新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1609、2015/06/03 12:00 https://www.shinginza.com/idoushin.htm

【刑事事件、医師の行政処分、ストーカー規制法違反の弁護と医道審議会の対応(最高裁平成17年11月25日決定,さいたま地方裁判所平成26年8月13日判決)】

医師によるストーカー行為の弁護活動


質問:私は医師ですが,いわゆるストーカー規制法違反の事実で起訴されてしまいました。その対応についてのご相談になります。私は同僚として勤務している女性医師と交際をしていたのですが,相手方女性から突然,別れることに決めたので,今後は二度と連絡をしないでほしいといわれました。私としては突然そのようなことを言われたので,納得ができませんでした。なぜ別れるのかの理由を聞きたい一心で,何度もメール,電話による連絡をしたところ,ある日警察からストーカー規制法違反として警告の書面が届きました。相手方が告訴をしていたようです。ただ,やはり直接相手方と話したいとの思いが強く,今度は相手方女性の家を訪問したところ,警察が来て逮捕されてしまったのです。幸い勾留はされずに釈放されたのですが,本日,起訴状が届いたという次第です。現在,弁護士は付いていないのですが,今後はどのように対応したらよいでしょうか。また,私は医師ですので,今回のストーカー規制法違反で処罰されたことをもって,医師資格に影響があると聞いていますが,その点についてはどうしたらよいでしょうか。



回答:

1 あなたは,現在ストーカー行為等の規制等に関する法律(「ストーカー規制法」といいます。)の被告人として,処罰を受ける地位にあります。公判請求がされていますので,罰金刑ではなく懲役刑を求刑される可能性が高いといえます。犯行自体は認めていますので,被害者との示談を至急進める必要がありますので,弁護人(弁護士)を選任する必要があります。
  被害者との示談交渉においては,真摯な謝罪の意思を伝え,二度と接近しないことを誓約するとともに,金銭的な補償を行い,円満な示談を成立させる必要があります。
  公判においても,真摯な反省の態度を示し,親族(協力者)が二度と同種の犯行を行わないことを誓約するなど,有利な情状事実を可能な限り主張していく必要があります。この点は,弁護人とよく相談してください。
  本来,ストーカー規制法違反はそこまで刑の重い犯罪事実ではないので,示談をしなくても,通常前科がなければ,執行猶予を付けてもらえるケースが多いといえます(この場合,実刑判決として直ちに刑務所に行く必要はありません)。ただし,今後の生活を考えると万全を期す必要がありますし,医道審議会の処分を見据えると判決書には可能な限り有利な事実を書いてもらう必要がありますので,やはり示談は行っておくべきといえるでしょう。

2 また,あなたは医師ですので,今後ストーカー規制法違反の事実により,医道審議会による行政処分の対象になります。想定される行政処分としては医業停止6月程度かそれ以上も見込まれます。ただ,医道審議会において「被害者への補償状況」が重要視されますので,医道審議会を見据えた示談交渉を行い,医道審議会宛に行政処分を軽減する嘆願を被害者から取得するなどができれば,行政処分の軽減を求めることが可能といえます。具体的には,より短期の医業停止,さらには戒告を目指すことも十分に可能でしょう。
  医道審議会を踏まえ被害者と接触する必要がありますので,医道審議会を見据えた示談交渉に長けた弁護士に相談された方がよいでしょう。

3 ストーカー規制法に関する事例集としては,1067番162番1252番1253番等を参照してください。その他医道審議会については医道審議会関連事例集、1540番1538番1500番1489番1485番1411番1343番1325番1303番1288番1245番1241番1144番1085番1102番1079番1042番1034番869番735番653番551番313番266番246番211番48番 参照。


解説:

第1 あなたが現在置かれている地位について

 1 ストーカー規制法違反の被告人としての地位

   まず前提として,あなたが現在どのような法的地位に置かれているのか,という点について説明します。

   本日,ストーカー規制法(正式名称は「ストーカー行為等の規制等に関する法律」といいますが,本稿においては以下「ストーカー規制法」といいます。)違反として起訴状が届いたとのことですので,あなたはストーカー規制法違反を行ったとして公判請求がされた,被告人という立場になります。

   現在は身柄が釈放されているということですので,特段の事情がなければ身体拘束されることなく,公判期日が開かれることになります。およそ起訴されてから1月程度の猶予をもって公判期日が設定されます。公判期日においては,公開の法廷において,検察官が公訴事実(罪となるべき事実)を証明し,裁判官が検察官の主張を前提として,どのような量刑にするのかを決めることになります。

   公判期日においては,こちらでも適切な弁護人を立てて,あなたにとって最大限に有利な事情を主張していくことが必要不可欠になりますが,この点の具体的な弁護活動については,後述します。

 2 ストーカー規制法違反の量刑について

 (1)では,裁判官は今回の件についていかなる量刑を下すのでしょうか。ストーカー規制法違反の法定刑は六月以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。」(ストーカー規制法13条)とされていますので,6月以下の懲役刑,若しくは50万円以下の罰金に科せられることになります。ただ,検察官が罰金刑を請求する場合には,略式命令請求という書面のみの裁判手続を請求するのが通例ですので,敢えて公開法廷による公判請求が選択されたということは,検察官としては懲役刑を求めて起訴をしたと考えら検察官の求刑も懲役刑になると考えられます。警察の警告に反して、面談まで強要しようとしたこと、あなたが医師という責任のある立場にあること、再犯の可能性が高い事情があることから検察官は罰金ではなく懲役刑がふさわしいと考えたのでしょう。

