複数人での準強姦被疑事件の初期対応

刑事|準強姦|集団強姦

目次

  1. 質問
  2. 回答
  3. 解説
  4. 関連事例集
  5. 参考条文

質問:

合コンの後で、初めて会った女性一人と男友達三人とで私の自宅でお酒を飲み、酔った女性を相手に男3人で性行為をしてしまいました。女性から強姦とか言われないか 心配です。どうしたらよいでしょうか。

自宅では,1時間ほど酒を飲んだ後,皆泥酔し,そのまま4人で性行為に及びました。女性は,ほぼ酔い潰れていましたが,特に性行為に抵抗する様子はありませんで し た。

私としては,特に無理やり性行為をしようと思っていた分けでも,当初から性行為をするためにお酒を飲ませようとしていた分けでもありません。しかし,酔っていた と はいえ,男三人で性行為をしてしまったことについては,申し訳ない気持ちを有しています。

回答:

1 泥酔状態の女性と性行為をした場合に成立する可能性がある犯罪としては,準強姦罪が考えられます。さらに本件では,男性3人で共同して行為をしておりますの で,集団強姦罪となる可能性も高いといえます。

準強姦罪の成立の要件は,「女子の心身喪失若しくは抗拒不能に乗じ」て姦淫することですが,裁判例等においては,女子の抗拒不能が比較的緩やかに認定されてしまう 傾向にあります。

女性が泥酔状態であった場合,性行為を拒否、あるいは抵抗しなかったというだけでは同意があったとは認められません。女性が明示的に性行為への同意を表示してい た 等の事情が無い限り,「心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ」て姦淫した場合に該当する可能性が高いでしょう。

2 仮に被害者が警察に被害届を訴えた場合,警察としては,まず被害者の供述を聴取し,その供述が信用できると判断すれば,被疑者の逮捕・勾留に踏み切る可能性は 非常に高いといえます。その場合,当然,事前に被疑者に連絡をすることはなく,突然逮捕されてしまうことになります。

その為,逮捕・勾留を回避する為には,相手のようすを伺うのではなく,被害者が捜査機関に被害を申告する前に,自ら積極的に被害者への謝罪と示談の申入れをす ることが必要です。

しかし,被疑者自身が被害者に接触することは,二次被害や証拠隠滅を招きかねない悪質な行為として評価されてしまう危険がありますので,絶対に控えなければなり ません。和解協議を行う場合は,必ず弁護士を通じて行う必要があります。

3 捜査開始前に被害者と示談協議を行う場合,そもそも準強姦罪が成立するのかといった点を検討することは勿論,被害者への配慮,適正な示談金額の範囲等,様々な 事情を考慮して最新の注意を払う必要があります。

その為,経験のある弁護士に依頼することが必須でしょう。

4 ご相談のような性犯罪のケースは,比較的報道等に結びつく傾向が大きく,対応が遅れて一度事件化してしまうと,インターネット記事等により不利益が生涯に渡っ て残存してしまうことも多い種類の事案です。

その為,至急専門家に相談して,迅速かつ適切な対応を取ることを強くお勧め致します。

5 強制性交罪に関する関連事例集参照。

解説:

1 犯罪の成否

⑴ 準強姦罪について

ア 本件のように,泥酔状態の女性と性行為をした場合に成立する可能性がある犯罪としては,準強姦罪(刑法178条2項)が考えられます。

準強姦罪の成立の要件は,「女子の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ」て姦淫することです。心神喪失とは,精神的な障害によって正常な判断能力を失った場合をいい, 抗拒不能とは,心理的又は物理的に抵抗ができない状態を意味します。

酩酊状態で客観的に被害者が姦淫行為を認識していない状況にある場合は,当然に本条に該当することになりますが,この点,どの程度の酩酊状態であれば,心神喪 失・ 抗拒不能と認められるか否かについては,争い が存在します。

しかし,多くの見解によれば,完全に心神喪失・抗拒不能となっている必要はなく,社会通念上,抵抗することが困難と認められる場合には,比較的緩やかに心神喪 失・ 抗拒不能が認定される傾向にあります。裁判例においても,催眠術をかけた場合,医療行為であると騙した場合等,要件が広く解釈されています。

ご相談のように,女性が泥酔状態でほぼ酔い潰れていた場合,明示的に性行為への同意を表示していた等の事情が無い限り,心神喪失若しくは抗拒不能に該当する可能 性 が高いでしょう。

