温泉権の法律問題
民事|温泉権の法的性質|温泉権は債権か物権か、温泉権の対抗要件・工事方法|山形地方裁判所昭和43年11月25日判決他
目次
質問
温泉権付き別荘の購入を検討しています。温泉権付きとはどのようなものでしょうか。通常の別荘の購入との違い、注意点を教えてください。
回答
1 温泉権とは、地上に湧出した温泉を利用することができる権利です。温泉権を有していれば、購入した別荘で温泉を利用することができます。旅館やホテルが温泉を利用する場合にもこの温泉権が必要になります。
2 温泉権は債権である場合と物権である場合があります。どちらの温泉権であっても独立した権利として土地や家屋の権利とは別に売買取引の対象となります。
債権としての温泉権と物権としての温泉権の違いは、債権の場合は物権としての温泉権を有している人に対して温泉を利用することを請求する権利であり、物権としての温泉権は温泉を直接支配する権利です。
別荘を購入する場合の温泉権は源泉から温泉を引き込む権利でしょうから、一般的には債権としての温泉権と考えて良いでしょう。但し、場合によっては別荘地の開発業者が温泉を掘削したような場合には開発業者が物権的な温泉権を取得しそれを、別荘地の分譲の際に、譲渡している場合もありますから、一概に債権なのか物権なのかを決めることできませんので、温泉権の内容について確認が必要です。いずれにしろ、契約書をよく読まれて今回購入予定の別荘の温泉権が債権であるのか、あるいは物権であるのかを確認しておいたほうがよいでしょう。
物権としての温泉権の場合は対抗要件を備えていないと第三者に処分されてしまう場合もありますので注意が必要です。
3 温泉権を有していれば温泉を利用する権利がありますが、実際に温泉の湧き出ているところから利用する予定の別荘まで現実に引いてくることが可能か否かについても契約書の内容から判断しておく必要があります。
4 今回の売買にあたっての不安な点、不明な点等について、契約書のチェックや現地の調査、有効な対抗要件が備えられているか等、周辺の法律関係調査について関係書類をご持参のうえお近くの法律事務所でご相談ください。
解説
1 温泉権とは
温泉権とは、温泉の湧水を利用する権利をいいます。温泉権を有していれば、別荘や旅館で温泉を利用することができます。
温泉権は、建物の利用に際して用いられるものですが、社会的に価値が高いものとされ、また、温泉が無くても建物を利用することが可能であることから、建物に密接不可分の「従物(民法87条)」にはあたらず、土地建物とは別個の取引対象となると解釈されています。
民法第87条(主物及び従物)
第1項 物の所有者が、その物の常用に供するため、自己の所有に属する他の物をこれに附属させたときは、その附属させた物を従物とする。
第2項 従物は、主物の処分に従う。
ですから、現在温泉が利用できる別荘(建物所有権)を購入したとしても、購入後に当然に温泉を利用できるわけではありません。温泉も引き続き利用したい場合には、別途温泉権も購入しておく必要があるのです。
温泉権とよばれているものには、権利の内容からして「債権」である場合と「物権」である場合とが存在します。どちらの場合であっても、温泉を利用し、今回のご相談のように売買取引の対象とすることができます。しかし、当該温泉権が債権である場合と物権である場合とではその性質が全く異なってきますので、売買に当たっては今回の温泉権がどちらの種類のものであるのかを確認し、その特徴を理解しておくことが大切です。
2 債権としての温泉権と物権としての温泉権
①債権である場合と②物権である場合と分けて説明します。債権とは人に対して請求する権利であり、物権は物を支配する権利です。
(1) 温泉権が債権である場合
①の債権である場合とは、温泉の湧き出ている土地の所有者から湧き出ている温泉を毎月決められた数量を購入する契約等を締結することにより温泉権を得る場合です。所有者に対して契約等に基づいて温泉を利用させることを請求する権利です。この場合の温泉権については、民法の基本原則である「契約自由の原則」により、当事者間で自由に温泉権の内容(契約内容)を定めることができます(民法第90条、91条)。
民法第90条(公序良俗) 公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする。
第91条(任意規定と異なる意思表示) 法律行為の当事者が法令中の公の秩序に関しない規定と異なる意思を表示したときは、その意思に従う。
温泉権が債権である場合には、上記のとおり温泉の湧き出る土地の所有者と直接契約して温泉権を取得する場合の他、通常の債権と同様、既に存在する温泉権について債権者から譲渡を受けることも可能です(債権譲渡)。
但し、当該温泉権について当初の契約で譲渡禁止特約が付されている場合には、原則として譲渡は無効となり、温泉権を譲り受けることはできませんので注意が必要です。この場合は、温泉権者との間で、新たに、温泉の利用を許可する債権契約を締結する必要があります。債権としての温泉権を取得する場合は、契約の前にと当該温泉の物権として温泉権者に連絡して譲り受けることができるのか確認する必要があります。
(2) 温泉権が物権である場合
次に温泉権が②物権である場合についてご説明します。
