医療観察法に基づく入院審判申立てへの対応

行政|医療観察法に基づく入院審判申立てへの対応|措置入院|保護入院|最高裁平成21年8月7日決定

目次

  1. 質問
  2. 回答
  3. 解説
  4. 関連事例集
  5. 参考条文

質問:

先日,私の息子(29歳)が,道端で突然すれ違った人を殴ったという傷害の事件で逮捕されました。息子は,子供の時から優秀でしたが、かなり前からうつ病の様な症状にかかっており,それが原因で事件を起こしてしまったようです。現在まで同様の事件が2年前にあり措置入院の経験もあり、精神科にも通院したことがあります。

息子は逮捕後,勾留を継続されていましたが,今回,医療観察法という法律に基づき,強制的に入院させるため鑑定入院の決定がされたと聞きました。

この手続はどのような手続なのでしょうか。何とか息子の強制入院を回避することはできないでしょうか。今までの精神科の医師とも相談して自宅での治療を希望しています。確かに息子はうつ病ですが,近所のスーパーでアルバイトをできていましたし,入院までさせる必要はないと思います。

回答:

1 刑事事件を犯してしまった場合は、刑罰を科せられるの一般原則ですが、精神障害があるため刑罰を科すことができない、あるいは刑が減軽される方の処遇については,「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律」(以下,「医療観察法」といいます。)という法律が存在します。

 この法律は,一定の重大な事件(医療観察法第2条1項)を起こしてしまった精神に障害があると認められる方(対象者)に対して,その病状を改善して社会復帰することを促進するために,法律上規定された医療行為(入院,通院による)を受けさせる制度を定めています。

2 一般的な手続の流れとしては,まず事件を担当した検察官が,裁判所に対して,対象者に対する入院・通院の審判の申立てを行います。多くの場合,裁判所は,鑑定や医療観察の為に対象者を2~3か月程度入院させ(同法34条1項 鑑定入院命令),鑑定医を任命し,鑑定医が対象者に対する処遇について意見を述べることになります。 裁判所は鑑定医の意見を参考にしつつ,対象者に入通院の処遇を行うか否かの審判を行います。医療観察法上の処遇の決定が出される要件は,まず(1)対象者に完全責任能力が無いことが前提として,(2)①疾病性(犯行時と同様の精神障害の存在),②治療反応性(治療により精神障害の改善が期待できるか),③社会復帰阻害要因の3要素を総合的に考慮して判断されます。

 実際上は,鑑定医の意見が審判に大きな影響を及ぼしていると言って良いでしょう。 

 これに対して、以前息子さんにとられた措置入院は、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第29条によるものであり、精神障害者であり,かつ,医療及び保護のために入院させなければその精神障害のために自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれがある場合に検察官等の申し立てにより手続的には医師2名の判断により裁判所の関与なくして行われます。要件的に医療観察法が厳格になっています。

3 息子さんが入院を回避するためには(自宅等からの通院を希望する場合。),裁判所に対して,上記要件を満たさないことを積極的に主張することが必要です。医療観察法に基づく審判においては,それら対象者に有利な事情を主張するために,本人や保護者が弁護士を付添人として選任することが可能です

 具体的な主張としては,(1)依頼者の責任能力や(2)①疾病性②治療反応性の要件の存在を争う場合には,鑑定医から十分な意見聴取を行ったり,こちらの有利な証拠として使える意見を出してくれる協力医を捜したりすることが必要です。本件では,事件前まで問題無く働けていたことを証明する報告書等を準備する必要があるでしょう。③社会復帰阻害要因の点については,対象者が容易に社会復帰できることを主張するため,専門の受け入れ機関や勤務先の準備といった環境調整を積極的に行う必要があります。本件では,勤務先のスーパー等に雇用を継続して貰えれば非常に有利な事情となるでしょう。

 また,審判に備えて裁判所主導でカンファレンス(打合せ)が行われる場合も多く存在しますので,適宜裁判所や鑑定医の意見を把握しつつ,鑑定入院命令の段階から3条件に関する詳細な意見書を繰返し提出することが必要です。審判当日は,対象者に対する付添人や裁判官からの質問もありますので,その準備も十分にする必要があります。尚、被害者との示談、補償は不可欠です。被害弁償は通院しながらでも社会生活を送ろうとするうえで当然の行為であり、裁判所に対し反省と今後の社会人としての生活態度を示す重要な要素と評価されることになるからです。

4 これらの準備を十分に行うことができれば,審判において長期の入院決定を回避できる可能性もあります。

 医療観察法に基づく審判は,対象者に長期の拘束を強いるものですので,付添人を通じて有利な事情を十分に主張する必要があります。

弁護士等に相談し,適切なご対応をお取り下さい。

5 入院に関する関連事例集参照。

解説:

1 医療観察法の手続について

(1)医療観察法の概要

精神障害がある方が刑事事件を犯してしまった場合,その処遇については,「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律(以下,「医療観察法」といいます。)」という法律による規定があります。

この法律は,一定の重大な他害行為(対象行為)を行った精神に障害があると認められる方(対象者)に対して,適切な処遇(入院,通院等)を行うことによって,その病状を改善及びこれに伴う同様の行為の再発の防止を図り,もって社会復帰することを促進することを目的とするとされています(医療観察法(以下「法」といいます。)1条)。

簡単に言えば,対象行為を行った対象者に対して裁判所が審判を行い,必要と判断される入通院等の処遇を強制的に受けさせる手続を定めていいます。 

なおこの法律では,対象者及び保護者が弁護士を付添人として選任することを認めています(法30条1項)。付添人となった弁護士は,対象者が不当に入通院による身体拘束を受けることが無いように,又対象者にとって最も利益となるように,検察官や裁判所に対して意見を述べることとなります。

付添人は,対象者や保護者が自ら私選で選任することができます。私選の付添人がいない場合には,検察官が審判を申立てた後に,裁判所が国選付添人を選任することになります。

以下では,まず具体的な本法の対象範囲について解説しつつ,具体的な付添人の活動について述べます。

※厚生労働省による心神喪失者等医療観察法の解説ページ

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/sinsin/gaiyo.html

(2)対象範囲

医療観察法の対象となる「一定の重大な他害行為」の範囲については,法2条1項で定義されています。具体的には,放火,強制わいせつ,強姦,殺人,傷害,強盗のそれぞれの罪(未遂含む)を犯した場合が,法の対象となります(法2条1項)。

そして,これらの罪を犯した者のうち,心神喪失または心神耗弱が認められて不起訴処分になった者,心神喪失を理由に無罪判決を受けた者及び心神耗弱を理由に刑が減軽され執行猶予の判決を受けた者が,本法の手続の「対象者」となります(法2条2項)。つまり,刑事処罰の基礎となる責任能力が無く,刑事処罰を科すことができない者(適切でない者)が,本法の対象になるということです。

但し,「この法律による医療を受けさせる必要が明らかにないと認められる場合」については,審判の申立ては行われません(法33条1項)。具体的には,心神喪失等の理由がアルコール等による一時的なものに限られる場合や,認知症等入通院による治療では改善が期待できない場合には,審判の対象となりません。

2 審判手続の概要と弁護士による対応

(1)検察官による審判申立て

ア ここからは,一般的な審判手続の流れについて説明します。

審判の申立権者は検察官です。通常申立ての際には,「入院を求める」や「通院を求める」等の具体的な申立ては無く,単に法42条1項の決定を求めるとの申立てが為されることが多いようです。

検察官は,「この法律による医療を受けさせる必要が明らかにないと認められる場合を除き」,裁判所に対して審判を申し立てなければならないとされていますので,刑事手続の様に,検察官に広汎な裁量権が与えられているものではありません。

しかし,通常検察官は,刑事事件の処分を決める段階において,「責任能力ありと見なして刑事手続(公訴提起)を科すか」又は「責任能力無しと見なして医療観察法の審判を申し立てるか」を検討の上で選択することになります。

その為,刑事処分が未決定の段階において,検察官と協議し,医療観察法に基づく審判を回避できるよう働きかけることも十分可能と見込まれます。

刑事手続になった場合に強制入院よりも軽微な結果(罰金刑等)となることが見込まれる場合には,「刑事責任能力がある」旨の主張をした方が結果的に本人の利益となることも考えられます。本件も,前科の無い傷害の事案ですので,刑事処罰としては罰金刑の可能性が見込めます。担当弁護人と良く協議し,主張の方向性を検討すべきでしょう。

イ また,仮に責任能力が無いことを前提とした場合でも,本件のような傷害事件の場合,特例として「傷害が軽い場合であって,当該行為の内容、当該対象者による過去の他害行為の有無及び内容並びに当該対象者の現在の病状、性格及び生活環境を考慮し、その必要がないと認めるとき」は、申立てをしないことができるとされています(法33条3項)。

そのため本件でも,責任能力が無いことを前提としつつも,検察官に対して日常の生活態度が問題無いことなどを主張することで,審判の申立てを回避できる可能性があります。その為には,職場での日常での勤務態度や,本人のこれまでの素行について,関係者の嘆願書等の資料を準備した上で警察に提出することが必要となるでしょう。

いずれにせよ,どのような主張をするのが当人にとって,最も利益となるかは,事案によって判断が難しい部分もありますので,弁護人と良く協議し検討する必要があります。

(2)鑑定入院命令及び鑑定命令

 ア 検察官が審判の申立てをした場合,申立てを受けた裁判所の裁判官は,「この法律による医療を受けさせる必要が無いと明らかに認められる場合を除き,鑑定その他医療的観察のため」に対象者を入院させることを命令しなければならないとされています(法34条1項)。これを鑑定入院命令といいます。

