No.1752|

清算結了後に見つかった残余財産の処分方法

商事|清算結了登記後に会社に残余財産が見つかった場合の具体的な対応|すでに清算人が死亡した事案

目次

  1. 質問
  2. 回答
  3. 解説
  4. 関連事例集
  5. 参照条文
  6. 参照判例

質問

亡くなった夫が経営していた会社名義の銀行口座が残っているということがわかりました。夫の会社の登記事項証明書を取得して調べたところ、株主総会決議によって解散した後、夫が清算人となり、その後清算結了登記をし、登記記録が閉鎖されていました。

口座には数百万円以上の預金が残っているのでこのお金を引き出したいのですが可能なのでしょうか。可能であればどのような手続が必要になりますか。

回答

1 預金通帳と銀行届出印があれば、銀行窓口で引き出すことは実際上は可能かもしれません。しかし、すでに、清算結了登記が完了している会社は、存在しないことになっていますから、法律的には預金の引き出しはできないことになります。そこで、会社名義で取引などができるように、会社を復活させる必要があります。

2 そこで、会社名義で取引などができるように、会社の法人格を復活させる必要があります。会社を復活させる具体的な方法は、一旦なされた清算結了の登記を抹消して、会社を清算中の状態に戻す方法です。
ただし、会社が「解散」したという事実には変わりはありませんので、会社は清算中の会社として復活し、清算を目的とする行為についてのみ会社名義での取引ができる(行為能力を有する)という点に注意が必要です。

3 引き出された銀行預金は残余財産として最終的には株主に分配されることになりますから、銀行から預金を引き出すという取引は清算行為の一つとなり、当該行為を行うことには問題はありません。

4 予定していた手続が全て終了したら、改めて清算結了登記を申請して、登記記録を閉鎖しておきましょう。
なお、今回のようなケースでは、改めて税務署への申告が必要となりますので、清算確定申告を依頼した税理士等に事前にご相談されておかれると手続がスムーズにすすめることができます。

5 ちなみに、発見された財産が少額で会社がご主人の一人株主の会社であったような場合には大きな問題が発生する可能性は低いと思われますが、発見された財産がそれなりのまとまった額となり、会社が一定数の株主を有していたような場合には、株主間で何らかの利害対立が生じ、手続が進まなくなる可能性もあります。
通常、法律事務所は、会社の復活に関する登記(清算結了登記の抹消登記)を始め、株主への個別連絡、実際の残余財産の分配、会社の再度の清算結了登記までトータルで代理人業務を行っておりますので、不安であればお近くの弁護士にご相談下さい。

解説

1 会社の解散

会社の「解散」とは、会社の法人格の消滅を来たす法律事実です。会社がなくなるときに「倒産した」という言葉をよく耳にしますが、会社法には「倒産」という言葉はなく、「倒産」といわれる場合には会社が「破産した」ということになります。破産は会社の借金が増えてそれを返済していく見込みがなくなる、債務超過の状態になり、債務者である会社自身あるいは債権者によって裁判所へ破産の申し立てることによって「破産」します。破産すると未回収の売掛金を回収し、また、今ある会社資産を売却、換価して、未払いの給与や滞納している税金、会社債権者への支払に充当します。

一方で債務超過ではないものの、後継者がいない、今後商売として成り立つ見込みがなくなってきたなどの理由で経営者や出資者が会社をやめる判断をした場合には、「会社をたたむ」「会社をしめる」という表現を使われます。この「たたむ」「しめる」という表現も会社法にはなく、会社法でのこのようなケースで会社がなくなる場合には「解散」という言葉になります。

「解散」は株主総会決議によるほか、合併による解散、存続期間満了その他定款に定める事由による解散、破産手続き開始による解散、裁判所による解散命令、解散判決が原因で生じます。

会社が「解散」すると、清算会社となり権利能力(会社が主体となって行為をなす能力)については、清算を目的とする範囲内のみと限定されることになります。よって、解散以降は、営業につながる行為は一切できなくなり、会社法や定款などにおいて営業行為を前提とする条文や定めは適用されなくなります。