物権の温泉権は、実際の取引においては①の債権の場合より広く取引されています。しかし、この物権の温泉権について、法律上どこにも明確な規定がありません。なぜこの点が問題になるのかというと、わが国の民法では「物権法定主義(民法第175条)」が設けられていて、法律に定めるもの以外の物権は認めらないとされているからです。つまり、物権法定主義に従えば、法律に定めのない「温泉権」は債権として存在することがあっても、物権として存在することはない、ということになります。
しかし、一方で長年に渡る慣習が広く知れ渡り、それについて判例が積み重ねられた場合には、それらの慣習は「慣習法」として認められます。そして「慣習法」も「法規範」として扱われますので、その慣習は明文化された法律がなくても法律と同様の効力を有するとされています。物権的性質をもつ温泉権は、その慣習が広く知れ渡り、過去の判例が積み重ねられることによって慣習法として認められ、現在では慣習法上の物権として取引の対象となっているということになります。本法の民法典で慣習法の法規範性を認めているのは、民法92条です。
民法第92条(任意規定と異なる慣習)
法令中の公の秩序に関しない規定と異なる慣習がある場合において、法律行為の当事者がその慣習による意思を有しているものと認められるときは、その慣習に従う。
温泉権について慣習法上の物権が成立するか否かについて、福岡高等裁判所昭和34年6月20日判決は、「右権利を泉源地所有権から独立した物権であるとすれば、必然的にその権利の得喪変更を第三者に明認せしめるに足る特殊の公示方法が要請せられるのであり、従つてそのような公示方法が同じく慣習によつて確立されていることが当然に必要となる。換言すれば一般に慣行づけられた公示方法の存在が認められる場合に、初めて慣習法による物権の成立を肯定することができる」として、慣習によって確立された公示方法が存在すれば温泉権について慣習法上の物権の成立を認めると判断しています(但し、この判例自体は、公示方法を認められないとして物権としての成立を否定しています。)。
そして公示方法について、山形地方裁判所昭和43年11月25日判決おいては、慣習法上の物権として温泉権を認めるとして次のように判示しました。
本件温泉利用権のような慣習法上の物権的温泉利用権は、対抗すべき第三者が新たな権利関係に入つた当時において当の譲受人が現に送湯管の設備と営業施設等による温泉の現実支配という事実から温泉を利用していると認めるに足る客観的徴証が存在することによつてその第三者に対抗し得るものとされていることは当裁判所に顕著な事実である。
これを本件についてみるに先に認定した事実により明らかなように、原告は国家公務員の保養所なる恒久的な施設として前記「蔵王荘」を設備し、訴外OKや被告が本件源泉権を取得する(訴外OKが取得したことは証人SIの第一回の証言から認める)数年前から引続き源泉地から右「蔵王荘」に送湯のための配湯管を通じて、(契約面)毎分一斗七升の割合で引湯し、これを直接、排他的に利用していたものである。
そしてこれらの設備は全体として相当な施設物であつて、一般に、外界からたやすく認識し得る客観的な存在物として顕然たるものであるから、物権変動の際の公示方法として、第三者の保護に欠けるところがないというべきである。
とすると本件の温泉利用権は、物権としての権利の変動を第三者に明認させるに足りる特殊の公示方法として充分であるから、対抗要件を具備しているものといわねばならない。
第三者の目に明らかな配湯管設備(この判例において「相当な施設物」)を有していれば客観的な存在物として公示方法としては十分である物権としての温泉権の成立と取得を認め、被告の地役権登記のみが対抗要件となるから原告は物権としての温泉権を取得していないという主張を退けています。つまり、物権としての温泉権の公示方法は、通常の不動産取引において対抗要件とされる登記(民法第177条)ではなく、誰の目にも明らかな方法によるものであれば構わないということです。私見ですが、これは動産物件変動の対抗要件である「現実の引き渡し(民法178条)」に類似した考え方であると言えるでしょう。
民法第177条(不動産に関する物権の変動の対抗要件) 不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。
同第178条(動産に関する物権の譲渡の対抗要件)
動産に関する物権の譲渡は、その動産の引渡しがなければ、第三者に対抗することができない。
温泉権確認使用妨害排除等請求控訴事件|福岡高裁昭和34年6月20日判決
ところで被控訴人の本訴請求は、本件鉱泉地を含む宅地の賃借権者であり、且つ同一温泉の利用権者である控訴人が被控訴人の前記温泉利用権を妨害したとして、該温泉利用権の確認並にこれに対する妨害の排除を求めるものであつて、その趣旨とするところは本件温泉利用権をもつて、泉源地の所有権から独立して取引の目的とされ、しかも任意譲渡性を有し、且つ対世的な効力のある一種の用益物権であるとするもののようである。
しかしこの種の権利を物権とするためには民法第一七五条の定める物権法定主義の建前から、右権利につき何ら成文法上の規定を有しない現行法制下においては、その根拠を専ら法律と同等の効力を有する慣習乃至は地方慣習の存在に求める以外にはない。
そして右権利を泉源地所有権から独立した物権であるとすれば、必然的にその権利の得喪変更を第三者に明認せしめるに足る特殊の公示方法が要請せられるのであり、従つてそのような公示方法が同じく慣習によつて確立されていることが当然に必要となる。換言すれば一般に慣行づけられた公示方法の存在が認められる場合に、初めて慣習法による物権の成立を肯定することができるのである。
