No.1744| 

代表取締役を辞任する手続|選任方法による辞任手続の違い

商事|代表取締役を辞任できない場合もあるか|代表取締役のみを辞任する場合と取締役も併せ辞任する場合の手続の違い|権利義務取締役の意味|昭和54.12.8民事第四 6104号回答・最判昭和43.12.24民集22巻13号3334頁

目次

  1. 質問
  2. 回答
  3. 解説
  4. 関連事例集
  5. 参照条文

質問

私は友人と設立した会社の代表取締役になっています。今回、代表取締役を辞めたい旨を友人に伝えたところ、辞めることはできないと言われました。辞めることができないということはあるのでしょうか。辞める方法はないのでしょうか。

回答

1 貴方が代表取締役のみを辞任して平取締役になりたいのか、あるいは、代表取締役はもちろん平取締役の地位も辞して経営から手を引きたいのかで方法も結論も異なります。ご自身がどのようにしたいのかを明確しておくことが必要です。

2 まず、取締役の辞任についてですが、会社に対して辞任の意思表示をすることによりいつでも辞任することができます。取締役を辞任すれば必然的に代表取締役についても辞任となります。

但し、辞任したとしても、会社の取締役の員数が法令あるいは定款に定める員数に足りないこととなった場合には、引き続き「権利義務取締役」としてその職に留まり、その職務を果たさなければなりません。辞任してもこの「権利義務取締役」となった場合には、会社の登記事項には何の変更も生じません。つまり、会社登 記の外観上も貴方が辞任したか否かに関係なく取締役であることに変わりは無いのです。権利義務取締役を解消するには後任の取締役を選任するか、あるいは、定款の員数規定を変更することが必要になってきます。

3 次に代表取締役の地位のみを辞任する場合には、代表取締役の選任方法によって①そもそも代表取締役のみの辞任ができないケース、②辞任の意思表示のみで辞 任できるケース、③辞任の意思表示に加えて定款変更あるいは株主総会の決議が必要なケースがあります(詳しくは解説第2の1を参照して下さい)。

なお、取締役を解任された場合や取締役を辞任し権利義務取締役にはならなかった場合には、他に代表取締役がおらず、後任の代表取締役就任前であっても代表 取締役としての地位を失います。

4 以上のとおり、取締役あるいは代表取締役の地位を辞任し、権利義務取締役あるいは権利義務(代表)取締役としても留まることなく職務から解放されるか否かは、役員の員数規定や後任者の選任、選任方法など多岐に渡り検討する必要があります。貴方がその会社の株主であるか否か、株主であればどの程度の株式を保有するのか否かでも方法が変わってきます。

まずは、会社の登記事項証明書、定款、株主名簿などを持参のうえ、お近くの法律事務所にご相談されると良いでしょう。

解説

第1 取締役と代表取締役の関係

まず、今回問題となっている取締役と代表取締役の関係についてご説明します。

代表取締役の地位というものは取締役の地位を有することを前提とするものとされています。これは代表取締役の選任は、まず、株主総会において取締役を選出したのち、

①取締役会非設置会社

(ア)代表取締役を定めないこととした場合には、当該取締役が取締役就任と同時に当該会社の代表権を有することとなります(法第349条1項、代表権のある取締役)。

(イ)代表取締役を定める場合には、(ⅰ)株主総会で選任された取締役の中から、定款または株主総会決議、あるいは(ⅱ)取締役の互選(以上法349条3項)によって選出するとされています。

②取締役会設置会社

(ウ)原則は取締役会の決議において選任されます(法第362条3項)。

(エ)ただし、定款に特段の定めがある場合には、株主総会によって(法295条2項)代表取締役を選任されます。

以上のとおり、代表取締役は取締役の地位を前提とする地位であることから、当然ですが、取締役の地位を辞したけれども代表取締役としては残る、ということは できません。またひとくちに代表取締役といっても、必ず株主総会で選任される取締役と違い、その選任に当たってはいくつかの方法が存在します。

