新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1599、2015/4/20 17:33

【民事、無断で家族に署名押印された保証契約の保証意思の存在、保証契約に必要な書面性の具体的内容、債権者から請求された場合の対策、東京高等裁判所平成24年1月19日判決、平成16年の民法改正(施行日平成17年4月1日施行)】

無断で家族に署名押印された保証契約の有効性


質問:突然,消費者金融から300万円の連帯保証の請求通知が来てしまいました。通知書に添付された契約書を確認すると,私の息子が新車を購入し,消費者金融に立替払(ショッピングローン)してもらったようなのですが,車の販売契約書(立替払の契約書)の連帯保証人の欄に私の名前を勝手に記入し,さらには息子が勝手に買った三文判で押印してしまって,提出したようなのです。ただ,今思い返すと,販売契約書に記載された私の携帯電話宛てに,消費者金融から電話がありました。そのとき私は忙しかったので会話の内容は詳しく聞いていないのですが,息子さんが車を買われましたよねと言われたかもしれません。私は,そうですかとはいいましたが,電車の中だったこともあり詐欺かもと怖くなり,はいはい,と言ってそのまま電話を切ったことがあります。このことが保証するというのと誤解されたのかもしれません。通知書には裁判手続を取るとなっていますが,どうしたらよいでしょうか。弁護士に相談した方が良いでしょうか。

回答:
1 通知書を無視していると、次には裁判手続きになってしまうことが予想されます。裁判を避けるためには、契約書の保証人の欄の署名捺印は、自分のものではなく、息子さんが勝手に行ったものであることを理由に保証人としての責任がないことを消費者金融に通知、回答する必要があります。

2 あなたが、上記のような通知回答をすると、消費者金融は、書面捺印をあなたが行っていないとしても、電話で確認した際、保証人となることを承諾したことを理由に保証人の責任がある旨主張することが考えられます。
 この点については、保証人となることの意思の確認についても契約書の保証人の署名捺印と同様に「保証債務の内容を了知した上で債権者に対して書面(それに相当する書面)で明確に保証意思を表示」することが必要とされています。
 すなわち,消費者金融が電話で保証意思の確認の連絡をとり,了解を得たという記載が電話記録で残されているだけでは足りず,原則として保証人自身が書面で積極的かつ明確に保証意思を表示していることが必要となります。本件のような電話内容のみでは,保証意思があったとして保証契約の成立を認めることは困難と考えられます。もちろん,個別の連絡内容や状況によって結論は異なり得るところですので,念のため弁護士への相談を受けてください。

3 保証契約に関する事務所事例集 としては,440番618番635番849番等を参照してください。

4 民事事件としての法律関係は上記の通りですが、息子様が自動車ローンの契約書の保証人欄に他人名義の署名捺印を行って、自動車代金の立替払いを受けたという行為は、刑法上の私文書偽造罪(刑法159条1項)、同行使罪(刑法161条1項)、及び詐欺罪(刑法246条1項)の構成要件に該当するおそれがあります。ローン契約書で保証人欄に親の名義を署名捺印することは多数の事例がありますので、被害届が受理されて立件される可能性は高いとは言えませんが、念のため注意する必要があります。


解説:

第1 保証契約の要件及び成否

 1 現在あなたが置かれている法的な地位(強制執行の危険性)

 (1)まず,前提としてあなたが現在置かれている法的な地位について説明します。あなたの息子さんが締結した新車の販売について,消費者金融が立替払いしているとのことですが,こちらの立替払契約は息子さんの意思に基づくものなので,有効に成立しています。

    そして,あなたが作成した契約書ではないですが,息子さんがあなたの氏名を連帯保証人欄に記載されてしまったとのことですが、連帯保証人は,息子さんが負っている主たる債務と同一の条件の債務を負うことになりますので,連帯保証契約が有効であれば、弁済期が到来し主債務者が支払わない段階で,法的な支払義務が生じることになるのです。

