新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1675、2016/02/29 17:10

【行政処分、運転免許取消処分、道路交通法違反】

スピード違反の事案における行政処分軽減交渉


質問:
 50キロのスピード違反で捕まってしまい、前の違反と合わせて違反点数が15点になってしまいました。免許の取消になると言われてしまったのですが、仕事上運転免許がないと大変困ってしまいます。なんとか運転免許の取消にならないようにはできないでしょうか。
スピード違反をしてしまった詳細は以下のとおりです。私は,飲料メーカーで営業の仕事をしている者です。先日,重要な取引先へ車で向かっているところ,交差点の無い直進の下り坂でスピード違反を犯してしまい,警察官に呼び止められました。警察官によると,丁度時速50kmの超過であったとのことです。
本件に至る経緯ですが,取引先へと向かう道路が普段よりも渋滞がひどく,アポイントに遅れそうになってしまったため,渋滞を抜けた後,ついスピードを出してしまったのです。違反を行った地点は,線路下を潜るために,丁度線路の下の短い区間の入り口だけ下り坂となり,直ぐに上り坂となる構造になっています。下り坂で加速し,上り坂ではすぐに減速しましたので,違反行為があったのはほんの数秒の間であった思います。なお,周辺に横断歩道や脇道・交差点はありませんでした。
私は,数年前に一度だけ免許停止処分を受けたことがありますが,1年間無事故・無違反で過ごしたために前歴はリセットされております。ただ,本件違反日の時点で既に3点加算されている状況でしたので,このままいくとスピード違反の12点が加算されて15点となり,免許取消しとなってしまいます。
仕事柄,ペットボトルや缶などの飲料を大量に運ぶ関係上,取引先に向かう時は必ず車で行きます。このような状況において免許取消しとなるのは非常に困ってしまいます。何とか免許停止に落とすことはできないでしょうか。

回答:
1 時速50km以上の速度超過の違反点数は12点です。累積点数が15点になると,何もしなければ免許取消しになってしまいます。

2 しかし,行政処分としての運転免許取消処分を回避する余地は残されております。
運転免許の効力の停止等の処分量定基準によると,「その者の運転者としての危険性がより低いと評価すべき特段の事情」が認められる場合,その処分を軽減することとされております。
  本件では,行為自体の危険性が同種違反行為の中では軽微な部類であることに加え,行為に至る動機に汲むべき事情が存在すること,取消処分が与える影響が重大であること等斟酌されるべき有利な事情が複数ございます。
  これに加え,贖罪寄付をして反省を示すことができれば,上記特段の事情が認められ,停止処分で済む可能性が出てきます。

3 上記各事情は,具体的には公安委員会からの呼び出しに応じて行われる意見聴取手続の中で主張することになります。十分な主張を行うためには,あらかじめ意見聴取の期日までに主張内容をまとめた弁明意見書を作成しておき,当日持参するのが望ましいといえます。そして,当該意見書には法的観点から主張を整理して書くことが必須ですので,万全を来たすためには弁護士との協議が必要でしょう。何も主張しなければ、違反点数の基準に従って運転免許取消処分が発令されてしまうことになります。

4 こういった案件で,実際に取消しを回避できたケースも多数存在すると思われます。ご自分で手続きができないようであれば、お近くの法律事務所にご相談いただければと思います。

5 関連事例集1579番1463番1462番1450番1303番1115番1085番1079番1042番等もご参照下さい。


解説:

第1 刑事処分について

1 速度超過の刑事罰と交通反則通告制度について

   速度超過に関しては、道路交通法118条1項2号,22条1項に定めがあり,6月以下の懲役又は10万円以下の罰金とされております。

   ただし,軽微な速度超過はいわば日常茶飯事に起きている事象であり,これら全てを刑事手続で処理するとなると,検察庁の業務が逼迫してしまうことになります。そのため,交通反則通告制度が導入されており,自動車またはバイクを運転中の軽微な交通違反(「反則行為」)につき,一定期日までに法律に定める反則金を納付した場合,その行為につき公訴提起しないことができるとされております。ここにいう「軽微な違反」とは、一時停止義務違反・駐車違反・時速30km未満(高速道路では時速40km未満)の速度超過等を指し,無免許運転や酒気帯び運転等の悪質な違反は含まれません。

 2 本件違反行為について

   本件違反行為は時速50kmの速度超過ですから,反則制度の対象外です。道路交通法118条1項2号,22条1項に基づき,刑事処罰の対象となります(6月以下の懲役又は10万円以下の罰金)。

