少年刑事事件における勾留及び観護措置の回避手続

刑事|少年事件|勾留及び観護措置の回避手続|対策と方法

目次

  1. 質問
  2. 回答
  3. 解説
  4. 関連事例集
  5. 参考条文

質問:

本日,私の私立中学3年生(15歳)の息子が警察に逮捕されてしまいました。逮捕容疑は,「先週,同じクラスの友人に対して,『お前はむかつくから,ぶっ殺してやる』等のメールを送信した上で,その翌日に,家にあった金槌を持ってその友人に見せた。」という脅迫の容疑と聞いています。事件の日に学校の先生に注意され,本人も素直に反省しているようでしたが,学校から警察に相談をした結果,逮捕に至ったようです。

警察の人からは,勾留されると10~20日程度留置されると聞いていますが,何とか回避することはできないでしょうか。また,今後息子に対する法律上の手続は,どのように進むのでしょうか。

回答:

1 息子さんは15歳ということですから、少年法が適用されます。但し、事件捜査の段階では,被疑者が少年の場合であっても,基本的には成人と同様に刑事訴訟法に基づいた手続に服することになります(少年法40条)。そのため息子さんは現在,刑事訴訟法にも続いて成人と同様に脅迫事件の被疑者として逮捕されたと考えられます。

一定の罪で逮捕された少年は,まずは成人の被疑者と同様に,逮捕後48時間以内に検察庁に送致され,検察官が少年を勾留するか否か決定します。勾留の期間は通常10日間であり,必要に応じて20日間まで延長することが可能です。

脅迫事件のように,釈放した場合に被害者に身の危険が及ぶことが想定される事件の場合,検察官は,被疑者が少年であっても,裁判所に対して勾留請求を行うのが通常です。

しかし,少年の勾留は「やむを得ない場合」であることが必要であり(少年法43条3項),特に中学生のような少年の中でも特に配慮が必要な被疑者であれば,弁護活動によっては,検察官による勾留請求の回避(又は裁判所による却下)を達成できる場合があります。不要な身体拘束を避ける為にも,速やかに弁護人を選任し,検察官等との交渉を行うことをお勧めします。

2 検察官が勾留請求を行わなかった場合には,直ちに釈放されることもありますが,少年の場合は事件がそのまま家庭裁判所に送致される場合も多く存在します。

事件が家庭裁判所に送致されると,成人の刑事事件とは異なり少年事件として処理されることになります(その為,弁護士の立場も「弁護人」から「付添人」となります)。

送致を受けた家庭裁判所では,最終的に少年審判をすべきか否かを決め、審判不開始、あるいは開始による審判をすることになりますが、その前に、まず少年を観護措置に付するかどうかを判断します(少年法17条)。観護措置とは,少年鑑別所において,少年の心身を保護しながら少年審判の為の調査を行う手続ですが,観護措置に付された場合,通常4週間の身体拘束が継続することになります。

実務上,逮捕を経て送致された少年については,基本的に観護措置に付されてしまうのが通常です(1時間程度の面接、書面審理で行われます。付添人が書面で反論しなければ裁判官は、ほとんどの場合送致書に記載された検察官の観護処置必要との意見と少年にとり不利益な証拠書類に従ってしまいます。当事者主義の見地から、一般的に、本件のような軽微な事件でも検察官の証拠は少年にとって不利益に記載されているのが通常です。)。それを回避する為には,事件が家庭裁判所に送致された後,弁護士が付添人として速やかに家庭裁判所の裁判官と面談し,観護措置が不相当であることを主張することになります(具体的な主張内容については下記解説をご参照下さい)。必要に応じて,保護者の方にも家庭裁判所に出頭をお願いすることもあります。

観護措置は,少年の保護の為の措置という意味合いも含む為,回避するためには迅速かつ相当な付添人活動が必要と言えます。

3 付添人活動の結果,家庭裁判所が観護措置を不要と判断すれば,少年の身柄が釈放され,自宅で通常の生活を送りながら,少年審判に向けた調査が継続されることになります。

少年審判に向けた活動については,別途事例集71613441591番等をご参照下さい。

4 以上のように、少年の刑事事件の場合,成人の場合と同様の勾留回避活動に加えて,家庭裁判所による観護措置の回避に向けた活動も必要となります。

しかもこれらの手続は通常逮捕翌日の一日の間に行われれる為,身体拘束を避ける為には,時間との勝負という側面も強く存在します。

その為,弁護士にも,短い時間で要点を踏まえた準備を行い,警察,検察庁,裁判所,その他の機関と迅速かつ詳細な協議を行うことが求められます。同種事件の取扱い経験の豊富な弁護士に,速やかに相談して下さい。