 (2)もちろん,契約上の債務は,債務者とされるあなた本人の意思に基づくものでなければなりません。従って、あなたが保証人欄に署名捺印していないのであれば原則として契約は成立せず保証人の責任も生じないことになります。しかし,本件で300万円の支払通知を無視した場合,消費者金融は法的措置に移行する可能性が極めて高いところです。消費者金融側は,保証意思も電話で確認でき,契約書もあなた本人が作成したと考えているためです。

  消費者金融が裁判所に訴訟を提起したり,裁判所を通じた支払督促を行いそれが確定してしまった場合,実際にあなたが契約をしたか否かに関わらず,あなたが保有する財産について,消費者金融が300万円の強制執行により支払いを受ける権利を取得することになってしまいます。

  本件では外形上は有効な連帯保証契約書が作成されていることに加え,電話にて保証する意思の確認の電話がなされていると主張されているのですから,消費者金融が法的措置に移行する可能性は十分に考えられます。したがって,本件通知を無視するべきではなく,直ちに弁護士に相談し,しかるべく行動を起こす必要があるでしょう。本件通知を無視していると、結果的に裁判となり解決に費用や時間がよりかかってしまうことになります。

 2 保証契約の成否と保証意思の確認

 (1)保証契約とは

    次に,本件で保証契約が成立するか否か,まず保証契約の成立要件について検討していきます。

    保証債務とは,主たる債務(本件では息子さんの消費者金融に対する立替金債務)について,その債務が履行されないときに,同内容の支払責任を負う債務のことをいいます(民法446条1項)。本来,保証債務とは主債務が履行されない場合に支払えばよく,債権者から請求があった場合には,まずは主債務者に弁済をするように催告すること(催告の抗弁権,民法452条)や,主債務者に資力がありかつ執行が容易な資産がある場合にはまず主債務者の財産を執行すること(検索の抗弁権,民法453条)を求めることができます(保証債務の補充性)。

    もっとも,本件のように「連帯保証」の特約を結んだ場合には,上記の2つの抗弁権を保証人が有することはなく,主債務者が弁済期までに弁済しない場合には,直ちに保証人が主債務と同内容の支払義務を負うことになります。金融機関が締結する保証契約は,ほぼ全てこの連帯保証契約になっています。

 (2)保証契約の成立要件

    (連帯)保証契約の成立要件は,以下のアからエの4点になります(民法446条1項,2項)。連帯保証契約でない場合には,エは不要です。

    ア 主債務の成立(発生原因事実)

    保証契約は,主たる債務に付随する債務ですから,まずは主たる債務の発生が当然の前提となります(保証債務の付従性)。本件では,立替払契約が主たる債務に該当しますが,この点は息子さんがその意思に基づいて作成した契約書によって,証明としては十分といえるでしょう。

    イ 保証契約の成立

    次に,保証債務も契約によって成立することになりますので,債権者・債務者間で,主債務が履行されないときにその履行する責任を負う保証債務を約束する,保証契約を締結することも当然必要になります。本件では,この点が非常に問題となりますが,(3)以下で述べることにします。

    なお,契約書への署名については,必ずしも契約者本人が行う必要はなく,本人の同意を得て代筆を行う,代行方式も有効とされています。

    ウ イの保証契約が,書面又は電磁的記録でなされたこと

    通常の契約と異なり,保証契約においては「書面又は電磁的記録」によってなされたことが必要になります(民法446条2項)。すなわち,書面を要する要式契約というところに,保証契約の大きな特徴があります。

