借地権付き建物の権利変換(3種類の権利変換)
民事|都市再開発|地上権非設定型|都再法111条|東京地裁平成20年2月28日判決|特別の事情とは
目次
質問:
質問:このたび私が、借地している土地と借地上の建物に関して再開発の話が持ち上がってきています。再開発の勉強会が組織され、勧誘を受けました。コーディネーターをしている不動産デベロッパー業者の担当者から「都市再開発法111条の地上権非設定型権利変換を検討して下さい」と言われました。これはどういう意味でしょうか。
回答:
1、「都市再開発法111条の地上権非設定型権利変換」の提案を受けているということですが、都市開発法における権利変換とは、都市再開発法で規定された第一種市街地再開発事業において、地権者の集まりである市街地再開発組合が法令の条件に従って申請することにより、当該区域内の土地建物についてあった従来の権利が全て消滅し、土地所有権が施行者である再開発組合に帰属し、建て替え後の新しい建物とその敷地とについて、従前の権利者に対して権利が割り当てられる手続です。
2、都市開発法に基づく再開発事業においては、権利変換という手続きにより、従前の地権者の権利を一旦消滅させて、再開発を容易にするという手続きが取られます。この権利変換には3種類の方式があります。従来の権利がそのまま新しい土地建物に移行する原則型(都市再開発法75条型)と、地上権非設定型(都市再開発法111条型)、全員同意型(都市再開発法110条型)の3種類です。
3、今回デベロッパー業者が提案してきているのは、貴方の借地権を消滅させて、再開発後の建物について地上権の負担の無い、所有権敷地権の建物を建築する手続です。権利変換は、従前の権利に対応する権利が与えられるのが原則ですので、権利変換により貴方に新しい建物の敷地について地上権が付与されるのが原則ですが(従前敷地についての借地権者が施行後の敷地について取得する権利は、借地権ではなく地上権の共有持分とされています(都市再開発法75条2項、同法88条1項)、都市再開発法111条の地上権非設定型権利変換手続を選択することにより、敷地に地上権が設定されず、建物所有者が敷地所有権を共有する形式の建物が建築されることになります。貴方は、敷地の所有権持分を共有する区分建物所有権を取得することになります。
一般論ですが、敷地に地上権が設定された地上権敷地権の建物よりも、建物所有者が敷地所有権を共有する所有権敷地権の建物の方が、価値が高くなります。この権利変換の形式は、権利変換計画案として定められ、再開発組合の過半数決議により効力を生じます。
4、地上権の負担の無い建物を建てるというデベロッパーの提案には一定の経済合理性はありますが、それは全員同意型(110条型)であっても可能です。あなたの意思を最後まで尊重するということを重視すれば権利変換の形式としては、地上権非設定型(111条型)よりも、全員同意型(110条型)の方が、貴方に有利といえます。再開発組合設立時の事業計画案において、全員同意型の権利変換を選択する旨を明記するよう求めていくと良いでしょう(但し、実際の権利変換の内容に関しては地上権非設定型(111条型)だからといって不利益になるとはかぎりません)。そして、再開発手続に協力する対価として、借地権の評価額をなるべく高くして貰い、権利変換計画において取得できる床面積を増やして貰う(減少させないようにして貰う)ことが考えられます。権利変換計画は、市街地再開発組合の決議により成立しますので、再開発組合の理事会と組合員の多数意見が、貴方の取得する床面積について同意してくれる必要があります。これは、同じ組合内の話し合いとはなりますが、事実上権利の売買交渉と同じ事になりますので、自分ひとりで決めてしまうより、代理人弁護士や不動産鑑定士と相談しながら手続することをお勧め致します。また、デベロッパーは共同で事業を行っていく存在ですが、権利者が取得する床面積をどうするかという面では利害が対立する存在となりますから、任せきりというのは避ける必要があります。
5、再開発に関する関連事例集参照。
解説:
1、権利変換手続き
