高校生の退学勧告と自宅待機命令の法的性質

民事|地位保全の仮処分|早期復学|東京高裁平成4年3月19日判決

目次

  1. 質問
  2. 回答
  3. 解説
  4. 関連事例集
  5. 参考条文

質問:

都内の私立高校に通う息子・17歳(3年生)が先日、通学途中の電車内で女子高生の臀部を着衣の上から触れる痴漢行為を行い、補導されました。この件はすぐに学校に知れ、学校からは自主退学を勧告されるとともに退学までの期間については自宅待機を命じられています。

しかし、息子は復学の意思が固く、これまで私ども両親が5度に渡って学校に赴き、復学を認めてもらうよう要請しているのですが、学校側は「犯罪行為を行った生徒さんには、たとえ初めてのことであっても、これまで例外なく自主退学をしてもらっている。息子さんが自主退学するまで退学勧告と自宅待機命令は続くことになる。」の一点張りで、自宅待機を命じられてから約1か月が経とうとしています。

このままでは、仮に復学できたとしても卒業に必要な出席日数を確保できないのではないかと、大変不安です。早期復学のために何か出来ることはないでしょうか。

回答:

第1 長期間の自宅待機処分の不当性

1.息子さんと学校との間では、学校に対し、その目的に応じた授業、実習等の教育活動を自己に行い、関連する教育役務の提供を行うよう委託し、学校の施設を利用することができる一方、それらの対価として入学金や授業料を支払う、という内容の在学契約が成立しており、学校はかかる在学契約上の義務を排斥し得るような法的根拠がない限り、法的義務として教育役務提供等を行うべき地位にあります。

2.学校の在学契約上の義務が排斥される典型例としては、有効な退学処分がなされた場合が挙げられますが、息子さんは自主退学勧告及びこれに伴う自宅待機命令を受けているに過ぎず、かかる措置が学校の教育役務提供等の義務を排斥しうる根拠となりうるかが問題となります。

3. 学校が懲戒処分を行う前段階で生徒の登校を制限する措置をとることは一般的に良く行われていますが、かかる自宅待機命令は、主として懲戒処分の対象となる事実関係の調査や懲戒処分の決定に時間を要することから、その間の暫定的措置として認められるものです。そのため、自宅待機を無制限に長期化させることは許されず、処分対象事実の調査や処分内容の検討といった目的に応じた合理的期間を途過している場合には、在学契約上の義務の不履行を正当化し得る根拠とはなり得ない(債務不履行を構成する)と解されます。息子さんの場合、自宅待機命令から既に1か月が経過しており、合理的期間を途過していると考えられるため、退学処分がなされていない現状では、息子さんは学校に対して教育役務提供等の義務の履行を求めることができる状態にある可能性が高いと考えられます。

第2 早期復学のための弁護士による交渉と仮処分

1. 息子さんの早期復学を達成するための最も現実的な手段としては、代理人弁護士による交渉が考えられます。学校が長期間の自宅待機命令を継続しているような場合、そもそも在学契約上の義務の不履行といった法的見地からの検討が不十分であることが多く、弁護士が復学に向けての交渉の中で学校側の対応の法的見地からの問題点を詳細に説明、説得することによって、学校側の理解を得られる可能性も十分考えられます。

2. 弁護士による交渉によっても事態の打開が図れない場合、民事訴訟に先立って、学校による在学契約上の義務の履行を裁判所に仮に命じてもらう手続きである、仮処分の申立てを検討すべきことになります。本来は、裁判所に仮処分命令を発してもらうことで復学を実現する手続きになりますが、裁判所が申立てに理由があるとの心証を得た場合、審尋手続の中で学校側に生徒の復学を認める内容での和解の勧試を行うことが多いと思われます。学校側も裁判所より仮処分命令が発せられる見込みが明らかになったとなると、従前の強硬な態度を翻意し、復学を認める方向での和解に応じる姿勢に転じることも十分に期待できるといえます。

3. 以上のように、復学を実現するための法的手段はあるものの、実際には何時復学が実現できるのか、正式な退学処分が下されることになるのではないか等、解決までの間、心配の尽きない不安定な状態が続くことになるため、息子さんに相当な精神的負荷がかかることが予想されます。そのため、代理人弁護士を通しての交渉によって事態を打開できなかった場合に裁判手続を用いることを一方的にお勧めできるわけではなく、復学実現のための法的手段をどこまで行使するかについては、現在の法的状況や今後の見通し、息子さんが負うことになるリスク等につき十分にご理解頂いた上、息子さんやご両親のご意向を踏まえて詳細に協議して方針決定する必要があるでしょう。

