青少年健全育成条例違反、児童福祉法違反、児童買春禁止法違反の初期対応
刑事|淫行条例|本人への捜査開始前の事前対応|東京高裁平成8年10月30日判決
目次
質問:
私は,学習塾に勤務する大学生(23歳)ですが,実は,生徒の一人(15歳・高校1年生)と恋愛関係になってしまい,彼女が塾を辞めた後で一度だけ性行為をしてしまいました。
その後,同行為が,彼女の親に発覚してしまい,彼女の親が警察に被害届を提出しているようです。
私としては,今更ながら自分の行為を反省し,誠意ある対応をしたいと考えておりますが,彼女やその両親は,私からの連絡に応じてくれないまま,約2か月が経過しました。
今のところ,被害者の両親がどこの警察署に相談したか解らず,私のもとには警察からの連絡は何も来ていないのですが,今後私が刑事的な処罰を受ける可能性はあるのでしょうか。処罰を避けるためには,自首した方が良いのでしょうか。
実は私は将来教員になりたいと思っているのですが,刑事処罰を受けた場合,採用試験を受験できないかもしれません。何とか前科を回避するのは不可能でしょうか。
回答:
1 18歳未満の少女と性行為をした場合,現在の日本の法律では,犯罪として処罰される場合があります。
具体的には,各都道府県の定める青少年健全育成条例違反や,児童福祉法違反,児童買春・児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反等の罪に問われる可能性があります。
2 現在捜査を受けていなくても,今後の警察の捜査の進展によっては,あなたが刑事処罰を受ける可能性は当然存在します。
本件では,彼女(被害児童)の両親が警察に相談してから約2か月が経過したとのことですが,警察は,被害児童やその両親からの事情の聞き取りを慎重に行った後で,被疑者(相談者)を取り調べますから,相談から2か月以上経過した後で,警察が被疑者を逮捕する場合も考えられます。
急な身体拘束を避けるためには,弁護人を通じて,捜査機関に事実関係を説明し,逮捕せずとも捜査に応じる旨を明確に伝えた方が良い場合があります。既に捜査機関に犯罪が発覚していれば,法律上の自首とはなりませんが,反省の意思を伝えることで逮捕等の強制処分を回避できる可能性は非常に高くなります。
3 また,仮に被害者の両親が相談している警察署が判明しない等の理由により,自ら捜査に応じることができない場合でも,早期に被害者側と示談の協議を開始することは重要です。
本件のような犯罪では,被害児童と示談が成立している場合,不起訴処分として刑事処分を受けない(前科がつかない)場合があります。
そのため,被害児童と示談が成立していれば,そもそも警察が事件化しないという可能性が生じますし,仮に本格的な捜査に着手した場合でも,逮捕等の身体拘束を受ける可能性は非常に小さくなります。
また,早期に示談の申入れをして反省の意思を示しておけば,仮に逮捕等された場合でも,早期に釈放される可能性が非常に大きくなります。
示談については,本人が直接連絡を取ろうとすると,被害者を威迫するおそれがある等と認定され逮捕の危険が高まりますので,必ず代理人弁護士を選任して,弁護士を通じて行うようにしましょう。
4 本件で予想される処罰としては,買春や児童ポルノの製造が無ければ,罰金刑が予想されるところです。
法律上,罰金刑は教員免許取得の欠格事由には該当しませんが,罰金の前科については,履歴書等の賞罰欄に記載義務があるため,採用において不利になることは否めません。
特に公立学校の場合,禁錮以上の刑は公務員の欠格事由となっている関係上(地方公務員法第16条2号),前科照会が行われる過程で,各自治体が保管する犯罪人名簿から罰金前科が発覚する危険は比較的大きいと言えます。
そのため,可能な限り罰金前科を回避する努力をすべきでしょう。
5 なお,この類型の犯罪の場合,例え被害者と示談が成立し,被害届が取下げられたとしても,検察官によっては,法律の保護法益が公益全体である事等を理由に,罰金刑を科そうとしてくる場合があります。
しかし,少なくとも本件のように被害者保護のために捜査が開始される類型であれば,やはり示談の成立は刑事処分上も最も重視される事情の一つであり,それを理由に不起訴処分となる例は多数存在します。
そのため前科を回避するためには,弁護人から上記の点を強く検察官に主張する必要があり,同種事件の経験を多数有する弁護士に依頼することが重要であると言えるでしょう。
6 未成年との性行為に関する関連事例集参照。
解説:
1 少年との性交渉により成立する犯罪について
(1)青少年健全育成条例違反
18歳未満の少女と性的関係を持ってしまった場合,まず,各都道府県が定めている青少年健全育成条例違反に該当する危険性があります。
