公立学校におけるいじめ問題と損害賠償請求の可否
民事|公立学校の生徒の法的地位|学校の安全配慮義務と損害賠償責任|加害者および保護者に対する不法行為責任と刑事責任|富山地裁平成13年9月5日判決他
目次
質問
公立中学の1年生の息子が最近学校でイジメにあっているようです。2週間ほど学校に行けていません。息子は詳細を語りたがりませんが、私達夫婦はこれを何とか解決したいと思っています。どのような解決策があるでしょうか。
回答
1 学校でのイジメが原因で登校できないということですから、まずは法的な解決策よりも学校教育という見地からの解決を図ることをお勧め致します。直ちに担任や校長先生等にイジメや不登校の事実を告げて対応を要請すべきです。学校が対応してくれない場合は、教育委員会にイジメと不登校、学校の対応の不備を告げて、教育委員会から学校に指導してもらう必要があるでしょう。
2 学校の対応が不十分で、いじめが解消されなかったり、損害が生じている場合、法的な解決策を検討する必要があります。公立中学校の設置者(各市区町村長)は公立中学校における「在学関係」に付随して、信義則に基づき、学校における教育活動及びこれに密接に関連する生活関係における生徒の安全に配慮すべき義務があります。この在学関係による安全に配慮すべき義務に基づき、学校側には、悪影響ないし危害の発生を未然に防止するため、事態に応じた適切な措置を講じる義務があります。もしも、息子さんの中学校でイジメ問題が発生しているのであれば、学業の履修に支障があると認められますので、親御さんには障害の排除を学校に請求する権利があります。この際、イジメの存在を疑わせるに十分な出来事を立証できるかどうかが問題となります。義務を怠った過失が認定されれば、国家賠償法1条1項に基づき学校の設置者(市区町村長)に対して損害賠償を請求することもできます。
3 イジメ行為をしている当事者(加害児童・生徒)やその保護者に対しても、違法行為に基づく差し止め請求として、法的請求を行う手段が考えられます。また、相手に当該被害に基づく損害賠償請求を行うことも可能です。
4 その他本件に関連する事例集はこちらをご覧ください。
解説
1 法的手続きの前段階の対応
まずは、一番の目的である復学にむけて学校側と交渉するのが良いでしょう。交渉の内容としては、①いじめについての調査実態の解明、②加害児童(及びその保護者)への指導、③被害者児童(ご子息)のケア、となります。これらの内容は学校生活を安全なものにしていくものであると共に、万が一、納得のいく対応をしてもらえなかった時、訴訟で責任追及をする上でこちらにとって有利な証拠となり得るものです。
従って、いじめ問題の被害を受けておられるお子さんの保護者である貴方としては、担任、校長、いじめ加害者の保護者、教育委員会に対して、連絡し、問題の解決を求めることが必要と思われます。
法的手続きの段階に進む場合は、事実関係の立証資料が必要となります。お子さんと親御さんは、当面の間、毎日、日記を記録されると良いでしょう。「今日こんなことがあった」ということについて、家族間の会話を録音することも良いでしょう。また、お子さんには、カウンセリングや心療内科を受診させるなどのメンタルケアも必要だと思います。カウンセリングや心療内科の受診記録は法的手続きの資料にもなります。当事者からの連絡が奏功しない場合は、代理人弁護士からの内容証明通知書(学校宛、加害児童保護者宛)が必要となります。当事者同士の連絡をする段階から、弁護士に相談しながら進めると良いでしょう。それでも相手方が問題解決に取り組まない時は訴訟に移って行きます。
もっとも、訴訟するとなってしまいますと、当該中学校での復学は期待できないかもしれません。また、事案によっては判決まで1年以上かかってしまうことも十分考えられます。以下、訴訟において追求しうる法的責任とこれに対する損害賠償請求についてご説明します。
2 公立学校に在学することの法的地位|学校の安全配慮義務違反と損害賠償請求
(1) 公立中学校に息子さんが在籍していることは、いわゆる私立学校に在籍しているときの「在学契約」とは異なる公法上の法律関係です。すなわち、学校設置者(通常は市区町村長)による「就学校指定」という行政処分に基づき在学関係が開始されるが、在学関係の形成やその内容が当事者の自由意思に委ねられているとは言えない、公法上の法律関係と言えます。
判例はこれを「在学関係」と呼んでいます。分り易く言えば、行政処分・行政サービスを行う側と、受ける側の関係(地位)ということになります。私立学校と生徒・保護者の関係である在学契約の当事者とは異なる法的地位になります。