4. 刑事手続への対応も含め、まずはお近くの法律事務所にご相談されることをお勧めいたします。

5. 退学に関する関連事例集参照。

解説:

1.はじめに

息子さんが電車内で女子高生の臀部を着衣の上から触れた行為は、東京都の公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(いわゆる迷惑防止条例)に違反する行為であり、息子さんは刑事事件の被疑者として捜査機関による取調べを受けた上、家庭裁判所において息子さんに対する保護処分(現実的には、保護観察所の保護観察に付する処分)の要否や内容等が検討されることになると予想されます(少年法24条1項1号、41条、42条)。しかし、刑事手続の帰趨以上に少年の人生を大きく左右し得るという意味で、学校に対する対応は、時として刑事手続への対応以上に重要な意味を持つことがあります。最近では、私立の学校であっても、公立校と同様、警察との間で警察・学校相互連絡制度に関する協定を締結していることが多く、「生徒の健全育成のため」という建前の下、少年による事件を認知した警察が学校に対して安易に情報提供してしまうケースは頻繁に経験します。刑事事件を起こした生徒の在学を望まない学校が生徒や保護者に対して退学を求めてくる場合も少なくありません。

本稿では、刑事事件を契機に、復学を希望しているにも拘らず退学を促された場合の学校との関係での対応について解説いたします。刑事手続への対応については他稿で詳細に解説してありますので、そちらもご参照ください。

2.息子さんと学校との間の法律関係

まず、復学の可否や復学に向けての対応を検討する前提として、息子さんと学校との間の法律関係について確認しておく必要があります。

(1)在学契約に基づく学校の義務

通常、生徒と学校との間では、生徒が学校に対し、その目的に応じた授業、実習等の教育活動を自己に行い、関連する教育役務の提供を行うよう委託し、学校の施設を利用することができる一方、それらの対価として入学金や授業料を支払う、という内容の在学契約が成立していると考えられます(京都地判平成15年7月16日参照)。かかる在学契約の法的性質については厳密には諸説存在するところですが、概ね、教育役務の提供という準委任的要素(当事者の一方が法律行為でない事務を相手方に委託し、相手方がこれを承諾すること。民法656条、643条参照)を中心とする有償双務契約であることに争いはありません(東京地判平成16年3月22日参照)。

これらは私法上の契約に基づく債権・債務ですから、学校は生徒に対して、法的義務として教育役務提供等を行うべき立場にあり、学校側としては、かかる在学契約上の義務を排斥し得るような法的根拠がない限り、生徒に対して登校させない措置をとることは民法上の債務不履行を構成することになります。

(2)在学契約上の義務が排斥される場合

学校側の教育役務提供等の義務を排斥し得るような法的根拠の典型例としては、生徒に対して有効な退学処分を行った場合が考えられます。退学処分は、学校教育法11条及びこれを受けた学校教育法施行規則26条2項・3項を根拠とする懲戒処分の一種であり、生徒と学校との在学契約を将来に向かって解除する法的効果を有するものです。したがって、退学処分を受けた生徒は在学契約に根拠を置く教育役務提供等の義務の履行を請求することは最早できなくなります。

息子さんは痴漢行為という犯罪行為を行っており、学校教育法施行規則26条3項所定の懲戒事由に該当すること自体は否定できないところです。もっとも、息子さんの場合、未だ退学処分の言渡しを受けているわけではなく、あくまで自主的な退学を勧告されるにとどまっており、かかる状況での自宅待機命令という措置が教育役務提供等の在学契約上の義務を排斥し得るような法的根拠たり得るかどうかについては検討を要します。特にご相談の場合のように自宅待機命令が1か月以上の長期にわたり許されるのか問題となります。

(3)自主退学勧告及び自宅待機命令の法的効果

この点、高等学校における自主退学については、学校教育法施行規則94条が「生徒が、休学又は退学をしようとするときは、校長の許可を受けなければならない。」と規定するのみであり、あくまで当該生徒及び保護者が自主的な意思に基づき願い出た退学を校長が許可する、という構図が前提とされています。したがって、自主的な退学を勧告する措置それ自体が教育役務提供等の義務を排斥する法的効果を有するとは解し得ず、在学契約上の義務の不履行を正当化しうる根拠は自宅待機命令に求められることになります。