    この点について,従来,保証契約の成立には,書面性は要求されていませんでしたが,平成16年の法改正において,書面(電磁的記録)がなければ,保証契約は成立しないとして,保証契約成立のための不可欠な要件となりました。保証契約は,(特に連帯保証)主債務と同じ内容の責任を伴いますので,当初の契約時には想定していなかった多額の債務を追ってしまう可能性があります。しかし,保証人になろうとする人は,契約時点ではあまり後の法的責任を考えずに保証契約に了承してしまう事例が多くありました。実際に,軽い気持ちで保証人になり,思ってもいなかった多額の負債を抱えてしまい,保証契約は社会問題となっていました。そこで,自らの意思で保証契約に署名,押印をしなければ保証契約は成立しないとして,手続を慎重にし,保証を慎重にさせるため,平成16年の民法改正(施行日平成17年4月1日施行)保証契約には書面(電磁的記録)が必須となりました。

    保証契約に書面性が要求される趣旨については,東京高等裁判所平成24年1月19日判決が以下のようにも述べています。

「同項の趣旨は,保証契約が無償で情義に基づいて行われることが多いことや,保証人において自己の責任を十分に認識していない場合が少なくないことなどから,保証を慎重にさせるにある。」

    すなわち,保証人に対して書面を作成させることによって,自己の責任の範囲を自覚させ,保証債務を負うことについて慎重になってもらう,というところに趣旨があります。上で述べたように,親族や知人間で簡単に保証人になり多額の債務を負うことになる事例が頻発したことから,法改正によって導入されたものです。

    ここにいう「書面」については,必ずしも保証契約の申込み・承諾を共に書面で行う必要はなく,「保証意思が書面上現れていれば足りる」ということになりますが,金融機関が保証契約を結ぶ際には,ほぼ例外なく保証契約の契約書が作成されているところです。

    なお,法改正(平成17年4月1日施行)前に成立した保証契約の場合には,保証契約の成立に書面性は要求されていませんから,書面以外の手段で保証意思の確認が債権者側で取れたと認定されれば,そのまま保証契約が成立する(若しくは保証契約を追認した。)という判断になってしまう可能性が,法改正後の保証契約に比べて高くなってしまうと考えられます。

(3)金融機関に対する保証意思の確認,契約成立の危険性

    では,本件で保証契約は成立しているといえるのでしょうか。この点については,確かに連帯保証の契約書にあなたが署名押印したものではなく,必ずしも契約書のみでは保証契約の成立を裁判所が認定するのは難しいかもしれません。しかし,息子さんが契約書についてあなたの同意を得て署名押印したものであり,代行方式で行った者であるから有効であるという説明をしている可能性があります。

    また,消費者金融等の金融機関は契約書の確認に加え,保証人に対して電話で連絡を取り,保証人に対して保証する意思(保証意思)の確認を取ることが通常です。実際に,本件でも保証意思の確認が電話で取られています。

    そして,消費者金融は保証意思の確認が取れた場合には,担当者が電話記録を取り,聴取記録の書面に保証意思があることを記載します。本件でも「はいはい」と言って電話を切ってしまっているので,保証意思があったと取られてしまい,300万円の通知が来ていると思われます。

    このような電話による保証意思の確認の事実が認められる場合保証人の責任が生じるのか検討が必要です。

 3 保証契約の成否に関する実際の認定(裁判例)

(1)しかし,電話確認がありその記録に保証意思ありと記載されているからと言って,保証契約が成立したものと安易に認定することは許されないというべきです。

    上記のウのとおり,保証契約においては「書面」の作成が要求され,その趣旨は保証債務者に保証契約を慎重にさせるというところにあります。この書面性の要件が設けられたことは,イの保証契約の成否の解釈にも大きな影響を与えることになります。
東京高等裁判所平成24年1月19日は,保証契約の成否について,以下のようにも述べています。

    民法446条2項の「この趣旨及び文言によれば,同項は,保証契約を成立させる意思表示のうち保証人になろうとする者がする保証契約申込み又は承諾の意思表示を慎重かつ確実にさせることを主眼と するものということができるから,保証人となろうとする者が債権者に対する保証契約申込み又は承諾の意思表示を書面でしなければその効力を生じないとする ものであり,保証人となろうとする者が保証契約書の作成に主体的に関与した場合その他その者が保証債務の内容を了知した上で債権者に対して書面で明確に保証意思を表示した場合に限り,その効力を生ずることとするものである。」