実際には,ほぼ全ての事例で鑑定入院命令が行われており,その期間は2~3か月とされています(法34条3項)。

対象者には,鑑定命令により鑑定医が選任され(法37条1項),当該鑑定医が,「対象者が精神障害者であるか」「この法律による医療を受けさせる必要があるか」と行った点について鑑定を行うことになります。

実際の審判では鑑定医の意見が判断に大きな影響を及ぼすため,鑑定医による病状や治療反応性の意見は積極的に把握に努める必要があります。

イ なお,鑑定入院命令は,対象者を長期間拘束する手続ですので,発令される際には対象者本人に対して告知・聴聞の機会が与えられることが必要とされています(法34条2項)。

しかし,対象者本人は,そもそも精神に何らかの障害をかかえている者が多い上に,国選付添人が鑑定入院命令が発令後に選任されることがほとんどですので,この告知・聴聞の機会は形式的な手続となってしまうのが実情です。鑑定入院命令を阻止するためには,早い段階で私選の付添人を選任し,告知・聴聞の機会に説得的な主張が出来るよう準備を整える必要があります。

また,鑑定入院命令に対しては,対象者本人,保護者,付添人から,裁判所の決定に対する不服申立てを行うことが可能です。この不服申し立てにおいては,明文上,「この法律による医療を受けさせる必要がないこと」等を理由とすることができないとされているため,不服申立ての理由が,手続の違背や鑑定入院先での不当処遇等の限られた理由に実質上限定されてしまい,実務上の批判も大きいところです。

しかし,判例によれば,裁判所が鑑定入院の必要性がないと認める場合には,職権で鑑定命令を取り消すことができ,対象者,保護者又は付添人は,その職権発動を促すことができるとされています(最高裁平成21年8月7日決定)。

その為付添人としては,職権の発動を促すべく,医療が不必要である点についても裁判所に対して積極的に主張することが必要といえるでしょう。

(3)審判手続までの流れ

当時者を鑑定入院に処した後,裁判所は,上記鑑定入院命令の期間内に対象者に対する処遇を決定することになります。裁判所は,上記鑑定医への鑑定命令の他,社会復帰調整官による生活環境調査を行い(法38条),概ね審判申立から1か月程度で,鑑定書や生活環境調査報告書が提出されます。その上で,裁判官及び精神保健審判員,検察官、付添人、鑑定医が参加するカンファレンス等を実施します。そして,入院期間の1~2週間前頃に審判期日を設定し,入院期間満了の直前に最終的な処遇を決定します。

審判では,対象行為の存否,責任能力の有無,そして処遇要件(次項参照)が審理の対象となります。付添人としては,これらの点で対象者に有利な主張ができるよう準備する必要があります。

処遇の決定は,裁判官1名と精神保健審判員(精神科医)1名の2名からなる合議体で行われます(法11条1項)。この合議体が,処遇の前提及び要件があると認めた場合には,対象者に対して,指定医療機関への入通院を命じる決定が為されることになります(法42条)。

以下においては,実際の審判に向けた入通院の決定を避けるための具体的な付添人活動について解説します。

3 審判まですべき主張及び活動

(1)対象行為の存否や責任能力を争う場合

この法律に基づく手続は,対象となる重大な行為が存在すること及び対象者に責任能力が無いことが前提とされていますので,これらの前提条件を欠く場合,審判申立は却下されます(法40条1項)。ただし,既に対象者が刑事裁判において確定判決を経ている場合には,審理の重複を避けるため,対象行為の存否や責任能力の有無について争うことはできません。

対象行為の存否については,刑事訴訟法が準用されており(法24条4項),別の合議体による審理を求めることもできますが(法41条),実際に認められることは少なく,裁判官一人による判断が為されてしまいます(11条2項)。しかも,事実の取調べは必要な場合に行うとされており(24条1項),刑事裁判のような伝聞法則の適用も無く(同2項),職権主義により審理が進められてしまいます。

その為,事実関係を争う場合には,付添人が積極的に事実取調べの職権発動を促したり,検察官に対して必要な証拠の開示・資料の提出を請求したり(法25条)する等して,できる限り刑事訴訟法に準じるような厳格な事実認定を求める必要があるでしょう。

なお,審判において対象行為時に責任能力があったと判断された場合,検察官は,被疑者に対して刑事責任を追及することも考えられますので,主張の方針については,付添人と慎重に検討する必要があります。