解散の事由が生じると解散した旨の登記を申請ないし嘱託する必要があります。そして解散したことは登記記録に記載され、登記事項を確認することで、第三者はその会社が営業に関する行為能力を失ったことが確認できるようになります。どのような理由で解散が生じた事由についても、「年月日株主総会の決議により解散」「年月日存続期間満了により解散」「年月日定款の定めにより解散」「合併による解散」等と記載されます。

ご主人の会社は「株主総会の決議により解散」と登記記録に記載されているとのことですので、株主総会の特別決議を経て解散したということになります。

なお、会社が解散したのみでは会社自体が消滅することはなく、会社の行為能力に制限が係るだけであることは前述のとおりです。会社が消滅をするのには次のステップを踏む必要があります。

2 清算会社と清算結了登記

会社が解散をすると、その会社は営業活動を前提とする活動はできなくなり、清算を目的とする範囲内でのみの活動が可能な会社になります。解散前と解散後で会社が同一であることに変わりはありませんが、会社としてできることに制限が加わるということです。このように解散をして清算手続きに入った会社を「清算株式会社」と呼びます。

そして、清算手続きについては、株主の利害対立や会社債権者の保護の点から、清算は法律の定めるところによらなければならないとする「法定清算」とされています。ただし、法定の範囲内であれば私的自治が認められますので、裁判所が関与してくるのは裁判所の選任した清算人の報酬に関する事項ぐらいです。

清算手続き中の会社は、営業活動を前提としていることはできなくなります。
例えば、資本金の増減や株主への剰余金の配当、また自己株式の取得も原則としてできないとされています。また清算手続き中の会社を存続会社とする合併や承継会社とする会社分割、株式交換、株式移転をすることも認められていません。
なお会社法の施行前には、会社の活動の範囲を広げることが前提の行為であるとして、新株の発行、社債の発行、新しい支店の設置などができないとされていましたが、会社法施行後には、これらの活動も清算を目的とする場合に限って許されることとなりました。

清算株式会社となった会社は現在の営業活動を終了させ、売掛金などの債権を回収し、会社資産を売却、換価して買掛金のなどの債務を弁済して、全債務の弁済をします。
全債務の弁済をしたのち、定款に別段の定めがなければ、残った財産(残余財産)を原則としてその持ち株数に応じて株主に分配し、会社財産をプラス財産もマイナス財産も0にして清算が結了したことになります。
この清算活動を主導するのが清算人です。ご主人が経営されていた会社ということであれば、解散によって取締役の地位を失い、清算人に就任されたものと考えられます。

そしてこの全ての清算活動が終了し、清算結了となった時点で会社は消滅します。そして、その後に申請によって清算結了登記がなされることになります。
この清算結了登記については、会社の設立に際しては設立登記が効力要件となっているのと比較して、清算終了の時点で会社は消滅しているため、報告的登記と呼ばれています。
よって、今回のご相談のように清算結了登記をした場合でも、その会社の財産が残っていたような場合については、判例は、「株式会社ノ清算結了シタル旨ノ登記存スル場合ト雖モ実際清算結了シタルニ非サルトキハ其登記ハ実体上効力ヲ生スルコトナシ」として、登記がされていたとしても、その登記は実態上の効力を生じることはなく、清算は結了していないものとしてその発見された財産の分配が終わるまで会社は存続すると判断しています(大審院大正5年3月17日判決)。

3 清算結了登記の抹消と具体的手続

今回会社名義の口座が発覚したことにより、清算が終わっていないことになりご主人の会社は、登記記録上は消滅したと記録されているものの、実体上は消滅していなかったということになります。今回発見された口座を解約して預金を引き出し、株主への配当手続をして清算を完了する必要があります。

