緊急措置入院の解除に向けた対策

行政|緊急措置入院の要件と解除のための活動|措置入院となった場合の不服申し立てと取消訴訟

目次

  1. 質問
  2. 回答
  3. 解説
  4. 関連事例集
  5. 参照条文
  6. 無料法律相談

質問

私には中学二年生になる一人息子がいます。ただ精神的に幼いところがあり、アニメやネットサーフィンが好きです。引きこもり気味で学校を休むことも多いです。

ある日気分転換に散歩に行くとのことで外出し、なかなか戻ってこないので保護願いを出したところ、無事一人で帰ってきました。警察が確認に来たところ、本人が興奮してしまい、アニメの影響だと思うのですが「俺は二重人格だ。別の人格が出ていた。警察にも何をするか分からないぞ。」と咄嗟の言葉を話しました。この発言に警察の人が驚き、「危険性があるのでとりあえず入院してください。」と言われ、警察署まで連れて行かれました。

その後はとんとん拍子に警察署から病院に行ったのですが、危険性がないこと経緯を話したにもかかわらず緊急措置入院となってしまいました。息子はこのように幼いところがありますが、暴れたりすること病気ではありません。

今後息子はどうなってしまうのでしょうか。何とか措置入院を解除することはできないのでしょうか。

回答

1 息子さんは緊急措置入院の手続がとられてしまったとのことで、強制的に72時間入院させられ、その間に処分権限者である都道府県知事が通常の「措置入院」をとるかの判断をすることになります。

2 今後そのまま措置入院へ移行してしまう可能性が高いので、判断が出る前の段階で、都道府県知事に対して、措置入院をしないように上申することが考えられます。それにもかかわらず措置入院となってしまった場合には、措置入院の解除を上申する方法があります。

3 その他、措置入院というこうした行政処分に対する不服申立としての審査請求を申し立てる方法が有効といえます。また、最終的な手段としては措置入院の処分に対する取消訴訟を提起することも考えられますが、事案の性質上、措置入院の処分がなされないようにするそれ以前の活動で最善を尽くすべきです。お近くの弁護士事務所に早急に相談されることをお勧めします。

4 その他本件に関連する事例集はこちらをご覧ください。

解説

第1 緊急措置入院について

1 まず本件は緊急措置入院がとられているということですが、緊急措置入院とは都道府県知事が、措置入院の要件を満たすと判断した者に対して、緊急のため措置入院の手続きをとることができない場合に指定医一人の判断で精神障害やその疑いがある者に対して急速を要する場合で自傷他害のおそれが著しいと認めたときに、強制的に入院させることができる手続です(精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(以下、単に「法」といいます。)第29条の2第1項)。

こうした緊急措置入院は、措置入院をさせるかを判断させるためのまさに「緊急」のための制度であり、後述する通常の措置入院と比べるとさらに人権に対する侵害のおそれが高い手続といえます。すなわち、通常の措置入院の手続においては、①都道府県知事が指定した2名以上の指定医が診察すること、②診察に都道府県等の職員が立ち会うこと(法27条3項)、③家族等の「本人の保護の任に当たっている者」に通知をすること(立会いも可、法28条)が要求されています。

しかし、都道府県知事が措置入院の要件に該当する(またはその疑いのある)者について、急を要する場合には上記の手続を経なくとも指定医一人の診察の結果、精神障害者で自傷他害のおそれが「著しい」と診察することを要件に強制的に緊急措置入院をさせることができる建前になっているのです(法29条の2第1項)。これを受けて、厚生労働省が告示している「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第28条の2の規定に基づき厚生労働大臣が定める基準 」内においても緊急措置入院ができる場合を「診察を実施した者について、第1の表に示した病状又は状態像により、自傷行為又は他害行為を引き起こすおそれが著しいと認めた場合」と限定的に定めています。なお、かかる緊急措置入院は72時間という時間制限があり、都道府県知事はその間に通常の措置入院をとるかの決定をすることになります(法29条の2第2項、3項)。

