新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1670、2016/02/12 11:12 https://www.shinginza.com/qa-hanzai.htm

【刑事、窃盗・詐欺の示談の相手方にクレジット会社は入るか、最高裁平成16年2月9日決定】

窃盗したクレジットカードで商品を購入した場合の犯罪


質問:夫が,財布を盗み中に入っていた財布の持ち主名義のクレジットカードを不正に使用して,貴金属類を購入してしまいました。後日,財布の持ち主や、貴金属を販売した店から被害届が提出されたとのことで,警察から取調べをするので,出頭するようにと言われています。現在夫は,会社内で重要な地位にあり,仮に刑罰が科されてしまった場合には,会社をクビになってしまう可能性もあると思います。私の夫は今後,どうなってしまうのでしょうか。弁護士に依頼した方が良いでしょうか。



回答:
1 至急弁護士に相談して被害者らと示談する必要があります。

  あなたの夫には,(1)財布の所持者に対する窃盗罪(刑法235条),(2)貴金属を購入した店に対する詐欺罪(刑法246条1項)が成立することになります。詐欺罪には罰金刑がありませんので,このまま何もしない場合には,公判請求(懲役刑)されることが強く想定されます。懲役刑が求刑された場合,執行猶予が付く可能性はありますが,付かない場合には実刑として刑務所に服役せざるを得ない状況です。また,刑罰を受けた場合には,会社の懲戒処分(解雇含む)を受けることもあり得ます。

  したがって,本件では,検察官に対し,不起訴処分(起訴猶予処分)を求めて速やかに活動を開始する必要があります。

2 本件のような被害者のいる犯罪において不起訴処分となるためには,被害者との示談交渉が必須になります。まずは,窃盗の被害者(財布の所持者)との示談交渉を,弁護人を通じて試みる必要があるでしょう。被害者に対しては,本件でどのような被害(クレジットによる損害含む)が生じているのか,被害感情に十分に配慮しながら示談を進めていく必要があります。

  また,詐欺罪に関しては,まず貴金属店と示談をする必要があります。店には,クレジット会社からの支払があるので,純粋な経済的損失はないのかもしれませんが,本来正規のルートで売却できるはずの商品を詐欺で失ったこと,その他警察への対応による業務への支障が生じているのは事実なので,この点は謝罪の上,被害弁償をする必要があるでしょう。

  また,クレジット会社(信販会社)は,裁判例上は,刑法上の犯罪としての被害者ではないですが,場合によっては加盟店に対して立て替えた分の経済的損害が生じている可能性があり,また,その損害はクレジットカード詐欺に直接関係して生じた損害であるため,刑事上の処分への影響もあります。したがって,クレジット会社への弁償も検討する必要があるでしょう。

3 以上の示談交渉を前提に,検察官に対して有利な情状を可能な限り主張し,公判請求を回避すべく不起訴処分を目指していくべきでしょう。2で述べた被害者・関係者全員との示談が成立していれば,これ以上処罰の必要なしとして,起訴猶予(不起訴)処分を獲得することは十分可能と思われます。検察官の処分が出るまで時間的な猶予はありませんので,可能な限り早めに,弁護士に相談されることを強くお勧めします。

4 その他クレジットカード詐欺に関する事例集としては,1089番等を参照してください。


解説:

第1 あなたの夫が現在置かれている法的な地位について

 1 財布を盗んだ点について(窃盗罪)

   前提として,あなたの夫が現在どのような法的地位にあるか(どのような犯罪が成立するか)を検討した上で,今後の刑事手続の流れについて検討していきます。

   本件では,あなたの夫は他人の財布を盗んでしまったということですので,財布の所持者に対する窃盗罪(刑法235条)が成立することになります。他人の財物である財布を,その意思に反してその占有を移した段階で,窃盗罪の既遂が成立することとなります。

   窃盗罪の法定刑は,10年以下の懲役か,50万円以下の罰金とされています。

 2 他人名義のクレジットカードを使い,貴金属を購入した点について(1項詐欺罪)

