子どもとの面会交流の実現方法
家事|調停調書を債務名義として間接強制を行う場合、給付条項の特定性が認められる具体的記載内容|最高裁平成24年(許)第48号平成25年3月28日決定
目次
質問
離婚した妻との間に子どもがいたのですが、妻に親権を取られてしまいました。離婚は、調停によって成立しており、面会交流の取決めも調停で行っています。当初は子どもと面会できていたのですが、突如、妻が、私を子どもに会わせることを拒否してきました。私としては、子どもと定期的に会い、子どもの成長を見届けたいと考えております。何とかならないでしょうか。
回答
1 まず、元配偶者に面会交流を任意に履行してもらうよう交渉することが考えられます。面会交流の実現には、子を監護している親の協力が必要になるので、元配偶者に任意に履行してもらうことが最も良い手段であると言えます。
そもそも交渉に応じてもらえない場合や、離婚した夫婦間でのやり取りで、感情的になってしまう恐れがあり、そのやり取りによって子どもに悪影響が生じる可能性がある場合などには、代理人を付けて交渉したほうが良いでしょう。
2 元配偶者との任意の交渉が奏功しなかった場合、法的手段を採る必要があります。法的手段としては、第一に、①間接強制という強制執行の方法を採ることが考えられます(民事執行法171条)。間接強制の方法によれば、元配偶者に対して、面会交流の条件を履行しなかった場合に、強制金を課すことで、元配偶者が強制金を受けないように面会交流の条項を履行すると考えられるので、間接的に面会交流を実現することができます。
調停調書は、「確定判決と同一の効力を有するもの」として債務名義(私人が求める給付内容を裁判所が強制的に執行できると公的に認められた文書)にになります(家事事件手続法268条1項、民事執行法22条7号)。間接強制が認められるには、後掲の最高裁決定との関係で、調停調書に記載されている面会交流の条項が、給付条項としての特定性を有していることが必要です。強制執行は自力救済禁止の反射的効果として国家権力が私人に代わり具体的給付内容を債務者の意思に関係なく強制的に実現するのですからその性質上債務名義は給付内容の特定性が厳格に求められることになります。なお、元配偶者が間接強制決定に違反して強制金を課された場合、債権者たる相談者がその金額を得ることができます。
3 調停調書に記載されている面会交流の条項が、給付条項としての特定性を有していない場合には、間接強制という強制執行の方法を採ることができません。
そこで、②履行勧告(家事事件手続法289条)の方法を採ることが考えられます。履行勧告によれば、家庭裁判所が、元配偶者に対し、面会交流をするよう勧告することになります。ただし、履行勧告には、強制力がないので、履行勧告を行ったからと言って面会交流が実現するとは限りません。
履行勧告でも面会交流がなされない場合、間接強制という強制力のある手段で面会交流を実現するため、③面会交流を求める調停または審判を再度申し立て(家事事件手続法255条1項、同法49条)、間接強制が可能になる具体的な条件を定めた上で、調停調書または審判を得る必要があります。
具体的には、(ア)面会交流の日時は、月1回、毎月第2土曜日とする、(イ)面会交流の時間は、午前10時から午後4時までとする、(ウ)面会交流の方法につき、子どもの引渡場所は、X駅X口改札付近とし、相手方は、面会交流開始時に、引渡場所において長女を相手方に引き渡し、申立人は、面会交流終了時に、引渡場所において長女を抗告人に引き渡す、というように、具体的な条項を定めることが望ましいと考えられます。
4 このように、間接強制が可能か否かの判断は、調停調書の条項が、給付条項としての特定性を満たしているか判断する必要があり、法的な評価が必要となります。特に、後掲の最高裁決定が、平成25年に出されたこととの関係で、平成25年以前に成立した調停調書等の場合、間接強制が認められる程度の特定性を有していない可能性があります。
また、面会交流は、子の利益を最優先で考慮したうえで認められるものですので、調停や審判を提起した場合、元配偶者との間の紛争に子どもが巻き込まれ、子が面会交流を望まなくなってしまい、面会交流が認められない状況になる可能性があります。そのため、調停等を提起するか否かは、子の心情に配慮したうえで、慎重に判断する必要があります。
調停と審判は、いずれの方法も選択できますが、元配偶者に面会交流の実現に協力してもらう必要性があるため、より話し合いに近い手続を選択すべきです。したがって、ケースバイケースではあるものの、調停による解決を原則と考えるべきです。
