新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1706、2016/10/31 11:34 https://www.shinginza.com/qa-seikyu.htm
【民事、登記、住居表示から登記簿謄本、登記事項証明書は取れるか、その方法、住居表示に関する法律】
不動産の地番と住居表示の違い、登記事項証明書の取得方法
質問:
1 知り合いにお金を貸しました。資産状況だけは把握しておきたいので知り合いの住む家が本人所有の物件なのか否かを調べようと思います。不動産の登記事項証明書をとれば誰の所有かわかると聞いたので、手に入れようと思いますが、住所の住居表示から、不動産の登記事項証明書を請求することは可能ですか。
2 不動産の登記事項証明書を請求した場合、取れないことがありますか。
3 登記事項証明書をみるのは、初めてです。登記事項証明書の見方について教えて下さい。
↓
回答:
1 知り合いの方の不動産がその人の所有なのか否かは不動産登記事項証明書の内容から確認することができます。ただし、知り合いの方の住所(住居表示=郵便などの宛名書きに用いられる表示)と不動産の所在地(地番=法務局で登記される土地の所在を特定する表示)は一般的に一致しないので、その場合にはその住所では当該不動産の登記事項証明書を取得することができません。まず、その住所(住居表示)に該当する不動産の所在地(地番)を、法務局で確認する必要があります。
2 不動産登記あるいは商業登記に関わらず、請求した登記事項証明書が取得できない場合、当該請求した登記について登記簿が閉鎖されていると考えられます。何らかの登記が申請あるいは嘱託されている状態(登記手続中)であるということになります。登記が申請あるいは嘱託されると当該登記について登記記録が閉鎖され、登記事項証明書は取得できなくなりますし、登記情報サービスによる閲覧も不可能となります。数週間後、登記が完了すると取得ないし閲覧ができるようになります。
3 不動産の所有者は登記事項証明書の甲区欄というところに記載されています。最後に記載されている人が現在の登記名義人です。もし貸したお金の回収方法としてその不動産を把握されるということであれば、登記事項証明書に記載された情報をしっかり読み取り、現時点で本当にその知り合いの所有物件なのか、第三者の手に渡る可能性はないのかなどを知っておく必要があります。登記事項証明書の内容によっては、不動産仮差押命令申し立てなど、すぐに何らかの法的手段を検討する必要がある場合もあります。不動産の担保価値を考える際に重要な概念として、「剰余を生ずる見込み(民事執行法63条)」というものがあります。これは、裁判所の不動産競売手続きにおける配当表をシミュレーションして、差押債権者(相談者様)に配当が回るかどうか検討することにより判明します。執行費用は事案により異なりますが、不動産鑑定士による評価書作成費用や、執行官の費用や裁判所の競売費用など(換価に掛かる経費)で、100万円前後を仮計上すると良いでしょう。
4 法律事務所では、最終的な貸金の回収までを視野に入れての不動産調査をお受けすることもできますので、お気軽にご相談いただければと思います。
5 登記関連事例集1699番、1518番、1492番、1477番、1148番、905番、857番、733番、712番、554番、394番、391番、75番、68番参照。
解説:
1 地番と住居表示
ご相談のケースで相手方の住所と地番が一致している場合には、問題なく相手方の不動産の登記事項証明書を取得することができますが、住所と地番が異なっている場合には、住所から該当する地番を探す必要があります。住所と地番が異なるのは、該当の住所が昭和37年5月に施行された「住居表示に関する法律」に基づいて住居表示が実施されたことによります。同法が施行されるまでは、「地番」が住所であり、郵便物等の配達時に用いられてきました。「地番」は、登記簿上に記載されている土地の番号です。土地の地番はそのままではなく経済活動等にあわせて、分筆(土地を分ける)あるいは合筆(2筆以上の土地を合わせて一筆の土地にする)されていきます。例えば「1000番」から分筆が行われ、2筆となった場合には、2筆の土地はそれぞれ「1000番1」「1000番2」と順に枝番号を振られていきます。さらに分筆が行われていった場合には「1000番3」「1000番4」と順を追って枝番号が振られたり、あらたに「1001番」を振られる場合もあります。枝番や番号は、新たに土地の分合筆が行われるたびに振られていきますので、当初は隣り合っていた「1000番1」と「1000番2」が分合筆を経て遠く離れた場所になってしまうこともありました。