   ただ、裁判所としてはこの場合も法律上は罰金刑を科すことは可能です。しかし、公判請求、懲役刑の求刑をされたということに応じて,通常,懲役刑を選択することが多いといえます。

   すなわち,今回のストーカー行為規制法違反の件においては,6月以下の懲役刑が選択される可能性が高いでしょう。

   ただ,ストーカー規制法の法定刑自体,そこまで重いものではありませんので,懲役刑といっても直ちに刑務所に行く実刑判決ではなく,執行猶予期間が設定され,その期間中に罪を犯さなければ刑務所に行く懲役刑の執行を猶予する判決(執行猶予付判決)が選択される可能性が高いといえます。

 (2)ストーカー規制法に関する量刑を示した判決として,さいたま地方裁判所平成26年8月13日判決を挙げます。本判例は「被告人は,以前より執拗に勤務先の同僚であったAにつきまとい,上司等から繰り返し注意を受け,警察からも前記警告を受けていたにもかかわらず,それを 意に介さずに本件犯行に及んだものであって,その経緯,動機に酌むべき点はなく,悪質である。一連の犯行によりAの受けた精神的苦痛は大きく,当然のことながら処罰感情は厳しい。そうすると,被告人の刑事責任は相応に重く、本件は懲役刑を選択すべき事案といえる」としています。

   すなわち,ストーカー行為に至った経緯,動機の悪質性,被害者の受けた精神的苦痛の程度,処罰感情が大きいことを理由に,ストーカー規制法の量刑の最大限に近い懲役5月が選択されています。

   ただし,同判例は以下のようにも述べています。「他方,被告人が犯行を認め,公判廷で反省の言葉を述べ,今後はAと関わらない旨誓っていること,前科前歴がないこと,本件を機に被告人が職を辞したことなどの諸事情も考慮し,主文掲記の刑に処した上,その執行を猶予するのが相当と判断した。」

   すなわち,公判廷において真摯な反省の態度を示しているなどの有利な事実が多数見受けられるので,直ちに実刑判決を選択するのではなく,執行猶予を付けるという判断がされたものです。

 3 医道審議会による医師資格の行政処分

 (1)あなたは医師ということですので,受ける不利益は刑事罰にとどまりません。
医師が刑事罰を受けた場合には,医師法7条2項に基づき,医師免許に対する行政処分を受けることになります。行政処分の内容については,@免許取消,A医業停止,B戒告があります。なお,事案が極めて軽微な場合には,厳重注意という行政指導にとどまる場合もあります。

   医師資格の行政処分を実際に決定するのは,厚生労働省の医道審議会という機関になります。医道審議会が公表している「医師及び歯科医師に対する行政処分の考え方」によれば「処分内容の決定にあたっては、司法における刑事処分の量刑や刑の執行が猶予されたか否かといった判決内容を参考にすることを基本とし、その上で、医師、歯科医師に求められる倫理に反する行為と判断される場合は、これを考慮して厳しく判断する」としています。

   すなわち,基本的には刑事裁判の結果(刑の内容,量刑の重さ)にしたがって,行政処分の重さが決められることになります。なお,「被害者への補償状況」も極めて重要となりますが,この点は後述します。

 (2)また,医道審議会において実際にどのような行政処分を受けるのかについては,それぞれの犯罪類型ごとの先例を十分に検討することが必要になります。

   この点,ストーカー規制法違反についての医道審議会における処分例については,以下の1件になります。

  <処分例> 平成17年7月付医道審議会処分
  ○ 事件の概要
  (ストーカー行為等の規制等に関する法律違反,名誉毀損)
   左記病院に勤務していた医師であるが,
  かつて交際していたA(当時39歳)に対する行為の感情が満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で,平成15年11月10日午後8時ころから同月19日午前10時42分ころまでの間,前後約68回にわたり,同人から拒まれたにもかかわらず,●●市内から,同人が勤務する●●所在の病院に設置された加入電話又は同人かたに設置された加入電話等に連続して電話をかけ,かつ,その際,同月12日午後11時53分ころから同月13日午前11時38分ころまでの間,前後5回にわたり,前期病院にかけた電話に応対した同病院看護師Bほか4名に対し,「患者に向かって早く死んでくれと言うのはどう思うか。Aがそう言った。そのうわさを他の人に広めてほしい。」などとそれぞれ申し向けて,前記Aが知り得る状態に置き,もってストーカー行為をするとともに,公然と事実を適示して同人の名誉を毀損したものである。
  ○ 司法処分の内容
    懲役1年6月 執行猶予4年
  ○ 行政処分の内容
    医業停止6月

   上記事例は,名誉毀損という罪名もついていますが,ストーカー規制法単独であったとしても懲役刑となった場合,場合執行猶予期間は3年程度が見込まれるのが通常ですから,司法処分としてはそこまで大きな差異があるわけではありません。概ね,ストーカー規制法で懲役刑が選択された場合には,6月程度かそれより多少短期間の医業停止が基本になるでしょう。もっとも,事案の重大性などに鑑み,さらに長期間の医業停止(1〜2年程度)や免許取消の可能性もあります。