 (1)さらに,本件では,盗んだ財布の中に入っていた他人名義のクレジットカードを利用して,貴金属類の商品を取得したということで,刑法上の詐欺罪(刑法246条)が成立する可能性があります。盗んだ品物を単に使用しているだけでは犯罪にはなりませんが、別途被害が生じるような場合は犯罪になる可能性があります。

 (2)他人名義のクレジットカードを利用した場合の犯罪構成(三角詐欺)
    他人名義のクレジットカードを利用した場合に,誰に対してどのような詐欺罪が成立するのかについては,理論的にも争いがあるところです。

    詐欺罪は,ある被害者を欺いて(詐欺行為)騙して錯誤に陥らせ,その瑕疵ある意思に基づいて,加害者に財物を交付することによって,財産上の損害を負わせることによって成立する犯罪です。このように,詐欺罪は個人の個別財産を保護することを目的として設けられた刑罰になります。また,詐欺罪が成立するためには,詐欺行為と被害者の錯誤,財物の交付(交付行為)のいずれもが関連していること(因果関係)が必要になります。

    クレジットカードを利用する場合には,クレジットカードを利用して直接商品を交付する加盟店,加盟店に対して費用を立て替えるクレジット会社(信販会社)がいるため,加盟店には損害がなく、加盟店を騙したことにはならないのでは、という疑問が生じます。また、クレジット会社は騙されて錯誤に陥ったということはないことから詐欺罪と言えるか疑問となります。そこで、誰に対して,どのような詐欺罪が成立するのかが,理論上問題となります。

    この点について,最高裁判所の判例(最高裁平成16年2月9日決定)は,他人名義のクレジットカード利用の事案について,「本件クレジットカードの名義人本人に成り済まし,同カードの正当な利用権限がないのにこれがあるように装い,その 旨従業員を誤信させてガソリンの交付を受けたことが認められるから,被告人の行為は詐欺罪を構成する。」と認定し,1項詐欺罪(財物の交付によって詐欺が成立)の成立を認めています。

    また,その他の裁判例(東京高裁平成3年12月26日判決)によれば,他人のクレジットカードを用いて洗濯機を取得した事案において,「被告人がKA名義のクレジットカードを使用して、商品購入名下に洗濯機を騙取しようと企て、原判示の各日時に、原判示 のサンペイグッドカメラ店において、同店店員TMに対して、右カードを提示して、自己が同カードを使用する正当な権限を有する者であり、かつ代金支払いの 意思及び能力がないのに同カードによる所定の方法で確実に代金の支払いをするように装って、原判示の各洗濯機の購入方を申し込み、同人をしてその旨誤信さ せ、原判示の各日時に運送業者を介して原判示の各場所へこれを送付させてそれぞれ騙取した事実を認めることができ」るとして,1項詐欺罪の成立を認めています。

    以上より,現在の裁判例においては,他人のクレジットカードを用いて商品を取得した場合には,(1)加盟店に対する,(2)1項詐欺罪(商品の交付自体が損害)が成立する,と解するのが確立されています。したがって,本件では加盟店で貴金属を取得した時点で,1項詐欺罪の既遂が成立することになります。

(3)加盟店に対する1項詐欺が成立すると解されている理由としては,以下のとおり考えることができます。

    すなわち,クレジットカードの会社の規約上,他人に対してクレジットカードを貸与することは禁止されています。理由としては,クレジットカードは,当該個々人に対する経済的信用を前提とする制度であり,他の者が利用することは想定されていないからです。

   加盟店もこのようなクレジット会社の規約を前提として信用取引を行いますから,仮に,クレジットカードの名義人でないことが判れば,クレジット取引(商品の交付)に応じることはありません。したがって,他人名義であることを隠してクレジットカードを利用することは,詐欺罪における「詐欺行為」(人を錯誤に陥らせる行為)に該当することとなります。