【例】分筆前
↓
1度目の分筆後(1000番を2筆に分筆)
↓
↓
再度の分筆(1000番1を3筆に分筆)
↓
1000番1 |
1000番3 |
1000番4 |
1000番2 |
このように時代とともに地番が不規則に並ぶようになってくると、住居表示が実施されていない場所においては、「1000番1」の隣の家の住所が「1030番4」になっていたりする場合もあります。こうなりますと郵便物の配達に支障が生じることはもちろん、緊急車両の到着の遅れなどを含む日常生活への全般への支障が懸念されるようになります。そこで、郵便物の円滑な配達やその他日常生活の支障を解消する為、前述の「住居表示に関する法律」が定められました。住居表示は、住民票に記載され、行政事務に使われたり、郵便配達や宅配便の表記に使われたりします。
2 住居表示が実施されると
では、住居表示が実施されると住所はどのようになるのでしょうか。それまでは「○○市○○町一丁目1234番地56」や「○○市○○大字○○○1234番地」だった住所が「○○市○○町(一丁目)2番3号」と表示されるようになります。住居表示は法律の定める方法により道路や街区を境として順番に番号を振っていきますので、町全体を把握しやすくなります。なお、住居表示が実施されても登記簿上の地番が変更されることはありません。住居表示実施によって、1つの場所が「登記簿上の住所=地番」と「住民票や郵便配達や宅配便など日常生活上の住所=住居表示」の二つの住所をもつことになるのです。
3 住居表示から地番を調べるには
住居表示から地番を調べるには当該不動産を管轄する法務局に出向いて調べることになります。法務局に電話で問い合わせることも可能です。
当該不動産を管轄する法務局には「ブルーマップ」と呼ばれる住宅地図が備え置かれており、随時閲覧することができます。このブルーマップには「住居表示による住所(赤文字)」と「地番(青文字)」の両方が記載されていますので、「住居表示による住所」の該当箇所に記載されている「地番」を読み取ることができます。また、管轄する法務局の地番照会の係りに電話をかけて住居表示を伝えると、該当する地番をオペレーターの方が教えてくれます。手軽なのは電話ですが、ブルーマップを見ることでその不動産はどのような場所にあるのかを始め、道路を含めた周囲の状況など不動産の資産価値を計るうえでの重要な情報を読み取ることができます。やり方が難しい場合は、法律事務所に法律関係調査ということで、地番調査と謄本取得を依頼することもできます。
【住居表示に関する法律】(昭和三十七年五月十日法律第百十九号)
(目的)
第一条 この法律は、合理的な住居表示の制度及びその実施について必要な措置を定め、もつて公共の福祉の増進に資することを目的とする。
(住居表示の原則)
第二条 市街地にある住所若しくは居所又は事務所、事業所その他これらに類する施設の所在する場所(以下「住居」という。)を表示するには、都道府県、郡、市(特別区を含む。以下同じ。)、区(地方自治法
(昭和二十二年法律第六十七号)第二百五十二条の二十
の区をいう。)及び町村の名称を冠するほか、次の各号のいずれかの方法によるものとする。
一 街区方式 市町村内の町又は字の名称並びに当該町又は字の区域を道路、鉄道若しくは軌道の線路その他の恒久的な施設又は河川、水路等によつて区画した場合におけるその区画された地域(以下「街区」という。)につけられる符号(以下「街区符号」という。)及び当該街区内にある建物その他の工作物につけられる住居表示のための番号(以下「住居番号」という。)を用いて表示する方法をいう。
二 道路方式 市町村内の道路の名称及び当該道路に接し、又は当該道路に通ずる通路を有する建物その他の工作物につけられる住居番号を用いて表示する方法をいう。