このように特に緊急措置入院においては、本人及び保護者に対する手続保障が十分でないことから、厳格な要件が定められているにもかかわらず、現実においてはやはり緩やかに運用されてしまっているようです。特に、本件では息子さんが確認した警察の面前で興奮のあまり二重人格を疑わせるような発言をしてしまったことが大きく、指定医も警察官の言い分に沿った診断をしてしまった可能性が高いといわざるを得ないのです。(事前に捜査機関が、指定医と面会して要件に該当する証拠等資料を交付する手続きになっています。)

2 では、そもそも措置入院がとられてしまうのはどういった場合なのでしょうか。ここで、措置入院とは、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(以下、単に「法」といいます。)第29条で定められている制度で、都道府県知事の判断で、医師2名以上の診察を受けた者が精神障害者であり、かつ、医療及び保護のために入院させなければその精神障害のために自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれ(自傷他害のおそれ)があるときに、精神科病院や指定病院に強制的に入院させることをいいます。

かかる措置入院の要件は①「精神障害者」でありかつ②「自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれ」があることです(法29条1項)。このうち、②の自傷他害のおそれの有無が一番のポイントになってきます。一般的に、処置入院は、刑事手続よりも簡単に身柄を拘束しますので、人身の自由(憲法18条、31条乃至40条)という観点から実害(例えば傷害、暴行の結果)が発生しているか、発生していると同程度の事態(未遂程度)が必要になるものと思われます。さらに、同種の前科前歴、行動等が求められるでしょう。手続的には警察官等が入院させなければ自傷他害のおそれがある精神障害者を発見した場合、保健所長を経由して都道府県知事へ連絡することになります。

通報・申請についても条文で定められており、以下のとおりです。

①一般人による通報(法22条1項)

②通報義務者
ア 警察官(警察官職務執行法により保護した場合、法23条)
イ 検察官(精神障害者又はその疑いで不起訴処分にした場合、法24条1項)
ウ 保護観察所長・矯正施設所長(法25条、26条)

③精神科病院管理者の届出義務(措置入院以外の患者から退院請求があり、その患者が前記の要件に該当すると認められる場合、法26条の2)

以上の通報に基づき、都道府県知事は措置入院の必要性について、指定した2名以上の精神保健指定医の診断の結果が一致した場合は、厚生労働大臣の定める基準にしたがって、国または都道府県立病院及び指定病院へ、行政処分としての措置入院をさせることができることになります。そして、措置入院の場合は知事名での書面「措置入院の決定のお知らせ」によって告知されることになります。

なお、自傷他害の判断については法28条の2において厚生労働大臣の定める基準にしたがって判定を行わなければならないとされており、上記厚生労働大臣が定める基準とは、前述した「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第28条の2の規定に基づき厚生労働大臣が定める基準 」が厚生労働省告示として定めています。

かかる基準によれば、まず自傷他害については「自殺企図等、自己の生命、身体を害する行為(以下「自傷行為」という。)又は殺人、傷害、暴行、性的問題行動、侮辱、器物破損、強盗、恐喝、窃盗、詐欺、放火、弄火等他の者の生命、身体、貞操、名誉、財産等又は社会的法益等に害を及ぼす行為(以下「他害行為」といい、原則として刑罰法令に触れる程度の行為をいう。)を引き起こすおそれがあると認めた場合」のことをいうとされています。すなわちほとんどの粗暴行為が対象となります。

さらに、上記が「精神障害のため」といえるために表で病状や上記のおそれの認定事項が定められているのです。本件の息子さんのようなケースにおいては興奮の上、二重人格を疑わせるような発言を咄嗟にしてしまっていることから、たとえば「精神運動興奮状態」に該当する場合には、「欲動や意思の昂進又は抑制の減弱がみられ、これに思考の滅裂傾向を伴うことがしばしばあることから、このような病状又は状態像にある精神障害者は、多動興奮状態に陥りやすい結果、突発的に自傷行為又は他害行為を行うことがある。精神分裂病圏、中毒性精神障害、躁うつ病圏、心因性精神障害、症状性又は器質性精神障害等」という規定に該当すると判断されてしまう可能性が高いと思われます。特に本件では、要件が厳格であるはずの緊急措置入院においてすら認められてしまっている状況ですから、何も争わなければそのまま措置入院に移行してしまう可能性が極めて高いでしょう。

