新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1653、2015/11/20 12:00 https://www.shinginza.com/qa-sarakin.htm

【民事、消費者金融との和解とその後の過払い返還請求・錯誤・公序良俗違反・消費者契約法4条違反、東京地方裁判所平成16年11月29日判決、調停の場合はどうか、最高裁平成27年9月15日判決】

特定調停成立後の過払い金請求について

質問:私は,10年位前から消費者金融のA社から,継続的に借りては返しの生活を続けてきました。支払いを怠ったことはありませんが,利率が高くなかなか元本が減らないため,昨年,A社に対して利率を下げて欲しいとのお願いをしたところ,A社が作成した和解合意書にサインすることを条件に利率を下げてもらうことができました。先日,利息制限法の上限利率を越えた貸付に対して返済を続けてきた場合,消費者金融会社に対し過払金の返還請求ができると知りました。そこで,私はA社に対して取引履歴の開示を求め,引き直し計算を行ったところ過払金が発生していました。私がA社に過払金の返還を求めたところ,担当者からは「去年締結した和解契約により,契約書記載の事項以外は過払金も含めて清算済みである」と言われました。和解契約書を見ると,確かに担当者が言うような条項があります。しかし,計算によれば和解契約を締結した時点で過払金は発生していますし,過払金の存在を知っていればこのような契約書にサインすることはありませんでした。過払金の存在を隠して和解契約書にサインをさせるA社のやり方には納得できません。A社から過払金を回収することはできないでしょうか。
 また、この和解契約が簡易裁判所の特定調停で行われた場合はどうでしょうか。



回答:
1.和解契約を無効として過払い金の返還請求ができる可能性が高いと考えられます。
A社は、和解契約により、和解契約以前の過払い金返還債務は消滅していることを主張していますので、この和解契約が無効であることを主張して過払い金の返還を請求することになります。過払金回収のためにはA社に対し過払金返還請求訴訟を提起する必要がありそうですが,訴訟においては和解契約の有効性が争点になると予想されます。和解契約が無効であると判断されれば過払い金の返還請求が認められますが,法律構成としては,@和解契約締結の意思表示に錯誤があり無効である(民法95条)との法律構成のほか,AあなたとA社との間で締結された和解契約が公序良俗に反し無効である(民法90条)との構成が考えられます。また,B消費者契約法4条1項に基づいて和解契約を取り消すことも考えられます。いずれの法律構成が採用されるかは別として,過去の裁判例に鑑みてもご相談の件については,訴訟において過払金の返還が認容される可能性が十分にあります。各法律構成について詳しくは解説をご覧ください。

2.和解が簡易裁判所で行われた場合でも、最高裁平成27年9月15日判決は,特定調停の目的(債務者の金銭債務に係る利害関係の調整の促進)を強調した上で,清算条項を含む調停条項の対象は,債務者の業者に対する借受金債務に限られ,債務者の業者に対する過払金返還請求権は含まれないとして,和解の清算条項の存在によっても過払金返還請求権は消滅しないとしました(もっとも,それがゆえに,「本件調停が,全体として公序良俗に反するもの」ということもできないとしています)。

3.いずれにしろ、和解契約に清算条項があったとしても、和解契約自体が無効あるいは、過払い金の返還請求権は、清算条項の対象にはならないと考えられ、過払い金返返還請求権は消滅していないといえます。法律相談事例集キーワード検索:948番854番参照。本稿は、当事務所事例集1145番に新しい判例を加え加筆したものです。


解説:

1.錯誤無効(民法95条)