5 面会交流の実現には、上記の通り、採り得る手段の選択について、難しい判断が迫られることになるので、弁護士に相談した上で、いかなる手段を採り得るか相談することを強く推奨します。
6 その他本件に関連する事例集はこちらをご覧ください。
解説
1 面会交流および間接強制について
(1)面会交流とは、父母が離婚した場合に、「父または母と子との面会及びその他の交流」を行うものです(民法766条1項)。面会交流は、改正前の条文では、明文の規定がなく、その権利性が従来議論されておりましたが、一般に面会交流を権利として認められておりました。平成23年に、民法766条が改正され、面会交流が明文の規定で置かれました。
民法766条後段には、「子の利益を最も優先して考慮しなければならない」と規定されております。そのため、子が離婚した父母に面会することが、子の利益に適うか否かが、面会交流が認められるかどうか、また面会交流の条件を定めるうえで最も重要な要素になります。「子の利益」に適うか否かは、監護状況の推移、子に対する愛情や監護意欲、住居や家庭環境、収入等の生活能力、子の年齢・性別・意向等の事情を総合的に考慮して判断することとなります。
(2)間接強制とは、債務者に対し、一定の期間内に債務を履行しないとき、債務の履行を確保するために相当と認める一定の額の金銭を債権者に支払うべき旨を命ずるもので(民事執行法172条1項)、強制執行の一種です。間接強制は、債務者に対して、強制金を科すことにより、債務者がこれを逃れようと債務を履行することを促す点で、間接的に債務の履行を促す制度です。
2 面会交流についての判例
(1)最高裁判所第一小法廷平成24年(許)第48号平成25年3月28日決定
子を監護している親(以下「監護親」という。)と子を監護していない親(以下「非監護親」という。)との間で、非監護親と子との面会交流について定める場合、子の利益が最も優先して考慮されるべきであり(民法766条1項参照)、面会交流は、柔軟に対応することができる条項に基づき、監護親と非監護親の協力の下で実施されることが望ましい。一方、給付を命ずる審判は、執行力のある債務名義と同一の効力を有する(平成23年法律第53号による廃止前の家事審判法15条)。監護親に対し、非監護親が子と面会交流をすることを許さなければならないと命ずる審判は、少なくとも、監護親が、引渡場所において非監護親に対して子を引渡し、非監護親と子との面会交流の間、これを妨害しないなどの給付を内容とするものが一般であり、そのような給付については、性質上、間接強制をすることができないものではない。したがって、監護親に対し非監護親が子と面会交流をすることを許さなければならないと命ずる審判において、面会交流の日時又は頻度、各回の面会交流時間の長さ、子の引渡しの方法等が具体的に定められているなど監護親がすべき給付の特定に欠けるところがないといえる場合は、上記審判に基づき監護親に対し間接強制決定をすることができると解するのが相当である。
そして、子の面会交流に係る審判は、子の心情等を踏まえた上でされているといえる。したがって、監護親に対し非監護親が子と面会交流をすることを許さなければならないと命ずる審判がされた場合、子が非監護親との面会交流を拒絶する意思を示していることは、これをもって、上記審判時とは異なる状況が生じたといえるときは上記審判に係る面会交流を禁止し、又は面会交流についての新たな条項を定めるための調停や審判を申し立てる理由となり得ることなどは格別、上記審判に基づく間接強制決定をすることを妨げる理由となるものではない。
これを本件についてみると、本件要領は、面会交流の日時、各回の面会交流時間の長さ及び子の引渡しの方法の定めにより抗告人がすべき給付の特定に欠けるところはないといえるから、本件審判に基づき間接強制決定をすることができる。抗告人主張の事情は、間接強制決定をすることを妨げる理由となるものではない。
面会交流に間接強制が認められるか否かは、従来議論が存在したところですが、下級審の裁判例では、間接強制が認められる傾向にありました(東京高等裁判所平成23年(ラ)第2058号、平成24年1月12日決定大阪高等裁判所平成22年(ラ)第833号平成22年9月24日決定等)。本決定は、下級審の裁判例の傾向を敷衍し、面会交流について、一般論として間接強制を認めました。また、本決定は、間接強制も強制執行の一種であるので、強制執行の一般的な要件である、給付条項の特定性を要件とした点が重要です。