この選任の方法は辞任の際にも影響を及ぼします。つまり、貴方が代表取締役だけの地位を辞して取締役としては残りたいのか、あるいは取締役としても代表取締役としても地位を辞したいのか、そしてそれが可能か否かは、上記のどの方法で選任されたかによって結論が異なってくるということです。

会社法第295条(株主総会の権限)
第1項 株主総会は、この法律に規定する事項及び株式会社の組織、運営、管理その他株式会社に関する一切の事項について決議をすることができる。
第2項 前項の規定にかかわらず、取締役会設置会社においては、株主総会は、この法律に規定する事項及び定款で定めた事項に限り、決議をすることができる。
第3項 この法律の規定により株主総会の決議を必要とする事項について、取締役、執行役、取締役会その他の株主総会以外の機関が決定することができることを内 容とする定款の定めは、その効力を有しない。

第349条 (株式会社の代表)
第1項 取締役は、株式会社を代表する。ただし、他に代表取締役その他株式会社を代表する者を定めた場合は、この限りでない。
第2項 前項本文の取締役が二人以上ある場合には、取締役は、各自、株式会社を代表する。
第3項 株式会社(取締役会設置会社を除く。)は、定款、定款の定めに基づく取締役の互選又は株主総会の決議によって、取締役の中から代表取締役を定めること ができる。
4 、5(略)

(取締役会の権限等)
第三百六十二条 取締役会は、すべての取締役で組織する。
2 取締役会は、次に掲げる職務を行う。
一 取締役会設置会社の業務執行の決定
二 取締役の職務の執行の監督
三 代表取締役の選定及び解職
3 取締役会は、取締役の中から代表取締役を選定しなければならない。
4 、5(略)

第2 辞任

(代表)取締役の退任事由には任期満了、辞任、死亡、解任、資格喪失(取締役の欠格事由に該当することとなった場合)があります。

このうち、辞任については、その意思表示は自由にできるとされ(民法第651条1項)、その意思表示が会社に到達した日に退任(委任契約解除)の効果が生じるとされています(昭和 54.12.8民事第四6104号回答)。

辞任という意思表示は、会社に対する一方的な意思表示であり、意思表示に関する原則の民法97条1項の到達主義に従うとされています。つまり、貴方は、原則として、ご友人の意見や会社の状況に左右されることなく会社に対して辞任の意思表示をして退任の効果を発生させることができるのです。ただし、会社と取締役の関係は委任契約の関係(会社法330条)に立つので、解除により会社に損害を生ずる時は賠償しなければなりません(民法651条2項)。

民法

第97条(隔地者に対する意思表示)
第1項 隔地者に対する意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる。
第2項(略)

第651条(委任の解除)
第1項 委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる。
第2項 当事者の一方が相手方に不利な時期に委任の解除をしたときは、その当事者の一方は、相手方の損害を賠償しなければならない。ただし、やむを得ない事由 があったときは、この限りでない。

会社法

第330条(株式会社と役員等との関係)株式会社と役員及び会計監査人との関係は、委任に関する規定に従う。

1 代表取締役の地位のみを辞任したい場合

代表取締役の地位のみ辞任したい場合には、その選任方法によって可否が異なります。代表取締役の地位については、①そもそも代表取締役のみの辞任ができない ケース、②辞任の意思表示のみで辞任できるケース、③辞任の意思表示に加えて定款変更あるいは株主総会の決議が必要なケースがあります。

① 代表取締役のみの辞任ができないケース(上記第1①(ア))

取締役会非設置会社において、代表取締役を定めないこととした場合には、取締役全員がその選任就任と同時に全員が代表権のある取締役(「各自代表」と言われ ます)に就任することになります。この場合には代表権のある取締役については特別な選任行為が行われておらず(登記実務上、代表権のある取締役の就任登記に際 して、代表取締役としての就任承諾書は不要とされている)、取締役=代表取締役であることから代表取締役の地位のみの辞任は認められていないのです。よってこのケースで選任されている場合には、取締役の地位をも辞任する必要があります。