   今回の事案においても,医道審議会における行政処分としては6月程度の医業停止期間は十分に見込まれるところです。ただし,適切な代理人弁護士を立てて,医道審議会の弁明聴取において適切な主張立証を行えば,より短期の医業停止期間,さらには戒告などの軽微な行政処分を狙うことも十分可能といえます。この点については,後述します。

第2 ストーカー規制法違反における弁護活動について(医道審議会の対応を含む)

 1 ストーカー規制法上処罰される行為とは

 (1)ストーカー行為の意義

   次に,ストーカー規制法上処罰される「ストーカー行為」について検討していきます。ストーカー行為については,刑法の特別法であるストーカー規制法に処罰規定があります。

   ストーカー規制法の条文を見ると,13条に罰則があり,「ストーカー行為」をしたものは,6月以下の懲役刑か50万円以下の罰金の刑が選択されることになっています。

   そして,「ストーカー行為」とは,同法2条2項に規定があり「同一の者に対し、つきまとい等(前項第一号から第四号までに掲げる行為については、身体の安全、住居等の平穏若しくは名誉が害され、又は行動の自由が著しく害される不安を覚えさせるような方法により行われる場合に限る。)を反復してすること」を指すものとされています。すなわち,「つきまとい行為」を「反復」してすることが構成要件となっています。

 (2)ストーカー規制法の解釈

   ストーカー規制法の各条文の解釈については,実際にストーカー規制法に基づいて警告などの運用をしている警視庁のホームページが参考になります。
   
<参考HP> 
http://www.keishicho.metro.tokyo.jp/seian/stoka/stoka.htm

-----上記HP引用

1. 「つきまとい等」とは

   この法律では、特定の者に対する恋愛感情その他の好意感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で、その特定の者又はその家族などに対して行う以下の8つの行為を「つきまとい等」と規定し、規制しています。

ア つきまとい・待ち伏せ・押しかけ つきまとい、待ち伏せし、進路に立ちふさがり、住居、勤務先、学校その他その通常所在する場所(以下「住居等」という。)の付近において見張りをし、又は住居等に押し掛けること。

イ 監視していると告げる行為 その行動を監視していると思わせるような事項を告げ、又はその知り得る状態に置くこと。例えば、「今日はAさんと一緒に銀座で食事をしていましたね」と、口頭・電話や電子メール等で連絡する(「告げる」)ことや、自転車の前カゴにメモを置いておくなどする(「知り得る状態に置く」)ことをいいます。

ウ 面会・交際の要求 面会、交際その他の義務のないことを行うことを要求すること。例えば、拒否しているにもかかわらず、面会や交際、復縁又は贈り物を受け取るよう要求することがこれにあたります。

エ 乱暴な言動 著しく粗野又は乱暴な言動をすること。例えば、大声で「バカヤロー」と粗野な言葉を浴びせることや、家の前でクラクションを鳴らすことなどはこれにあたります。

オ 無言電話、連続した電話、ファクシミリ、電子メール 電話をかけて何も告げず、又は拒まれたにもかかわらず、連続して、電話をかけ、 ファクシミリ装置を用いて送信し、若しくは電子メールを送信すること。例えば、無言電話をかけることや、拒否しているにもかかわらず、短時間に何度も電話をかけたりFAXを送り付ける、電子メールを送信してくることがこれにあたります。

カ 汚物などの送付 汚物、動物の死体その他の著しく不快又は嫌悪の情を催させるような物を送付し、又はその知り得る状態に置くこと。例えば、汚物や動物の死体など、不愉快や嫌悪感を与えるものを自宅や職場に送り付けることがこれにあたります。

キ 名誉を傷つける その名誉を害する事項を告げ、又はその知り得る状態に置くこと。例えば、中傷したり名誉を傷つけるような内容を告げたり文書などを届けることがこれにあたります。

ク 性的しゅう恥心の侵害 その性的しゅう恥心を害する事項を告げ若しくはその知り得る状態に置き、又はその性的しゅう恥心を害する文書、図画その他の物を送付し若しくはその知り得る状態に置くこと。例えば、わいせつな写真などを、自宅に送り付けたり、電話や手紙で卑劣な言葉を告げて辱めようとすることなどがこれにあたります。

2. 「ストーカー行為」とは

  同一の者に対し「つきまとい等」を繰り返して行うことを「ストーカー行為」と規定して、罰則を設けています。但し「つきまとい等」のア〜工までの行為にあっては、身体の安全、住居等の平穏若しくは名誉が害され、又は行動の自由が著しく害される不安を覚えさせるような方法により行われた場合に限ります。

-----

 (3)実際の「ストーカー行為」の認定

   実際の警察の運用も,上記の条文解釈に基づいて行われているものと考えられます。今回の事案でも,何度も電話をかけたりメールをする行為は上記「オ」の類型に該当しますし,また,自宅に押し掛けたことは上記「ウ」の面会の強要に該当するでしょう。