例えば東京都の場合,「青少年の健全な育成に関する条例」の第18条の6において,「何人も、青少年(18歳未満の者・同条例第2条1号)とみだらな性交又は性交類似行為を行つてはならない」と定めているため,本件もこの条文に違反することが考えられます。
この点,法律上「みだらな」の意義が問題となりますが,最高裁は,福岡県の条例で規制されている「淫行」の意義について,以下のような判断を下しております。
「「淫行」とは、広く青少年に対する性行為一般をいうものと解すべきではなく、青少年を誘惑し、威迫し、欺罔し又は困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交又は性交類似行為のほか、青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱つているとしか認められないような性交又は性交類似行為をいうものと解するのが相当である(最判昭和60年10月23日刑集39巻6号413頁)。」
当該判示によれば,「単に自己の性的欲望を満足させるための性交」で無ければ,淫らな行為には該当せず犯罪も成立しないことになります。
実務上は,将来の結婚を約束するような真摯な交際関係であれば,「みだらな行為」には該当しないとされています。逆に、既婚者の不貞行為の場合には、「みだらな行為」と認定されてしまうおそれが高まります。
真摯な交際関係を主張する為には,何らかの客観的な裏付けが必要になります。本件では,詳細な事情にもよりますが,年齢差が大きいことや親に交際を報告していなかったこと等からすると,真摯な交際関係があったと認められる可能性は必ずしも高く無いように思われます。
(2)児童福祉法違反
次に,性行為が実質的な影響力を行使して行われた場合,児童福祉法に違反することが考えられます。
児童福祉法34条1項6号では,「児童(18歳未満の者・同法4条)に淫行をさせる行為」が禁止されており,その違反に対しては10年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金と言う非常に罰則が定められています。
この法律が先の健全育成条例と異なる点は,「淫行を『させる』」行為を処罰の対象としている点です。
この「淫行を『させる』」の意味については,①淫行の対象が別の第三者の場合に限られるのか,行為者自身に淫行させる場合も含むのか,②(行為者自身に淫行させる場合も含むのなら)前記健全育成条例違反との違いは何か,という2点が問題となります。
この2点につき,東京高裁平成8年10月30日判決は,以下のとおり判示しています。
まず①の点については,「「児童に淫行させる行為」とは,行為者が児童をして第三者と淫行をさせる行為のみならず,行為者が児童をして行為者自身と淫行をさせる行為をも含むものと解するのが相当である。」としています。
その上で②の点について「淫行を「させる行為」とは,児童に淫行を強制する行為のみならず,児童に対し,直接であると間接であると物的であると精神的であるとを問わず,事実上の影響力を及ぼして児童が淫行することに原因を与えあるいはこれを助長する行為をも包含するものと解される」「同号が,いわゆる青少年保護育成条例等にみられる淫行処罰規定(条例により,何人も青少年に対し淫行をしてはならない旨を規定し,その違反に地方自治法14条5項の範囲内で刑事罰を科するもの)とは異なり,児童に淫行を「させる」という形態の行為を処罰の対象とし,法定刑も最高で懲役10年と重く定められていること等にかんがみれば,行為者自身が淫行の相手方となる場合について同号違反の罪が成立するためには,淫行をする行為に包摂される程度を超え,児童に対し,事実上の影響力を及ぼして淫行をするように働きかけ,その結果児童をして淫行をするに至らせることが必要であるものと解される。
つまり,行為者自身が淫行の相手方である場合にも児童福祉法違反が成立するが,条例による処罰との均衡上,児童福祉法違反となるためには,「児童に対して事実上の影響力を行使すること」が必要とされています。
具体的には,学校の教師と生徒や,アルバイト先の上司と部下のように,その関係からして事実上の有形無形の影響力(上下関係)が認められる場合には,児童福祉法違反に該当する危険性が高いと言えるでしょう。
本件では,塾の講師と生徒という立場であり,事実上の影響力が認められる可能性が存在しますが,既に塾を退職していて,事実上の影響力が喪失しているとの主張が認められれば,児童福祉法違反について回避できる場合も十分考えられます。
(3)児童買春・児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反
さらに,性行為の際に金銭を供与したり,写真を撮影する等の行為を行っていた場合には,児童買春・児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反の可能性があります。