しかるに本件においては、本件温泉利用権に関する右のような慣習、殊にその権利変動の公示方法に関する慣習の存することにつき被控訴人は何らの主張立証をもなさず、他にこれを肯認するに足る何らの資料も存しない。
もつとも各成立に争のない甲第一四号証、乙第一、二号証によれば、明治四五年大分県令鉱泉取締規則による別府警察署備付の鉱泉台帳及び昭和二四年大分県訓令温泉法施行手続による別府保健所備付の温泉台帳に本件鉱泉地の鉱泉所有名義人の登録がなされている事実が認められるけれども、右台帳制度は温泉の濫掘防止や公衆衛生保健に関する取締等を主たる目的とするものと認められ、本件温泉所在地方において右台帳の記載をもつて温泉に関する権利変動の公示方法とする一般慣行の存する事実は未だ認められない。故に被控訴人が物権としての本件温泉利用権を有する事実を認めることはできず、またその取得時効の主張も本件温泉所在地方において慣習法による物権としての温泉利用権の存することを前提とするものであるから、これを採用することはできない。
温泉配湯請求事件|山形地方裁判所昭和43年11月25日判決
原告がAとの契約により取得した本件温泉利用権が物権か否かについて判断する。
(一) 原告の取得した本件温泉利用権は、源泉権そのものがAに依然帰属していることを前提として、その源泉地に湧出する温泉のうちの一定量につきこれを引湯利用することを内容とする権利であり、いわゆる通常源泉権或は湯口権と称されるものと同一のものでないことは前記認定したところにより明らかである。
ところで、前記上山地方の温泉地区を含む各地の温泉保養地と称される地域においては、設定当事者において、この種の温泉利用権を、当該源泉に温泉の湧出する限りその権利の存続を目的として、多額の代価で設定し、さらに、これが源泉権とは別個に、自由に譲渡取引の対象となし、源泉権者或は利用権利者のいずれに変更があつても、その権利関係を覆滅させないものとした契約のなされる事例のあることは当裁判所に顕著な事実である。しかも右のような温泉利用権は一定の温泉量につき直接排他的に利用することを内容とする権利として把握し得るものと理解されるから、右のような経済取引において、独立の直接的支配を認める価値のある温泉の利用関係の実態とその利用の態容が一般に外形的にも認識し得られる客観的状態を有する等の一定の慣行としての公示方法を具備する限り、その温泉利用権に慣習法上の用益物権の成立を肯認するのが相当である。
被告は近代法の支配の下において成立した温泉利用関係については慣習法上の物権の成立する余地がない旨主張するのであるが、しかし、温泉権ないし温泉利用権が夫々一個の財産権としての交換価値を有し、また利用権としてのそれらの権利が、債権の如く権利当事者の変更により一挙に覆滅させるべきでないとする社会的、経済的要請の強いのにかかわらず、未だ温泉の採取および利用の私法関係について何らの立法がなされていないことを考慮すると、それが近代的所有権を中心とする物権の体系に悖るものでない限り、現行民法の下においても一定の慣行にもとづいて発生し、法的確信を得るに至り、慣習法たる物権としてその存立を認めることは決して法の理想に反するものでないと解する。
(二) 原告とAとの間の本件温泉利用権の設定契約は、第一回契約および第二回追加契約とも、その契約書(公正証書)に、Aがその所有する温泉湧出量のうち一定量(第一回契約分は毎分一斗二升宛、第二回契約分は毎分五升宛)を永久に譲渡する旨の文言を記載して約定されていることは前記のとおりである。ところで、このような文言は通常債権契約にはみられないものであり、これを素直に解釈すれば、その契約によりAが原告に対し、湧出温泉のうちの一定量を引湯利用する権利を、温泉の湧出する限り、契約当事者が変つても消滅することのない権利として設定する旨を合意したものとみることができる。さらに、右契約において、原告は毎分合計一斗七升の量の温泉利用権を取得した対価として合計二九五万円の一括支払義務を負つていることは前記認定のとおりであつて、右価格は、温泉権が他に譲渡された場合、その譲受人に当然対抗し得ないような債権としての利用権の代価としては、客観的にみて高額過ぎることは明らかであり、また弁論の全趣旨によりいずれも成立の認められる乙第一、第二、第一一ないし第二八号証、甲第七号証の二ないし四によると、Aは原告との右契約に前後して、他の十数名の温泉利用者との間に、温泉利用権の設定を目的とした契約を各別に締結しているのであるが、それらの契約の条項においていずれも利用者がその権利を譲渡する等の処分をするにはAの書面による承諾を必要とする趣旨を明記していることが認められるところ、原告との右契約には、その権利の譲渡等の処分を制限するような約定がなされていないことは当事者間に争いがなく、前記「永久譲渡」の文言に、これらの事実を併せ、綜合すると、原告とAは右契約において慣習法上の用益物権としての温泉利用権を設定したものと解するのが相当である。