しかし、実体上は消滅していなかったとしても、登記記録上は清算結了登記によって消滅した会社となっている以上、まず、会社が会社名義の口座の解約をし、配当手続きをするという権利能力のある状態に戻す必要があります。
なお、会社が清算結了登記をしておらず、解散登記のみだけであったならば、株主総会の特別決議によってもう一度営業を目的とする行為能力を復活させる「会社の継続」という方法もありますが、今回は既に清算結了登記がされているため、会社が取り戻せる能力は、清算結了登記を抹消して解散登記がされた後の会社と同じ清算を目的とする範囲内での能力のみを取り戻せることになります。

清算結了登記の抹消登記に必要な書類は、原則として①上申書(清算結了登記の抹消登記をする必要がある旨を法務局に上申する内容のもの)②会社実印の印鑑届出書、③清算人の印鑑証明書、となります。
清算結了登記の抹消により解散登記後の状態となるため、清算人については従前の清算人の地位が復活し、会社の実印をこの清算人から届け出る必要があります。

4 清算人の選任

ところで今回ご相談のケースでは、清算人だったご主人が既に亡くなられているとのことですので、もしご主人が一人清算人だったような場合には、清算人となるべき者がおらず、ひいては前記3で説明をした清算結了登記の抹消登記を申請する者がいない、ということになります。この場合、清算人はどのように選任したらいのでしょうか。

そもそも清算人は、解散を命ずる裁判により解散をした場合、あるいは、設立無効、株式移転無効の訴えにかかる請求の認容判決が出た場合を除き、原則として解散当時の取締役がそのまま清算人に就任します(会社法第478条1項1号)が、定款に清算人についての定めがある場合にはその者がなるほか、株主総会の決議によって選任することもできるとされています(同条1項2号3号)。

しかし、今回のような一旦清算結了登記がなされ、清算人であったもの全員が不存在となった場合、だれが清算人となるべきかについては、会社法に特別の定めを設けられていません。また登記先例においても選任方法について具体的に述べたものは出されていません。

ただ、清算結了前に債権及び抵当権が消滅し、清算結了後に抵当権抹消登記を申請する場合で清算人全員が死亡し、当時の株主も不明のケース(昭和38年7月2日付二(登)三日記第288号甲府地方法務局長照会・同年9月13日付民事甲第2598号民事局長回答)について、利害関係人から清算人の選任を裁判所に請求するものとの判断がなされています。

一方でご主人が株主の地位も有していたのであれば、あなたは株主としての地位を相続されていることになりますので、前掲の先例が「当時の株主も不明」であることを前提にしていることから、他の株主と連絡がとれない、他の株主が不明などとして株主総会の定足数を超えることができない事情のない限り、他の株主とともに株主総会を開き、改めて清算人を選任するという方法をとることになります。その場合には清算結了登記の抹消登記に続いて清算人選任の登記を申請することになるものと考えられます。

5 清算結了登記とその後

無事清算結了登記を抹消し、清算人選任の登記を完了して、会社を解散後の清算株式会社の状態に戻したら、たとえ銀行届け出印や通帳がなくても、会社実印の印鑑証明書を法務局から発行してもらうことができますので、発見された銀行口座を解約して預金を引き出すことが可能になります。

引き出した現金は、会社の株主に原則として株式数に応じて分配していくことになります。そしてこれら一連の手続が終わったら、改めて清算結了登記を申請して会社の登記記録を閉鎖します。

なお、民法上、預金債権も通常の債権同様10年で時効消滅し得るのですが、銀行実務として預金債権については時効援用主張をしない取扱いとなっていますので、預金債権の時効消滅については心配しなくて良いでしょう。

会社は最初の清算結了の際に税務署に残余財産等についての各種申告や届出をしています。今回の残余分配についても改めて修正申告等が必要になってくると考えられますので、お早めに税理士等の専門家にご相談されておくことをお勧めいたします。

6 最後に

閉鎖された登記記録を復活させるという登記手続きについては、以上のとおりとなります。

しかし、今回のご相談で実際に一番手間のかかることとなるのは、他に株主がいた場合、あるいは会社が残余財産について優先的に分配を受ける権利のついた株式が発行していた場合などです。株式の種類の内容を確認し、株主一人一人に連絡をとって、残余財産の分配を進めていかなければなりません。そして、無事に残余財産の分配が終わったあとに改めて株主総会を開催して決算報告書の承認を得る必要があります。万が一、株主間で何らかの利害対立が生じて、一向に手続が進まなく可能性もあります。