(2)処遇要件を争う場合

上記前提に争いが無い場合,審理の中心である入通院の処遇要件について争うことになります。

対象者に対して入通院の決定をするための要件は,法文上「対象行為を行った際の精神障害を改善し、これに伴って同様の行為を行うことなく、社会に復帰することを促進するため、この法律による医療を受けさせる必要があると認める場合」とされていますが(法42条1項),具体的には①疾病性②治療反応性③社会復帰訴外要因,というの三つの要件からなると解釈されています。

以下では,3つの要件についての主張のポイントについて解説します。

① 疾病性について

疾病性とは,対象者が,対象行為時の心神喪失・耗弱の原因となった精神障害と同様の障害を審判時に有していることを意味します。

つまり,鑑定入院の期間内の治療等により,精神障害が改善して責任能力が回復している場合等には,この要件を満たしません。

この要件の存否の判断に当たっては,鑑定医の意見が大きな影響を有していますが,付添人としても,対象者の病状については良く理解した上で,事件直前まで仕事が問題無く出来ていた事等を主張する必要があります。

② 治療反応性について

治療反応性とは,対象者にこの法律による医療を受けさせることによって,対象行為の原因となった精神障害が改善される可能性が存在することを意味します。

知的障害者や認知症,人格障害等,医療による改善が見込まない場合もあり,このような対象者に対して強制的に医療を科すことは,この法律も目的に合致しないことになりますので,この要件が必要とされています。

実際には,医療によって多少なりとも改善される見込みがある場合や,投薬等により一時的に症状抑え込める場合等には,治療反応性の要件が緩やかに認められてしまうことも多いといえます。

しかし,この法律の目的は,あくまで定められ医療により積極的に対象者の障害が治療し社会復帰を促進することにあるため,一時的な抑制や多少の治療結果しか見込めない場合には,治療反応性の要件を満たすとはいえません。

付添人としては,以前のかかりつけの医師の意見書等を取得する等して,治療反応性の要件について十分な審理を求める必要があります。

③ 社会復帰訴外要因について

社会復帰訴外要因とは,この法律による医療を受けさせなければ,対象者を社会に復帰させることが困難であることを意味します。つまり,この法律による強制医療を行わなくとも,対象者の社会復帰を促進することが可能であれば,入通院命令を出すことはできないことになります。

①②の要件は,その存否につき医学的見地からの判断が大部分を占めることになりますので,付添人が入通等の命令を回避することを目的とする場合,多くはこの③の要件の存否について積極的に主張することになります。

具体的には,審判の期日までに,対象者が復帰した後の環境の調整を十分に行うことが必要です。本件では,事件前に働いていた勤務先で継続して雇用してもらえるように,担当者の方に積極的にお願いに行く事が必要です。当然家族等による支援も不可欠ですので,できるだけ多くの家族に,協力を約束する陳述書等を作成してもらうと良いでしょう。また,利用可能な公的給付についても調査すべきです。更には,指定医療機関以外の医療機関で,対象者に対して効果的な治療を行うことが可能な場合は,そのような治療を担当してくれる主治医や協力医による意見書等を準備できれば大きな事情となります。

また,当人の裁判所が選任した社会復帰調整官とも連携し,綿密な打ち合わせを行うことも重要です。社会復帰調整官の報告書は,審判においても大きな影響力を持ちますので,入院を避けた場合の調整官の懸念事項等があれば,逐一対策を練って対案や資料を提供する必要があります。対象者の社会復帰後の生活環境を示す為にも,上記のような資料をできるだけ豊富に準備すべきでしょう。

加えて仮にこの法律による医療が必要不可欠であるとしても,入院ではなく通院とすべき事情も細くて主張しておいた方が良い場合もあります。例えば,指定医療機関に近接した住居を容易できる等の事情があれば,入院迄を回避する理由の一つになると考えられます。

これらの準備を十分に行うことができれば,審判において長期の入院決定を回避できる可能性もあります。

4 審判に対する不服

裁判所の為した入通院等の処遇決定に対して不服がある場合には,抗告により争うことができます(法64条)。対象者側の抗告権者は,対象者本人の他,保護者や付添人による抗告も可能です(同条2項)。

抗告期間は2週間とされておりますので,迅速な対応が必要となります。

5 最後に

医療観察法に基づく審判は,対象者に長期の拘束を強いるものである一方,その手続は職権主義に基づくものであり,対象者の利益に最大限配慮した手続が保障されているとは必ずしも言い難い側面もあります。

その為,対象者又そのご家族としては,不当に長期の入院を強要されないためにも,付添人を通じて有利な事情を十分に主張する必要があります。

経験のある弁護士等に相談し,適切なご対応をお取り下さい。

以上

関連事例集

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※参照条文

≪心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律≫

(目的等)

第一条  この法律は、心神喪失等の状態で重大な他害行為(他人に害を及ぼす行為をいう。以下同じ。)を行った者に対し、その適切な処遇を決定するための手続等を定めることにより、継続的かつ適切な医療並びにその確保のために必要な観察及び指導を行うことによって、その病状の改善及びこれに伴う同様の行為の再発の防止を図り、もってその社会復帰を促進することを目的とする。