生徒が懲戒処分に該当する行為を行った場合、学校が懲戒処分を行う前段階で、生徒の登校を制限する措置をとることは一般的に良く行われています。かかる自宅待機命令は、主として懲戒処分の対象となる事実関係の調査や懲戒処分の決定に時間を要することから、その間の暫定的措置として行われるものです。実際には退学処分相当の事案であっても、生徒の将来に与える重大な影響を避けるという配慮の下、自主退学勧告が行われるケースがあるようですが、このようなケースも、生徒に対して実際に退学処分を行うか否かを検討するにあたって、生徒側からの自主的な退学申出の有無を考慮する必要があることからなされている措置と考えることが可能です。このように考えると、自宅待機命令も事実調査や処分の検討といった目的に応じた合理的期間内では在学契約上の義務の不履行を正当化しうる根拠となりうる(債務不履行を構成しない)ものの、かかる合理的期間を過ぎ、処分を保留した期間が徒に長期化している状況下においては、不履行の正当化根拠とはなり得ない(債務不履行を構成する)と解することが可能でしょう。

息子さんの場合、自宅待機命令から既に1か月が経過しているとのことですが、懲戒処分の前提となる事実調査や懲戒処分の検討にこれほどの長期間を要するとは通常考えられないため、未だ正式な退学処分がなされていない現状では、学校は在学契約上の義務の不履行に陥っていると考えられ、息子さんは学校に対して教育役務提供等の義務の履行を求めることができる状態にある可能性が高いと考えられます。

3.具体的対応

(1)代理人弁護士による交渉

息子さんの学校は、息子さんとご両親の再三の要請にも拘わらず、1か月以上の長期間にわたって自主退学勧告と自宅待機命令を無期限に継続する姿勢を維持しているとのことですが、生徒・保護者と学校との直接協議を尽くしてもなお学校側の姿勢が変わらない場合、事態の打開を図るため、弁護士が代理人として交渉にあたることが考えられます。学校が長期間の自宅待機命令を継続しているような場合、教育役務提供等の在学契約上の義務の不履行といった法的見地からの検討がそもそも不十分であることが多く、経験上、弁護士が復学に向けての交渉の中で学校側の対応の法的見地からの問題点を詳細に説明、説得することによって、学校側の理解を得られ、結果として早期の復学を実現できるケースも相当程度存在します。

弁護士が代理人として交渉にあたる場合、学校側の措置の妥当性を検討する前提として、学校が認識している息子さんの非行事実(処分対象事実)、自主退学勧告や自宅待機命令等の措置の法律上あるいは学則上の根拠等につき、学校に対して書面での回答を求めることが重要となってきます。また、事実調査や懲戒処分の内容の検討等に通常要する合理的期間が経過していることを明らかにするため、問題の痴漢行為にかかる事案の詳細、学校への発覚の経緯、学校から受けた調査・指導の経過・内容、復学に向けた学校との折衝の具体的経過等につき、息子さん本人やご両親から詳細に事情を聴取することが必要となります。これらを基に、自主退学勧告と自宅待機命令を無期限に継続する学校の措置が在学契約上の義務の不履行にあたること、息子さんの非行が退学処分相当の行為ではないこと(学校が正式に退学処分を決定した場合の処分の有効性については項目を改めて解説します。)等を主張し、息子さんの早期復学を求める詳細な意見書を作成、提出した上で交渉に臨むべきことになります。

このように学校との交渉に弁護士を介入させることによって、学校に悪印象を与え、正式に退学処分が下されるような事態にならないか、ご不安に感じる方もいるかもしれません。しかし、退学処分は停学や訓告等の他の懲戒処分と異なり、学生の身分をはく奪する重大な措置であることから、他の処分と比較して特に慎重な配慮を要する処分であるとされ、後に訴訟等に発展するケースもあることから、学校側も懲戒退学処分を決定するに際しては特に慎重に検討・対応することが通常です。実際には退学処分相当の事案であっても自主退学勧告により生徒による自主的な退学として処理されるケースが多いのも、懲戒退学処分を強行することに対する学校の慎重な姿勢の表れということができます。弁護士が法的見地から詳細な主張を行っている以上、学校側もかかる主張の妥当性を慎重に検討するのが通常であり、少なくとも筆者の経験上、弁護士の介入後に感情的・報復的な処罰であることが疑われるような形で退学処分が言い渡されたことは一度もありません。むしろ、息子さんに対する懲戒処分の内容や自主退学勧告や自宅待機命令等の措置の妥当性を冷静に再検討させる機会になるという意味で、弁護士が介入して交渉にあたるメリットは大きいと思われます。