5 少年事件に関する関連事例集参照。

解説:

1 少年の刑事手続のおおよその流れ

(1)勾留請求の判断

息子さんは現在,脅迫事件の被疑者として逮捕され,刑事事件としての捜査を受けている段階です。

息子さんはまだ15歳ですので,法律上は,少年法の対象となる「少年」として扱われることになります(少年法2条)。しかし,事件捜査の段階では,被疑者が少年の場合であっても,基本的には成人と同様に刑事訴訟法に基づいた手続に服することになります(少年法40条)。

その為,逮捕された息子さんは,まず逮捕後48時間以内に検察庁に送致され,送致後24時間以内(逮捕時から通算して72時間以内に)に,検察官が,少年を勾留請求するか否か決定します(刑訴法203条,205条)。

勾留の期間は通常10日間ですが,多くの場合,追加で10日間の勾留延長が認められてしまうため,勾留請求が認められてしまうと,警察署での身体拘束が20日間以上継続することになってしまいます。

その為,まずは検察官の勾留請求を防ぐことが重要といえます。

通常,逮捕の翌日には検察官が勾留請求をするか判断することになるため,弁護活動には迅速さが強く求められる場面となります。これは時間との戦いです。早期身柄解放を求めるには、経験上複数の付添人が必要となる場合が多いでしょう。

(2)観護措置決定の判断

検察官が勾留請求を行わない場合,刑事訴訟法では、検察官は身柄の送致後24時間以内に被疑者を釈放しなければならないことになっていますが,被疑者が少年の場合は,釈放せずに事件と被疑者の身柄を身柄の送致後24時間以内に家庭裁判所に送致することが多くあります。

検察官から事件の送致を受けた家庭裁判所は,送致を受けたときから24時間以内に,少年を観護措置に付すか身柄の拘束を解くかを決定します(少年法17条2項)。観護措置とは,家庭裁判所が少年の心身を保護しながら少年審判の為の調査を行う手続ですが,基本的には少年の身柄を少年鑑別所に拘束して行うことになります(少年法17条)。観護措置の期間は,通常4週間とられることになりますので,その期間,少年の身体拘束が継続することになってしまいます。

家庭裁判所が少年を観護措置に付さなかった場合,少年の身体拘束は解かれ(実務上「一時帰宅」と言います。),家庭で生活しながら,家庭裁判所の調査を受けることになります。この場合,余程重要な余罪等が発覚しなければ,再び逮捕されたり,身体拘束を受けたりすることはありません。

(3)少年審判への手続

家庭裁判所は,調査の結果,少年審判を行うか否かを判断します。少年審判を行う場合は,審判によって,少年に対する処分の内容(保護観察処分,少年院送致等)を決定します。手続の流れについては,別途

少年事件のフローチャートhttps://www.shinginza.com/syounen4.pdf等もご参照ください。

以下では,上記の各手続の場面において,少年の身体拘束を回避するために,具体的にどのような活動が必要かを解説します。

2 勾留請求阻止の為の活動

(1)少年の勾留請求の要件

少年の身体拘束を回避するためには,まず検察官による勾留請求を阻止する必要があります。

具体的には,弁護人が検察官と面談をし,少年を勾留する為の法律上の要件が無いことを主張することになります。仮に検察官が勾留請求を行った場合には,勾留を判断する裁判官と面談をすることになります。

勾留の要件は,まず成人の場合と同じく勾留の理由(①住所不定,②罪証隠滅のおそれ,③逃亡のおそれ)及び勾留の必要性があることです(刑訴法60条)。

加えて少年の場合,勾留することが「やむをえない場合」であることが必要とされています(少年法48条,43条)。

法律上,「やむをえない場合」であることが必要とされている趣旨は,少年の心身に重大な悪影響を与える身体拘束処分を抑制することにあります。少年は,成人に比べて心身ともに未成熟であるため,たとえ一定の期間であっても,刑事施設に収容されることは,その心身の健全な発達を妨害する危険が大きいと言えます。その為,国際的な「こどもの権利条約」でも,「いかなる子どもも,不法に又は恣意的にその自由を奪われないこと。子どもの逮捕,抑留又は拘禁は,法律に従うものとし,最後の解決手段として,かつ最も短い適当な期間のみ用いること」とされています。加えて,日本の犯罪捜査規範でも,「少年の被疑者については,なるべく身柄の拘束を避け,やむを得ず,逮捕,連行又は護送する場合には,その時期及び方法について特に慎重な注意をしなければならない」と定めています(犯罪捜査規範208条)。