(住居表示の実施手続)
第三条 市町村は、前条に規定する方法による住居表示の実施のため、議会の議決を経て、市街地につき、区域を定め、当該区域における住居表示の方法を定めなければならない。
2 市町村は、前項の規定により区域及びその区域における住居表示の方法を定めたときは、当該区域について、街区符号及び住居番号又は道路の名称及び住居番号をつけなければならない。
3 市町村は、前項の規定により街区符号及び住居番号又は道路の名称及び住居番号をつけたときは、住居表示を実施すべき区域及び期日並びに当該区域における住居表示の方法、街区符号又は道路の名称及び住居番号を告示するとともに、これらの事項を関係人及び関係行政機関の長に通知し、かつ、都道府県知事に報告しなければならない。
4 市町村は、第一項及び第二項に規定する措置を行なうに当たつては、住民にその趣旨の周知徹底を図り、その理解と協力を得て行なうように努めなければならない。
(条例への委任)
第四条 前条第三項の告示に係る区域について当該告示に掲げる日以後街区符号、道路の名称又は住居番号をつけ、変更し、又は廃止する場合における手続その他必要な事項は、市町村の条例で定める。
(町又は字の区域の合理化等)
第五条 街区方式によつて住居を表示しようとする場合において、街区方式によることが不合理な町又は字の区域があるときは、できるだけその区域を合理的なものにするように努めなければならない。
2 前項の規定により新たな町又は字の区域を定めた場合には、当該町又は字の名称は、できるだけ従来の名称に準拠して定めなければならない。これにより難いときは、できるだけ読みやすく、かつ、簡明なものにしなければならない。
(町又は字の区域の新設等の手続の特例)
第五条の二 市町村長(特別区の区長を含む。以下同じ。)は、第二条に規定する方法による住居表示の実施のため、地方自治法第二百六十条第一項
の規定により町若しくは字の区域の新設若しくは廃止又は町若しくは字の区域若しくはその名称の変更(以下「町又は字の区域の新設等」という。)について議会の議決を経ようとするときは、あらかじめ、その案を公示しなければならない。
2 前項の規定により公示された案に係る町又は字の区域内に住所を有する者で市町村の議会の議員及び長の選挙権を有するものは、その案に異議があるときは、政令の定めるところにより、市町村長に対し、前項の公示の日から三十日を経過する日までに、その五十人以上の連署をもつて、理由を附して、その案に対する変更の請求をすることができる。
3 市町村長は、前項の期間が経過するまでの間は、住居表示の実施のための町又は字の区域の新設等の処分に関する議案を議会に提出することができない。
4 第二項の変更の請求があつたときは、市町村長は、直ちに当該変更の請求の要旨を公表しなければならない。
5 市町村長は、第二項の変更の請求があつた場合において、当該変更の請求に係る町又は字の区域の新設等の処分に関する議案を議会に提出するときは、当該変更の請求書を添えてしなければならない。
6 市町村の議会は、第二項の変更の請求に係る町又は字の区域の新設等の処分に関する議案については、あらかじめ、公聴会を開き、当該処分に係る町又は字の区域内に住所を有する者から意見をきいた後でなければ、当該議案の議決をすることができない。
7 市町村の議会は、第二項の変更の請求に係る町又は字の区域の新設等の処分に関する議案について、修正してこれを議決することを妨げない。
8 第二項の市町村の議会の議員及び長の選挙権を有する者とは、第一項の公示の日において選挙人名簿に登録されている者をいう。
(住居表示義務)
第六条 何人も、住居の表示については、第三条第三項の告示に掲げる日以後は、当該告示に係る区域について、同条第二項の規定によりつけられた街区符号及び住居番号又は道路の名称及び住居番号を用いるように努めなければならない。
2 国及び地方公共団体の機関は、住民基本台帳、選挙人名簿、法人登記簿その他の公簿に住居を表示するときは、第三条第三項の告示に掲げる日以後は、当該告示に係る区域について、他の法令に特別の定めがある場合を除くほか、同条第二項の規定によりつけられた街区符号及び住居番号又は道路の名称及び住居番号を用いなければならない。