    「反復・継続」の要件については,事案ごとに判断されるのでケースバイケースですが,行為の態様,時間,回数(頻度)から,総合的に判断されることになります。今回のケースも,極めて短期間のうちに何度も連絡を行い,さらには家まで押しかけているのですから「反復」の要件を満たすことは明らかでしょう。

 (4)ストーカー規制法の違反者に対する警察の方策

    ここで,ストーカー事案において,警察がストーカー規制法上取り得る方策についてみていきます。詳しくは,下記の参考HPを見てください。

<参考HP>大阪府警察 HP
https://www.police.pref.osaka.jp/05bouhan/stalker/stalker03_1.html

     被害者がストーカー被害に遭った場合,警察の被害担当窓口が「つきまとい行為」,「ストーカー行為」に該当するか否かの判定を行います。

   つきまとい行為に該当し,今後もそれが継続するようであれば,被害者からの警告の申出に応じ,警察から加害者に対し,ストーカー規制法に基づく「警告」がなされます(法4条)。

   警告がなされた後もストーカー行為が続くようであれば,公安委員会による聴聞を経た上で,「禁止命令」を行うことができます(法5条)。

   ただ,聴聞には時間がかかる可能性もありますので,警告の申出があり,かつ緊急性の高い事案においては,一旦「仮の命令」を出しておいて,公安委員会における聴取がなされることもあります(法6条)。

   この「禁止命令」に違反して「ストーカー行為」を行った場合には,「1年以下の罰金若しくは100万円以下の罰金」の刑罰が下されます(法14条1項)。一方,禁止命令に反したが,それがストーカー行為とまではいえない場合には,「50万円以下の罰金」になります(法14条2項)。

   上記のストーカー規制法の禁止命令とは独立して,被害者から「ストーカー行為」を受けているとして「告訴」がなされ,それが受理された場合には「50万円以下の罰金若しくは6月以下の懲役」が下されることになります。

   今回の件は,禁止命令を経ずに告訴がされてストーカー行為を行ったので,規制法13条に違反することになります。

   ただ,通常はいきなりストーカー規制法違反で告訴がされ,刑事事件化ということは少なく,一度警察から「警告」がなされた上で,それでも行為が止まないような場合に刑事罰に科せられるケースが多いようです。

(5)刑事事件として起訴された場合

   なお,本罪は反復性が要件とされているのですから,同一の態様で時間的に近接している範囲内の行為は,基本的には法律上一罪と評価されます。ただし,時間的,場所にも離れており,同一の行為とは法律上評価できないような場合,複数のストーカー行為があるものとして,法律上は2つのストーカー規制法違反が成立することがありえます。

   今回でいえば,電話・メールによる連絡と,被害者の自宅に訪問したという行為は,時間・場所的にはなれており,行為態様も異なりますので,法律上は別個の行為と扱われる可能性があります。

   その場合には2つのストーカー行為として両者は併合罪(刑法45条)として扱われることになります。起訴状にそれぞれ記載が分割されている場合には,併合罪として扱われていることになります。

   併合罪の場合,長期の2分の1を加えた量刑,すなわち最長で懲役9月が選択されることもありますので注意が必要になります。

 2 ストーカー規制法違反の弁護活動について(医道審議会の対応を含む。)

 (1)被害者との示談交渉

   では,ストーカー規制法違反において,刑罰を最大限軽くするためには,どのようにしたらよいのでしょうか。まず,第一に考えるべきは,適切な弁護人を立てて,被害者への示談交渉を行うことでしょう。

   ストーカー規制法は1条で「この法律は、ストーカー行為を処罰する等ストーカー行為等について必要な規制を行うとともに、その相手方に対する援助の措置等を定めることにより、個人の身体、自由及び名誉に対する危害の発生を防止し、あわせて国民の生活の安全と平穏に資することを目的とする」と規定しているとおり,ストーカー被害者の救済を目的としています。

   このような個人の権利利益を保護するための罰則における量刑選択において,もっとも重要なのは,被害者への補償状況(示談を行ったかどうか)になります。すなわち,被害者の受けた精神的苦痛に対し,どの程度の金銭的補填をしたのか,という点が極めて重要になります。

   そのためには,弁護人を通じて,被害者との間において示談交渉を行い,実際に謝罪をし,被害填補のための金銭賠償を行う必要があります。特に反復してストーカー被害を受けている被害者の精神的苦痛は甚大なものがありますので,専門的経験を有する弁護人を選任し,示談交渉に当たってもらう必要があるでしょう。

   金銭的な賠償をすることはもちろんですが,被害者への謝罪の言葉については謝罪文などを作成し弁護人を通じて交付してもらうことが重要です。また,被害者の今後の平穏な生活を保障するために,二度とあなたが被害者に接近しないことを誓約する不接近誓約書(親族が二度と近づかないことを保証したり,万が一破った場合には違約金条項を付けるとより有効といえます。)を交付することも有効でしょう。

   上記の示談交渉においては,弁護人を通じて示談合意書を作成し,かつ,示談合意書を裁判所に提出することについて被害者に了解を得ておく必要もあります。示談合意においては,被害者があなたを宥恕(謝罪を受け入れ許し,法的な責任を一切追求しないこと。)することを一筆書いてもらえれば,極めて有利な事実になります。