2  この法律による処遇に携わる者は、前項に規定する目的を踏まえ、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者が円滑に社会復帰をすることができるように努めなければならない。

(定義)

第二条  この法律において「対象行為」とは、次の各号に掲げるいずれかの行為に当たるものをいう。

一  刑法 (明治四十年法律第四十五号)第百八条 から第百十条 まで又は第百十二条 に規定する行為

二  刑法第百七十六条 から第百七十九条 までに規定する行為

三  刑法第百九十九条 、第二百二条又は第二百三条に規定する行為

四  刑法第二百四条 に規定する行為

五  刑法第二百三十六条 、第二百三十八条又は第二百四十三条(第二百三十六条又は第二百三十八条に係るものに限る。)に規定する行為

2  この法律において「対象者」とは、次の各号のいずれかに該当する者をいう。

一  公訴を提起しない処分において、対象行為を行ったこと及び刑法第三十九条第一項 に規定する者(以下「心神喪失者」という。)又は同条第二項 に規定する者(以下「心神耗弱者」という。)であることが認められた者

二  対象行為について、刑法第三十九条第一項 の規定により無罪の確定裁判を受けた者又は同条第二項 の規定により刑を減軽する旨の確定裁判(懲役又は禁錮の刑を言い渡し執行猶予の言渡しをしない裁判であって、執行すべき刑期があるものを除く。)を受けた者

3  この法律において「指定医療機関」とは、指定入院医療機関及び指定通院医療機関をいう。

4  この法律において「指定入院医療機関」とは、第四十二条第一項第一号又は第六十一条第一項第一号の決定を受けた者の入院による医療を担当させる医療機関として厚生労働大臣が指定した病院(その一部を指定した病院を含む。)をいう。

5  この法律において「指定通院医療機関」とは、第四十二条第一項第二号又は第五十一条第一項第二号の決定を受けた者の入院によらない医療を担当させる医療機関として厚生労働大臣が指定した病院若しくは診療所(これらに準ずるものとして政令で定めるものを含む。第十六条第二項において同じ。)又は薬局をいう。

(合議制)

第十一条  裁判所法 (昭和二十二年法律第五十九号)第二十六条 の規定にかかわらず、地方裁判所は、一人の裁判官及び一人の精神保健審判員の合議体で処遇事件を取り扱う。ただし、この法律で特別の定めをした事項については、この限りでない。

2  第四条第一項若しくは第二項、第五条、第四十条第一項若しくは第二項前段、第四十一条第一項、第四十二条第二項、第五十一条第二項、第五十六条第二項又は第六十一条第二項に規定する裁判は、前項の合議体の構成員である裁判官のみでする。呼出状若しくは同行状を発し、対象者に出頭を命じ、若しくは付添人を付し、同行状の執行を嘱託し、若しくはこれを執行させ、出頭命令を受けた者の護送を嘱託し、又は第二十四条第五項前段の規定により対象者の所在の調査を求める処分についても、同様とする。

3  判事補は、第一項の合議体に加わることができない。

第二十三条の二  対象者の後見人若しくは保佐人、配偶者、親権を行う者又は扶養義務者は、次項に定めるところにより、保護者となる。ただし、次の各号のいずれかに該当する者を除く。

一  行方の知れない者

二  当該対象者に対して訴訟をしている者、又はした者並びにその配偶者及び直系血族

三  家庭裁判所で免ぜられた法定代理人、保佐人又は補助人

四  破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者

五  成年被後見人又は被保佐人

六  未成年者

2  保護者となるべき者の順位は、次のとおりとし、先順位の者が保護者の権限を行うことができないときは、次順位の者が保護者となる。ただし、第一号に掲げる者がいない場合において、対象者の保護のため特に必要があると認めるときは、家庭裁判所は、利害関係人の申立てによりその順位を変更することができる。

一  後見人又は保佐人

二  配偶者

三  親権を行う者

四  前二号に掲げる者以外の扶養義務者のうちから家庭裁判所が選任した者

第二十三条の三  前条の規定により定まる保護者がないときは、対象者の居住地を管轄する市町村長(特別区の長を含む。以下同じ。)が保護者となる。ただし、対象者の居住地がないとき、又は対象者の居住地が明らかでないときは、その対象者の現在地を管轄する市町村長が保護者となる。

(事実の取調べ)