その為,上記「やむをえない場合」とは,相当な重大事件の場合や,非常に厳格に解されなければならず,少年を勾留しなければ捜査に重大な支障をきたす場合等に限られることになります。

それにも関わらず,実務上は成人の場合と同様の基準で勾留の是非が判断されているといっても過言では無く,弁護人等からの主張がなければ,非常に緩やかに勾留が認められてしまっているのが現状です。

その為,弁護人としても,この点の解釈については,必ず文書で強く検察官に主張する必要があります。

(2)弁護人からの主張の内容

ア 勾留請求回避

それでは,検察官による勾留請求又は裁判所による勾留決定を回避する為には,具体的にどのような準備が必要となるでしょうか。

本件のような脅迫事件の場合,検察官や裁判所として最も懸念するのが,釈放された被疑者が被害者へ接触することです。脅迫事件の場合,脅迫内容を実際に実行する危険がどうしても付きまとうため,「罪証隠滅」等を根拠にして勾留が認められてしまいやすいのが現状です。

その為,本人が被害者に接触する意思が無いことを,証拠を添付して示すことが必須と言えます。具体的には,本人の不接近誓約書や,親族の身元引受書を提出すると良いでしょう。特に少年事件の場合,本人の意思に加えて,親族による厳しい監督体制が整っていることは重要です。その為,少年本人が詳細な謝罪文を書く,親族の身元引受書の内容に「学校の送り迎えをする」「荷物のチェックをする」等の具体的な監督方法の誓約を添付する等の工夫をすべきでしょう。

また,必要に応じて,弁護士による身元保証も検討すべきです。弁護士という客観的第三者が書面で少年の監督を保証することにより,検察官や裁判官の罪証隠滅のおそれを払拭できることがありますので,具体的記載内容については弁護士と相談してみて下さい。

また,被害者との示談の具体的な準備を進めることも重要です。この点,弁護士の中には,少年事件における示談の重要性を否定する方もいますが,それは誤りです。少年事件であっても,被害結果の回復及びその試みは,罪質(非行事実)の悪質性や,当人の反省状況を判断する上で重要な事実となります。生じた被害弁償を行わないで、裁判所に反省の態度を理解してもらうことは不可能です。客観的な反省の態度の証明は、被害弁償、示談によって行われるといっても過言ではありません。示談は基本的に謝罪であり、頭を下げることです。この弁護活動は権利主張ではありませんから不得意な付添人もおります。この場合直ちに選手交代が必要です。

尚、示談に当事者、家族と同行させてはいけません。被害者と金銭の交渉がそのような状況では事実上できないからです。本人の謝罪は、相手方被害者が要求してから行いましょう。実務上、被害弁償の後、被害者が少年、家族の面会、謝罪を求めることはほとんどないのが現状です。謝罪文によりこれを補完します。

勾留請求の判断においても,罪証隠滅のおそれを判断する上では,示談の進行状況が重要な事実となります。示談金を準備して弁護人に預け入れている預かり証の作成等をすべきでしょう。被害弁償の予定という抽象的表現だけでは不十分です。結果的に弁償金を用意できない、被害の弁償の気持ちが変わったという場合も予想されますので検察官、裁判官の十分な理解を求めることができません。

また,通学先が私立学校の場合には,退学処分等への影響も看過することはできません。進級に関わる定期テストや受験等の予定があれば,それらも確認すべきです。また,少年に非行的や問題傾向が無いことの資料として,通知表等の資料も準備すべきです。

通常,当事者主義の見地から、これらの事情を検察官や裁判官が自主的に斟酌することは無いため,必ず弁護人から主張する必要があります。

その他の勾留請求,基本的には成人の場合と同様の対策をすることが当てはまります。弊所事例集16031641番等もご参照ください。

これらの具体的な主張を行えば,本件のような脅迫事件おいても,勾留請求が回避できる可能性は十分に存在します。

イ 身体拘束がやむを得ない場合の主張

万が一,少年の勾留請求が回避できない場合には,予備的な主張とし て,勾留場所を少年鑑別所にすることや,勾留に代わる観護措置を採ることを請求することも考えられます。