清算結了登記の抹消登記手続きを始め、株主への個別連絡、実際の残余財産の分配、会社の再度の清算結了登記まで自分でできない場合は、閉鎖された登記事項証明書、定款、株主名簿、清算結了事業年度の確定申告書などをご持参のうえ、一度お近くの法律事務所をお訪ねください。

以上

関連事例集

  • その他の事例集は下記のサイト内検索で調べることができます。

参照条文

会社法

(清算人の就任)
第四百七十八条
第1項 次に掲げる者は、清算株式会社の清算人となる。
一号 取締役(次号又は第三号に掲げる者がある場合を除く。)
三号 株主総会の決議によって選任された者
第2項 前項の規定により清算人となる者がないときは、裁判所は、利害関係人の申立てにより、清算人を選任する。
第3項 前二項の規定にかかわらず、第四百七十一条第六号に掲げる事由によって解散した清算株式会社については、裁判所は、利害関係人若しくは法務大臣の申立てにより又は職権で、清算人を選任する。
第4項 第一項及び第二項の規定にかかわらず、第四百七十五条第二号又は第三号に掲げる場合に該当することとなった清算株式会社については、裁判所は、利害関係人の申立てにより、清算人を選任する。
5 以下(略)

参照判例

【大審院大正5年3月17日第一民事部判決】

『貸金請求ノ件

上告人 A

訴訟代理人 B

被上告人 C 外一名

訴訟代理人 D

右当事者間ノ貸金請求事件ニ付新潟地方裁判所カ大正四年五月二十日言渡シタル判決ニ対シ上告人ヨリ全部破毀ヲ求ムル申立ヲ為シ被上告人ハ上告棄却ノ申立ヲ為シタリ

主 文

原判決ヲ破毀シ本件ヲ新潟地方裁判所ニ差戻ス

理 由

上告論旨ハ原判決ハ理由不備ノ違法アル裁判ナルト同時ニ擬律ニ錯誤アル不法ノ判決ナリトス第一審判決事実摘示ヲ引用セル原審判決事実摘示中被上告人ノ答弁要旨ハ「中越貯金銀行ハ大正三年九月二十三日清算終了ノ登記ヲ受ケ法人タル資格消滅シタル後同日午後四時以後ニ至ツテ債権譲渡ノ通知ヲ発シタルモノナレハ其通知ハ無効ニシテ被告等ニ対抗スルコトヲ得サルモノナリ云云」ト判示シ在リテ又之カ判決理由中説明スル所ニ依レハ「訴外株式会社中越貯金銀行ハ其清算人ニ於テ大正三年九月二十三日ニ同月十三日同会社ノ清算カ結了シタル旨登記ヲ為シタル事ヲ認メ得ヘシ然リ而シテ会社ハ清算ノ結了ト同時ニ総テノ関係ニ於テ絶対ニ消滅スルモノナレハ前示中越貯金銀行モ亦其清算ノ結了シタル大正三年九月十三日ニ於テ絶体ニ消滅シタルモノト謂ハサルヘカラス而シテ同銀行カ控訴人ニ本訴ノ債権ヲ譲渡シ且其通知ヲ発シタルハ大正三年九月二十三日ニシテ当時ハ既ニ同銀行ノ清算結了シ会社トシテハ絶対ニ其存在ヲ失ヒタル後ノコトニ属スルカ故ニ其譲渡カ法律上何等ノ効果ヲ生セサルモノナルコト勿論ナリトスト説示シ因テ以テ上告人ノ請求ヲ排斥シタルハ之ヲ要スルニ原判決ハ乙第三号証ニ依リ前記会社ノ清算人カ九月二十三日ニ於テ同会社ノ清算ハ同月十三日ニ終了シタル旨ノ登記アリタル事実ヲ認メ而シテ該登記中記載セラレタル清算結了ノ日ハ事実ノ登記ニ伴フト否トニ関セス確定不動ノ清算結了日ナリト判定シ其時ニ於テ会社ノ総テノ法律関係ハ絶対ニ消滅ニ帰スルモノト判示シタルモノナリ若シ夫レ原判決ニシテ如上説明ノ主旨ニ反シ登記カ事実ニ伴ハサル場合ハ仮令清算結了ノ登記アルモ会社ノ法律関係ハ絶対ニ消滅スルモノニ非スト謂フノ意ナリトセハ本件係争関係ハ右登記ノ事実ニ伴ハサル場合ノ一ニ該当セルハ明瞭ナリ蓋シ株式会社ノ清算ハ商法第二百二十七条以下同第二百三十四条ニ規定セル総テノ事項ヲ処理スルニ非ラサレハ完了スルモノニ非ラス殊ニ商法第二百三十四条同第九十一条ニ依リ明白ナルカ如ク清算人ハ其職務トシテ(一)現務ノ終了即チ会社カ解散前著手シタル行為ニシテ未タ終了セサル諸般ノ事項ノ処理結了ヲ初メトシ或ハ訴訟行為ノ遂行乃至諸課税納付等公法上ノ行為ニ至ル迄ヲ処理シ(二)債務ノ弁済(三)債権ノ取立即チ会社財産ヲ以テ債務ヲ完済スル能ハサル場合ニ於ケル株金ノ払込請求乃至純然タル会社債権ノ取立ヲ為シ(四)残余財産ヲ株主ニ分配シ商法第二百三十条ニ則リ清算人カ清算事務ヲ終リタルトキハ遅滞ナク決算報告書ヲ作リ之ヲ株主総会ニ提出シテ其承認ヲ求ムルコトヲ要シ右手続ヲ履践シタル後清算人ハ商法第二百三十四条同第九十九条ニ依リ之レカ清算結了ノ登記ヲ為スニ在リ然リ而シテ本件係争権利関係ハ第一審判決事実摘示ヲ引用セル原審判