同法では,児童(2条1項・18歳未満の者)等に対して対償を供与して性交等を行うことを児童買春とし(2条2項),年以下の懲役又は300万円以下の罰金という罰則を設けて禁止しています(4条)。
上記で言う対償には,金品に限られず,物品の提供も含まれます。
また,児童の性交に係る姿態や,その他性欲を興奮させ又は刺激する児童の姿態の写真を児童ポルノ(2条3項)と定義し,その製造や提供を禁止しています(7条)。
そのため,本件でも仮に性交の際に対償となるような利益を提供していたり,裸の写真を撮影したりしていた場合には,これらの法律に該当することになります。
仮にこれらの罪に該当する場合には,単なる条例違反とは異なり,非常に厳しい刑事処分を受ける可能性が存在しますので,対応にも一層の注意が必要です。
2 在宅事件の捜査の方法について
(1)捜査開始前の事前対応
本件では,上記のような各罪が成立する場合がありますが,以下では,特に児童買春等が付随しておらず,青少年健全育成条例違反のみが成立する場合を念頭に解説を行います。
まず,あなたの現在の状況としては,被害児童の両親から警察に被害届を提出されているとのことですので,当然今後はあなた自身が上記事件の被疑者として取調べを受ける危険性が高いといえます。
本件では,被害児童の両親が被害届を提出してから約2か月以上が経過しているとのことですが,警察の捜査は事情聴取や供述調書の作成に時間を要することも多く,今からでもあなたが捜査を受ける可能性は依然として存在しています。
被害者からの事情の聞き取りの結果として,逮捕の必要性があると判断されれば,突然警察があなたを逮捕に訪れる可能性も否定できません。
では,突然の逮捕を避けるためには,どのような事前の対応を取るべきでしょうか。
そこで考えられる対応の一つが,逮捕される前に,警察に対して,弁護人を通じて事実関係を自ら説明し,逮捕等をせずとも任意の取調べに応じる旨を伝えることです。
あなたの身元が明確であり,弁護人に相談した上で任意に取調べに応じる意思を示しておけば,警察としても敢えて逮捕等の強制処分を行う必要はなくなるため,その危険は非常に小さくなります。加えて言えば,仮に事実関係について争いが無く罪の成立を認めるような場合には,逮捕の危険は非常に小さくなります。
その場合,仮に止むを得ず逮捕が行われたとしても,その後の10日間の勾留を回避し,2~3日の逮捕高速のみで釈放される可能性も高まるといえるでしょう。
なお,既に被害届が提出されていて,警察の捜査が開始していた場合,自ら警察に出頭したとしても法律上の自首(刑法42条1項)には該当しません。しかし,当然被疑者としての真摯な反省を示す一事情となりますので,最終的な刑事処分を軽減する効果も期待できます。
(2)示談の必要性について
また,警察への事情説明と併せて,被害児童の両親と直ちに示談交渉を開始することも不可欠です。
犯罪事実が青少年健全育成条例違反であれば,被害児童と示談が成立している場合,不起訴処分として刑事処分を受けない(前科がつかない)場合があります。本件のように1回のみの交際であればなおさらです。
そのため,警察としても,早期に被害児童と示談が成立していれば,そもそも事件として立件せず,本格的捜査をしないという可能性が生じます。また,仮に本格捜査に着手した場合でも,示談が成立済みで最終的に不起訴処分の可能性が高いとなれば,逮捕等の身体拘束を受ける可能性は非常に小さくなります。加えて言えば,仮に示談が成立していなくとも,弁護人を通じて示談の申入れをしているという事実があれば,それ自体逮捕等の必要性を多く減少させる事情の一つとなります。
即ち,本件のように,被疑者が被害者の連絡先を知っている事例において逮捕が実行される理由は,被害者が警察に対して被疑者から連絡が来ることへの不安を申し述べたり,被疑者が直接被害者に連絡して威迫するおそれがある等と認定されたりする場合が殆どです。
そのため,被疑者であるあなたが直接連絡をすることは一切止め,代理人弁護士を選任して,弁護士を通じて示談交渉を行う意思を表明すれば,上記被害者に対する犯人からの働きかけの危険が小さくなるため,逮捕の必要性が大きく減少します。
なお,警察に対して逮捕の必要性が無いことを説得的に主張するためには,示談金を弁護士に預けた旨の証明書,被害者には今後一切直接連絡をしない旨の誓約書等を準備し,一切被害者に危害を加える理由が無い旨を客観的に立証することが重要といえるでしょう。
また、示談交渉の相手方は未成年者が被害者の場合は親権者である両親と行うことになります。示談の際の示談金については、相場というようなものはありませんので、被害者の両親との話し合いの中から金額を決めることになります。一般論としては最低でも罰金相当額の30万円から50万円以上は必要と考えておく必要があります。
(3)担当警察署不明の場合