   ただ,いずれにせよ本人では示談交渉はできませんので,適切な弁護人を付けることは必要不可欠です。

   この点,上で述べたようにストーカー規制法違反自体は軽微な犯罪類型ですので,示談をしない場合であっても,初犯で反省の意思をしっかりと示していれば,執行猶予が付く可能性が高いといえます。したがって,示談をしても経済的負担がかかるのみで結果としては大きく変わるわけではない可能性があります。ただ,行為の悪質性等をみられ初犯で実刑判決が下されるケースがないわけではないですし,後述(4)で述べるとおり,医道審議会における行政処分について,被害者との示談が重要です。医師という特殊性を考慮すれば,示談は必要不可欠なものといえるでしょう。

 (2)親族(協力者)による身元引受

   「ストーカー行為」は,反復継続して「つきまとい行為」を行うものですが,自身の意思ではこれを制御できないことが多いかもしれません。裁判所は,あなたが再犯を犯すおそれがあるかどうか,といった点も量刑上考慮に入れます。

   本人で行動を制御できない可能性があるのであれば,身近な親族(できれば同居している家族が望ましいといえます。)に身元引受書を作成してもらい,今後二度とこのようなストーカー行為をしないように生活指導をしていくことを誓約してもらうのがよいでしょう。場合によっては,親族に公判期日に出頭してもらい,情状証人として監督の意思・能力に問題がないことを証言してもらうべきです。

 (3)公判における弁護活動

   公判においては,弁護人を通じて上記の示談交渉の経過,親族その他の協力者の書面など有利な事実について報告し,可能な限り刑の減軽を求めるべきです。そして,被告人質問においてはあなたの真摯な反省の態度を示す必要があります。この点は,弁護人と綿密な打ち合わせを通じて公判期日に及ぶ必要があります。

   その他,あなたにとって有利な情状事実があれば,やはり弁護人を通じて主張立証してもらう必要があるでしょう。

 (4)医道審議会を見据えた弁護活動

   上記は刑事裁判における弁護活動についてですが,刑事裁判が確定した後は,医道審議会における行政処分への対応を考える必要があります。上に述べたとおり,医道審議会における行政処分は,基本的に刑事裁判の量刑の重さを基本に決しますので,可能な限り刑事裁判の結果については軽いものにしておくべきです。

   さらに,医道審議会における行政処分においては,「被害者への補償状況」を別途報告するものとされており,処分の重さを決定するにあたって極めて重要なものとされています。そこで,上記(1)において述べた被害者への示談交渉経過については,書面その他主張書面において詳細に主張しておく必要があるでしょう。

   さらに,医道審議会における行政処分を軽減するような被害者本人からの嘆願書(できれば行政処分を求めないという詳細な上申書)を別途取得できるのであれば,これを提出することは極めて有利な事実になります。この手続きは、刑事事件の和解の時にある程度被害者側の被害感情を見定めて再度医道審議会が近づいた時に行います。これによって,より短期の医業停止処分や,さらには戒告などダメージの少ない処分を狙うことが可能となるでしょう。

   そのためには,別途被害者との示談交渉が必要になりますので,医道審議会を見据えた示談交渉に長けた弁護士へ相談した方がよいでしょう。

<参照条文>
ストーカー行為等の規制等に関する法律
(目的)
第一条  この法律は、ストーカー行為を処罰する等ストーカー行為等について必要な規制を行うとともに、その相手方に対する援助の措置等を定めることにより、個人の身体、自由及び名誉に対する危害の発生を防止し、あわせて国民の生活の安全と平穏に資することを目的とする。 

(定義)
第二条  この法律において「つきまとい等」とは、特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で、当該特定の者又はその配偶者、直系若しくは同居の親族その他当該特定の者と社会生活において密接な関係を有する者に対し、次の各号のいずれかに掲げる行為をすることをいう。
一  つきまとい、待ち伏せし、進路に立ちふさがり、住居、勤務先、学校その他その通常所在する場所(以下「住居等」という。)の付近において見張りをし、又は住居等に押し掛けること。
二  その行動を監視していると思わせるような事項を告げ、又はその知り得る状態に置くこと。
三  面会、交際その他の義務のないことを行うことを要求すること。
四  著しく粗野又は乱暴な言動をすること。
五  電話をかけて何も告げず、又は拒まれたにもかかわらず、連続して、電話をかけ、ファクシミリ装置を用いて送信し、若しくは電子メールを送信すること。
六  汚物、動物の死体その他の著しく不快又は嫌悪の情を催させるような物を送付し、又はその知り得る状態に置くこと。
七  その名誉を害する事項を告げ、又はその知り得る状態に置くこと。
八  その性的羞恥心を害する事項を告げ若しくはその知り得る状態に置き、又はその性的羞恥心を害する文書、図画その他の物を送付し若しくはその知り得る状態に置くこと。
2  この法律において「ストーカー行為」とは、同一の者に対し、つきまとい等(前項第一号から第四号までに掲げる行為については、身体の安全、住居等の平穏若しくは名誉が害され、又は行動の自由が著しく害される不安を覚えさせるような方法により行われる場合に限る。)を反復してすることをいう。