(三) ところで、被告は、右契約には原告の取得した温泉利用権が債権であることを推認させる条項がある旨主張し、甲第一ないし第三号証によると、右契約中に被告の指摘する各条項のあることが認められるのであるが、しかし、それは債権たる温泉利用権の設定契約においてのみ設けられる約定でなく、物権たる温泉利用権の設定契約が締結された場合においても、同利用権の特質上その当然の効果として認められる、他の温泉利用権者との間の権利の調整、揚湯および送湯の維持管理、契約義務の履行確保のため、被告主張のような約定をもつてそのことが明らかにされることは決して稀なことではない。当裁判所の検証の結果によつて明らかなように、本件源泉地においては、地下十数メートルに動力機械を据え、地上の機械設備と相まつて地下より温泉を揚湯し、さらにこれを各利用者に送湯するための機械設備を備え、それが全体として相当の設備施設となつているのであつて、A(源泉権譲渡後は被告)が常時その操作看視のための従業員をおき、これを所有管理していたものである。従つて、右温泉につき物権的な利用権を設定したものとしても、その者が、別途に引湯機械を設備し、自己の契約量を引湯することは費用および維持管理の面から考えて困難であり、結局、その利用権者は送湯を受ける必要な条項を設けてAに送湯義務を負わす約定をなすこととなるのは必然的な慣行であるということができる。原告の契約においても例外でなく、その温泉利用権の永久存続を図り、物権の効力をもたせる合意をし、既に認定したように、Aをして原告に対し、譲渡した一定の温泉量を配湯して、原告所有の前記「蔵王荘」において給湯させる旨の約定を付加したものであり、被告主張の各契約条項もこれに伴つて設けたものであることが推認できる。
次いで、被告は、契約成立の経緯および他の温泉利用者の契約内容との異同を示し、Aは原告との間においても債権としての温泉利用権を設定する意思であつた旨主張するのであるが、しかし、契約当事者がいかなる効果意思をもつて契約を締結したものであるかは、表示された行為を客観的に観察して決すべきであり、表示されない、単なるその主観的な内心の意思等によるべきでないというべく、また、その契約条項を定めるに当り他の温泉利用者の契約条項に準拠して作成されたとしても、その間に前記の重要な条項ないし表示文言を故らに相違させて作成したことから考えれば、むしろ、契約当事者は本件契約において、他の温泉利用者の契約におけるよりもより強い法律効果の設定を目的とする契約をしたものとみるべきが相当である。また、被告は、原告の本件温泉利用権の取得の代価は、他の温泉利用者のそれとほぼ同じであつて、それはいわゆる権利金ないし謝礼金としての性質を有する旨主張するのであるが、他の温泉利用者の権利自体いかなる法的性質を有するかはたやすく即断し難いばかりでなく、原告の代価の額がこれらのものと異ならないとしても、右代価が客観的にみて高額であることは先にみたとおりであり、これを権利金ないし謝礼金と認める何等の証拠もない。
かえつて本件源泉権全部の譲受代金が五五〇万円であることは被告の自認するところであるが、右譲受代金額との比較によつても明らかなように、原告の温泉利用権の代価は高額であり、その価額からして、物権たる温泉利用権の譲受代価の性質を有するものと解することができる。
なお、被告は原告の温泉利用権が債権であることを理由づけるため「永久譲渡」の意義等について見解を示しているのであるが、いずれも合理的な見解ということはできない。
結局、被告が原告の温泉利用権が物権とは認められないことの根拠として主張するところは以上のとおりいずれも理由がない。
(四) 次いで、原告の本件温泉利用権が物権としての対抗要件を備えているか否かを検討する。
本件温泉利用権のような慣習法上の物権的温泉利用権は、対抗すべき第三者が新たな権利関係に入つた当時において当の譲受人が現に送湯管の設備と営業施設等による温泉の現実支配という事実から温泉を利用していると認めるに足る客観的徴証が存在することによつてその第三者に対抗し得るものとされていることは当裁判所に顕著な事実である。
これを本件についてみるに先に認定した事実により明らかなように、原告は国家公務員の保養所なる恒久的な施設として前記「蔵王荘」を設備し、訴外OKや被告が本件源泉権を取得する(訴外OKが取得したことは証人SIの第一回の証言から認める)数年前から引続き源泉地から右「蔵王荘」に送湯のための配湯管を通じて、(契約面)毎分一斗七升の割合で引湯し、これを直接、排他的に利用していたものである。そしてこれらの設備は全体として相当な施設物であつて、一般に、外界からたやすく認識し得る客観的な存在物として顕然たるものであるから、物権変動の際の公示方法として、第三者の保護に欠けるところがないというべきである。とすると本件の温泉利用権は、物権としての権利の変動を第三者に明認させるに足りる特殊の公示方法として充分であるから、対抗要件を具備しているものといわねばならない。
なお被告は、上山地区においては温泉利用権に物権的対抗力を具備させるためには源泉地を承役地とし、各温泉利用者の浴槽に至る土地を要役地とした地役権を設定し、その登記をもつて公示方法としている旨主張するが、甲第一ないし第三号証、乙第一一ないし第二八号証、成立に争いのない乙第一〇号証の一ないし六、証人岡崎幸雄、同村尾洋造の各証言と弁論の全趣旨を綜合すると、上山温泉地区においては多数の温泉利用者中地役権を設定し登記している者は、或る程度はいるが葉山温泉地区には地役権の設定登記を経た者は一人も存在しない。
しかも、いずれも温泉を現実に引湯利用して支配しているため、利用権の確保については何等不安を抱いていないことが認められ、他に右認定に反する証拠がないから上山地区においては、地役権の設定登記をもつて公示方法とする慣習はなく、被告の主張はあたらない。
三、被告の原告に対する温泉供給義務