勾留の場所については,少年法において,少年の留置場所として少年鑑別所とすることができると定めていますが(少年法48条),実際には,成人の場合と同様に警察署の留置施設となることが殆どです。しかし,他の成人留置者と接することによる少年への悪影響は,看過しがたいものがあると言えます。その為,仮に勾留をされることが免れない場合でも,弁護人から,勾留場所を警察署では無くて鑑別所にすべきと主張した方が良い場合があります。

また,被疑者が少年の場合には,通常の勾留では無く,「勾留に代わる観護措置」という制度が設けられています(少年法43条1項)。勾留に代わる観護措置の場合,その期間を10日間以上に延長することができない等のメリットがあります。

実際上は,勾留に代わる観護措置が取られることは殆どありませんが,勾留がどうしても避けられない場合には,次善の策として主張すべき手続であると言えます。

(3)勾留判断以後の手続

ア 勾留されなかった場合

検察官が勾留請求をしなかった場合,検察官は,少年を釈放して在宅事件として捜査を継続するか,事件及び少年の身柄をそのまま家庭裁判所に送致することになります。

実際には,少年を逮捕している事件の場合,そのまま釈放されることは少なく,家庭裁判所に送致する取扱いの方が多く行われます。

なお,少年事件では全件送致主義が取られている為,在宅事件の場合でも,必ずいつかは家庭裁判所に事件が送致されることになります(少年法41条,42条)

イ 勾留決定がされた場合

検察官による勾留請求が為され,裁判所が勾留決定を下した場合,原則として10日間の身体拘束が行われることとなります。勾留の決定に対しては,成人の場合と同様に準抗告を申し立てることが可能です。

準抗告とは,裁判所の決定に不服を申し立て,別の裁判官に再度の判断を仰ぐ手続です。準抗告が認められれば,勾留の決定が破棄され,直ちに身柄が釈放されることになります。

また,仮に準抗告が通らなかった場合でも,準抗告申立が検察官に対するプレッシャーとなり,下記の勾留延長が回避できたり,事件が早期に家庭裁判所に送致されたりする場合も多くありますので,積極的に準抗告を検討すべきでしょう。

準抗告手続の詳細については,弊所の事例集1593番等をご参照ください。

準抗告が通らなかった場合には,勾留の延長を阻止する必要があります。通常,10日間の勾留期間が経過する直前に,検察官が再度10日間の勾留の延長を請求してしまいます。

勾留の延長を阻止する為には,最初の10日間で捜査を終結させるよう検察官と積極的に協議を行うことは勿論,その間に被害者との示談を成立させることがまず重要となります。

その為,弁護人としては,速やかに示談の準備を行い,被害者との交渉に着手することが必要です。

勾留延長がされなかった場合,検察官は事件を家庭裁判所に送致することになります。

3 観護措置を回避するための活動

(1)観護措置の手続

検察官から事件の送致を受けた家庭裁判所は,まず少年を観護措置に付するか否かを決定します。

観護措置とは,家庭裁判所が,少年の調査や,少年審判の準備を行う為に,家庭裁判所の調査官等が,各種テスト等を用いた科学的な検査や鑑定等を行う手続です(少年法17条1項)。基本的には少年の身柄を少年鑑別所に収容した上で行われる手続であり,その期間は,通常延長も含めて4週間の期間で運用されています(少同条3項)。その為,観護措置決定が出た場合には,少年の身柄が4週間程度拘束されてしまうことになります。

実務上,逮捕を経て送致された少年については,付添人が何も主張しなければ基本的に観護措置に付されてしまうのが通常です。

それを回避する為には,事件が家庭裁判所に送致された後,弁護士が付添人として速やかに家庭裁判所の裁判官と面談し,観護措置が不相当であることを主張することになります。

(2)付添人からの主張の内容

ア 手続の流れ

家庭裁判所は,検察官から直接身柄の送致を受けた少年については,24時間以内に観護措置を採るか否かの決定をする必要があります(少年法17条2項)。通常は,送致を受けてから数時間以内に家庭裁判所が観護措置の決定を出してしまうため,弁護士としては,家庭裁判所に事件が送致されたことを確認した後,速やかに家庭裁判所に対して面談を申入れ,観護措置回避の為の活動を行う必要があります。時間の関係上複数の付添人が必要になることが多いと思われます。