(手数料その他の徴収金に関する特例)
第七条 第三条第一項及び第二項の規定による住居表示の実施並びに第四条の規定による街区符号、道路の名称又は住居番号の設定、変更又は廃止に伴う公簿又は公証書類の記載事項で住居の表示に係るものの変更の申請については、法令の規定により当該申請をする者の負担とされている手数料その他の徴収金は、当該法令の規定にかかわらず、徴収しない。
(表示板の設置等)
第八条 市町村は、第三条第三項の告示に係る区域の見やすい場所に、当該区域内の町若しくは字の名称及び街区符号又は道路の名称を記載した表示板を設けなければならない。
2 前項の区域にある建物その他の工作物の所有者、管理者又は占有者は、市町村の条例で定めるところにより、見やすい場所に、住居番号を表示しなければならない。
(住居表示台帳)
第九条 市町村は、第三条第三項の告示に係る区域について、当該区域の住居表示台帳を備えなければならない。
2 市町村は、関係人から請求があつたときは、前項の住居表示台帳又はその写しを閲覧させなければならない。
(旧町名等の継承)
第九条の二 市町村は、由緒ある町又は字の名称で住居表示の実施に伴い変更されたものについて、その継承を図るため、標識の設置、資料の収集その他必要な措置を講ずるように努めなければならない。
(国又は都道府県の指導等)
第十条 国又は都道府県は、この法律の円滑な実施のため、市町村に対し、この法律の規定により市町村が処理する事務について、必要な指導を行うものとする。
2 総務大臣又は都道府県知事は、この法律の円滑な実施のため必要があると認めるときは、市町村に対し、第三条第一項及び第二項に規定する措置をとるべきことを勧告することができる。
3 総務大臣又は都道府県知事は、この法律の円滑な実施のため必要があると認めるときは、市町村に対し、第三条、第五条、第五条の二及び第八条から前条までの規定により市町村が処理する事務について、報告を求め、又は技術的な援助若しくは助言をすることができる。
4 総務大臣は、この法律の施行に関し必要があると認めるときは、都道府県に対し、報告を求め、又は援助若しくは助言をすることができる。
(国及び都道府県の機関等の協力)
第十一条 国及び都道府県の機関並びに公共的団体は、住居表示の実施が円滑に行なわれるよう市町村に協力しなければならない。
(委任規定)
第十二条 この法律の規定による住居表示の実施について必要な技術的基準は、総務大臣が定める。
(政令への委任)
第十三条 この法律の施行に関し必要な事項は、政令で定める。
4 登記簿の閉鎖について
登記事項証明書を請求したが取れないという場合は請求した不動産が「登記手続中」であったためと考えられます。
登記の申請等がなされると、それと同時に登記記録が閉鎖され、登記情報の取得はもちろん、登記事項証明書を請求することができなくなります。登記記録の閉鎖は、登記の変更手続きが完了するまで続き、登記が完了すると再度登記事項証明書の請求ができるようになります。登記が閉鎖される期間は、登記完了までにかかる期間によりますが、早い法務局で5日程度、遅い法務局の場合には2週間程度かかります。なお、法務局は申請等がされている登記の内容については教えてくれませんが、いつ頃登記が完了する見込みなのかは教えてくれるケース(例えば該当不動産が公衆用道路などで大人数に共有されているような場合、など)もありますので念のため確認されもよいでしょう。
ちなみに、共同担保目録がついている不動産において、共同担保目録記載の一部の不動産に登記が申請されている場合には、共同担保目録付で登記事項証明書を請求すると請求している不動産が登記中でない場合にも「登記中」として取得できませんので注意が必要です。この場合には「共同担保目録付」という条件を外して登記事項証明書交付請求をすることになります。
オンライン申請の場合には、登記完了までの起算点は実際の申請受付日でなく、添付書類が郵送か持参かで法務局に届いた日(翌日から翌々日)になります(登記情報の閉鎖期間がその分伸長されます)。
5 登記事項証明書の基本的な見方