原告の取得した本件温泉利用権が、用益物権たる性質を有し且つ対抗要件を備えていることは前記認定のとおりであるから、原告は右権利をもつて、その後源泉権を譲受け、その所有者となつた被告に対抗し得ることが明らかであるが、物権たる温泉利用権の効果は温泉利用というその権利の特質上ことに本件のように源泉権者が相当な規模の給湯施設を設置している場合においては必然的な慣行に基づき設定契約によつて取得した一定量の温泉に対し、排他的に直接支配してこれを利用するだけでなく源泉権者が、温泉利用者に対し契約所定量を供給しなければならない義務を内包しているものと考えられる。
更にまた、本件温泉利用権が善意の第三者にも対抗し得る物権的効力を有するものであること前記のとおりであるが、Aと原告間の温泉譲渡契約(甲第一、二号証)はその物権的効力を実効あらしめるに必要な温泉給付義務の存在を前提とし、これを本件温泉利用権と不可分一体なものとして締結されたものである。即ち所定の温泉量を直接排斥的に支配させるために、その当然の前提としてAは先ず原告に対し、所定量の温泉を配湯給付すべき義務を負担したものと云えるところであり、原告は、そのことを本件温泉利用権と不可分一体なものとして被告に対抗し得ると解されるから、この点からも原告に対し所定の温泉量を供給する義務がある。
そうだとすると、被告は原告に対し、被告が所有する本件温泉のうち前記契約による毎分一斗七升の割合をもつてこれを前記「蔵王荘」において供給する義務があると云わねばならない。
3 温泉権が債権である場合と物権である場合の違い
(1) 温泉権が債権である場合
温泉権が債権である場合には、当該債権契約の当事者のみがその契約に拘束されます。そして、前述のとおり契約自由の原則により、温泉の湧き出る土地の所有者が契約によって貴方に認めた温泉を利用する権利について、他の第三者と同じ契約をすることも可能です。
例えば毎分200リットルが湧き出る温泉において、温泉権の内容が毎分100リットルずつ供給するという契約であった場合には、貴方ともう一人と契約することができます。しかし、これを同じ内容で3人と契約していた場合には、必然的に湯量が足りなくなりますので契約どおりの温泉の供給を受けることができません。その場合には契約違反として損害賠償請求をするなり、契約を解除するなりの対応を検討していくことになります。
温泉権が債権である場合には、通常の債権と同様に原則として債権譲渡が可能となります。既に温泉権に関する契約が締結されている場合には、債権譲渡によって別荘所有者の有する温泉権を譲り受けて温泉を利用することができますが、同じ債権が他の第三者に二重に譲渡されて、実際に温泉が利用できなくなることのないように、債権譲渡に際しての対抗要件(第三者にも債権を譲り受けたことを主張しうる条件=民法第467条)を別荘の対抗要件(不動産登記=所有権移転登記)とは別に備えておく必要があります。
民法第467条(指名債権の譲渡の対抗要件)
第1項 指名債権の譲渡は、譲渡人が債務者に通知をし、又は債務者が承諾をしなければ、債務者その他の第三者に対抗することができない。
第2項 前項の通知又は承諾は、確定日付のある証書によってしなければ、債務者以外の第三者に対抗することができない。
※「指名債権」とは契約書などで債権者が特定されている債権のことをいいます。
ただし、債権譲渡の対抗要件は、譲渡人から債務者への確定日付ある証書(内容証明郵便など)による通知になりますので、譲渡人の意思にかかる点で次の物権の対抗要件より確実性が劣るとも言えます。
(2) 温泉権が物権である場合
温泉権が物権であった場合、温泉権が債権である場合との大きな違いは、貴方以外の第三者が現れたときにあります。そもそも物権は、物を排他的、直接的に利用、支配できる権利であり、一つの物について同じ物権は原則として1つしか成立しないとされる強力な権利です。そして、その取得について対抗要件を備えれば、契約当事者以外の第三者にもその存在を主張することができます。このことから、実際に取引されている温泉権は、物権である場合が多いといわれています。
上述の判例では、温泉権についても何らかの方法で公示する方法が慣習として確立されていれば物権としての存在を認める、としています。
温泉権を物権と認めるために公示の方法を要求しているのは、民法が、物権変動については当事者の意思表示のみによって生じるとする意思主義をとっているものの、その意思表示について当事者以外の第三者にも明らかとなるような方法で公示することによって当事者の権利を明らかにし、公示に対抗要件としての機能も与えてることで当事者を保護するとともに、物権変動を知らずに取引関係に入った第三者が不測の損害を被ることを回避しているためです。
つまり、温泉権についても物権としての強力な権利を認めるために公示する方法を要求し、公示方法があれば、第三者の目にも権利関係が明らかとなり、それを知らずに取引関係に入って不測の損害を与えることを回避することができるのです。
民法では、土地建物の物権変動については、法務局における登記を公示の方法とし、かつ、対抗要件としていますが、温泉権は慣習法に基づく物権ですので、当然民法に公示に関する定めはありません。
一方で、温泉権同様、民法に規定のない「立木」については、昔からの慣習によって、立木の周りにロープを張り巡らして所有者を記載した札を立てること(明認方法)が公示方法として認められ、公示された立木は土地と分離してその立木のみを取引の対象とすることができるとされています。
大分地方裁判所昭和31・8・9判決|鉱泉権確認並妨害廃除請求事件