しかし判例は、この「在学関係」においても、私立学校の在学契約と類似の、安全配慮義務を生ずると判断しています。私立学校でも公立学校でも、教育を受けさせる目的は同じですし、学校側と生徒側に求められるべき態度に大きな違いはないと考えられるのです。
富山地裁平成13年9月5日判決
公立中学校の設置者は、就学校指定によって生徒が在籍することにより、未成年者である生徒及びその親権者に対し、教育目的に必要な施設や設備を提供するとともに、教師に所定の課程の教育を行わせる義務を負うこととなる。そして、このような法的関係(公立中学校における在学関係)に付随して、信義則に基づき、同校の設置者は、学校における教育活動及びこれに密接に関連する生活関係における生徒の安全に配慮すべき義務があり、特に他の生徒の行為により、生徒の生命、身体、精神等に重大な影響を及ぼすおそれが現に存在するような場合には、そのような悪影響ないし危害の発生を未然に防止するため、事態に応じた適切な措置を講じる義務があるというべきである。したがって、本件においては、被告は、A子及びその親権者であった原告らに対し、信義則上、A子の安全について前記のような義務を負うということができる。
原告らは、前記の法律関係は、準委任契約に類した私法上の在学契約である旨主張するが、公立中学校における在学関係は、就学校指定という行政処分により開始されることや、在学関係の形成やその内容が当事者の自由意思に委ねられているとはいえないことからすると、私法上の契約関係とは異なる法律関係とみるのが相当であるから、その主張を採用することはできない。
この判例で言われている「準委任契約」というのは、法律行為以外の事実行為(在学契約においては生徒に教育を受けさせること)の代行を委託する私法上の契約(民法656条)のことです。判例は、公立学校の場合は、生徒と学校の間に、この準委任契約は成立していないが、信義則に基づいて学校側に、事態に応じた適切な措置を講じる義務(=注意義務)があると認定しています。
民法
第643条(委任)委任は、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる。
第644条(受任者の注意義務)受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。
第656条(準委任)この節の規定は、法律行為でない事務の委託について準用する。
判例に言う「安全配慮義務」は、あらゆる契約関係に生ずる「付随義務」とされており、当事者が契約関係の趣旨に従って債権債務を円滑に履行できるようにするための配慮をするべき義務です。この付随義務は、主債務に関する契約が締結されると、その主債務に付随して、当然に発生するものと解釈されています。
付随義務の内容は、主債務の内容から個別に解釈されるもので、契約の趣旨を考えて判断していく必要があります。例えば、労働契約であれば、労働契約の内容に従って、労務者を安全に業務に従事させる環境を整える義務が雇用者側にあると考えられますし、学校であれば、生徒が安全に定められた教育課程を履修できるように環境を整える義務が学校側にあると考えることができます。上記判例は、在学契約の当事者の関係に立たない、公立学校の設置者運営者と生徒の関係、「在学関係」においても、信義則上この義務を履行すべきであると判断しているのです。
ここで法解釈上注意を要するのは、判例が言う「信義則」とは私法上の、つまり民法1条2項の「信義則」ではなくて、公法上の信義則、つまり地方公務員法や教育基本法における「信義則」を意味するということです。
民法
第1条第1項 私権は、公共の福祉に適合しなければならない。 第2項 権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。 第3項 権利の濫用は、これを許さない。
地方公務員法や教育基本法には、行政事務の遂行に際して信義則が適用されると明示した規定はありませんが、裁判所は、公法上の関係においても、個別事情によっては、私法上の関係に類似する信義則に基づいて、当事者の関係を考えていく必要があると判断しているのです。
参考のために、地方公務員法と学校教育法の関連規定を引用します。ここから公法上の「信義則」の趣旨が読み取ることができると思います。
地方公務員法
第1条(この法律の目的)この法律は、地方公共団体の人事機関並びに地方公務員の任用、職階制、給与、勤務時間その他の勤務条件、休業、分限及び懲戒、服務、研修及び勤務成績の評定、福祉及び利益の保護並びに団体等人事行政に関する根本基準を確立することにより、地方公共団体の行政の民主的かつ能率的な運営並びに特定地方独立行政法人の事務及び事業の確実な実施を保障し、もつて地方自治の本旨の実現に資することを目的とする。