   今後検察庁に事件が送致された後に,しかるべき刑罰を受けることになりますが,時速50km程度の単純な速度超過の場合,初犯であれば公判請求されずに罰金で終了する可能性が非常に高いといえます。しかし、刑事罰の他に免許の取消という行政処分がなされることになり、仕事上自動車の運転をする方にとっては重大な問題となります。

第2 行政処分について

 1 違反点数について

(1)点数制度の概要

   点数制度とは,自動車等の運転者の交通違反や交通事故に一定の点数を付けて,その過去3年間の累積点数等に応じて免許の停止や取消等の処分を行う制度です。

点数制度の主な内容は,

@一般違反行為(信号無視・放置駐車違反等)に付けられている基礎点数
A特定違反行為(酒酔い運転・ひき逃げ等)に付けられている基礎点数
B交通事故を起こした場合の付加点数
Cあて逃げ事故の場合の付加点数

からなっています。

そして、その最後の交通違反や交通事故の日を起算日として、過去3年間の累積点数が一定の基準に達した場合、運転免許の効力の停止や取消処分等の行政処分が行われます。

各違反行為の点数及び行政処分の内容については,警察庁のホームページをご参照下さい。

http://www.keishicho.metro.tokyo.jp/menkyo/menkyo/gyousei/tensuu.htm

http://www.keishicho.metro.tokyo.jp/menkyo/menkyo/gyousei/gyousei20.htm

なお,無事故・無違反の場合の優遇措置として,過去1年間に行政処分が1回もなかったような場合は,点数がリセットされます。また,過去2年間に無違反だった場合は,最初の違反に関しては3ヶ月で0点に戻る優遇処置があります。

  (2)本件について

本件は,行政処分の前歴がなく,一般違反行為によって違反点数が合計15点に達した場合ですので,原則としては免許取消処分が下されることになります。

 2 処分の軽減可能性について

(1)運転者としての危険性がより低いと評価すべき特段の事情

   しかし,諦める必要はございません。具体的な事情如何によっては,取消処分を回避できる可能性が残されております。

   警察庁の定める運転免許の効力の停止等の処分量定基準(警察庁丙運発第40号 平成25年11月13日)によれば,一般違反行為をした事を理由とする取消処分は,「その者の運転者としての危険性がより低いと評価すべき特段の事情」が認められる場合,その処分を軽減するとされています。

https://www.npa.go.jp/pdc/notification/koutuu/menkyo/menkyo20131113-1.pdf

   特段の事情の内容ですが,「運転免許の効力の停止等の処分量定の特例及び軽減の基準について」(警察庁丁運発第44号)第2の1によれば,処分軽減の具体的事情として,以下の事項を掲げています。ただし,これらの事項は一つの目安に過ぎず,有利に斟酌してもらえそうな事情は最大限主張すべきといえます。

https://www.npa.go.jp/pdc/notification/koutuu/menkyo/menkyo20090430-11.pdf


@交通事故の被害の程度又は不注意の程度のいずれか一方が軽微であり,かつ,その他にも危険性がより低いと評価すべき事情がある場合
A違反行為等の動機が,災害,急患往診,傷病人搬送その他やむを得ない事情によるものであり,かつ,危険性がより低いと認める場合
B違反行為等が他からの強制によるものであるなどやむを得ない事情によるものであり,危険性がより低いと認める場合
C被害者の年齢,健康状態等に特別な事情があるとき等同一原因の他の事故に比べて被害結果を重大ならしめる他の事由が介在した場合であって,その他にも危険性がより低いと評価すべき事情がある場合
D被害者が被処分者の家族又は親族であって,その他にも危険性がより低いと評価すべき事情がある場合
E前各号に掲げる場合のほか,危険性がより低いと評価すべき特段の事情があり,明らかに改善の可能性が期待できる場合

※なお,本件と異なり,飲酒運転やひき逃げといった悪質な違反行為の場合は,危険性が軽微とは決して言い難く,これらの違反の場合は取消処分の回避は現実的に不可能に近いという実情がございます。

  (2)本件で主張すべき特段の事情の内容について

   ア 違反行為による危険性が相対的に軽微であること

速度超過を行った地点の道路の構造は,下り坂で元々速度が上昇しやすい区間であったこと,短い下り坂の区間で加速し,上り坂となった瞬間に減速しているために,実際に時速50kmの速度超過が見られたのは一瞬であったこと,辺りに横断歩道や脇道・交差点はなく,歩行者や横から来る車との接触の危険性はなかったこと等の客観的状況から,速度超過による危険性が同種事案に比して相対的に低いことを主張し得るところです。