本決定は、「面会交流の日時、各回の面会交流時間の長さ及び子の引渡しの方法の定めにより」と判示しており、面会交流の条項が給付条項として特定されているか否かを判断するにあたって、①面会交流の日時、②各回の面会交流時間の長さ、③子の引き渡しの方法が判断要素になることが分かります。前述のように強制執行は自力救済禁止の反射的効果として国家権力が私人に代わり具体的給付内容を債務者の意思に関係なく強制的に実現するのですからその性質上債務名義は給付内容の特定性が厳格に求められることになります。以上の趣旨から最高裁の判断は妥当性を有すると考えられます。
したがって、これらの条項が、強制執行を行うことができる程度の具体性を有しているか否かが重要なポイントとなります。
上記最高裁決定に対して、以下の2つの最高裁決定があります。
(2)最高裁判所第一小法廷平成24年(許)第47号平成25年3月28日決定
子を監護している親(以下「監護親」という。)と子を監護していない親(以下「非監護親」という。)との間で、非監護親と子との面会交流について定める場合、子の利益が最も優先して考慮されるべきであり(民法766条1項参照)、面会交流は、柔軟に対応することができる条項に基づき、監護親と非監護親の協力の下で実施されることが望ましい。
一方、給付の意思が表示された調停調書の記載は、執行力のある債務名義と同一の効力を有する(平成23年法律第53号による廃止前の家事審判法21条1項ただし書、15条)。監護親と非監護親との間における非監護親と子との面会交流についての定めは、少なくとも、監護親が、引渡場所において非監護親に対して子を引渡し、非監護親と子との面会交流の間、これを妨害しないなどの給付を内容とするものが一般であり、そのような給付については、性質上、間接強制をすることができないものではない。
そして、調停調書において、監護親の給付の特定に欠けるところがないといえるときは、通常、監護親の給付の意思が表示されていると解するのが相当である。したがって、非監護親と監護親との間で非監護親と子が面会交流をすることを定める調停が成立した場合において、調停調書に面会交流の日時又は頻度、各回の面会交流時間の長さ、子の引渡しの方法等が具体的に定められているなど監護親がすべき給付の特定に欠けるところがないといえるときは、間接強制を許さない旨の合意が存在するなどの特段の事情がない限り、上記調停調書に基づき監護親に対し間接強制決定をすることができると解するのが相当である。
これを本件についてみると、本件調停条項アにおける面会交流をすることを「認める」との文言の使用によって直ちに相手方の給付の意思が表示されていないとするのは相当ではないが、本件調停条項アは、面会交流の頻度について「2箇月に1回程度」とし、各回の面会交流時間の長さも、「半日程度(原則として午前11時から午後5時まで)」としつつも、「最初は1時間程度から始めることとし、長男の様子を見ながら徐々に時間を延ばすこととする。」とするなど、それらを必ずしも特定していないのであって、本件調停条項イにおいて、「面接交渉の具体的な日時、場所、方法等は、子の福祉に慎重に配慮して、抗告人と相手方間で協議して定める。」としていることにも照らすと、本件調停調書は、抗告人と長男との面会交流の大枠を定め、その具体的な内容は、抗告人と相手方との協議で定めることを予定しているものといえる。そうすると、本件調停調書においては、相手方がすべき給付が十分に特定されているとはいえないから、本件調停調書に基づき間接強制決定をすることはできない。
本決定も、面会交流を定めた調停調書について、間接強制を行うことができる旨判示している点で、上記(1)の最高裁決定と共通しております。一方で、本決定は、上記(1)の最高裁決定とは異なり、間接強制を不許可としております。
本決定は、「面会交流をすることを「認める」との文言の使用によって直ちに相手方の給付の意思が表示されていないとするのは相当ではないが、本件調停条項アは、面会交流の頻度について「2箇月に1回程度」とし、各回の面会交流時間の長さも、「半日程度(原則として午前11時から午後5時まで)」としつつも、「最初は1時間程度から始めることとし、長男の様子を見ながら徐々に時間を延ばすこととする。」とするなど、それらを必ずしも特定していないのであって、本件調停条項イにおいて、「面接交渉の具体的な日時、場所、方法等は、子の福祉に慎重に配慮して、抗告人と相手方間で協議して定める。」としていること」から、「具体的な内容は、抗告人と相手方との協議で定めることを予定しているもの」と判断し、給付条項としての特定性を欠き、間接強制決定を不許可としました。