第2 緊急措置入院を争う方法

1 都道府県知事に対する措置入院回避の働きかけ

現在は緊急措置入院を受けている段階であるところ、前述のように都道府県知事は72時間の時間制限の間に通常の措置入院をとるかの決定をすることになります。緊急措置入院の手続き自体を違法なものとして争い、直ちに退院させるよう要求することが第一ですが、時間的な制約もあり現実的にはそうであるとすれば、まず知事に対して、措置入院の要件を満たさないとして、緊急措置入院後に措置入院をとらないよう上申することが考えられます。

具体的な主張内容としては、やはりそもそも息子さんは措置入院のための要件を満たさないことを詳細に主張すべきでしょう。特に問題となっている二重人格を疑わせるような発言については思春期特有の性質であることがうかがえ、その点を警察官が良く確認することすらせず通報に及んでいる疑いがあります。ましてや緊急措置入院の場合には自傷他害について「著しい」おそれが必要なのですから、こうした言葉の一端のみ捉えて厳格な要件を満たすとはいえないことを主張していくことになります。本件では、前科前歴等もないのであれば実害が発生しておらず要件を満たさないように思われます。

また、措置入院の要件となる指定医の診察の際、保護者あるいは弁護士の立ち会いを求め、措置入院の要件である、精神障害者ではないこと、また危険性がないことを説明する必要があります。ご本人は中学2年生ですし、また精神的に未成熟ということですから自ら措置入院の必要がないことを説明することは困難です。保護者や弁護士が立ち会って、措置入いの必要がないことを詳細に説明する必要があります。このように、精神学的観点のみならず、社会的・法的観点も踏まえた専門的な主張が必要であり、時間の制限もあることから弁護士に依頼するなど早急な対応が必要となります。

2 措置入院の解除

上記の活動が功を奏さず措置入院の決定が出た場合の退院の方法としては「措置入院の解除」という手続きがありますは存在します。すなわち、都道府県知事は、措置入院者について入院を継続しなくても自傷他害のおそれがないと認めるに至ったときは、直ちにその者を退院させなければならないとされています(法29条の4第1項本文)。ただし、措置入院の解除について申立権等があるわけではないため、解除するか否かについての意見を聞くとされている精神科病院又は指定病院の管理者(法29条の4第1項ただし書)に対して、解除措置をするよう働きかけてこれを促すことになると思われます。意見書を作成し、日頃の行動、前科前歴等詳細に説明することが必要です。

3 不服申立について

以上の法に基づく解除も認められない場合には解除とは別に、都道府県知事が下した(緊急)措置入院に対して、不服申立をすることが考えられます。すなわち、行政不服審査法(以下、「行服法」といいます。)2条によれば、「行政庁の処分に不服のある者は、・・・審査請求をすることができる。」と定めています。不服申立の対象となる「処分」については「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」(行服法1条2項)と定義されており、措置入院のような事実上の行為も含まれます(なお措置入院が「処分」であることを前提とした裁判例として鹿児島地判昭和54年10月26日があります。)。

ところで、行政不服審査法は平成26年(2014年)に全部改正されており、改正前にあった「異議申立て」については廃止され不服申立類型が「審査請求」に一元化されています。したがって、現在においては措置入院に対する不服申立は、処分庁である都道府県知事に対して「審査請求」をすることになります(この点について弊所の参考事例集1418の記載が古くなっており、訂正します。)。また、申立てが可能な主観的審査請求期間は「処分があったことを知った日の翌日から起算して三月」(行服法18条1項)となりました(改正前はこの期間が60日でしたので、この点の権利保護については厚くなったといえます。)。

その他、改正行政不服審査法においては新たに審理員の制度及び行政不服審査会等への諮問の制度が設けられました。審理員は処分に関与した職員を除く職員に不服申立の審理を主宰させる制度で、処分に関与した職員が審理にかかわることを可能としていた改正前に比べて公正性の確保が図られているといえます。また、行政不服審査会は、諮問を不要とする例外的事由に該当する場合を除き、審査庁から諮問を受け答申する機関であり、審理員・審査庁が行う一次的判断に対する二次的判断をすることになります。この制度も申立人の権利利益保護に資する新たな制度といえます。