(つきまとい等をして不安を覚えさせることの禁止)
第三条  何人も、つきまとい等をして、その相手方に身体の安全、住居等の平穏若しくは名誉が害され、又は行動の自由が著しく害される不安を覚えさせてはならない。

(警告)
第四条  警視総監若しくは道府県警察本部長又は警察署長(以下「警察本部長等」という。)は、つきまとい等をされたとして当該つきまとい等に係る警告を求める旨の申出を受けた場合において、当該申出に係る前条の規定に違反する行為があり、かつ、当該行為をした者が更に反復して当該行為をするおそれがあると認めるときは、当該行為をした者に対し、国家公安委員会規則で定めるところにより、更に反復して当該行為をしてはならない旨を警告することができる。
2  一の警察本部長等が前項の規定による警告(以下「警告」という。)をした場合には、他の警察本部長等は、当該警告を受けた者に対し、当該警告に係る前条の規定に違反する行為について警告又は第六条第一項の規定による命令をすることができない。
3  警察本部長等は、警告をしたときは、速やかに、当該警告の内容及び日時を第一項の申出をした者に通知しなければならない。
4  警察本部長等は、警告をしなかったときは、速やかに、その旨及びその理由を第一項の申出をした者に書面により通知しなければならない。
5  警察本部長等は、警告をしたときは、速やかに、当該警告の内容及び日時その他当該警告に関する事項で国家公安委員会規則で定めるものを都道府県公安委員会(以下「公安委員会」という。)に報告しなければならない。
6  前各項に定めるもののほか、第一項の申出の受理及び警告の実施に関し必要な事項は、国家公安委員会規則で定める。

(禁止命令等)
第五条  公安委員会は、警告を受けた者が当該警告に従わずに当該警告に係る第三条の規定に違反する行為をした場合において、当該行為をした者が更に反復して当該行為をするおそれがあると認めるときは、当該警告に係る前条第一項の申出をした者の申出により、又は職権で、当該行為をした者に対し、国家公安委員会規則で定めるところにより、次に掲げる事項を命ずることができる。
一  更に反復して当該行為をしてはならないこと。
二  更に反復して当該行為が行われることを防止するために必要な事項
2  公安委員会は、前項の規定による命令(以下「禁止命令等」という。)をしようとするときは、行政手続法 (平成五年法律第八十八号)第十三条第一項 の規定による意見陳述のための手続の区分にかかわらず、聴聞を行わなければならない。
3  一の公安委員会が禁止命令等をした場合には、他の公安委員会は、当該禁止命令等を受けた者に対し、当該禁止命令等に係る第三条の規定に違反する行為について禁止命令等をすることができない。
4  公安委員会は、第一項の申出を受けた場合において、禁止命令等をしたときは、速やかに、当該禁止命令等の内容及び日時を当該申出をした者に通知しなければならない。
5  公安委員会は、第一項の申出を受けた場合において、禁止命令等をしなかったときは、速やかに、その旨及びその理由を当該申出をした者に書面により通知しなければならない。
6  前各項に定めるもののほか、禁止命令等の実施に関し必要な事項は、国家公安委員会規則で定める。

(仮の命令)
第六条  警察本部長等は、第四条第一項の申出を受けた場合において、当該申出に係る第三条の規定に違反する行為(第二条第一項第一号に掲げる行為に係るものに限る。)があり、かつ、当該行為をした者が更に反復して当該行為をするおそれがあると認めるとともに、当該申出をした者の身体の安全、住居等の平穏若しくは名誉が害され、又は行動の自由が著しく害されることを防止するために緊急の必要があると認めるときは、当該行為をした者に対し、行政手続法第十三条第一項 の規定にかかわらず、聴聞又は弁明の機会の付与を行わないで、国家公安委員会規則で定めるところにより、更に反復して当該行為をしてはならない旨を命ずることができる。
2  一の警察本部長等が前項の規定による命令(以下「仮の命令」という。)をした場合には、他の警察本部長等は、当該仮の命令を受けた者に対し、当該仮の命令に係る第三条の規定に違反する行為について警告又は仮の命令をすることができない。
3  仮の命令の効力は、仮の命令をした日から起算して十五日とする。
4  警察本部長等は、仮の命令をしたときは、直ちに、当該仮の命令の内容及び日時その他当該仮の命令に関する事項で国家公安委員会規則で定めるものを公安委員会に報告しなければならない。
5  公安委員会は、前項の規定による報告を受けたときは、当該報告に係る仮の命令があった日から起算して十五日以内に、意見の聴取を行わなければならない。
6  行政手続法第三章第二節 (第二十八条を除く。)の規定は、公安委員会が前項の規定による意見の聴取(以下「意見の聴取」という。)を行う場合について準用する。この場合において、同法第十五条第一項 中「聴聞を行うべき期日までに相当な期間をおいて」とあるのは、「速やかに」と読み替えるほか、必要な技術的読替えは、政令で定める。
7  公安委員会は、仮の命令に係る第三条の規定に違反する行為がある場合において、意見の聴取の結果、当該仮の命令が不当でないと認めるときは、行政手続法第十三条第一項 の規定及び前条第二項の規定にかかわらず、聴聞を行わないで禁止命令等をすることができる。
8  前項の規定により禁止命令等をしたときは、仮の命令は、その効力を失う。
9  公安委員会は、第七項に規定する場合を除き、意見の聴取を行った後直ちに、仮の命令の効力を失わせなければならない。
10  仮の命令を受けた者の所在が不明であるため第六項において準用する行政手続法第十五条第三項 の規定により意見の聴取の通知を行った場合の当該仮の命令の効力は、第三項の規定にかかわらず、当該仮の命令に係る意見の聴取の期日までとする。
11  前各項に定めるもののほか、仮の命令及び意見の聴取の実施に関し必要な事項は、国家公安委員会規則で定める。