   そして,上記のような詐欺行為がなければ,商品を交付することはなかったのですから,クレジット取引を利用した商品の交付それ自体が,加盟店の財産的な損害となります。

   最後の財産的損害の点については,加盟店は商品を交付するものの,カード会社から商品相当額の金銭が振り込まれることになるので,商品分の利益は受けられる場合があります。したがって,加盟店は財産上の損害がなく,これに対する1項詐欺は成立しないのではないか,との疑問が生じるところです。しかし,この点は,あくまで事後的に金銭面での民事的な補填がなされたにすぎず,詐欺罪の成立とは無関係の事実であり,上記の点を左右しません。他人名義のカードを示された(詐欺行為の相手方・処分行為者)のは加盟店でありそのまま商品の交付によって加害者は利益を取得し(財物の交付を受け),詐欺罪が完了したと考えるのが自然ですし,仮に加盟店が他人名義であることの確認が取れればその商品を売却することなく,正当な流通ルートでの販売を行うことができたのですから,そのような機会を失わせるような手法で商品を交付したこと自体を,詐欺罪における損害とみることが妥当な結論といえます。

    ただし,加盟店の支払によって,クレジット会社(信販会社)に対しても損害が生じている可能性があることもまた事実ので,この点は,別途検討が必要な場合もあり得るところです。具体的な弁護方針については,第2以下において検討します。

 3 今後の流れについて

 (1)被疑者としての地位

    以上,本件であなたの夫には,窃盗罪(刑法235条),詐欺罪(刑法246条1項)が成立することとなります。

    そして,両者の関係は,それぞれ別の被害者に対して(財布の持ち主と加盟店),別の機会に行われた犯罪であり,それぞれ独立した被害が生じていることから,併合罪(刑法45条)として,刑が加重されることとなります(刑法47条)。

    このうち,詐欺罪については,罰金刑が存在しないため,本件で考えられる処分としては,不起訴処分(起訴猶予処分)か,公判請求が基本となります。公判請求とは,公開の裁判所にて裁判が行われ,懲役刑が求刑されることが通例です。そして,被害額の大きさなど,犯罪として悪質と判断されてしまった場合には,執行猶予が付かない実刑(実際に刑務所に行くこと)になってしまう可能性も否定できません。

    したがって,本件では早期に有利な情状(具体的には示談など)を可能な限り集めていき,量刑を可能な限り軽くしていく必要があります。本件では,まだ起訴がなされていないので,早期に弁護人を通じた示談交渉をすることによって,不起訴処分の獲得を目指し,最大限の活動をしていく必要があるでしょう。

 (2)会社の懲戒解雇の可能性

    また,本件で想定される社会的不利益としては,刑罰にとどまりません。通常の会社であれば,法令順守(コンプライアンス)の観点から,従業員が罪を犯し刑罰を受けた場合には,就業規則によって,懲戒処分を定めていることが通常です。そして,詐欺のような重大犯罪の場合には,場合によっては懲戒解雇もあり得るところです。その場合,将来の生活設計において重要な支障が生じることは想像に難くありません。

第2 具体的な弁護方法

 1 以上の検討のとおり,あなたの夫には,財布の所持者に対する窃盗罪,貴金属の販売店に対する1項詐欺罪が成立します。そして,本件で想定される検察官の終局処分は,原則懲役刑を求刑する公判請求となります。

   ただし,本件は被害者のいる犯罪であり,被害者その他関係者から,法的に許し責任追及をしない(宥恕)を得られるなどの有利な事情が得られれば,不起訴処分にすることも十分に考えられます。不起訴処分であれば,法律上の前科にも該当しませんし,会社の懲戒処分においても有利になるといえます。

   不起訴処分とするためには,後述の関係者との交渉を早期に進める必要がありますので,可能な限り早めに弁護士への相談,依頼をお薦めします。

2 被害者その他関係者との示談交渉

(1)本件のような窃盗罪,詐欺罪において,検察官が処分を決めるに際して最も重要視するのが,被害者その他関係者との示談の成否になります。

   基本的に,示談交渉は,弁護士を通じて行い,被害者があなたの夫の謝罪を受け入れていただければ,示談が成立することになります。示談の内容については,検察庁に提出するため,示談合意書の形で残しておく必要があります。