   イ 違反行為の動機に酌むべき事情が存在すること

     本件違反行為が,会社の重要な取引先に迷惑をかけないようにするとの意図で起きてしまったことは,処分にあたって斟酌されるべき事情といえます。

     なお,道路の混雑状況を加味して,ある程度時間に余裕を持って会社を出発したといえる場合,それでも間に合わない程の混雑状況であった点は酌むべき事情として考慮に値するといえるでしょう。また,タイムスケジュールを会社側が決定していたような場合,上司と相談して時間に余裕を持ったスケジュールに改めたといったアピールもできるところです。上司の上申書を用意する必要があります。

   ウ 取消処分による影響が過大であること

     取引先に行く際に大量の商品を持参する必要があるため,電車移動等による代替手段は存在しないこと,仮に免許取消処分を受けた場合,現在の仕事を継続できなくなり,配置転換等のおそれもあること等,過大な影響を受けることを主張すべきです。

   エ 贖罪寄付

     実務上,処分の軽減のために贖罪寄付を行うことが多くあります。
贖罪寄付とは,違反行為をしてしまった事に対する反省と贖罪の意思を示すために,弁護士会や交通遺児育英会等の公的な団体に対して寄付をすることをいいます。

     贖罪寄付をすれば必ず免許取り消しにならないとは断言できませんが、処分決定に際して有利に考慮されるのは間違いありませんので,経済的余裕があればやっておくべきでしょう。

     金額については高額なほど良いと言えますが、本件のような単純なスピード違反の事案では,最低10万円程度の寄付が必要で足りると思われます。

  (3)小括

同種事案と比較して,本件は特段の事情が認められて取消処分を回避できる可能性がある程度高い事案と思われます。

3 意見聴取手続の流れと弁護士を入れるメリット

(1)意見聴取手続の流れ

運転免許取消処分といった不利益処分を課す場合,意見陳述のための手続を与えなければならないとされております(行政手続法13条1項)。これを受け,道路交通法104条は,運転免許に関する不利益処分をしようとする場合の意見聴取手続について定めており,細則については,「道路交通法の規定に基づく意見の聴取及び弁明の機会の付与に関する規則」によって規定されております。

意見聴取手続きにおいては,補佐人の出頭が認められており(同規則第6条)。本人に代わって意見を述べたり証拠を提出したりすることができます。有利な事情を口頭で主張するだけでなく、それぞれの主張を裏付ける証拠書類を用意して提出することが大切です。

(2)弁護士を入れるメリット

意見聴取手続の運用の実態としては,複数の処分対象者を一つの部屋にまとめて聴取手続が行われることが多いです。1人あたりの持ち時間も必然的に短くなります。そのため,当日に全ての主張を口頭で伝えるのは現実的ではありません。意見聴取の期日までに主張内容をまとめた弁明意見書を作成しておき,当日持参して渡すのが望ましいといえます。

この点,十分な弁明を行うためには,事実関係を整理した上で,当該事実を法的観点から評価して伝える必要がございます。そういった意味では,法律のプロである弁護士との協議が不可欠と思います。処分の軽減お場合、別室に呼び出され詳細な説明を求められますので、不安な場合事前に依頼した弁護士の同席を求めることもできます。

4 補足(事後的に処分を争う方法について)

なお,ご相談のケースとは異なり,既に取消処分が出てしまっている場合,事後的に異議申立て(行政不服審査法第1条第2項)や取消訴訟(行政事件訴訟法第8条)で争うことができる仕組みとなっております。

ただし,一般論として,一度行政処分が出てしまった後に当該処分を事後的に争うのは非常に困難とされており,処分が出る前に軽減に向けた活動を最大限行うのが懸命な判断かと思われます。

第3 まとめ

   以上述べてきたとおり,本件違反行為は50キロも制限速度をオーバーしており危険性が高いと言えますが、飲酒運転やひき逃げなどと比較すると悪質な違反ではなく,「運転者としての危険性がより低いと評価すべき特段の事情」として主張し得る事情も複数ありますので,十分に取消処分を回避できる可能性がございます。お仕事の関係上,取消処分は何としても回避したいとのご意向を有しておられますので,万全を来すためにはお近くの弁護士に保佐人を依頼するか、必ず事前相談して対応してください。

以上



【参照条文】

道路交通法
(最高速度)

第二十二条  車両は、道路標識等によりその最高速度が指定されている道路においてはその最高速度を、その他の道路においては政令で定める最高速度をこえる速度で進行してはならない。
2 省略
(免許の取消し、停止等)