なお,事件が家庭裁判所に送致されると,通常の刑事事件ではなく少年事件としての取扱いになるため,弁護士が家庭裁判所で活動をするためには,別途「付添人」として選任される必要があります。

イ 観護措置の要件

(ア)観護措置の法律上の要件は,「審判を行うため必要があるとき」という抽象的な文言でしか定められていませんが,実務的には以下の要件が必要とされています。

①審判の条件があること

②少年が非行を犯したことを疑うに足りる相当な事情があること

③審判を行う蓋然性があること

④観護措置の必要性があること

この内,①の審判の条件については,法律上の問題であり,本件では問題となることは多くありません。また②についても,逮捕する以上一定の証拠があるのが通常ですので,争うことは難しいでしょう。③についても,「審判が行われないとはいえない」程度の広い蓋然性で足りるとされていますので,争いになることは多くありません。

その為,実際は,④観護措置の必要性の判断が主となります。

(イ) そして④観護措置の必要性の要件は,さらに以下の3点の何れかが存在することは必要と分類されています。

①ⅰ 調査,審判及び決定の執行を円滑確実に行うために,少年の身柄を確保する必要があること

②ⅱ 緊急的に少年の保護が必要であること

③ⅲ 少年を収容して心身鑑別を行う必要があること

この内,①ⅰの要件は,住居不定,罪証隠滅や逃亡のおそれがあることを意味するため,勾留の要件と基本的には同一の観点から審査されるといえます。

②ⅱの要件は,家族による虐待や,自傷のおそれがある場合,反社会勢力との関わりがある場合等,特殊な場合に問題となる要件です。

そして③ⅲの心身鑑別の必要については,あくまで少年の身体を拘束して外界から遮断し,継続的な行動観察を行わないと処遇選択ができない場合を意味します

その為,付添人からの主張も,上記の点に沿って行う必要があります。

ウ 具体的な主張の内容

上記要件を踏まえて,付添人弁護士としては,主に下記のような主張をすべきといえます。

まず,ⅰ①の要件との関係では,勾留請求阻止の際の主張及び活動内容が基本的に妥当します(上記2(2)ア参照)。

なお勾留の場合,拘束中に行われるのは,基本的に事件捜査が主となりますが,鑑別所での観護措置は,各種身体検査や心理テスト等も含まれます。その為,添付書類として提出する出頭誓約書等には,それらの調査活動にも積極的に協力する旨を書面上に明記する等,証拠化の工夫が必要です。また,拘束期間も勾留(最大20日間)に比べて長期(通常4週間)となりますので,その間の行事予定も含めて,身体拘束による不利益の大きさは重点的に主張すべきでしょう。

また,ⅲ③の心身鑑別の必要性については,在宅の調査でも鑑別が可能であること,鑑別所への収容は調査の利益と比較して不利益が大きくなることを重点的に主張することになります。

勾留阻止の点と重複しますが,主に家庭環境による悪影響が少ないことなどを客観的に主張する必要があります。

具体的には,両親,親族等できる限りの方に監督誓約書等の資料を作成してもらい,少年に適切な環境を提供する態勢が整っていることを積極的にアピールする必要があります。弁護士による身元保証も検討すべきでしょう。

また,可能であればれ,両親が家庭裁判所に出頭し,付添人と一緒に裁判官への面談を申し入れると良い場合もあります。

この点,刑事的な勾留の判断では,あくまで事件捜査の為の手続ですので,家族の行動はそこまで重視されるものでもありません。一方少年の観護措置の必要性の判断においては,少年を取り巻く生活環境というのが,重要な判断要素になってきますので,家族の態度というのも大きな意味を持つ場合があります。

実際には,裁判官は良くても付添人との面談にしか応じず,両親との面談を行うことは殆ど有りませんが,両親が家庭裁判所まで出頭して,裁判官の判断を待機しているという事実は,両親が熱意と責任を持って少年の監督を行う意思が固いことを示す一つの根拠となります。可能な限り,付添人弁護士の指示に従って下さい。

これらの手続を取れば,本件のような事案においても,観護措置決定が見送られる可能性は十分に見込まれます。

エ 以後の手続

(ア)観護措置決定がされた場合

観護措置決定がされた場合,少年の身体拘束を早期に解く為には,不服申立の手続をとることが考えられます。

具体的な方法としては,①異議申立て(少年法17条の2)又は②観護措置取消決定(少年法17条8項,少年審判規則21条)の上申が存在します。

まず①の異議申立てについては,法律上申立権のある手続であり,これを受けた家庭裁判所は,必ず合議体(3名の裁判官による会議)を開いて,観護措置の妥当性について判断する必要があります。