なお,本件では,捜査を担当している警察署が不明であるとのことですので,早期に担当警察と交渉するためにも,弁護士に被害者の自宅周辺の警察署に問合せをして貰い,担当警察署の把握に努めるべきでしょう。
しかし,警察署によっては,捜査上の秘密等を理由に,事件の取扱いや捜査状況について,弁護人に開示しない対応を取る場合があります。
そのような場合は,やはり迅速に被害者と示談を行い,捜査が本格化した場合への備えを早期に整えるべきでしょう。
そのことによって,万が一逮捕等が行われたときでも,速やかな釈放を実現できる可能性が大きくなります。
3 本件で見込まれる刑事処分とその影響について
(1)本件で見込まれる刑事処分
本件では,最終的な刑事処分として略式手続による罰金刑又は執行猶予付きの懲役刑等が予想されるところですが,被害児童との間で示談が成立すれば,不起訴処分となる(前科とならない)可能性が生じます。
しかし,この類型の犯罪の場合,刑事処分を決定する検察官の個性によっては,例え被害者と示談が成立し被害届が取下げられたとしても,法律の保護法益が公益全体である事等を理由に,罰金刑を科そうとしてくる場合が多く存在します。
この点,確かに,青少年健全育成条例違反等は,法律上の親告罪ではなく,法律の趣旨として社会全体の風俗・風紀を保護し,青少年の健全な育成を図る(東京都青少年健全育成条例1条等)という社会的側面が強く,個人の性的自由の保護という側面が小さいという考えは存在します。
しかし,実際上同条例違反は,実際の被害者の申告等により捜査が開始されることも多く,また現実に行為の相手方となる被害者に損害を与える行為が処罰の対象となっている犯罪である以上,やはり刑事処分の決定に当たっては,被害者の被害感情を最も重視すべきであると言えます。
加えて,少なくとも本件のように被害者保護のために捜査が開始される類型であれば,そもそも被害者が被害を申告しなければ事件自体が存在したかったのですから,やはり被害者が被害届を取り下げているような場合には,不起訴処分が相当であると考えられます。
現に,健全育成条例と同じく社会的法益を保護法益とする迷惑防止条例違反(痴漢,盗撮等の事例)の事件では,被害者との示談成立を理由に不起訴処分となっているものが殆どであり,青少年健全育成条例違反を区別する法的根拠は乏しいと言わざるを得ません。
罰金前科を回避するためには,弁護人から上記の点を強く担当検察官に主張する必要があります。同種事件の経験を多数有する弁護士に依頼することが重要であると言えるでしょう。
(2)教員免許取得への影響
相談者様は,将来的に教員免許の取得も検討されているとのことでしたので,刑事処罰を受けた場合に,教員免許の取得にどのような影響があるか,簡単に解説します。
法律上の規定を見ると,禁錮以上の刑を受けたものについては,教員免許状を授与しないとされています(教育職員免許法第5条1項4号)。その為,仮に公判請求を受けて懲役刑の判決を受けてしまうと,刑の執行が猶予されたとしても,教員免許が取得できないことになります。
一方,罰金刑は,法律上禁錮未満の刑となりますので(刑法10条),法律上教員免許の取得に問題はありません。しかし,罰金であっても前科となりますので,履歴書等の賞罰欄に記載義務が生じ,採用において不利になることは否めません。
特に公立学校の場合,採用試験の際の前科照会において前科が発覚し,採用の際に不利益に扱われる可能性は否定できません。
即ち,地方公務員条,禁錮以上の刑を受けたものは公務員(地方公務員法第16条2号)となれないため,自治体によっては,採用試験の際に,採用予定者の前科照会を行います。前科照会は,各自治体の犯罪人名簿への照会で行われる場合があり,犯罪人名簿には罰金刑についても記載があるため,前科照会の際に罰金前科が発覚してしまう危険は,一定程度存在すると言えます。なお、刑法34条の2第1項で、罰金刑は罰金納付から5年で法律上刑が消滅しますので、犯罪人名簿からも抹消されることになります。
もちろん,犯罪歴は厳重に管理されるものであり,前記公務員の採用条件からして罰金以下の刑は照会においても明らかにしない場合も多いと推測されますが,前科を秘匿して公務員となると,採用後に発覚した場合も懲戒処分を受ける危険性が残ってしまいますので,やはり,可能な限り罰金前科を回避する努力をすべきでしょう。
4 まとめ
未成年者との性行為は,態様によって思いがけず重い罪名となってしまうことも少なくありません。
また,警察からの連絡が無いと油断したところに,不意打ち的に逮捕されてしまうことも非常に多い事例です。
そのため,事実関係を弁護士に良く説明し,事案に応じて適切な事前の対応策を検討する必要があります。
また,教員免許等の卒業後の進路があるとのことですので,最終的な処分に向けても,罰金前科がつかないよう,最大限の弁護活動を依頼すべきでしょう。
以上