本決定は、①面会の頻度を2か月に1回程度、②面会交流の時間を半日程度(原則として午前11時から午後5時)としている点を、給付条項としての特定性がある要素と考えております。一方で、③面会交流の時間を徐々に延ばす、④面接交渉の具体的な日時等を協議して定めるとの条項を、給付条項としての特定性がない要素として考えております。本決定からすると、面接交渉の具体的な日時等を協議して定める、との条項が含まれている場合、間接強制が認められない可能性が高いと言えるでしょう。強制執行は自力救済禁止の反射的効果として国家権力が私人に代わり具体的給付内容を債務者の意思に関係なく強制的に実現するのですからその性質上債務名義は給付内容の特定性が厳格に求められるという趣旨から妥当な判断でしょう。
また、本決定によれば、面会交流をすることを「認める」という確認的な文言であっても、直ちに給付の意思が表示されていないとは言えないと判断しておりますが、できる限り給付文言を用いるべきでしょう。
(3)最高裁判所第一小法廷平成24年(許)第41号平成25年3月28日決定
子を監護している親(以下「監護親」という。)と子を監護していない親(以下「非監護親」という。)との間で、非監護親と子との面会交流について定める場合、子の利益が最も優先して考慮されるべきであり(民法766条1項参照)、面会交流は、柔軟に対応することができる条項に基づき、監護親と非監護親の協力の下で実施されることが望ましい。
一方、給付を命ずる審判は、執行力のある債務名義と同一の効力を有する(平成23年法律第53号による廃止前の家事審判法15条)。監護親に対し、非監護親が子と面会交流をすることを許さなければならないと命ずる審判は、少なくとも、監護親が、引渡場所において非監護親に対して子を引渡し、非監護親と子との面会交流の間、これを妨害しないなどの給付を内容とするものが一般であり、そのような給付については、性質上、間接強制をすることができないものではない。
したがって、監護親に対し非監護親が子と面会交流をすることを許さなければならないと命ずる審判において、面会交流の日時又は頻度、各回の面会交流時間の長さ、子の引渡しの方法等が具体的に定められているなど監護親がすべき給付の特定に欠けるところがないといえる場合は、上記審判に基づき監護親に対し間接強制決定をすることができると解するのが相当である。
これを本件についてみると、本件条項は、1箇月に2回、土曜日又は日曜日に面会交流をするものとし、また、1回につき6時間面会交流をするとして、面会交流の頻度や各回の面会交流時間の長さは定められているといえるものの、長男及び二男の引渡しの方法については何ら定められてはいない。そうすると、本件審判においては、相手方がすべき給付が十分に特定されているとはいえないから、本件審判に基づき間接強制決定をすることはできない。
本決定も、間接強制の可否について、上記(1)、(2)の最高裁決定と同様の判示をしております。一方で、間接強制決定については、上記(2)の最高裁決定と同様、不許可としております。
本決定は、「本件条項は、1箇月に2回、土曜日又は日曜日に面会交流をするものとし、また、1回につき6時間面会交流をするとして、面会交流の頻度や各回の面会交流時間の長さは定められているといえるものの、長男及び二男の引渡しの方法については何ら定められてはいない。そうすると、本件審判においては、相手方がすべき給付が十分に特定されているとはいえない」ことから給付条項としての特定性を欠くとして、間接強制決定を不許可としております。
本決定は、①面会交流の頻度、②各回の面会交流の時間の長さを具体的に定めているとしております。一方で、③子の引き渡しの方法が具体的に定められていないことを理由として、給付条項としての特定性を欠くこととしております。本決定のこのような判示からすると、①面会交流の日時、②各回の面会交流時間の長さ、③子の引き渡しの方法の各要素は、その全てに給付条項としての特定性を要求していると解するのが自然です。裁判所は、給付条項としての特定性を厳格に解していることが分かります。この判例も強制執行の制度趣旨から妥当な判断でしょう。
裁判所の判断からして、間接強制が可能な具体的な条項の案としては、(ア)面会交流の日時は、月1回、毎月第2土曜日とする、(イ)面会交流の時間は、午前10時から午後4時までとする、(ウ)面会交流の方法につき、子どもの引渡場所は、X駅X口改札付近とし、相手方は、面会交流開始時に、引渡場所において長女を相手方に引き渡し、申立人は、面会交流終了時に、引渡場所において長女を抗告人に引き渡す。という程度の具体性が要求されると考えられます。
以上