決事実ニ依リ明白ナルカ如ク被上告人Cハ主債務者トシテ又タ被上告人金子嘉一郎ハ其連帯保証人トシテ株式会社北越貯金銀行ヨリ本訴ノ債務ヲ負担シ大正二年九月二十三日同会社ノ清算人ヨリ右債権譲渡ノ通知ヲ発シタルコトハ(同日午後四時過ナリシヤ将タ其前ナリシヤハ争ヒアル所ナレトモ)当事者間争ヒナキ所ナリ果シテ然ラハ本件係争事実ハ商法第二百三十四条同第九十一条第一項第二号ニ所謂債権ノ取立ニ外ナラス或ハ右所謂債権ノ取立トハ清算人自ラ債権ノ取立ヲ為ス場合ヲ指称スルモノニシテ本件ノ如ク清算人カ債権ヲ第三者ニ譲渡スル場合ヲ包含セスト論シ得サルニ非サルモ之レ法律ノ精神ヲ没却シタル文理解釈ニ外ナラスシテ謬論タルヲ免レス(法学博士松本烝治氏大正三年度中央大学講義録一二五頁ニ於テ清算人カ自ラ債権ノ取立ヲ為ス代リニ譲渡スルヲ便宜トスルトキハ譲渡シ得ヘキモノニシテ該譲渡ハ債権取立ノ一方法ナリト説明セラル)如上説述スルカ如ク本件債権ノ譲渡ニシテ商法所定ノ債権取立行為ナリトセハ北越貯金銀行ハ未タ清算ノ結了ヲ為ササルモノナルハ勿論其清算ヲ終ラサルモノト断定セサルヲ得ス之ニ因テ之ヲ観ルニ原判決ハ事実清算ノ終ハリタルト否トヲ問ハス苟モ清算結了ノ登記アリタル以上ハ登記カ事実ニ伴ハサル場合ト雖モ其効力トシテ会社ノ関係ハ総テ絶体ニ消滅スルモノナリト判定シタルモノト信ス然リ而シテ今若シ右原判決ノ叙上法律解釈ヲ正当トセンカ実ニ奇怪ナル現象ヲ惹起スヘシ之ヲ例ヘハ茲ニ会社清算中破産宣告ノ申請アリテ其支払停止ノ事実ヲ知レル第三者カ会社財産買受ケノ契約ヲ為シ其代価ハ自己ノ会社ニ対スル債権ト相殺スル旨ノ約定ヲ為シタリトセン而シテ清算人カ右破産ニ関スル訴訟ノ確定前清算結了ノ登記ヲ為シタル場合アリトセンニ若シ其登記後破産宣告ノ決定アリトスルモ原判決ノ解釈ニ従フトキハ破産ノ決定ハ何等ノ効力ヲ発生スルコトナク又タ破産債権者ハ前示会社ト第三者間ノ売買ニ対シ否認権ヲ行使シ得サルノ結果ヲ生シ法律カ公益保護ノ目的ヲ以テ規定シタル破産法ノ趣旨ヲ没却スルニ至ルヘシ本件係争ノ清算結了ノ登記ノ場合亦然リ即チ原判決判定ノ如ク絶対的会社消滅ノ効力アリトセハ其残存財産ハ無主物トナリ或ハ国家ニ帰属シ又ハ先占ニ依リ所有権ヲ得ルノ奇観ヲ呈シ又一面ニ於テ商法第二百三十四条民法第七十九条第八十条ハ之ヲ解スル能ハサルニ至ルヘシ即チ期間後ニ申出テタル債権者ハ法人ノ債務完済ノ後未タ帰属権利者タル商法第二百二十九条所定ノ株主ニ分配セサル会社清算未了ノ債権ニ付テモ尚之カ請求ヲ為シ得サルノ矛盾ヲ生シ為メニ一般権利者ヲ害シ会社ニ脱法ヲ許スノ悪弊ヲ助長スルノ結果ヲ生ス更ニ進ミテ之ヲ考覈スルニ株主カ当然分配ヲ請求シ得ヘキ残余財産モ清算人ニ於テ巧ニ清算結了ノ登記ヲナスニ於テハ遂ニ自己ノ財産権ヲ侵害セラレ又如何トモ為ス能ハサルニ至ルヘシ豈ニ如斯理アランヤ殊ニ商法第二百三十四条ニ依リ準用セラレタル同第百九十三条但書ノ清算人ニ不正ノ行為アリタル場合ノ清算人ノ任務終了ニ対スル除外例ハ合名会社ニ関スル商法第九十八条第二項但書ト均シク其条文ノ地位文例順序ヨリ論スルモ一見明瞭ナルカ如ク会社清算結了ノ登記ノ前後ヲ問ハサルヤ勿論ナリ果シテ然ラハ会社清算結了ノ登記ハ原判決判定ノ如ク絶対的ノ効力ヲ有スルモノニ非サルコトヲ明カニスルヲ得タリト信ス抑モ清算結了ノ登記ハ只単ニ清算人ノ責任終了ノ時期ヲ明カニスルモノナリトス蓋シ任意清算ノ場合ニ於テハ解散ノ登記ハ之ヲ要スルモ清算ノ登記ヲ要セサル現行法規ニ徴スルモ其一班ヲ窺知スルニ難カラス(任意清算登記不要ハ松波博士改正商法論参照)仮ニ右登記制度ノ趣旨之ニ反スルモノアリトスルモ少クトモ清算結了ノ登記カ実体上ノ権利関係ニ伴ハサルトキハ其登記ノ無効ナルコトハ御庁幾多ノ判例ノ説示セラルル所ニシテ大正三年七月十日東京地方裁判所民事第四部ハ同庁大正二年(ワ)第一〇九六号事件ニ於テ会社清算結了ノ登記ノ効力ニ付キ又同趣旨ノ判決ヲ言渡サレ既ニ学説判例共ニ異論ノ存セサル所ナリトス然ルニ原審判決ハ此明白ナル法律ノ解釈ヲ誤リ上告人ノ請求ヲ排斥シタルハ畢竟擬律ニ錯誤アル不法ノ判決ニシテ破毀ヲ免レス又本件ノ当事者間ニ於テ係争債権ノ譲渡カ大正二年九月二十三日午後四時後ニ発セラレタルモノナリヤ否ヤ並ニ譲渡ノ時期ニハ会社清算人ノ資格ハ存シタルモノナリヤ否ヤヲ争ヒ居リシコトハ原判決事実摘示ニ依リテ明白ナルニ拘ラス此点ニ関シ何等ノ理由ヲ付セサルハ違法ノ裁判ニシテ破毀セラルヘキモノト信スト云フニ在リ