都市再開発法における権利変換とは、都市再開発法の第一種市街地再開発事業において、地権者の集まりである市街地再開発組合が法令の条件に従って申請することにより、当該区域内の土地建物の権利が全て消滅し、土地所有権が施行者である再開発組合に帰属し、建て替え後の新しい敷地と建物について、従前の権利者の権利が割り当てられる手続です。
権利変換の手続きでは、組合が定めた権利変換計画を都道府県知事や国土交通大臣が認可した場合に、権利変換期日に次の(1)~(4)の効力が生じます。建物は一旦組合に権利が移行しますが、建物除却及び再建築を経て、新しい建物の権利は、権利変換計画に定められた者が新たに取得することができます(都市再開発法73条1項2号)。
(1)施行区域内の土地は、権利変換計画の定めるところに従い、新たに所有者となるべき者に帰属する(都市再開発法87条1項前段)。(2)従前の土地を目的とする所有権以外の権利は、この法律に別段の定めがあるものを除き、消滅する(都市再開発法87条1項後段)。
(3)施行地区内の土地に権原に基づき建築物を所有する者の当該建築物は、施行者(組合)に帰属する(都市再開発法87条2項前段)。
(4)当該建築物を目的とする所有権以外の権利は、この法律に別段の定めがあるものを除き、消滅する(都市再開発法87条2項後段)。
権利変換計画の内容を定めた、都市再開発法73条1項を引用します。
都市再開発法第73条(権利変換計画の内容)第1項 権利変換計画においては、国土交通省令で定めるところにより、次に掲げる事項を定めなければならない。
一号 配置設計
二号 施行地区内の宅地(指定宅地を除く。)若しくはその借地権又は施行地区内の土地(指定宅地を除く。)に権原に基づき建築物を有する者で、当該権利に対応して、施設建築敷地若しくはその共有持分又は施設建築物の一部等を与えられることとなるものの氏名又は名称及び住所
三号 前号に掲げる者が施行地区内に有する同号の宅地、借地権又は建築物及びそれらの価額
四号 第二号に掲げる者に前号に掲げる宅地、借地権又は建築物に対応して与えられることとなる施設建築敷地若しくはその共有持分又は施設建築物の一部等の明細及びそれらの価額の概算額
五号 第三号に掲げる宅地、借地権又は建築物について先取特権、質権若しくは抵当権の登記、仮登記、買戻しの特約その他権利の消滅に関する事項の定めの登記又は処分の制限の登記(以下「担保権等の登記」と総称する。)に係る権利を有する者の氏名又は名称及び住所並びにその権利
六号 前号に掲げる者が施設建築敷地若しくはその共有持分又は施設建築物の一部等に関する権利の上に有することとなる権利
七号 指定宅地又はその使用収益権を有する者の氏名又は名称及び住所
八号 前号に掲げる者が有する指定宅地又はその使用収益権及びそれらの価額
九号 第七号に掲げる者に前号に掲げる指定宅地又はその使用収益権に対応して与えられることとなる個別利用区内の宅地又はその使用収益権の明細及びそれらの価額の概算額
十号 第八号に掲げる指定宅地又はその使用収益権について担保権等の登記に係る権利を有する者の氏名又は名称及び住所並びにその権利
十一号 前号に掲げる者が個別利用区内の宅地又はその使用収益権の上に有することとなる権利
十二号 施行地区内の土地(指定宅地を除く。)に存する建築物について借家権を有する者(その者が更に借家権を設定しているときは、その借家権の設定を受けた者)で、当該権利に対応して、施設建築物の一部について借家権を与えられることとなるものの氏名又は名称及び住所
十三号 前号に掲げる者に借家権が与えられることとなる施設建築物の一部
十四号 施設建築敷地の地代の概算額及び地代以外の借地条件の概要
十五号 施行者が施設建築物の一部を賃貸しする場合における標準家賃の概算額及び家賃以外の借家条件の概要
十六号 第七十九条第三項の規定が適用されることとなる者の氏名又は名称及び住所並びにこれらの者が施行地区内に有する宅地、借地権又は建築物及びそれらの価額
十七号 施行地区内の宅地(指定宅地を除く。)若しくはこれに存する建築物又はこれらに関する権利を有する者で、この法律の規定により、権利変換期日において当該権利を失い、かつ、当該権利に対応して、施設建築敷地若しくはその共有持分、施設建築物の一部等又は施設建築物の一部についての借家権を与えられないものの氏名又は名称及び住所、失われる宅地若しくは建築物又は権利並びにそれらの価額