第30条(服務の根本基準)すべて職員は、全体の奉仕者として公共の利益のために勤務し、且つ、職務の遂行に当つては、全力を挙げてこれに専念しなければならない。
教育基本法
第16条(教育行政)
第1項 教育は、不当な支配に服することなく、この法律及び他の法律の定めるところにより行われるべきものであり、教育行政は、国と地方公共団体との適切な役割分担及び相互の協力の下、公正かつ適正に行われなければならない。
第2項 国は、全国的な教育の機会均等と教育水準の維持向上を図るため、教育に関する施策を総合的に策定し、実施しなければならない。
第3項 地方公共団体は、その地域における教育の振興を図るため、その実情に応じた教育に関する施策を策定し、実施しなければならない。
第4項 国及び地方公共団体は、教育が円滑かつ継続的に実施されるよう、必要な財政上の措置を講じなければならない。
(2)学校には上記の義務が課せられていますので、生徒本人や親権者(法定代理人)である親御さんには、学校にこの義務を果たすように請求する権利があります。具体的には、いじめが実際に起こっていることを担任の教師等などに報告し、いじめを阻止すべき措置を講ずることを請求します。教師等を通じて相手の保護者に報告してもらうよう促すことも良いでしょう。
(3)こちらから教師等にいじめの存在を報告し、問題解決に取り組むよう要請してもなお何もしない状態が続くのであれば、法的手段として、国家賠償法第1条により、損害賠償を請求することも可能です。
国家賠償法
第1条1項(公務員の不法行為と賠償責任、求償権) 国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害をあたえたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。
この損害賠償請求が認められるためには、①証拠によって事実認定できる損害が発生していること、②教師等の公務員にいじめの存在を認識できる予見可能性があり、被害回避することが可能であったのにこれをしなかった(不作為)こと、③注意義務を怠ったこと(不作為)といじめによって生じた損害とに相当な因果関係があることが必要となります。
(4)教師がいじめの存在を認識できる予見可能性がないために責任を阻却された判例もありますので、教師等に事前に報告し予見可能性があったという証拠も必要となってきます。教育現場においていじめに関する安全配慮義務の内容は、いじめ行為の存在を認識し、または危険性を予見し、これを回避するために必要な措置を取ることですから、いじめ行為の予見可能性が無ければ、安全配慮義務違反も認められないことになってしまうのです。教師がいじめの存在を認識できる予見可能性について、判例は次のように述べています。
甲府地裁平成16年8月31日判決
友達関係に問題の生じていた原告Aの近くに座らせれば、何らかの危険を伴う行動に出るかも知れないことは、通常予見し得ることであったといわざるを得ない。」とし、担当教師に対し、「児童の安全について配慮すべき注意義務及び問題行動のみられる児童に対して指導をし、配慮すべき注意義務を怠った過失があったと認められる。
(5)また、予見可能性があったとしても、学校側(教師)の行為(または注意義務違反の不作為)と損害との間に相当な因果関係が認められなければ、当該損害に対しての損害賠償請求ができません。因果関係には二種類あります。
ア 一つ目は条件関係(事実的因果関係)のことであり、「あれなければこれなし」と言われるものです。たとえば、「Aが包丁を胸部に突くことがなければBは死ぬことがなかった」と言える場合、「あれなければこれなし」といえるので、Aの行為と結果に条件関係を認めます。
本件では、教師による不作為が問題となるので、「あれあれば十中八九これなし」と言えるかが問題となります。「あれあればこれなし」と表現しないのは、起こってない現象を経験則に照らして仮に「あれあれば」としているので、100%その結果が生じるとは言い切れない部分があるためであり、合理的な疑いを超える程度に確実と言えれば良いとされています。
イ 二つ目は相当因果関係のことであり、上記の条件関係を前提としながら、社会通念上、行為と結果の間に因果関係があると言うことが相当であるかを判断します。いわば、法的な責任を問うことが社会通念上仕方ないとされるような関係があることです。条件関係が認められたとしても、原因行為(不作為)と結果との間にあまりにも大きな乖離(飛躍)がある場合には、法的な責任を問うことが社会通念に照らして相当ではないと判断されることになります。