第二十四条  決定又は命令をするについて必要がある場合は、事実の取調べをすることができる。

2  前項の事実の取調べは、合議体の構成員(精神保健審判員を除く。)にこれをさせ、又は地方裁判所若しくは簡易裁判所の裁判官にこれを嘱託することができる。

3  第一項の事実の取調べのため必要があると認めるときは、証人尋問、鑑定、検証、押収、捜索、通訳及び翻訳を行い、並びに官公署、医療施設その他の公私の団体に対し、必要な事項の報告、資料の提出その他の協力を求めることができる。ただし、差押えについては、あらかじめ所有者、所持者又は保管者に差し押さえるべき物の提出を命じた後でなければ、これをすることができない。

4  刑事訴訟法 中裁判所の行う証人尋問、鑑定、検証、押収、捜索、通訳及び翻訳に関する規定は、処遇事件の性質に反しない限り、前項の規定による証人尋問、鑑定、検証、押収、捜索、通訳及び翻訳について準用する。

5  裁判所は、対象者の行方が不明になったときは、所轄の警察署長にその所在の調査を求めることができる。この場合において、警察官は、当該対象者を発見したときは、直ちに、その旨を裁判所に通知しなければならない。

(意見の陳述及び資料の提出)

第二十五条  検察官、指定入院医療機関の管理者又は保護観察所の長は、第三十三条第一項、第四十九条第一項若しくは第二項、第五十四条第一項若しくは第二項又は第五十九条第一項若しくは第二項の規定による申立てをした場合は、意見を述べ、及び必要な資料を提出しなければならない。

2  対象者、保護者及び付添人は、意見を述べ、及び資料を提出することができる。

(付添人)

第三十条  対象者及び保護者は、弁護士を付添人に選任することができる。

2  裁判所は、特別の事情があるときは、最高裁判所規則で定めるところにより、付添人の数を制限することができる。

3  裁判所は、対象者に付添人がない場合であって、その精神障害の状態その他の事情を考慮し、必要があると認めるときは、職権で、弁護士である付添人を付することができる。

4  前項の規定により裁判所が付すべき付添人は、最高裁判所規則で定めるところにより、選任するものとする。

5  前項の規定により選任された付添人は、旅費、日当、宿泊料及び報酬を請求することができる。

(検察官による申立て)

第三十三条  検察官は、被疑者が対象行為を行ったこと及び心神喪失者若しくは心神耗弱者であることを認めて公訴を提起しない処分をしたとき、又は第二条第二項第二号に規定する確定裁判があったときは、当該処分をされ、又は当該確定裁判を受けた対象者について、対象行為を行った際の精神障害を改善し、これに伴って同様の行為を行うことなく、社会に復帰することを促進するためにこの法律による医療を受けさせる必要が明らかにないと認める場合を除き、地方裁判所に対し、第四十二条第一項の決定をすることを申し立てなければならない。ただし、当該対象者について刑事事件若しくは少年の保護事件の処理又は外国人の退去強制に関する法令の規定による手続が行われている場合は、当該手続が終了するまで、申立てをしないことができる。

2  前項本文の規定にかかわらず、検察官は、当該対象者が刑若しくは保護処分の執行のため刑務所、少年刑務所、拘置所若しくは少年院に収容されており引き続き収容されることとなるとき、又は新たに収容されるときは、同項の申立てをすることができない。当該対象者が外国人であって出国したときも、同様とする。

3  検察官は、刑法第二百四条 に規定する行為を行った対象者については、傷害が軽い場合であって、当該行為の内容、当該対象者による過去の他害行為の有無及び内容並びに当該対象者の現在の病状、性格及び生活環境を考慮し、その必要がないと認めるときは、第一項の申立てをしないことができる。ただし、他の対象行為をも行った者については、この限りでない。

(鑑定入院命令)

第三十四条  前条第一項の申立てを受けた地方裁判所の裁判官は、対象者について、対象行為を行った際の精神障害を改善し、これに伴って同様の行為を行うことなく、社会に復帰することを促進するためにこの法律による医療を受けさせる必要が明らかにないと認める場合を除き、鑑定その他医療的観察のため、当該対象者を入院させ第四十条第一項又は第四十二条の決定があるまでの間在院させる旨を命じなければならない。この場合において、裁判官は、呼出し及び同行に関し、裁判所と同一の権限を有する。

2  前項の命令を発するには、裁判官は、当該対象者に対し、あらかじめ、供述を強いられることはないこと及び弁護士である付添人を選任することができることを説明した上、当該対象者が第二条第二項に該当するとされる理由の要旨及び前条第一項の申立てがあったことを告げ、陳述する機会を与えなければならない。ただし、当該対象者の心身の障害により又は正当な理由がなく裁判官の面前に出頭しないため、これらを行うことができないときは、この限りでない。

3  第一項の命令による入院の期間は、当該命令が執行された日から起算して二月を超えることができない。ただし、裁判所は、必要があると認めるときは、通じて一月を超えない範囲で、決定をもって、この期間を延長することができる。