十八号 組合の参加組合員に与えられることとなる施設建築物の一部等の明細並びにその参加組合員の氏名又は名称及び住所
十九号 第五十条の三第一項第五号又は第五十二条第二項第五号(第五十八条第三項において準用する場合を含む。)に規定する特定事業参加者(以下単に「特定事業参加者」という。)に与えられることとなる施設建築物の一部等の明細並びにその特定事業参加者の氏名又は名称及び住所
二十号 第四号、第九号及び前二号に掲げるもののほか、施設建築敷地又はその共有持分、施設建築物の一部等及び個別利用区内の宅地の明細、それらの帰属並びにそれらの管理処分の方法
二十一号 新たな公共施設の用に供する土地の帰属に関する事項
二十二号 権利変換期日、土地の明渡しの予定時期、個別利用区内の宅地の整備工事の完了の予定時期及び施設建築物の建築工事の完了の予定時期
二十三号 その他国土交通省令で定める事項
権利変換手続きを取らない場合、再建築に必要な建物の除却や借家権の解除などは、ひとつひとつの権利者について個別に同意を得て権利消滅の法律効果を発生させていく必要がありますが、都市再開発法の権利変換手続を用いることにより、再開発施行区域内の権利関係を一度に処理することができ、建物の建て替えがスムーズに進むというメリットがあります。
2、三種類の権利変換
権利変換には3種類の方式があります。従来の権利がそのまま新しい土地建物に移行する原則型(都市再開発法75条型)と、地上権非設定型(都市再開発法111条型)、全員同意型(都市再開発法110条型)です。
(1)原則型
原則型は、前項で説明した標準的な権利変換の方式ですが、権利変換に際していくつかの条件が定められています。
(あ)建築物の敷地は一筆の土地として計画しなければならない(法75条1項)
(い)建築物の敷地には地上権が設定されなければならない(法75条2項)
これは、従前敷地についての借地権者が施行後の敷地について取得する権利は地上権の共有持分になることを意味します。
(う)施行地区内に宅地を有する者に対しては、施設建築敷地の所有権が与えられるように定めなければならない(法76条1項)
(え)施行地区内の宅地について借地権を有する者及び施行地区内の土地に権原に基づき建築物を所有する者に対しては、施設建築物の一部等が与えられるように定めなければならない。組合の定款により施設建築物の一部等が与えられるように定められた参加組合員又は特定事業参加者に対しても、同様とする。(法77条1項)
原則型において、再開発区域内の土地建物に関する権利は次の通り変換されることになります。不動産デベロッパー事業会社など、再開発組合に手続のノウハウや資金を提供する参加組合員も権利変換手続の中で権利を取得することになります。
従前宅地所有権 → 新建物敷地所有権(法76条1項)
従前借地権者 → 新建物敷地地上権(法88条1項)
従前建物所有者 → 新建物所有権(地上権付き建物、法77条1項)
従前建物借家権者 → 新建物に関する借家権(法77条5項)
参加組合員 → 新建物所有権(地上権付き建物、法77条1項)
(2)地上権非設定型(111条型、市街地改造型)
地上権非設定型は、法75条2項の規定により権利変換計画を定めることが適当でないと認められる特別の事情があるとき、つまり、地上権を敷地権として設定することが適当でないと認められる特別の事情があるときに、地上権の設定をしない形で権利変換計画を定めることができるとされているものです(法111条)。この方式では、新しい建物の敷地利用権は所有権となりますので、従前の借地権付き建物所有者も、「敷地所有権付き区分建物」を取得することになります。
この権利変換方法は、都市再開発法の前に施行されていた市街地改造法で用いられていた方法であるため、市街地改造型とも呼ばれます。