(2)本件では,誰との間で示談交渉を行うかの検討が必要となります。

    まずは,財布を盗まれた直接の被害者である,財布の所持者との示談交渉は必須となります。まずは,警察を通じて,被害者の方に同意を得て,情報を開示してもらい,示談成立に向けて交渉を開始することになります。示談に関しては、まず実際の損害の弁償が基準となります。本件では,クレジットカードが不正使用されたとしても盗難にあったということで、カードにより決済された責任はカード会社が負担することになるでしょうから、被害者には実際の損害はあまりないかもしれません(財布や中の現金等は返還されたとして)。しかし、窃盗にかかる財布の相当額,クレジットカードで引き落とされてしまった商品の相当額,また,本件によって取調べ等不要な時間を取らせてしまったことその他の迷惑料等が発生しますので,これらの金額を考慮し、被害感情に十分に配慮しながら,謝罪と被害弁償をしていく必要があります。

 (3)詐欺罪に関しては,加盟店に対してまず謝罪をする必要があります。この点,加盟店はクレジット会社から支払を受けている可能性があり,純粋な民事的な損害というものは発生していないかもしれません。しかし,本来正規のルートで売却するはずだった商品を交付してしまったこと,さらには,警察への対応等による業務の妨害に対する慰謝という形で,やはり被害が発生していますので,真摯な謝罪と被害弁償を行う必要があるでしょう。

  また,刑法上の犯罪に関する被害者ではないですが,クレジット会社に対しても被害弁償の対象に入れるべき場合もあります。なぜなら,財布の所持者が窃盗の被害届を出したときに,クレジットカードの利用を停止している可能性があり,加盟店に一方的に支払をしているだけのクレジット会社には,経済的な損失が生じていることもあり得るからです。その場合には,クレジット会社に対して,経済的な損失補填,被害弁償を行う必要があるでしょう。クレジット会社への弁償は,直接刑法上の被害者に対する弁償ではありませんが(この点、クレジット会社に対する詐欺罪の成否が問題となりますが、クレジット会社の社員は騙す行為の対象となっていないことから詐欺罪は成立しないと考えるの一般的な扱いとなっています),クレジットカード詐欺の一環として金銭的な被害が生じている関係が密接な関係者であることは間違いありませんので,そのような会社に対する被害弁償は,本人の反省の現れその他有利な情状として意味のあることになります。

 3 検察官との交渉

   以上のとおり,まずは被害者その他関係者に対して,示談交渉を行う必要があります。示談交渉が成立した場合には,上記のとおり,適切な示談合意書を交わす必要があります。被害者から許しを頂いた場合には,宥恕文言を合意書に記載してもらえれば,不起訴処分に向けて検察官をより説得しやすくなります。

   示談交渉と並行して,検察官との交渉もする必要があるでしょう。まずは示談交渉の意向があることを示し,それまでは終局処分を留保してもらうこと,また,本人が反省していること,職場での処分が想定されること,その他本人にとって有利な情状があれば主張し,不起訴処分にすることを求めていく必要があります。

   最終的な刑事処分を決めるのは,担当検察官の判断次第ですが,上記のとおりいずれの被害者,関係者とも示談が成立しているなどの有利な情状を説得的に主張することができれば,不起訴処分も十分に見込めるといえます。

   以上,関係者との示談に際しては,被害者の被害感情に配慮した慎重な交渉が求められるところであり,なるべく早めに専門的な経験を有する弁護士へ相談・依頼することを強くお勧めします。

<参照条文>
刑法
 第三十六章 窃盗及び強盗の罪

(窃盗)
第二百三十五条  他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

第三十七章 詐欺及び恐喝の罪

(詐欺)
第二百四十六条  人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。
2  前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。