4  裁判官は、検察官に第一項の命令の執行を嘱託するものとする。

5  第二十八条第二項、第三項及び第六項並びに第二十九条第三項の規定は、前項の命令の執行について準用する。

6  第一項の命令は、判事補が一人で発することができる。

(必要的付添人)

第三十五条  裁判所は、第三十三条第一項の申立てがあった場合において、対象者に付添人がないときは、付添人を付さなければならない。

(精神保健参与員の関与)

第三十六条  裁判所は、処遇の要否及びその内容につき、精神保健参与員の意見を聴くため、これを審判に関与させるものとする。ただし、特に必要がないと認めるときは、この限りでない。

(対象者の鑑定)

第三十七条  裁判所は、対象者に関し、精神障害者であるか否か及び対象行為を行った際の精神障害を改善し、これに伴って同様の行為を行うことなく、社会に復帰することを促進するためにこの法律による医療を受けさせる必要があるか否かについて、精神保健判定医又はこれと同等以上の学識経験を有すると認める医師に鑑定を命じなければならない。ただし、当該必要が明らかにないと認める場合は、この限りでない。

2  前項の鑑定を行うに当たっては、精神障害の類型、過去の病歴、現在及び対象行為を行った当時の病状、治療状況、病状及び治療状況から予測される将来の症状、対象行為の内容、過去の他害行為の有無及び内容並びに当該対象者の性格を考慮するものとする。

3  第一項の規定により鑑定を命ぜられた医師は、当該鑑定の結果に、当該対象者の病状に基づき、この法律による入院による医療の必要性に関する意見を付さなければならない。

4  裁判所は、第一項の鑑定を命じた医師に対し、当該鑑定の実施に当たって留意すべき事項を示すことができる。

5  裁判所は、第三十四条第一項前段の命令が発せられていない対象者について第一項の鑑定を命ずる場合において、必要があると認めるときは、決定をもって、鑑定その他医療的観察のため、当該対象者を入院させ第四十条第一項又は第四十二条の決定があるまでの間在院させる旨を命ずることができる。第三十四条第二項から第五項までの規定は、この場合について準用する。

(保護観察所による生活環境の調査)

第三十八条  裁判所は、保護観察所の長に対し、対象者の生活環境の調査を行い、その結果を報告することを求めることができる。

(審判期日の開催)

第三十九条  裁判所は、第三十三条第一項の申立てがあった場合は、審判期日を開かなければならない。ただし、検察官及び付添人に異議がないときは、この限りでない。

2  検察官は、審判期日に出席しなければならない。

3  裁判所は、審判期日において、対象者に対し、供述を強いられることはないことを説明した上、当該対象者が第二条第二項に該当するとされる理由の要旨及び第三十三条第一項の申立てがあったことを告げ、当該対象者及び付添人から、意見を聴かなければならない。ただし、第三十一条第八項ただし書に規定する場合における対象者については、この限りでない。

(申立ての却下等)

第四十条  裁判所は、第二条第二項第一号に規定する対象者について第三十三条第一項の申立てがあった場合において、次の各号のいずれかに掲げる事由に該当するときは、決定をもって、申立てを却下しなければならない。

一  対象行為を行ったと認められない場合

二  心神喪失者及び心神耗弱者のいずれでもないと認める場合

2  裁判所は、検察官が心神喪失者と認めて公訴を提起しない処分をした対象者について、心神耗弱者と認めた場合には、その旨の決定をしなければならない。この場合において、検察官は、当該決定の告知を受けた日から二週間以内に、裁判所に対し、当該申立てを取り下げるか否かを通知しなければならない。

(対象行為の存否についての審理の特則)

第四十一条  裁判所は、第二条第二項第一号に規定する対象者について第三十三条第一項の申立てがあった場合において、必要があると認めるときは、検察官及び付添人の意見を聴いて、前条第一項第一号の事由に該当するか否かについての審理及び裁判を別の合議体による裁判所で行う旨の決定をすることができる。

2  前項の合議体は、裁判所法第二十六条第二項 に規定する裁判官の合議体とする。この場合において、当該合議体には、処遇事件の係属する裁判所の合議体の構成員である裁判官が加わることができる。

3  第一項の合議体による裁判所は、対象者の呼出し及び同行並びに対象者に対する出頭命令に関し、処遇事件の係属する裁判所と同一の権限を有する。

4  処遇事件の係属する裁判所は、第一項の合議体による裁判所の審理が行われている間においても、審判を行うことができる。ただし、処遇事件を終局させる決定(次条第二項の決定を除く。)を行うことができない。

