清算結了後に見つかった残余財産の処分方法
商事|清算結了登記後に会社に残余財産が見つかった場合の具体的な対応|すでに清算人が死亡した事案
目次
質問
亡くなった夫が経営していた会社名義の銀行口座が残っているということがわかりました。夫の会社の登記事項証明書を取得して調べたところ、株主総会決議によって解散した後、夫が清算人となり、その後清算結了登記をし、登記記録が閉鎖されていました。
口座には数百万円以上の預金が残っているのでこのお金を引き出したいのですが可能なのでしょうか。可能であればどのような手続が必要になりますか。
回答
1 預金通帳と銀行届出印があれば、銀行窓口で引き出すことは実際上は可能かもしれません。しかし、すでに、清算結了登記が完了している会社は、存在しないことになっていますから、法律的には預金の引き出しはできないことになります。そこで、会社名義で取引などができるように、会社を復活させる必要があります。
2 そこで、会社名義で取引などができるように、会社の法人格を復活させる必要があります。会社を復活させる具体的な方法は、一旦なされた清算結了の登記を抹消して、会社を清算中の状態に戻す方法です。
ただし、会社が「解散」したという事実には変わりはありませんので、会社は清算中の会社として復活し、清算を目的とする行為についてのみ会社名義での取引ができる(行為能力を有する)という点に注意が必要です。
3 引き出された銀行預金は残余財産として最終的には株主に分配されることになりますから、銀行から預金を引き出すという取引は清算行為の一つとなり、当該行為を行うことには問題はありません。
4 予定していた手続が全て終了したら、改めて清算結了登記を申請して、登記記録を閉鎖しておきましょう。
なお、今回のようなケースでは、改めて税務署への申告が必要となりますので、清算確定申告を依頼した税理士等に事前にご相談されておかれると手続がスムーズにすすめることができます。
5 ちなみに、発見された財産が少額で会社がご主人の一人株主の会社であったような場合には大きな問題が発生する可能性は低いと思われますが、発見された財産がそれなりのまとまった額となり、会社が一定数の株主を有していたような場合には、株主間で何らかの利害対立が生じ、手続が進まなくなる可能性もあります。
通常、法律事務所は、会社の復活に関する登記(清算結了登記の抹消登記)を始め、株主への個別連絡、実際の残余財産の分配、会社の再度の清算結了登記までトータルで代理人業務を行っておりますので、不安であればお近くの弁護士にご相談下さい。
解説
1 会社の解散
会社の「解散」とは、会社の法人格の消滅を来たす法律事実です。会社がなくなるときに「倒産した」という言葉をよく耳にしますが、会社法には「倒産」という言葉はなく、「倒産」といわれる場合には会社が「破産した」ということになります。破産は会社の借金が増えてそれを返済していく見込みがなくなる、債務超過の状態になり、債務者である会社自身あるいは債権者によって裁判所へ破産の申し立てることによって「破産」します。破産すると未回収の売掛金を回収し、また、今ある会社資産を売却、換価して、未払いの給与や滞納している税金、会社債権者への支払に充当します。
一方で債務超過ではないものの、後継者がいない、今後商売として成り立つ見込みがなくなってきたなどの理由で経営者や出資者が会社をやめる判断をした場合には、「会社をたたむ」「会社をしめる」という表現を使われます。この「たたむ」「しめる」という表現も会社法にはなく、会社法でのこのようなケースで会社がなくなる場合には「解散」という言葉になります。
「解散」は株主総会決議によるほか、合併による解散、存続期間満了その他定款に定める事由による解散、破産手続き開始による解散、裁判所による解散命令、解散判決が原因で生じます。
会社が「解散」すると、清算会社となり権利能力(会社が主体となって行為をなす能力)については、清算を目的とする範囲内のみと限定されることになります。よって、解散以降は、営業につながる行為は一切できなくなり、会社法や定款などにおいて営業行為を前提とする条文や定めは適用されなくなります。
解散の事由が生じると解散した旨の登記を申請ないし嘱託する必要があります。そして解散したことは登記記録に記載され、登記事項を確認することで、第三者はその会社が営業に関する行為能力を失ったことが確認できるようになります。どのような理由で解散が生じた事由についても、「年月日株主総会の決議により解散」「年月日存続期間満了により解散」「年月日定款の定めにより解散」「合併による解散」等と記載されます。