(警察本部長等の援助等)
第七条  警察本部長等は、ストーカー行為又は第三条の規定に違反する行為(以下「ストーカー行為等」という。)の相手方から当該ストーカー行為等に係る被害を自ら防止するための援助を受けたい旨の申出があり、その申出を相当と認めるときは、当該相手方に対し、当該ストーカー行為等に係る被害を自ら防止するための措置の教示その他国家公安委員会規則で定める必要な援助を行うものとする。
2  警察本部長等は、前項の援助を行うに当たっては、関係行政機関又は関係のある公私の団体と緊密な連携を図るよう努めなければならない。
3  警察本部長等は、第一項に定めるもののほか、ストーカー行為等に係る被害を防止するための措置を講ずるよう努めなければならない。
4  第一項及び第二項に定めるもののほか、第一項の申出の受理及び援助の実施に関し必要な事項は、国家公安委員会規則で定める。

(国、地方公共団体、関係事業者等の支援等)
第八条  国及び地方公共団体は、ストーカー行為等の防止に関する啓発及び知識の普及、ストーカー行為等の相手方に対する婦人相談所その他適切な施設による支援並びにストーカー行為等の防止に関する活動等を行っている民間の自主的な組織活動の支援に努めなければならない。
2  国及び地方公共団体は、前項の支援等を図るため、必要な体制の整備、民間の自主的な組織活動の支援に係る施策を実施するために必要な財政上の措置その他必要な措置を講ずるよう努めなければならない。
3  ストーカー行為等に係る役務の提供を行った関係事業者は、当該ストーカー行為等の相手方からの求めに応じて、当該ストーカー行為等が行われることを防止するための措置を講ずること等に努めるものとする。
4  ストーカー行為等が行われている場合には、当該ストーカー行為等が行われている地域の住民は、当該ストーカー行為等の相手方に対する援助に努めるものとする。

(報告徴収等)
第九条  警察本部長等は、警告又は仮の命令をするために必要があると認めるときは、その必要な限度において、第四条第一項の申出に係る第三条の規定に違反する行為をしたと認められる者その他の関係者に対し、報告若しくは資料の提出を求め、又は警察職員に当該行為をしたと認められる者その他の関係者に質問させることができる。
2  公安委員会は、禁止命令等をするために必要があると認めるときは、その必要な限度において、警告若しくは仮の命令を受けた者その他の関係者に対し、報告若しくは資料の提出を求め、又は警察職員に警告若しくは仮の命令を受けた者その他の関係者に質問させることができる。

(禁止命令等を行う公安委員会等)
第十条  この法律における公安委員会は、禁止命令等並びに第五条第二項の聴聞及び意見の聴取に関しては、当該禁止命令等並びに同項の聴聞及び意見の聴取に係る事案に関する第四条第一項の申出をした者の住所若しくは居所若しくは当該禁止命令等並びに第五条第二項の聴聞及び意見の聴取に係る第三条の規定に違反する行為をした者の住所(日本国内に住所がないとき又は住所が知れないときは居所)の所在地又は当該行為が行われた地を管轄する公安委員会とする。
2  この法律における警察本部長等は、警告及び仮の命令に関しては、当該警告又は仮の命令に係る第四条第一項の申出をした者の住所若しくは居所若しくは当該申出に係る第三条の規定に違反する行為をした者の住所(日本国内に住所がないとき又は住所が知れないときは居所)の所在地又は当該行為が行われた地を管轄する警察本部長等とする。
3  公安委員会は、警告又は仮の命令があった場合において、次に掲げる事由が生じたことを知ったときは、速やかに、当該警告又は仮の命令の内容及び日時その他当該警告又は仮の命令に関する事項で国家公安委員会規則で定めるものを当該他の公安委員会に通知しなければならない。ただし、当該警告又は仮の命令に係る事案に関する第五条第二項の聴聞又は意見の聴取を終了している場合は、この限りでない。
一  当該警告又は仮の命令に係る第四条第一項の申出をした者がその住所又は居所を他の公安委員会の管轄区域内に移転したこと。
二  当該申出に係る第三条の規定に違反する行為をした者がその住所(日本国内に住所がないとき又は住所が知れないときは居所)を他の公安委員会の管轄区域内に移転したこと。
4  公安委員会は、前項本文に規定する場合において、同項ただし書の聴聞又は意見の聴取を終了しているときは、当該聴聞又は意見の聴取に係る禁止命令等をすることができるものとし、同項の他の公安委員会は、第一項の規定にかかわらず、当該聴聞又は意見の聴取に係る禁止命令等をすることができないものとする。
5  公安委員会は、前項に規定する場合において、第三項ただし書の聴聞に係る禁止命令等をしないときは、速やかに、同項に規定する事項を同項の他の公安委員会に通知しなければならない。