②辞任の意思表示のみで辞任できるケース(上記第1①(イ)(ⅱ)、第1②)

代表取締役の地位のみを自分の意思表示のみ辞任できるのは、第1②の取締役会設置会社における代表取締役か、あるいは、取締役会非設置会社における第1①(イ)(ⅱ)の取締役の互選によって選任された代表取締役のみです。

この二つの選任方法は、代表取締役について選任行為があり(登記実務上も別途代表取締役としての就任承諾書を添付して就任の登記がされる)、代表取締役と取締役の地位が分化しているため、代表取締役の地位のみの辞任が可能とされています。

③辞任の意思表示に加えて定款変更あるいは株主総会の決議が必要なケース(上記第1①(イ)(ⅰ))

取締役会非設置会社で、第1①(イ)(ⅰ)の定款または株主総会で代表取締役を定めた場合には、代表取締役の地位のみを自分の意思表示のみで辞任することはできません。

取締役会非設置会社においてその選任方法の違いによって代表取締役のみの辞任の方法が異なるのは、会社法下においても有限会社法下での登記実務の考えを引き継いだものといわれています。

有限会社における取締役はそもそも各自が代表権を有すると考えられていて、取締役が一人しかいない場合にはもちろん複数いる場合でも代表権の制限さえなければ、「代表取締役」という地位すらありませんでした。これは、有限会社における代表取締役は、代表権を付与したということではなく、代表取締役以外の取締役の代表権を制限した、という考え方にたっているためです。つまり、代表取締役を取締役とは別個独立した地位とはみなしていないということになります。そして、他の取締役の代表権を制限する場合には、定款の変更あるいは社員総会の決議が必要とされていました。

このことから、会社法下において、これらの方法で代表取締役となった場合には、定款あるいは株主総会の決議によって会社の一方的意思により代表取締役とされたもので、代表取締役として選ばれた取締役は取締役としての就任承諾が同時に代表取締役への就任承諾でもある(登記実務上も代表取締役について取締役とは別個の就任承諾は不要)とされ、取締役と代表取締役の地位が一体化したものと考えられています。

このため、この選任方法による代表取締役がその地位のみを辞任する場合には、定款で定められた代表取締役については株主総会における定款変更決議、株主総会で選定された代表取締役についてはその承認決議が必要とされているのです。

2 代表取締役はもちろん取締役も辞任したい場合

取締役の辞任については、1の代表取締役のような選任方法による制限はなくいつでも可能です。なお取締役を辞任した場合には、代表取締役としての前提 資格を失うことになりますので、代表取締役についても当然退任することになります。

第3 権利義務(代表)取締役

以上のとおり、取締役や代表取締役の辞任についは、委任の性質上原則いつでも可能です。

しかし、(代表)取締役の自由意志による辞任を認めるのみだと、定款や法令に定める取締役の員数を欠くことにより、会社の円滑な運営が望めなくなったり、 会社(株主)及び取引相手等に不測の損害を与えることがあります。

そこで会社法では、権利義務(代表)取締役という規定を設け、(代表)取締役の員数が定款あ るいは法令に定める員数に欠けた(足りない)場合には、辞任及び任期満了により退任した取締役については、新たに(代表)取締役が選任されるまでは引き続き (代表)取締役としての権利義務を有するとして、会社への不測の損害が生じないようにしています(法346条1項)。「権利義務を有する」とは、権利=権限を 持ち、かつ、義務を負担するという意味で、結局のところ、法的には「辞任していないのと同じ状態」ということになります。

会社法第346条(役員等に欠員を生じた場合の措置)
第1項 役員(監査等委員会設置会社にあっては、監査等委員である取締役若しくはそれ以外の取締役又は会計参与。以下この条において同じ。)が欠けた場合又は この法律若しくは定款で定めた役員の員数が欠けた場合には、任期の満了又は辞任により退任した役員は、新たに選任された役員(次項の一時役員の職務を行うべき 者を含む。)が就任するまで、なお役員としての権利義務を有する。
2 ~8(略)