改正前においては、簡易迅速の要請から不服申立てについての手続が形骸化している面も否定できませんでした。しかし、法改正がされ上記のような手続面での審理の充実化からは、後述するような取消訴訟のような抗告訴訟提起の前に、弁護士を入れて審査請求を申し立てることにより、実質的に都道府県知事に再考を促すことも十分に有効な手段といいうるでしょう(申立て費用がかからないのもメリットといえます)。

審査請求の審理は原則として書面中心主義です。そして、審査請求の審理の対象は当該処分の違法不当一般であり、前記1で述べたような本件息子さんが措置入院の要件にそもそも該当しないことを詳細に書面で主張しつつ、口頭意見陳述の機会(行服法31条1項)も求めていくことになるでしょう。

4 取消訴訟について

3までの手段が奏功しない場合には、最終的には抗告訴訟としての取消訴訟を提起することになります(行政事件訴訟法3条2項)。この場合措置入院は同条項の「処分」にあたることを前提とした前掲鹿児島地判昭和54年10月26日の裁判例がありますので、訴訟要件が争いになることはないと考えられます。

取消訴訟の場合は訴訟ですので、裁判所に判断してもらえるという点でもっとも公正性・手続保障に優れた手続とはいえます。しかし、やはり裁判費用がかかるということと審理に時間がかかること、行政処分については裁量権の逸脱があって初めて取り消しが認められること点から、特に本件のような急を要する場合には、それ以前、すなわち措置入院の処分が出前の段階で主張を尽くし、措置入院を阻止する解除してもらう必要があるでしょう。一刻も早くお近くの弁護士への相談をお勧めします。

以上

関連事例集

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参照条文
精神保健及び精神障害者福祉に関する法律

(診察及び保護の申請)
第二十三条 精神障害者又はその疑いのある者を知つた者は、誰でも、その者について指定医の診察及び必要な保護を都道府県知事に申請することができる。
2 前項の申請をするには、左の事項を記載した申請書をもよりの保健所長を経て都道府県知事に提出しなければならない。
一 申請者の住所、氏名及び生年月日
二 本人の現在場所、居住地、氏名、性別及び生年月日
三 症状の概要
四 現に本人の保護の任に当つている者があるときはその者の住所及び氏名

(警察官の通報)
第二十四条 警察官は、職務を執行するに当たり、異常な挙動その他周囲の事情から判断して、精神障害のために自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれがあると認められる者を発見したときは、直ちに、その旨を、もよりの保健所長を経て都道府県知事に通報しなければならない。

(検察官の通報)
第二十五条 検察官は、精神障害者又はその疑いのある被疑者又は被告人について、不起訴処分をしたとき、又は裁判(懲役、禁錮又は拘留の刑を言い渡し執行猶予の言渡しをしない裁判を除く。)が確定したときは、速やかに、その旨を都道府県知事に通報しなければならない。ただし、当該不起訴処分をされ、又は裁判を受けた者について、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律 (平成十五年法律第百十号)第三十三条第一項 の申立てをしたときは、この限りでない。
2 検察官は、前項本文に規定する場合のほか、精神障害者若しくはその疑いのある被疑者若しくは被告人又は心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律 の対象者(同法第二条第三項 に規定する対象者をいう。第二十六条の三及び第四十四条第一項において同じ。)について、特に必要があると認めたときは、速やかに、都道府県知事に通報しなければならない。

(保護観察所の長の通報)
第二十五条の二 保護観察所の長は、保護観察に付されている者が精神障害者又はその疑いのある者であることを知つたときは、すみやかに、その旨を都道府県知事に通報しなければならない。

(矯正施設の長の通報)
第二十六条 矯正施設(拘置所、刑務所、少年刑務所、少年院、少年鑑別所及び婦人補導院をいう。以下同じ。)の長は、精神障害者又はその疑のある収容者を釈放、退院又は退所させようとするときは、あらかじめ、左の事項を本人の帰住地(帰住地がない場合は当該矯正施設の所在地)の都道府県知事に通報しなければならない。
一 本人の帰住地、氏名、性別及び生年月日
二 症状の概要
三 釈放、退院又は退所の年月日
四 引取人の住所及び氏名