登記事項証明書が取得できたら、現在の所有者は誰であるかを確認する必要があります。登記事項証明書には、不動産の表示(所在、地番、種類、地積など)の下に「甲区」と「乙区」が設けられています。甲区は所有権に関する事項が、乙区には所有権に関すること以外の担保権などの情報が記載されています。
@甲区
甲区に相手方の名前を見つけられた場合でも、それが甲区の一番最後の枠であるか、一番最後の枠であっても「登記の目的」が「所有権移転」「共有者持分全部移転」などであって、かつ、目的の最後が「仮登記」で終わっていないかを確認しましょう。
甲区の途中の枠に相手方の名前があっても、次の枠で「登記の目的」として「所有権移転」や「所有権移転仮登記」「所有権移転請求権仮登記」が記載され、「原因 平成○○年○○月○○日売買」「原因 平成○○年○○月○○売買予約」となっていて第三者の名前が記載されている場合には、過去に相手方のものであったが既に第三者に売却されている、あるいは、第三者との間で売買予約が既になされていてその順位が保全されている、ということがわかります。
一方「登記の目的」が「所有権移転仮登記」「所有権移転仮登記請求権、条件付所有権移転仮登記」である場合には、その枠に相手方の名前があった場合には、前者であれば、所有権は相手方にあるもののその順位を保全しただけで本登記という対抗要件を備えていない、ということがわかりますし、後者であれば、あくまでも買い受けると言う予約をしただけ、あるいは、条件が成就された場合にのみ所有権を取得できるということが表示されているだけであることがわかります。
なお、相手方が既に他からも借り入れをしていて、返済資力を失っている、あるいは、他からの借り入れについて滞納をしている場合には、甲区に「差押」あるいは「仮差押」の文言が見られることがあります。そういった登記が登記事項証明書に記載されていないかも相手方の資力状況を推し量るうえで重要な情報となります。
登記事項証明書で所有権が相手方にあることが確認できた場合には、次に乙区を見ていきます。
A乙区
乙区には、所有権以外の担保権等が記載されます。大概は、「抵当権」「根抵当権」などの担保がつけられています。抵当権であるのか、根抵当権であるのか、また、(根)抵当権者の名称等からその融資が住宅ローンであるのか、事業用であるのかも推測できますし、債権額からは現在の相手の負債の金額を推測することもできます。仮に抵当権、根抵当権がついていても、不動産の価値と比較して低い金額であれば、その不動産に担保余剰がありますので、追加で(根)抵当権を設定するなども検討することができます。(根)抵当権を設定しておけば、万が一のときにすぐに次の手段である「差押」に着手することができます。以上のように、事前に登記事項証明書を検討しておくことで、今後、返済の遅れが生じた場合に「不動産仮差押命令申立」などすぐに次の法的対応を検討し、着手することができるようになります。
ちなみに、不動産の担保価値を考える際に重要な概念として、「剰余を生ずる見込み(民事執行法63条)」というものがあります。これは、不動産競売の申し立てがされた場合に、その落札額の配当についてシミュレーションするにより、差押債権者(相談者様)にまで配当が回るか(弁済を受けられるか)どうかを検討することにより判明します。民事執行第63条に基づいて計算された配当のシミュレーションの結果、裁判所において剰余の見込みがないと判断された場合には、一定の場合を除いて、裁判所は差押債権者の競売の手続を取り消さなければなりません。執行費用は事案により異なりますが、不動産鑑定士による評価書作成費用や、執行官の費用や裁判所の競売費用などで、100万円前後を仮計上すると良いでしょう。
各抵当権者の配当額は、被担保債権の残額となりますので、登記された債権額よりも低くなることもありますが、最後の2年分の利息についても配当されますので(民法375条1項)、登記された債権額よりも高くなる場合もあります。
配当表計算の例
(1)売得金(売却見込み額)
(2)共益費用(手続費用=換価経費=執行費用100万円)
(3)第一順位(第一抵当権の残債務額)
(4)第二順位(第二抵当権の残債務額)
剰余の見込み額=(1)―(2)―(3)―(4)
【参照条文】
民事執行法
第六十三条 (剰余を生ずる見込みのない場合等の措置)