登記実務においては、取締役の辞任または任期満了による退任登記が申請された際に、当該会社の取締役の員数規定がどのようになっているのかについてまで登記官が調査することはありません(退任登記申請の際に、取締役の員数規定を証明する為の定款は添付しません)が、取締役会非設置会社においては取締役が0名となる退任登記、取締役会設置会社においては取締役が2名以下となる退任登記については、後任者の就任の登記と同時でなければ退任の登記を受理しないとされてい ます(最判昭和43.12.24民集22巻13号3334頁)。

なお、権利義務取締役となるのは「辞任」「任期満了」のみですので、「死亡」はもちろん、会社から「解任」された場合、欠格事由に該当することとなり「資格喪失」をした場合については、当然に取締役あるいは取締役の地位を失うことになります。

株式会社変更登記申請却下処分取消請求事件(昭和43年12月24日最高裁第三小法廷判決)

『商法一八八条二項、三項、六七条によれば、株式会社の取締役または監査役の辞任は登記事項の変更にあたり、会社はその登記をしなければならないことはいう までもない。しかし、商法二五八条一項、二八〇条によれば、法律または定款に定めた取締役または監査役の員数を欠くに至つた場合においては、任期満了または辞 任によつて退任した取締役または監査役は、新たに選任された取締役または監査役の就職するまでなお取締役または監査役の権利義務を有するのであるから、このよ うな者については、退任による変更登記をしたままにしておくことは取引の安全の見地からみて適当なことではなく、退任者がなお取締役または監査役の権利義務を 有することを登記公示することが必要であると解せられる。しかるに、法律においては、この特別な場合に関する登記公示について明文の規定を欠いているので、こ のような場合には、取締役または監査役の権利義務を有する退任者につき、登記簿上なお取締役または監査役の登記を存続させておくべきものと解することは前叙の 見地からして合理的理由があるというべきである。従つて、取締役または監査役の任期満了または辞任による退任があつても、商法二五八条一項の適用または準用を みる場合においては、いまだ同法六七条に定める登記事項の変更を生じないと解するのが相当である。そして、以上のように解することは、利害関係人や一般公衆に 対し取引上重要な事項を知らしめて不測の損害を防止することを目的とする商業登記制度の趣旨にもとるものではない。』

第4 具体的手続について

以上のとおり、貴方はいつでも取締役を辞することはできます。但し代表取締役の職のみを辞任したいという場合は代表取締役の選任の方法によってもその辞任の方法が異なってきます。

また取締役はいつでも辞任することができる一方で法令あるいは定款の員数を欠く場合には権利義務取締役あるいは権利義務代表取締役として、実質的に役員とし ての責任を負い、登記簿上も役員としての名前が残ります。

ご友人のいう、辞められない、という意味が辞任の意思表示をしても権利義務取締役あるいは権利義務代 表取締役になるから実質的には辞められないということであれば、権利義務を解消する方法を探っていく必要があります。

まずは、会社の登記事項証明書を手に入れて、会社の機関設計(取締役会が設置されているか否か、現在の取締役、代表取締役の員数)を確認しましょう。会社の 登記事項証明書は、ネットで請求取得することもできますし、お近くの法務局で取得することもできます。法務局では会社の本店の場所に関係なく登記事項証明書を 取得することができますので、北海道に本店のある会社の登記事項証明書を東京の法務局で取得することも可能です。

取締役会設置会社であるか否かは、登記事項証明書の下部に「取締役会設置会社」との記載があれば、取締役会が設置されている会社であり、記載がなければ取締役会非設置会社であることがわかります。