直接排他的な支配権即ち対世的権利はその権利変動について第三者に対抗するには公示方法を履践することが必要と解するのが相当であり、このことは慣習法上認められる権利についても異らないものと解すべきである。もしそうでなければ何ら過失なくして右の権利変動を知らなかつた第三者もその対世的効力の故に不測の損害を蒙ることとなる。かような結果の招来を容認することは取引の安全を害するばかりでなく、民法上の諸物権について公示方法を定めて対抗要件としていることゝ権衡を失する。もとより公益その他の理由から公示の方法の履践を必要としないものとする場合もないではないが温泉権についてそれが慣習法上認められるものであつてもかような特別の理由の存在を考えることはできない。
4 物権としての温泉権の公示方法
上述のとおり、温泉権は慣習法による物権ですので公示は必要ですが、登記をすることができません。では実際に温泉権の公示方法にはどのようなものがあるのでしょうか。
前出の判例では、源泉地から建物の浴槽に温泉をひく配湯管施設を公示の方法として認めています。その他に温泉権自体の登記に代わる公示方法として、各種台帳への登録や立木のような明認方法などの方法が考え出されています。そして、仮に温泉権について二重売買があったような場合には、売買の時期の前後ではなく、先に以下のような公示方法を備えたものが相手に自分に温泉権があることを対抗することができるのです。
ア 鉱泉台帳(明治四十五年六月五日大分県令第三十二号鉱泉取締規則、同月二十五日大分県鉱泉取締施行細則)及び温泉台帳への記載
本件温泉権は前段認定の如く物権的権利であるから、その権利の性質上民法第百七十七条の規定を類推適用し第三者をして、その権利の変動を明らかにするに足るべき特殊の公示方法を講じなければ第三者に対抗し得ないものと解すべきである、そして前記台帳に登録のあるときは本件温泉権取得を第三者に対抗できる要件を履践したものと言わなければならない。(大分地方裁判所昭和32・8判決 温泉権確認使用妨害排除等請求事件 より抜粋)
イ 温泉権を取得した旨の立札による明認方法
当該権利は温泉法所定の許可の下に掘さくされ、湧出のための動力装置が設置されて現に温泉が湧出しており、これを使用、処分できる権利、即ち温泉権であって、泉源地所有権とは別個独立の権利と考えるべきものであることが、明らかである。また《証拠略》によれば、被控訴人は昭和四三年七月三〇日泉源地に、被控訴人がその温泉権を取得した旨を記した立札をたてたことが認められ、右の明認方法は対抗要件として相当であると考えられる。(東京高裁昭和51・8・16判決 第三者異議控訴事件 より抜粋)
ウ 引湯施設の設置及び旅館業等による明認方法
引湯施設の設置及び旅館営業等によって、現実に各温泉権者が本件温泉を採取、利用、管理している客観的事実が存在し、それが本件温泉権を公示する明認方法と認めるに足りる標識であると解せられる(高松高裁昭和56・12・7判決 温泉所有権確認等請求控訴事件 より抜粋)
エ 源泉湧出口及びそれに隣接する採湯場、事務所及び温泉用語建物を建築し、これらの建物について所有権保存登記したこと、これの譲受人は建物の所有権移転登記と源泉が自己の権利に属する旨の表示板を設置
控訴人が原始取得した本件源泉権は、その後A及び被控訴人Bに各二分の一の持分により、更にAの持分二分の一が被控訴人青山に順次譲渡されて被控訴人Bが単独で権利を取得し、その後、同被控訴人から(途中経過省略)参加人に譲渡されて参加人がその権利を取得したところ、被控訴人Bはその権利取得当時本件源泉の温泉湧出口及びそれに隣接して採湯場、事務所及び温泉擁護建物を建築して所有し(前二棟の建物については自己の名義に所有権保存登記)また参加人はその権利取得後以上の既登記の建物について所有権移転登記を受けるとともに右温泉擁護建物に、本件源泉権が自己の権利に属する旨の表示板を取りつけて、それぞれ自己の権利関係を公示してきており、その権利取得について明認方法を施していると評価することができる(仙台高裁昭和63・4・25判決 鉱泉地所有権確認等請求控訴、同参加、同反訴事件 より抜粋)
以上のとおり、判例は温泉権の公示方法について、個別事案(各地方の慣習)に即して、いくつかの方法を認めていますが、温泉地付き別荘として売り出されながらも、販売業者がそもそも温泉権を取得していないので、購入者についても仮に温泉を利用するための資金を投下していたとしても、温泉権を取得することはできないと判断しているものもありますので、注意が必要です(福岡高等裁判所平成27年3月16日判決、共有登記手続等源泉地共有登記等請求控訴事件)。
福岡高等裁判所平成27年3月16日判決より以下抜粋
(1)温泉権について 本件では、α1の本件各別荘地を有する者の温泉権の有無が問題とされている。
温泉権(湯口権)は、実体的な権利として法定されていないが、物権法定主義(民法175条)の例外として、地方慣習法が存在する場合、源泉地の地盤とは独立した一種の物権的権利として認められる(大審院昭和15年9月18日判決・民集19巻1611頁)。
しかしながら、α1の温泉については、その地方に、源泉地の地盤と別個に取引をするというような慣習法が存在することは認められない(弁論の全趣旨)。