都市再開発法111条 施行者は、第七十五条第二項の規定により権利変換計画を定めることが適当でないと認められる特別の事情があるときは、同項の規定にかかわらず、施設建築敷地に地上権(第百九条の二第三項及び第百九条の三第三項に規定する地上権を除く。)が設定されないものとして権利変換計画を定めることができる。この場合においては、第七十六条、第七十七条第二項後段及び第三項並びに第八十八条第一項の規定は適用せず、次の表の上欄に掲げる規定の同表中欄に掲げる字句は、同表下欄に掲げる字句に読み替えて、これらの規定を適用する。(※次の表省略)
この「適当でないと認められる特別の事情」というのは、若干不明確ですが、一般には、地上権を設定することによる不都合が大きい場合として、地上権敷地権とすることで建物の市場価値が大幅に低下してしまう場合や、地上権が割り当てられることになる借地権者が僅少であり、敷地所有者と地上権者がほとんど一致してしまい自己地上権に近いものとなり不効率となってしまう場合や、組合員の大多数が地上権を設定することを希望していない場合などが該当するものと解釈されています。
111条型の「適当でないと認められる特別の事情」について、未だ判例の集積が十分ではありませんが、下級審判例がありますので御紹介致します。
東京地裁平成20年2月28日判決、再開発組合設立認可処分取消請求事件『(1) 原告らは,本件再開発事業において,地上権非設定型を採用したことは,被告東京都に対して単独所有の敷地と建物に権利変換することを目的とするためであって,このような事情は都市再開発法111条に定める「特別な事情」に当たらないから同条に違反すると主張する。
(2) しかしながら,都市再開発法111条は,権利変換手続の特則のうち,地上権非設定型について,施設建築敷地に施設建築物の所有を目的とする地上権が設定される権利変換計画を定めることが適当でないと認められる特別の事情があるときは,施設建築敷地に地上権が設定されないものとして権利変換計画を定めることができると定めるところ,同条が個人施行者及び組合施行の場合においても,地上権非設定型を採用した権利変換手続を行う要望が強くあったことに基づいて設けられた特則であることからすれば,上記特別な事情とは,施行地区内の大多数の関係権利者が地上権の設定を望んでいない場合であったり,地区転外者が多いために宅地の所有権の大部分が施行者のもとに残る場合が,これに該当すると解される。
そして,証拠(丁15の1・2)及び弁論の全趣旨によると,被告組合は,平成18年6月9日,通常総会を開催したこと,同総会には,組合員数26名のうち19名(委任された3名を含む。)が出席し,出席者は,権利変換計画を作成する基礎となる権利変換基準(案)につき,事業コンサルタントによる説明を受けた後,同基準を採用する旨可決したこと,上記基準(案)においては,本件再開発事業に係る権利変換の方式について,都市再開発法111条に定める地上権非設定型を採用することが明示されていたことが認められ,これらの各事情からすれば,本件再開発事業においては,被告組合の組合員の大多数が地上権非設定型の権利変換手続を行うことを希望していたといえるのであるから,同条が定める「特別な事情」があったといえる。』
この判例で挙げている「特別な事情」は、次の2つです。再開発の手続は公共的な側面も勿論ありますが、再開発区域内の地権者の利益を実現する側面も必要ですから、これ以外の事情でも裁判所が認定する可能性はあるでしょう。
その1、施行地区内の大多数の関係権利者が地上権の設定を望んでいない場合
その2、地区転外者(権利変換を希望せず金銭の給付を受けることを申し出た者、法71条1項)が多いために宅地の所有権の大部分が施行者(再開発組合)のもとに残る場合
地上権非設定型において、再開発区域内の土地建物に関する権利は次の通り変換されることになります。不動産デベロッパー事業会社など、再開発組合に手続のノウハウや資金を提供する参加組合員も権利変換手続の中で権利を取得することになります。
従前宅地所有権 → 新建物敷地所有権(法76条1項)
従前借地権者 → 新建物敷地所有権(法111条)
従前建物所有者 → 新建物所有権(所有権付き建物、法77条1項)
従前建物借家権者 → 新建物に関する借家権(法77条5項)