    すなわち,保証契約において書面が要求されるのは,保証意思を慎重かつ確実にさせることを目的とするのであるから,保証人は保証契約書の作成に「主体的に関与」するか,債権者に対して「書面で明確に保証意思を表示」したことが要求されると判断しました。

(2)さらに,本判例は続けて以下のように述べています。

「保証人となろうとする者がする保証契約の申込み又は承諾の意思表示は, 口頭で行ってもその効力を生じず,保証債務の内容が明確に記載された保証契約書又はその申込み若しくは承諾の意思表示が記載された書面にその者が署名し若しくは記名して押印し,又はその内容を了知した上で他の者に指示ないし依頼して署名ないし記名押印の代行をさせることにより,書面を作成した場合,その他 保証人となろうとする者が保証債務の内容を了知した上で債権者に対して書面で上記と同視し得る程度に明確に保証意思を表示したと認められる場合に限り,その効力を生ずるものと解するのが相当である。」

    上記の判例をまとめると,保証契約が成立するためには,

    ア 保証契約書(に相当する書面)について,「保証人自身」が署名(記名)押印すること
    イ 保証契約書の署名(記名)代行させた場合には,保証人自身が「保証債務の内容を了知した上で債権者に対して書面(それに相当する書面)で明確に保証意思を表示」すること
    のいずれかが必要になります。

    すなわち,消費者金融が電話で保証意思の確認の連絡をとり,了解を得たという記載が電話記録で残されている場合では足りず,保証人自身が積極的かつ明確に保証意思を表示していることが必要となります。本件のような電話内容のみでは,保証意思があったとして保証契約の成立を認めることは困難と考えられます。もちろん,個別の連絡内容や状況によって結論は異なり得るところですので,実際には弁護士への相談を受けてください。

第2 債権者(消費者金融,金融機関)から通知が来た場合の対策(弁護士を通じた示談交渉,裁判対応)

    以上の裁判例や法律の趣旨から照らすと,本件では、署名もしていないし印鑑も見たことがないということであれば、その旨主張すれば保証契約書を根拠に保証人の責任は生じないことになります。しかしながら,本件では保証契約に関する意思確認が電話でなされ保証意思について了解をもらっているとされる可能性があること,息子さんが本人の了解を得て保証契約を締結(代行方式)したと説明している可能性もあることから,保証契約の成立が認定されてしまう可能性も十分にあるといえます。したがって,以下のように適切な主張立証活動を行っていく必要があるでしょう。
  
1 必要な証拠資料の収集

    (1)まずは,保証契約書それ自体が自分の意思で作成されたものでないことを立証(疑わせる)する証拠を集めておくべきです。契約書が代行方式(息子さんに代書等の了承を与えたこと)で契約書を作成したのではないことを積極的に主張する必要があります。

    署名が自分のものでないことは,自己の筆跡でないことは他の自己の筆跡と対照することによってある程度の証明が可能であると思われます。なお,本件が裁判になった場合には,訴訟委任状などの適宜の書面と契約書の筆跡を対照することによって証明することも可能とされています(民事訴訟法229条1項)。ただし,最終的には,筆跡鑑定による証明が必要となる可能性があります。もちろん、署名について自分のものではないと主張すれば、相手方が署名について成立を立証する責任はありますから筆跡鑑定は相手方がすべきことですが、こちらとしても本来の筆跡が分かるような資料を提出する必要があります。

    また,押印が自己の印鑑でないことは,自己の普段使用している印鑑及び実印の印鑑登録証明書を取得しておくことも有効と思われます。

(2)さらに,息子さんとの印鑑の共用がないことを示す事実として,息子さんとの交流などの生活状況,連絡の有無,会話の内容について,記憶が薄れないうちに書面に残しておき,必要に応じて,先方に詳細に主張することも必要となるでしょう。また,保証意思の確認の電話についても,先方との会話内容等を詳細に記憶喚起しておき,書面に書き残しておくことが必要です。