(1)錯誤についての一般的な説明と本件の検討

  民法95条本文は,「意思表示は,法律行為の要素に錯誤があったときは,無効とする。」と規定しています。
  ここで「錯誤」とは,表示上の効果意思(対外的に示す表意者の法律効果を発生させようとする意思)と内心的効果意思(表意者の内心における法律効果を発生させようとする意思)の不一致があり,その不一致を意思表示者が知らないことをいいます。法律行為の原則は,本人が希望する意思表示の内容に法的効果を与えることですから,外部表示された内容が異なれば法的効果を与えることはできません。ただ,些細な食い違いで法律行為を無効とすることは取引の安全を害しますので,錯誤の内容は重要なもの(契約内容の要素)に限定されることになります。
  そして,法律行為の「要素に錯誤」があるといえるためには,表意者が意思表示の内容の主要な部分とし,その点について錯誤がなければ,表意者本人のみならず普通人も意思表示をしなかったと思われる程度の錯誤が必要です。
  まず,ご相談の件で「錯誤」が認められるかですが,本件貸金取引に係る過払金返還請求権を放棄する意思を有していなかったにもかかわらず,過払金返還請求権を放棄するような内容の和解契約を締結している以上,錯誤については認められる可能性が高いと思います。次に,法律行為の「要素に錯誤」があるといえるかですが,過払金があることを認識しながらそれを放棄したうえで更に債務を負担するような合意については,普通人もしないと思われるので「要素に錯誤」についても認められる可能性が高いと思います。

(2)東京地方裁判所平成16年11月29日判決

  東京地方裁判所平成16年11月29日判決は,本件と同様に「原告らと被告との間で,貸し付け債務が存在するとして原告らに支払義務があることを認める旨の裁判外の和解が成立している場合,その原告らが不当利得返還請求権に基づき被告に対し過払金の返還請求をすることができるか」が争点となった事案です。

  この争点について,同判決は以下のように述べるとともに,錯誤無効の主張に対する判断基準を示しました。「利息制限法は,1条で制限利率を定めて,これを超える利息の約定は絶対的に無効とするものであるから,利息制限法所定の制限利率に引き直して計算した結果,過払いが生じていて,被告が不当利得返還債務を負う場合に,債務弁済契約を締結するにあたり,過払分の不当利得返還請求権を放棄することは,本来的に,同法の趣旨に反し,当事者(特に借主)の合理的な意思解釈とはいえない。特に,貸金業者が取引明細を開示していないときには,借り手側が十分な検討をすることができない。そうすると,実際の貸付の取引経過につき利息制限法所定の利率で引き直し計算をした結果と,和解の内容とが大きく乖離しており,かつ,借主がそのことを認識しておらず,認識しなかったことについてやむを得ない事情がある場合には,和解契約は錯誤により無効となると解するのが相当である。」

  そして,具体的な事案の検討では,以下のように判示し,和解契約は錯誤により無効となるとしました。「本件においては,上記原告らは,いずれも数十万円の過払金が存在するのに,上記(1)のようにかえって債務を弁済する和解契約を締結しており,実際の貸付の取引経過につき利息制限法所定の利率で引き直し計算をした結果と,和解の内容とが大きく乖離しているものと認められる。また,上記認定事実及び弁論の全趣旨によれば,上記原告らは,被告に対し要求していたにもかかわらず,被告から全取引経過の開示を受けられなかったために,実際に生じている過払金債権の有無や金額を正確に認識できずに和解をしたことが認められる。したがって,上記原告らと被告との間の和解契約はいずれも錯誤により無効と認めるのが相当である。」

  ご相談の件を上記判決の示した判断基準に従って検討すると,過払金が存在するにもかかわらずかえって債務を弁済する和解契約を締結していることから,実際の貸付の取引経過につき利息制限法所定の利率で引き直し計算をした結果と,和解の内容とが大きく乖離していえるでしょう。また,あなたは,和解契約締結当時には利息制限法に基づく引き直し計算をすれば過払金の返還請求をすることができるということを知らなかったので,実際に生じている過払金債権の有無や金額を正確に認識できずに和解をしたといえますし,認識できなかったことについてもやむを得ない事情があると認められる可能性が高いと解されます。

  以上のとおり,過去の裁判例に照らして考えた場合にも,ご相談の件については錯誤無効が認められる可能性は十分にあるといえます。


2.公序良俗違反による無効(民法90条)
  