そして、人工的に土地を掘削して温泉を地表に顕出させて採取可能な状態にした場合については、多大な投資をし、それ自体独自に高度の価値を有し、社会的な見地から地盤とは別個の取引客体と観念されるとして、温泉権を源泉地の地盤とは別個の物権的権利として認める余地があることからすると(仙台高裁判決参照)、α1に温泉権を認める根拠となる慣習法が存在せずとも、一審原告・控訴人らが主張する源泉権(第一次温泉権)及び分湯権(物権的第二次温泉権)の要件等の当否はともかくとして、その主張について検討の要があるというべきである。
(2)一審原告・控訴人らが、資本を投下したことにより源泉権(第一次温泉権)を原始取得したか否か ア 一審原告・控訴人らは、温泉の掘削工事、温泉水道工事の費用は、別荘地購入者が支払った別荘地の土地の販売代金等で賄われたことから、別荘地の購入者が源泉権を原始取得したと主張する。
この点、前記認定事実によれば、本件別荘地の開発は、一審被告P1、P3が中心となって行われ、当初の資金は、一審被告P1自身の資金や関係者から提供を受けたものであることが認められるが、α3の販売後、別荘地の購入者から販売会社に支払われた売買代金や温泉水道施設負担金は、一審被告らの資金源となり、その後に開発された別荘区画の造成工事や温泉掘削工事の原資となった可能性は否定できない。
イ しかしながら、別荘地購入者は、造成された別荘分譲地に温泉水供給管が敷設・設置され、温泉水が利用できる状態のものとして、販売会社と売買契約を締結して本件各別荘地の特定の区画を購入したものである。この売買代金は、売買の対象目的物の所有権を取得する対価であり、温泉水道施設負担金も温泉水道施設の所有権あるいは利用権の対価として支払われたことは明らかであって、別荘地購入者が支払った対価が温泉掘削に用いられる旨の合意がされていたわけではない。
また、別荘地購入者は、本件各別荘地の売買契約以外に、一審被告P1あるいは一審被告中央農林に対し、本件各源泉地の温泉掘削工事の施主あるいは依頼者として掘削工事を行わせたことも認められず、本件別荘地の温泉の掘削箇所や時期の決定、掘削工事業者の選定や発注、温泉掘削許可の取得等はもっぱら一審被告P1とその関係者が行った。
ウ こうした事実関係からすれば、別荘地購入者が、源泉権(第一次温泉権)を原始取得すると解することは到底困難である。
5 源泉地と温泉を利用する場所が離れている場合
温泉を利用するにあたって、源泉地と実際に温泉を利用する場所が離れていることもあります。この場合は、源泉地から温泉を利用する場所まで温泉を引いてくるための配管の設置が必要になります。配管は地中を通しますので、源泉地から利用場所までの間に第三者の土地を通る場合には、配管についての第三者の承諾を得なければなりません。そして、この承諾を得ていることについて、配管を通すことを目的とする地役権の設定登記をする、あるいは地役権設定登記がされている必要があります。この温泉をひくための配管を目的とする地役権を温泉地役権といいます。温泉地役権は温泉権とは別個の権利になりますので注意が必要です。
温泉地役権は第三者の土地の所有権と対抗関係に立ちます。温泉地役権登記がされていないと、配管を通るその土地が別の第三者に売却された場合には、その新たな所有者には地役権の存在を主張できませんので、配管を撤去しなければならなくなります。
ただし、通行地役権についてですが、実際に通行地役権の登記がなくても、位置、形状、構造等の物理的状況から客観的に明らかであり、かつ、承役地の譲受人がそのことを認識していたか又は認識することが可能であったときには、承役地譲受人が地役権設定登記の存在を知らなかったとしても、地役権設定登記の地役権設定登記の欠缺を主張するについて正当な利益を有する第三者に当たらないと判断していますので、途中の第三者の土地に温泉をひくための配管が通されていれば、当該土地所有者に対して温泉地役権を登記なくして対抗できることになります(最判平成10・2・13判決)。
最判平成10・2・13判決|通行地役権設定登記手続等請求事件
上告人 A
被上告人 B
主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理 由
上告代理人Xの上告理由について
一 通行地役権(通行を目的とする地役権)の承役地が譲渡された場合において、譲渡の時に、右承役地が要役地の所有者によって継続的に通路として使用されていることがその位置、形状、構造等の物理的状況から客観的に明らかであり、かつ、譲受人がそのことを認識していたか又は認識することが可能であったときは、譲受人は、通行地役権が設定されていることを知らなかったとしても、特段の事情がない限り、地役権設定登記の欠缺を主張するについて正当な利益を有する第三者に当たらないと解するのが相当である。その理由は、次のとおりである。
(一)登記の欠缺を主張するについて正当な利益を有しない者は、民法一七七条にいう「第三者」(登記をしなければ物権の得喪又は変更を対抗することのできない第三者)に当たるものではなく、当該第三者に、不動産登記法四条又は五条に規定する事由のある場合のほか、登記の欠缺を主張することが信義に反すると認められる事由がある場合には、当該第三者は、登記の欠缺を主張するについて正当な利益を有する第三者に当たらない。