5  第一項の合議体による裁判所が同項の審理を行うときは、審判期日を開かなければならない。この場合において、審判期日における審判の指揮は、裁判長が行う。

6  第三十九条第二項及び第三項の規定は、前項の審判期日について準用する。

7  処遇事件の係属する裁判所の合議体の構成員である精神保健審判員は、第五項の審判期日に出席することができる。

8  第一項の合議体による裁判所は、前条第一項第一号に規定する事由に該当する旨の決定又は当該事由に該当しない旨の決定をしなければならない。

9  前項の決定は、処遇事件の係属する裁判所を拘束する。

(入院等の決定)

第四十二条  裁判所は、第三十三条第一項の申立てがあった場合は、第三十七条第一項に規定する鑑定を基礎とし、かつ、同条第三項に規定する意見及び対象者の生活環境を考慮し、次の各号に掲げる区分に従い、当該各号に定める決定をしなければならない。

一  対象行為を行った際の精神障害を改善し、これに伴って同様の行為を行うことなく、社会に復帰することを促進するため、入院をさせてこの法律による医療を受けさせる必要があると認める場合 医療を受けさせるために入院をさせる旨の決定

二  前号の場合を除き、対象行為を行った際の精神障害を改善し、これに伴って同様の行為を行うことなく、社会に復帰することを促進するため、この法律による医療を受けさせる必要があると認める場合 入院によらない医療を受けさせる旨の決定

三  前二号の場合に当たらないとき この法律による医療を行わない旨の決定

2  裁判所は、申立てが不適法であると認める場合は、決定をもって、当該申立てを却下しなければならない。

(入院等)

第四十三条  前条第一項第一号の決定を受けた者は、厚生労働大臣が定める指定入院医療機関において、入院による医療を受けなければならない。

2  前条第一項第二号の決定を受けた者は、厚生労働大臣が定める指定通院医療機関による入院によらない医療を受けなければならない。

3  厚生労働大臣は、前条第一項第一号又は第二号の決定があったときは、当該決定を受けた者が入院による医療を受けるべき指定入院医療機関又は入院によらない医療を受けるべき指定通院医療機関(病院又は診療所に限る。次項並びに第五十四条第一項及び第二項、第五十六条、第五十九条、第六十一条並びに第百十条において同じ。)を定め、その名称及び所在地を、当該決定を受けた者及びその保護者並びに当該決定をした地方裁判所の所在地を管轄する保護観察所の長に通知しなければならない。

4  厚生労働大臣は、前項の規定により定めた指定入院医療機関又は指定通院医療機関を変更した場合は、変更後の指定入院医療機関又は指定通院医療機関の名称及び所在地を、当該変更後の指定入院医療機関又は指定通院医療機関において医療を受けるべき者及びその保護者並びに当該医療を受けるべき者の当該変更前の居住地を管轄する保護観察所の長に通知しなければならない。

(通院期間)

第四十四条  第四十二条第一項第二号の決定による入院によらない医療を行う期間は、当該決定があった日から起算して三年間とする。ただし、裁判所は、通じて二年を超えない範囲で、当該期間を延長することができる。

(抗告)

第六十四条  検察官は第四十条第一項又は第四十二条の決定に対し、指定入院医療機関の管理者は第五十一条第一項又は第二項の決定に対し、保護観察所の長は第五十六条第一項若しくは第二項又は第六十一条第一項から第三項までの決定に対し、それぞれ、決定に影響を及ぼす法令の違反、重大な事実の誤認又は処分の著しい不当を理由とする場合に限り、二週間以内に、抗告をすることができる。

2  対象者、保護者又は付添人は、決定に影響を及ぼす法令の違反、重大な事実の誤認又は処分の著しい不当を理由とする場合に限り、第四十二条第一項、第五十一条第一項若しくは第二項、第五十六条第一項若しくは第二項又は第六十一条第一項若しくは第三項の決定に対し、二週間以内に、抗告をすることができる。ただし、付添人は、選任者である保護者の明示した意思に反して、抗告をすることができない。

3  第四十一条第一項の合議体による裁判所の裁判は、当該裁判所の同条第八項の決定に基づく第四十条第一項又は第四十二条第一項の決定に対する抗告があったときは、抗告裁判所の判断を受ける。

【参考判例】

(最高裁平成21年8月7日決定、刑集63巻6号776頁)

「本件抗告の趣意は,違憲をいうが,実質は単なる法令違反の主張であって,心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律(以下「法」という。)72条3項,刑訴法433条の抗告理由に当たらない。

 なお,職権により判断すると,鑑定入院命令が発せられた後に鑑定入院の必要がなくなったことなどの事情は,法72条1項の鑑定入院命令取消し請求の理由には当たらないものの,裁判所は,鑑定人の意見を聴くなどして鑑定入院命令が発せられた後に法による医療を受けさせる必要が明らかにないことが判明したときなど,鑑定入院の必要がないと判断した場合には,職権で鑑定入院命令を取り消すことができ,対象者,保護者又は付添人は,その職権発動を促すことができるものと解するのが相当である。」