ご主人の会社は「株主総会の決議により解散」と登記記録に記載されているとのことですので、株主総会の特別決議を経て解散したということになります。
なお、会社が解散したのみでは会社自体が消滅することはなく、会社の行為能力に制限が係るだけであることは前述のとおりです。会社が消滅をするのには次のステップを踏む必要があります。
2 清算会社と清算結了登記
会社が解散をすると、その会社は営業活動を前提とする活動はできなくなり、清算を目的とする範囲内でのみの活動が可能な会社になります。解散前と解散後で会社が同一であることに変わりはありませんが、会社としてできることに制限が加わるということです。このように解散をして清算手続きに入った会社を「清算株式会社」と呼びます。
そして、清算手続きについては、株主の利害対立や会社債権者の保護の点から、清算は法律の定めるところによらなければならないとする「法定清算」とされています。ただし、法定の範囲内であれば私的自治が認められますので、裁判所が関与してくるのは裁判所の選任した清算人の報酬に関する事項ぐらいです。
清算手続き中の会社は、営業活動を前提としていることはできなくなります。
例えば、資本金の増減や株主への剰余金の配当、また自己株式の取得も原則としてできないとされています。また清算手続き中の会社を存続会社とする合併や承継会社とする会社分割、株式交換、株式移転をすることも認められていません。
なお会社法の施行前には、会社の活動の範囲を広げることが前提の行為であるとして、新株の発行、社債の発行、新しい支店の設置などができないとされていましたが、会社法施行後には、これらの活動も清算を目的とする場合に限って許されることとなりました。
清算株式会社となった会社は現在の営業活動を終了させ、売掛金などの債権を回収し、会社資産を売却、換価して買掛金のなどの債務を弁済して、全債務の弁済をします。
全債務の弁済をしたのち、定款に別段の定めがなければ、残った財産(残余財産)を原則としてその持ち株数に応じて株主に分配し、会社財産をプラス財産もマイナス財産も0にして清算が結了したことになります。
この清算活動を主導するのが清算人です。ご主人が経営されていた会社ということであれば、解散によって取締役の地位を失い、清算人に就任されたものと考えられます。
そしてこの全ての清算活動が終了し、清算結了となった時点で会社は消滅します。そして、その後に申請によって清算結了登記がなされることになります。
この清算結了登記については、会社の設立に際しては設立登記が効力要件となっているのと比較して、清算終了の時点で会社は消滅しているため、報告的登記と呼ばれています。
よって、今回のご相談のように清算結了登記をした場合でも、その会社の財産が残っていたような場合については、判例は、「株式会社ノ清算結了シタル旨ノ登記存スル場合ト雖モ実際清算結了シタルニ非サルトキハ其登記ハ実体上効力ヲ生スルコトナシ」として、登記がされていたとしても、その登記は実態上の効力を生じることはなく、清算は結了していないものとしてその発見された財産の分配が終わるまで会社は存続すると判断しています(大審院大正5年3月17日判決)。
3 清算結了登記の抹消と具体的手続
今回会社名義の口座が発覚したことにより、清算が終わっていないことになりご主人の会社は、登記記録上は消滅したと記録されているものの、実体上は消滅していなかったということになります。今回発見された口座を解約して預金を引き出し、株主への配当手続をして清算を完了する必要があります。
しかし、実体上は消滅していなかったとしても、登記記録上は清算結了登記によって消滅した会社となっている以上、まず、会社が会社名義の口座の解約をし、配当手続きをするという権利能力のある状態に戻す必要があります。
なお、会社が清算結了登記をしておらず、解散登記のみだけであったならば、株主総会の特別決議によってもう一度営業を目的とする行為能力を復活させる「会社の継続」という方法もありますが、今回は既に清算結了登記がされているため、会社が取り戻せる能力は、清算結了登記を抹消して解散登記がされた後の会社と同じ清算を目的とする範囲内での能力のみを取り戻せることになります。