 2 示談交渉,訴訟における対応

    (1)以上の証拠資料を収集した上で,先方の法的措置を止めるため,速やかに自己に保証意思がなかったこと,保証契約書が息子さんに無断で作成された者であり有効な保証契約が成立しなかったことを主張する必要があります。

    このとき,消費者金融は一部でも支払うように求めてくることがありますが,そのようなことは債務の承認となり,ひいては債務全額の支払義務が生じることにもなりかねませんので,厳に控えるべきです。

    以上の点に関しては,法的解釈も関係し,状況に応じて主張すべき事柄が変わり慎重な交渉が要求されますので,示談交渉については弁護士に依頼することを強くお勧めします。

 (2)仮に法的措置(訴訟,支払督促)が取られた場合には,これを放置してはいけません。訴状に対して何らの反応もしなければ,擬制自白が成立し,相手方の請求が全て認められてしまうことになります。

    訴訟が提起された場合には,速やかに弁護士に相談し,適切な証拠資料を収集の上,保証契約(保証意思)を否認する答弁書・準備書面を通じて適切な主張立証活動を行ってもらう必要があります。場合によっては,本人の保証意思確認のため,本人尋問を行う必要もありますが,この点は綿密な打ち合わせ,尋問事項に関する準備が必要となるでしょう。

第3 刑事事件の可能性

    民事事件としての法律関係は上記の通りですが、息子さんが自動車ローンの契約書の保証人欄に他人名義の署名捺印を行って、自動車代金の立替払いを受けたという行為は、刑法上の私文書偽造罪(刑法159条1項)、同行使罪(刑法161条1項)、及び詐欺罪(刑法246条1項)の構成要件に該当するおそれがあります。ローン契約書で保証人欄に親の名義を署名捺印することは多数の事例がありますので、被害届が受理されて立件される可能性は高いとは言えませんが、念のため注意する必要があります。実務上は、民事事件の和解条項に、息子さんの刑事事件に関する刑事告訴・告発をしないことを条件として一部の支払いを為す解決策も考えられるところです。民事事件として勝訴の見込みがある場合であっても民事裁判を判決が出るまで応訴することは被告にとっても負担となりますので、一部支払いの上で和解に応じることは合理的な選択肢のひとつであると言えます。


<参照条文>
民法
 第四款 保証債務

      第一目 総則

(保証人の責任等)
第四百四十六条  保証人は、主たる債務者がその債務を履行しないときに、その履行をする責任を負う。
2  保証契約は、書面でしなければ、その効力を生じない。
3  保証契約がその内容を記録した電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。)によってされたときは、その保証契約は、書面によってされたものとみなして、前項の規定を適用する。

(保証債務の範囲)
第四百四十七条  保証債務は、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たるすべてのものを包含する。
2  保証人は、その保証債務についてのみ、違約金又は損害賠償の額を約定することができる。
(催告の抗弁)
第四百五十二条  債権者が保証人に債務の履行を請求したときは、保証人は、まず主たる債務者に催告をすべき旨を請求することができる。ただし、主たる債務者が破産手続開始の決定を受けたとき、又はその行方が知れないときは、この限りでない。

(検索の抗弁)
第四百五十三条  債権者が前条の規定に従い主たる債務者に催告をした後であっても、保証人が主たる債務者に弁済をする資力があり、かつ、執行が容易であることを証明したときは、債権者は、まず主たる債務者の財産について執行をしなければならない。