次に会社の定款を手に入れましょう。定款は本来会社に備え付けられているはずのものですので、設立時の書類に混ざって保管され手いる可能性が高いです。定款 の原本は認証を受けた公証役場に保管されていますのでそちらに問い合わせてもいいですし、設立登記を司法書士等に依頼していればそちらに定款のコピーなどが保 管されている可能性が高いので問い合わせてみるといいでしょう。

定款が手に入ったら、「役員について」や「機関」に関する条項が見受けられるはずですのでそこに記載された条文の内容を確認します。

1 ①取締役会非設置会社であった場合

取締役会非設置会社であった場合には、代表取締役については、(ア)代表取締役を定めないこととした場合には、当該取締役が取締役就任と同時に代表取締役に 就任(法第349条1項)するか、あるいは(イ)代表取締役を定める場合には、(ⅰ)株主総会で選任された取締役の中から、定款または株主総会決議、あるいは (ⅱ)取締役の互選(以上法349条3項)によって選出するとされています。

貴方の会社が上記のどれに該当する会社であるかを会社の登記事項証明書と定款の条文から確認する必要があります。

(ア)の代表取締役を定めず、取締役の各自代表とされている場合

「代表取締役を定めない」というのは、代表取締役として特別に選定行為をしない、ということであって、「代表取締役」という肩書きの者が会社にいないとい う訳ではありません。

定款に「取締役が2名以上ある場合には、取締役の互選で代表取締役を選定する」「当会社の取締役がX名の場合にはその者(ら)が代表取締役となり、 (X+1)名以上ある場合には取締役の互選により代表取締役Y名を選定する。」等の規定がある場合で、実際には取締役が1名あるいは最低員数のX名のみでその 者が代表取締役として登記されている場合がこれに該当します。取締役が特別の選定行為なくしてそのまま代表取締役に就任するというものです。

この場合には、代表取締役のみを辞任することはできず、取締役の地位を辞することによってのみ代表取締役の地位を退くことができます。

ここで大切なのは貴方の辞任によって取締役の最低員数を欠き、結果として権利義務取締役となるのを防ぐ為に、辞任の意思表示と前後して、後任の取締役を選任する必要があることです。

取締役を選任するには、株主総会の決議が必要です(法第329条1項)。取締役の選任については、定足数は原則として議決権の過半数以上でその過半数以上の賛成(定款に別段の定めがあれば、定足数を3分の1まで引き下げることができます)によって選任されます(第309条1項/第304 条)。

取締役であれば必要があればいつでも株主総会を招集することができます(第296条2項3項)ので、貴方が自ら臨時株主総会を招集し、後任取締役の選任 について決議を得るという方法がオーソドックスな方法になります。貴方も株主であるのなら、原則として取締役の選任についてはその持ち株数に応じて議決権を行使することができますので、自分の意志で次の取締役を選任することが可能です。

そして無事後任の取締役が選任されればその就任登記と同時にあなたの取締役及び代表取締役の辞任の登記が受理されることとなります。

会社法第329条(選任)
第1項 役員(取締役、会計参与及び監査役をいう。以下この節、第三百七十一条第四項及び第三百九十四条第三項において同じ。)及び会計監査人は、株主総会の 決議によって選任する。
2 、3(略)
第309条(株主総会の決議)株主総会の決議は、定款に別段の定めがある場合を除き、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席 し、出席した当該株主の議決権の過半数をもって行う。
(以下、略)

第296条 (株主総会の招集)
第1項(略)
第2項 株主総会は、必要がある場合には、いつでも、招集することができる。
第3項 株主総会は、次条第四項の規定により招集する場合を除き、取締役が招集する。

第341条(役員の選任及び解任の株主総会の決議)第三百九条第一項の規定にかかわらず、役員を選任し、又は解任する株主総会の決議は、議決権を行使すること ができる株主の議決権の過半数(三分の一以上の割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数 (これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)をもって行わなければならない。