  和解は,争いとなっている権利関係について,当事者が相互に譲歩することにより紛争を解決するというものですから,単に,取引経過を利息制限法の利率で引き直し計算をした結果と,和解内容が一致しないからといって和解契約が無効になるものではありません。しかし,東京地方裁判所平成16年11月29日判決は,「利息制限法は,1条で制限利率を定めて,これを超える利息の約定は絶対的に無効とするものであるから,利息制限法所定の制限利率に引き直して計算した結果,過払いが生じていて,被告が不当利得返還債務を負う場合に,債務弁済契約を締結するにあたり,過払分の不当利得返還請求権を放棄することは,本来的に,同法の趣旨に反」すると判示していることから,和解契約を締結するに至った経緯によっては,公序良俗違反により無効と判断される可能性も考えられます。利息制限法及び出資法は,金融関係を規律する基本法,憲法といわれるものであり強行法規ですから,その趣旨,内容を事実上変更するような合意が許される道理がありません。妥当な判断です。

  ご相談の件における,和解契約を締結するに至った経緯をみると,あなたが約定とおりに月々の返済をしても一向に元本が減らず月々の返済が困難になり,貸金業者に対し月々の返済金額の減額を要望したことに対して,貸金業者は和解契約書にサインすることを条件に利率の変更をしたとのことですので,後述のとおり,消費者契約法違反に該当するような事情もみられ,公序良俗違反に該当する可能性はあるといえます。


3.消費者契約法4条1項に基づく取消し

  消費者契約法は,消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力の格差に鑑み,消費者の利益を擁護するために制定された法律です。同法に規定されている一定の要件を満たす場合に,消費者は,契約締結の意思表示を取り消すことができます。また,事業者の免責条項や消費者の利益を一方的に害する条項は,同法により無効となります。

  消費者契約法4条は,事業者が,消費者との契約締結を勧誘するに際し,消費者の誤認を招くような一定の行為をした場合に,消費者は当該契約を取り消すことができると定めた規定です。同条1項1号では,重要事項について,事業者が消費者に対し事実と異なることを告げ,消費者が,当該告げられた内容を事実であると誤認した場合に,消費者は契約を取り消すことができるとされています。
  
  ご相談の件では,A社が和解契約書を送付してきた時点では,すでに過払金が発生していたとのことなので,A社が過払金の存在には触れずに,あなたの債務がいまだ残っているかのように告げたうえで,和解の提案をしてきたのであれば,消費者契約法4条1項1号に定める,重要事項に関する不実の告知があったといえます。

  以上のとおり,ご相談の件では,消費者契約法4条1項に基づく和解契約の取消しが認められる可能性も考えられます。


4.調停と過払金請求

 清算条項を含む本件のような内容の取決めが,和解ではなく,簡易裁判所での特定調停でなされていた場合はどうでしょうか。

(1) この点,最高裁平成27年9月15日判決は,特定調停の目的(債務者の金銭債務に係る利害関係の調整の促進)を強調した上で,清算条項を含む調停条項の対象は,債務者の業者に対する借受金債務に限られ,債務者の業者に対する過払金返還請求権は含まれないと解し,したがって清算条項の存在によっても過払金返還請求権は消滅しない(もっとも,それがゆえに,「本件調停が,全体として公序良俗に反するもの」ということもできない)としました。

(2) 同判決は,「本件確認条項及び本件清算条項を含む本件調停が,全体として公序良俗に反するものということはできない」との判断から,「本件確認条項及び本件清算条項を含む本件調停は,全体として公序良俗に反し,無効であるというべきである」とした原判決を変更したものであるため,論理構成がややわかりにくいものとなっておりますが,結論としては,特定調停が成立していたとしても過払金返還請求は可能であることを示した,最高裁としての初めての判断となります。特定調停が成立しているからということで過払金返還請求をあきらめていた消費者は少なくはないでしょうから,同判決が実務に与える影響は大きいものと考えます。

5.最後に

  A社の主張に対しては,以上のような法律構成での反論が考えられますが,ご自身で以上のような反論を行ったとしても,A社が清算済みとの主張を撤回し任意に過払金を支払ってくる可能性は非常に低いといえます。お近くの弁護士に相談するなどして,できる限り速やかに訴訟を提起し,訴訟の中で上記のような主張を行うことが,早期解決につながるでしょう。