ウ 判例では、「中学三年生の生徒が同級生によるいじめを受けていたことを知り得たのに、いじめによる被害を解消するための指導、監督をしなかった本件中学校教員らには、安全配慮義務違反を怠った過失があるが、被害者の鬱病罹患と自死との相当因果関係を認めることはできない。」と述べ、因果関係を認めなかったものもあります(東京高裁平成19年3月28日判決)。
(6)学校や教師等に対し、法的請求を行う場合の最初のステップとしては、弁護士による内容証明郵便通知書が有効でしょう。学校側にイジメの存在を認識させ、いじめを阻止すべき措置を講ずることを請求することができます。通知により、前記安全配慮義務違反の条件のひとつを満たすことができます。通知書送付後でも、教師等がいじめの存在を予見可能であったにもかかわらず、なにも措置を講じず、それゆえ息子さんの生徒の生命、身体、精神等にさらに危害が加わったというような因果関係があれば、教師等に義務を怠ったことの過失が認められ、国家賠償法1条1項の「公務員が故意又は過失によって違法に他人に損害を与えたとき」にあたり、学校又は教師に対して法的な損害賠償請求が可能となります。
3 加害者本人及び加害者の保護者に対する請求
いじめ行為をしている加害者本人やその保護者に対しても、不法行為(民法709条)に基づく差し止め請求として、いじめをやめるよう法的請求を行う手段が考えられます。同時に、被った損害に対して損害賠償する責任を追求することも考えられます。また、刑事上の責任があれば懲役、禁錮、勾留、罰金及び科料が科されることになります。以下、加害者本人とその保護者それぞれに分けてご説明致します。
(1)加害者本人の責任追及
当然かもしれませんが、いじめがどのような態様のものであるかによって、いじめの加害者の責任は変わってきます。
いじめ防止対策推進法によると、いじめとは「当該児童生徒が、一定の人間関係のある者から、心理的、物理的な攻撃を受けたことにより、精神的な苦痛を感じているもの」(第2条1項)と定義されています。いじめの発生場所は、学校の内外を問わず、また「攻撃」の中には集団による無視やインターネット上で誹謗中傷を行うネットいじめなど心理的圧迫で相手に苦痛を与えるものも含みます。当然ながら、暴力行為だけには限られないのです。より詳しい、「いじめの法的な評価」は『学校内でのいじめへの対応|被害者側』をご覧ください。
ア 刑法上の責任では、殴る蹴るなどの行為には暴行罪(刑法208条)、さらにけがをさせているようであれば傷害罪(同法204条)、お金を脅し取っているような行為には恐喝罪(同法249条第1項)、殴って威圧しお金を取る行為には強盗罪(同法236条第1項)が成立します。また、ノイローゼなど精神的なもの等については、「暴行によらない傷害」として傷害罪が成立します(最高裁平成17年3月29日決定)。
しかし、これらの罪が成立するにはそれぞれ確かな証拠が必要となってきます。実務上、捜査機関が学校内に介入することを警察は避けたがる傾向にありますので、弁護士の作成する書面による告訴状の提出によって告訴することが有効な手段です。同様の理由で警察との粘り強い交渉が必須となるでしょう。
もっとも、刑法では14歳未満の者には刑事責任能力をみとめておらず(刑法41条)、責任が問えない場合があります。
イ 次に、民法上の責任では、殴る蹴るという行為、お金をとるという行為などはいずれも不法行為(民法709条)における権利侵害行為(加害行為)にあたり、差し止め請求又は損害賠償請求をすることができます。
民法
709条(不法行為による損害賠償)故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
判例も「友達に対して悪ふざけやからかいの限度を明らかに超えており、全体として、仲の良い友人関係にあった被告少年らがお互いに意思を通じて行った原告の人格権や身体に対する違法な侵害行為であるとみることが出来る」として、被告少年らの賠償責任を認めた事案があります(福島地裁平成25年6月5日判決)。
しかし、実際には中学1年生に損害賠償金を支払えないという問題があるため、加害者本人に請求しても実効性に乏しい場合があります。そのような場合には、その監督義務者たる親に対して損害賠償請求し得ます((2)イ参照 民法714条、712条、709条)。
未成年者本人に賠償能力が無い場合でも、被害者側としては、未成年者本人に対して損害賠償請求訴訟を提起し、確定判決を取れば請求権の消滅時効期間が10年間に延長されますので、10年以内に、この確定判決を債務名義として、未成年者の財産に対して強制執行をしていくことが考えられます(民事執行法22条参照)。通常は10年以内に成人し、就職したり、自営業を開始したりして、収入を生じるようになりますので、強制執行や任意の弁済を受けることができるものと思われます。