第1項 執行裁判所は、次の各号のいずれかに該当すると認めるときは、その旨を差押債権者(最初の強制競売の開始決定に係る差押債権者をいう。ただし、第四十七条第六項の規定により手続を続行する旨の裁判があつたときは、その裁判を受けた差押債権者をいう。以下この条において同じ。)に通知しなければならない。
一 差押債権者の債権に優先する債権(以下この条において「優先債権」という。)がない場合において、不動産の買受可能価額が執行費用のうち共益費用であるもの(以下「手続費用」という。)の見込額を超えないとき。
二 優先債権がある場合において、不動産の買受可能価額が手続費用及び優先債権の見込額の合計額に満たないとき。
第2項 差押債権者が、前項の規定による通知を受けた日から一週間以内に、優先債権がない場合にあつては手続費用の見込額を超える額、優先債権がある場合にあつては手続費用及び優先債権の見込額の合計額以上の額(以下この項において「申出額」という。)を定めて、次の各号に掲げる区分に応じ、それぞれ当該各号に定める申出及び保証の提供をしないときは、執行裁判所は、差押債権者の申立てに係る強制競売の手続を取り消さなければならない。ただし、差押債権者が、その期間内に、前項各号のいずれにも該当しないことを証明したとき、又は同項第二号に該当する場合であつて不動産の買受可能価額が手続費用の見込額を超える場合において、不動産の売却について優先債権を有する者(買受可能価額で自己の優先債権の全部の弁済を受けることができる見込みがある者を除く。)の同意を得たことを証明したときは、この限りでない。
一 差押債権者が不動産の買受人になることができる場合
申出額に達する買受けの申出がないときは、自ら申出額で不動産を買い受ける旨の申出及び申出額に相当する保証の提供
二 差押債権者が不動産の買受人になることができない場合
買受けの申出の額が申出額に達しないときは、申出額と買受けの申出の額との差額を負担する旨の申出及び申出額と買受可能価額との差額に相当する保証の提供
第3項 前項第二号の申出及び保証の提供があつた場合において、買受可能価額以上の額の買受けの申出がないときは、執行裁判所は、差押債権者の申立てに係る強制競売の手続を取り消さなければならない。
第4項 第二項の保証の提供は、執行裁判所に対し、最高裁判所規則で定める方法により行わなければならない。
4 今後
もし今後、返済について不安を感じられているようであれば、一度借用書と取得された登記事項証明書を持って法律事務所にご相談されることをお勧めします。
法律事務所では、借用書及び登記事項証明書の内容から、確実に返済を受けるための最善の方法をご提案することができます。債権の消滅時効の恐れがある場合は、時効管理の観点で、様々な時効中断方法をご提案することもできます。例えば、当事者の間で作成された借用書があるとのことですが、借用書の内容を専門家の視点から検討し、必要とあればきちんとした内容の書類を改めて作成し直すことはもちろん、そのための交渉の依頼を受けることもできます。あるいは借用書の内容を公正証書とすることも考えられますので公正証書作成に関する交渉等の代理をお受けすることも可能です。なお、公正証書を作成しておくと、支払が滞った場合に、訴訟を提起し、勝訴後に差押命令の申し立てをするといった一連の裁判手続を経ることなく不動産などを差し押えることが可能になります。あるいは、相手の不動産に担保価値が残っている場合は、担保権を設定することを求める場合もあります。必要に応じて、訴訟提起することもできます。法律事務所では、訴訟手続の専門家という立場であるので、訴訟提起と強制執行申し立てという最終手段がありますので、交渉の際にも「手続を猶予する代わりに〜する」という協議により、ご本人で交渉されるよりも合意が成立しやすい特性があります。
法律事務所の債権回収手段の例
@交渉による任意弁済
A公正証書作成(交渉)による分割弁済
B抵当権設定(交渉)による分割弁済
C訴訟提起により(給与、不動産など)強制執行申し立て
いずれにしても債権回収に御不安をお持ちであれば、早めにお近くの法律事務所にご相談に行かれることをお勧めします。
法律相談事例集データベースのページに戻る
法律相談ページに戻る(電話03−3248−5791で簡単な無料法律相談を受付しております)
トップページに戻る