参加組合員 → 新建物所有権(所有権付き建物、法77条1項)
(3)全員同意型(110条型、防災型)
全員同意型は、都市再開発法110条で、施行区域内に土地や建物に権利を有する者の全員が合意した場合に、種々の規制を緩和し、権利変換計画の内容を柔軟に定めることができるとする権利変換の方法です。
この権利変換方法は、都市再開発法の前に施行されていた防災建築街区造成法で用いられていた方法であるため、防災型とも呼ばれます。
都市再開発法110条(施行地区内の権利者等の全ての同意を得た場合の特則) 第1項 施行者は、権利変換期日に生ずべき権利の変動その他権利変換の内容につき、施行地区内の土地又は物件に関し権利を有する者及び参加組合員又は特定事業参加者の全ての同意を得たときは、第七十三条第二項から第四項まで、第七十五条から第七十七条まで、第七十七条の二第三項から第五項まで、第七十八条、第八十条、第八十一条、第百九条の二第二項後段、前条第二項後段及び第百十八条の三十二第一項の規定によらないで、権利変換計画を定めることができる。この場合においては、第八十三条、第九十九条の三第一項、第百二条、第百三条及び第百八条第一項の規定は、適用しない。
この適用除外される条文の中に法75条2項も含まれておりますので、111条型と同様に、地上権敷地権とすることなく、所有権敷地権となる建物の権利変換計画を定めることができます。
全員同意型において、再開発区域内の土地建物に関する権利は次の通り変換されることになります。不動産デベロッパー事業会社など、再開発組合に手続のノウハウや資金を提供する参加組合員も権利変換手続の中で権利を取得することになります。この方式では各権利者がどのような権利を取得することも組合決議により自由に定めることができるのですが、再開発法の手続であることに変わりはありませんので、権利者間の平等公平原則は適用されますので、各権利者の権利の価額に配慮した権利が権利変換により与えられるべき事になります。実質的には、前項の「地上権非設定型」に近い形式の権利変換計画が定められることが多い様です。
従前宅地所有権 → 自由に定め得る(法110条)
従前借地権者 → 自由に定め得る(法110条)
従前建物所有者 → 自由に定め得る(法110条)
従前建物借家権者 → 自由に定め得る(法110条)
参加組合員 → 自由に定め得る(法110条)
参考条文(平等公平原則)
都市再開発法74条2項(権利変換計画の決定の基準)権利変換計画は、関係権利者間の利害の衡平に十分の考慮を払つて定めなければならない。
全員同意型において適用除外される条文の中で、最も重要な条文は、法77条2項(均衡原則)と法77条の2第3項(照応原則)と、法80条1項(基準日規定)です。
法第77条第2項 前項前段に規定する者に対して与えられる施設建築物の一部等は、それらの者が権利を有する施行地区内の土地又は建築物の位置、地積又は床面積、環境及び利用状況とそれらの者に与えられる施設建築物の一部の位置、床面積及び環境とを総合的に勘案して、それらの者の相互間に不均衡が生じないように、かつ、その価額と従前の価額との間に著しい差額が生じないように定めなければならない。この場合において、二以上の施設建築敷地があるときは、その施設建築物の一部は、特別の事情がない限り、それらの者の権利に係る土地の所有者に前条第一項及び第二項の規定により与えられることと定められる施設建築敷地に建築される施設建築物の一部としなければならない。法77条の2第3項 指定宅地の所有者に対して与えられる個別利用区内の宅地は、それらの者が所有する指定宅地の相互の位置関係、地積、環境、利用状況その他の事情と当該指定宅地に対応して与えられることとなる個別利用区内の宅地の相互の位置関係、地積、環境、利用状況その他の事情ができる限り照応し、かつ、その価額と従前の価額との間に著しい差額が生じないように定めなければならない。
法第80条第1項 第七十三条第一項第三号、第八号、第十六号又は第十七号の価額は、第七十一条第一項又は第四項(同条第五項において読み替えて適用する場合を含む。)の規定による三十日の期間を経過した日における近傍類似の土地、近傍同種の建築物又は近傍類似の土地若しくは近傍同種の建築物に関する同種の権利の取引価格等を考慮して定める相当の価額とする。