清算結了登記の抹消登記に必要な書類は、原則として①上申書(清算結了登記の抹消登記をする必要がある旨を法務局に上申する内容のもの)②会社実印の印鑑届出書、③清算人の印鑑証明書、となります。
清算結了登記の抹消により解散登記後の状態となるため、清算人については従前の清算人の地位が復活し、会社の実印をこの清算人から届け出る必要があります。
4 清算人の選任
ところで今回ご相談のケースでは、清算人だったご主人が既に亡くなられているとのことですので、もしご主人が一人清算人だったような場合には、清算人となるべき者がおらず、ひいては前記3で説明をした清算結了登記の抹消登記を申請する者がいない、ということになります。この場合、清算人はどのように選任したらいのでしょうか。
そもそも清算人は、解散を命ずる裁判により解散をした場合、あるいは、設立無効、株式移転無効の訴えにかかる請求の認容判決が出た場合を除き、原則として解散当時の取締役がそのまま清算人に就任します(会社法第478条1項1号)が、定款に清算人についての定めがある場合にはその者がなるほか、株主総会の決議によって選任することもできるとされています(同条1項2号3号)。
しかし、今回のような一旦清算結了登記がなされ、清算人であったもの全員が不存在となった場合、だれが清算人となるべきかについては、会社法に特別の定めを設けられていません。また登記先例においても選任方法について具体的に述べたものは出されていません。
ただ、清算結了前に債権及び抵当権が消滅し、清算結了後に抵当権抹消登記を申請する場合で清算人全員が死亡し、当時の株主も不明のケース(昭和38年7月2日付二(登)三日記第288号甲府地方法務局長照会・同年9月13日付民事甲第2598号民事局長回答)について、利害関係人から清算人の選任を裁判所に請求するものとの判断がなされています。
一方でご主人が株主の地位も有していたのであれば、あなたは株主としての地位を相続されていることになりますので、前掲の先例が「当時の株主も不明」であることを前提にしていることから、他の株主と連絡がとれない、他の株主が不明などとして株主総会の定足数を超えることができない事情のない限り、他の株主とともに株主総会を開き、改めて清算人を選任するという方法をとることになります。その場合には清算結了登記の抹消登記に続いて清算人選任の登記を申請することになるものと考えられます。
5 清算結了登記とその後
無事清算結了登記を抹消し、清算人選任の登記を完了して、会社を解散後の清算株式会社の状態に戻したら、たとえ銀行届け出印や通帳がなくても、会社実印の印鑑証明書を法務局から発行してもらうことができますので、発見された銀行口座を解約して預金を引き出すことが可能になります。
引き出した現金は、会社の株主に原則として株式数に応じて分配していくことになります。そしてこれら一連の手続が終わったら、改めて清算結了登記を申請して会社の登記記録を閉鎖します。
なお、民法上、預金債権も通常の債権同様10年で時効消滅し得るのですが、銀行実務として預金債権については時効援用主張をしない取扱いとなっていますので、預金債権の時効消滅については心配しなくて良いでしょう。
会社は最初の清算結了の際に税務署に残余財産等についての各種申告や届出をしています。今回の残余分配についても改めて修正申告等が必要になってくると考えられますので、お早めに税理士等の専門家にご相談されておくことをお勧めいたします。
6 最後に
閉鎖された登記記録を復活させるという登記手続きについては、以上のとおりとなります。
しかし、今回のご相談で実際に一番手間のかかることとなるのは、他に株主がいた場合、あるいは会社が残余財産について優先的に分配を受ける権利のついた株式が発行していた場合などです。株式の種類の内容を確認し、株主一人一人に連絡をとって、残余財産の分配を進めていかなければなりません。そして、無事に残余財産の分配が終わったあとに改めて株主総会を開催して決算報告書の承認を得る必要があります。万が一、株主間で何らかの利害対立が生じて、一向に手続が進まなく可能性もあります。
清算結了登記の抹消登記手続きを始め、株主への個別連絡、実際の残余財産の分配、会社の再度の清算結了登記まで自分でできない場合は、閉鎖された登記事項証明書、定款、株主名簿、清算結了事業年度の確定申告書などをご持参のうえ、一度お近くの法律事務所をお訪ねください。
以上