(2)仮処分の申立て

弁護士が介入して交渉を尽くしたにもかかわらず、学校の態度が強硬で退学勧告と自宅待機命令が続くようであれば、裁判所に対して、仮処分の申立てという手続きを行うことが考えられます。ここで言う仮処分とは、正確には「仮の地位を定める仮処分」といい、争いがある権利関係につき、債権者に著しい損害や急迫の危険が生じることを避けるために暫定的な法律上の地位を定める民事保全の手続のことを指します(民事保全法23条2項)。本来、民事上の権利の実現は民事訴訟を通して図られるべきというのが法治国家の基本的な考え方ですが、即時に権利内容の実現ができないと著しい損害を被るような場合もあり得るため、そのような不都合を回避するために、民事訴訟に先だって一定の暫定的な法律上の地位や権能を認めてもらうために認められている裁判手続の一種であり、早期の権利実現を図ることができるのが特徴です(早ければ申立てから1か月以内に仮処分命令を得られる場合もあります。)。なお、裁判とはいっても、通常の民事訴訟とは異なり、審理は非公開で行われるため、裁判手続が行われていることが学校外の第三者に知られることはありません。

保全事件においては、その緊急性と暫定性の要請から、仮処分命令を発してもらうためには、被保全権利と保全の必要性の疎明(裁判所に対し、事実の存在について一応確からしいという程度の心証を得させるために証拠を提出すること)があれば足りるとされています(民事保全法13条2項)。前述のとおり、息子さんは学校との在学契約に基づいて、学校に対し、学校の目的に応じた授業、実習その他の教育活動を実施し、関連する教育役務を提供し、必要な教育施設の利用をさせるよう請求することのできる権利(被保全権利)を有していると考えられます。かかる権利を民事訴訟によって実現しようとしても、その間に出席日数の不足による留年等の著しい損害を被るおそれがあるため(保全の必要性)、民事保全手続(仮処分命令)によって、上記の権利を仮に実現してもらうことを求める、というのが手続の法的位置付けとなります。保全の必要性との関係では、息子さんが復学することによる学校側の不利益と比較して、息子さんが復学できないことによって被る損害が特に大きいことが必要となりますが、自校に在籍している生徒の復学を認めたところで学校側に特段の不利益が生じるとは考え難いため、通常は問題なく認めてもらうことができるはずです。

被保全権利及び保全の必要性の疎明は、即時に取り調べることができる証拠によってなされる必要があるため(民事保全法13条2項、民事訴訟法188条)、交渉段階から仮処分命令の申立てを見越して、交渉経過は可能な限り証拠化しておくことが望ましいといえます。また、被保全権利の疎明との関係では、事実調査や懲戒処分の内容の検討等に通常要する合理的期間が経過していることを証拠上明らかにするため、痴漢行為にかかる事案の詳細、学校への発覚の経緯、学校から受けた調査・指導の経過・内容、復学に向けた学校との折衝の具体的経過等を詳細にまとめた息子さん及びご両親の陳述書を作成する必要があります。

申立てがなされると、通常、双方審尋(当事者双方立会いの下で申立てに理由があるか否かを審理する手続き)が行われ(民事保全法23条4項・2項)、その結果、申立てに理由があると認められれば仮処分命令が発せられることになります。もっとも、裁判所が申立てに理由があるとの心証を得た場合、学校側に生徒の復学を認める内容での和解の勧試を行うことが少なくありません。学校側も裁判所より仮処分命令が発せられる見込みが明らかになったとなると、従前の強硬な態度を翻意し、復学を認める方向での和解に応じようとしてくることも十分に期待できるといえます。

(3)退学処分が言い渡された場合

万が一、学校から正式に退学処分が言い渡された場合、不当な処分であり退学処分は無効であることを主張して復学を求めることになります。この場合も、早期復学を実現する法的手段としては、裁判所に対する仮処分の申立てが必要となりますが、被保全権利の疎明との関係では、当該退学処分が違法・無効なものであることを主張し、認めてもらう必要があります。