(連帯保証の場合の特則)
第四百五十四条  保証人は、主たる債務者と連帯して債務を負担したときは、前二条の権利を有しない。

<参考判例>
東京高等裁判所平成24年1月19日判決

保証債務請求控訴事件
東京高等裁判所平成23年(ネ)第4633号
平成24年1月19日第8民事部判決

       主   文

1 原判決を取り消す。
2 被控訴人の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人の負担とする。

       事実及び理由

第1 当事者の求めた裁判
1 請求の趣旨(被控訴人)
(1)控訴人は,被控訴人に対し,24万9375円及びこれに対する平成21年2月27日から支払済みまで年14パーセントの割合による金員を支払え。
(2)仮執行宣言
2 控訴の趣旨
 主文と同旨
第2 事案の概要
1 概要
 本件は,被控訴人が,Aの被控訴人に対する電話機リース料支払債務につき,Aの妻である控訴人が連帯保証したと主張して,控訴人に対し,保証債務の履行 として残リース料24万9375円及びこれに対する期限の利益を喪失した日の翌日である平成21年2月27日から支払済みまで約定の年14パーセントの割 合による遅延損害金の支払を求める事案である。控訴人は,保証契約の成立を否認して争っている。
 原審が保証契約の成立を認めて被控訴人の請求を認容したため、控訴人が控訴した。
2 前提事実
 前提事実は,原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の1に記載のとおり(原判決2頁1行目から3頁5行目まで)であるから,これを引用する。 
3 争点
 本件の争点は,控訴人と訴外会社(被控訴人による吸収合併前のB株式会社)との間で本件保証契約が有効に成立したか否かである。
(1)被控訴人の主張
ア 控訴人は,平成17年4月5日,リース契約書(甲1。以下「本件契約書」という。)の連帯保証人欄に自ら署名押印してこれを作成したか,仮にそうでな いとしても,Aその他の第三者に権限を授与して署名押印を代行させ,又は,事後にAその他の第三者による署名押印を承認したことにより,本件契約書をもっ て本件リース契約に基づくAの訴外会社に対する債務を連帯保証した(本件保証契約)。
イ 被控訴人の従業員は,同年3月29日,控訴人に電話を架け,受話者が控訴人であることを確認した上で,本件リース契約の内容及び控訴人の保証意思を確認している。
ウ 民法446条2項に規定する要件(保証の要式性)を満たすためには,当該書面以外の証拠に照らして保証の意思を確実に看取しうる書面が作成されること で足り,当該書面に保証人が自ら署名,押印する必要はなく,また,当該書面が保証人の意思によって署名,押印されることまで要しないと解すべきである。
(2)控訴人の主張
ア 被控訴人の主張アはいずれも否認ないし争う。本件契約書の控訴人作成名義部分の成立は否認する。本件契約書の連帯保証人欄の控訴人の氏名は控訴人の自 署ではなく,同名下の印影も控訴人の印鑑によって顕出されたものではない。控訴人は本件契約書の作成に一切関与しておらず,事前にAその他の第三者に控訴 人の署名押印代行の権限を授与したことも,事後にこれを承諾したこともない。
イ 同主張イは否認する。控訴人が被控訴人の従業員からの電話を受けた事実はなく,保証意思を確認されてこれに応じたこともない。
ウ 同主張ウは争う。民法446条2項の趣旨に照らせば,基本的には保証人自身が保証契約書に署名,押印しなければ保証の効力は生じないと解すべきである。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所は,被控訴人の本件請求は理由がないものと判断する。その理由は,次のとおりである。