仍テ按スルニ株式会社ノ清算結了シタル旨ノ登記存スル場合ト雖モ実際清算結了シタルニ非サルトキハ其登記ハ実体上効力ヲ生スルコトナシ故ニ若シ其登記アリタルニ拘ラス実際会社ノ財産ニ属スル債権残存スルニ於テハ清算結了ノ実ナキヲ以テ会社ハ未タ絶対ニ消滅シタルモノト謂フコトヲ得ス本件訴訟ニ付キ上告人カ原審ニ於テ其請求ノ原因トシテ主張シタル所ハ訴外株式会社中越貯金銀行ノ被上告人ニ対スル債権ヲ上告人ニ於テ譲受ケタリト云フニ在ルヲ以テ仮令登記面ニハ同会社ノ清算結了シタル旨ノ記載アリトスルモ其登記後果シテ同会社カ尚ホ真実上告人主張ノ如キ債権ヲ有シ之ヲ上告人ニ譲渡シタル事実アリトセンカ其清算ハ登記ノ当時実際結了シタルニ非ス従テ其債権譲渡ハ単ニ右登記面ノミニ依リテ之ヲ無効視スルコトヲ得サルナリ然ルニ原裁判所カ単ニ如上登記面ノ記載ノミニ基キ直ニ右会社ハ既ニ清算結了シ絶対ニ消滅シタルモノト判定シ之ヲ以テ本訴請求排斥ノ理由ト為シタルハ違法ニシテ上告ハ其理由アリ依テ爾余ノ論旨ニ対スル説明ニ及ハス民事訴訟法第四百四十七条及ヒ第四百四十八条各初項ノ規定ニ従ヒ主文ノ如ク判決ス 』