その為,準強姦罪の成立を否定する為には,女性の意識が喪失しておらず,性行為に同意していたこと(または同意があったとそのように誤信していたこと)を積極 的に主張する必要があります。例えば,客観的に見て具体的な酒量が心神喪失状態に陥るほどの量では無かったことや,事件直前の女性の言動が明瞭であり意識が明確で あったこと等の事情があれば,準強姦罪の成立が否定されることになります。

これらの事情が存在するのであれば,念の為,現段階で積極的に証拠化しておくと良いでしょう。証拠化の手段としては,弁護士による面前調書の作成等が考えられま す。

なお,本罪においては,積極的に飲酒させる等して,女性の心神喪失状態を自ら積極的に作出することまでは要件とされておらず,酔い潰れた結果を利用しただけで も, 本罪は成立することになります。

いずれにせよ,本罪では,準強姦罪の嫌疑がかかり得る事案であることはほぼ間違いが無いため,女性が被害を届け出た場合に備えて,適切な対応の準備をしておく必 要 があるといえます。

⑵ 集団強姦罪について

加えて,本件では現場において3人の男性で姦淫行為をしているとのことですので,集団強姦罪(刑法178条の2)の成立も考えられます。

共同して準強姦罪の罪を犯したというためには,たまたま現場に居合わせたというだけではなく,共同して実行する意思が必要です。

しかし,現場に同時に居て,順次姦淫行為を行っている場合には,共同実行の意思が問題なく認められるでしょう。

集団強姦罪の法定刑は,4年以上の有期懲役という非常に重いものになります。

その為,より慎重かつ適切な対応が求められることになります。

⑶ 想定される経過

ここで,仮に被害者が警察に被害届を訴えた場合に想定される流れについて説明致します。

警察としては,まず被害者の供述を聴取し,その供述が信用できると判断すれば,被疑者の逮捕・勾留に踏み切る可能性は非常に高いといえます。

その場合,証拠隠滅や供述の口裏合わせを防止する為に,被疑者に対する任意捜査は行わず,突然,警察が家に来て逮捕される,という可能性も非常に高い類型の事案 で す。

逮捕・勾留は,捜査の為の手続であり,準強姦罪の成否が微妙なケースでも,比較的容易に認められてしまう傾向があります。

この点,本件では,女性が酒に酔った状態で,男性複数名で性行為をしているということは事実ですから,少なくとも準強姦罪の疑う相当な理由は存在するでしょ う。

その為,被害者の供述をもとにして,逮捕状を取得することは十分に可能ですし,共犯者3名による準強姦罪ということを考えれば,逮捕後20日間の勾留を受け る可能性や,逮捕時に事件が新聞やインターネット等で報道されるは,非常に高いといえます。

2 本件における対応

⑴ 示談協議について

上述のとおり,本件では,準強姦罪さらには集団強姦罪が成立する可能性が高く,同罪による逮捕・勾留等の手続による不利益が甚大なものとなる可能性も高い状況で す。

これらの不利益を回避する為には,被害者が捜査機関に被害を申告する前に,被害者の方に十分な謝罪及び賠償をし,適切な形で和解協議を成立させることが必要 です。集団強姦罪は親告罪ではありませんが,被害者との間で示談が成立していれば,事件化する可能性は非常に小さくなります。

本件のような事案では,被害者が警察に被害を申告した場合は,秘密裏に捜査が進められ,突然に逮捕に至るという可能性も非常に大きいため,被害者からの連絡を待 つ のではなく,こちらから積極的に謝罪と被害弁償の申出を行う必要が高いといえます。

しかし,被疑者自信が被害者に接触することは,二次被害や証拠隠滅を招きかねない悪質な行為として評価されてしまう危険があります。従って,和解協議を行う場合 は,被害者の心情に最大限配慮した上で,必ず弁護士を通じて行う必要があります。

なお,ケースによっては,被害者の連絡先が判らない場合や,既に被害者に被害届を出されてしまっているケースもあります。そのような場合は,担当警察署(現 時点では、どの警察に被害届出がなされているかは不明のための場合は現場又は被害者の住所付近の警察署)に対して,事件取り扱いの報告が無いか確認しておくことも 重要です。