(精神科病院の管理者の届出)
第二十六条の二 精神科病院の管理者は、入院中の精神障害者であつて、第二十九条第一項の要件に該当すると認められるものから退院の申出があつたときは、直ちに、その旨を、最寄りの保健所長を経て都道府県知事に届け出なければならない。

(心神喪失等の状態で重大な他害行為を行つた者に係る通報)
第二十六条の三 心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律第二条第六項 に規定する指定通院医療機関の管理者及び保護観察所の長は、同法 の対象者であつて同条第五項 に規定する指定入院医療機関に入院していないものがその精神障害のために自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれがあると認めたときは、直ちに、その旨を、最寄りの保健所長を経て都道府県知事に通報しなければならない。

(申請等に基づき行われる指定医の診察等)
第二十七条 都道府県知事は、第二十三条から前条までの規定による申請、通報又は届出のあつた者について調査の上必要があると認めるときは、その指定する指定医をして診察をさせなければならない。
2 都道府県知事は、入院させなければ精神障害のために自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれがあることが明らかである者については、第二十三条から前条までの規定による申請、通報又は届出がない場合においても、その指定する指定医をして診察をさせることができる。
3 都道府県知事は、前二項の規定により診察をさせる場合には、当該職員を立ち会わせなければならない。
4 指定医及び前項の当該職員は、前三項の職務を行うに当たつて必要な限度においてその者の居住する場所へ立ち入ることができる。
5 第十九条の六の十六第二項及び第三項の規定は、前項の規定による立入りについて準用する。この場合において、同条第二項中「前項」とあるのは「第二十七条第四項」と、「当該職員」とあるのは「指定医及び当該職員」と、同条第三項中「第一項」とあるのは「第二十七条第四項」と読み替えるものとする。

(診察の通知)
第二十八条 都道府県知事は、前条第一項の規定により診察をさせるに当つて現に本人の保護の任に当つている者がある場合には、あらかじめ、診察の日時及び場所をその者に通知しなければならない。
2 後見人又は保佐人、親権を行う者、配偶者その他現に本人の保護の任に当たつている者は、前条第一項の診察に立ち会うことができる。

(判定の基準)
第二十八条の二 第二十七条第一項又は第二項の規定により診察をした指定医は、厚生労働大臣の定める基準に従い、当該診察をした者が精神障害者であり、かつ、医療及び保護のために入院させなければその精神障害のために自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれがあるかどうかの判定を行わなければならない。

(都道府県知事による入院措置)
第二十九条 都道府県知事は、第二十七条の規定による診察の結果、その診察を受けた者が精神障害者であり、かつ、医療及び保護のために入院させなければその精神障害のために自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれがあると認めたときは、その者を国等の設置した精神科病院又は指定病院に入院させることができる。
2 前項の場合において都道府県知事がその者を入院させるには、その指定する二人以上の指定医の診察を経て、その者が精神障害者であり、かつ、医療及び保護のために入院させなければその精神障害のために自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれがあると認めることについて、各指定医の診察の結果が一致した場合でなければならない。
3 都道府県知事は、第一項の規定による措置を採る場合においては、当該精神障害者に対し、当該入院措置を採る旨、第三十八条の四の規定による退院等の請求に関することその他厚生労働省令で定める事項を書面で知らせなければならない。
4 国等の設置した精神科病院及び指定病院の管理者は、病床(病院の一部について第十九条の八の指定を受けている指定病院にあつてはその指定に係る病床)に既に第一項又は次条第一項の規定により入院をさせた者がいるため余裕がない場合のほかは、第一項の精神障害者を入院させなければならない。
第二十九条の二 都道府県知事は、前条第一項の要件に該当すると認められる精神障害者又はその疑いのある者について、急速を要し、第二十七条、第二十八条及び前条の規定による手続を採ることができない場合において、その指定する指定医をして診察をさせた結果、その者が精神障害者であり、かつ、直ちに入院させなければその精神障害のために自身を傷つけ又は他人を害するおそれが著しいと認めたときは、その者を前条第一項に規定する精神科病院又は指定病院に入院させることができる。
2 都道府県知事は、前項の措置をとつたときは、すみやかに、その者につき、前条第一項の規定による入院措置をとるかどうかを決定しなければならない。
3 第一項の規定による入院の期間は、七十二時間を超えることができない。
4 第二十七条第四項及び第五項並びに第二十八条の二の規定は第一項の規定による診察について、前条第三項の規定は第一項の規定による措置を採る場合について、同条第四項の規定は第一項の規定により入院する者の入院について準用する。