異議申立てでは,別の裁判官3人による際判断を仰ぐことができますので,観護措置が不適当と考えられる場合には,積極的に申立を検討すべきでしょう。

②観護措置取消決定については,法律上少年や付添人に請求する権利が認められた手続ではなく,あくまで裁判所が職権で行うものとされています(少年法17条8項)。しかし,少年審判規則21条では,「観護の措置は、その必要がなくなったときは、速やかに取り消さなければならない。」と規定されている以上,観護措置決定後に事情の変更があれば,付添人から積極的裁判所に対して決定取消の上申を行うべきです。

特に,被害者等の示談の成立(少年の身柄解放について被害者の上申書取得も不可欠です。)は,観護措置の必要性の判断にも大きな影響があるため,観護措置決定後に示談が成立した場合には積極的に裁判所にその旨の上申を行う必要があるでしょう。また,実務上は,受験等の重要な行事があれば,本来の観護措置期間を短縮するような形で取消が認められる場合もあります。

その為,付添人としては,事案の状況に応じて柔軟な対応が必要となります。

不服申立の詳細については,弊所事例集131413151336番等もご参照ください。

(イ)観護措置決定がされなかった場合

付添人活動の結果,家庭裁判所が観護措置を不要と判断すれば,少年の身柄は直ちに釈放されます。これを実務上は一時帰宅と呼びます。一時とついていますが,余程の事が無い限り再度逮捕されたり,後日観護措置の決定がされたりすることは余りありません。

自宅で通常の生活を送りながら,少年審判に向けた調査が継続されることになります。

4 少年審判について

事件が家裁に送致されると,以上の手続きが進行することになりますが、観護措置決定、一時帰宅のいずれにしても担当の調査官が決定され,事件及び少年の調査が進められることになります。

裁判所は,調査の結果,少年を審判に付す必要があると判断すれば,審判の開始決定をします(少年法21条)。審判の必要が無いと判断すれば,審判不開始の決定により,事件が終結します(19条1項)。

少年審判を行う場合は,審判の中で,少年への保護処分(保護観察処分,少年院送致等)を決定することになります。

審判で不当な処分が出ないためにも,付添人から,審判不開始或いは不処分の意見書を積極的に提出すべきです。

少年審判では,単に事件としての非行事実のみを判断するのではなく,少年の要保護性(再非行の危険や,矯正可能性,保護相当性等)に重点をおいた判断がなされます。

その為,事件後少年がどのように反省しているか,具体的にどのような活動をしているか等,事件後の事情を裁判所に示すことが重要となります。

付添人と相談しながら,少年の生活環境調整を行い,随時裁判所に対して書面で提出する必要があります。

5 まとめ

少年の刑事事件の場合,成人の場合と同様の勾留回避活動に加えて,家庭裁判所による観護措置の回避に向けた活動も必要となります。具体的には,少年や家族との接見を行った上で,検察官への勾留請求阻止,裁判官への勾留請求却下,家庭裁判所への観護措置決定回避の意見を述べる為の意見書や証拠書類の準備を迅速に行う必要があります。加えて,示談交渉等も並行して進めなければなりません。

しかもこれらの手続は通常逮捕翌日の一日の間に行われる為,身体拘束を避ける為には,時間との勝負という側面も強く存在します。

その為,弁護士にも,短い時間で要点を踏まえた準備を行い,警察,検察庁,裁判所,その他の機関と迅速かつ詳細な協議を行うことが求められます。

同種事件の取扱い経験の豊富な弁護士に,速やかに相談なさって下さい。

以上

関連事例集

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※参照条文

≪刑事訴訟法≫

第六十条 裁判所は、被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合で、左の各号の一にあたるときは、これを勾留することができる。

一 被告人が定まつた住居を有しないとき。

二 被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。

三 被告人が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき。

○2 勾留の期間は、公訴の提起があつた日から二箇月とする。特に継続の必要がある場合においては、具体的にその理由を附した決定で、一箇月ごとにこれを更新することができる。但し、第八十九条第一号、第三号、第四号又は第六号にあたる場合を除いては、更新は、一回に限るものとする。