(方面公安委員会への権限の委任)
第十一条  この法律により道公安委員会の権限に属する事務は、政令で定めるところにより、方面公安委員会に委任することができる。

(方面本部長への権限の委任)
第十二条  この法律により道警察本部長の権限に属する事務は、政令で定めるところにより、方面本部長に行わせることができる。

(罰則)
第十三条  ストーカー行為をした者は、六月以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
2  前項の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。

第十四条  禁止命令等(第五条第一項第一号に係るものに限る。以下同じ。)に違反してストーカー行為をした者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
2  前項に規定するもののほか、禁止命令等に違反してつきまとい等をすることにより、ストーカー行為をした者も、同項と同様とする。

第十五条  前条に規定するもののほか、禁止命令等に違反した者は、五十万円以下の罰金に処する。

(適用上の注意)
第十六条  この法律の適用に当たっては、国民の権利を不当に侵害しないように留意し、その本来の目的を逸脱して他の目的のためにこれを濫用するようなことがあってはならない。

<参考判例1>
さいたま地方裁判所平成26年(わ)第643号
平成26年8月13日第1刑事部判決

       判   決

無職(元地方公務員) B 昭和30年○○月○○日生
 上記の者に対するストーカー行為等の規制等に関する法律違反被告事件について,当裁判所は,検察官中嶋伸明,私選弁護人関威紀各出席の上審理し,次のとおり判決する。

       主   文

被告人を懲役5月に処する。
この裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予する。

       理   由

(罪となるべき事実)
 被告人は,平成25年12月20日に埼玉県甲警察署長からストーカー行為等の規制等に関する法律4条1項に基づく警告を受けていたにもかかわらず,元同僚であるAに対する恋愛感情その他の好意の感情を充足する目的で
1 平成26年3月29日にAの母親から電話をかけないよう申し渡されているにもかかわらず,同年4月2日午後7時58分頃,■被告人方において,同所に 設置された電話機を使用して,■A方に設置された電話機に電話をかけ,その留守番電話機能に「4月5日土曜日午後5時,四季劇場夏の入口前でお待ちしてお ります。できましたら,お母様とA様のお二人でお越しください。」などと言って録音するとともにAに了知させて,住居等の平穏が害され,又は行動の自由が 害される不安を覚えさせるような方法により義務のないことを行うことを要求し
2 Aに拒まれたにもかかわらず,別表記載のとおり,同月4日午後7時57分頃から同月12日午後8時6分頃までの間,8回にわたり,前記被告人方において,同所に設置された前記電話機を使用して,前記A方に設置された電話機に,連続して電話をかけ
もって同人に対し,つきまとい等を反復して行い,ストーカー行為をしたものである。
(証拠の標目)《略》
(法令の適用)
1 罰条 包括してストーカー行為等の規制等に関する法律13条1項(判示1につき同法2条2項,1項3号,判示2につき同法2条2項,1項5号)
2 刑種の選択 懲役刑
3 刑の執行猶予 刑法25条1項
(量刑の事情)
 被告人は,以前より執拗に勤務先の同僚であったAにつきまとい,上司等から繰り返し注意を受け,警察からも前記警告を受けていたにもかかわらず,それを 意に介さずに本件犯行に及んだものであって,その経緯,動機に酌むべき点はなく,悪質である。一連の犯行によりAの受けた精神的苦痛は大きく,当然のこと ながら処罰感情は厳しい。
 そうすると,被告人の刑事責任は相応に重く、本件は懲役刑を選択すべき事案といえるが,他方,被告人が犯行を認め,公判廷で反省の言葉を述べ,今後はA と関わらない旨誓っていること,前科前歴がないこと,本件を機に被告人が職を辞したことなどの諸事情も考慮し,主文掲記の刑に処した上,その執行を猶予す るのが相当と判断した。
 よって,主文のとおり判決する。 
(求刑 懲役5月)
平成26年8月13日
さいたま地方裁判所第1刑事部
裁判官 多和田隆史

別表

<参考判例2>
最高裁平成17年11月25日決定

ストーカー行為等の規制等に関する法律違反被告事件
最高裁判所第二小法廷平成16年(あ)第2571号
平成17年11月25日決定

       主   文

本件上告を棄却する。

       理   由

 弁護人梅木佳則の上告趣意は,事実誤認,単なる法令違反の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。
 なお,ストーカー行為等の規制等に関する法律2条2項の「ストーカー行為」とは,同条1項1号から8号までに掲げる「つきまとい等」のうち,いずれかの行為をすることを反復する行為をいい,特定の行為あるいは特定の号に掲げられた行為を反復する場合に限るものではないと解すべきであるから,これと同旨の原判断は相当である。
 よって,刑訴法414条,386条1項3号により,裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。 
(裁判長裁判官 中川了滋 裁判官 滝井繁男 裁判官 津野修 裁判官 今井功 裁判官 古田佑紀)


法律相談事例集データベースのページに戻る

法律相談ページに戻る(電話03−3248−5791で簡単な無料法律相談を受付しております)

トップページに戻る