<参照条文>
民法
90条(公序良俗)
公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は,無効とする。
95条(錯誤)
意思表示は,法律行為の要素に錯誤があったときは,無効とする。ただし,表意者に重大な過失があったときは,表意者は,自らその無効を主張することができない。
消費者契約法
4条(消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示の取消し)
1項 消費者は,事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し,当該消費者に対して次の各号に掲げる行為をしたことにより当該各号に定める誤認をし,それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは,これを取り消すことができる。
1号 重要事項について事実と異なることを告げること。 当該告げられた内容が事実であるとの誤認

<参照判例>
最高裁平成27年9月15日判決
主文
1 原判決を次のとおり変更する。
第1審判決を次のとおり変更する。
(1) Yは,Xに対し,401万0493円 及びうち265万3831円に対する平成24年 6月1日から支払済みまで年5分の割合による金 員を支払え。
(2) Xのその余の請求を棄却する。
2 訴訟の総費用は,これを5分し,その4をYの 負担とし,その余をXの負担とする。
理由
上告代理人…の上告受理申立て理由第2について
1 本件は,Xが,貸金業者である株式会社A(以下「A」という。)外1社及び両社を吸収合併したYとの間の継続的な各金銭消費貸借取引に係る各弁済金のうち利息制限法(平成18年法律第115号による改正前のもの。以下同じ。)1条1項所定の制限利率を超えて利息として支払われた部分を各元金に充当するといずれも過払金が発生していると主張して,Yに対し,不当利得返還請求権に基づき,過払金合計354万4715円及び民法704条前段所定の利息(以下「法定利息」という。)の支払を求める事案である。
本件では,特定債務等の調整の促進のための特定調停に関する法律に基づく特定調停手続において,XとAとの間で従前成立していた特定調停の効力等が争われている。
2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は,以下のとおりである。
(1) Xは,Aとの間で,継続的に金銭の借入れとその弁済が繰り返される金銭消費貸借に係る基本契約を締結し,これに基づき,昭和62年9月16日に20万円を借り入れ,同日から平成14年4月1日までの間,第1審判決別紙1の「年月日」欄記載の各年月日に,「貸増元金」欄記載の各金員を借り入れ,「入金額」欄記載の各金員を支払った(以下,この取引を「A取引」という。)。上記基本契約において定められた利息の利率は,利息制限法所定の制限利率を超えるものであった。
(2) Xを申立人とし,Aを相手方とする特定調停手続において,平成14年6月14日,両者間で特定調停(以下「本件調停」という。)が成立した。本件調停の「申立ての表示」欄には,「申立人と相手方との間の平成10年3月11日締結の金銭消費貸借契約に基づいて,申立人が相手方より同日から平成14年3月20日までの間に18回にわたって借り受けた合計金207万8322円の残債務額の確定と債務支払方法の協定を求める申立て」との記載があり,「調停条項」欄には,次のような調停条項の記載がある。
ア Xは,Aに対し,借受金の残元利金合計44万4467円の支払義務のあることを認める(以下,この条項を「本件確認条項」という。)。
イ Xは,Aに対し,本調停の席上で7467円を支払い,残金43万7000円を23回の分割払で支払う。
ウ XとAは,本件に関し,本件調停の調停条項に定めるほか,XとAとの間には何らの債権債務のないことを相互に確認する(以下,この条項を「本件清算条項」という。)。
(3) 本件確認条項において確認されたXのAに対する残債務額は,本件調停の調停調書の「申立ての表示」欄に記載された借受け及びこれに対する返済を利息制限法所定の制限利率に引き直して計算した残元利金の合計額を超えないものであった。もっとも,A取引全体の借受け及び返済を同法所定の制限利率に引き直して計算すると,本件調停が成立した時点で,過払金234万9614円及び法定利息2万7621円が発生していた。