生徒に対して懲戒の内容としていかなる処分を選択するかについては、基本的には、学内の事情に通暁し、直接教育の衝に当たる学校長の合理的裁量に属する事項に属する事柄です。しかし、前述のとおり、退学処分は他の懲戒処分と異なり、学生の身分を剥奪する重大な措置であることから、退学処分の選択は十分な教育的配慮の下に慎重になされることが要求され、退学処分の選択という判断が社会通念上合理性を欠く場合、当該退学処分は校長の裁量を逸脱した違法・無効な処分になると解されています。学校教育法11条を受けた学校教育法施行規則26条3項が生徒に対する懲戒事由を限定的に列挙しているのも、退学処分の重大性に照らして、当該生徒に改善の見込みがなく、これを学外に排除することが教育上やむを得ないと認められる場合に限って退学処分を選択すべきであるとの趣旨の下規定されたものと理解することができます。

そして、退学処分の選択という判断が社会通念上合理性を有するか否かの具体的判断にあたっては、当該行為の態様、結果の軽重、当該生徒の性格及び平素の行状、当該行為に対する学校側の教育的配慮の有無、家族の協力、懲戒処分の本人及び他の生徒に及ぼす訓戒的効果、右行為を不問に付した場合の一般的影響等諸般の要素に照らし、当該生徒に改善の見込がなく、これを学外に排除することが社会通念からいって教育上やむを得ないと認められる場合であったかどうかを総合的に検討するというのが判例の立場になっています(東京高判平成4年3月19日等)。したがって、退学処分がなされた場合、かかる判例の判断基準に沿った形で、疎明資料を付した詳細な主張を展開すべきことになります。

退学処分を争って仮処分申立てを行う場合の活動内容等については別稿で詳述することにいたします。

4.最後に

以上が、息子さんが復学を希望する場合にそれを実現するための法的手段についての一般的な説明になります。しかし、実際には何時復学が実現できるのか、正式な退学処分が下されることになるのではないか等、解決までの間、不安定な状態が続くことになるため、息子さんに相当な精神的負荷がかかることが容易に想定されます。また、仮に裁判手続を経て復学が認められたとしても、学校との関係が悪化することによりその後の学校生活に支障をきたすこと等を心配される方もいるかもしれません。そういった意味では、代理人弁護士を通しての交渉によって事態を打開できなかった場合に裁判手続を用いることを一方的にお勧めできるわけではありません。現在の法的状況や今後の見通し、息子さんが負うことになるリスク等につき十分にご理解頂いた上、息子さんやご両親のご意向を踏まえて詳細に協議して方針決定する必要があるでしょう。

まずはお近くの法律事務所にご相談頂くことをお勧めいたします。

以上

関連事例集

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※参照条文

学校教育法

第十一条  校長及び教員は、教育上必要があると認めるときは、文部科学大臣の定めるところにより、児童、生徒及び学生に懲戒を加えることができる。ただし、体罰を加えることはできない。

学校教育法施行規則

第二十六条  校長及び教員が児童等に懲戒を加えるに当つては、児童等の心身の発達に応ずる等教育上必要な配慮をしなければならない。

○2 懲戒のうち、退学、停学及び訓告の処分は、校長(大学にあつては、学長の委任を受けた学部長を含む。)が行う。

○3 前項の退学は、公立の小学校、中学校(学校教育法第七十一条 の規定により高等学校における教育と一貫した教育を施すもの(以下「併設型中学校」という。)を除く。)又は特別支援学校に在学する学齢児童又は学齢生徒を除き、次の各号のいずれかに該当する児童等に対して行うことができる。

一  性行不良で改善の見込がないと認められる者

二  学力劣等で成業の見込がないと認められる者

三  正当の理由がなくて出席常でない者

四  学校の秩序を乱し、その他学生又は生徒としての本分に反した者

○4 第二項の停学は、学齢児童又は学齢生徒に対しては、行うことができない。

第九十四条  生徒が、休学又は退学をしようとするときは、校長の許可を受けなければならない。

民法

(委任)

第六百四十三条  委任は、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる。

(準委任)

第六百五十六条  この節の規定は、法律行為でない事務の委託について準用する。

民事訴訟法

(疎明)

第百八十八条  疎明は、即時に取り調べることができる証拠によってしなければならない。

民事保全法

(申立て及び疎明)