○3 三十万円(刑法 、暴力行為等処罰に関する法律(大正十五年法律第六十号)及び経済関係罰則の整備に関する法律(昭和十九年法律第四号)の罪以外の罪については、当分の間、二万円)以下の罰金、拘留又は科料に当たる事件については、被告人が定まつた住居を有しない場合に限り、第一項の規定を適用する。

第二百三条 司法警察員は、逮捕状により被疑者を逮捕したとき、又は逮捕状により逮捕された被疑者を受け取つたときは、直ちに犯罪事実の要旨及び弁護人を選任することができる旨を告げた上、弁解の機会を与え、留置の必要がないと思料するときは直ちにこれを釈放し、留置の必要があると思料するときは被疑者が身体を拘束された時から四十八時間以内に書類及び証拠物とともにこれを検察官に送致する手続をしなければならない。

○2 前項の場合において、被疑者に弁護人の有無を尋ね、弁護人があるときは、弁護人を選任することができる旨は、これを告げることを要しない。

○3 司法警察員は、第三十七条の二第一項に規定する事件について第一項の規定により弁護人を選任することができる旨を告げるに当たつては、被疑者に対し、引き続き勾留を請求された場合において貧困その他の事由により自ら弁護人を選任することができないときは裁判官に対して弁護人の選任を請求することができる旨並びに裁判官に対して弁護人の選任を請求するには資力申告書を提出しなければならない旨及びその資力が基準額以上であるときは、あらかじめ、弁護士会(第三十七条の三第二項の規定により第三十一条の二第一項の申出をすべき弁護士会をいう。)に弁護人の選任の申出をしていなければならない旨を教示しなければならない。

○4 第一項の時間の制限内に送致の手続をしないときは、直ちに被疑者を釈放しなければならない。

第二百五条 検察官は、第二百三条の規定により送致された被疑者を受け取つたときは、弁解の機会を与え、留置の必要がないと思料するときは直ちにこれを釈放し、留置の必要があると思料するときは被疑者を受け取つた時から二十四時間以内に裁判官に被疑者の勾留を請求しなければならない。

○2 前項の時間の制限は、被疑者が身体を拘束された時から七十二時間を超えることができない。

○3 前二項の時間の制限内に公訴を提起したときは、勾留の請求をすることを要しない。

○4 第一項及び第二項の時間の制限内に勾留の請求又は公訴の提起をしないときは、直ちに被疑者を釈放しなければならない。

○5 前条第二項の規定は、検察官が、第三十七条の二第一項に規定する事件以外の事件について逮捕され、第二百三条の規定により同項に規定する事件について送致された被疑者に対し、第一項の規定により弁解の機会を与える場合についてこれを準用する。ただし、被疑者に弁護人があるときは、この限りでない。

≪少年法≫

(少年、成人、保護者)

第二条 この法律で「少年」とは、二十歳に満たない者をいい、「成人」とは、満二十歳以上の者をいう。

2 この法律で「保護者」とは、少年に対して法律上監護教育の義務ある者及び少年を現に監護する者をいう。

(観護の措置)

第十七条 家庭裁判所は、審判を行うため必要があるときは、決定をもつて、次に掲げる観護の措置をとることができる。

一 家庭裁判所調査官の観護に付すること。

二 少年鑑別所に送致すること。

2 同行された少年については、観護の措置は、遅くとも、到着のときから二十四時間以内に、これを行わなければならない。検察官又は司法警察員から勾留又は逮捕された少年の送致を受けたときも、同様である。

3 第一項第二号の措置においては、少年鑑別所に収容する期間は、二週間を超えることができない。ただし、特に継続の必要があるときは、決定をもつて、これを更新することができる。

4 前項ただし書の規定による更新は、一回を超えて行うことができない。ただし、第三条第一項第一号に掲げる少年に係る死刑、懲役又は禁錮に当たる罪の事件でその非行事実(犯行の動機、態様及び結果その他の当該犯罪に密接に関連する重要な事実を含む。以下同じ。)の認定に関し証人尋問、鑑定若しくは検証を行うことを決定したもの又はこれを行つたものについて、少年を収容しなければ審判に著しい支障が生じるおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある場合には、その更新は、更に二回を限度として、行うことができる。

5 第三項ただし書の規定にかかわらず、検察官から再び送致を受けた事件が先に第一項第二号の措置がとられ、又は勾留状が発せられた事件であるときは、収容の期間は、これを更新することができない。