(2)加害者の保護者の責任追及
ア 加害者の保護者に対して刑事上の責任は、原則として問いえません。
加害者の保護者の刑事上の責任は問いえませんが、被害者救済の観点が重視され民事上の責任を追及することが一般的です。
イ 民事上の責任では、加害者本人である子に責任能力の有無、また親の監督義務範囲内であるか否かで法的根拠が変わってきます。
(ア)子供に責任能力がない場合
未成年者が他人に損害を加えた場合、「自己の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったとき」は、賠償責任を負いません(民法第712条)。これを責任能力といいます。未成年者の責任能力の有無は、年齢・環境・生育度・行為の種類などから判断されますが、概ね12歳(又は13歳)くらいまでは責任能力がないと考えられています。
未成年者自身が責任能力を欠き場合、未成年者は権利義務の主体たり得ませんので、不法行為責任を負わず、その親など「責任無能力者を監督する法定の義務を負う者」が損害賠償責任を負うことになります(同法714条)。ここで言う「法定の義務を負う者」とは、民法818条1項の親権者を意味します。民法714条2項の「監督義務者に代わって責任無能力者を監督する者」というのは、民法766条1項の監護権者を意味します。
民法
第714条(責任無能力者の監督義務者等の責任)
第1項 前二条の規定により責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
第2項 監督義務者に代わって責任無能力者を監督する者も、前項の責任を負う。
民法714条の規定は、発生した損害の公平な分担の理念から当該未成年者に責任を追及できない被害者の救済を図るために、監督義務者である親などの責任を加重して責任を問えるようにしたものです。監督義務者・代理監督者は、監督義務を怠らなかったことを証明すれば責任を免れることができますが(同条1項但書)、被害者側ではなく監督義務者の方で義務懈怠がなかったことの立証の負担を負わされる点で、被害者救済がより強く図られているのです。条文上挙証責任を転換して事実上被害者の責任追及を容易にしています。
(イ)子供に責任能力がある場合
未成年者自身に責任能力が認められる場合、民法714条の適用はありません。しかし、いじめをしていた子供の両親に監督義務違反があり、その義務違反が子供のいじめにより生じた結果との間に相当な因果関係があれば、一般の不法行為が成立し(民法709条)責任追及が可能となります。単に育て方が悪い・無関心などの関係では事足りず、適切な監督を行っていなかったからこそ、本件のいじめによる被害が生じた、と評価できる必要があります。親の責任を認めた判決を紹介します。
名古屋地裁平成25年3月29日
中学校から被告生徒の問題行動について連絡を受けた際に、暴行等の違法な行為を行わないように十分に言い聞かせるだけでなく、そのためにはどのようにすべきかを具体的に話し合い、教師と連絡を取って、学校内での生活状況を聴取し、問題行為と見られる行為があればそのような行為に及ばないように話し合って説得するなどの措置を講じていれば、被告生徒が本件不法行為に及ぶことを抑止でき、その結果、被告生徒が本件不法行為に及ばなかった高度の蓋然性があると認められるから、被告母も賠償責任を負う。
とし、被告母に対しては子に対する監督義務を怠ったとして民法709条、719条(共同不法行為)に基づき、子同様に損害賠償を負わせています。
この判例のように監督者である親の監督義務違反と結果の因果関係の存否が重要なポイントとなってきますので、因果関係を肯定する証拠とともに主張する必要があります。
具体的に言えば、いじめ行為が問題となっている場合は、加害児童の親権者に対して、内容証明郵便による通知書などにより、「あなたの子供が私の子供に対してイジメ行為を行っているので、あなたの責任でやめさせて下さい」ということを明確に通知することが必要です。この通知により、加害児童の親権者が、いじめ行為を認識し、いじめ行為を回避させる注意義務を生ずると考えることができます。
このように、問題行動を知った後も適切な行為を講じないという場合は監督義務違反、因果関係の立証が比較的容易になると考えられます。
4 最後に
いじめによるご子息の精神的被害はかなりの負担と思われます。最悪の場合自殺を選んでしまうこともあるので、迅速かつ有効な対応が必要でしょう。解説各項で述べたことなどを実践しつつ、弁護士に具体的にご相談なさると良いでしょう。
以上