(イ)代表取締役を定める場合で(ⅰ)株主総会で選任された取締役の中から定款または株主総会決議によって選任するとされている場合

定款に「当会社の代表取締役は定款によって定めるものとする」あるいは「当会社の代表取締役は株主総会によって選定するものとする」等の規定がある場合です。

定款あるいは株主総会によって定められる代表取締役は、前述のとおり、会社の一方的意思表示によって代表権を有する取締役に決定されるので、取締役としての就任承諾の意思表示には代表取締役としての就任承諾が含まれるとされています。このため、代表取締役の地位のみを辞任する場合には、定款の変更あるいは株主総会の承認決議が必要とされますが、定款で定められた代表取締役については定款変更決議となり、決議要件も普通決議ではなく特別決議になりますので注意が必要です。

代表取締役だけでなく取締役としても地位を辞任する場合には、貴方の辞任によって定款に定められた取締役の最低員数を欠く場合には、権利義務取締役になってしまいますので、これを防ぐために辞任の意思表示と前後して後任の取締役を選任しておくことが必要になります(株主総会の招集等についての詳細は上記(ア)後半のとおり)。

なお、貴方が取締役としても辞任し、その辞任によっても取締役の員数が満たされていて権利義務取締役とはならずに退任となった場合には、仮に貴方の辞任によって代表取締役の員数が足りなくなったとしても取締役としての地位を有しない以上、代表取締役の地位を保有し続けることはできませんので、代表取締役について権利義務代表取締役となることなく取締役も代表取締役も辞任することができます。

(イ)代表取締役を定める場合で(ⅱ)取締役の互選によって選出するとされている場合

この場合には定款の代表取締役の選定方法について「互選」という用語が用いられています。この方法による場合には、取締役と代表取締役の地位の分化がはっきりしていますので、代表取締役の地位のみについても辞任の意思表示のみで退任することができます。

貴方の代表取締役の辞任の意思表示によって代表取締役の員数を欠くこととなる場合には、権利義務代表取締役となります。この場合にはやはり辞任の意思表示と前後して取締役の互選、つまり、取締役の過半数の一致によって後任の代表取締役を選定し、その就任登記をすることによって貴方の代表取締役の辞任の登記が可能となります。

互選によって代表取締役が選定される場合には、取締役が最低でも2人いることになります。もし、もう一人の取締役の協力を得られない場合には、後任の代表取締役を選定することが事実上難しくなりますので、株主総会で新たに取締役を選任して、取締役を3人として改めて選定行為を行う必要が出てくる場合もあるでしょう。

更に、もし定款で取締役の員数規定が2人となっている場合には、株主総会で定款変更決議をして取締役の員数規定を増員する変更手続きが必要となるかもしれませんので注意が必要です。

2 ②取締役会設置会社であった場合

(ウ)取締役会の決議あるいは定款に特段の定めがある場合には株主総会決議によって(法295条2項)代表取締役を選定します。

取締役会設置会社における代表取締役の選定についてはそれが定款の定めにより株主総会決議によって選任された場合であったとしても、別途就任承諾が必要とされています。よって、取締役会非設置会社における株主総会決議によって選任された代表取締役と異なり、取締役会設置会社における代表取締役は辞任の意思表示のみで代表取締役のみの地位を辞することが可能とされています。

貴方が取締役としても辞任する場合に、辞任によって法令(3名以上)又は定款に規定された員数に足りないこととなり、役員としての権利義務が生じる場合には、他のケース同様に権利義務を解消する為に新たに取締役を選任し、その就任登記と同時に辞任の登記を申請する必要があります。

そして、取締役として員数規定を満たしているのであれば、代表取締役の員数を欠くことがあっても、取締役の地位を退任している以上、代表取締役の地位を保ち続けることができないのも他のケースと同様です。これは、取締役の員数規定を満たしている以上は有効な取締役会を開催して次の代表取締役を選任することは容易だからでもあります。

そして、 代表取締役の地位のみを辞任したいということであれば、取締役会は取締役であれば誰でも招集できます(会社法第366条)ので、後任の代表取締役を選定するため取締役会を開催して、新しく代表取締役を選任します。