第二十九条の二の二 都道府県知事は、第二十九条第一項又は前条第一項の規定による入院措置を採ろうとする精神障害者を、当該入院措置に係る病院に移送しなければならない。
2 都道府県知事は、前項の規定により移送を行う場合においては、当該精神障害者に対し、当該移送を行う旨その他厚生労働省令で定める事項を書面で知らせなければならない。
3 都道府県知事は、第一項の規定による移送を行うに当たつては、当該精神障害者を診察した指定医が必要と認めたときは、その者の医療又は保護に欠くことのできない限度において、厚生労働大臣があらかじめ社会保障審議会の意見を聴いて定める行動の制限を行うことができる。

第二十九条の三 第二十九条第一項に規定する精神科病院又は指定病院の管理者は、第二十九条の二第一項の規定により入院した者について、都道府県知事から、第二十九条第一項の規定による入院措置を採らない旨の通知を受けたとき、又は第二十九条の二第三項の期間内に第二十九条第一項の規定による入院措置を採る旨の通知がないときは、直ちに、その者を退院させなければならない。

(入院措置の解除)
第二十九条の四 都道府県知事は、第二十九条第一項の規定により入院した者(以下「措置入院者」という。)が、入院を継続しなくてもその精神障害のために自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれがないと認められるに至つたときは、直ちに、その者を退院させなければならない。この場合においては、都道府県知事は、あらかじめ、その者を入院させている精神科病院又は指定病院の管理者の意見を聞くものとする。
2 前項の場合において都道府県知事がその者を退院させるには、その者が入院を継続しなくてもその精神障害のために自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれがないと認められることについて、その指定する指定医による診察の結果又は次条の規定による診察の結果に基づく場合でなければならない。

第二十九条の五 措置入院者を入院させている精神科病院又は指定病院の管理者は、指定医による診察の結果、措置入院者が、入院を継続しなくてもその精神障害のために自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれがないと認められるに至つたときは、直ちに、その旨、その者の症状その他厚生労働省令で定める事項を最寄りの保健所長を経て都道府県知事に届け出なければならない。

行政不服審査法

(目的等)
第一条 この法律は、行政庁の違法又は不当な処分その他公権力の行使に当たる行為に関し、国民が簡易迅速かつ公正な手続の下で広く行政庁に対する不服申立てをすることができるための制度を定めることにより、国民の権利利益の救済を図るとともに、行政の適正な運営を確保することを目的とする。

2 行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為(以下単に「処分」という。)に関する不服申立てについては、他の法律に特別の定めがある場合を除くほか、この法律の定めるところによる。

(処分についての審査請求)
第二条 行政庁の処分に不服がある者は、第四条及び第五条第二項の定めるところにより、審査請求をすることができる。

(審査請求をすべき行政庁)
第四条 審査請求は、法律(条例に基づく処分については、条例)に特別の定めがある場合を除くほか、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定める行政庁に対してするものとする。
一 処分庁等(処分をした行政庁(以下「処分庁」という。)又は不作為に係る行政庁(以下「不作為庁」という。)をいう。以下同じ。)に上級行政庁がない場合又は処分庁等が主任の大臣若しくは宮内庁長官若しくは内閣府設置法(平成十一年法律第八十九号)第四十九条第一項若しくは第二項若しくは国家行政組織法(昭和二十三年法律第百二十号)第三条第二項に規定する庁の長である場合 当該処分庁等
二 宮内庁長官又は内閣府設置法第四十九条第一項若しくは第二項若しくは国家行政組織法第三条第二項に規定する庁の長が処分庁等の上級行政庁である場合 宮内庁長官又は当該庁の長
三 主任の大臣が処分庁等の上級行政庁である場合(前二号に掲げる場合を除く。) 当該主任の大臣
四 前三号に掲げる場合以外の場合 当該処分庁等の最上級行政庁