全員の同意がありますので驚くべき緩和措置となっています。つまり、権利変換計画を定めるにあたって、評価基準日(再開発組合設立認可公告から30日経過した日)の評価にとらわれることなく、区域内の個別事情を重視して、多少の不均衡があっても、具体的不都合を回避するような権利変換計画を定め得るということになります。この具体的不都合の中には、借地権付き建物を所有する組合員の借地権の評価が低くなってしまうために、権利床の面積が大幅に減少してしまい、従来経営していた店舗を存続させることができなくなってしまうという事情も含まれると考えられます。
3、都市再開発法111条の地上権非設定型権利変換手続
今回デベロッパー業者が提案してきているのは、111条型ですので、貴方の借地権を消滅させて、再開発施行後の建物について地上権の負担の無い、所有権敷地権の建物を建築する手続です。権利変換は、従前の権利に相当する権利が与えられるのが原則ですので、権利変換により貴方に新しい建物の敷地について地上権が付与されるのが原則ですが、都市再開発法111条の地上権非設定型権利変換手続を選択することにより、敷地に地上権が設定されず、建物所有者が敷地所有権を共有する形式の建物が建築されることになります。
権利変換計画では、貴方の従前の権利の評価額が記載され、この価額に応じて、新しい建物の土地建物の権利が割り当てられる事になります。借地権に関する評価額が低くなってしまうと、貴方が割当を受けられる権利床の床面積が大幅に減少してしまうことになります。所有権よりも借地権の方が一般に価値が低いものとなっておりますので、貴方が取得できる床面積は現在よりも少ないものとなってしまう危険があります。
一般論ですが、敷地に地上権が設定された地上権敷地権の建物よりも、建物所有者が敷地所有権を共有する所有権敷地権の建物の方が、価値が高くなります。この権利変換の形式は、権利変換計画案として定められ、再開発組合の過半数決議(法32条1項)により効力を生じます。
4、まとめ
デベロッパーの提案には一定の経済合理性はありますが、貴方は借地権者として権利の正当な評価を求めるべきでしょう。例えば、借家権の価格については、国税局が発行している路線価図に記載された、借地権割合を基本として、所有権の6~9割の評価を求めていく必要があります。
権利変換の形式としては、地上権非設定型(111条型)よりも、全員同意型(110条型)の方が、貴方の意思を尊重するという観点からは有利です。再開発組合設立時の事業計画案において、全員同意型の権利変換を選択する旨を明記するよう求めていくのも検討するべきでしょう。
そして、同意手続に付随して、権利変換計画の内容についても意見を述べると良いでしょう。再開発手続に協力する対価として、借地権の評価額を若干高くして貰い、権利変換計画において取得できる床面積を増やして貰う(減少させないようにして貰う)ことが考えられます。「店舗を経営しているので床面積が大幅に減少してしまうと店舗の経営そのものが全くできなくなってしまう」などと主張することも考えられます。これは都市再開発法79条1項で認められている正当な主張です。
都市再開発法79条(床面積が過小となる施設建築物の一部の処理) 第1項 権利変換計画を第七十四条第一項の基準に適合させるため特別な必要があるときは、第七十七条第二項又は第三項の規定によれば床面積が過小となる施設建築物の一部の床面積を増して適正なものとすることができる。この場合においては、必要な限度において、これらの規定によれば床面積が大で余裕がある施設建築物の一部の床面積を減ずることができる。
権利変換計画は、市街地再開発組合の決議により成立しますので、再開発組合の理事会と、組合員の多数意見が、貴方の取得する床面積について同意してくれる必要があります。
これは、同じ組合内部の話し合いとはなりますが、事実上権利の売買交渉と同じ事になりますので、自分ひとりで決めてしまわず、代理人弁護士や不動産鑑定士と相談しながら手続することを進めることをお勧め致します。
以上