(4) Xは,A又はYに対し,本件調停に従い,平成14年6月14日から平成16年5月10日までの間,第1審判決別紙1の「年月日」欄記載の各年月日に,「入金額」欄記載の各金員を支払った。
(5) Xは,貸金業者であるB株式会社との間でも継続的に金銭の借入れとその弁済が繰り返される金銭消費貸借に係る基本契約を締結し,これに基づき第1審判決別紙2の「年月日」欄記載の各年月日に,「借入金額」欄記載の各金員を借り入れ,「弁済額」欄記載の各金員を支払った。上記基本契約において定められた利息の利率も利息制限法所定の制限利率を超えるものであり,上記の取引のうち平成8年11月15日以降の借受け及び返済(以下,この部分の取引を「B取引」という。)を同法所定の制限利率に引き直して計算すると,第1審判決別紙5のとおり,平成24年5月31日時点で,過払金30万4217円及び法定利息15万8555円が発生していた。
(6) A及びBは,平成15年1月1日,Yに吸収合併された。
3 原審は,本件調停の効力につき,次のように判断し,Xの請求のうちAとの継続的な金銭消費貸借取引に係る過払金279万4081円及び法定利息の支払並びにB取引に係る過払金30万4217円及び法定利息の支払を求める限度で認容し,その余を棄却すべきものとした。
A取引については,本件調停が成立した時点で過払金234万9614円及び法定利息が生じていたにもかかわらず,本件確認条項は,XがAに対する借受金の残元利金合計44万4467円の支払義務を認める内容のものであるから,利息制限法に違反するものとして,公序良俗に反し,無効であるというべきである。また,本件確認条項を前提とした本件清算条項のみを有効とするのは相当でないから,本件確認条項及び本件清算条項を含む本件調停は,全体として公序良俗に反し,無効であるというべきである。
4 しかしながら,Aとの継続的な金銭消費貸借取引に係る原審の上記判断は是認することができない。その理由は,以下のとおりである。
前記事実関係によれば,本件調停は特定調停手続において成立したものであるところ,特定調停手続は,支払不能に陥るおそれのある債務者等の経済的再生に資するため,債務者が負っている金銭債務に係る利害関係の調整を促進することを目的とするものであり,特定債務者の有する金銭債権の有無やその内容を確定等することを当然には予定していないといえる。本件調停における調停の目的は,A取引のうち特定の期間内にXがAから借り受けた借受金等の債務であると文言上明記され,本件調停の調停条項である本件確認条項及び本件清算条項も,上記調停の目的を前提とするものであるといえる。したがって,上記各条項の対象であるXとAとの間の権利義務関係も,特定債務者であるXのAに対する上記借受金等の債務に限られ,A取引によって生ずるXのAに対する過払金返還請求権等の債権はこれに含まれないと解するのが相当である。そして,本件確認条項は,上記借受金等の残債務として,上記特定の期間内の借受け及びこれに対する返済を利息制限法所定の制限利率に引き直して計算した残元利金を超えない金額の支払義務を確認する内容のものであって,それ自体が同法に違反するものとはいえない。また,本件清算条項に,A取引全体によって生ずるXのAに対する過払金返還請求権等の債権を特に対象とする旨の文言はないから,これによって同債権が消滅等するとはいえない。以上によれば,本件確認条項及び本件清算条項を含む本件調停が,全体として公序良俗に反するものということはできない。
5 以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は上記の趣旨をいうものとして理由がある。そして,以上説示したところによれば,A取引が終了した平成14年6月14日までに発生した過払金返還請求権等は本件清算条項等によって消滅したとはいえないが,同日以降の支払は法律上の原因がないとはいえず,過払金返還請求権等が発生したとはいえない。そうすると,Aとの継続的な金銭消費貸借取引に係るXの請求は,A取引に係る過払金234万9614円,平成24年5月31日までに発生した法定利息119万8107円及び上記過払金に対する同年6月1日から支払済みまで年5分の割合による法定利息の支払を求める限度で認容し,その余は棄却すべきである。
その余の請求に関しては,上告受理申立ての理由が上告受理の決定において排除された。
したがって,原判決を主文第1項のとおり変更することとする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。


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