通常ですと,警察は,逮捕の間際まで事件取り扱いを隠し,弁護人であっても問合せに応じません。しかし,警察も虚偽の回答をすることは(建前上)できません ので,弁護士が直接警察署で問合せを行うことによって,担当課の刑事の様子や反応から,当該被害者が被害届を出しているかある程度覚知できる場合もございます。

また,まだ被害届が出されておらず,被害者が相談しているに過ぎない場合等では,謝罪の意向を警察から被害者に伝えて貰うことができる場合も極稀に存在します。

いずれにせよ重要なことは,警察の捜査が進展する前に迅速に対応を開始することであるといえるでしょう。

この種の事案においては,被害者からの示談金の要求が,非常に高額になる場合もございます。1000万円以上の示談金を請求される場合も少なくありません。 その為,弁護士には,被害者の感情に配慮し事件化を避けつつ,適正妥当な範囲に示談金を抑える技量も強く求められることになります。

また、女性の年齢を確認しておく必要もあります。未成年者の場合は示談の交渉はその親権者(通常の場合は両親)と行う必要があります。

⑵ 共犯者同士の関係について

なお,本件では,共犯者が複数存在しておりますが,仮に他の共犯者に示談の意思が無い場合でも,相談者自身だけでも積極的に示談をした方が良いでしょう。例 え単独でも示談が成立していれば,逮捕等に発展する可能性は小さくなります。その場合の示談金についてですが,民事上は,共犯者の一人でも,被害者に対しては全額の損害賠 償義務を負うことになります(民法719条)ので,示談金も単独で準備する必要があります。準備が難しい場合等は,担当弁護士と良く協議して下さい。

一方,共犯者全員の意見が一致する場合には,全員で示談協議を行えば,協力し合って十分な示談金を準備できますので,示談成立の可能性が高まることになります。

ただし共犯者同士は,罪のなすりつけ合い等の危険があるため,利益が対立する関係にあるため,三人全員が同じ弁護士に依頼するのは危険な場合も存在します。

弁護士を選任する場合には,あくまであなた自身の依頼に基づいて活動してくれる弁護士かどうか,十分に確認する必要があり,安易に共犯者の選んだ弁護人に依 頼することには慎重になるべきでしょう。

⑶ 犯罪の成立に疑義が残る場合の対応

犯罪の成立に疑義が残る場合(それほど酔っておらず、性行為について同意しており犯罪にはならないという場合)に,和解協議を行うべきか否かは,非常に難しい 問題です。

和解協議を持ちかけることは,犯罪の成立を認める行為と捉えられかねない危険もありますが,一方で,被害者対応を放棄してしまうと,逮捕・勾留・報道といった実 質 的不利益の大きい被害が発生してしまう見込みが高いことは,如何ともしがたい部分があります。

その為,上記1⑴で述べたような,客観的な状況(酒量や言動等)を証拠化しておく作業と並行して,被害者に和解協議を申し入れることも,十分検討すべきで しょう。

この場合,和解協議を行う場合でも,どの範囲で事実関係を認めるかは,最大限十分に検討する必要があります。加えて,示談協議においては,準強姦罪の成否,被害 者 への配慮,適正な示談金額の範囲等,様々な事情を考慮して最新の注意を払う必要があります。

その為,経験のある弁護士に依頼することが必須でしょう。

3 まとめ

ご相談のような性犯罪のケースは,比較的報道等に結びつく傾向が大きく,対応が遅れて一度事件化してしまうと,インターネット記事等により不利益が生涯に渡って 残存してしまうことも多い種類の事案です。

相手の様子を伺ったり,連絡を待ったりする等して対応が一手遅れてしまうだけでも,取り返しのつかない不利益となってしまうことも多くございます。

至急専門家に相談して,迅速かつ適切な対応を取ることを強くお勧め致します。

以上

関連事例集

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※参照条文

≪刑法≫

(準強制わいせつ及び準強姦)

第二百四十六条 司法警察員は、犯罪の捜査をしたときは、この法律に特別の定のある場合を除いては、速やかに書類及び証拠物とともに事件を検察官に送致しなければならない。但し、検察官 が指定した事件については、この限りでない。

(集団強姦等)

第百七十八条の二 二人以上の者が現場において共同して第百七十七条又は前条第二項の罪を犯したときは、四年以上の有期懲役に処する。