第百三条  免許(仮免許を除く。以下第百六条までにおいて同じ。)を受けた者が次の各号のいずれかに該当することとなつたときは、その者が当該各号のいずれかに該当することとなつた時におけるその者の住所地を管轄する公安委員会は、政令で定める基準に従い、その者の免許を取り消し、又は六月を超えない範囲内で期間を定めて免許の効力を停止することができる。ただし、第五号に該当する者が前条の規定の適用を受ける者であるときは、当該処分は、その者が同条に規定する講習を受けないで同条の期間を経過した後でなければ、することができない。
五  自動車等の運転に関しこの法律若しくはこの法律に基づく命令の規定又はこの法律の規定に基づく処分に違反したとき(次項第一号から第四号までのいずれかに該当する場合を除く。)。

(意見の聴取)

第百四条  公安委員会は、第百三条第一項第五号の規定により免許を取り消し、若しくは免許の効力を九十日(公安委員会が九十日を超えない範囲内においてこれと異なる期間を定めたときは、その期間。次条第一項において同じ。)以上停止しようとするとき、第百三条第二項第一号から第四号までのいずれかの規定により免許を取り消そうとするとき、又は同条第三項(同条第五項において準用する場合を含む。)の処分移送通知書(同条第一項第五号又は第二項第一号から第四号までのいずれかに係るものに限る。)の送付を受けたときは、公開による意見の聴取を行わなければならない。この場合において、公安委員会は、意見の聴取の期日の一週間前までに、当該処分に係る者に対し、処分をしようとする理由並びに意見の聴取の期日及び場所を通知し、かつ、意見の聴取の期日及び場所を公示しなければならない。
2  意見の聴取に際しては、当該処分に係る者又はその代理人は、当該事案について意見を述べ、かつ、有利な証拠を提出することができる。
3  意見の聴取を行う場合において、必要があると認めるときは、公安委員会は、道路交通に関する事項に関し専門的知識を有する参考人又は当該事案の関係人の出頭を求め、これらの者からその意見又は事情を聴くことができる。
4  公安委員会は、当該処分に係る者又はその代理人が正当な理由がなくて出頭しないとき、又は当該処分に係る者の所在が不明であるため第一項の通知をすることができず、かつ、同項後段の規定による公示をした日から三十日を経過してもその者の所在が判明しないときは、同項の規定にかかわらず、意見の聴取を行わないで第百三条第一項若しくは第四項の規定による免許の取消し若しくは効力の停止(同条第一項第五号に係るものに限る。)又は同条第二項若しくは第四項の規定による免許の取消し(同条第二項第一号から第四号までのいずれかに係るものに限る。)をすることができる。
5  前各項に定めるもののほか、意見の聴取の実施について必要な事項は、政令で定める。

第百十八条  次の各号のいずれかに該当する者は、六月以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。
一  第二十二条(最高速度)の規定の違反となるような行為をした者


道路交通法の規定に基づく意見の聴取及び弁明の機会の付与に関する規則
(補佐人)
第六条  行政庁は、当事者又はその代理人が意見の聴取の期日に補佐人を出頭させようとするときは、意見の聴取の期日までに、補佐人の氏名、住所、当事者又はその代理人との関係及び補佐する事項を記載した書面を提出させるものとする。ただし、当事者又はその代理人が第十一条第二項の規定により告知された意見の聴取の期日に次項の規定により既に許可を受けている補佐人であって、当該許可に係る事項につき補佐するものを出頭させようとするときは、この限りでない。
2  行政庁は、前項の書面の提出があった場合において、意見の聴取の期日に補佐人を出頭させる必要があると認めるときは、当該補佐人の出頭を許可するものとする。
3  行政庁は、前項の許可をしたときは、速やかに、その旨を第一項の書面を提出した当事者又はその代理人に対し通知するものとする。
4  補佐人の陳述は、当事者又はその代理人が直ちに取り消さないときは、当該当事者又はその代理人が自ら陳述したものとみなす。

(弁明の方式)
第十四条  弁明は、法の規定により弁明を記載した書面(以下「弁明書」という。)を提出してすることとされているとき及び行政庁が弁明書をあらかじめ定める提出期限までに提出してすることを認めたときを除き、口頭でするものとする。
2  行政庁は、当事者又はその代理人が口頭による弁明をするときは、その指名する警察職員に弁明を録取させなければならない。
3  前項の規定により弁明を録取する者(次条において「弁明録取者」という。)は、弁明の日時の冒頭において、予定される処分又は仮停止等若しくは仮禁止の内容及び根拠となる法令の条項並びにその原因となる事実を当事者又はその代理人に対し説明しなければならない。

法律相談事例集データベースのページに戻る

法律相談ページに戻る(電話03−3248−5791で簡単な無料法律相談を受付しております)

トップページに戻る