(審理員)
第九条 第四条又は他の法律若しくは条例の規定により審査請求がされた行政庁(第十四条の規定により引継ぎを受けた行政庁を含む。以下「審査庁」という。)は、審査庁に所属する職員(第十七条に規定する名簿を作成した場合にあっては、当該名簿に記載されている者)のうちから第三節に規定する審理手続(この節に規定する手続を含む。)を行う者を指名するとともに、その旨を審査請求人及び処分庁等(審査庁以外の処分庁等に限る。)に通知しなければならない。ただし、次の各号のいずれかに掲げる機関が審査庁である場合若しくは条例に基づく処分について条例に特別の定めがある場合又は第二十四条の規定により当該審査請求を却下する場合は、この限りでない。
一 内閣府設置法第四十九条第一項若しくは第二項又は国家行政組織法第三条第二項に規定する委員会
二 内閣府設置法第三十七条若しくは第五十四条又は国家行政組織法第八条に規定する機関
三 地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)第百三十八条の四第一項に規定する委員会若しくは委員又は同条第三項に規定する機関
2 審査庁が前項の規定により指名する者は、次に掲げる者以外の者でなければならない。
一 審査請求に係る処分若しくは当該処分に係る再調査の請求についての決定に関与した者又は審査請求に係る不作為に係る処分に関与し、若しくは関与することとなる者
二 審査請求人
三 審査請求人の配偶者、四親等内の親族又は同居の親族
四 審査請求人の代理人
五 前二号に掲げる者であった者
六 審査請求人の後見人、後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人又は補助監督人
七 第十三条第一項に規定する利害関係人
3 審査庁が第一項各号に掲げる機関である場合又は同項ただし書の特別の定めがある場合においては、別表第一の上欄に掲げる規定の適用については、これらの規定中同表の中欄に掲げる字句は、それぞれ同表の下欄に掲げる字句に読み替えるものとし、第十七条、第四十条、第四十二条及び第五十条第二項の規定は、適用しない。
4 前項に規定する場合において、審査庁は、必要があると認めるときは、その職員(第二項各号(第一項各号に掲げる機関の構成員にあっては、第一号を除く。)に掲げる者以外の者に限る。)に、前項において読み替えて適用する第三十一条第一項の規定による審査請求人若しくは第十三条第四項に規定する参加人の意見の陳述を聴かせ、前項において読み替えて適用する第三十四条の規定による参考人の陳述を聴かせ、同項において読み替えて適用する第三十五条第一項の規定による検証をさせ、前項において読み替えて適用する第三十六条の規定による第二十八条に規定する審理関係人に対する質問をさせ、又は同項において読み替えて適用する第三十七条第一項若しくは第二項の規定による意見の聴取を行わせることができる。

(審査請求期間)
第十八条 処分についての審査請求は、処分があったことを知った日の翌日から起算して三月(当該処分について再調査の請求をしたときは、当該再調査の請求についての決定があったことを知った日の翌日から起算して一月)を経過したときは、することができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。
2 処分についての審査請求は、処分(当該処分について再調査の請求をしたときは、当該再調査の請求についての決定)があった日の翌日から起算して一年を経過したときは、することができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。
3 次条に規定する審査請求書を郵便又は民間事業者による信書の送達に関する法律(平成十四年法律第九十九号)第二条第六項に規定する一般信書便事業者若しくは同条第九項に規定する特定信書便事業者による同条第二項に規定する信書便で提出した場合における前二項に規定する期間(以下「審査請求期間」という。)の計算については、送付に要した日数は、算入しない。

(口頭意見陳述)
第三十一条 審査請求人又は参加人の申立てがあった場合には、審理員は、当該申立てをした者(以下この条及び第四十一条第二項第二号において「申立人」という。)に口頭で審査請求に係る事件に関する意見を述べる機会を与えなければならない。ただし、当該申立人の所在その他の事情により当該意見を述べる機会を与えることが困難であると認められる場合には、この限りでない。
2 前項本文の規定による意見の陳述(以下「口頭意見陳述」という。)は、審理員が期日及び場所を指定し、全ての審理関係人を招集してさせるものとする。
3 口頭意見陳述において、申立人は、審理員の許可を得て、補佐人とともに出頭することができる。
4 口頭意見陳述において、審理員は、申立人のする陳述が事件に関係のない事項にわたる場合その他相当でない場合には、これを制限することができる。
5 口頭意見陳述に際し、申立人は、審理員の許可を得て、審査請求に係る事件に関し、処分庁等に対して、質問を発することができる。