<参考判例1>
最高裁平成16年2月9日決定

詐欺被告事件最高裁判所第二小法廷平成14年(あ)第1647号
平成16年2月9日決定

       主   文

本件上告を棄却する。
当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

       理   由

 弁護人渡邉靖子の上告趣意は,単なる法令違反,事実誤認の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。
 なお,所論にかんがみ、詐欺罪の成否について,職権をもって判断する。
1 原判決及びその是認する第1審判決並びに記録によれば,本件の事実関係は,次のとおりである。 
(1)Aは,友人のBから,同人名義の本件クレジットカードを預かって使用を許され,その利用代金については,Bに交付したり,所定の預金口座に振り込んだりしていた。
 その後,本件クレジットカードを被告人が入手した。その入手の経緯はつまびらかではないが,当時,Aは,バカラ賭博の店に客として出入りしており,暴力 団関係者である被告人も,同店を拠点に賭金の貸付けなどをしていたものであって,両者が接点を有していたことなどの状況から,本件クレジットカードは,A が自発的に被告人を含む第三者に対し交付したものである可能性も排除できない。なお,被告人とBとの間に面識はなく,BはA以外の第三者が本件クレジット カードを使用することを許諾したことはなかった。
(2)被告人は,本件クレジットカードを入手した直後,加盟店であるガソリンスタンドにおいて,本件クレジットカードを示し,名義人のBに成り済まして自 動車への給油を申込み,被告人がB本人であると従業員を誤信させてガソリンの給油を受けた。上記ガソリンスタンドでは,名義人以外の者によるクレジット カードの利用行為には応じないこととなっていた。
(3)本件クレジットカードの会員規約上,クレジットカードは,会員である名義人のみが利用でき,他人に同カードを譲渡,貸与,質入れ等することが禁じら れている。また,加盟店規約上,加盟店は,クレジットカードの利用者が会員本人であることを善良な管理者の注意義務をもって確認することなどが定められて いる。
2 以上の事実関係の下では,被告人は,本件クレジットカードの名義人本人に成り済まし,同カードの正当な利用権限がないのにこれがあるように装い,その 旨従業員を誤信させてガソリンの交付を受けたことが認められるから,被告人の行為は詐欺罪を構成する。仮に,被告人が,本件クレジットカードの名義人から 同カードの使用を許されており,かつ,自らの使用に係る同カードの利用代金が会員規約に従い名義人において決済されるものと誤信していたという事情があっ たとしても,本件詐欺罪の成立は左右されない。したがって,被告人に対し本件詐欺罪の成立を認めた原判断は,正当である。
 よって,刑訴法414条,386条1項3号,181条1項本文により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 福田博 裁判官 北川弘治 裁判官 亀山継夫 裁判官 滝井繁男)

<参考判例2>
詐欺被告事件、東京高等裁判所平成3年12月26日判決

『クレジットカード制度は、前述したようにカード名義人(カード会員)本人に対する個別的な信用を供与することが根幹となっているのであるから、 カード使用者がカードを利用する正当な権限を有するカード名義人本人であるかどうかがクレジットカード制度の極めて重要な要素であることは明らかで、カー ド名義人を偽り自己がカード使用の正当な権限を有するかのように装う行為はまさに欺罔行為そのものというべきであり、この点このような正当な権限というこ とが問題とならないいわゆる無銭飲食の場合とは明らかに異なるものである。
 また、支払いの能力を欠いた場合には、そのこと自体から支払いの意思は存在しないのであるから両者を独立して論ずる実益はないが、支払いの能力がある場 合でも支払いの意思がないときがあるのであるから、両者は欺罔行為として別個に考え得るものであって、支払いの能力及び支払いの意思ともに欠けるとして起 訴されている本件のような場合、原判決のように、支払いの意思のみを欺罔行為の要素と考え、支払いの能力は支払いの意思の存在を推認する間接事実に過ぎな いと解しなければならない必然性はなく、支払いの能力がないのにこれあるように装う行為も詐欺罪の構成要件事実である欺罔行為そのものであるといわなけれ ばならない。』



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