(1)保証契約は,書面でしなければその効力を生じないとされているところ(民法446条2項),同項の趣旨は,保証契約が無償で情義に基づいて行われる ことが多いことや,保証人において自己の責任を十分に認識していない場合が少なくないことなどから,保証を慎重にさせるにある。同項のこの趣旨及び文言に よれば,同項は,保証契約を成立させる意思表示のうち保証人になろうとする者がする保証契約申込み又は承諾の意思表示を慎重かつ確実にさせることを主眼と するものということができるから,保証人となろうとする者が債権者に対する保証契約申込み又は承諾の意思表示を書面でしなければその効力を生じないとする ものであり,保証人となろうとする者が保証契約書の作成に主体的に関与した場合その他その者が保証債務の内容を了知した上で債権者に対して書面で明確に保 証意思を表示した場合に限り,その効力を生ずることとするものである。したがって,保証人となろうとする者がする保証契約の申込み又は承諾の意思表示は, 口頭で行ってもその効力を生じず,保証債務の内容が明確に記載された保証契約書又はその申込み若しくは承諾の意思表示が記載された書面にその者が署名し若 しくは記名して押印し,又はその内容を了知した上で他の者に指示ないし依頼して署名ないし記名押印の代行をさせることにより,書面を作成した場合,その他 保証人となろうとする者が保証債務の内容を了知した上で債権者に対して書面で上記と同視し得る程度に明確に保証意思を表示したと認められる場合に限り,そ の効力を生ずるものと解するのが相当である。
(2)以上を前提に,本件保証契約が民法446条2項の要件を満たすか否かについて検討する。
 本件で被控訴人が同項所定の書面として主張するものは本件契約書(甲1)のみであるところ,本件契約書の連帯保証人欄の控訴人の氏名が控訴人の自署であ ること又は同名下の印影が控訴人の押印によるもの若しくはその指示に基づいて控訴人の印鑑によって顕出されたものであることを認めるに足りる証拠はない。 かえって,証拠(乙3)及び弁論の全趣旨によれば,Aその他の第三者(販売会社であるCの関係者等が考えられるが,これを明らかにする証拠はない。)が同 欄に控訴人の氏名を記載し,Aが工場(A製作所)に保管し使用していた同人の認め印を上記氏名下に押捺したものであること,その場に控訴人は同席しておら ず,Aに上記行為を指示したり依頼したりしたわけではなかったことが認められる。
 これに対し,被控訴人は,控訴人はAその他の第三者による本件契約書への署名押印の代行を承諾していたと主張する。そこで検討するに,被控訴人の従業員 (保証意思確認担当)が作成した電話記録(甲2,3)には,平成17年3月29日午後5時47分に控訴人の自宅に電話をかけ,電話に出た女性に対し,氏 名,生年月日,保証意思を確認したことなどが記載されている。しかし,同電話記録には,「保証意思」として「Yes」等と記載されているのみで,その他の 証拠(甲4,原審D証人)を総合しても,当該従業員と電話に出た女性との間で具体的にどのようなやり取りがあったのか明らかでなく,控訴人が上記のような 電話を受けたことはない旨を原審本人尋問で供述していることなどに照らし,電話に出た女性が控訴人本人であったか否かについて疑念があるといわざるを得な い。このことに加えて,上記電話の際,保証契約書を作成することや控訴人名義の署名押印をAその他の第三者に代行させることなどについて話がされた形跡は ないこと,控訴人が保証契約書の作成を承諾しながら,その署名をAに代行させたり,自分の印鑑を使わずにAの使用していた認め印で代用させたりする理由も 見当たらないことなどに照らせば,電話記録に上記のような記載があっても,控訴人がAその他の第三者に署名押印を代行させて本件契約書を作成することを承 諾していたとの事実を認めるに足りない。そして,他に,本件契約書の控訴人作成名義部分が控訴人の意思に基づいて作成されたことを認めるに足りる証拠はな い。
 そうすると,被控訴人の主張する本件保証契約は書面でされたものということができないから,その効力を有しないものというべきである。
2 よって,被控訴人の本件請求は,その余の点につき判断するまでもなく,理由がないから,これを棄却すべきである。
第4 結語
 以上の次第で,当審の上記判断と結論を異にする原判決は不当であって,本件控訴は理由があるから,原判決を取消した上,被控訴人の本件請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第8民事部
裁判長裁判官 高世三郎 裁判官 森一岳 裁判官 増森珠美


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