続させる意味はないと考えられるからです。
7.ご相談のケースについて見てみると、あなたは自身の交渉の結果150万円での売買を決め、150万円を受領しています。原則論としては、その受領した150万円は、本人である祖父と、代理人である従兄弟の双方に対して、150万円の引渡義務があることになります。
特別の事情があるかについて見てみると、従兄弟は、祖父の近所に住んでおり、良く世話もしていた間柄であること、祖父とそのような間柄にある従兄弟から、元々自分が頼まれたことだから、お金は自分から祖父へ渡しておきたい、最後くらい自分でやらせてくれと言われたこと、従兄弟から受領証も発行してもらっており、持ち逃げするとは考えにくいであろうこと、などの事情があることを考えると、特別の事情は存在しないものと見て良いように思います。
したがって、昭和51年判例の示した原則論どおり、復代理人であるあなたは、代理人である従兄弟に対して委任事務処理の受領物である150万円を引き渡していますので、本人である祖父に対する受領物引渡義務は消滅しており、祖父のあなたに対する150万円の引渡請求は認められないことになります。
ご心配でしたら、お近くの法律事務所へご相談なさってみてください。
<参照条文>
民法
(代理行為の要件及び効果)
第九十九条 代理人がその権限内において本人のためにすることを示してした意思表示は、本人に対して直接にその効力を生ずる。
2 前項の規定は、第三者が代理人に対してした意思表示について準用する。
(任意代理人による復代理人の選任)
第百四条 委任による代理人は、本人の許諾を得たとき、又はやむを得ない事由があるときでなければ、復代理人を選任することができない。
(復代理人を選任した代理人の責任)
第百五条 代理人は、前条の規定により復代理人を選任したときは、その選任及び監督について、本人に対してその責任を負う。
2 代理人は、本人の指名に従って復代理人を選任したときは、前項の責任を負わない。ただし、その代理人が、復代理人が不適任又は不誠実であることを知りながら、その旨を本人に通知し又は復代理人を解任することを怠ったときは、この限りでない。
(復代理人の権限等)
第百七条 復代理人は、その権限内の行為について、本人を代表する。
2 復代理人は、本人及び第三者に対して、代理人と同一の権利を有し、義務を負う。
(委任)
第六百四十三条 委任は、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる。
(受任者の注意義務)
第六百四十四条 受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。
(受任者による報告)
第六百四十五条 受任者は、委任者の請求があるときは、いつでも委任事務の処理の状況を報告し、委任が終了した後は、遅滞なくその経過及び結果を報告しなければならない。
(受任者による受取物の引渡し等)
第六百四十六条 受任者は、委任事務を処理するに当たって受け取った金銭その他の物を委任者に引き渡さなければならない。その収取した果実についても、同様とする。
2 受任者は、委任者のために自己の名で取得した権利を委任者に移転しなければならない。
(受任者の金銭の消費についての責任)
第六百四十七条 受任者は、委任者に引き渡すべき金額又はその利益のために用いるべき金額を自己のために消費したときは、その消費した日以後の利息を支払わなければならない。この場合において、なお損害があるときは、その賠償の責任を負う。
(準委任)
第六百五十六条 この節の規定は、法律行為でない事務の委託について準用する。