【登記先例 昭和38年7月2日付二(登)三日記第288号甲府地方法務局長照会・同年9月13日付民事甲第2598号民事局長回答 株式会社の清算結了前に消滅にかかる抵当権の抹消登記について】

『抵当権者である株式会社が解散し、その清算結了前に、債権及び抵当権は消滅しているのであるが、その抵当権設定登記の抹消の登記が未了のまま、該株式会社につき清算結了の登記を了しているところ、現在は、右株式会社の清算人が全員死亡し、当時の株主も不明である。』

『かかる場合には、右の抵当権登記の抹消の登記権利者は利害関係人として、裁判所に対し、右株式会社の清算人の選任を申請し、当該清算人をして登記義務者である右株式会社を代表せしめ、その者との共同申請により、右の抵当権登記の抹消登記を申請することができるのでありますが、この場合、右株式会社につき、商法で規定する清算人就任の登記が未了であるときでも、便宜、上述の裁判所の清算人選任の決定書をもつて、不動産登記法第三十五条第一項第五号の書面として添付して(なお、右の抵当権登記の抹消登記を申請する不動産の管轄登記所と右の株式会社の清算結了の登記のなされている登記簿謄本をも添付させて)、右の抵当権登記の抹消登記の申請を受理してさしつかえないと考えますが、いささか疑義がありますので、何分の御垂示を賜りたくお伺いいたします。』

回答
『本年七月二日付二(登)三日記第二八八号をもって問合せのあつた標記の件については、貴見のとおり受理してさしつかえないものと考える。』