会社法第366条(招集権者)
第1項 取締役会は、各取締役が招集する。ただし、取締役会を招集する取締役を定款又は取締役会で定めたときは、その取締役が招集する。
第2項 前項ただし書に規定する場合には、同項ただし書の規定により定められた取締役(以下この章において「招集権者」という。)以外の取締役は、招集権者に 対し、取締役会の目的である事項を示して、取締役会の招集を請求することができる。
第3項 前項の規定による請求があった日から五日以内に、その請求があった日から二週間以内の日を取締役会の日とする取締役会の招集の通知が発せられない場合 には、その請求をした取締役は、取締役会を招集することができる。

第5 最後に

貴方が代表取締役あるいは取締役を辞任し、権利義務(代表)取締役にもなることなく退任登記をするまでには会社の機関設計や定款の定めによって手続や方法が 異なります。

取締役を辞任したことによって権利義務取締役となる場合には、後任取締役の選任し、その選任登記が必要になります。取締役の選任は株主総会の専決事項ですの で、株主総会決議を得なくてはなりません。この場合、貴方が会社の株式の過半数を有していれば、さほどの問題なく新たな取締役を選任し、更には代表取締役の選 任に関する手続についてまでも粛々と進めることが可能です。

しかし、もし貴方が株主ではない、あるいは株式をもっていても発行済み株式総数の半数以下の株式数しかもっていない場合には、少数株主権によって株主総会を招集することが可能(会社法第295条)であったとしても貴方一人では有効な株主総会を開催することができず、当然各種決議をすることができないということに なり、辞任したとしても権利義務取締役の地位に留まることになってしまいます。

同じように、取締役会非設置会社の代表取締役で定款又は株主総会決議によって選定される場合にも辞任について株主総会の決議を必要としますので、この場合にもやはり過半数以上の株式を保有していない場合には手続が止まってしまいます。

そうなりますと最後は、当該会社の株主との交渉次第ということにならざるを得ません。

まずは、当該会社の登記事項証明書と定款を確認して、ご友人が辞められないと言っている理由が権利義務(代表)取締役となるからなのか、それとも他の事情であるのかを確認する必要があります。

もし、権利義務(代表)取締役となってしまう、ということであれば、後任(代表)取締役を選任するよう株主総会の招集、開催手続などを検討していく必要があります。

ただ単に辞められないというのが、例えばそれが銀行融資の保証に関する問題や取引先との関係で、ということであるのなら、その障害を取り除いていくよう関係各所と交渉をして、円満にその職を辞する方法を模索していくことも考えられます。

法律事務所では、退任登記手続きを含む、株主や他の取締役との退任交渉についてご相談、ご依頼を受けることが可能です。是非一度関係資料をご持参の上、ご相談ください。

以上

関連事例集

  • その他の事例集は下記のサイト内検索で調べることができます。

参照条文

会社法

第297条(株主による招集の請求)
第1項 総株主の議決権の百分の三(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の議決権を六箇月(これを下回る期間を定款で定めた場合に あっては、その期間)前から引き続き有する株主は、取締役に対し、株主総会の目的である事項(当該株主が議決権を行使することができる事項に限る。)及び招集 の理由を示して、株主総会の招集を請求することができる。
第2項 公開会社でない株式会社における前項の規定の適用については、同項中「六箇月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き 続き有する」とあるのは、「有する」とする。
第3項 第一項の株主総会の目的である事項について議決権を行使することができない株主が有する議決権の数は、同項の総株主の議決権の数に算入しない。
第4項 次に掲げる場合には、第一項の規定による請求をした株主は、裁判所の許可を得て、株主総会を招集することができる。
一号 第一項の規定による請求の後遅滞なく招集の手続が行われない場合
二号 第一項の規定による請求があった日から八週間(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)以内の日を株主総会の日とする株主総会の招集 の通知が発せられない場合