第四十三条 審査庁は、審理員意見書の提出を受けたときは、次の各号のいずれかに該当する場合を除き、審査庁が主任の大臣又は宮内庁長官若しくは内閣府設置法第四十九条第一項若しくは第二項若しくは国家行政組織法第三条第二項に規定する庁の長である場合にあっては行政不服審査会に、審査庁が地方公共団体の長(地方公共団体の組合にあっては、長、管理者又は理事会)である場合にあっては第八十一条第一項又は第二項の機関に、それぞれ諮問しなければならない。
一 審査請求に係る処分をしようとするときに他の法律又は政令(条例に基づく処分については、条例)に第九条第一項各号に掲げる機関若しくは地方公共団体の議会又はこれらの機関に類するものとして政令で定めるもの(以下「審議会等」という。)の議を経るべき旨又は経ることができる旨の定めがあり、かつ、当該議を経て当該処分がされた場合
二 裁決をしようとするときに他の法律又は政令(条例に基づく処分については、条例)に第九条第一項各号に掲げる機関若しくは地方公共団体の議会又はこれらの機関に類するものとして政令で定めるものの議を経るべき旨又は経ることができる旨の定めがあり、かつ、当該議を経て裁決をしようとする場合
三 第四十六条第三項又は第四十九条第四項の規定により審議会等の議を経て裁決をしようとする場合
四 審査請求人から、行政不服審査会又は第八十一条第一項若しくは第二項の機関(以下「行政不服審査会等」という。)への諮問を希望しない旨の申出がされている場合(参加人から、行政不服審査会等に諮問しないことについて反対する旨の申出がされている場合を除く。)
五 審査請求が、行政不服審査会等によって、国民の権利利益及び行政の運営に対する影響の程度その他当該事件の性質を勘案して、諮問を要しないものと認められたものである場合
六 審査請求が不適法であり、却下する場合
七 第四十六条第一項の規定により審査請求に係る処分(法令に基づく申請を却下し、又は棄却する処分及び事実上の行為を除く。)の全部を取り消し、又は第四十七条第一号若しくは第二号の規定により審査請求に係る事実上の行為の全部を撤廃すべき旨を命じ、若しくは撤廃することとする場合(当該処分の全部を取り消すこと又は当該事実上の行為の全部を撤廃すべき旨を命じ、若しくは撤廃することについて反対する旨の意見書が提出されている場合及び口頭意見陳述においてその旨の意見が述べられている場合を除く。)
八 第四十六条第二項各号又は第四十九条第三項各号に定める措置(法令に基づく申請の全部を認容すべき旨を命じ、又は認容するものに限る。)をとることとする場合(当該申請の全部を認容することについて反対する旨の意見書が提出されている場合及び口頭意見陳述においてその旨の意見が述べられている場合を除く。)
2 前項の規定による諮問は、審理員意見書及び事件記録の写しを添えてしなければならない。
3 第一項の規定により諮問をした審査庁は、審理関係人(処分庁等が審査庁である場合にあっては、審査請求人及び参加人)に対し、当該諮問をした旨を通知するとともに、審理員意見書の写しを送付しなければならない。

第八十一条 地方公共団体に、執行機関の附属機関として、この法律の規定によりその権限に属させられた事項を処理するための機関を置く。
2 前項の規定にかかわらず、地方公共団体は、当該地方公共団体における不服申立ての状況等に鑑み同項の機関を置くことが不適当又は困難であるときは、条例で定めるところにより、事件ごとに、執行機関の附属機関として、この法律の規定によりその権限に属させられた事項を処理するための機関を置くこととすることができる。
3 前節第二款の規定は、前二項の機関について準用する。この場合において、第七十八条第四項及び第五項中「政令」とあるのは、「条例」と読み替えるものとする。
4 前三項に定めるもののほか、第一項又は第二項の機関の組織及び運営に関し必要な事項は、当該機関を置く地方公共団体の条例(地方自治法第二百五十二条の七第一項の規定により共同設置する機関にあっては、同項の規約)で定める。

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