第十三条  保全命令の申立ては、その趣旨並びに保全すべき権利又は権利関係及び保全の必要性を明らかにして、これをしなければならない。

2  保全すべき権利又は権利関係及び保全の必要性は、疎明しなければならない。

(仮処分命令の必要性等)

第二十三条  係争物に関する仮処分命令は、その現状の変更により、債権者が権利を実行することができなくなるおそれがあるとき、又は権利を実行するのに著しい困難を生ずるおそれがあるときに発することができる。

2  仮の地位を定める仮処分命令は、争いがある権利関係について債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるためこれを必要とするときに発することができる。

3  第二十条第二項の規定は、仮処分命令について準用する。

4  第二項の仮処分命令は、口頭弁論又は債務者が立ち会うことができる審尋の期日を経なければ、これを発することができない。ただし、その期日を経ることにより仮処分命令の申立ての目的を達することができない事情があるときは、この限りでない。

(仮処分の方法)

第二十四条  裁判所は、仮処分命令の申立ての目的を達するため、債務者に対し一定の行為を命じ、若しくは禁止し、若しくは給付を命じ、又は保管人に目的物を保管させる処分その他の必要な処分をすることができる。

公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(東京都)

第5条(粗暴行為の禁止)

1項 何人も、人に対し、公共の場所又は公共の乗物において、人を著しくしゆう恥させ、又は人に不安を覚えさせるような卑わいな言動をしてはならない。

第8条(罰則)

1項 次の各号のいずれかに該当する者は、六月以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

1 第2条の規定に違反した者

2 第5条第1項の規定に違反した者

3項 常習として第一項の違反行為をした者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。

少年法

(保護処分の決定)

第二十四条  家庭裁判所は、前条の場合を除いて、審判を開始した事件につき、決定をもつて、次に掲げる保護処分をしなければならない。ただし、決定の時に十四歳に満たない少年に係る事件については、特に必要と認める場合に限り、第三号の保護処分をすることができる。

一  保護観察所の保護観察に付すること。

二  児童自立支援施設又は児童養護施設に送致すること。

三  少年院に送致すること。

(司法警察員の送致)

第四十一条  司法警察員は、少年の被疑事件について捜査を遂げた結果、罰金以下の刑にあたる犯罪の嫌疑があるものと思料するときは、これを家庭裁判所に送致しなければならない。犯罪の嫌疑がない場合でも、家庭裁判所の審判に付すべき事由があると思料するときは、同様である。

(検察官の送致)

第四十二条  検察官は、少年の被疑事件について捜査を遂げた結果、犯罪の嫌疑があるものと思料するときは、第四十五条第五号本文に規定する場合を除いて、これを家庭裁判所に送致しなければならない。犯罪の嫌疑がない場合でも、家庭裁判所の審判に付すべき事由があると思料するときは、同様である。

≪参照判例≫

○東京高裁平成4年3月19日(判例時報一四一七号四O頁)

「3 ところで、前記原判決の説示のとおり、退学処分は、生徒の身分を剥奪する重大な措置であるから、当該生徒に改善の見込みがなく、これを学外に排除することが教育上やむを得ないと認められる場合に限って選択すべきものである(学校教育法施行規則一三条三項及び本件高校の学則一九条はこの趣旨の規定と解される。)。とくに、被処分者が年齢的に心身の発育のバランスを欠きがちで人格形成の途上にある高校生である場合には、退学処分の選択は十分な教育的配慮の下に慎重になされることが要求されるというべきである。

 これを本件についてみれば、次のとおりである。

(一) 本件バイク問題は、昭和六三年一月二〇日の匿名の電話通報によって表面化し、翌月三日に本件退学処分が行われている。この十日余りの間に、学校側では、違反事実を確認した後に早々と退学しかないとの態度を決めて第一審原告に退学勧告をし、母親が自主退学を拒否して退学処分にするよう求める意向を示すと、すぐ退学処分に異議がない旨の書面の提出を求め、その書面の提出をまって本件退学処分を決定したものであり、第一審原告が退学勧告に応じないときは退学処分をする以外にはないとの姿勢であったと認められる。その過程において、できるだけ退学という事態を避けて他の懲戒処分をする余地がないかどうか、そのために第一審原告や両親に対して実質的な指導あるいは懇談を試み、今後の改善の可能性を確かめる余地がないかどうか等について、慎重に配慮した形跡は認められない。こうした学校側の対応は、いささか杓子定規的で違反行為の責任追及に性急であり、退学処分が生徒に与える影響の重大性を考えれば、教育的配慮に欠けるところがあったといわざるを得ない。