(二)通行地役権の承役地が譲渡された時に、右承役地が要役地の所有者によって継続的に通路として使用されていることがその位置、形状、構造等の物理的状況から客観的に明らかであり、かつ、譲受人がそのことを認識していたか又は認識することが可能であったときは、譲受人は、要役地の所有者が承役地について通行地役権その他の何らかの通行権を有していることを容易に推認することができ、また、要役地の所有者に照会するなどして通行権の有無、内容を容易に調査することができる。したがって、右の譲受人は、通行地役権が設定されていることを知らないで承役地を譲り受けた場合であっても、何らかの通行権の負担のあるものとしてこれを譲り受けたものというべきであって、右の譲受人が地役権者に対して地役権設定登記の欠缺を主張することは、通常は信義に反するものというべきである。ただし、例えば、承役地の譲受人が通路としての使用は無権原でされているものと認識しており、かつ、そのように認識するについては地役権者の言動がその原因の一半を成しているといった特段の事情がある場合には、地役権設定登記の欠缺を主張することが信義に反するものということはできない。
(三)したがって、右の譲受人は、特段の事情がない限り、地役権設定登記の欠缺を主張するについて正当な利益を有する第三者に当たらないものというべきである。なお、このように解するのは、右の譲受人がいわゆる背信的悪意者であることを理由とするものではないから、右の譲受人が承役地を譲り受けた時に地役権の設定されていることを知っていたことを要するものではない。
二 これを本件について見ると、原審が適法に確定したところによれば、(1)分筆前の沖縄県島尻郡与那原町字与那原湧当原三六〇四番一の土地を所有していたC喜與子は、昭和四六年ころ、これを六区画の宅地及び東西三区画ずつの中央を南北に貫く幅員約四メートルの通路として造成した、(2)右通路は、その北端で、右分筆前の土地の北側に接して東西方向に通る公道に通じている、(3)右分筆前の土地の西側に接して南北方向に通る里道があるが、その有効幅員は一メートルにも満たない、(4)Cは、昭和四九年九月、右六区画のうち西側中央の三六〇四番八の土地(第一審判決別紙物件目録二記載の土地)を被上告人に売り渡し、その際、Cと被上告人は、黙示的に、右通路部分の北側半分に相当する本件係争地に要役地を三六〇四番八の土地とする無償かつ無期限の通行地役権を設定することを合意した、(5)被上告人は、以後、本件係争地を三六〇四番八の土地のための通路として継続的に使用している、(6)Cは、昭和五〇年一月ころ、右六区画のうち東側中央、南東側及び南西側の三区画並びに右通路部分を新垣宏昌に売り渡し、これらの土地は、その後分合筆を経て昭和五九年一〇月に三六〇四番五の土地(第一審判決別紙物件目録一記載の土地)となった、(7)Cと新垣は、右売買の際に、黙示的に、新垣がCから右通行地役権の設定者の地位を承継することを合意した、(8)新垣は、右売買後直ちに、本件係争地を除いた部分に自宅を建築し、本件係争地については、アスファルト舗装をし、その東端と西端に排水溝を設けるなどして、自宅から右公道に出入りするための通路とした、(9)被上告人は、昭和五八年、三六〇四番八の土地に、東側に駐車スペースを設け、玄関が北東寄りにある自宅を建築し、本件係争地を自動車又は徒歩で通行して右公道に出入りしていたが、新垣がこれに異議を述べたことはなかった、(10)新垣は、平成三年七月、三六〇四番五の土地を上告人に売り渡したが、上告人が新垣から右通行地役権の設定者の地位を承継するとの合意はされていない、(11)しかし、上告人は、三六〇四番五の土地を買受けるに際し、現に被上告人が本件係争地を通路として利用していることを認識していたが、被上告人に対して本件係争地の通行権の有無について確認することはしなかったというのである。
そうすると、三六〇四番八の土地を要役地、本件係争地を承役地とする通行地役権が設定されていたものであるところ、上告人が本件係争地を譲り受けた時に、本件係争地が三六〇四番八の土地の所有者である被上告人によって継続的に通路として使用されていたことはその位置、形状、構造等の物理的状況から客観的に明らかであり、かつ、上告人はそのことを認識していたものということができる。そして、本件においては前記特段の事情があることはうかがわれないから、上告人は、右通行地役権について、これが設定されていることを知らなかったとしても、地役権設定登記の欠缺を主張する正当な利益を有する第三者に当たらないものと解すべきである。
三 したがって、原審が上告人を背信的悪意者であるとしたことは、措辞適切を欠くものといわざるを得ないが、上告人が被上告人の通行地役権について地役権設定登記の欠缺を主張する正当な利益を有する第三者に当たらないとした原審の判断は、結論において是認することができる。論旨は、原判決の結論に影響のない事項についての違法をいうに帰するものであって、採用することができない。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
このように、実際に温泉を利用するには、温泉権があるだけではなく、温泉をひいて来る過程においてもその権利があることについて検討することが必要になってくるのです。
6 最後に
以上のとおり、温泉付き別荘の購入にあたっては、別荘の土地建物については通常の不動産取引と大差ありませんが、温泉権も取引の対象とする場合には、その取引の対象となる温泉権がどのようなものであるいかを正確に把握しなくてはなりません。そのためには、契約書はもちろん、登記簿や現地の状況等を確認し、実際に温泉が別荘で利用できるか否かについて詳細な検討をする必要があります。
法律事務所では、温泉付き別荘の安心な取引に向けてのお手伝いをすることも可能です。契約書、登記事項証明書、現地写真などの書類をご持参のうえ、お気軽にご相談下さい。
以上