6 裁判官が第四十三条第一項の請求により、第一項第一号の措置をとつた場合において、事件が家庭裁判所に送致されたときは、その措置は、これを第一項第一号の措置とみなす。

7 裁判官が第四十三条第一項の請求により第一項第二号の措置をとつた場合において、事件が家庭裁判所に送致されたときは、その措置は、これを第一項第二号の措置とみなす。この場合には、第三項の期間は、家庭裁判所が事件の送致を受けた日から、これを起算する。

8 観護の措置は、決定をもつて、これを取り消し、又は変更することができる。

9 第一項第二号の措置については、収容の期間は、通じて八週間を超えることができない。ただし、その収容の期間が通じて四週間を超えることとなる決定を行うときは、第四項ただし書に規定する事由がなければならない。

10 裁判長は、急速を要する場合には、第一項及び第八項の処分をし、又は合議体の構成員にこれをさせることができる。

(異議の申立て)

第十七条の二 少年、その法定代理人又は付添人は、前条第一項第二号又は第三項ただし書の決定に対して、保護事件の係属する家庭裁判所に異議の申立てをすることができる。ただし、付添人は、選任者である保護者の明示した意思に反して、異議の申立てをすることができない。

2 前項の異議の申立ては、審判に付すべき事由がないことを理由としてすることはできない。

3 第一項の異議の申立てについては、家庭裁判所は、合議体で決定をしなければならない。この場合において、その決定には、原決定に関与した裁判官は、関与することができない。

4 第三十二条の三、第三十三条及び第三十四条の規定は、第一項の異議の申立てがあつた場合について準用する。この場合において、第三十三条第二項中「取り消して、事件を原裁判所に差し戻し、又は他の家庭裁判所に移送しなければならない」とあるのは、「取り消し、必要があるときは、更に裁判をしなければならない」と読み替えるものとする。

(司法警察員の送致)

第四十一条 司法警察員は、少年の被疑事件について捜査を遂げた結果、罰金以下の刑にあたる犯罪の嫌疑があるものと思料するときは、これを家庭裁判所に送致しなければならない。犯罪の嫌疑がない場合でも、家庭裁判所の審判に付すべき事由があると思料するときは、同様である。

(検察官の送致)

第四十二条 検察官は、少年の被疑事件について捜査を遂げた結果、犯罪の嫌疑があるものと思料するときは、第四十五条第五号本文に規定する場合を除いて、これを家庭裁判所に送致しなければならない。犯罪の嫌疑がない場合でも、家庭裁判所の審判に付すべき事由があると思料するときは、同様である。

2 前項の場合においては、刑事訴訟法 の規定に基づく裁判官による被疑者についての弁護人の選任は、その効力を失う。

(勾留に代る措置)

第四十三条 検察官は、少年の被疑事件においては、裁判官に対して、勾留の請求に代え、第十七条第一項の措置を請求することができる。但し、第十七条第一項第一号の措置は、家庭裁判所の裁判官に対して、これを請求しなければならない。

2 前項の請求を受けた裁判官は、第十七条第一項の措置に関して、家庭裁判所と同一の権限を有する。

3 検察官は、少年の被疑事件においては、やむを得ない場合でなければ、裁判官に対して、勾留を請求することはできない。

(勾留)

第四十八条 勾留状は、やむを得ない場合でなければ、少年に対して、これを発することはできない。

2 少年を勾留する場合には、少年鑑別所にこれを拘禁することができる。

3 本人が満二十歳に達した後でも、引き続き前項の規定によることができる。

(取扱いの分離)

第四十九条 少年の被疑者又は被告人は、他の被疑者又は被告人と分離して、なるべく、その接触を避けなければならない。

2 少年に対する被告事件は、他の被告事件と関連する場合にも、審理に妨げない限り、その手続を分離しなければならない。

3 刑事施設、留置施設及び海上保安留置施設においては、少年(刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律 (平成十七年法律第五十号)第二条第四号 の受刑者(同条第八号 の未決拘禁者としての地位を有するものを除く。)を除く。)を成人と分離して収容しなければならない。

≪少年審判規則≫

第二十一条 観護の措置は、その必要がなくなつたときは、速やかに取り消さなければならな

い。

≪犯罪捜査規範≫

(身柄拘束に関する注意)

第二百八条 少年の被疑者については、なるべく身柄の拘束を避け、やむを得ず、逮捕、連行又は護送する場合には、その時期及び方法について特に慎重な注意をしなければならない。