 この点に関し、第一審原告の母親が学校側に対しバイク乗車を否定するような態度をとったこと、及び第一審原告の自主退学を拒否して退学処分を求め、退学処分に異議がない旨の書面を学校に送付したことは、前記のとおりである。しかしながら、母親の右違反行為否定のような態度も、学校側と対立して事実を争うというほど強いものであったとはうかがわれず、学校側が退学処分を行うに当たって教育的配慮をすることを無意味ならしめる事情であったとは認められない。また、両親が自主退学を拒否して退学処分を求め、その旨の書面を送付した真の理由は証拠上は明白でないが、前記認定の経過とその記載内容からすると、学校側が退学しかないとの方針で接したために、これを前提にした対応であったと認められるのであり、右書面が提出されたことに基づいて退学処分を選択することは、本末顛倒の嫌いがあるといわなければならない。

(二) 第一審原告の本件バイク禁止違反行為は、一回だけではないし、教諭の注意にも背いたものである。しかし、学校側の評価によれば、第一審原告は、やや気が弱く、調子に乗りやすい面があるが、他人に優しく、明るく素直な性格で、高校一学年の成績は中位よりやや下であり、出席状況も悪くなく、本件のバイク問題以外には学校から注意や処分を受けたことはなく、普段の学校生活上で問題のある生徒とはされていなかった。また、第一審原告は、学校の最初の免許証提出の呼びかけには応じなかったものの、その後渡部教諭の発言に沿って任意に免許証を提出し、自動二輪車も処分し、渡部教諭らの本件の事情聴取に対しても素直に応じてバイク乗車の事実を認めていたものである。

 このような第一審原告の性格及び行状等に照らすと、本件の違反行為が、あくまでも校則に従わずバイク乗車を続けようという反抗的態度の表れであるとまでみるのは厳しすぎるものであり、本件の発覚を機に適切な訓戒と指導監督が施されるならば、第一審原告に反省させ、これを善導して、今後の違反行為を断つことを期待することができなかったとはいえない。第一審原告の家庭にも、学校側の指導監督への協力をどうしても期待できない格別の事情があったとは認められない。

 もっとも、第一審原告の原審における供述をみると、学外でのバイク乗車を禁止する本件生活指導規定は効力がない、悪いことをしたとは思っていない等と述べているが、訴訟提起後における当事者としての揚言であって、第一審原告が本件退学処分当時から、本件生活指導規定の効力に疑問をもち、これに従う意思がなく、反抗的態度をとっていたものでないことは、前記認定の経過から明らかである。

(三) 本件高校では、バイク禁止を重要な教育方針として徹底を図っており、それなりの成果を上げてきたものである。そして、これに違反した生徒に対しては退学を勧告し、これに応じて自主退学した生徒も過去に数名いたことが認められる。

 しかし、他方、本件高校が生徒に対して運転免許証の提出を呼びかけ、これに応じた生徒に対しては何らの処分を行わない取扱いをしたことがあったことはすでに認定したとおりであるし、また、昭和六二年ころに運転免許の取得が発覚したが乗車が確認できなかった生徒に対して無期停学処分をした例もあることが認められる。更に、バイク禁止を重要な教育方針として維持するにしても、一方でこれに対する社会的評価が時代の推移とともに変化しつつあることも前記認定のとおり無視し難い事実である。

 これらの点を考えると、第一審原告の違反行為に対して退学処分をもって臨むのでなければ、本件高校の教育方針を損ない、他の生徒に対する訓戒的効果を失わせ、本件高校の教育上看過できない悪影響を及ぼすことになるとはたやすく認められない。

4 以上に検討したところを総合して判断すれば、第一審原告の校則違反行為は軽微なものとはいえないけれども、当時の状況下において、第一審原告に対し適切な教育的配慮を施してもなお、もはや改善の見込みがなく、これを学外に排除することが教育上やむを得ないものであったとは認めることができないというべきである。したがって、高山校長が本件高校の学則一九条四号に基づいて行った本件懲戒処分は、処分権者に認められた合理的裁量の範囲を超えた違法な行為であると認めるべきである。」